(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術には、次のような問題がある。
特許文献1に記載された椅子は、湾曲調整機構が締付ボルトを左右に移動させ、環状枠の幅方向における両端部の間隔を変更するものであるため、環状枠に張設された樹脂製繊維の張力が低下して着座者を支持する力が低下してしまう。このように、張材が張設された枠部材からなる背凭れの場合には、背凭れの形状を変更すると着座感に変化が生じてしまう、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、張材が張設された枠部材からなる背凭れの形状変更の際の着座感の変化を抑制可能である椅子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る椅子では、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
この発明に係る椅子は、背凭れを備える椅子であって、前記背凭れは、枠内に開口部を有すると共に、幅方向における中央部と両端部とが前後に相対移動するように変形可能な枠部材と、前記開口部に張設されると共に、前記開口部に張設される幅方向における張設領域が、前記枠部材の変形に追従して変形する左右張設領域と、相対的に前記左右張設領域よりも変形しない中央張設領域と、に分かれるように構成されている張材と、を有する、ことを特徴とするものである。
この構成によれば、枠部材の幅方向における中央部と両端部とを前後に相対移動させて背凭れの形状変更を可能とさせているため、形状変更の際に幅方向における両端部の間隔が大きく変更されず、着座者を支持する力の低下を抑制できる。また、枠部材が変形しても、張材の張設領域が左右張設領域と中央張設領域とに分かれており、中央張設領域はほとんど変形しないため、張材全体が撓んでしまうことがない。したがって、背凭れの形状を変更しても、張材の張力に大きな変化は生じず、着座者を支持しうるだけの強度が保たれるため、着座感の変化を抑制できる。
【0008】
また、この発明に係る椅子において、前記張材は、高さ方向の張力が、幅方向の張力よりも大きくなるように張設されている、ことを特徴とするものである。
この構成によれば、高さ方向と幅方向とで張力に差が出るように張材を張設することで、左右張設領域と中央張設領域とを形成することができる。このため、張材の織り方や編み方に特段の工夫をすることなく、背凭れの形状変更の際の着座感の変化を抑制できる。
【0009】
また、この発明に係る椅子において、前記張材は、高さ方向よりも、幅方向の方が伸長し易い材質特性を有する、ことを特徴とするものである。
この構成によれば、高さ方向と幅方向とで伸長し易さに差がある材質の張材を張設することで、左右張設領域と中央張設領域とを形成することができる。このため、張材の張力を調整する張設技術の熟練度に関係なく、背凭れの形状変更の際の着座感の変化を抑制できる。
【0010】
また、この発明に係る椅子において、前記枠部材は、前記開口部を形成する上下枠部と左右枠部とを有しており、前記上下枠部を固定して前記枠部材を背後から支持する背凭れ支持部材を有し、前記枠部材は、前記左右枠部が前記上下枠部に対して前後に移動可能とされている、ことを特徴とするものである。
この構成によれば、枠部材の上下枠部が背凭れ支持部材に固定されているため、枠部材の左右枠部を背凭れ支持部材に対して前後に移動させることにより、背凭れの形状を変更させることができる。
【0011】
また、この発明に係る椅子において、前記枠部材の背後において前記背凭れ支持部材に連結された連結部材を有し、前記張材の前記中央張設領域は、前記連結部材に固定されている、ことを特徴とするものである。
この構成によれば、張材の中央張設領域を背凭れ支持部材に連結された連結部材に固定することで、左右張設領域と中央張設領域とを形成することができる。このため、張材の織り方や編み方に特段の工夫をすることなく、また、張材の張力を調整する張設技術の熟練度に関係なく、背凭れの形状変更の際の着座感の変化を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、張材が張設された枠部材からなる背凭れの形状変更の際の着座感の変化を抑制可能である椅子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、椅子に正規姿勢で着座した人の正面が向く図中矢印FRの指す向きを「前」と呼び、それと逆側の向きを「後」と呼ぶものとする。また、「上」,「下」と「左」,「右」については、椅子に正規姿勢で着座した人の上方の図中矢印UPの指す向きを「上」、それと逆側の向きを「下」と呼び、椅子に正規姿勢で着座した人の左側の図中矢印LHの指す向きを「左」、それと逆側の向きを「右」と呼ぶものとする。
【0015】
先ず、
図1〜
図7に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態の椅子1の側面図である。
図1に示すように、本実施形態の椅子1は、フロア上に載置される脚部2と、脚部2の上端に設置されるボックス状の支基3と、着座者が着座する座体4と、支基3の上面に取り付けられ座体4を前後スライド可能に支持する座受部材5と、座体4に着座した着座者の背中を支持する背凭れ6と、背凭れ6を背後から支える背凭れ支持部材7と、背凭れ6の形状を変更する背凭れ形状変更手段8と、を有する。
【0016】
脚部2は、キャスタ9a付きの多岐脚9と、多岐脚9の中央部より起立し昇降機構であるガススプリングを内蔵する脚柱10と、を有し、脚柱10の上端部に支基3が水平方向に回転可能に取り付けられている。支基3には、脚柱10の昇降調整機構と背凭れ支持部材7の傾動調整機構が内蔵されている。背凭れ支持部材7は、側面視略L字形状を有し、その前部下端が支基3内の傾動調整機構に連結されている。
なお、
図1中、符号11は、支基3上における背凭れ支持部材7の枢支軸であり、符号12は、支基3の側面に突設された傾動調整機構の操作ノブである。
【0017】
座体4は、骨格部を成す座板13と、座板13の上部に取り付けられる座本体14と、を有する。座本体14は、詳細な図示は省略するが、座板13の外周縁部に取り付けられる座枠(不図示)と、座板13の上面に設置されるウレタン等から成るクッション材(不図示)と、座枠に張設されてクッション材の上方側を覆うシート表皮材15と、を有する。
【0018】
図2は、この発明の第1の実施形態の椅子1の平面図である。
図3は、この発明の第1の実施形態の椅子1の背面図である。
図4は、この発明の第1の実施形態の椅子1の背面側斜視図である。
背凭れ6は、
図2に示すように、着座者と接して荷重を受けるものである。背凭れ6は、
図2に示す平面視で、後方に凸となる略湾曲形状を有する。本実施形態の背凭れ6は、樹脂成型された枠部材21(
図4参照)と、枠部材21の開口部27に張設される張材22と、によって形成されている。
【0019】
背凭れ6は、
図3に示す背面視で、四隅が丸みを帯びた略長方形状とされている。また、背凭れ6は、
図1に示すように、前方に屈曲する突出部23を有する。本実施形態の背凭れ6は、
図1に示す側面視で、前方に凸の屈曲形状を有している。突出部23の頂点は、着座者の腰に対応する位置に形成されている。すなわち、突出部23は、
図1に示す側面視で、背凭れ6の下端部よりもやや上方の部分が前方に突出するように、適所で屈曲した形状を有している。
【0020】
背凭れ支持部材7は、
図1に示すように、背凭れ6を背後から支えるものである。背凭れ支持部材7は、背凭れ6よりも剛性が高く、背凭れ6で受けた着座者の荷重を支える強度部材である。背凭れ支持部材7は、樹脂成型されており、厚み大きさや補強リブの配置等により、背凭れ6よりも剛性が高く構成されている。背凭れ支持部材7は、
図3に示す背面視で、背凭れ6の外形と略同じ外形を有する枠部30を有する。枠部30は、背面側に大きく開口する開口部31を有している。
【0021】
背凭れ支持部材7は、
図1に示すように、背凭れ6の突出部23に対応する位置に、前方に屈曲する突出部32を有する。すなわち、突出部32は、
図1に示す側面視で、枠部30の下端部よりもやや上方の部分が前方に突出するように、適所で屈曲した形状を有している。この突出部32には、後述する背凭れ形状変更手段8の操作部材50が配置されるようになっている。背凭れ支持部材7は、枠部30の下端部から前方に延出する連結部33を有する。連結部33は、支基3内の傾動調整機構に連結されている。
【0022】
図5は、この発明の第1の実施形態の背凭れ形状変更手段8の構成図である。
図6は、この発明の第1の実施形態の背凭れ形状変更手段8の係合溝60が設けられた枠部材21の背面図である。
図7は、
図6における矢視A−A断面図である。
背凭れ形状変更手段8は、
図5に示すように、枠部材21の左右枠部25を前後に移動させて背凭れ6の形状を変更するものである。
【0023】
背凭れ形状変更手段8は、
図3に示すように、背凭れ6の枠部材21の上下枠部24を背凭れ支持部材7に固定する固定部40と、
図2及び
図5に示すように、背凭れ6の左右枠部25に設けられ、背凭れ支持部材7に対して前後に移動可能な移動端部41と、を有する。固定部40は、
図3に示すように、複数の固定ネジ42によって、背凭れ6の上下枠部24を背凭れ支持部材7に固定する構成となっている。
【0024】
固定ネジ42は、背凭れ6の上下枠部24の上側を、背凭れ支持部材7の枠部30の上側に固定すると共に、背凭れ6の上下枠部24の下側を、背凭れ支持部材7の枠部30の下側に固定する。固定ネジ42による背凭れ6の上下枠部24の上側の固定は、背凭れ6の幅方向の中心とその両脇の三か所で行う構成となっている。また、固定ネジ42による背凭れ6の上下枠部24の下側の固定は、背凭れ6の幅方向の中心の一か所で行う構成となっている。
【0025】
移動端部41は、背凭れ支持部材7に固定されない左右枠部25の自由端であり、背凭れ支持部材7に対して前後に移動可能な構成となっている。すなわち、移動端部41は、固定部40を支点とする背凭れ6(枠部材21)の弾性変形によって前後に移動する。移動端部41は、背凭れ6の突出部23に対応する位置に設けられている。背凭れ6の突出部23に対応する位置には操作部材50が配置されており、移動端部41は、操作部材50の押圧によって前後に移動する構成となっている。
【0026】
操作部材50は、
図1に示すように、背凭れ6及び背凭れ支持部材7のいずれか一方(本実施形態では背凭れ支持部材7)に移動可能に支持されている。操作部材50は、背凭れ6の枠部材21の左右枠部25を前後に移動させるためのものであり、着座者が把持可能な把持部51を有する。把持部51は、着座者の操作性を向上させるものであり、
図3に示すように、略L形状を有すると共に、背凭れ6の側部に突出し、着座者が座体4に座った状態で把持可能な構成となっている。
【0027】
操作部材50は、
図4及び
図5に示すように、背凭れ6及び背凭れ支持部材7の互いに対向する対向面26,34のいずれか一方側(本実施形態では対向面34側)に回転可能に支持される基端部52と、基端部52を中心に回動し、背凭れ6及び背凭れ支持部材7の対向面26,34の他方側(本実施形態では対向面26側)を押圧する先端部53と、を有する。また、背凭れ6及び背凭れ支持部材7の対向面26,34の他方側(本実施形態では対向面26側)には、
図4〜
図6に示すように、先端部53の回動軌跡に沿って、先端部53と係合可能な係合溝60が形成されている。
【0028】
係合溝60は、背凭れ6の背後に設けられている。係合溝60は、
図6に示すように、背凭れ6の左右枠部25に沿って設けられている。すなわち、係合溝60は、高さ方向(上下方向)に延在している。また、係合溝60は、背凭れ6の突出部23に対応する位置を上下で跨ぐように延在しており、背凭れ6の突出部23より下側の傾斜形状に沿って幅方向(左右方向)内側に曲がるように形成されている。
【0029】
係合溝60は、
図7に示すように、所定の摺動性を有するライナー61とライナー支持部材63における保持部64とによって形成されている。ライナー61は、操作部材50の先端部53と摺接するものであり、先端部53の形状に対応した形状を有している。本実施形態の操作部材50の先端部53は、ボール状(球状)に形成されており、ライナー61は、断面視で円弧状に形成されている。ライナー61は、第1ライナー部材61aと第2ライナー部材61bに分割可能に構成されている。第1ライナー部材61aと第2ライナー部材61bは、凹凸の嵌合部62によって組み合わせ可能に構成されている。
【0030】
ライナー61は、ライナー支持部材63によって背凭れ6(枠部材21)の背後に固定されている。ライナー支持部材63は、ライナー61を保持する保持部64と、枠部材21に係合可能な係合突起65と、を有する。保持部64は、ライナー61の外径よりも狭い間隔で、一対で設けられている。係合突起65は、ライナー支持部材63の内側において、幅方向(左右方向)に突出して設けられている。なお、係合突起65は、不図示であるがライナー支持部材63の左右の適所に複数設けられている。なお、ライナー61とライナー支持部材63とは、二色成型等の手段により一体的に形成してもよい。
【0031】
枠部材21は、ライナー支持部材63を取り付け可能な取付溝66を有する。取付溝66には、複数のリブ67が立設している。ライナー61は、ライナー支持部材63と複数のリブ67との間に挟まれて固定されている。リブ67には、ライナー支持部材63の係合突起65と係合する係合穴68が設けられている。係合穴68は、リブ67に幅方向(左右方向)に貫通して設けられている。係合突起65と係合穴68とが係合することで、ライナー支持部材63が枠部材21に対して固定される。
【0032】
操作部材50は、先端部53が係合溝60に係合する一方、基端部52が回転軸69に回転自在に支持されている。回転軸69は、幅方向に延在し、背凭れ支持部材7に設けられている。基端部52は、回転軸69が挿通する軸受穴70を有する。軸受穴70の径は、回転軸69の径よりも大きくなるように設計されている。すなわち、基端部52は、回転軸69の軸線と直交する方向にガタを有している。本実施形態の操作部材50は、このガタにより、
図6に示す係合溝60に沿って先端部53を幅方向(左右方向)に移動可能としている。
【0033】
また、枠部材21の外周部には、張材22を取り付ける取付溝71が形成されている。取付溝71には、張材22の外縁部が導入される。張材22の外縁部は、固定片72と共に取付溝71に導入されて固定されている。取付溝71の側部には、固定片72と係合する係合穴73が形成されている。固定片72には、フック74が設けられており、フック74が係合穴73と係合することで、固定片72が取付溝71に取り付けられる。この取付溝71は、枠部材21の外縁全周に設けられており、張材22が枠部材21の前面側全体に張設されるようになっている。
【0034】
図8は、この発明の第1の実施形態の張材22が張設された枠部材21からなる背凭れ6の正面図である。
図9は、この発明の第1の実施形態の枠部材21に張設する前の張材22の模式図である。
図8に示すように、枠部材21は、枠内に開口部27を有する。開口部27は、上下枠部24と左右枠部25とによって形成されている。この枠部材21は、背凭れ形状変更手段8によって左右枠部25が前後に移動するように変形可能とされている。
【0035】
張材22は、メッシュ状に編まれた伸縮性を有する樹脂製繊維からなり、開口部27に張設されている。開口部27に張設される張材22の張設領域は、幅方向において、枠部材21の変形に追従して変形する左右張設領域T1と、相対的に左右張設領域T1よりも変形しない中央張設領域T2と、に分かれるように構成されている。このように、張材22の張設領域は、幅方向において略3等分に区分されている。
【0036】
本実施形態の張材22の張設領域は、張力の差で分かれるように構成されており、左右張設領域T1よりも中央張設領域T2の方が、張力が大きい。具体的に、張材22は、
図9に示すように、枠部材21に張設される。張材22は、全体的に枠部材21よりも一回り小さく、外縁部を引き伸ばすことで枠部材21に張設されるようになっている。張材22は、切欠き28,29を有している。切欠き28,29は、張材22の他の外縁部分よりも内側に凹む部分である。
【0037】
切欠き28は、張材22の左右に形成されている。切欠き28は、背凭れ6の突出部23(
図8参照)に対応する高さ形成されている。この切欠き28を左右に引き伸ばすことにより、着座者の腰から荷重を受ける部分の張材22の強度を確保することができる。
また、切欠き29は、張材22の上下に形成されている。切欠き29は、張材22の幅方向における中央に形成されている。切欠き29は、切欠き28よりも幅及び深さが大きい。この切欠き29を上下に引き伸ばすことにより、着座者の背筋に沿って荷重を受ける部分の張材22の強度を確保することができる。
【0038】
この張材22を枠部材21に張設すると、
図8において矢印で示すように、高さ方向と幅方向とで張力に差が出る。切欠き29の対向領域にある中央張設領域T2には、切欠き29を引き伸ばすことによって高さ方向に大きな張力が作用しており、当該張力によって変形が規制(拘束)されるようになっている。一方、切欠き29の対向領域から外れた左右張設領域T1では、切欠き29を引き伸ばすことによる張力の影響が小さく、枠部材21の変形に追従して変形することが許容されるようになっている。
【0039】
続いて、上記構成の背凭れ形状変更手段8を用いた背凭れ6の形状変更及びそのときの背凭れ6の作用について説明する。
【0040】
着座者は、座体4に座った状態で、
図3に示す背凭れ6の左右に突出する操作部材50の把持部51を把持し、上方に引き上げる。操作部材50は、基端部52が背凭れ支持部材7に回転可能に支持されており、基端部52を中心に先端部53が上方に回動する(
図1参照)。先端部53が上方に回動すると、操作部材50は、背凭れ6及び背凭れ支持部材7の互いに対向する対向面26,34間に突っ張り、対向面26,34間の距離を押し広げる。背凭れ支持部材7の枠部30は、背凭れ6の枠部材21よりも剛性が高く、背凭れ6側が弾性変形する。
【0041】
枠部材21は、
図3に示すように、上下枠部24が固定部40によって背凭れ支持部材7に固定されており、左右枠部25が背凭れ支持部材7に対して移動可能とされている。このため、背凭れ6の左右枠部25が、操作部材50の押圧によって前方に移動する(
図5参照)。背凭れ6の左右枠部25が前方に移動すると、枠部材21は幅方向における中央部と両端部との前後の相対位置が変化するように弾性変形する。枠部材21が弾性変形すると、それに伴って張材22が、
図5に示すように、形状C1から形状C2に変形する。
【0042】
本実施形態では、枠部材21の幅方向における中央部と両端部とを前後に相対移動させて背凭れ6の形状変更を可能とさせているため、形状変更の際に幅方向における両端部(左右枠部25)の間隔が大きく変更されず、着座者を支持する力の低下を抑制できる。また、枠部材21が変形しても、張材22の張設領域が左右張設領域T1と中央張設領域T2とに分かれており、中央張設領域T2ではほとんど変形しないため、張材22全体が撓んでしまうことがない。したがって、背凭れ6の形状を変更しても、張材22の張力に大きな変化は生じず、着座者を支持しうるだけの強度が保たれるため、着座感の変化を抑制できる。
【0043】
すなわち、本実施形態では、中央張設領域T2が大きい張力で上下枠部24の間に張設されているため、左右枠部25が前後に移動しても、追従して変形しないようになる。これにより、左右枠部25が前後に移動すると、左右張設領域T1は、中央張設領域T2との境界Bを支点として回動するように変形することとなる。したがって、左右張設領域T1における幅方向の長さは大きく変わることがなく、また、中央張設領域T2における幅方向の長さも大きく変わることはない。このため、背凭れ6の形状変化の際に、着座感に変化を与える張材22の左右方向の張力の低下を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、
図8及び
図9に示すように、高さ方向の張力が、幅方向の張力よりも大きくなるように張材22を枠部材21に張設している。このように、高さ方向と幅方向とで張力に差が出るように張材22を張設して、左右張設領域T1と中央張設領域T2とを形成することにより、張材22の織り方や編み方に特段の工夫をすることなく、背凭れ6の形状変更の際の着座感の変化を抑制できるようになる。
【0045】
このように、上述の本実施形態によれば、背凭れ6を備える椅子1であって、背凭れ6は、枠内に開口部27を有すると共に、幅方向における中央部と両端部とが前後に相対移動するように変形可能な枠部材21と、開口部27に張設されると共に、開口部27に張設される幅方向における張設領域が、枠部材21の変形に追従して変形する左右張設領域T1と、相対的に左右張設領域T1よりも変形しない中央張設領域T2と、に分かれるように構成されている張材22と、を有する、という構成を採用することによって、張材22が張設された枠部材21からなる背凭れ6の形状変更の際の着座感の変化を抑制可能である椅子1が得られる。
【0046】
続いて、この発明の第2の実施形態について
図1〜
図9を援用し、
図10を参照して説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、上記実施形態と共通部分に同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
図10は、この発明の第2の実施形態の張材22の拡大図である。この実施形態の椅子は、第1の実施形態とは張材22の構造のみが異なり、その他の部分は第1の実施形態と同様とされている。
【0047】
この実施形態の張材22は、高さ方向よりも、幅方向の方が伸長し易い材質特性を有する。張材22は、繊維材の編み方によって高さ方向と幅方向とで伸長し易さに差を出している。
図10に示すように、張材22には、高さ方向に延在する第1の編目部80が、ストライプ状となって幅方向に間隔をあけて形成されている。また、幅方向で隣り合う第1の編目部80の間には、幅方向に伸縮自在の第2の編目部81が形成されている。
【0048】
この構成によれば、張材22の高さ方向が伸縮し難くなるため、切欠き28,29を形成せずに張材22の外縁部を同じように伸長させて枠部材21に張設すると、上下枠部24の間の張力が左右枠部25の間の張力よりも大きくなる上述した
図8と同じ状態となり、左右張設領域T1と中央張設領域T2とが形成される。したがって、この第2の実施形態によれば、張材22の張力を調整する張設技術の熟練度に関係なく、上記実施形態と同様に背凭れ6の形状変更の際の着座感の変化を抑制できるようになる。
【0049】
続いて、この発明の第3の実施形態について
図1〜
図9を援用し、
図11を参照して説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、上記実施形態と共通部分に同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
図11は、この発明の第3の実施形態の背凭れ形状変更手段8の構成図である。この実施形態の椅子は、第1の実施形態とは背凭れ支持部材7の構造のみが異なり、その他の部分は第1の実施形態と同様とされている。
【0050】
この実施形態の背凭れ支持部材7には、連結部材90が連結されている。この実施形態の連結部材90は、背凭れ支持部材7の枠部30にネジ91で固定された板体である。この連結部材90は、枠部30の左右に一対で設けられており、それぞれ開口部31の中央に向かって延在している。この連結部材90には、張材22の中央張設領域T2が固定されている。この固定手段としては、ピン止めや接着剤による接着等の手段を採用することができる。
【0051】
この構成によれば、張材22の中央張設領域T2を背凭れ支持部材7に連結された連結部材に物理的に固定することで、左右張設領域T1と、相対的に左右張設領域T1よりも変形しない中央張設領域T2と、を形成することができる。このため、張材22の織り方や編み方に特段の工夫をすることなく、また、張材22の張力を調整する張設技術の熟練度に関係なく、上記実施形態と同様に背凭れ6の形状変更の際の着座感の変化を抑制できる。
【0052】
続いて、この発明の第4の実施形態について
図1〜
図9を援用し、
図12〜
図14を参照して説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、上記実施形態と共通部分に同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
図12は、この発明の第4の実施形態の椅子1の側面図である。
図13は、この発明の第4の実施形態の背凭れ形状変更手段8の斜視図である。
図14は、
図13における矢視B−B断面図である。なお、
図13及び
図14では、張材22を不図示としている。この実施形態の椅子は、第1の実施形態とは背凭れ6と背凭れ支持部材7との固定部40の構造のみが異なり、その他の部分は第1の実施形態と同様とされている。
【0053】
上述したように、背凭れ形状変更手段8は、枠部材21の背凭れ6の上下枠部24を背凭れ支持部材7に固定する固定部40を有する。第4実施形態の固定部40では、背凭れ6の上下枠部24の上側を背凭れ支持部材7の枠部30の上側に固定する構成は上記実施形態と同様(固定ネジ42)であるが、
図12に示すように、背凭れ6の上下枠部24の下側を背凭れ支持部材7の枠部30の下側に固定する構成が上記実施形態と異なっている。第4実施形態の固定部40は、背凭れ6の上下枠部24の下側を、背凭れ支持部材7の枠部30の下側に係止させる係止部43を有する。係止部43は、上下枠部24の下側の高さ方向の移動を許容しつつ、上下枠部24の下側の前方への移動(抜け)を規制するものである。
【0054】
係止部43は、
図13に示すように、背凭れ支持部材7の枠部30の下側に取り付けられている。係止部43は、不図示の取り付けネジが挿入される取付穴44と、上下枠部24の下側の移動を規制する突起部45と、を有する。取付穴44は、左右一対で設けられている。この取付穴44に、取り付けネジを挿入することで、係止部43は、背凭れ支持部材7に固定されるようになっている。突起部45は、取付穴44よりも後方に配置され、取付穴44が形成される面46よりも上方に突出している。
【0055】
図14の断面図に示すように、突起部45は、前方斜め上方に向かって突出しており、前方斜め上方に傾斜する係止面47を有する。突起部45は、背凭れ6が背凭れ形状変更手段8によって
図12において二点鎖線で示すように変形するときに、上下枠部24の下側が乗り越えられないような高さを有している。すなわち、上下枠部24の下側は、
図14において二点鎖線で示すように前方斜め上方に移動するが、係止面47と係止した状態が保たれて、前方への移動(抜け)が規制される。
【0056】
上記構成の第4実施形態によれば、背凭れ6の上下枠部24の下側を完全に固定せず、高さ方向の移動を許容しつつ、前方への移動を規制する半固定状態とすることができる。上述したように、背凭れ6は、上下枠部24を背凭れ支持部材7に固定し、左右枠部25を操作部材50で押圧して前後に移動させるようになっている。この第4実施形態によれば、上下枠部24の下側が完全に固定されておらず、
図12に示すような背凭れ6の変形に追従して高さ方向に移動できる。これにより、操作部材50の操作に要する力が上記第1実施形態よりも小さくなり、操作部材50の操作性を向上させることができる。
【0057】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、張材がメッシュ等の繊維材から形成される構成について説明したが、本発明は、張材がシート材から形成される構成であっても良い。
【0059】
また、例えば、上記実施形態では、枠部材が略長方形状となる構成について説明したが、本発明は、枠部材が円形状、楕円形状、菱形状等となる構成であっても良い。
また、背凭れ支持部材は、I型形状等となる構成であっても良い。
【0060】
また、例えば、上記実施形態では、枠部材の幅方向における中央部(上下枠部)を固定し、枠部材の幅方向における両端部(左右枠部)を前後に移動させる構成について説明したが、本発明は、枠部材の幅方向における両端部を固定し、枠部材の幅方向における中央部を前後に移動させる構成であっても良い。この場合、上下枠部の背後を、操作部材で押圧する構成を採用することが好ましい。
【0061】
また、例えば、上記実施形態では、操作部材によって枠部材の幅方向における中央部と両端部とを前後に相対移動させる構成について説明したが、本発明は、操作部材を用いずに、直接手で枠部材の幅方向における中央部と両端部とを前後に相対移動させる構成であっても良い。但し、操作部材を用いれば、直接手で移動させるよりも軽力で、背凭れの形状を変更することができる。
【0062】
また、例えば、上記実施形態では、固定部として、背凭れの上下枠部の上側を背凭れ支持部材の枠部の上側に固定する固定ネジを採用する構成について説明したが、本発明は、この構成に限定されない。例えば、背凭れの上下枠部の上側の後方に、複数の係合突起を形成し、これら係合突起が背凭れ支持体に形成した係合凹部に係合することによって、背凭れの上下枠部の上側が背凭れ支持部材の枠部の上側に固定される構成を採用してもよい。また、この係合凹部の寸法に若干の遊びを設けることによって、背凭れの上下枠部の上側においても半固定状態とし、背凭れを背凭れ支持部材に対して動きやすくすると共に、これによって操作部材の操作性をより軽くすることが可能となる。