【実施例1】
【0012】
本発明の一実施形態に係る搬送システム100は、
図1乃至
図3に示すように、移動体である搬送台車110が、上方に設けられた車体支持台112に被搬送物である自動車ボディ102を載置し、車輪111によってレール101に沿って走行するように構成されている。
搬送台車110には移動方向に延びるラック120が固定されており、レール101の側方に所定の間隔で設けられたピニオン(図示せず)に係合し、ピニオンを回転駆動することで係合するラック120を移動方向に駆動し、搬送台車110が移動するように構成されている。
なお、搬送台車やレールの構造、被搬送物の支持構造はいかなるものであってもよく、例えば、レールが上方に設けられ搬送台車によって被搬送物を吊り下げる構造であってもよい。
また、搬送台車の走行機構も、いかなるものであってもよく、レール側にローラ等が設置されてローラ上を走行するものや、磁気浮上、空気浮上、低摩擦面の滑動等で走行するものであってもよい。
また、被搬送物もいかなるものであってもよい。
【0013】
ラック120は、
図4乃至
図6に示すように、中央に複数の固定ラック歯122が設けられた本体部121と、固定ラック歯122の移動方向前方(以下、単に「前方」という。)の端部に連続する可動ラック歯124が設けられた可動部123と、固定ラック歯122の移動方向後方(以下、単に「後方」という。)の端部に連続する可動ラック歯124bが設けられた可動部123bとを有している。
それぞれの可動部123、123bの上方には、可動部123、123bの上方への過剰な跳ね上がりを規制するストッパ機能を兼ねた可動部カバー126、126bが本体部121に固定的に設けられている。
前方の可動部123は、可動部カバー126の前方端部側に設けられた支持軸部125を中心に揺動可能に支持され、後方の可動部123bは、可動部カバー126bの本体部121側に設けられた支持軸部125bを中心に揺動可能に支持されており、いずれも支持軸部125、125bが、可動部123、123bの可動ラック歯124、124bの存在する位置より前方に位置するように構成されている。
また、前方の可動部123の支持軸部125に近い可動ラック歯124は、頂部が低く形成されている。
【0014】
以上のように構成された本実施形態の搬送システム100の動作について説明する。
搬送台車110が等速で搬送される区間では、
図4に示すように、前方のピニオン130と後方のピニオン130bは、両者の回転軸132、132bの間隔が、前方の可動部123の最前方の可動ラック歯124の頂部と後方の可動部123bの最後方の可動ラック歯124bの頂部との間隔とほぼ等しく設定されている。
このため、前方の可動部123の最前方の可動ラック歯124と前方のピニオン130のピニオン歯131の位相がズレていた場合でも、最初の当接時に前方の可動部123が上方に押し上げられることで衝撃が緩和される。
その後、後方のピニオン130bのピニオン歯131bと後方の可動部123bの最後方の可動ラック歯124bの係合が外れた直後は、前方の可動部123の可動ラック歯124は前方のピニオン130のピニオン歯131と係合する位置にあるため、ラック120の前後位置が僅かにずれて前方の可動部123が下方に揺動して正確に係合し、連続する固定ラック歯122に円滑に係合する。
【0015】
なお、可動部123の上方には、可動部123の上方への過剰な跳ね上がりを規制するストッパ機能を兼ねた可動部カバー126が設けられているため、可動部123が搬送台車110の上部構造や搬送ライン上の様々な構造物と衝突することを防止できる。
また、最初に前方のピニオン130のピニオン歯131と当接する前方の可動部123の支持軸部125に近い可動ラック歯124は頂部が低く形成されているため、位相がズレていた場合でも押し上げ量を少なくすることができ、可動部カバー126の高さを低くし、ラック120の搬送台車110への取付位置やラック120の長さに関して、搬送台車110の上部構造や搬送ライン上の様々な構造物等による制約が少なくなる。
【0016】
搬送台車110の速度を変更する場合、
図5に示すように、前方のピニオン130と後方のピニオン130cはそれぞれ異なる一定の速度で駆動される。
速度を低下させる場合には、前方の可動部123の可動ラック歯124は前方のピニオン130のピニオン歯131よりも速度が速い状態で当接するため、搬送台車110の速度が維持されたまま、可動ラック歯124とピニオン歯131が係合することなく、前方の可動部123が上方に押し上げられる。
そして、後方のピニオン130cのピニオン歯131cと後方の可動部123bの最後方の可動ラック歯124bの係合が外れた後に、搬送台車110の速度が低下し、前方の可動部123の可動ラック歯124と前方のピニオン130のピニオン歯131との速度、位相が一致して前方の可動部123が下方に揺動して正確に係合する。
この時、
図5に示すように、前方のピニオン130と後方のピニオン130cを、両者の回転軸132、132cの間隔が、前方の可動部123の最前方の可動ラック歯124の頂部と後方の可動部123bの最後方の可動ラック歯124bの頂部との間隔より広く設定することで、搬送台車110の速度が低下し前方の可動部123の可動ラック歯124と前方のピニオン130のピニオン歯との速度、位相が一致するまでの時間的余裕を確保することができ、より大きな速度変化を円滑に行うことが可能となる。
【0017】
速度を上昇させる場合には、前方の可動部123の可動ラック歯124は前方のピニオン130のピニオン歯131よりも速度が遅い状態で当接するため、タイミングによっては早い段階で可動ラック歯124とピニオン歯131が係合して搬送台車110の速度が上昇する。
搬送台車110の速度が上昇時に、後方の可動部123bの可動ラック歯124bが後方のピニオン130cのピニオン歯131cと係合した状態であっても、後方の可動部123bは、後方の可動部カバー126bの本体部121側に設けられた支持軸部125bを中心に揺動可能に支持されており、支持軸部125bが、後方の可動部123bの可動ラック歯124bの存在する位置より前方に位置するように構成されているため、後方の可動部123bが上方に押し上げられて係合が解除され、搬送台車110の速度変化を円滑に行うことが可能となる。
【0018】
搬送方向を一旦逆転するような搬送を含む、連続的に搬送台車110の速度を変更する区間においては、
図6に示すように、前方のピニオン130dと後方のピニオン130eの間隔が、後方のピニオン歯131eがラック120の本体部121の後方端の固定ラック歯122から離れる前に、前方のピニオン歯131dがラック120の本体部121の前方端の固定ラック歯122に当接するように設定されている。
このような区間は、搬送台車110の速度、搬送方向、位置等を正確に制御することが要求される区間であり、前方のピニオン130dと後方のピニオン130eは速度や位相を正確に制御されるため、両端の可動部123、123bの可動ラック歯124、124bが動作する必要はなく、常にいずれか一方のピニオン歯131d、131eが固定ラック歯122と係合して駆動することで、可動部123、123bの揺動に伴う速度や位置のずれの影響を受けることなく、正確な速度、搬送方向、位置等の制御を行うことが可能となる。
【0019】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、上述した実施形態では、ラック120の下方でピニオン130が係合し、押し上げられた可動部123、123bは、重力により元に戻るように構成されているが、バネ等の付勢手段で元に戻る力を強くしてもよく、逆に付勢して押し上げ力を軽くしてもよい。
また、搬送台車の形態に応じて、ラックの側方や上方でピニオンが係合するようにしてもよく、その場合、元に戻るための何らかの付勢手段が必須である。
また、ラックとピニオンによる駆動以外の駆動手段を併設し、必要な搬送形態に応じて駆動手段を切り替えてもよい。
また、ラック歯、ピニオン歯の形状は、係合して駆動可能なものであればいかなるものであってもよく、ピニオンをスプロケットとし、ラック側にピンを等間隔に配列したいわゆる「ピンギア」であってもよい。