特許第6192253号(P6192253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192253立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6192253
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/25 20170101AFI20170828BHJP
   B01J 3/06 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C01B32/25
   B01J3/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-534859(P2017-534859)
(86)(22)【出願日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2017014364
【審査請求日】2017年6月23日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517223750
【氏名又は名称】大島 龍司
(73)【特許権者】
【識別番号】517223772
【氏名又は名称】崔 祥仁
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍司
(72)【発明者】
【氏名】崔 祥仁
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−296403(JP,A)
【文献】 特開平2−192494(JP,A)
【文献】 特開平9−165273(JP,A)
【文献】 特開2016−87481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/25
B01J 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素粒子を含有する立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【請求項2】
前記立方晶窒化ホウ素粒子が前記立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の内部及び/又は表面に存する、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【請求項3】
前記単結晶質ダイヤモンド粒子の平均粒子径が500μm以下である、請求項1または2に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【請求項4】
前記立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.05〜100μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【請求項5】
高温高圧法を用いた立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法であって、黒鉛及び/又は非ダイヤモンド炭素、触媒金属及び/又は溶媒金属、並びに立方晶窒化ホウ素粒子を、炭素の相平衡図においてダイヤモンドが熱力学的安定領域の圧力および温度に曝すことによって合成することを特徴とする立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項6】
前記触媒金属及び/又は溶媒金属は、鉄、ニッケル、コバルト、およびマンガンの少なくとも1種を含有する合金である、請求項5に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項7】
前記熱力学的安定領域の圧力および温度は、各々5〜10GPa、1300〜2000℃である、請求項5または6に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的安定性に優れる立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質上最高の硬度を持ち、超硬合金などの種々の材料を研磨する研磨材や、集積回路の切断に用いる研削材等、幅広く利用されている。ダイヤモンドを用いた研磨材や研削材は、単位時間当たりの被削材除去量が大きく、加工面の面粗さが小さいことが要求されている。一般には、研削精度が向上するように、多結晶質のタイヤモンド砥粒が用いられている。しかし、多結晶質のダイヤモンド砥粒は、多量の爆薬を用いる動的加圧によって製造される他、ダイヤモンド粒子を出発原料として焼結して製造されるため、製造工程が制約され、高価でもある。
【0003】
そこで、近年では、単結晶質ダイヤモンドを用いた砥粒が注目されている。単結晶質ダイヤモンドには、天然ダイヤモンドや合成ダイヤモンドがある。天然ダイヤモンドは、そのほとんどがIa型であり、格子もしくは格子間位置に窒素を有する。また、天然ダイヤモンドは、不純物の含有量や結晶組織のばらつきが大きく、品質や性能が安定しない。さらに、天然ダイヤモンドは、採掘量に応じて価格が変動するため、安定供給に課題を残し、高価でもある。一方、合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドよりも一定品質のものを安定供給することができる。
【0004】
ところで、一般に、ダイヤモンドは、天然あるいは合成に関わらず、大気中での熱的安定性に劣ることが知られている。具体的には、ダイヤモンドは、大気中600〜700℃で酸化が始まり、900℃程度で焼失してしまう。このため、ダイヤモンドを用いて加工用工具または研削研磨切断砥石(以下、「加工用工具」という。)を製造する際、大気中高温での焼成が困難である。耐久性のある工具を製造するためには高温での耐酸化性が要求されていた。
【0005】
そこで、大気中における高温熱酸化を抑制する手段として、例えば特許文献1には、ダイヤモンド合成時にホウ素をドープすることによって、高温での耐酸化性が改善された発明が記載されている。特許文献1には、ホウ素源として、非晶質のホウ素粉末、炭化ホウ素(BC)、ホウ化鉄(FeB)合金、金属ホウ素が挙げられている。また、同文献には、850℃での損耗率が毎秒0.25%未満であり、700℃以上の温度で損耗が開始することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−502955号公報
【特許文献2】特開2001−170474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、ホウ素をドープするダイヤモンドは、ドープしないダイヤモンドと比較して高温での耐酸化性に優れるとされている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載のホウ素ドーピングされたダイヤモンドは、合成時に炭素がダイヤモンドに変化すると同時に炭化ホウ素を析出させる反応も伴う場合がある。このような反応を伴う合成では、特許文献2に記載のように、ダイヤモンドと炭化ホウ素が競合して析出しようとする過程でダイヤモンド粒子の粒成長が阻害されてしまい、所望のダイヤモンド粒子を得ることができないことがある。また、従来のホウ素含有ダイヤモンドは格子欠陥が著しく、ノンドープダイヤモンドと比較して粒子の強度が劣るためにある程度の自生発刃性を有するものの、十分な加工速度であるとは言い難く、更なる改善が必要である。
【0009】
また、研削研磨切断加工において、精度の高い仕上がり面と、大きな加工速度とを同時に達成する加工砥粒の要求は常である。このような状況下において、最近では、加工材料の化合物化および複雑化に伴い、加工用工具の高い硬度や靭性、耐磨耗、耐熱特性が要求されるようになってきており、加工用工具作成時の焼成温度を更に高温に設定し、より硬度化し耐磨耗化を実現する必要が生じてきた。
【0010】
特許文献1に記載のホウ素ドープダイヤモンドは、前述のように850℃程度ではある程度の酸化は抑制できるが、大気中で1000℃を超える場合には酸化を抑制することは困難であると考えられる。酸化を抑制するために不活性雰囲気中で各種焼成を行うことも考えられるが、焼成装置や製造コストを考慮すると、大気中での焼成が不可欠である。
【0011】
このように、従来のダイヤモンド粒子では、近年の焼成温度の高温化に対応することができないため、加工用工具作成時の焼成温度を上げることができるダイヤモンド粒子を得ることが強く望まれている。
【0012】
本発明の課題は、熱的安定性に優れる単結晶質ダイヤモンド粒子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ダイヤモンドの耐酸化性を向上させるため、まずは、ダイヤモンドと比較して同等以上の熱的安定性を有する物質をダイヤモンドと共存させる点に着目して検討を行った。立方晶窒化ホウ素は、1300℃程度まで熱的に安定であり、ダイヤモンドのHV8600に次ぐHV5000という高い硬度を有し、格子定数が0.362nmでダイヤモンドの0.357に非常に近い。また、立方晶窒化ホウ素は、ダイヤモンド構造でありヘテロエピタキシャルが可能な物質であることが知られている。
【0014】
ここで、黒鉛と触媒金属を主成分とした反応物質にダイヤモンド結晶の成長核となるダイヤモンド粒子を添加すると、核形成が容易になり黒鉛を出発原料としたダイヤモンドへの成長が促進され、ダイヤモンド結晶の収穫量が画期的に上がることが知られている。このように種結晶を用い、成長粒子の核形成を容易にする方法は、化学気相法では頻繁に用いられている技術である。
【0015】
そこで、本発明者らは、立方晶窒化ホウ素とダイヤモンドを有する物質について、製造方法の観点も含めて検討を重ねた。ダイヤモンドの合成方法としては、まず、化学気相法が挙げられる。化学気相法では、格子定数がダイヤモンドに近い立方晶窒化ホウ素を種結晶として、ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させてダイヤモンドを得ることができる。しかし、化学気相法は、立方晶窒化ホウ素の層上にタイヤモンド層をヘテロエピタキシャル成長させる方法である。得られた層はダイヤモンド層と立方晶窒化ホウ素層の積層構造となるため、両者の相乗効果を発揮することができず、熱的安定性の向上には繋がらない。また、得られた積層体を粉砕して研磨材としての粒子を得ることも考えられなくはないが、得られた粒子はダイヤモンド多結晶質である場合がほとんどであって、研磨材として工業用および産業用用途に必要な大量生産は困難である。
【0016】
本発明者らは、工業用または産業用用途を前提に、大量にしかも安価にダイヤモンド研磨材粒子が得られる高温高圧法によりダイヤモンドを合成する方法に関して検討を行った。通常、高温高圧法によるダイヤモンド粒子研磨材を合成する場合、触媒または溶媒に用いた金属化合物もしくは炭化物がダイヤモンド結晶内に混入し、ダイヤモンドの強度低下が問題になる。合成温度および合成圧力を調整することによって、触媒または溶媒に用いた金属化合物または炭化物の混入が低減された高品質のダイヤモンド研磨材を合成することは可能であるが、高品質のダイヤモンド粒子を得ようとするとその収穫量は少なくなる。しかし、前述のように、高温高圧法を用いたダイヤモンド粒子の合成時にダイヤモンド粒子を予め種結晶として添加すると、核発生が容易になりダイヤモンド粒子の収穫量が向上する。ただ、核発生が容易であるため、ダイヤモンド粒子が至る所で成長し、双晶が発生し多結晶質となりやすい。このため、単結晶質ダイヤモンド粒子研磨材を合成する場合、種結晶を用いることは考え難い。
【0017】
本発明者らは、通常では出発原料として用いることのない立方晶窒化ホウ素粒子を敢えて高温高圧法によるダイヤモンド合成の種結晶として出発原料に投入した。その結果、予想外にも、添加した立方晶窒化ホウ素粒子を構成するホウ素が、ホウ素ドーパントとしてダイヤモンド単結晶中の格子位置を置換もしくは格子間位置へ拡散しない知見が得られた。また、これと同時に、ダイヤモンド粒子は単結晶質であり、立方晶窒化ホウ素粒子が結晶のまま単結晶質ダイヤモンド中に残存する知見が得られた。
【0018】
さらに、立方晶窒化ホウ素粒子を種結晶としても、ダイヤモンド粒子を種結晶とした場合と同様に収穫量が向上する知見も得られた。
【0019】
この知見により得られた本発明は次の通りである。
(1)立方晶窒化ホウ素粒子を含有する立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【0020】
(2)立方晶窒化ホウ素粒子が立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の内部及び/又は表面に存する、上記(1)に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【0021】
(3)単結晶質ダイヤモンド粒子の平均粒子径が500μm以下である、上記(1)または上記(2)に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【0022】
(4)立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が0.05〜100μmである、上記(1)〜上記(3)のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子。
【0023】
(5)高温高圧法を用いた立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法であって、黒鉛及び/又は非ダイヤモンド炭素、触媒金属及び/又は溶媒金属、並びに立方晶窒化ホウ素粒子を、炭素の相平衡図においてダイヤモンドが熱力学的安定領域の圧力および温度に曝すことによって合成することを特徴とする立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【0024】
(6)前記触媒金属及び/又は溶媒金属は、鉄、ニッケル、コバルト、およびマンガンの少なくとも1種を含有する合金である、上記(5)に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【0025】
(7)熱力学的安定領域の圧力および温度は、各々5〜10GPa、1300〜2000℃である、上記(5)または上記(6)に記載の立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、炭素の相平衡図を示す。
図2図2は、本発明に係る立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子を製造する際の圧力−時間プロファイル、および温度−時間プロファイルを示す図である。
図3図3は、発明例のダイヤモンド粒子の光学顕微鏡写真であり、図3(a)は倍率が1000倍の光学顕微鏡写真であり、図3(b)は倍率が100倍の光学顕微鏡写真である。
図4図4は、ホウ素がドープされていない比較例のダイヤモンド粒子、ホウ素がドープされた比較例のダイヤモンド粒子、およびcBNを粒子内に含有する発明例のダイヤモンド粒子における、熱重量分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を以下により詳しく説明する。
1.立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子
本発明に係る単結晶質ダイヤモンド粒子は立方晶窒化ホウ素粒子(以下、適宜、「cBN粒子」と称する。)を含有する。本発明に係る単結晶質ダイヤモンド粒子は、後述するように、高温高圧法によりcBN粒子を種結晶として単結晶質ダイヤモンドが成長して得られる。このため、cBN粒子がそのまま単結晶質ダイヤモンド中に残存することになる。また、本発明に係るダイヤモンド粒子は単結晶質であるためにダイヤモンドの粒界が存在せず双晶もほとんど存在しない。立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子がcBN粒子との接合面もしくはcBN粒子自体を起点として破砕したとしても、高い硬度を有する単結晶質ダイヤモンドが刃となり、単位時間当たりの加工量を維持することができる、自生発刃性にも優れる。このように、本発明では、単結晶質ダイヤモンド粒子がcBN粒子を含有するため、不純物が少ない高純度の単結晶質ダイヤモンドが有する高い硬度と、cBN粒子が有する熱的安定性との相乗効果が発揮される。
【0028】
本発明では、前述の相乗効果を十分に発揮する観点から、cBN粒子が立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の内部及び/又は表面に存することが望ましく、内部及び表面に存することが特に望ましい。cBN粒子が単結晶質ダイヤモンドの内部及び表面に存すると、ダイヤモンド粒子が研磨や研削により摩耗した場合であっても、cBN粒子が内部から表面に順次露出するため、加工点に発生する熱に対してcBN粒子の熱的安定性を発揮することもできる。本発明において、「内部」とは、cBN粒子が単結晶質ダイヤモンド内に内包されていることを表す。「表面」とは、cBN粒子の一部が単結晶質ダイヤモンドの表面に露出していることを表す。
【0029】
本発明に係る立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子は、上述した相乗効果を発揮する観点から、立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の質量に対して1〜10質量%のcBN粒子を含有することが望ましい。1質量%以上であるとcBNの熱的安定性が出現しやすい。一方、10質量%以下であるとダイヤモンド合成時に双晶が発生し難く単結晶粒子を得ることが容易になる。
【0030】
さらに、本発明では、ダイヤモンド粒子がどの方向から摩耗してもcBN粒子を順次表面に露出させる観点から、cBN粒子が単結晶質ダイヤモンド中に均一に分散していることが望ましい。
【0031】
本発明に係る単結晶質ダイヤモンド粒子の平均粒子径は500μm以下であることが望ましい。500μm以下であれば、粒子が大きすぎないために幅広い用途に使用できる。下限は特に限定されないが、一定以上の研削量を確保する観点から、0.25μm以上であることが望ましい。
【0032】
なお、合成後のダイヤモンド粒子が大きい場合には、所望の粒子径を得るために、本発明に係るダイヤモンド粒子を粉砕し、粒子径を調整した粉砕粉粒子を用いることもできる。本発明に係る立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子は、cBN粒子が単結晶質ダイヤモンド中にある程度均一に分散している為、粉砕粒子でも熱的安定性を維持することができる。
【0033】
本発明の単結晶質ダイヤモンド粒子は、cBN粒子を含有する。cBNは、格子定数が0.362nmでダイヤモンドの0.357に非常に近く、cBNは高温高圧法によるダイヤモンド合成において種結晶として機能する。また、cBNは1300℃程度まで熱的に安定であり、砥石を作製する際の焼結温度を高くしてもダイヤモンド粒子の酸化による焼失を抑制することができる。さらに、cBNはダイヤモンドのHV8600に次ぐHV5000の硬度を示すため、同一単結晶粒子内で硬度差が発生する。この硬度差は、単結晶質ダイヤモンドとcBN粒子との界面が粒子自体の破砕の起点となる要因である。また、硬度差は、加工時の砥粒の目潰れを防止することができるだけでなく、加工時の自生発刃の起点、研削研磨切断時の切れ刃の生成の要因でもある。この結果、切れ刃の増大すなわち単位時間当たりの加工量の増大につながる。
【0034】
本発明においてcBNを含有する効果が発揮されるためには、cBNが不純物程度の量を含有する程度では発揮されず、cBNが粒子として存在する程度の量を含有する必要がある。一方、ダイヤモンド粒子としての性質を維持するためには、cBN粒子の粒径が大きすぎず適正な範囲である必要がある。本発明において、cBN粒子の平均粒子径は、0.05〜100μmであることが望ましく、0.1〜50μmであることがより望ましい。
【0035】
本発明において、平均粒子径は以下の通りである。平均粒子径が0.25μm以上の粒子では、レーザ回折散乱方式の粒度分布測定機(例えば、Malvern Instruments社製、型式:Mastersizer2000、マイクロトラックベル社製、型式:MicrotracMT3000など)の体積平均径D50値を平均粒子径とする。一方、平均粒子径が0.25μm以下の粒子では、レーザ回折散乱方式での測定が困難であるため、動的光散乱方式もしくは円心沈降式の粒度分布測定機(例えば、マイクロトラックベル社製、型式MicrotracUPA、NanotracUPAーEXなど)の体積平均径D50値を平均粒子径とする。
【0036】
2.立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法
本発明に係る立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の製造方法は、高温高圧法を用い、黒鉛及び/又は非ダイヤモンド炭素、触媒金属及び/又は溶媒金属、並びに立方晶窒化ホウ素粒子を、炭素の相平衡図においてダイヤモンドが熱力学的に安定する領域の圧力および温度に曝すことによって合成する。
【0037】
本発明に係る製造方法は、高温高圧法では不純物として取り扱われているとともにダイヤモンドへの混入が避けられていたcBNを、敢えて、粒子としてダイヤモンド合成の出発原料に投入することによって完成されたものであり、単結晶質ダイヤモンドの製造においては画期的な方法である。
【0038】
なお、従来技術として、ダイヤモンド粒子とcBNを焼結した焼結材は存在するが、得られたものは単結晶質のダイヤモンドとcBNの複合体であり、本発明のダイヤモンド粒子と比較して、その組織が異なる。この複合体は、結合に用いた金属が粒界へ混入することによる強度低下が著しい。このため、加工時の自生発刃をしたとしても刃となる複合体は強度が低く、加工量が増加しない。
【0039】
また、焼結時にcBN粒子がタイヤモンド結晶中に分散することがないため、本発明のようにダイヤモンド粒子とcBN粒子との相乗効果を発揮することができない。さらに、化学気相法では前述のように単結晶質ダイヤモンド粒子中にcBN粒子を含有することができない。したがって、cBN粒子を含有する単結晶質ダイヤモンド粒子を製造するためには、高温高圧法が最適である。
【0040】
本発明の製造方法は、(1)黒鉛、cBN粒子、および触媒金属を有する出発原料を混合する工程、(2)混合原料をプレスして所定の形状に成形する工程、(3)プレス後の成形体を所定の圧力および温度の条件に曝して合成を行う工程である。これらについて以下に詳述する。
【0041】
(1)黒鉛、cBN粒子、および触媒金属を有する出発原料を混合する工程
本発明に係る製造方法に用いる黒鉛は、不純物濃度が30ppm未満であり、平均粒子径が100メッシュ(目開き:127μm)以下であることが望ましい。cBN粒子も同様である。これより大きいと、黒鉛の再結晶化および触媒金属の溶融に時間がかかる上、温度プロファイル及び圧力プロファイルが複雑になる。
【0042】
本発明に係る製造方法に用いる触媒金属は、鉄、ニッケル、コバルト、およびマンガンの少なくとも1種を含有する混合物もしくは合金であることが望ましい。混合物もしくは合金の組成は、黒鉛からダイヤモンドへの変換効率を向上させるため、Ni:25〜30重量%、Co:3〜5重量%、Mn:3〜5重量%、および残部がFeおよび不可避的不純物であることが望ましい。平均粒子径は黒鉛と同程度でよい。なお、「混合物」とは、各元素の金属(粉末)を混合したもの、もしくは2以上の元素の合金(粉末)を混合したものを表す。
【0043】
黒鉛と触媒金属およびcBN粒子との混合比は、黒鉛からダイヤモンドへの転換時の体積収縮による圧力減衰の観点から、(黒鉛粉末):(触媒金属+cBN粒子)=11:8〜11が望ましい。触媒金属とcBN粒子の混合比は、核発生密度の観点から、(触媒金属):(cBN粒子)=99:1〜90:10が望ましい。
【0044】
上記範囲で秤量した出発原料を混合する。混合方法は一般的な方法でよい。例えば、上記出発原料を粉体混合機に投入し、250〜300MPaの減圧下で30分以上混合することが望ましい。これによって、100メッシュ(目開き:149μm)以下の混合粉末が得られる。
【0045】
(2)混合粉末をプレスして所定の形状に成形する工程
上記混合粉末を通常使用されるプレス機にて220〜280MPaの加圧力で3〜10秒間保持して、所望の円柱状原料を得る。
【0046】

この円柱状原料をパイロフェライト製の圧力媒体容器に詰め出発原料とする。
【0047】
(3)プレス後の成形体を所定の圧力および温度に曝して合成を行う工程
上記の工程にて得られた出発原料を超高圧装置に導入し、所定の圧力プロファイルおよび温度プロファイルに従いダイヤモンドの合成を行う。圧力プロファイルおよび温度プロファイルは、図1に示す炭素の相平衡図において、最終的にはダイヤモンドが熱力学的に安定である領域の圧力および温度に設定する。また、両プロファイルは、特に限定されないが、出発原料の温度および圧力の均一化、黒鉛の再結晶化、触媒金属の溶融と黒鉛の濡れ、および核発生、粒子成長を考慮した上で各種条件を決定し多段階で操作することが望ましい。例えば図2に示すような圧力および温度操作である。
【0048】
圧力プロファイルの一例としては、まず、出発原料を超高圧装置に導入後、大気圧で60〜120秒間保持する。次に、20〜30秒で最終設定圧力の20〜25%まで昇圧し、さらに30〜120秒で最終設定圧力の60〜70%まで昇圧し、60〜120秒間保持する。次いで、30〜60秒で最終設定圧力の80〜90%まで昇圧し、60〜180秒間保持する。次に、最終設定圧力である5〜10GPa好ましくは5.5〜6.3GPaまで300〜600秒間かけて加圧し、300〜1200秒保持する。最後に、120〜600秒で大気圧まで減圧する。
【0049】
温度プロファイルの一例としては、まず、出発原料を超高圧装置に導入後、室温〜200℃で60〜120秒間保持する。次に、昇温速度を25〜60℃/秒で設定し、室温から1300〜2000℃、好ましくは1350〜1550℃の初期温度域まで昇温して30〜120秒間保持する。次に、10秒以内に初期温度から4〜7%低い温度に下げ、その温度域で30〜120秒間保持する。その後、700〜1200秒かけてさらに2.5〜3.5%低い温度に下げ、その温度域で240〜1200秒間保持する。最後に、300秒以内に室温まで冷却を開始する。
【0050】
また、圧力と温度のタイミングは、昇温による触媒金属の溶融および黒鉛の再結晶化の観点から、最大加圧力の20〜22%まで昇圧すると同時に最高温度まで昇温し、最大加圧力に昇圧後、減圧の開始と同時もしくは減圧開始後であって減圧完了前までに冷却を開始することが望ましく、最大加圧力に昇圧し300〜1200秒で黒鉛がダイヤモンドに十分に変換した後、ダイヤモンドから黒鉛への再転移を防止するためにも減圧完了前もしくは減圧の開始と同時に冷却を開始することが望ましい。
【0051】
上記のような条件で出発原料を高温高圧に曝すことによって、cBN粒子を含有する単結晶ダイヤモンドを製造することができる。
【実施例】
【0052】
1.発明例のダイヤモンド粒子の作製
まず、微細黒鉛粉末、および体積平均粒子径D50値が3.5μmのcBN粉末とFe系合金触媒金属粉末(Ni:28重量%、Co:5重量%、Mn:3重量%、残部Feおよび不可避的不純物)の混合粉末(cBN粒子:Fe系合金触媒金属粉末=97:3)であって、400メッシュ以下の粉末を用意した。黒鉛粉末と混合粉末の混合比は、(黒鉛粉末):(cBN粒子とFe系合金触媒粉末の混合粉末)=11:9とした。
【0053】
これを出発原料として粉体混合機に投入し、280MPaの減圧下で120分間混合し、100メッシュ以下の微細な混合粉末を得た。
【0054】
そして、混合粉末をプレス金型内に投入し、230MPa、25℃、5秒間の条件で加圧成形し、φ55mm×43mmの円柱状原料を作製した。得られた円柱状原料を75mmのパイロフェライト製の圧力媒体容器に詰め出発原料とした。
【0055】
圧力および温度を6.2GPa1350℃に設定し、出発原料を中国製キュービックアンビル型超高圧装置に導入し、ダイヤモンド安定領域に曝した。
【0056】
圧力プロファイルは図2に示すとおりである。具体的には、超高圧装置に出発原料をセットし大気圧で90秒間保持した。次に、30秒で設定圧力の20%である1.24GPaまで昇圧し、さらに65%である4.0GPaまで60秒で昇圧し、60秒間保持した。次いで、30秒で設定圧力の85%である5.3GPaまで昇圧し120秒間保持した。さらに600秒で設定圧力の6.2GPaまで昇圧し、300秒間保持した。最後に、180秒で大気圧まで減圧した。
【0057】
また、温度プロファイルは図2に示すとおりである。具体的には、超高圧装置に出発原料をセットし150℃で90秒間保持した。初期温度を8%高い1450℃に設定し、52℃/秒の昇温速度で150℃から約25秒で1450℃に昇温して90秒間保持した。次に、10秒以内に4%低い1390℃まで温度を下げて60秒間保持した。その後、720秒でさらに3%低い1350℃まで温度を下げて300秒間保持した後、冷却を開始した。
【0058】
圧力と温度のタイミングは、1.24GPaまで昇圧するとほぼ同時に1450℃まで昇温し、6.2GPaに昇圧時の温度は1350℃であり300秒後に冷却を開始した。
【0059】
2.比較例であるホウ素含有ダイヤモンド粒子の作製
上記「1.」において、cBN粒子に代えてホウ素粉末を用いたことを除いて、上記「1.」と同様の方法で作製した。
【0060】
3.比較例であるノンドープダイヤモンド粒子の作製
上記「1.」において、cBN粒子を投入しなかったことを除いて、上記「1.」と同様の方法で作製した。
【0061】
4.評価
(1)衝撃強度
ポットミル衝撃破砕性試験による破砕値(Toughness Index(Ti)値)による評価を行った。内径12.5mm深さ25mmの円筒状のスチールカプセルに、あらかじめサイズ分けされた試料2ct(400mg)と、直径8mm重量2gのスチールボール1個とを封入した。封入後のスチールカプセルを、RETEK社製Friability testerにて2分間2830回揺動させ試料を粉砕した。揺動後の試料において、粉砕された試料の質量に対する試料全体の質量の割合を算出し100分率で示した。
【0062】
結果を表1に示す。
(1)熱的安定性
熱重量分析装置(Rigaku社製、型番:Thermo plus EVO2)を用い、大気雰囲気下で10℃/minの条件で室温から1300℃まで昇温した場合におけるサンプル重量の減少率を測定した。
【0063】
結果を図4に示す。
(2)ダイヤモンド粒子の平均粒子径
得られたダイヤモンド粒子はJISB4130(1998)による篩分け法によってサイズ分けした。
【0064】
(3)ダイヤモンド粒子中のcBN粒子の平均粒子径、個数
出発原料として用いたcBN粒子の平均粒子径は30μm以下であるため、JISB4130(1998)篩分け法による粒度測定は困難である。そこで、粉体粒子径測定で一般的に用いられているレーザ回折式粒度分布測定機(Malvern Instruments社製、型式:Mastersizer2000)を用い平均粒子径を測定した。ダイヤモンド結晶内に取り込まれたcBN粒子は光学顕微鏡下でミクロンスケールによって採寸し、用いた平均粒子径と差異がほとんど無いことを確認した。結晶内に取り込まれた個数に関してはカウントすることが困難であるため、均一性を目視で確認した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、発明例のダイヤモンド粒子は、比較例のダイヤモンド粒子より衝撃強度が低い結果が得られた。これは、発明例のダイヤモンド粒子では、粒子中のダイヤモンドとcBNとの粒界が起点となり、ノンドープダイヤモンド、ホウ素含有ダイヤモンドより破砕性が向上したためである。換言すれば、発明例は破砕による自生発刃性が優れていると言える。
【0067】
図3は、発明例のダイヤモンド粒子の光学顕微鏡写真であり、図3(a)は倍率が1000倍の光学顕微鏡写真であり、図3(b)は倍率が100倍の光学顕微鏡写真である。
図3から明らかなように、cBN粒子が単結晶ダイヤモンド粒子の内部に概ね均一に分散していることがわかる。また、cBN粒子の平均粒子径は、ミクロンスケールによって採寸したところ3.5μm程度であり、あらかじめ測定した体積平均粒子径D50値である3.5μmと同一であった。また、図3のカラー写真から、ダイヤモンド粒子の色は高温高圧合成ダイヤモンド合成によく見られるノンドープダイヤモンド特有色の黄色よりも緑色を帯びており、さらにcBN粒子のアンバー色が混ざることで濃い緑色であることを確認した。このことから、本実施例の単結晶ダイヤモンド粒子は、ホウ素ドープダイヤモンド特有の青色〜青黒色の結晶を有していないことが明らかになった。
【0068】
図4は、ホウ素がドープされていない比較例のダイヤモンド粒子、ホウ素がドープされた比較例のダイヤモンド粒子、およびcBN粒子を粒子内に含有する発明例のダイヤモンド粒子における、熱重量分析結果を示すグラフである。図4から明らかなように、ホウ素がドープされていない比較例のノンドープダイヤモンド粒子は、700℃程度から重量減少が始まり、900℃程度ですべて焼失した。また、ホウ素がドープされた比較例のダイヤモンド粒子は、800℃程度で重量減少が始まり、1000℃では20%程度減少していることがわかった。一方、cBNを含有する発明例のダイヤモンド粒子は、900℃程度で重量減少が始まるが、1000℃でも重量減少が5%未満であり、高い熱的安定性を示すことがわかった。
【要約】
熱的安定性に優れる単結晶質ダイヤモンド粒子を提供する。単結晶質ダイヤモンド粒子は、立方晶窒化ホウ素粒子を含有する。好ましくは、立方晶窒化ホウ素粒子が立方晶窒化ホウ素粒子含有単結晶質ダイヤモンド粒子の内部及び/又は表面に存し、単結晶質ダイヤモンド粒子の平均粒子径が500μm以下であり、立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒径は0.05〜100μmである。
図1
図2
図3
図4