特許第6192401号(P6192401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192401
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】車体構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/04 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   B60R19/04 M
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-147287(P2013-147287)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-20441(P2015-20441A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大介
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−334529(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/135240(WO,A1)
【文献】 米国特許第06361092(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00−19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のフロントサイドメンバの前方でフロントバンパの後方に配置されるバンパリインフォースの面積を設定する車体構造の設計方法において、
ハニカム構造を有する障壁に対してオフセット衝突する際における前記障壁とのラップ量に対応する前記バンパリインフォースの面積を、前記バンパリインフォースと前記両フロントサイドメンバそれぞれとの間に配置されたクラッシュボックスであって、荷重に対する耐力が予め前記フロントサイドメンバよりも低い所定値に設定された前記クラッシュボックスの座屈荷重と、前記障壁の潰れ強度である1.711MPaと、荷重の静動比に基づく0.85とを用いて、
S=F÷1.711×0.85
の式により算出される値以上に設定することを特徴とする車体構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、左右のフロントサイドメンバの前方でフロントバンパの後方に配置されるバンパリインフォースの面積を設定する車体構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエアバッグを作動させるために、衝突時の加減速度を検知するGセンサが車体構造の所定の設置位置に取り付けられ、Gセンサからの出力に基づいてエアバッグを作動させるようになっている(例えば、特許文献1参照)。そのほかにも、衝突時にシートベルトを巻き上げて乗員を衝撃から保護する際の、シートベルトの巻き上げ動作の開始にも、Gセンサの出力を利用することが行われる。
【0003】
ところで、Gセンサが設置される車体前部には、左右のフロントサイドメンバの前方でフロントバンパの後方にバンパリインフォースが配置され、このバンパリインフォースの強度設計にあたっては、例えば車体の客室変形量を主評価項目として設計することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−219812号公報(段落0019および図3、要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように客室変形量を主評価項目とする設計では、車両の特にオフセット衝突が生じた場合における減速度G特性が不安定になり、車速に関係なく車体を安定的に潰すことができなくなり、その結果Gセンサの出力値が安定せずにエアバッグの着火時間にばらつきが生じるなどの傾向があった。具体的には、Gセンサの設置位置における衝撃強度が大きいと衝撃波が出ずにGセンサの反応が遅れ、衝撃強度が小さいと衝撃波が早く出てGセンサの出力の立ち上がりが早くなり過ぎ、エアバッグの着火時間がばらついてしまう。
【0006】
このようなGセンサの出力値を安定させるには、車両が植物などの比較的軟らかい障害物にぶつかっても車両前部が安定的に潰れるようにするのが望ましく、そのために従来、フロントバンパの後方に配置されるバンパリインフォースと左右のフロントサイドメンバそれぞれとの間にクラッシュボックスを配置することが行われているが、オフセット衝突時に、車速の大小に関係なくクラッシュボックスを安定して潰せるようなバンパリインフォースの設計手法を確立することが望まれる。
【0007】
本発明は、オフセット衝突時に、クラッシュボックスを安定して潰せるようなバンパリインフォースの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明の車体構造の設計方法は、左右のフロントサイドメンバの前方でフロントバンパの後方に配置されるバンパリインフォースの面積を設定する車体構造の設計方法において、ハニカム構造を有する障壁に対してオフセット衝突する際における前記障壁とのラップ量に対応する前記バンパリインフォースの面積を、前記バンパリインフォースと前記両フロントサイドメンバそれぞれとの間に配置されたクラッシュボックスであって、荷重に対する耐力が予め前記フロントサイドメンバよりも低い所定値に設定された前記クラッシュボックスの座屈荷重と、前記障壁の潰れ強度である1.711MPaと、荷重の静動比に基づく0.85とを用いて、
S=F÷1.711×0.85
の式により算出される値以上に設定することを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
衝突安全性評価のひとつである米国運輸省道路交通安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)が定めるODB(Offset Deformable Barrier)試験があり、このODB試験では、車両にオフセット衝突する障害物を模擬的に車体模擬部とバンパ模擬部から成る模擬車両とし、車両が衝突する障壁としてのバンパ模擬部であるODBをハニカム構造とし、これら車体模擬部およびバンパ模擬部に関して平均荷重、潰れ強度、密度、平均荷重到達変位、重量などが細かく規定され、このようなODB(バンパ模擬部)に対して40%のラップ量でオフセット衝突させることとされている。
【0011】
このとき、クラッシュボックスに接合するバンパリインフォースの面積が小さ過ぎると、ODBに対して面積の小さ過ぎるバンパリインフォースが突き刺さるようになって、ハニカム構造のODBのせん断(いわゆるハニカム切れ)が生じ、車両の車体のエネルギー吸収量が安定しない。一方、バンパリインフォースの面積が大き過ぎると、バンパリインフォースが大型化してコストアップや重量化を招くことになる。
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ハニカム構造を有する障壁に対してオフセット衝突する際における障壁とのラップ量に対応するバンパリインフォースの面積が、クラッシュボックスの座屈荷重と、障壁の潰れ強度(1.711MPa)と、荷重の静動比に基づく値(0.85)とを用いて、S=F÷1.711×0.85の式により算出される値以上に設定される。このとき、障壁の潰れ強度は、上記したNHTSAのODB試験において規定されており、クラッシュボックスの座屈荷重はクラッシュボックスをどのように設計するかで定まるものであるため、バンパリインフォースの面積Sを、クラッシュボックスの座屈荷重Fの設計値と、既知の障壁の潰れ強度とに基づいて上記の式により算出される値以上にすることにより、車速に関係なく安定してクラッシュボックスを潰すことが可能で、車両のオフセット衝突時におけるGセンサの出力値を安定させることが可能な低コストでかつ軽量のバンパリインフォースを得ることができる。なお、クラッシュボックスの座屈荷重の設計値と、既知の障壁の潰れ強度と、荷重の静動比に基づく値とを用いて算出される値を下限値とすると、最小面積のバンパリインフォースが得られることになる。
【0013】
また、オフセット衝突時におけるGセンサの出力値が安定化することで、エアバッグの制御ロジックの信頼性の向上を図ることができる。さらに、オフセット衝突時に、車体前部が滑らかに潰れて車体構造の衝撃吸収態様が安定するため、乗員に対してごつごつとした衝撃感を与えることを緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る車体構造の設計方法の一実施形態における車両前部構造の平面図である。
図2】ODB試験の説明図であり、(a)は試験用模擬車両の概略斜視図、(b)は試験用模擬車両のバンパ模擬部及び車体模擬部の諸元表である。
図3】ODB試験において、ハニカム切れの有無を表わすクラッシュボックスの座屈荷重とバンパリインフォースの面積との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の一実施形態について、図1ないし図3を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、車両前部は、断面ハット状の左右のフロントサイドメンバ1a,1bと、両フロントサイドメンバ1a,1bの前端部を橋絡して両メンバ1a,1bに接合された断面ハット状のクロスメンバ2と、両フロントサイドメンバ1a,1bの前方でフロントバンパ(図示せず)の後方に配置されるバンパリインフォース3と、バンパリインフォース3と両フロントサイドメンバ1a,1bの前端それぞれとの間に配置された断面矩形状のクラッシュボックス4a,4bとを備える。ここで、エアバッグ作動用のGセンサ6は、両クラッシュボックス4a,4bよりも後方で、両フロントサイドメンバ1a,1bそれぞれの前端部、あるいは、図1には示されていないラジエータの左右の両端を保持する左右のラジエータサポート部材に取り付けられる。
【0018】
そして、このような前部構造を有する車両がオフセット衝突したときに、両クラッシュボックス4a,4bが衝突時のエネルギーを緩和しつつ滑らかに潰れるように、以下のようにしてバンパリインフォース3の設計を行う。
【0019】
上記したように、衝突安全性評価のひとつであるNHTSAが定めるODB試験は、図2(a)に示すように、車両にオフセット衝突する障害物を模擬的に車体模擬部10とバンパ模擬部20から成る模擬車両とし、車両が衝突する障壁としてのバンパ模擬部であるODBをハニカム構造とすることが規定されている。さらに、模擬車両の車体模擬部10およびバンパ模擬部20に関して、平均荷重、潰れ強度、密度、平均荷重到達変位、重量が同図(b)に示すとおり規定されている。
【0020】
そして、図2(a)中のハッチング部分は、バンパ模擬部(ODB)20に対してラップ量40%の範囲を表わし、同図中の領域Qはラップ量40%の範囲における車両のバンパリインフォース3の面積、すなわちバンパ模擬部(ODB)20に対し40%のラップ量でオフセット衝突する際のバンパリインフォース3の面積Sを表わしており、このバンパリインフォース3の面積Sとクラッシュボックス4a,4bの座屈荷重Fをパラメータとしたときに、バンパ模擬部(ODB)20がいわゆるハニカム切れを生じる可能性の有無は、図3に示すように類別されることが実験的に検証された。
【0021】
図3において直線Aより上の領域は、ハニカム切れが生じる領域であって、オフセット衝突時に減速度G特性が不安定で車体のエネルギー吸収量が安定しない領域であり、直線Aと直線Bとの間の領域は、ハニカム切れの生じる可能性が有る領域であって、オフセット衝突時に減速度G特性が安定せず車体のエネルギー吸収量も安定しない領域であり、直線Bより下の領域は、ハニカム切れが生じない領域であり、このときの直線Bの傾きが、図2(b)に示すバンパ模擬部(ODB)20の潰れ強度(MPa)である1.711であることがわかった。
【0022】
そこで、バンパリインフォース3の面積Sを、クラッシュボックス4a,4bをどのように設計するかで定まる既知のクラッシュボックス4a,4bの座屈荷重Fを、図2(b)に示すバンパ模擬部(ODB)20潰れ強度(=1.711)で除した値以上、つまり
S≧F÷1.711 ……(1)式
を満たすように設定する。
【0023】
このとき、バンパリインフォース3の面積Sが小さ過ぎると、バンパ模擬部(ODB)20に対して面積の小さ過ぎるバンパリインフォース3が突き刺さるようになって、ハニカム切れ(ハニカム構造のODBのせん断)が生じ、車両の車体のエネルギー吸収量が安定しないのに対し、式(1)を満たすように、バンパリインフォース3の面積Sを設定すると、そのときのバンパリインフォース3の面積Sとクラッシュボックス4a,4bの座屈荷重Fとで特定される点は、図3の関係図中の直線Bよりも下の領域に位置し、ハニカム切れが生じることはない。また、上記式(1)の等号が成立するようにバンパリインフォース3の面積Sを設定すれば、バンパリインフォース3はハニカム切れが生じない最小面積となり、バンパリインフォース3の面積Sが大き過ぎることによりバンパリインフォース3が大型化してコストアップや重量化を招くことを防止できる。
【0024】
また、上記式(1)により算出されるバンパリインフォース3の面積Sを、荷重の静動比に基づいて算出される値である0.85に設定するのが最も望ましく、0.85に設定すると、そのときのバンパリインフォース3の面積Sとクラッシュボックス4a,4bの座屈荷重Fとで特定される点は図3中の直線Bの傾きを15%引き上げた破線Cより下の領域に位置することになり、バンパリインフォース3の面積Sを問題のない範囲でより一層小さくすることができる。
【0025】
したがって、上記した実施形態によれば、ハニカム構造を有する障壁であるバンパ模擬部(ODB)20に対してオフセット衝突する際における障壁とのラップ量40%に対応するバンパリインフォース3の面積Sを、クラッシュボックス4a,4bの既知の座屈荷重Fをバンパ模擬部(ODB)20の潰れ強度(=1.711)で除した値以上に設定することにより、車速に関係なく安定してクラッシュボックス4a,4bを潰すことが可能で、車両のオフセット衝突時におけるエアバッグ作動用のGセンサ6の出力値を安定させることが可能な低コストでかつ軽量のバンパリインフォース3を得ることができる。
【0026】
また、オフセット衝突時におけるGセンサ6の出力値が安定化することで、エアバッグの制御ロジックの信頼性の向上を図ることができる。
【0027】
さらに、オフセット衝突時に、車体前部の特にクラッシュボックス4a,4bが滑らかに潰れて車体構造の衝撃吸収態様が安定するため、乗員に対してごつごつとした衝撃感を与えるのを緩和することができる。
【0028】
また、バンパリインフォース3の面積Sを荷重の静動比に基づいて算出される値(=0.85)に設定することにより、バンパリインフォース3の面積Sを問題のない範囲でより一層小さくすることが可能になり、さらなる低コスト化、軽量化を図ることができる。
【0029】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0030】
また、上記した実施形態では、Gセンサ6をエアバッグ作動用として説明したが、衝突時にシートベルトを巻き上げて乗員を衝撃から保護する際のシートベルトの巻き上げ動作の開始用としてしようする場合であっても、本発明を同様に実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
1a,1b …フロントサイドメンバ
3 …バンパリインフォース
4a,4b …クラッシュボックス
20 …バンパ模擬部(障壁)
図1
図2
図3