特許第6192402号(P6192402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京東方科技集團股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特許6192402多結晶シリコン薄膜及びその製造方法、アレイ基板、表示装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192402
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】多結晶シリコン薄膜及びその製造方法、アレイ基板、表示装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20170828BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20170828BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170828BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20170828BHJP
   G02F 1/1368 20060101ALI20170828BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H01L21/20
   H01L21/205
   H01L29/78 627G
   H01L29/78 618A
   G02F1/1368
   H01L31/04 400
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-147409(P2013-147409)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2014-72518(P2014-72518A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2016年6月20日
(31)【優先権主張番号】201210375067.4
(32)【優先日】2012年9月29日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510280589
【氏名又は名称】京東方科技集團股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BOE TECHNOLOGY GROUP CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】孫 拓
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08129215(US,B1)
【文献】 特開2005−142567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
G02F 1/1368
H01L 21/205
H01L 21/336
H01L 29/786
H01L 31/18
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接するグラフェン層及び非晶質シリコン層を形成するステップであって、前記グラフェン層がp型グラフェン層である、ステップ(1)と、
前記p型グラフェン層を備えた非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成し、多結晶シリコン薄膜を得るステップ(2)と、
を備えることを特徴とする多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)は、
ベース層上に非晶質シリコン層を形成し、そして、非晶質シリコン層上にグラフェン層を形成することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)の後に、
アッシング工程によってグラフェン層を除去するステップ(3)をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(3)におけるアッシング工程は、酸素ドライエッチングによってグラフェン層をアッシングすることを特徴とする請求項3に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)は、
ベース層上にグラフェン層を形成し、そして、グラフェン層上に非晶質シリコン層を形成することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)におけるグラフェン層は、2〜10層のグラフェンであり、非晶質シリコン層の厚みは40〜50nmであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成する方法は、高温炉法、パルス快速熱焼結法、エキシマレーザアニール法の中のいずれか1つであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)において、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成する方法は、エキシマレーザアニール法であり、そのエキシマレーザのエネルギー密度は、50〜500mJ/cmであり、レーザの出力周波数は3〜10Hzであることを特徴とする請求項に記載の多結晶シリコン薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン薄膜及びその製造方法、アレイ基板、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン薄膜は、結晶シリコン材料及び非晶質シリコン材料のメリットを同時に有する新しい機能性材料であり、単結晶シリコン材料の移動度が高いメリットと、非晶質シリコン材料の大面積で低いコストで製造されるメリットとを同時に有する。よって、多結晶シリコン薄膜材料に対する研究は、ますます注目されている。
【0003】
多結晶シリコン薄膜は、複数の大きさが異なり、且つ、結晶面の配向が異なる小さい結晶粒子からなる。結晶粒子のサイズは、一般的に、数十から数百nmであり、大結晶粒子のサイズは数μmにもなる。大結晶粒子からなる多結晶シリコン薄膜は、ブロック状材料の移動度に接近する高い移動度を有する。多結晶シリコン薄膜は、例えば、表示工業用の多結晶シリコンの薄膜トランジスタ(TFT、Thin Film Transistor)などの半導体デバイスの製造に広く応用され、また、例えば、微小電子機械システムや、集積回路にも応用され、さらに、SOI(Silicon on Insulator)材料の代わり等にも応用できる。表示工業では、特に、AMOLED(Active Matrix Organic Light−emitting Device、アクティブマトリクス式有機EL)や、TFT−LCD(TFT液晶ディスプレイ)製品おいて、ディスプレイの性能を向上するために、一般的に、TFTによって画素駆動回路及びその周辺駆動回路を製造する。これらのTFTは、その大部分が多結晶シリコン薄膜を活性層とし、駆動回路及び表示素子をともにコストが低い透明ガラス基板上に製造する。これは、多結晶シリコン薄膜の高い性能を要求する。また、多結晶シリコン薄膜は、長波帯において高い感光性を有し、可視光線を効果的に吸収でき、光の照射の安定性を有するとともに、非晶質シリコン材料の光誘発性劣化現像を有しないため、理想的な太陽電池材料である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目下のところ、多結晶シリコン薄膜の製造方法は、直接堆積法及び間接結晶化法を備える。直接堆積法は、化学気相成長法、液相成長法及びホットフィラメント法等を備える。間接結晶化法は、エキシマレーザアニール法(ELA)、固相晶析法、金属誘起結晶化法等を備える。これらの方法で形成される多結晶シリコンの結晶粒子が非常に小さいため、これらの方法で形成される多結晶シリコン薄膜の特性があまりよくない。今のところ、多結晶シリコン薄膜の製造において、最もよく使用するのはエキシマレーザアニール法であり、該方法が低温ポリシリコン薄膜の製造技術である。然し、エキシマレーザはパルス型レーザであり、パルスごとのエネルギー密度がそれぞれ異なるため、エキシマレーザはそのエネルギー密度の制御が容易ではない。これによって、最終的に結晶粒子の大きさが不一致になり、多結晶シリコン薄膜の均一性がよくなくなり、且つ製造された多結晶シリコン薄膜の重複性、安定性及び均一性が劣化され、大面積の結晶化が難しくなり、高性能の多結晶シリコン材料を生産する要求を満たせなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明実施形態は、多結晶シリコン薄膜及びその製造方法、アレイ基板、表示装置を提供する。該製造方法で製造される多結晶シリコン薄膜の多結晶シリコンの結晶粒子は、大きさが均一で、配列が順序正しく、且つ結晶粒子が大きくて、多結晶シリコン薄膜は、重複性、安定性、及び均一性がよい。
【0006】
本発明の一方面は、多結晶シリコン薄膜の製造方法であって、隣接するグラフェン層及び非晶質シリコン層を形成するステップ(1)と、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成し、多結晶シリコン薄膜を得るステップ(2)と、を備える。
【0007】
例えば、前記ステップ(1)は、ベース層上に非晶質シリコン層を形成し、そして、非晶質シリコン層上にグラフェン層を形成する。
【0008】
例えば、前記ステップ(2)の後に、アッシング工程によってグラフェン層を除去するステップ(3)をさらに備える。
【0009】
例えば、前記ステップ(3)において、アッシング工程は、酸素ドライエッチングによってグラフェン層をアッシングする。
【0010】
例えば、前記ステップ(1)は、ベース層上にグラフェン層を形成し、そして、グラフェン層上に非晶質シリコン層を形成する。
【0011】
例えば、前記ステップ(1)に形成されたグラフェン層は、p型グラフェン層である。
【0012】
例えば、前記ステップ(1)において、グラフェン層は、2〜10層のグラフェンであり、非晶質シリコン層の厚みは40〜50nmである。
【0013】
例えば、前記ステップ(2)において、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成する方法は、高温炉法、パルス快速熱焼結法、エキシマレーザアニール法の中のいずれか1つである。
【0014】
例えば、前記ステップ(2)において、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成する方法は、エキシマレーザアニール法であり、そのエキシマレーザのエネルギー密度は、50〜500mJ/cmであり、レーザの出力周波数は3〜10Hzであり、エキシマレーザは、XeCl、ArF、KrFまたはXeF等の紫外光源から選択する。
【0015】
本発明の他の方面は、前記製造方法のいずれか1つで製造される多結晶シリコン薄膜を提供する。
【0016】
本発明の他の方面は、薄膜トランジスタアレイを備えるアレイ基板を提供する。前記薄膜トランジスタアレイの活性領域は、前記多結晶シリコン薄膜から形成される。
【0017】
本発明の他の方面は、前記アレイ基板を備える表示装置を提供する。
例えば、前記表示装置は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。
【0018】
以下、本発明の実施形態を一層明確に説明するために、実施形態の図面を簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1a】本発明の実施形態3における、グラフェンの補助でエキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図1b】本発明の実施形態3における、グラフェンの補助でエキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図1c】本発明の実施形態3における、グラフェンの補助でエキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図1d】本発明の実施形態3における、グラフェンの補助でエキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図2a】エキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図2b】エキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
図2c】エキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、当業者が本発明の技術案をさらによく理解できるように、図面及び実施形態を組み合わせて本発明に対して詳しく説明する。
【0021】
なお、ここで使わられる技術用語または科学技術用語は、特別に定義されていない場合、当業者が理解できる一般的な意味を有する。「1つ」、「1」または「該」などの類似する用語は数量を限定するものではなく、少なくとも1つがあることを示すものである。「備える」または「含む」等の用語は、「備える」または「含む」の前に記載された素子または部材が、「備える」または「含む」の後に挙げられる素子または部材及びそれらと同等のものをカバーすることを指し、他の素子または部材を排除しない。
【0022】
本発明の第一方面は、隣接するグラフェン層及び非晶質シリコン層を形成するステップと、非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成し、多結晶シリコン薄膜を得るステップと、を備える多結晶シリコン薄膜の製造方法を提供する。
【0023】
該方法で製造される多結晶シリコン薄膜は、無公害及び欠陥密度が低いメリットを有し、得られた多結晶シリコンの結晶粒子は、大きさが均一で、順序正しく配列して、且つ結晶粒子が大きい。該多結晶シリコン薄膜は、表面平坦度がよい。該方法で製造される多結晶シリコン薄膜は、重複性、安定性、及び均一性がよく、大面積の結晶化が可能であり、高性能の多結晶シリコン材料を製造する要求を満たせる。
【0024】
実施形態1−(a)
本実施形態は、多結晶シリコン薄膜の製造方法であって、以下のステップを備える。
【0025】
(1)多結晶シリコン薄膜に用いるベース層4を形成する。
多結晶シリコン薄膜のベース層4は、従来または将来の方法によって製造することができるが、本発明はこれに限らない。
まず、ベースを提供する。このベースは、ガラス基板、プラスチックベース又は他の透明ベースであってもよいし、他の不透明ベース、例えばシリコンベースであってもよい。そして、ベース上にバッファー層を形成する。このバッファー層は、例えば、障壁層及び応力バッファー層からなる。障壁層は、窒化ケイ素層であってもよい。該窒化ケイ素層は、一般的に、化学気相成長法によって形成される。応力バッファー層は、一般的に、酸化ケイ素である。該酸化ケイ素層は、一般的に、化学気相成長法によって形成され、その膜層構造が緊密する。このベース及びバッファー層により多結晶シリコン薄膜のベース層4を構成する。なお、該ベース層4はこれに限らず、多結晶シリコン薄膜における他の機能層または他の補助層を備えてもよい。
【0026】
(2)ベース層4を形成した後、ベース層4上にグラフェン層2を形成する。
グラフェン層2は、剥離製造法によって形成されてもよい。剥離製造法では、まず、化学気相成長法によって、金属ベース上に多層のグラフェンを連続的に成長し、そして、金属ベースを犠牲層として腐食して、多層のグラフェンを、貼り付けようとする箇所に転換する。形成されたグラフェン層2は、2〜10層のグラフェンであることが好ましい。グラフェン層において、各層は1つの炭素原子の厚みを有する。なお、グラフェン層2は、他の方法で製造されてもよく、本発明はこれに限らない。
【0027】
(3)グラフェン層2を形成した後、グラフェン層2上に非晶質シリコン層を形成する。
形成された非晶質シリコン層の厚みは、40〜50nmであってもよい。非晶質シリコン層は、例えば、プラズマ化学気相成長法によって形成されてもよい。なお、非晶質シリコン層は、低圧化学気相成長法、物理気相成長法、スパッタリング法などによって形成されてもよい。また、後続のレーザ製造工程において水素爆発を避けるように、必要によって、非晶質シリコン層に対して脱水素を行ってもよい。
【0028】
(4)非晶質シリコン層を形成した後、エキシマレーザアニール法によって、非晶質シリコン層を結晶化して多結晶シリコン層を形成する。
結晶化するに用いられるエキシマレーザのレーザビームとして、ArF(波長が193nmで、パルス幅が17nsである)、KrF(波長が248nmで、パルス幅が23nsである)、XeCl(波長が308nmで、パルス幅が30nsである)、XeF(波長が351nmで、パルス幅が20nsである)等の紫外光源を用いてもよい。グラフェン層上に非晶質シリコン層を形成したサンプルを真空室内に放置し、ベースの温度が200〜300℃であることが好ましく、気圧が2×10-4〜8×10-4Paであることが好ましい。エキシマレーザによって非晶質シリコンを融化し、エキシマレーザのエネルギー密度が50〜500mJ/cmであることが好ましく、レーザの出力周波数が3〜10Hzであることが好ましい。
【0029】
図1a〜1dは、グラフェンの補助でエキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンで多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
【0030】
図1aに示すように、レーザビームで照射する過程で、エキシマレーザが非晶質シリコン層を照射するエネルギー密度を制御して、レーザビームに照射された非晶質シリコン領域を高温溶融状態にする。これによって、シリコン原子1の表面エネルギーが低下される。このとき、シリコン原子1は、配列が無秩序である。
【0031】
図1bに示すように、アニールする場合、温度の低下に伴って、溶融状態のシリコン原子1とグラフェン層2との接触境界位置で、グラフェン層2の均一な配列が、無秩序に配列しているシリコン原子1の結晶を誘発し、グラフェン層2に接触する無秩序に配列するシリコン原子1は、グラフェン層2における炭素原子によって、グラフェン層2のある特定な結晶方向に沿って配列するようになり、結晶して形成された多結晶シリコン3の結晶面の間隔は、模範とするグラフェン層2が対応するある特定の結晶方向の炭素原子の間隔に接近する。
【0032】
図1cに示すように、結晶体に形成された多結晶シリコン3は、溶融状態のシリコン原子1を結晶するように引き続いて誘導し、かつ溶融状態のシリコン原子1をこの順序で絶えずに誘導する。
【0033】
図1dに示すように、グラフェン中に規則正しく配列した炭素原子間の間隔と、誘導されて形成された多結晶シリコン3の結晶面の間隔との間にまだ小さい差異が存在するため、結晶を誘導することで形成された多結晶シリコン3の結晶面の間隔と、グラフェン中の炭素原子間の結晶面の間隔との差異がある程度に累積すると、1つの多結晶シリコン3が、2つまたはそれ以上の結晶粒子に分裂する。
【0034】
該方法で製造される多結晶シリコン薄膜における多結晶シリコン3は、無公害であり、
欠陥密度が低いメリットを有し、結晶粒子が均一な大きさを有して順序正しく配列し、且つ大きくなって、さらによい表面平坦度を有する。
【0035】
比較例として、図2a〜2cは、従来技術における、エキシマレーザアニール法によって多結晶シリコンを生成する微視的な過程を示す概略図である。
【0036】
図2aに示すように、レーザビームが照射した後、エキシマレーザが非晶質シリコン層を照射するエネルギー密度を制御し、レーザビームに照射される非晶質シリコン領域を高温溶融状態にする。これによって、シリコン原子1の表面エネルギーが低下される。このとき、シリコン原子1が無秩序に配列する。
【0037】
図2bに示すように、アニールするとき、温度の低下に伴って、無秩序状態のシリコン原子1の一部が無秩序に結晶され、図2cに示すように、一部が無秩序に結晶された多結晶シリコン3の誘導によって、一つ一つの結晶粒子が形成される。このとき、結晶粒子も無秩序に配列する。
【0038】
従来のエキシマレーザアニール法によって生成された多結晶シリコン3は、その無秩序程度が高い。多結晶シリコン3の電子移動度は、非晶質シリコンより10〜20倍高いが、この無秩序の多結晶シリコン3による、結晶粒子内のポテンシャル場の波動性が大きくなって、電子移動度の向上に不利である。
【0039】
本発明の実施形態1−(a)の方法によって形成された一定の方向に配列する多結晶シリコン3は、上記欠点を克服した。
【0040】
実施形態1−(b)
本実施形態のステップ(1)〜(3)は、実施形態1−(a)のステップ(1)〜(3)と同じであり、非晶質シリコン層を結晶化して多結晶シリコン層を形成する方法は、高温炉法であってもよい。即ち、高温炉内において、希ガス雰囲気(例えば、Ar、N等)で、非晶質シリコンを600℃以上で加熱して融化させ、そして、温度を変えてアニールし、シリコン原子1をグラフェンの誘導によって結晶化させて多結晶シリコン3を形成し、多結晶シリコン薄膜を得る。
【0041】
実施形態1−(c)
本実施形態のステップ(1)〜(3)は、実施形態1-(a)のステップ(1)〜(3)と同じであり、パルス快速熱焼結法によって、非晶質シリコンを融化させ、シリコン原子1をグラフェンの誘導によって結晶化させて多結晶シリコン3を形成してもよい。
【0042】
上記実施形態の製造方法によれば、最終に得られる多結晶シリコン薄膜にはグラフェンが備えられる。グラフェンは、単層の炭素原子からなる二次元網状結晶体である。単層のグラフェンは、安定な材料であり、各炭素原子は、六辺形の結晶格子に沿って整列する。該構造は、ベンゼン環の構造に類似して十分に安定するため、炭素原子が再配列されないようにする。グラフェンは、バンドギャップがない半導体であり、キャリヤー移動度がシリコンより10倍高くて、有効質量がゼロであり、且つグラフェン層2が2〜10層だけのグラフェンであるため、多結晶シリコン薄膜の性能にほとんど影響しない。
【0043】
多結晶シリコン薄膜の製造過程において、非晶質シリコンが結晶化して形成された多結晶シリコン3は、一般的にp型半導体であるため、グラフェンもp型半導体であることが好ましい。このようにして、グラフェンの量が少ないが、半導体の機能性及び多結晶シリコンとのマッチングとして、最終に形成された多結晶シリコン薄膜にほとんど影響しない。また、p型グラフェンは、多結晶シリコン薄膜の一部として、多結晶シリコン薄膜の全体の電子移動度を向上することができる。
【0044】
下記表1に示すように、該方法によれば、多結晶シリコン薄膜における多結晶シリコン3の結晶粒子は、そのサイズが100〜300nmであり、電子移動度が100〜300cm・V-1・s-1であり、且つ多結晶シリコン薄膜内のキャリヤーの速度率が大幅に向上され、多結晶シリコン薄膜トランジスタの表現が向上される。
【0045】
上記方法で製造される多結晶シリコン薄膜は、薄膜トランジスタの活性領域に用いられることができ、且つ良好な電子移動度を有し、電流素子をオフする特性を有する。これらの薄膜トランジスタは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイにおける駆動構造に用いられる。
【0046】
なお、上記方法で製造される多結晶シリコン薄膜を薄膜トランジスタの活性領域とする場合、他の構造を形成するステップ、例えば、パターニング工程によってソース・ドレイン電極を形成するステップや、パターニング工程によって多結晶シリコン薄膜を活性領域を形成するステップ等をさらに備えなければならない。これらのステップの具体的な形態は多様であり、当業者が既知する方式であってもよいし、将来に開発する方式であってもよいが、本発明はこれらに限らない。また、本発明による多結晶シリコン薄膜は、他の分野、例えば、太陽電池が用いる多結晶シリコン薄膜等にも応用できる。
【0047】
実施形態2
本実施形態は、多結晶シリコン薄膜の製造方法であって、以下のステップを備える。
【0048】
(1)実施形態1におけるベース層の製造方法によってベース層を製造する。
【0049】
(2)ベース層上に、厚みが40〜50nmであることが好ましい非晶質シリコン層を形成し、非晶質シリコン層上に、厚みが2〜10層であることが好ましいグラフェン層を形成する。
非晶質シリコン層の形成方法や、グラフェン層の形成方法が、実施形態1と同じであってもよい。
【0050】
(3)エキシマレーザアニール法によって非晶質シリコンを結晶化して多結晶シリコンを形成し、多結晶シリコン薄膜を得る。
該ステップに用いられる結晶化方法は、実施形態1と同じであってもよい。グラフェン結晶体は、大規模に製造することができ、且つ結晶体の品質がよい。多結晶シリコン薄膜の製造工程によって製造されるグラフェンは、その厚みが2〜10層だけであるため、このような薄層のグラフェンは、光の透過率が95%も超えるほど高いので、エキシマレーザアニール法に影響しない。
【0051】
(4)アッシング工程によってグラフェン層を除去し、アッシング工程において、酸素ドライエッチングによってグラフェン層をアッシングする。
グラフェン層がn型半導体または導体である場合、非晶質シリコンを結晶化して形成されたp型半導体シリコンとマッチングしないため、グラフェン層を除去することが好ましい。グラフェン層は、1層または複数層の炭素原子だけであるため、一番軽いアッシングによってグラフェンを完全に除去できる。なお、グラフェン層がp型半導体である場合、グラフェン層と多結晶シリコン層との間にやはりある程度の差異が存在することを考えて、アッシング法によって除去することが好ましい。例えば、該アッシング工程において、酸素ドライエッチングによってグラフェン層をアッシングする。該酸素ドライエッチング工程は、プラズマエッチング装置内の酸素流量及び全体のエッチング時間を調整することで、グラフェン層のエッチングを実現するとともに、多結晶シリコン層に傷付けない目的に達することができる。
【0052】
なお、多結晶シリコン薄膜の製造方法は、ベース層上にグラフェン層を形成し、そして、グラフェン層上に非晶質シリコン層を形成し、非晶質シリコン層上にグラフェン層を形成することを備えてもよい。
【0053】
下記の表1に、本実施形態における3つの実施例を示している。該表1には、1つの比較例1も示している。実施例1〜3は、本実施形態の方法によって多結晶シリコン薄膜を製造し、比較例1は、従来の方法によって多結晶シリコン薄膜を製造し、そして、得られる多結晶シリコン薄膜の結晶粒子のサイズ及び電子移動度を測定する。各実施例及び比較例において用いられるベースは、いずれもガラス基板であり、ガラス基板上に、化学気相成長法によって、窒化ケイ素障壁層及び酸化ケイ素応力バッファー層が形成され、多結晶シリコン薄膜を形成する方法はいずれもエキシマレーザアニール法である。各実施例と比較例との区別は、グラフェン層2の厚み、多結晶シリコン層の厚み、ベース層4上に先に堆積される層、グラフェン層2がアッシングされるかどうか、及びエキシマレーザアニールのパラメータ等である。例えば、ベース層4上に、グラフェン層2を先に堆積してもよいし、非晶質シリコン層を先に堆積してもよい。下記の表1に詳しいことを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の他の方面は、実施例1〜3により製造される多結晶シリコン薄膜を提供する。該多結晶シリコン薄膜は、薄膜トランジスタの製造だけでなく、太陽電池材料の製造にも応用でき、他の半導体デバイスの製造にも広く応用できる。
【0056】
本発明のさらに他の方面は、薄膜トランジスタアレイを備えるアレイ基板を提供する。該薄膜トランジスタアレイの活性層は、実施例1〜3のいずれかの方法によって製造される多結晶シリコン薄膜から形成される。該薄膜トランジスタアレイは、例えば、画素アレイに対応し、薄膜トランジスタは、画素ユニットのスイッチング素子とすることができる。
【0057】
本発明は、上記アレイ基板を備える表示装置をさらに提供する。例えば、該表示装置は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。
【0058】
なお、上記実施形態は、本発明の原理を説明するための例示的な実施形態だけであり、本発明がこれらに限らない。
【符号の説明】
【0059】
1 シリコン原子
2 グラフェン層
3 多結晶シリコン
4 ベース層
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c