【文献】
Onur Cakmak et al.,"A Dynamic Model of an Overhung Rotor with Deep-Groove Ball Bearings",The 1st Joint International Conference on Mutibody System Dynamics,2010年 3月25日,http://web.itu.edu.tr/sanliturk/Publications/imsd2010_21_paper.pdf,URL,http://web.itu.edu.tr/sanliturk/Publications/imsd2010_21_paper.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記振動波形を算出するステップにおいて、前記励振力の履歴は、前記振動特性モデルにおける前記転がり軸受の回転輪の中心軸上の少なくとも1点に付与される、請求項1に記載の軸受装置の振動解析方法。
前記振動波形を算出するステップにより算出された振動波形を用いて、前記転がり軸受を異常と判定するための振動の大きさのしきい値を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の軸受装置の振動解析方法。
前記変位を算出するステップは、前記転がり軸受の動力学解析を行なう動力学解析プログラムによって、前記転がり軸受の回転軸が回転したときに前記損傷により前記転がり軸受に生じる前記変位の履歴を算出するステップを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の軸受装置の振動解析方法。
前記変位の履歴を算出するステップにおいて、前記転がり軸受の固定輪は、負荷圏内にある転動体の位置の軸受ラジアル方向において、線形ばねを介して前記筐体と接続されているものとする、請求項4に記載の軸受装置の振動解析方法。
前記振動波形を算出するステップにおいて、前記変位の履歴は、負荷圏内にある転動体に対して、前記負荷圏内の各転動体が支持する力の配分に応じて付与される、請求項4に記載の軸受装置の振動解析方法。
前記変位算出部は、前記転がり軸受の動力学解析を行なう動力学解析プログラムによって、前記転がり軸受の回転軸が回転したときに前記損傷により前記転がり軸受に生じる前記変位の履歴を算出する、請求項9に記載の軸受装置の振動解析装置。
前記変位を算出するステップは、前記転がり軸受の動力学解析を行なう動力学解析プログラムによって、前記転がり軸受の回転軸が回転したときに前記損傷により前記転がり軸受に生じる前記変位の履歴を算出するステップを含む、請求項11に記載の転がり軸受の状態監視装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による振動解析方法によって解析される軸受装置10のモデルを示した図である。
図1を参照して、軸受装置10は、転がり軸受20と、ハウジング30とを備える。この実施の形態1では、転がり軸受20が玉軸受の場合について説明される。転がり軸受20は、内輪22と、複数の転動体24と、外輪26とを含む。
【0025】
内輪22は、回転軸12に外嵌され、回転軸12と一体的に回転する。外輪26は、内輪22の外周側に設けられ、ハウジング30に内嵌される固定輪である。複数の転動体24の各々は、球形の玉であり、図示されない保持器よって互いの間隔が保持されつつ内輪22と外輪26との間に介在する。ハウジング30は、図示されないボルトによってベース40に固設される。
【0026】
なお、このモデルでは、固定輪である外輪26は、複数の転動体24のうち負荷圏内にある転動体の位置の軸受ラジアル方向において、線形ばねkF1〜kF3を介してハウジング30と接続されているものとする。また、ハウジング30とベース40との結合部については、ボルト結合等を模して線形ばねkH1,kH2に質量m1,m2がそれぞれ作用するものとする。
【0027】
(軸受装置10の振動解析方法の説明)
図2は、この実施の形態1による振動解析装置のハードウェア構成の要部を示すブロック図である。
図2を参照して、振動解析装置100は、入力部110と、インターフェース(I/F)部120と、CPU(Central Processing Unit)130と、RAM(Random Access Memory)140と、ROM(Read Only Memory)150と、出力部160とを含む。
【0028】
CPU130は、ROM150に格納された各種プログラムを実行することにより、後ほど詳細に説明される振動解析方法を実現する。RAM140は、CPU130によってワークエリアとして利用される。ROM150は、振動解析方法の手順が示されたフローチャート(後述)の各ステップを含むプログラムを記録する。入力部110は、キーボードやマウス、記録媒体、通信装置等、外部からデータを読込むための手段である。出力部160は、ディスプレイや、記録媒体、通信装置等、CPU130による演算結果を出力するための手段である。
【0029】
図3は、
図2に示した振動解析装置100の構成を機能的に示す機能ブロック図である。
図1とともに
図3を参照して、振動解析装置100は、接近量変化量算出部205と、動力学解析モデル設定部210と、変位算出部220と、振動特性算出部230と、振動波形算出部240と、前述の入力部110および出力部160とを含む。
【0030】
この振動解析装置100による軸受装置10の振動予測は、概略的には2つの部分に分けられる。すなわち、一つは、転がり軸受20の転動体24と軌道面(内輪22の外周面または外輪26の内周面)との接触部に生じる損傷によって、転がり軸受20の回転軸が回転したときに転がり軸受20に生じる内外輪間(内輪22と外輪26との間)の変位の履歴を予測するものである。もう一つは、転がり軸受20に生じる上記変位に基づく励振力がハウジング30を伝わることによって、軸受装置10に据え付けられた振動センサ(図示せず)の設置場所に生じる振動波形を予測するものである。
【0031】
入力部110からは、転がり軸受20の諸元データ、転動体24と軌道面との接触部に与える損傷の形状データ(以下「損傷データ」とも称する。)、潤滑条件、運転条件(回転速度など)、転がり軸受20に結合される回転軸12およびハウジング30の諸元データ等が入力される。入力部110は、Webインターフェースを用いたデータ入力手段であってもよいし、所定のフォーマットに従って上記データが記録された記録媒体からデータを読込む読込手段や、所定のフォーマットに従って外部から送信されてくる上記データを受信する通信装置等であってもよい。
【0032】
接近量変化量算出部205は、転動体24およびその軌道に関するデータ、ならびに損傷データを入力部110から受ける。そして、接近量変化量算出部205は、転動体24と軌道面との接触を解析する接触解析プログラムによって、与えられた損傷により生じる転動体24と軌道面との間の接近量の変化量を算出する。接触解析プログラムは、たとえば有限要素法(FEM)などを用いて接触部の接触圧力分布を算出し、損傷の有無に応じた転動体24と軌道面との間の接近量の変化量を算出するものである。
【0033】
接触解析には、接触部の塑性変形まで考慮した弾塑性解析を用いるのが好ましい。転動体24と軌道面との接触部に損傷があるときは、局所的に塑性変形する程度に面圧が高くなる場合があるからである。なお、計算を簡易化するために、接近量変化量算出部205は、接触解析に弾性解析を用いて、損傷により生じる転動体24の弾性接近量の変化量を算出してもよい。
【0034】
動力学解析モデル設定部210は、入力部110から入力される上記各種データを受け、接近量変化量算出部205によって算出される接近量の変化量を受ける。そして、動力学解析モデル設定部210は、転がり軸受20の動特性を考慮した動力学解析を行なうための、転がり軸受20の動力学解析モデルを設定する。動力学解析とは、転がり軸受20の構成要素(内輪22、転動体24および外輪26)毎に運動方程式を立て、連立常微分方程式を時間軸に沿って積分していく手法であり、動力学解析によって、時々刻々と変化する各構成要素間の干渉力や各構成要素の挙動等をリアルタイムにシミュレーションすることができる。
【0035】
この動力学解析モデルにおいて、接近量変化量算出部205によって算出される接近量の変化量が与えられる。また、転がり軸受20の各構成要素は剛体とし、転がり軸受20に結合される回転軸12およびハウジング30は、所定の質量および振動モードを有する弾性体とする。回転体(内輪、転動体24および回転軸12)の慣性力、および各構成要素に作用する重力の影響も、モデルに反映される。
【0036】
変位算出部220は、動力学解析モデル設定部210により設定された動力学解析モデルを用いて、入力部110から入力される損傷データによって与えられる軌道と転動体との間の接近量の変化によって転がり軸受20の回転時に転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴を算出する。より詳しくは、変位算出部220は、上記動力学解析モデルを用いて、入力部110から入力される運転条件に従って回転軸12を運転したときに転動体24と軌道面との間の接近量の変化により転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴を算出する。
【0037】
一方、振動特性算出部230は、軸受装置10が有する振動モードを解析するモード解析プログラムによって、軸受装置10の振動伝達特性を示す振動特性モデルを算出する。この実施の形態1では、いわゆる理論モード解析によって、軸受装置10の振動特性を示す振動モードが振動特性モデルとして算出される。モード解析とは、種々の振動は複数の固有モードが合成されているものとして、その固有モードや固有振動数を求めるものである。理論モード解析とは、構造体(弾性体)がどのような振動モード(固有値情報)を有しているかを数理的に求めるものである。具体的には、理論モード解析は、対象物の形状、質量分布、剛性分布および拘束条件を決めて対象物(軸受装置10)のモデルを作成し、そのモデルの質量特性を表わす質量行列と剛性特性を表わす剛性行列とから固有値および固有値ベクトルを理論解析または数値計算により解くことによって、対象物の固有振動数および固有モードを求めるものである。
【0038】
振動特性算出部230は、軸受装置10の形状、材料の密度、ヤング率およびポアソン比等の諸元データを入力部110から受ける。また、転動体24は線形ばねとして扱われ、振動特性算出部230は、転動体24、およびハウジング30とベース40との結合部(たとえばボルト結合部)の各々を線形ばねとして扱うためのばね情報を入力部110から受ける。そして、振動特性算出部230は、モード解析プログラム(理論モード解析プログラム)によって、軸受装置10の振動特性モデル(振動モード)を算出する。
【0039】
なお、上記の振動特性モデルにおいて、実際の振動特性をより忠実に再現するために、ボルト結合部(たとえばハウジング30とベース40との結合部)の結合面のうちボルト近傍の結合面だけが結合された状態とするのがよい。実際のボルト結合部では、ボルト近傍の結合面において高い圧縮力で結合されており、ボルトから離れた結合面では、比較的小さい力で結合されているからである。この傾向は、ボルトによって結合される部品の剛性が低いほど顕著である。結合状態とするボルト近傍の形状の一例として、ボルト穴径を内径とし、かつ、ボルト頭径を外径とする、ボルトの回転軸と同心円のリング形状とすることができる。
【0040】
振動波形算出部240は、振動特性算出部230により算出された振動特性モデルを用いて過渡応答解析を行なうことによって、軸受装置10上の指定位置(たとえば振動センサの設置予定場所)における振動波形を算出する。より詳しくは、振動波形算出部240は、転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴を変位算出部220から受け、その受けた内外輪間の変位に内外輪間のばね定数(以下「軸受ばね定数」とも称する。)を乗算することによって、転がり軸受20に生じる励振力の履歴を算出する。そして、振動波形算出部240は、振動特性算出部230により算出された振動特性モデルに上記励振力の履歴を与え、そのときの振動波形を算出する。
【0041】
なお、軸受ばね定数は、たとえば以下のように算出される。すなわち、ヘルツ理論を用いて、内輪22と転動体24との接触部でのばね定数(「第1ばね定数」と称する。)、および外輪26と転動体24との接触部でのばね定数(「第2ばね定数」と称する。)が算出される。次いで、第1ばね定数と第2ばね定数とを直列ばねのばね定数とし、一つの転動体24に対するばね定数(「転動体ばね定数」と称する。)が算出される。そして、負荷圏内にある転動体についての転動体ばね定数を合成することによって、軸受ばね定数が算出される。
【0042】
ここで、この実施の形態1では、振動波形算出部240において内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴は、振動特性算出部230により算出される振動特性モデルにおいて、転がり軸受20の内輪22の中心軸上の少なくとも1点に与えられる。これにより、動力学解析プログラムを用いた転がり軸受20の内外輪間の変位およびそれに基づく励振力の予測と、モード解析プログラムを用いた軸受装置10の振動伝達特性の予測とを組合わせて、精緻な振動解析を行なうことが可能となる。
【0043】
出力部160には、振動波形算出部240によって算出された振動波形が出力される。出力部160は、上記振動波形を表示するディスプレイであってもよいし、所定のフォーマットに従って上記振動波形のデータを記録媒体に書込む書込手段や、所定のフォーマットに従って上記振動波形のデータを外部へ送信する通信装置等であってもよい。
【0044】
上記のように、この実施の形態1では、動力学解析プログラムを用いて算出される転がり軸受20の内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって、転がり軸受20に生じる励振力の履歴が算出され、その算出された励振力の履歴を振動特性モデルに与えることによって応答解析(振動解析)が行なわれる。このような手法により、たとえば摩耗による損傷等のように損傷部が緩やかな形状変化を示すために、転動体が損傷部を通過する際に生じる励振力が小さい場合においても、実際に生じる内外輪間の変位に基づいて応答解析(振動解析)を行なうことが可能となる。
【0045】
図4は、
図2に示した振動解析装置100により実行される振動解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図4を参照して、まず、振動解析装置100は、転動体24およびその軌道(内輪22の外周面または外輪26の内周面)に関するデータ、ならびに転がり軸受20に与える損傷データを入力部110から読込む(ステップS10)。
【0046】
次いで、振動解析装置100は、予め準備された接触解析プログラムに従って、ステップS10において入力された損傷により生じる転動体24と軌道面との間の接近量の変化を算出する(ステップS20)。次いで、振動解析装置100は、転がり軸受20についての動力学解析を実行するための各種データを読込む(ステップS30)。具体的には、振動解析装置100は、転がり軸受20の諸元データおよび運転条件、ならびに回転軸12およびハウジング30の質量およびばね特性等のデータを入力部110から読込み、さらにステップS20において算出された接近量の変化量を読込む。
【0047】
続いて、振動解析装置100は、ステップS30において読込まれた各種データに基づいて転がり軸受20の動力学解析モデルを設定する。そして、振動解析装置100は、その動力学解析モデルを用いた動力学解析プログラムに従って、ステップS10において入力された運転条件に従って回転軸12を運転したときに上記接近量の変化により転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴を算出する(ステップS40)。
【0048】
次いで、振動解析装置100は、軸受装置10の理論モード解析を実行するための各種データを読込む(ステップS50)。具体的には、振動解析装置100は、軸受装置10の形状、材料の密度、ヤング率およびポアソン比等の諸元データを読込む。また、振動解析装置100は、転動体24、およびハウジング30とベース40との結合部(たとえばボルト結合部)の各々を線形ばねとして扱うためのばね情報も読込む。なお、これらの各データは、入力部110から読込むようにしてもよいし、予め内部データとして有していてもよい。
【0049】
ステップS50において各データが入力されると、振動解析装置100は、予め準備された理論モード解析プログラムに従って、軸受装置10のモード情報を算出する(ステップS60)。詳しくは、振動解析装置100は、ステップS50において入力された各データに基づいて、理論モード解析プログラムを用いて軸受装置10の振動モード(固有振動数および固有モード)を算出する。
【0050】
次いで、振動解析装置100は、軸受装置10の過渡応答解析(モード解析法)を実行するための各種データを読込む(ステップS70)。具体的には、振動解析装置100は、ステップS60において算出されたモード情報、ステップS20において算出された接近量の変化量、およびステップS40において算出された内外輪間の変位の履歴等を読込む。
【0051】
そして、振動解析装置100は、予め準備された過渡応答解析(モード解析法)プログラムに従って、軸受装置10の振動波形を算出する(ステップS80)。詳しくは、振動解析装置100は、ステップS40において算出された内外輪間の変位(履歴)に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴を、ステップS60において算出された振動モードを有する軸受装置10の内輪22の中心軸上の少なくとも1点に与えることによって、ステップS40において算出された内外輪間の変位により軸受装置10に生じる振動波形を算出する。
【0052】
以上のようにして、振動解析装置100において、転がり軸受20の内部に損傷が発生したときの軸受装置10の振動波形をシミュレーションすることができる。これにより、振動解析装置100を用いて、転がり軸受の状態(異常)を監視する状態監視装置(Condition Monitoring System)において軸受の異常を判定するためのしきい値を決定することができ、そのしきい値を用いて上記状態監視装置において転がり軸受の異常判定を行なうことができる。
【0053】
以下では、一例として、振動解析装置100の解析結果を用いて決定された軸受異常判定用のしきい値が用いられる転がり軸受の状態監視装置について、風力発電設備における転がり軸受の状態監視装置について代表的に説明する。
【0054】
(風力発電設備の全体構成)
図5は、転がり軸受の状態監視装置が適用される風力発電設備の構成を概略的に示した図である。
図5を参照して、風力発電設備310は、主軸320と、ブレード330と、増速機340と、発電機350と、主軸用軸受装置(以下、単に「軸受装置」と称する。)360と、振動センサ370と、データ処理装置380とを備える。増速機340、発電機350、軸受装置360、振動センサ370およびデータ処理装置380は、ナセル390に格納され、ナセル390は、タワー400によって支持される。
【0055】
主軸320は、ナセル390内に進入して増速機340の入力軸に接続され、軸受装置360によって回転自在に支持される。そして、主軸320は、風力を受けたブレード330により発生する回転トルクを増速機340の入力軸へ伝達する。ブレード330は、主軸320の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸320に伝達する。
【0056】
軸受装置360は、ナセル390内において固設され、主軸320を回転自在に支持する。軸受装置360は、転がり軸受とハウジングによって構成され、ここでは、転がり軸受は玉軸受によって構成されるものとする。振動センサ370は、軸受装置360に固設される。そして、振動センサ370は、軸受装置360の振動を検出し、その検出値をデータ処理装置380へ出力する。振動センサ370は、たとえば、圧電素子を用いた加速度センサによって構成される。
【0057】
増速機340は、主軸320と発電機350との間に設けられ、主軸320の回転速度を増速して発電機350へ出力する。一例として、増速機340は、遊星ギヤや中間軸、高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。なお、特に図示しないが、この増速機340内にも、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。発電機350は、増速機340の出力軸に接続され、増速機340から受ける回転トルクによって発電する。発電機350は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、この発電機350内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0058】
データ処理装置380は、ナセル390内に設けられ、軸受装置360の振動の検出値を振動センサ370から受ける。そして、データ処理装置380は、予め設定されたプログラムに従って、後述の方法により、軸受装置360の振動波形を用いて軸受装置360の異常を診断する。
【0059】
図6は、
図5に示したデータ処理装置380の構成を機能的に示す機能ブロック図である。
図6を参照して、データ処理装置380は、ハイパスフィルタ(以下、「HPF(High Pass Filter)」と称する。)410,450と、実効値演算部420,460と、エンベロープ処理部440と、記憶部480と、診断部490とを含む。
【0060】
HPF410は、軸受装置360の振動の検出値を振動センサ370から受ける。そして、HPF410は、その受けた検出信号につき、予め定められた周波数よりも高い信号成分を通過させ、低周波成分を遮断する。このHPF410は、軸受装置360の振動波形に含まれる直流成分を除去するために設けられたものである。なお、振動センサ370からの出力が直流成分を含まないものであれば、HPF410を省略してもよい。
【0061】
実効値演算部420は、直流成分が除去された軸受装置360の振動波形をHPF410から受ける。そして、実効値演算部420は、軸受装置360の振動波形の実効値(「RMS(Root Mean Square)値」とも称される。)を算出し、その算出された振動波形の実効値を記憶部480へ出力する。
【0062】
エンベロープ処理部440は、軸受装置360の振動の検出値を振動センサ370から受ける。そして、エンベロープ処理部440は、その受けた検出信号にエンベロープ処理を行なうことによって、軸受装置360の振動波形のエンベロープ波形を生成する。なお、エンベロープ処理部440において演算されるエンベロープ処理には、種々の公知の手法を適用可能であり、一例として、振動センサ370を用いて測定される軸受装置360の振動波形を絶対値に整流し、ローパスフィルタ(LPF(Low Pass Filter))に通すことによって、軸受装置360の振動波形のエンベロープ波形が生成される。
【0063】
HPF450は、軸受装置360の振動波形のエンベロープ波形をエンベロープ処理部440から受ける。そして、HPF450は、その受けたエンベロープ波形につき、予め定められた周波数よりも高い信号成分を通過させ、低周波成分を遮断する。このHPF450は、エンベロープ波形に含まれる直流成分を除去し、エンベロープ波形の交流成分を抽出するために設けられたものである。
【0064】
実効値演算部460は、直流成分が除去されたエンベロープ波形、すなわちエンベロープ波形の交流成分をHPF450から受ける。そして、実効値演算部460は、その受けたエンベロープ波形の交流成分の実効値(RMS値)を算出し、その算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を記憶部480へ出力する。
【0065】
記憶部480は、実効値演算部420により算出された軸受装置360の振動波形の実効値と、実効値演算部460により算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値とを同期させて時々刻々記憶する。この記憶部480は、たとえば、読み書き可能な不揮発性のメモリ等によって構成される。
【0066】
診断部490は、記憶部480に時々刻々記憶された、軸受装置360の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値を記憶部480から読出し、その読出された2つの実効値に基づいて軸受装置360の異常を診断する。詳しくは、診断部490は、軸受装置360の振動波形の実効値とエンベロープ波形の交流成分の実効値との時間的変化の推移に基づいて、軸受装置360の異常を診断する。
【0067】
すなわち、実効値演算部420により算出される軸受装置360の振動波形の実効値は、エンベロープ処理を行なっていない生の振動波形の実効値であるので、たとえば、軌道輪の一部に剥離が発生し、その剥離箇所を転動体が通過するときのみ振幅が増加するインパルス的な振動に対しては値の増加が小さいけれども、軌道輪と転動体との接触部の面荒れや潤滑不良時に発生する持続的な振動に対しては値の増加が大きくなる。
【0068】
一方、実効値演算部460により算出されるエンベロープ波形の交流成分の実効値は、軌道輪の面荒れや潤滑不良時に発生する持続的な振動に対しては値の増加が小さく、場合によっては増加しないけれども、インパルス的な振動に対しては値の増加が大きくなる。そこで、軸受装置360の振動波形の実効値とエンベロープ波形の交流成分の実効値とを用いることによって、一方の実効値だけでは検出できない異常を検出可能とし、より正確な異常診断を実現可能とする。
【0069】
図7〜
図10は、振動センサ370を用いて測定される軸受装置360の振動波形を示した図である。なお、この
図7〜
図10では、主軸320(
図5)の回転速度が一定のときの振動波形が示されている。
【0070】
図7は、軸受装置360に異常が発生していないときの軸受装置360の振動波形を示した図である。
図7を参照して、横軸は時間を示し、縦軸は、振動の大きさを表わす指標で、ここでは一例として振動の加速度を示す。
【0071】
図8は、軸受装置360の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生したときに見られる軸受装置360の振動波形を示した図である。
図8を参照して、軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生すると、加速度が増加し、かつ、加速度の増加した状態が持続的に生じる。振動波形に目立ったピークは発生していない。したがって、このような振動波形について、軸受装置360に異常が発生していないときの振動波形の実効値(実効値演算部420(
図6)の出力)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(実効値演算部460(
図6)の出力)と比較すると、エンベロープ処理を行なっていない生の振動波形の実効値が増加し、エンベロープ波形の交流成分の実効値はそれ程増加しない。
【0072】
図9は、軸受装置360の軌道輪に剥離が発生したときの初期段階における軸受装置360の振動波形を示した図である。
図9を参照して、剥離異常の初期段階は、軌道輪の一部に剥離が発生している状態であり、その剥離箇所を転動体が通過するときに大きな振動が発生するので、パルス的な振動が軸の回転に応じて周期的に発生する。剥離箇所以外を転動体が通過しているときは、加速度の増加は小さい。したがって、このような振動波形について、軸受装置360に異常が発生していないときの振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値と比較すると、エンベロープ波形の交流成分の実効値が増加し、生の振動波形の実効値はそれ程増加しない。
【0073】
図10は、剥離異常の末期段階に見られる軸受装置360の振動波形を示した図である。
図10を参照して、剥離異常の末期段階は、軌道輪の全域に剥離が転移している状態であり、異常の初期段階に比べて、加速度が全体的に増加し、加速度の振幅に対する変動は弱まる。したがって、このような振動波形について、剥離異常の初期段階における振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値と比較すると、生の振動波形の実効値が増加し、エンベロープ波形の交流成分の実効値は低下する。
【0074】
図11は、軸受装置360の軌道輪の一部に剥離が生じ、その後、軌道輪全域に剥離が転移していったときの軸受装置360の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。なお、この
図11および以下に説明する
図12では、主軸320の回転速度が一定のときの各実効値の時間的変化が示されている。
【0075】
図11を参照して、曲線L1は、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値の時間的変化を示し、曲線L2は、エンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示す。剥離が発生する前の時刻t1では、振動波形の実効値(L1)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(L2)のいずれも小さい。なお、時刻t1における振動波形は、上述の
図7に示した波形のようになる。
【0076】
軸受装置360の軌道輪の一部に剥離が発生すると、
図9で説明したように、エンベロープ波形の交流成分の実効値(L2)が大きく増加し、一方、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(L1)はそれ程増加しない(時刻t2近傍)。
【0077】
さらにその後、軌道輪の全域に剥離が転移すると、
図10で説明したように、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(L1)が大きく増加し、一方、エンベロープ波形の交流成分の実効値(L2)は低下する(時刻t3近傍)。
【0078】
また、
図12は、軸受装置360の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生したときの軸受装置360の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。
図12を参照して、
図11と同様に、曲線L1は、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値の時間的変化を示し、曲線L2は、エンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示す。
【0079】
軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生する前の時刻t11では、振動波形の実効値(L1)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(L2)のいずれも小さい。なお、時刻t11における振動波形は、上述の
図7に示した波形のようになる。
【0080】
軸受装置360の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生すると、
図8で説明したように、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(L1)が増加し、一方、エンベロープ波形の交流成分の実効値(L2)の増加は見られない(時刻t12近傍)。
【0081】
このように、振動センサ370を用いて測定された軸受装置360の振動波形の実効値、および振動センサ370を用いて測定された振動波形にエンベロープ処理を行なうことによって生成されるエンベロープ波形の交流成分の実効値に基づいて、軸受装置360の異常を診断することによって、従来の周波数分析による手法に比べて正確な異常診断を実現することができる。
【0082】
そして、このような異常診断を実行するにあたり、異常診断を行なうための振動のしきい値を適切に設定する必要があるところ、そのようなしきい値を上述の振動解析装置100を用いて決定することができる。すなわち、振動解析装置100において、軸受装置360のモデルを与えるとともに軸受の損傷データを与え、軸受装置360において振動センサ370が設置されている場所における振動波形を予測することができる。そして、その振動波形の実効値、および振動波形にエンベロープ処理を行なうことによって生成されるエンベロープ波形の交流成分の実効値を算出することによって、状態監視装置における異常判定のしきい値を適宜決定することができる。
【0083】
なお、主軸320(
図5)の回転速度が変化すると、軸受装置360の振動の大きさが変化する。一般的には、主軸320の回転速度の増加に伴ない軸受装置360の振動は増加する。そこで、軸受装置360の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の各々を主軸320の回転速度で正規化し、その正規化された各実効値を用いて軸受装置360の異常診断を実行するようにしてもよい。
【0084】
図13は、データ処理装置の他の構成を機能的に示す機能ブロック図である。
図13を参照して、データ処理装置380Aは、
図6に示したデータ処理装置380の構成において、修正振動度算出部430と、修正変調度算出部470と、速度関数生成部500とをさらに含む。
【0085】
速度関数生成部500は、回転センサ510(
図5において図示せず)による主軸320の回転速度の検出値を受ける。なお、回転センサ510は主軸320の回転位置の検出値を出力し、速度関数生成部500において主軸320の回転速度を算出するものとしてもよい。そして、速度関数生成部500は、実効値演算部420により算出される軸受装置360の振動波形の実効値を主軸320の回転速度Nで正規化するための速度関数A(N)、および実効値演算部460により算出されるエンベロープ波形の交流成分の実効値を主軸320の回転速度Nで正規化するための速度関数B(N)を生成する。一例として、速度関数A(N),B(N)は、次式によって表わされる。
【0086】
A(N)=a×N
-0.5 …(1)
B(N)=b×N
-0.5 …(2)
ここで、a,bは、実験等によって予め定められる定数であり、異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。
【0087】
修正振動度算出部430は、軸受装置360の振動波形の実効値を実効値演算部420から受け、速度関数A(N)を速度関数生成部500から受ける。そして、修正振動度算出部430は、速度関数A(N)を用いて、実効値演算部420によって算出された振動波形の実効値を主軸320の回転速度で正規化した値(以下「修正振動度」と称する。)を算出する。具体的には、実効値演算部420によって算出された振動波形の実効値Vrと速度関数A(N)とを用いて、修正振動度Vr*は、次式によって算出される。
【0089】
ここで、Vraは、時間0〜TにおけるVrの平均値を示す。
そして、修正振動度算出部430は、式(3)により算出された修正振動度Vr*を記憶部480へ出力する。
【0090】
修正変調度算出部470は、エンベロープ波形の交流成分の実効値を実効値演算部460から受け、速度関数B(N)を速度関数生成部500から受ける。そして、修正変調度算出部470は、速度関数B(N)を用いて、実効値演算部460によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を主軸320の回転速度で正規化した値(以下「修正変調度」と称する。)を算出する。具体的には、実効値演算部460によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値Veおよび速度関数B(N)を用いて、修正変調度Ve*は、次式によって算出される。
【0092】
ここで、Veaは、時間0〜TにおけるVeの平均値を示す。修正変調度算出部470は、式(4)により算出された修正変調度Ve*を記憶部480へ出力する。
【0093】
そして、時々刻々と記憶部480に記憶された修正振動度Vr*および修正変調度Ve*が診断部490によって読出され、その読出された修正振動度Vr*および修正変調度Ve*の時間的変化の推移に基づいて、診断部490により軸受装置360の異常診断が行なわれる。
【0094】
なお、上記において、回転センサ510は、主軸320に取り付けられてもよいし、軸受装置360に回転センサ510が組み込まれた回転センサ付軸受を軸受装置360に用いてもよい。
【0095】
このような構成により、軸受装置360の振動波形の実効値を回転速度で正規化した修正振動度Vr*と、エンベロープ波形の交流成分の実効値を回転速度で正規化した修正変調度Ve*とに基づいて異常を診断するので、回転速度の変動による外乱を除去してより正確な異常診断が実現される。
【0096】
以上のように、この実施の形態1においては、振動解析装置100において、解析対象の転がり軸受20の損傷データが入力され、動力学解析プログラムによって、転がり軸受20の回転軸が回転したときに損傷により転がり軸受に生じる内外輪間の変位の履歴が算出される。そして、その算出された内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴が、モード解析プログラムにより算出される軸受装置10の振動特性モデルに与えられ、軸受装置10の所定位置(たとえば振動センサ設置場所)における振動波形が算出される。これにより、軸受内部に損傷が発生した場合の軸受装置10の振動波形を事前に予測することができる。したがって、この実施の形態1によれば、上記の予測結果を用いて、たとえば、風力発電設備310に適用される転がり軸受(軸受装置360)の状態監視装置において、転がり軸受の異常判定を行なうためのしきい値を適切に決定することができる。
【0097】
一例として、風力発電設備の初期の正常状態において測定される修正振動度および修正変調度をそれぞれVr*0およびVe*0とする。そして、
図11で説明した剥離発生の判定については、修正変調度の初期状態からの増加率Ie(=Ve*/Ve*0)が修正変調度の剥離判定用のしきい値CeFlakeを超えた後に、修正振動度の初期状態からの増加率Ir(=Vr*/Vr*0)が修正振動度の剥離判定用のしきい値CrFlakeを超えたことを確認することによって、剥離の発生が判定される。また、
図12で説明した面荒れや潤滑不良の判定については、修正変調度の増加率Ieが修正変調度の面荒れ判定用のしきい値CeSurfを超えない状態で、修正振動度の増加率Irが修正振動度の面荒れ判定用のしきい値CrSurfを超えたことを確認することによって、面荒れや潤滑不良の発生が判定される。この場合のしきい値は、CeFlake,CrFlake,CeSurf,CrSurfの4つとなる。
【0098】
なお、上記のしきい値およびそれを用いた異常判定は一例であり、より複雑なパターン認識などを用いてもよい。また、温度センサの併用により面荒れと潤滑不良との区別を行なうようにしてもよい。いずれにしても、以上のように振動の増加状態で異常判定を行なうためのしきい値を用いる必要がある。
【0099】
また、振動解析装置100において、与えられた損傷により生じる内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴は、転がり軸受20の内輪22の中心軸上の少なくとも1点に与えられる。これにより、動力学解析プログラムを用いた転がり軸受20の内外輪間の変位およびそれに基づく励振力の予測と、モード解析プログラムを用いた軸受装置10の振動伝達特性の予測とを組合わせて、精緻な振動解析を実行することができる。
【0100】
[変形例]
上記においては、軸受装置10の振動特性を解析する際の過渡応答解析については、モード解析法を用いるものとしたが、モード解析法に代えて直接積分法を用いてもよい。直接積分法とは、算出された転動体と軌道面との間の接近量の変化量や内外輪間の変位の履歴を軸受装置10の有限要素モデルに与えて逐次積分していく手法であり、振動解析装置100が十分な演算処理能力を有している場合に有効である。
【0101】
図14は、この変形例による振動解析装置100により実行される振動解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図14を参照して、このフローチャートは、
図4に示したフローチャートにおいて、ステップS50〜S80に代えてステップS90〜S94を含む。
【0102】
すなわち、ステップS40において、転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴が算出されると、振動解析装置100は、軸受装置10の諸元データ(軸受装置10の形や材料密度、ヤング率、ポアソン比等を含む。)に基づいて、軸受装置10の有限要素モデルを算出する(ステップS90)。次いで、振動解析装置100は、軸受装置10の過渡応答解析(直接積分法)を実行するための各種データを読込む(ステップS92)。具体的には、振動解析装置100は、ステップS90において算出された有限要素モデル、ステップS20において算出された接近量の変化量、およびステップS40において算出された内外輪間の変位の履歴等を読込む。
【0103】
そして、振動解析装置100は、予め準備された過渡応答解析(直接積分法)プログラムに従って、軸受装置10の振動波形を算出する(ステップS94)。詳しくは、振動解析装置100は、ステップS40において算出された内外輪間の変位(履歴)に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴を、ステップS90において算出された有限要素モデルによって示される軸受装置10の内輪22の中心軸上の少なくとも1点に与えることによって、ステップS40において算出された内外輪間の変位の履歴により軸受装置10に生じる振動波形を算出する。
【0104】
[実施の形態2]
上記の実施の形態1およびその変形例では、転がり軸受20が玉軸受によって構成されるものとしたが、この実施の形態2では、転がり軸受20がころ軸受によって構成される場合について説明する。
【0105】
転がり軸受20がころ軸受によって構成される場合には、いわゆるスライス法を用いた動力学解析モデルによって、転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴が算出される。スライス法とは、ころと軌道面との接触部をころの軸方向に沿って微小な幅に分割して得られる微小幅部分毎に接触荷重を算出することを特徴とするものである。
【0106】
図15は、実施の形態2による振動解析装置100により実行される振動解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図15を参照して、まず、振動解析装置100は、転動体24およびその軌道に関するデータ、ならびに転がり軸受20に与える損傷データを入力部110から読込む(ステップS110)。
【0107】
次いで、振動解析装置100は、動力学解析を実行するための各種データを読込む(ステップS120)。具体的には、振動解析装置100は、転がり軸受20の諸元データ、損傷形状および運転条件、ならびに回転軸12およびハウジング30の質量およびばね特性等のデータを入力部110から読込む。
【0108】
そして、ステップS120において各種データが読込まれると、振動解析装置100は、ころと軌道面との接触部のスライス毎に、損傷形状から、ころと軌道面との間の接近量の変化量へ換算する(ステップS125)。ここでは、スライス内での荷重と損傷形状の転がり方向の幅とを主な変数として上記換算が行なわれる。この変換には、円筒物体どうしの接触において、荷重と接近量の変化量との関係に及ぼす凹み部の転がり方向の幅の影響を事前に検討して関数化しておけばよい。そして、振動解析装置100は、各スライスでの接近量の変化量が入力された上記スライス法を用いた動力学解析プログラムに従って、ステップS120において入力された運転条件に従って回転軸12を運転したときに、ステップS110において入力された損傷により転がり軸受20に生じる内外輪間の変位の履歴を算出する(ステップS130)。
【0109】
なお、以降のステップS140〜S170の処理は、
図4に示したステップS50〜S80の処理と基本的に同じであるので、説明を繰返さない。
【0110】
以上のように、この実施の形態2によれば、転がり軸受20がころ軸受によって構成される場合においても、軸受内部に損傷が発生した場合の軸受装置10の振動波形を事前に予測することができる。その結果、風力発電設備等に適用される転がり軸受の状態監視装置において、転がり軸受の異常判定を行なうためのしきい値を適切に決定することができる。
【0111】
[実施の形態3]
この実施の形態3では、転がり軸受の状態監視装置において転がり軸受の異常判定を行なうためのしきい値まで振動解析装置が算出する。すなわち、この実施の形態3に示される振動解析装置は、予測される振動波形に基づいて、状態監視装置における異常判定用の振動のしきい値まで決定するものである。
【0112】
図16は、実施の形態3による振動解析装置の構成を機能的に示す機能ブロック図である。なお、以下では、実施の形態1をベースに代表的に説明するが、実施の形態2についても、同様の機能追加が可能である。
【0113】
図16を参照して、振動解析装置100Aは、
図3に示した実施の形態1による振動解析装置100の構成において、異常しきい値設定部260と、ベース振動入力部270とをさらに含む。
【0114】
ベース振動入力部270は、転がり軸受20が正常であるときの振動波形を示すベース振動波形を生成する。なお、ベース振動波形としては、同じ形式の軸受の実測値が好ましいが、同種の装置の測定値からの予想値であってもよい。このベース振動波形に振動波形算出部240から受ける振動波形を加算したものが、異常が生じた場合に想定される振動波形である。
【0115】
異常しきい値設定部260は、軸受装置10において振動センサが取り付けられる場所における振動波形の算出値を振動波形算出部240から受ける。そして、異常しきい値設定部260は、振動波形算出部240から受ける振動波形およびベース振動入力部270から受けるベース振動波形を用いて、転がり軸受20を異常と判定するための振動の大きさのしきい値を決定する。一例として、異常しきい値設定部260は、異常が生じた場合に想定される振動波形のデータから、振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値を算出し、それらの算出結果に基づいて上記しきい値を決定する。
【0116】
なお、特に図示しないが、異常しきい値設定部260から変位算出部220に対して、種々の大きさの損傷データを与え、損傷データ毎の振動波形を算出することによって異常判定用のしきい値を決定するようにしてもよい。
【0117】
図17は、実施の形態3による振動解析装置100Aにより実行される振動解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図17を参照して、このフローチャートは、
図4に示したフローチャートにおいて、ステップS82をさらに含む。
【0118】
この実施の形態3においては、ステップS80において、軸受装置10において振動センサが取り付けられる場所における振動波形が算出される。そして、ステップS80において振動波形が算出されると、振動解析装置100Aは、その算出された振動波形を用いて、状態監視装置において転がり軸受20を異常と判定するための振動の大きさのしきい値を決定する(ステップS82)。
【0119】
なお、特に図示しないが、上記の実施の形態2についても同様の手法により、振動解析装置により予測される振動波形に基づいて、状態監視装置における異常判定用の振動のしきい値を決定することができる。
【0120】
以上のように、この実施の形態3によれば、振動解析装置100(100A)において、転がり軸受の状態監視装置において転がり軸受の異常判定を行なうためのしきい値を決定することができる。
【0121】
なお、上記の各実施の形態においては、動力学解析を用いて、転がり軸受に生じる内外輪間の変位の履歴を算出し、内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって、応答解析(振動解析)に与える励振力の履歴を算出するものとしたが、計算の簡易化のために、動力学解析を用いずに、静的な接触解析の計算結果に基づいて励振力の履歴を算出してもよい。
【0122】
具体的には、接触解析によって算出される転動体24と軌道面との間の接近量の変化量を軌道面の幾何学的な形状崩れ量(たとえば凹み量)とし、この形状崩れ量を考慮した転がり軸受全体の静的な力のつり合い解析に基づいて内外輪間の変位量が算出される。そして、この内外輪間の変位量に軸受ばね定数を乗算することによって得られる値を転がり軸受に生じる励振力の最大値とし、この値を転動体が損傷部を通過する時間の中での励振力の最大値として励振力の波形(履歴)が算出される。なお、波形の形状には、正弦波形状や、三角波形状、台形波形状、矩形波形状等の種々の形状を採用し得る。
【0123】
また、上記の各実施の形態においては、
図1に示したように、固定輪である外輪26は、複数の転動体24のうち負荷圏内にある転動体の位置の軸受ラジアル方向において、線形ばねkF1〜kF3を介してハウジング30と接続されているものとしたが、負荷圏内にある転動体間の中心における軸受ラジアル方向においてハウジング30とばね接続されているものとしてもよい。
【0124】
また、上記の各実施の形態1,2およびそれらに基づく実施の形態3においては、与えられた損傷により生じる内外輪間の変位に軸受ばね定数を乗算することによって得られる励振力の履歴は、転がり軸受20の内輪22の中心軸上の少なくとも1点に与えられるものとしたが、負荷圏内にある転動体24に対して、負荷圏内の各転動体24が支持する力の配分に応じて上記励振力の履歴を付与するようにしてもよい。
【0125】
また、上記においては、一例として、振動解析装置の解析結果を用いて決定される異常判定用のしきい値は、風力発電設備における転がり軸受の状態監視装置に適用されるものとしたが、その他の設備、たとえば鉄道車両における転がり軸受の状態監視装置等に適用することも可能である。
【0126】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。