(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192450
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】射出成形方法および成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20170828BHJP
B29C 45/56 20060101ALI20170828BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/56
B29C45/26
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-186120(P2013-186120)
(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2015-51602(P2015-51602A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(72)【発明者】
【氏名】池田 直也
(72)【発明者】
【氏名】大月 隆史
(72)【発明者】
【氏名】中村 鷹彦
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−1582(JP,A)
【文献】
特開平4−246534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16
B29C 45/26
B29C 45/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とを型閉めすることで前記両金型間にキャビティを形成し、前記キャビティに射出ユニットから溶融樹脂を射出することで所定の成形品の成形を行う射出成形方法において、
前記キャビティ内で硬質溶融樹脂の基材層を形成する工程と、
前記キャビティ内に前記基材層よりも硬度の低い溶融樹脂を射出する工程と、
前記固定金型に対して前記可動金型を型閉め方向に移動させ、射出した硬度の低い前記溶融樹脂を圧縮して表皮層を前記基材層に積層して形成する工程と、
前記固定金型に対して前記可動金型を前記型閉め方向と反対の型開き方向に移動させた後に前記表皮層を発泡させる工程と、
発泡させた前記表皮層内に発泡性溶融樹脂を前記射出ユニットから射出する工程と、
前記固定金型に対して前記可動金型を前記型閉め方向に移動させ発泡させた前記表皮層内に射出した前記発泡性溶融樹脂を圧縮する工程と、
前記固定金型に対して前記可動金型を前記型開き方向に移動させた後、圧縮した前記発泡性溶融樹脂を発泡させて前記表皮層に内包されたクッション層を形成する工程と
を備えることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記各層の溶融樹脂を、前記射出ユニットにより前記成形品の前面側から射出することを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金型と可動金型とを型閉めすることで両金型間に形成されるキャビティに、射出ユニットから溶融樹脂を射出することで所定の成形品の成形を行う射出成形方法および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のインストルメントパネル(以下、インパネという)やドアトリム、ピラー、バンパー等の樹脂製品を射出成形する場合、固定金型と可動金型とを型閉めしてキャビティを形成し、このキャビティ内に射出ユニットから溶融樹脂を射出して成形している(特許文献1参照)。
【0003】
特に、インパネのように乗員の手が触れる機会が多い成形品の場合、表面の手触り感をよくするために、表面をソフトにしてしっとり感やシボ加工によるザラザラ感が出るように、成形品を基材層とクッション層とを有する多層構造にする工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−73178号公報(段落0023および
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の成形方法では、基材層を成形する金型とクッション層を成形する金型が異なるため、クッション層を含む樹脂成形品を成形するには複数種類の金型が必要になり製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0006】
本発明は、1種類の金型でクッション層を含む成形品を成形でき、コストの低減を図れるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の射出成形方法は、固定金型と可動金型とを型閉めすることで前記両金型間にキャビティを形成し、前記キャビティに射出ユニットから溶融樹脂を射出することで所定の成形品の成形を行う射出成形方法において、前記キャビティ内で硬質溶融樹脂の基材層を形成する工程と、前記キャビティ内
に前記基材層よりも硬度の低い溶融樹脂
を射出する工程と、前記固定金型に対して前記可動金型を型閉め方向に移動させ、射出した硬度の低い前記溶融樹脂を圧縮して表皮層を前記基材層に積層して形成する工程と、
前記固定金型に対して前記可動金型を前記型閉め方向と反対の型開き方向に移動させた後に前記表皮層を発泡させる工程と、発泡させた前記表皮層内に発泡性溶融樹脂を前記射出ユニットから射出する工程と、前記固定金型に対して前記可動金型を前記型閉め方向に移動させ発泡させた前記表皮層内に射出した前記発泡性溶融樹脂を圧縮する工程と、前記固定金型に対して前記可動金型を前記型開き方向に移動させた後、圧縮した前記発泡性溶融樹脂を発泡させて前記表皮層に内包されたクッション層を
形成する工程とを備えることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
また、前記各層の溶融樹脂を、前記射出ユニットにより前記成形品の前面側から射出するのが望ましい(請求項
2)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、固定金型と可動金型とを型閉めして形成したキャビティに射出ユニットから硬質溶融樹脂の基材層を形成し、キャビティ内に基材層よりも硬度の低い溶融樹脂を射出して
圧縮した後に発泡して基材層に表皮層を積層して形成し、
発泡された表皮層内に発泡性軟質溶融樹脂を射出して
圧縮して発泡し表皮層に内包された状態でクッション層を形成するため、1種類の金型により、基材層、表皮層およびクッション層を有する成形品を射出成形することができ、製造コストの低減を図ることが可能になる。
さらに、表皮層を形成する際に、キャビティ内に基材層よりも硬度の低い溶融樹脂を射出して圧縮することにより、表皮層を広く行き渡らせて薄くすることができる。また、表皮層内部に発泡性溶融樹脂を射出して圧縮した後に発泡させるため、表皮層内部に空洞を形成することができ、表皮層内にクッション層を形成するときにクッション層となる樹脂を広範囲に行き渡らせることができ、成形品全体にむらなくクッション層を形成することができる。
【0013】
また、請求項
2に係る発明によれば、成形品の前面側から表皮層内にクッション層の発泡性軟質溶融樹脂を射出すると、そのクッション層が発泡する際に表皮層を押しのけるようにして発泡性軟質溶融樹脂が成形品の前面側からその反対側の後部に向かって滑らかに広がるため、表皮層の硬い部分をクッション性の不要な成形品後部に追いやることができ、ユーザの手や体が触れやすい成形品の前面の手触り感を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る射出成形方法による各工程を示す断面図である。
【
図2】
図1における一工程の具体例を示す斜視図である。
【
図3】(a),(b)は
図1の各工程を経て成形されたインパネ(成形品)の異なる工程における断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る射出成形方法による各工程を示す断面図である。
【
図5】
図4の各工程を経て成形された成形品を示し、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明に係る射出成形方法の第1実施形態について、
図1ないし
図3を参照して詳細に説明する。
【0017】
例えば、車両のインパネを成形品として射出成形する場合に、1種類の金型により、
図1に示すような複数の工程を経て成形する。
【0018】
図1(a)に示すように、固定金型1に対して可動金型2を図中のX矢印の型閉め方向に移動して型閉めし、双方の金型1,2間にインパネの形状に準じた形状を有する1つのキャビティ3を形成する。このとき、可動金型2には、回転駆動部により回転されるスクリューおよび該スクリューを内蔵したシリンダを有する第1、第2射出ユニット5a,5bが配設され、キャビティ3内にいずれかの射出ユニット5a,5bから溶融樹脂が射出されるようになっている。
【0019】
そして、
図1(b)に示すように、第1射出ユニット5aからキャビティ3内に、硬質溶融樹脂として例えば曲げ弾性率2000、JIS規格のデュロメータD硬度80の硬質ポリプロピレン(PP)を射出して基材層10を形成し、続いて同図(c)に示すように、コアバックすなわち可動金型2を図中のY矢印の型開き方向に可動して型開きをし、表皮層形成用のキャビティ3aを形成し、同図(d)に示すように、第1の射出ユニット5aからキャビティ3a内に基材層10と同等の硬度またはそれよりも硬度の低い例えばPP(ポリプロピレン)、熱可塑性エラストマー(TPE)或いはポリエチレン(PE)などの溶融樹脂11aをキャビティ3aの一部に射出する。このとき、PP,TPE,PEなどの溶融樹脂は、JIS規格のデュロメータA硬度が50以上であるのが望ましい。
【0020】
次に、
図1(e)に示すように、可動金型2を型閉め方向である図中のX矢印方向に可動し、両金型1,2の型閉めを行ってキャビティ3aに射出したPP,TPE,PEなどの溶融樹脂11aを圧縮することにより、溶融樹脂11aをキャビティ3a全体に行き渡らせて表皮層11を形成した後、同図(f)に示すように、可動金型2を型開き方向である図中のY矢印方向に可動して、同図(g)に示すように、表皮層11を発泡させて表皮層11内部に空洞を形成する。
【0021】
続いて、
図1(h)に示すように、発泡させた表皮層11の内部に第2射出ユニット5bから、JIS規格のデュロメータA硬度10〜70の軟質PP(ポリプロピレン)或いはTPE等の発泡性軟質溶融樹脂12aを射出し、同図(i)に示すように、可動金型2を型閉め方向である図中のX矢印方向に可動し、表皮層11をできるだけ薄くし、かつ、発泡性軟質溶融樹脂12aを表皮層11の内部全般に広げるために、表皮層11を圧縮する。
【0022】
そして、
図1(j)に示すように、可動金型2を型開き方向である図中のY矢印方向に可動し、発泡性軟質溶融樹脂12aを発泡、膨張させるためのキャビティ3bを形成した後、同図(k)に示すように、発泡性軟質溶融樹脂12aを発泡させて表皮層11に内包された状態でクッション層12を形成し、その後同図(l)に示すように、可動金型2を型開き方向である図中のY矢印方向に可動して両金型1,2の型開きを行い、成形品としてのインパネ14を取り出す。
【0023】
なお、各層10,11,12それぞれの溶融樹脂材の具体例として、基材層10には硬質PPが好ましく、表皮層11には軟質PP、オレフィン系エラストマー(TPO)が好ましく、クッション層12にはスチレン系エラストマー(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)が好ましい。
【0024】
ところで、
図1(a)に示す固定金型1と可動金型2とを型閉めして形成される成形品であるインパネ14の形状に準じた形状を有するキャビティ3は、例えば
図2に示すように、インパネ14の前面部の領域31とインパネ14の上面部の領域32とからなり、ユーザの手や体が触れる機会の多いインパネ14の前面部のユーザ座席側からその反対側に向かってクッション層12の発泡性軟質溶融樹脂12aが表皮層11を押しのけて広がり、表皮層11の硬い部分をクッション性の不要なインパネ14の後部に追いやるべく、射出ユニット5a,5bをインパネ14の前面部の領域31側に配設し、このインパネ14の前面部の領域31側から溶融樹脂を射出するのが望ましい。
【0025】
このように、表皮層11用の溶融樹脂11aを発泡することにより、
図3(a)に示すように表皮層11内部に鍾乳洞のような空洞11bができ、この空洞11b内に発泡性軟質溶融樹脂12aを射出して発泡させることにより、同図(b)に示すように、薄い表皮層11にクッション層12が挟まれるようにしてインパネ14の末端部にまで広がり、ユーザがインパネ14の前面や上面に触れたときに、薄い表皮層11を通してクッション層12のソフトな手触り感を与えることができる。
【0026】
したがって、上記した第1実施形態によれば、固定金型1と可動金型2とを型閉めして形成したキャビティ3に射出ユニット5aから硬質溶融樹脂の基材層10を形成し、キャビティ3内に基材層10と同等の硬度またはそれよりも硬度の低い溶融樹脂11aを射出して基材層10に表皮層11を積層して形成し、表皮層11内に発泡性軟質溶融樹脂12aを射出してクッション層12を形成してこのクッション層12を発泡させるため、1種類の金型により、基材層10、表皮層11およびクッション層12を有するインパネ14を射出成形することができ、インパネ14の製造コストの低減を図ることができる。
【0027】
また、表皮層11となる発泡性溶融樹脂12aを発泡させるため、表皮層12内部に空洞11bを形成して表皮層11の空洞内にクッション層12を形成するときにクッション層12となる発泡性軟質溶融樹脂12aを広範囲に行き渡らせることができ、インパネ14の全体にほぼむらなくクッション層12を形成することが可能になる。
【0028】
さらに、インパネ14の前面部のユーザ座席が配置される側から表皮層11内にクッション層12の発泡性軟質溶融樹脂12aを射出すると、そのクッション層12が発泡する際に表皮層11を押しのけるようにして発泡性軟質溶融樹脂12aがインパネ14の前面側からその反対側の後部に向かって滑らかに広がるため、表皮層11の硬い部分をクッション性の不要なインパネ14の後部に追いやることができ、インパネ14のユーザの手や体が触れ易い部分の手触り感を良好に保つことができる。
【0029】
(第2実施形態)
本発明に係る射出成形方法の第2実施形態について、
図4および
図5を参照して説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態と相違するのは、表皮層11の発泡工程がない点であり、詳細には以下のとおりである。
【0030】
図4(a)に示すように、固定金型1に対して可動金型2を図中のX矢印の型閉め方向に移動して型閉めし、双方の金型1,2間に成型品の形状に準じた形状を有する1つのキャビティ3を形成し、同図(b)に示すように、第1射出ユニット5aからキャビティ3内に、硬質PPを射出して基材層10を形成し、続いて同図(c)に示すように、コアバックすなわち可動金型2を図中のY矢印の型開き方向に可動して型開きをし、表皮層形成用のキャビティ3aを形成し、同図(d)に示すように、第1の射出ユニット5aからキャビティ3a内に、基材層10と同等の硬度またはそれよりも硬度の低いPP,TPE,PEなどの溶融樹脂11aをキャビティ3aの一部に射出する。
【0031】
次に、
図4(e)に示すように、可動金型2を型閉め方向である図中のX矢印方向に少し可動して溶融樹脂11aを圧縮することにより、溶融樹脂11aをキャビティ3a全体に行き渡らせて表皮層11を形成した後、同図(f)に示すように、表皮層11の内部に第2射出ユニット5bから、軟質PP、TPE等の発泡性軟質溶融樹脂12aを射出する。なお、表皮層11は発泡させない。
【0032】
続いて、
図4(g)に示すように、可動金型2を型閉め方向である図中のX矢印方向に可動して表皮層11を少し圧縮して発泡性軟質溶融樹脂12aを表皮層11の内部全体に行き渡らせ、同図(h)に示すように、可動金型2を型開き方向である図中のY矢印方向に少し可動して発泡性軟質溶融樹脂12aを発泡、膨張させるためのキャビティ3bを形成した後、同図(i)に示すように、発泡性軟質溶融樹脂12aを発泡させてクッション層12を表皮層11に内包状態で形成し、その後同図(j)に示すように、可動金型を型開き方向である図中のY矢印方向に可動して両金型1,2の型開きを行い、成形品15を取り出す。
【0033】
このとき、表皮層11を発泡しないため、クッション層12用の発泡性軟質溶融樹脂12aを表皮層11内に射出したときに、
図5(a)に示すように、発泡性軟質溶融樹脂12aが
図3(b)のように成形品15の末端部まで広がらず、成形品15の表皮層11の一部にだけクッション層12が形成されることとなる。このように、インパネほどユーザの手や体が触れる範囲や機会が多くない成形品15については、
図5(b)のように、ユーザの手や体が触れる可能性のある範囲にだけクッション層12を形成すればよいので、表皮層11の発泡工程を省略してさらに製造コストを低減した
図4の方法により形成するのが好ましい。
【0034】
したがって、上記した第2実施形態によれば、インパネ14ほどユーザの手や体が触れる範囲や機会が多くない成形品15については、ユーザの手や体が触れる可能性のある狭い特定範囲(ユーザ座席に近い位置)における良好な手触り感を確保することができ、表皮層11の発泡工程を省略することによって、第1実施形態よりもいっそう製造コストを低減することができる。
【0035】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0036】
例えば第1実施形態では、成形品をインパネ14とした場合について説明したが、これに限らず、ドアトリム、ピラーやバンパー等の射出成形品に本発明を適用できるのはいうまでもない。
【0037】
また、基材層10、表皮層11、クッション層12の各樹脂材は、上記した素材に限定されるものではなく、要するに基材層10の素材は、曲げ弾性率2000、JIS規格のデュロメータD硬度80などの硬質溶融樹脂であればよく、表皮層11の素材は、JIS規格のデュロメータA硬度50以上の溶融樹脂であればよく、クッション層12の素材は、JIS規格のデュロメータA硬度10〜70の発泡性軟質溶融樹脂であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 …固定金型
2 …可動金型
3,3a,3b …キャビティ
5a,5b …射出ユニット
10 …基材層
11 …表皮層
11a …溶融樹脂
12 …クッション層
12a …発泡性軟質溶融樹脂
14 …インパネ(成形品)
15 …成形品