(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192485
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】レーダアンテナおよびレーダアンテナの無線機昇温方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
G01S7/03 220
G01S7/03 230
G01S7/03 248
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-219225(P2013-219225)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-81817(P2015-81817A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】竹厚 善生
(72)【発明者】
【氏名】間正 哲
【審査官】
中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−081856(JP,A)
【文献】
特開2002−071787(JP,A)
【文献】
特開2003−315437(JP,A)
【文献】
特開2000−346518(JP,A)
【文献】
特開2000−065918(JP,A)
【文献】
特開2011−191137(JP,A)
【文献】
実開昭50−090540(JP,U)
【文献】
特開2012−051669(JP,A)
【文献】
特開2005−189534(JP,A)
【文献】
特開2001−359298(JP,A)
【文献】
特開2012−080667(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0187113(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体状のペデスタルの上に輻射器が回転自在に載置され、前記ペデスタル内に前記輻射器を回転させるためのモータと無線機とが配設されているレーダアンテナにおいて、
前記ペデスタル内の温度を測定する温度測定手段と、
起動開始する際に、前記温度測定手段で測定された温度が所定温度未満の場合に、前記輻射器が回転し始める程度の短時間の周期で前記モータの正転および逆転を繰り返すことで、前記モータを発熱させるモータ制御手段と、
を備えることを特徴とするレーダアンテナ。
【請求項2】
筐体状のペデスタルの上に輻射器が回転自在に載置され、前記ペデスタル内に前記輻射器を回転させるためのモータと無線機とが配設されているレーダアンテナの無線機昇温方法であって、
前記ペデスタル内の温度を測定し、
起動開始する際に、前記ペデスタル内の温度が所定温度未満の場合に、前記輻射器が回転し始める程度の短時間の周期で前記モータの正転および逆転を繰り返すことで、前記モータを発熱させて前記無線機を昇温する、
ことを特徴とするレーダアンテナの無線機昇温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶などに搭載されるレーダアンテナ、およびレーダアンテナの無線機を動作可能な温度まで昇温するための、レーダアンテナの無線機昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などに搭載されるレーダアンテナは、筒状で水平方向に延びる輻射器が、筐体状のペデスタル(架台)の上に載置され、ペデスタル内に配設されたモータによって輻射器が、その中央部を中心に回転するようになっている。また、ペデスタル内には、電子回路である無線機(送受信機)が配設され、この無線機によって輻射器から電波を送信したり、輻射器を介して電波を受信したりするようになっている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
さらに、寒冷地においては、周囲の温度が無線機の動作可能な温度よりも低くなり、無線機が動作できなくなる場合がある。このため、このような低温環境・極寒地で使用されることを想定しているレーダアンテナのペデスタル内には、ヒータが設けられ、ヒータによって無線機を動作可能な温度まで昇温している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−081856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、極寒地用のレーダアンテナには、ペデスタル内にヒータを備える必要があるため、費用がかさむばかりでなく、ペデスタルの大型化を招いていた。
【0006】
そこでこの発明は、ヒータを設けることなく、無線機を動作可能な温度まで昇温することが可能な、レーダアンテナおよびレーダアンテナの無線機昇温方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、筐体状のペデスタルの上に輻射器が回転自在に載置され、前記ペデスタル内に前記輻射器を回転させるためのモータと無線機とが配設されているレーダアンテナにおいて、前記ペデスタル内の温度を測定する温度測定手段と、起動開始する際に、前記温度測定手段で測定された温度が所定温度未満の場合に、前記輻射器が回転し始める程度の短時間の周期で前記モータの正転および逆転を繰り返すことで、前記モータを発熱させるモータ制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、温度測定手段によってペデスタル内の温度が測定され、起動開始する際に、ペデスタル内の温度が所定温度未満(無線機が動作可能な温度よりも低い温度)の場合に、モータ制御手段よって輻射器が回転し始める程度の短時間の周期でモータの正転および逆転が繰り返されて、モータが発熱する。そして、モータの発熱によってペデスタル内の温度が上昇して、無線機が動作可能な温度まで昇温される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、筐体状のペデスタルの上に輻射器が回転自在に載置され、前記ペデスタル内に前記輻射器を回転させるためのモータと無線機とが配設されているレーダアンテナの無線機昇温方法であって、前記ペデスタル内の温度を測定し、起動開始する際に、前記ペデスタル内の温度が所定温度未満の場合に、前記輻射器が回転し始める程度の短時間の周期で前記モータの正転および逆転を繰り返すことで、前記モータを発熱させて前記無線機を昇温する、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ペデスタル内の温度を測定し、起動開始する際に、ペデスタル内の温度が所定温度未満(無線機が動作可能な温度よりも低い温度)の場合に、輻射器が回転し始める程度の短時間の周期でモータの正転および逆転を繰り返すことで、モータを発熱させる。そして、モータの発熱によってペデスタル内の温度が上昇して、無線機が動作可能な温度まで昇温される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、2に記載の発明によれば、モータの発熱によって、動作可能な温度まで無線機を昇温することができるため、ペデスタル内にヒータを別途備える必要がない。このため、費用を削減することができるとともに、レーダアンテナ(ペデスタル)の簡素化、小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施の形態に係るレーダアンテナを示す斜視図である。
【
図2】
図1のレーダアンテナのペデスタル内の概略構成ブロック図である。
【
図3】
図1のレーダアンテナのペデスタル内の概略構成図である。
【
図4】
図1のレーダアンテナの起動時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ1を示す斜視図であり、筐体状(ケース状)のペデスタル3の上に輻射器2が回転自在に載置されている。このレーダアンテナ1は、船舶などに搭載されるレーダアンテナで、
図2に示すように、主として、ペデスタル3内にロータリージョイント31と、モータ32と、無線機33と、温度センサ(温度測定手段)34と、モータ制御部(モータ制御手段)35とが設けられている。ここで、レーダアンテナ1は、温度センサ34とモータ制御部35とを除いて、従来のレーダアンテナと同等の構成、機能となっているため、従来と同じ点についての詳細な説明は省略するが、概略次のような構成等となっている。
【0015】
すなわち、輻射器2は、断面が横長(水平方向に長い卵状)の筒状で水平方向に延びて配設される、長尺のレドーム21内に、放射導波管や電波成形板、フレアを含むアンテナ構成部材が配設されている。そして、レドーム21の中央部が、
図3に示すように、ペデスタル3内のロータリージョイント31の上端部に接続されている。
【0016】
このロータリージョイント31は、中空の円柱状の軸で、垂直に延びかつ軸心を中心に回転自在にペデスタル3内に配設されている。また、ロータリージョイント31の中央部には、第1のギヤ41が配設されている。モータ32は、輻射器2を回転させるための電動機であり、正転および逆転が可能で、回転軸(出力軸)321に、第1のギヤ41と噛み合う第2のギヤ42が配設されている。そして、モータ32が起動して回転軸321および第2のギヤ42が回転すると、第1のギヤ41およびロータリージョイント31が回転し、この回転に連動して輻射器2が、その中央部を中心に水平面内で回転するものである。
【0017】
また、無線機33は、外部と電波・信号を送受信するための送受信機で、電子回路で構成され、輻射器2と信号伝送可能に接続されている。すなわち、ロータリージョイント31の下端部に接するように無線機33が配設され、ロータリージョイント31内に配設された導体(図示せず)の一端部が輻射器2に接続され、他端部が無線機33に接続されている。そして、導体を介して輻射器2と無線機33との間で信号が伝送され、無線機33によって輻射器2から電波を送信したり、輻射器2を介して電波を無線機33で受信したりするようになっている。
【0018】
また、無線機33の電子回路は、所定温度以上で動作可能となっている。具体的にこの実施の形態では、−25℃(所定温度)以上で動作可能で、−25℃未満では動作不可となっている。ここで、ペデスタル3は、アルミニウム合金製で、モータ32と無線機33とは接近して配設され、さらに、ペデスタル3内には、ロータリージョイント31、モータ32、無線機33、温度センサ34およびモータ制御部35等が隙間なく配設されている。換言すると、ペデスタル3内の空間が、できるだけ小さく形成されている。これにより、後述するようにしてモータ32が発熱した場合に、熱が良好に無線機33に伝わり、無線機33が良好・迅速に昇温するようになっている。
【0019】
このような従来の構成に対して、温度センサ34とモータ制御部35とが設けられている。温度センサ34は、ペデスタル3内の温度を常時測定する温度測定器である。この温度センサ34は、ペデスタル3内の無線機33の近くに配設され、温度センサ34で測定された温度が、無線機33の温度であるとみなせるようになっている。
【0020】
モータ制御部35は、モータ32を回転制御するためのモータドライバであり、次のような制御を行う。まず、輻射器2が回転停止している状態から輻射器2を回転させる場合、つまり、レーダアンテナ1を起動開始する場合において、温度センサ34で測定された温度が所定温度以上の場合には、起動スイッチがオンされた直後から、所定の回転速度(通常のレーダ回転速度)で輻射器2が回転・正転するようにモータ32を制御する。ここで、所定温度とは、無線機33の電子回路が動作可能な最低温度であり、この実施の形態では、上記のように−25℃である。つまり、ペデスタル3内の温度(無線機33の温度)が−25℃以上であれば、無線機33の電子回路が動作可能なため、直ちに輻射器2を所定の回転速度で回転させるものである。
【0021】
一方、レーダアンテナ1を起動開始する場合において、温度センサ34で測定された温度が所定温度未満の場合、つまり、ペデスタル3内の温度(無線機33の温度)が−25℃未満の場合には、起動スイッチがオンされた時点からペデスタル3内の温度が−25℃以上になるまで、モータ32の正転および逆転を短時間の周期で繰り返すことで、モータ32を発熱させる。ここで、短時間とは、輻射器2が回転し始める程度の短い時間であり、この実施の形態では、輻射器2が回り始める直前の時間であり、例えば、100m秒に設定されている。そして、長尺体である輻射器2を回転させるには大きなトルクを要し、このような短時間の周期でモータ32の正転、逆転を連続的に繰り返すことで、起動トルクを制動トルクとして吸収させ、熱に変換してモータ32を発熱させるものである。
【0022】
ここで、起動トルクが制動トルクとして吸収されてモータ32が発熱すればよく、輻射器2がわずかに回るような短時間の周期でモータ32を正転、逆転させてもよい。また、モータ32の正転、逆転を短時間で繰り返すことでモータ32を発熱させ、輻射器2を回転させないため、モータ32には大きな負荷がかからない。
【0023】
次に、このようにしてモータ32が発熱することで、ペデスタル3内の温度および無線機33の温度が上昇し、ペデスタル3内の温度(無線機33の温度)が−25℃以上に達すると、所定の回転速度で輻射器2が回転・正転するようにモータ32を制御する。このように、ペデスタル3内の温度が−25℃未満の場合には、無線機33の電子回路が動作不可なため、モータ32を発熱させてペデスタル3内の温度(無線機33の温度)を−25℃以上に昇温してから、輻射器2を所定の回転速度で回転させるものである。ここで、ペデスタル3内の温度が−25℃未満の場合には、無線機33の電子回路が動作不可で輻射器2を回転させる必要がないため、モータ32を上記のような発熱目的に使用しても、レーダアンテナ1の運用に支障はない。
【0024】
次に、このような構成のレーダアンテナ1の作用および、このレーダアンテナ1の無線機昇温方法について説明する。
【0025】
輻射器2が回転停止しており、レーダアンテナ1を起動開始する場合、
図4に示すように、温度センサ34でペデスタル3内の温度(無線機33の温度)が測定され(ステップS1)、ペデスタル3内の温度が−25℃以上であれば、上記のように、モータ32によって直ちに輻射器2が所定の回転速度で回転・正転されるとともに、無線機33が動作する(ステップS4)。一方、ペデスタル3内の温度が−25℃未満の場合には、モータ32を短時間だけ正転させ(ステップS2)、その直後にモータ32を短時間だけ逆転させる(ステップS3)、というモータ制御が繰り返して行われることで、モータ32が発熱する。
【0026】
そして、モータ32の発熱によって、ペデスタル3内の温度および無線機33の温度が上昇し、ペデスタル3内の温度が−25℃以上に達するまで、このようなモータ32の正転、逆転および発熱が継続される。その後、ペデスタル3内の温度が−25℃以上に達すると、モータ32によって輻射器2が所定の回転速度で回転・正転されるとともに、無線機33が動作する(ステップS4)ものである。
【0027】
以上のように、本レーダアンテナ1およびレーダアンテナ1の無線機昇温方法によれば、輻射器2を回転させるために必要なモータ32の発熱によって、動作可能な温度まで無線機33を昇温することができる。つまり、既存のモータ32を利用して無線機33を昇温するため、ペデスタル3内にヒータを別途備える必要がない。このため、費用を削減することができるとともに、レーダアンテナ1(ペデスタル3)の簡素化、小型化が可能となる。しかも、モータ32を高速回転させることでモータ32を発熱させるのではなく、モータ32の正転および逆転を短時間の周期で繰り返すことでモータ32を発熱させるため、モータ32に大きな負荷がかからず、焼き付きなどによるモータ32の損傷、劣化を招くことがない。また、従来の既製のレーダアンテナに温度センサ34とモータ制御部35とを備えるだけで、容易かつ低コストで本レーダアンテナ1を構成することができる。
【0028】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、温度センサ34とモータ制御部35とが別体となっているが、一体的に構成してもよく、また、CPU(モータ制御手段)を設け、温度センサ34による測定温度をCPUに伝送し、CPUでモータドライバを制御するようにしてもよい。さらに、温度センサ34でペデスタル3内の温度を測定することで、無線機33の温度を間接的に測定しているが、無線機33の温度を直接測定してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 レーダアンテナ
2 輻射器
3 ペデスタル
31 ロータリージョイント
32 モータ
33 無線機
34 温度センサ(温度測定手段)
35 モータ制御部(モータ制御手段)
41 第1のギヤ
42 第2のギヤ