【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1に係るスウェージツールにより締結されるロックボルトを模式的に表した概略構成図である。
図2は、実施例1のスウェージツール及び従来のスウェージツールを用いたときのカラーの未かしめ部高さを比較したときの説明図である。
図3は、摩擦係数を比較した表である。
【0025】
実施例1のスウェージツール1は、被締結部となる重ね合わせた一対の板材3a,3bに対し、ロックボルト5を締結するための工具である。先ず、
図1を参照し、スウェージツール1によって一対の板材3a,3bに締結されるロックボルト5について説明する。
【0026】
図1に示すように、ロックボルト5は、軸方向に延在する締結ピン7と、締結ピン7にかしめられるカラー8とを有する。締結ピン7は、軸方向の一方側に設けられるピンヘッド7aと、中央のピン本体7bと、軸方向の他方側に設けられるピンテール7cとを含んで構成されている。また、ピン本体7bとピンテール7cとの間は、破断部7dとなっており、破断部7dは、ピン本体7bとピンテール7cとに対し、相互に所定の引張荷重が与えられることで、破断可能となっている。
【0027】
この締結ピン7は、一対の板材3a,3bの積層方向に貫通形成される締結孔4に挿通される。締結孔4に挿通される締結ピン7は、締結時において、一対の板材3a,3bを挟んで、一方(
図1の下側)の板材3a側にピンヘッド7aが位置し、他方(
図1の上側)の板材3b側にピンテール7cが位置する。そして、ピン本体7bは、その一部が締結孔4の内部に位置し、その他の一部が他方(
図1の上側)の板材3b側に位置する。
【0028】
カラー8は、円筒形状となっており、締結ピン7のピンテール7c側から装着される。締結ピン7に装着されたカラー8は、スウェージツール1によって、軸方向の板材3b側(ピンヘッド7a側)に移動させられることで板材3bに当接し、板材3bに当接した状態で締結ピン7のピン本体7bにかしめられる。この後、締結ピン7に所定の引張荷重が与えられることで、破断部7dが破断し、ピンテール7cが破断除去される。
【0029】
次に、
図1を参照して、スウェージツール1について説明する。
図1に示すように、スウェージツール1は、カラー8をかしめるためかしめ用穴19が貫通形成されるスウェージダイ11を有する。
【0030】
スウェージダイ11は、カラー8に当接して、板材3b側へ押し込まれる部材となっている。スウェージダイ11に形成されるかしめ用穴19は、スウェージダイ11が押し込まれ、締結ピン7に装着されたカラー8が圧入されることで、カラー8をかしめている。このかしめ用穴19は、その内周面の形状が、貫通方向において湾曲した形状となっている。つまり、かしめ用穴19は、カラー8が圧入される入口側の直径がカラー8の直径よりも広く、出口側に向かうにつれて狭くなっている。また、かしめ用穴19は、中央側の頂部において、最も狭い(小さい)直径となっており、カラー8の直径よりも小さくなっている。さらに、かしめ用穴19は、中央側の頂部から出口側に向かうにつれて広くなっている。
【0031】
このかしめ用穴19の内周面には、低摩擦コーティング膜21が形成されている。低摩擦コーティング膜21は、少なくとも入口側から頂部までの領域に形成されており、実施例1では、全面に形成されている。この低摩擦コーティング膜21は、ダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティング(DLCコーティング)により形成された膜となっている。DLCコーティングで形成された低摩擦コーティング膜21は、耐摩耗コーティング膜としても機能することから、低摩擦コーティング膜21は、低摩擦性及び耐摩耗性を有するコーティング膜となる。
【0032】
また、DLCコーティングは、物理蒸着によって行われている。ここで、DLCコーティングは、物理蒸着または化学蒸着によって行われるが、物理蒸着によって行われるDLCコーティングは、低摩擦コーティング膜21の形成の際に、化学蒸着に比して水素が混入し難いものとなっている。このため、物理蒸着でDLCコーティングした低摩擦コーティング膜21は、化学蒸着でDLCコーティングする場合に比して、より硬質なものに形成することができる。このため、DLCコーティングの中でも、低摩擦コーティング膜21は、より低摩擦性及び耐摩耗性を有するコーティング膜となる。このように形成された低摩擦コーティング膜21は、その摩擦係数が、少なくとも0.35以下となっており、より好適には、その摩擦係数が、0.12以下となっている。
【0033】
次に、
図2を参照して、従来のスウェージツールを用いたときのカラー8の締結状態と、実施例1のスウェージツール1を用いたときのカラー8の締結状態とについて比較する。
図2では、その縦軸が、カラー8の未かしめ部の高さとなっている。また、
図2では、左側に示す一組の白抜き丸(○)及び白抜き三角(△)が、従来のスウェージツールを用いたときのカラー8の締結状態を示しており、右側に示す一組の白抜き丸(○)及び白抜き三角(△)が、実施例1のスウェージツール1を用いたときのカラー8の締結状態を示している。ここで、白抜き丸(○)は、カラー8の外周面に、セチルアルコール等の潤滑剤が塗布されている場合であり、白抜き三角(△)は、カラー8の外周面に塗布されたセチルアルコール等の潤滑剤が取れた場合である。また、点線Lは、カラー8の締結状態の良否を判定するためのかしめ部の規定高さを示す規定ラインであり、カラー8の未かしめ部の高さが、規定ラインLよりも低ければ、カラー8の締結状態が良好となる一方で、規定ラインLよりも高ければ、カラー8の締結状態が不良となる。
【0034】
図2に示すように、従来のスウェージツールでは、カラー8に潤滑剤が塗布されている場合、カラー8を良好に締結できることが確認された。一方で、従来のスウェージツールでは、カラー8に潤滑剤が塗布されていない場合、カラー8の締結不良が発生する場合があることが確認された。
【0035】
これに対し、実施例1のスウェージツール1では、カラー8に潤滑剤が塗布されている場合、カラー8を良好に締結できることが確認された。また、実施例1のスウェージツール1では、カラー8に潤滑剤が塗布されていない場合、カラー8をほぼ良好に締結できることが確認された。つまり、実施例1のスウェージツール1では、カラー8の締結不良が発生する場合があるものの、従来のスウェージツールに比して十分に抑制できることが確認された。
【0036】
次に、
図3を参照し、従来のスウェージツールを用いたときの摩擦係数と、実施例1のスウェージツール1を用いたときの摩擦係数とをそれぞれ比較する。
図3において、試料となるNo.1〜No.3のカラー8は、セチルアルコール等の潤滑剤が取れたカラー8となっており、従来のスウェージツールを用いてカラー8を締結したときの摩擦係数となっている。
図3において、試料となるNo.4及びNo.5のカラー8は、セチルアルコール等の潤滑剤が塗布されたカラー8となっており、従来のスウェージツールを用いてカラー8を締結したときの摩擦係数となっている。
図3において、試料となるNo.6のカラー8は、セチルアルコール等の潤滑剤が取れたカラー8となっており、実施例1のスウェージツール1を用いてカラー8を締結したときの摩擦係数となっている。
【0037】
図3に示すように、No.1の場合、摩擦係数は、「0.3558」となっている。No.2の場合、摩擦係数は、「0.3550」となっている。No.3の場合、摩擦係数は、「0.3597」となっている。以上から、セチルアルコール等の潤滑剤が取れたカラー8に対して、従来のスウェージツールを用いて締結したときの摩擦係数、つまり、カラー8の締結不良が発生する場合の摩擦係数は、No.1〜No.3に示す摩擦係数となる。
【0038】
また、
図3に示すように、No.4の場合、摩擦係数は、「0.0866」となっている。No.5の場合、摩擦係数は、「0.0576」となっている。以上から、セチルアルコール等の潤滑剤が塗布されたカラー8に対して、従来のスウェージツールを用いて締結したときの摩擦係数、つまり、カラー8を良好に締結できる場合の摩擦係数は、No.4及びNo.5に示す摩擦係数となる。
【0039】
また、
図3に示すように、No.6の場合、摩擦係数は、「0.1289」となっている。以上から、セチルアルコール等の潤滑剤が取れたカラー8に対して、実施例1のスウェージツール1を用いて締結したときの摩擦係数、つまり、カラー8をほぼ良好に締結できる場合の摩擦係数は、No.6に示す摩擦係数となる。よって、低摩擦コーティング膜21は、その摩擦係数を、少なくとも0.35以下とすればよく、より好適には、その摩擦係数を、0.12±0.01とすることで、カラー8をほぼ良好に締結できることが確認された。よって、低摩擦コーティング膜21は、その摩擦係数を、0.12以下とすれば、カラー8をより良好に締結できる。
【0040】
以上のように、実施例1の構成によれば、スウェージダイ11に形成されるかしめ用穴19の内周面に、低摩擦コーティング膜21を形成することができるため、カラー8に塗布された潤滑剤が取れてしまっても、スウェージツール1とカラー8との摩擦の増大を抑制することができる。このため、カラー8に塗布された潤滑剤が取れてしまっても、カラー8を締結ピン7に好適にかしめることが可能となる。
【0041】
また、実施例1の構成によれば、低摩擦コーティング膜21の摩擦係数を、少なくとも0.35以下とすることができ、より好適には、0.12以下とすることができるため、スウェージツール1とカラー8との摩擦の増大を好適に抑制することができる。
【0042】
また、実施例1の構成によれば、物理蒸着でDLCコーティングを行って低摩擦コーティング膜21を形成したため、低摩擦コーティング膜21を硬質にできることから、低摩擦性の高いコーティング膜とすることができ、また、耐摩耗性を有するコーティング膜とすることができる。このため、スウェージダイ11に形成されるかしめ用穴19の摩耗を抑制できることから、スウェージツール1の工具寿命の向上を図ることができる。
【0043】
また、実施例1の構成によれば、かしめ用穴19の内周面の全面に、低摩擦コーティング膜21を形成することができる。このため、カラー8が接触するかしめ用穴19の内周面に、低摩擦コーティング膜21を形成することができ、かしめ用穴19の内周面とカラー8とが接触する部分において好適に摩擦を低減することができる。なお、実施例1では、かしめ用穴19の内周面の全面に、低摩擦コーティング膜21を形成したが、少なくともかしめ用穴19の入口側から頂部までの領域に形成すればよい。
【0044】
なお、実施例1では、低摩擦コーティング膜21をDLCコーティングにより形成したが、この構成に限定されない。低摩擦コーティングとして、例えば、ダイヤモンド・コーティング、チタンライト・コーティング、またはチタンアルミ・コーティング等を適用してもよく、摩擦係数を低減可能なコーティングであればよい。
【0045】
また、実施例1のスウェージツール1を用いて、潤滑剤が取れたカラー8をかしめる場合、事前にカラー8に潤滑剤を再塗布し、この後、カラー8をかしめてもよい。この場合、スウェージツール1とカラー8との摩擦の増大をより好適に抑制することができる。