【実施例】
【0054】
以下に実施例、比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0055】
[参考例1]
フェノール1030.6g(10.964モル)、1,4−ベンゾキノン498.1g(4.698モル)を、下部に抜出口のある4つ口フラスコに仕込み、内温60℃を保ちながら10%トリフルオロメタンスルホン酸水溶液を0.89g滴下した。その後80℃で2時間保持10%トリフルオロメタンスルホン酸水溶液をさらに1.25g滴下した。その後120℃で1時間保持した。この段階で未反応の1,4−ベンゾキノンは残存しておらず、全て反応したことをガスクロマトグラフィーで確認した。その後、パラキシレングリコールジメチルエーテル260.0g(1.566モル)を添加し、発生する低沸点成分を系外に揮散させながら内温150℃で4時間保持した。この段階で未反応のパラキシレングリコールジメチルエーテルは残存しておらず、全て反応したことをガスクロマトグラフィーで確認した。その後、未反応フェノールがガスクロマトグラフィーで未検出になるまで30torrで150℃の減圧下でフェノールを除去した。この反応生成物を150℃で抜き出し、黒褐色の1,4−ベンゾキノン変性型フェノールアラルキル樹脂1159.6gを得た。JIS
K 2207に基づき、この樹脂の軟化点を測定したところ77℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は、95mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は、94g/eqであった。
【0056】
[実施例1]
参考例1で得られた、1,4−ベンゾキノン変性型フェノールアラルキル樹脂(水酸基当量94g/eq、150℃溶融粘度95mPa・s)37.6gおよび2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2g、チオビスベンゼンチオール5.0gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を135℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却することより、混合生成物として均質な黒褐色のガラス状溶融物205.0g(混合生成物1)が得られた。
混合生成物2のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、170mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は、300g/eqであった。得られた混合生成物1の物性を表1に示した。
【0057】
上記で得られた混合生成物1を、下記条件でGPC分析した。
GPC分析条件:
(1)使用機器:東ソー株式会社製、HLC−8220 GPC
(2)カラム:東ソー株式会社製、TSKgelG2000HXL+G1000HXL(6mm×30cm 2本)
(3)溶媒:テトラヒドロフラン
(4)流量:1.000ml/min
(5)温度:40℃
(6)検出器:RI、HLC−8220 GPC内蔵RI検出器
【0058】
GPC分析により得られたチャートを
図1として示す。
図1のリテンションタイム(RT)は、RT17.3minはビスマレイミドに対応するピークで面積百分率は57%であり、RT18.1minは2,7−ジヒドロキシナフタレンに対応するピークで面積百分率は10%であった。チオビスベンゼンチオールに対応するピークは消失していることから、付加反応を起こしているものと推定される。本実施例1で得られた混合生成物1を、エポキシ硬化剤1とする。
【0059】
[実施例2]
参考例1で得られた1,4−ベンゾキノン変性型フェノールアラルキル樹脂(水酸基当量94g/eq、150℃溶融粘度95mPa・s)37.6gおよび2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2g、オキシジアニリン5.0gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を135℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却することより、混合生成物として均質な黒褐色のガラス状溶融物205.0g(混合生成物2)が得られた。
混合生成物2のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、180mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は295g/eqであった。本実施例2で得られた混合生成物2を、エポキシ硬化剤2とする。得られた混合生成物2の物性を表1に示した。
得られた混合生成物2を実施例1と同様の条件でGPC分析した。GPC分析により得られたチャートを
図2として示す。
図2のリテンションタイム(RT)は、RT17.3minはビスマレイミドに対応するピークで面積百分率は62%であり、RT18.1minは2,7−ジヒドロキシナフタレンに対応するピークで面積百分率は10%であった。オキシジアニリンに対応するピークは消失していることから、付加反応を起こしているものと推定される。
【0060】
[実施例3]
フェノールノボラック変性トリフェノールメタン樹脂37.6g(エア・ウォーター(株)製、HE910C−10、水酸基当量100g/eq、150℃溶融粘度110mPa・s)および2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2g、チオビスベンゼンチオール5.0gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を120℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却することより、混合生成物として均質な黒褐色のガラス状溶融物205g(混合生成物3)が得られた。
混合生成物3のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、190mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は、310g/eqであった。本実施例3で得られた混合生成物3を、エポキシ硬化剤3とする。得られた混合生成物3の物性を表1に示した。
【0061】
[実施例4]
フェノールノボラック変性トリフェノールメタン樹脂37.6g(エア・ウォーター(株)製、HE910C−10、水酸基当量100g/eq、150℃溶融粘度110mPa・s)および2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2g、オキシジアニリン5.0gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を120℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却することより、混合生成物として均質な黒褐色のガラス状溶融物205g(混合生成物4)が得られた。
混合生成物4のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、200mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は、304g/eqであった。本実施例4で得られた混合生成物4を、エポキシ硬化剤4とする。得られた混合生成物4の物性を表1に示した。
【0062】
[実施例5]
フェノールノボラック変性トリフェノールメタン樹脂37.6g(エア・ウォーター(株)製、HE910C−10、水酸基当量100g/eq、150℃溶融粘度110mPa・s)および2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を120℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却し、ガラス状となった溶融混合物を取り出してチオビスベンゼンチオール5.0gと一緒に粉砕機で粉砕混合し、黄褐色粉末205.0g(混合生成物5)が得られた。
混合生成物5のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、190mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は、308g/eqであった。本実施例5で得られた混合生成物5を、エポキシ硬化剤5とする。得られた混合生成物5の物性を表1に示した。
【0063】
[実施例6]
フェノールノボラック変性トリフェノールメタン樹脂37.6g(エア・ウォーター(株)製、HE910C−10、水酸基当量100g/eq、150℃溶融粘度110mPa・s)および2,7−ジヒドロキシナフタレン19.2gを150℃で30分間溶融混合したのち、液温を120℃に下げて4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド143.2gを添加した。これを同温で30分間攪拌後常温冷却し、ガラス状となった溶融混合物を取り出してオキシジアニリン5.0gと一緒に粉砕機で粉砕混合し、黄褐色粉末205.0g(混合生成物6)が得られた。
混合生成物6のICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融物の溶融粘度は、190mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した溶融物の水酸基当量は、301g/eqであった。本実施例6で得られた混合生成物6を、エポキシ硬化剤6とする。得られた混合生成物6の物性を表1に示した。
【0064】
[比較例1]
実施例1〜6で得られた混合生成物1〜6の物性と比較するため、公知のエポキシ樹脂硬化剤であるフェノールアラルキル樹脂(エア・ウォーター(株)製、HE100C−10、水酸基当量168g/eq、150℃溶融粘度100mPa・s)(本樹脂をエポキシ硬化剤7とする)の物性を比較例1として表1に示した。
【0065】
[比較例2]
実施例1〜6で得られた混合生成物1〜6の物性と比較するため、公知のエポキシ樹脂硬化剤であるフェノールノボラック変性トリフェノールメタン樹脂(エア・ウォーター(株)製、HE910C−10、水酸基当量100g/eq、150℃溶融粘度110mPa・s)(本樹脂をエポキシ硬化剤8とする)の物性を比較例2として表1に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
[実施例7]
下記一般式(10)で示されるエポキシ樹脂(日本化薬(株)製NC−3000、フェノールビフェニルアラルキル型、エポキシ当量275g/eq)、実施例1で得られたエポキシ硬化剤1、溶融シリカおよびウレア系硬化促進剤(サンアプロ社製 U−CAT 3513N)を表2に示す割合で配合し、充分に混合した後、85±3℃の2本ロールで3分間混練し、冷却、粉砕することによりエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物についてゲルタイムおよび溶融粘度を測定した。
トランスファー成形機でこのエポキシ樹脂組成物を圧力100kgf/cm
2で175℃、2分間成形した後、180℃で6時間のポストキュアを行い、ガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを調製してその測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0068】
【化10】
(式中、Gはグリシジル基、nは1〜10の数)
【0069】
[実施例8]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、エポキシ硬化剤2を用い、配合割合を表2のようにした以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0070】
[実施例9]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、エポキシ硬化剤3を用い、配合割合を表2のようにした以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0071】
[実施例10]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、エポキシ硬化剤4を用い、配合割合を表2のようにした以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
【0072】
[実施例11]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、エポキシ硬化剤5を用い、配合割合を表2のようにした以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0073】
[実施例12]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、エポキシ硬化剤6を用い、配合割合を表2のようにした以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0074】
[比較例3]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、比較例1に記載したエポキシ硬化剤7を用いる以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0075】
[比較例4]
実施例7において、使用したエポキシ硬化剤1に代えて、比較例1に記載したエポキシ硬化剤8を用いる以外は、実施例7と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、それからガラス転移温度測定用及び難燃性試験用のテストピースを得て、各物性の測定を行った。
測定の結果を表2に示した。
【0076】
各物性は下記の方法により測定した。
(1)ゲルタイム
キュラストメーターV型を用いて、エポキシ樹脂組成物5gをタブレットにして上部、下部温度を175℃にセットした中に入れトルクが出る時間をT0(ゲル化開始時間)として測定した。
(2)組成物の溶融粘度
エポキシ樹脂組成物2.5gをタブレットにして、高下式フローテスター(温度175℃、オリフィス径1mm、長さ1mm)にて測定した。
(3)ガラス転移温度
TMAによりテストピースの線膨張係数を昇温速度10℃/分で測定し、線膨張係数の変曲点をガラス転移温度とした。
(4)難燃性
厚み1.6mm×幅10mm×長さ135mmのサンプルを用い、UL−94Vに準拠して残炎時間を測定し評価した。
【0077】
【表2】
【0078】
表1において、実施例1〜実施例6に示す本発明が与える硬化剤は、比較例1,2に示す硬化剤と同等の溶融粘度を有する。その物性は、同じ構成成分とすれば、その混合方法で差異が生じることはない。
表2において、本発明の硬化剤1〜6を含むエポキシ樹脂組成物の流動性は、硬化剤7,8を含むエポキシ樹脂組成物と同等であることがわかる。それら硬化剤が与える実施例7〜12すべての硬化物は、比較例3、4で得られる硬化物と比べ、ガラス転移温度が高く、残炎時間およびゲルタイムがそれぞれ短いことがわかる。この特徴は同一組成で混合方法が異なる硬化剤を用いても同じであり、それによって物性に差異を生じることはない。
したがって、本発明は、高流動性、高耐熱性、高難燃性に加え、従来技術では実現困難であった速硬化性を備えたエポキシ樹脂組成物の製造を可能にするものである。