(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のグリーンシートが、正極層および負極層からなる群より選ばれた少なくともいずれか一種のグリーンシートである第1のグリーンシートと、固体電解質層のグリーンシートである第2のグリーンシートとを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
前記正極層、前記固体電解質層および前記負極層からなる群より選ばれた少なくとも一つの材料が、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質を含む、請求項8に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らが、特許文献1に記載されている固体電解質の製造方法を種々検討した結果、グリーンシートを積層して積層体を形成し、この積層体を空孔率が10体積%以下の緻密なセッターで挟持した状態で焼成して固体電解質を製造する場合には、グリーンシートに含まれる樹脂を焼成により除去する工程(脱脂工程)において、樹脂の分解または気化により生じたガスは、固体電解質層の内部に残留することがわかった。その結果、樹脂の残留物が炭化した状態で固体電解質層の内部に残留して残留炭素となり、この残留炭素が固体電解質層の内部に存在することにより、全固体電池の内部短絡を引き起こす可能性があることがわかった。
【0009】
一方、特許文献2に記載されている全固体電池の製造方法では、気孔率の高いセッターを用いると、樹脂の分解または気化により生じたガスを積極的に積層体の内部から排除する作用効果を達成することができる。しかしながら、発明者らが、特許文献2に記載されている全固体電池の製造方法を種々検討した結果、積層体とセッターとの接触界面において積層体の表面部分がセッターに食い込んだ状態で積層体を焼成することになるので、セッターが積層体に固着するおそれがあることがわかった。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、全固体電池の内部短絡を抑制することが可能な全固体電池の製造方法とその方法によって製造された全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らが上記の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、グリーンシートの積層体をセッターで挟持し、または、積層体の面に接触するようにセッターを配置して焼成する工程において、積層体の面に接触する側から接触しない側へ向かってセッターの気孔率を増加させることにより、残留炭素の発生を抑制することができ、全固体電池の内部短絡を抑制することができることを見出した。このような発明者らの知見に基づいて、本発明は以下の特徴を備えている。
【0013】
本発明に従った全固体電池の製造方法は、以下の工程を備える。
【0014】
(A)複数のグリーンシートを積層して積層体を形成する積層体形成工程
【0015】
(B)積層体の少なくとも一方側の面に接触するようにセッターを配置して積層体を焼成する焼成工程
【0016】
焼成工程において、積層体の少なくとも一方側の面に接触するように配置されるセッターが、積層体の少なくとも一方側の面に接触する側から接触しない側へ向かって気孔率が増加する構造を有する。
【0017】
本発明の全固体電池の製造方法において、セッターが、第1の気孔率を有する二つの外側層と、第1の気孔率よりも大きい第2の気孔率を有し、二つの外側層の間に介在するように配置された内側層とを含むことが好ましい。
【0018】
上記の場合、外側層が平板状体であり、内側層が空間をあけて配置された複数の隔壁または柱状体を含み、二つの外側層を構成する平板状体が複数の隔壁または柱状体によって連結されるように配置されていてもよい。
【0019】
本発明の全固体電池の製造方法において、第1の気孔率は、31体積%以下であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の全固体電池の製造方法において、第2の気孔率は、31体積%以上であることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の全固体電池の製造方法において、セッターは、厚み方向に実質的に対称な構造を有することが好ましい。
【0022】
本発明の全固体電池の製造方法において、焼成工程では、二つの積層体をセッターの両側に配置して積層体を焼成することが好ましい。
【0023】
また、焼成工程では、セッターを介して積層体に圧力を加えることが好ましい。
【0024】
また、焼成工程は、積層体を第1の焼成温度で焼成する第一焼成工程と、第一焼成工程の後、積層体を第2の焼成温度で焼成する第二焼成工程とを含み、第2の焼成温度が第1の焼成温度より高いことが好ましい。
【0025】
本発明の全固体電池の製造方法において、複数のグリーンシートが、正極層、負極層および固体電解質層からなる群より選ばれた少なくともいずれか一種のグリーンシートであればよい。あるいは、複数のグリーンシートが、正極層および負極層からなる群より選ばれた少なくともいずれか一種のグリーンシートである第1のグリーンシートと、固体電解質層のグリーンシートである第2のグリーンシートであればよい。
【0026】
本発明の全固体電池の製造方法において、正極層、固体電解質層および負極層からなる群より選ばれた少なくとも一つの材料が、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の全固体電池の製造方法において、正極層および負極層からなる群より選ばれた少なくとも一つの材料が、リチウム含有リン酸化合物からなる電極活物質を含むことが好ましい。
【0028】
本発明に従った全固体電池は、上述の特徴を備えた製造方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の全固体電池の製造方法では、焼成工程において、積層体の少なくとも一方側の面に接触するように配置されるセッターが、積層体の少なくとも一方側の面に接触する側から接触しない側へ向かって気孔率が増加する構造を有することにより、全固体電池の内部短絡を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図6に示すように、本発明の製造方法が適用される一つの実施の形態としての全固体電池の積層体100では、正極層1と固体電解質層2と負極層3とから構成される単電池が複数個、たとえば2個、集電体層4を介して直列に接続されている。全固体電池の積層体100の内部に配置される集電体層4は、正極層1と負極層3との間に設けられている。
【0032】
なお、正極層1と負極層3のそれぞれは固体電解質と電極活物質とを含み、固体電解質層2は固体電解質を含む。正極層1と負極層3のそれぞれは、電子伝導材料として、炭素、金属等を含んでもよい。
【0033】
上記のように構成された全固体電池の積層体100のうち、少なくとも1個の単電池の積層体を製造するためには、本発明では、まず、正極層1または負極層3の少なくともいずれかのグリーンシートである第1のグリーンシートと、固体電解質層2のグリーンシートである第2のグリーンシートとを作製する(グリーンシート作製工程)。その後、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを積層して積層体を形成する(積層体形成工程)。そして、積層体の少なくとも一方側の面に接触するようにセッターを配置して積層体を焼成する(焼成工程)。この焼成工程では、積層体の少なくとも一方側の面に接触するように配置されるセッターが、積層体の少なくとも一方側の面に接触する側から接触しない側へ向かって気孔率が増加する構造を有する。
【0034】
なお、焼成工程において、
図7に示すように積層体100の両側の面に接触するようにセッター10(20、30)を配置して積層体100をセッター10(20、30)で挟持した状態で焼成してもよい。また、
図6に示す全固体電池の積層体100を製造するためには、正極層1、固体電解質層2、負極層3、および、集電体層4のそれぞれのグリーンシートを作製した後、これらのグリーンシートを正極層1、固体電解質層2、負極層3、集電体層4、正極層1、固体電解質層2、および、負極層3の順に積層して積層体100を形成し、積層体100の少なくとも一方側の面に接触するようにセッター10(20、30)を配置して積層体100を焼成すればよい。
【0035】
本発明の製造方法で用いられるセッターが、積層体に接触する側から接触しない側へ向かって気孔率が増加する構造を有するので、焼成工程において、グリーンシートに含まれる有機材料の分解または気化により生じたガスが、セッターの内部に拡散しても、気孔率が大きなセッターの部分を経由して積層体の内部から外部へ速やかに排出され、積層体の内部から排除される。これにより、ガスが積層体の内部に残留しないため、ガスが炭化した状態で積層体の内部に残留して残留炭素になることを抑制することができる。その結果、全固体電池の内部短絡を抑制することができる。また、焼成工程において、全固体電池が焼結し収縮することが、残留炭素によって阻害されることを抑制することが期待できる。さらに、全固体電池の充電時に、残留炭素が電気化学的に酸化される副反応を生じることを抑制することも期待できる。なお、残留炭素とは、樹脂の分解または気化により生じた残留物が炭化しつつある物質を含み、必ずしも完全に炭化した状態に限定されるものではない。
【0036】
具体的には、たとえば、無機材料と有機材料(バインダー、可塑剤、増粘剤、分散剤等)を含み、無機材料と有機材料の総量に対する有機材料の比率が10体積%以上であるグリーンシートを積層して、積層体を形成した場合、焼成工程において、積層体の内部に含まれる有機材料が気化または分解しやすい部分から優先的に有機材料が除去される。これにより生じた空隙を通じて、積層体の内部の別の部分から有機材料が除去されるため、有機材料が気化または分解して生じたガスが効率的に積層体の内部を拡散する。
【0037】
さらに、たとえば、積層体に接触するセッターの部分の気孔率が10体積%以上である場合、積層体の内部を積層方向に透過したガスが、積層体とセッターの接触面からセッターの内部へより速やかに拡散する。
【0038】
この場合、積層体に接触しないセッターの部分側へ向かって、セッターの気孔率が増加しているため、セッターの内部に拡散したガスは、気孔率が大きいセッターの部分を経由して積層体の内部から外部へ速やかに排出され、積層体の内部から排除される。これにより、ガスが積層体の内部に残留しないため、ガスが炭化した状態で積層体の内部に残留して残留炭素になることを抑制することができる。その結果、全固体電池の内部短絡を抑制することができる。
【0039】
さらに、積層体と接触するセッターの部分の気孔率が小さいため、セッターと積層体が焼成により固着することを抑制することができるとともに、緻密な積層体を得ることができる。
【0040】
なお、無機材料とは、電極活物質材料、固体電解質材料、電子伝導性材料等を含む。
【0041】
たとえば、無機材料と有機材料の総量に対する有機材料の比率が10体積%未満のグリーンシートを積層して、積層体を形成した場合、焼成工程において、積層体の内部に含まれる有機材料が気化または分解して生じたガスがグリーンシートを透過し難くなる。このため、全固体電池が内部短絡する可能性が高くなる場合がある。
【0042】
セッターの構造は特に限定されないが、セッターが、第1の気孔率を有する二つの外側層と、第1の気孔率よりも大きい第2の気孔率を有し、二つの外側層の間に介在するように配置された内側層とを含むことが好ましい。このようなセッターを用いると、セッターと積層体が焼成により固着するのを抑制し、かつ、有機材料が気化または分解して生じたガスがセッターに透過しやすくなる。さらに、セッターの機械的強度も高くなる。
【0043】
上記の場合、外側層が緻密な平板状体であり、内側層が空間をあけて配置された複数の隔壁または柱状体を含み、二つの外側層を構成する平板状体が複数の隔壁または柱状体によって連結されるように配置されていてもよい。また、外側層が第1の気孔率を有する多孔体で、内側層が第2の気孔率を有する多孔体であってもよい。
【0044】
第1の気孔率は、31体積%以下であることが好ましい。第1の気孔率が31体積%を超えると、積層体の表面を緻密化する効果が得られない可能性がある。また、緻密な外側層の表面の凹凸に応じて積層体の表面に微小な凹凸が生じる可能性があり、また積層体の表面の温度分布にバラツキが生じる可能性があるため、第1の気孔率は、31体積%以下であることが好ましい。なお、第1の気孔率は、10体積%以上が好ましい。第1の気孔率が10体積%未満であると、ガスの透過性が悪くなる。
【0045】
また、第2の気孔率は、31体積%以上であることが好ましい。第2の気孔率が31体積%未満であると、セッターと積層体との間で気体の流入と流出を十分に行えない可能性がある。第2の気孔率の上限値は特に限定されないが、セッターの十分な機械的強度を得るためには第2の気孔率は90体積%未満であることが好ましい。
【0046】
セッターは、厚み方向に実質的に対称な構造を有することが好ましい。セッターは一度使用するとクリープ変形するので、焼成毎に上下を逆にして繰り返し使用することが多い。このため、セッターは実質的に上下対称な構造を有することが望ましい。ここで、「実質的に対称な構造」とは、セッターの製造に関わる寸法誤差、焼成によるクリープ変形により生じた寸法変化等を含まないセッターの寸法に基づいて対称であるセッターの構造をいう。
【0047】
焼成工程では、二つの積層体をセッターの両側に配置して積層体を焼成することが好ましい。一つのセッターの両側に二つの積層体を配した状態で積層体を焼成すると、すなわち、セッターを介して複数の積層体を積層した状態で焼成すると、焼成炉の内容積を有効に活用できる。
【0048】
積層体形成工程では、正極層1、固体電解質層2、および、負極層3のグリーンシートを積層して単電池構造の積層体を形成してもよく、積層体形成工程において、集電体層4のグリーンシートを介在させて、上記の単電池構造の積層体を複数個、積層して複電池構造の積層体を形成してもよい。この場合、単電池構造の積層体を複数個、電気的に直列、または並列に積層してもよい。
【0049】
焼成工程では、セッターを介して積層体に圧力を加えた状態で積層体を焼成することが好ましい。圧力を加えた状態で積層体を焼成することにより、正極層1または負極層3と固体電解質層2または集電体層4とを隙間なく焼結によって接合しやすくなる。その結果、全固体電池の内部抵抗を低減させ、高い容量を得ることができる。また、焼結により積層体が収縮して反ることを抑制することができる。なお、セッターを介して複数の積層体を積層した状態で圧力を加えてもよい。
【0050】
また、焼成工程は、積層体を第1の焼成温度で焼成する第一焼成工程と、第一焼成工程の後、積層体を第2の焼成温度で焼成する第二焼成工程とを含み、第2の焼成温度が第1の焼成温度より高いことが好ましい。この場合、第一焼成工程において積層体を低温に保持することにより、脱脂処理を行うことができ、有機材料をより効率的に除去することができる。その後、第二焼成工程において積層体を高温に保持することにより、残留炭素の発生が抑制された全固体電池の積層体を得ることができる。これにより、全固体電池の内部短絡をより効果的に抑制することができる。
【0051】
セッターの材質は、積層体との反応または焼結による接合が少なく、高融点の材料であれば特に限定されないが、たとえば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ベリリウム(BeO)、二ケイ化モリブデン(MoSi
2)、窒化チタン(TiN)、ホウ化ジルコニウム(ZrB
2)から選ばれる1種類以上のセラミックを含むことが好ましい。
【0052】
セッターの熱伝導率は高いことが好ましい。セッターの熱伝導率は高いと、積層体の焼成時に、セッターに隣接する積層体の温度分布が均一になりやすい。具体的には、5W/m・K以上の熱伝導率を有するセッターを用いることが好ましい。
【0053】
セッターの曲げ強度は高いことが好ましい。セッターの曲げ強度が高いと、焼成時に、セッターが破損または変形することを防止することができる。具体的には、20MPa以上の曲げ強度を有するセッターを用いることが好ましい。
【0054】
積層体形成工程で積層体を形成する方法は特に限定されないが、グリーンシートを順次、一枚ずつ重ね合わせて、グリーンシートに圧力を加えて積層すること等により、積層体を形成することができる。グリーンシートに加えられる圧力は、特に限定されないが、500kg/cm
2以上5000kg/cm
2以下の圧力をグリーンシートに加えることにより、緻密で剥がれの少ない積層体を形成することができる。
【0055】
グリーンシートに圧力を加えながら加熱することにより、グリーンシートを積層してもよい。加熱する温度は特に限定されないが、20℃以上100℃以下の温度で、樹脂を軟化させながら、グリーンシートを積層することが好ましい
【0056】
上記のグリーンシートを成形する方法は特に限定されないが、ダイコーター、コンマコーター、スクリーン印刷等を使用することができる。
【0057】
グリーンシートを成形するためのスラリーは、高分子材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルと、正極活物質、負極活物質、固体電解質、または、集電体材料とを湿式混合することによって作製することができる。湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法、ビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法、ニーダー分散法等を用いることができる。
【0058】
スラリーは可塑剤を含んでもよい。可塑剤の種類は特に限定されないが、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル等を使用してもよい。
【0059】
グリーンシートを積層する方法は特に限定されないが、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等を使用してグリーンシートを積層することができる。
【0060】
焼成工程では、雰囲気は特に限定されないが、電極活物質に含まれる遷移金属の価数が変化しない条件で行うことが好ましい。
【0061】
なお、本発明の製造方法が適用される全固体電池の積層体100の正極層1または負極層3に含まれる電極活物質の種類は限定されないが、正極活物質としては、Li
3V
2(PO
4)
3等のナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、LiFePO
4、LiMnPO
4等のオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、LiCoO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2等の層状化合物、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等のスピネル型構造を有するリチウム含有化合物を用いることができる。
【0062】
負極活物質としては、MOx(MはTi、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素であり、xは0.9≦x≦2.0の範囲内の数値である)で表わされる組成を有する化合物を用いることができる。たとえば、TiO
2とSiO
2、等の異なる元素Mを含むMOxで表わされる組成を有する2つ以上の活物質を混合した混合物を用いてもよい。また、負極活物質としては、黒鉛-リチウム化合物、Li‐Al等のリチウム合金、Li
3V
2(PO
4)
3、Li
3Fe
2(PO
4)
3、Li
4Ti
5O
12等の酸化物、等を用いることができる。
【0063】
また、本発明の製造方法が適用される全固体電池の積層体100の正極層1、負極層3、または、固体電解質層2に含まれる固体電解質の種類は限定されないが、固体電解質としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を用いることができる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物は、化学式Li
xM
y(PO
4)
3(化学式中、xは1≦x≦2、yは1≦y≦2の範囲内の数値であり、MはTi、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれた1種以上の元素である)で表わされる。この場合、上記化学式においてPの一部をB、Si等で置換してもよい。たとえば、Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3とLi
1.2Al
0.2Ti
1.8(PO
4)
3等の異なる組成を有する2つ以上のナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を混合した混合物を用いてもよい。
【0064】
また、上記の固体電解質に用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を含む化合物、または、熱処理によりナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスを用いてもよい。
【0065】
なお、上記の固体電解質に用いられる材料としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物以外に、イオン伝導性を有し、電子伝導性が無視できるほど小さい材料を用いることが可能である。このような材料として、たとえば、ハロゲン化リチウム、窒化リチウム、リチウム酸素酸塩、および、これらの誘導体を挙げることができる。また、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のLi‐P‐O系化合物、リン酸リチウムに窒素を混ぜたLIPON(LiPO
4-xN
x)、Li
4SiO
4等のLi‐Si‐O系化合物、Li‐P‐Si‐O系化合物、Li‐V‐Si‐O系化合物、La
0.51Li
0.35TiO
2.94、La
0.55Li
0.35TiO
3、Li
3xLa
2/3-xTiO
3等のぺロブスカイト型構造を有する化合物、Li、La、Zrを有するガーネット型構造を有する化合物等を挙げることができる。
【0066】
本発明の製造方法が適用される全固体電池の積層体100の正極層1、固体電解質層2、または、負極層3の少なくとも一つの材料が、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質を含むことが好ましい。この場合、全固体電池の電池動作に必須となる高いイオン伝導性を得ることができる。また、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物の組成を有するガラス、または、ガラスセラミックスを固体電解質として用いると、焼成工程においてガラス相の粘性流動により、より緻密な焼結体を容易に得ることができるため、ガラス、または、ガラスセラミックスの形態で固体電解質の出発原料を準備することが特に好ましい。
【0067】
また、本発明の製造方法が適用される全固体電池の積層体100の正極層1または負極層3の少なくとも一つの材料が、リチウム含有リン酸化合物からなる電極活物質を含むことが好ましい。この場合、焼成工程において電極活物質が相変化すること、または、電極活物質が固体電解質と反応することをリン酸骨格の高い温度安定性により容易に抑制することができるため、全固体電池の容量を高くすることができる。また、リチウム含有リン酸化合物からなる電極活物質と、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質とを組み合わせて用いると、焼成工程において電極活物質と固体電解質との反応を抑制することができるとともに、両者の良好な接触を得ることができるため、上記のように電極活物質と固体電解質の材料を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0068】
さらに、本発明の製造方法が適用される全固体電池の積層体100の集電体層4は電子伝導材料を含む。電子伝導材料は、導電性酸化物、金属、および、炭素材料からなる群より選ばれた少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0069】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の製造方法に従って作製された全固体電池について説明する。
【0071】
(セッターの作製)
まず、以下の表1に示すセッター番号1〜9のセッターを以下の工程に従って作製した。
【0072】
【表1】
【0073】
(セッター番号1〜7のセッターの作製)
アルミナ(Al
2O
3)製のファイバーと炭化ケイ素(SiC)の粒子を主材とするセラミックス粉末を、ボールミルで湿式混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを脱水処理して電気炉中で1100℃の温度で仮焼した。この仮焼粉末に対して、所定の重量部のポリビニルアルコール樹脂を加え、ボールミルで湿式混合してスラリーを作製した。このスラリーをスプレードライヤーによって乾燥させ、造粒することにより造粒粉末を作製した。得られた造粒粉末に、プレス成形により1トン/cm
2の圧力を加えて薄板状に成形した。得られた成形体の大きさは、50mm×50m×厚み1.0〜2.0mmであった。このようにして、
図1に示すセッター10を構成する外側層11と内側層12の成形体を作製した。外側層11と内側層12の各成形体においては、焼成後に表1に示す気孔率になるように、Al
2O
3製ファイバーとSiC粒子とポリビニルアルコール樹脂の配合割合を変化させた。また、表1に示すように焼成後の気孔率が55%の内側層12の各成形体においては、焼成後に表1に示す気孔率になるように、ポリビニルアルコール樹脂とともに、体積平均粒径が6μmのメソカーボンマイクロビーズを混合して、これらの混合割合を変化させた。
【0074】
得られた外側層11と内側層12の成形体を
図1に示すように積層して、プレス成形により1トン/cm
2の圧力を加えて圧着することによってセッター10の成形体を作製した。この成形体を1300℃の温度で焼成した。
【0075】
得られた焼成体とラップ定盤との間にダイヤモンド砥粒と研磨液を導入し、ラップ定盤とセッターとをこすり合わせながら回転させることによってラップした。これにより、セッターの大きなうねりを取り除いて、
図1に示す外観のセッター10を作製した。
【0076】
得られたセッター10は、
図1に示すように2つの外側層11で1つの内側層12を挟持した3層構造を有する。各層の寸法と各層に含まれる仮焼粉末の重量から、外側層11と内側層12の気孔率を算出した。算出した気孔率を表1に示す。
【0077】
(セッター番号8のセッターの作製)
上記で得られた造粒粉末を、所定の形状に加工した鋳型に充填し、1トン/cm
2の圧力を加えることにより、
図2に示す外観の成形体20a(20b)を作製した。成形体20a(20b)の外寸法は50mm×50m×厚み4.0mmであった。成形体20a(20b)は、平板状体の外側層21と、空間をあけて配置された複数の隔壁22a(22b)を含む内側層半体とから構成されている。
【0078】
得られた2枚の成形体20aと20bを、それぞれ表裏面を逆にして対向させて積層して、プレス成形により1トン/cm
2の圧力を加えて圧着することによって、
図3に示すセッター20の成形体を作製した。この成形体を1300℃の温度で焼成した。
【0079】
得られた焼成体とラップ定盤との間にダイヤモンド砥粒と研磨液を導入し、ラップ定盤とセッターとをこすり合わせながら回転させることによってラップした。これにより、セッターの大きなうねりを取り除いて、
図3に示す外観のセッター20を作製した。
【0080】
得られたセッター20は、
図3に示すように2つの平板状体の外側層21で1つの内側層22を挟持した3層構造を有する。2つの外側層21を構成する平板状体が、内側層22の複数の隔壁によって連結されるように配置されている。各層の寸法と各層に含まれる仮焼粉末の重量から、外側層21と内側層22の気孔率を算出した。算出した気孔率を表1に示す。
【0081】
(セッター番号9のセッターの作製)
セッター番号8のセッターと同様にして、
図4に示す外観の成形体30a(30b)を作製し、
図5に示す外観のセッター30を作製した。成形体30a(30b)は、平板状体の外側層31と、空間をあけて配置された複数の柱状体32a(32b)を含む内側層半体とから構成されている。得られたセッター30は、
図5に示すように2つの平板状体の外側層31で1つの内側層32を挟持した3層構造を有する。2つの外側層31を構成する平板状体が、内側層32の複数の柱状体によって連結されるように配置されている。各層の寸法と各層に含まれる仮焼粉末の重量から、外側層31と内側層32の気孔率を算出した。算出した気孔率を表1に示す。
【0082】
(材料の準備)
次に、全固体電池を作製するために、固体電解質層、正極層、負極層、および、集電体層の出発原料として以下の材料を準備した。
【0083】
固体電解質材料としてLi
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末、正極活物質材料としてLi
3V
2(PO
4)
3の組成を有するナシコン型構造の結晶相を含む粉末、負極活物質材料としてアナターゼ型の結晶構造を持つ二酸化チタン粉末、電子伝導性材料として炭素粉末、焼結性材料としてLi
1.0Ge
2.0(PO
4)
3の組成を有するガラスセラミックス粉末を準備した。
【0084】
上記の材料を用いて、以下の方法で各スラリーを作製した。
【0085】
(スラリーの作製)
正極1、正極2、正極3、固体電解質、負極、集電体の原材料として、以下の表2に示す質量比率で、アクリル樹脂、主材およびアルコールを秤量した。そして、アクリル樹脂をアルコールに溶解した後、主材とメディアとともに容器に封入して容器を回転させた後、容器からメディアを取り出すことにより、正極1スラリー、正極2スラリー、正極3スラリー、固体電解質スラリー、負極スラリー、集電体スラリーを作製した。なお、表2に、正極1、正極2、正極3、固体電解質、負極、集電体の原材料に含まれるアクリル樹脂の体積比率を示す。アクリル樹脂の体積比率は、固体電解質材料、正極活物質材料、負極活物質材料、電子伝導性材料、焼結性材料、および、アクリル樹脂の質量と真密度から算出した。
【0086】
【表2】
【0087】
主材としては、固体電解質スラリーでは固体電解質材料、正極1〜3のスラリーでは正極活物質材料、電子伝導性材料および固体電解質材料を45:15:40の質量比率で混合した粉末、負極スラリーでは負極活物質材料、電子伝導性材料および固体電解質材料を45:15:40の質量比率で混合した粉末、集電体スラリーでは電子伝導性材料および焼結性材料を10:90の質量比率で混合した粉末を使用した。
【0088】
得られた各スラリーを用いて各グリーンシートを以下の方法で作製した。
【0089】
(グリーンシート作製工程)
ドクターブレード法を用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に各スラリーを塗工し、40℃の温度に加熱したホットプレートの上で乾燥し、厚みが10μmになるようにシート状に成形し、35mm×35mmの大きさに切断してシートを作製した。
【0090】
得られた各グリーンシートを用いて、積層体を以下の方法で形成した。
【0091】
(積層体形成工程)
PETフィルムから剥がした各グリーンシートを一枚ずつ重ねるごとに、2枚のステンレス鋼製の平板で挟むことにより、順次、熱圧着した。熱圧着は、ステンレス鋼製の平板を60℃の温度に加熱し、1000kg/cm
2の圧力を加えることにより行った。その後、熱圧着されたグリーンシートの積層体をポリエチレン製のフィルム容器に真空状態で封入し、ポリエチレン製のフィルム容器を水中に浸漬して水に圧力を加えた。等方圧プレスにより水に200MPaの圧力を加えた。このようにして、積層体番号1〜3の積層体100を形成した。
【0092】
なお、積層体番号1〜3の積層体100の構成材料は、以下の表3に示すとおりである。積層体100は、
図6に示すように、2つの単電池を電気的に直列に接続するように積層した構造を有し、2つの単電池が、2枚の集電体グリーンシートからなる集電体層4を介して直列に接続されている。各単電池は、2枚の正極グリーンシートからなる正極層1と、5枚の固体電解質グリーンシートからなる固体電解質層2と、1枚の負極シートからなる負極層3とから構成される。積層体番号4の積層体の構成材料は、以下の表3に示すとおり、5枚の固体電解質グリーンシートからなる固体電解質層である。
【0093】
【表3】
【0094】
(積層体の切断)
積層体番号1〜3のそれぞれについて、平面の大きさが35mm×35mmの積層体100を10mm×10mmの大きさに切断し、9個の積層体100を作製した。さらに、積層体番号4について、平面の大きさが35mm×35mmの積層体を10mm×10mmの大きさに切断し、9個の積層体を作製した。
【0095】
以下の工程では、平面の大きさが35mm×35mmの一つの積層体から切り分けられた平面が10mm×10mmの大きさの9個の積層体全部に対して同じ条件で焼成と評価を以下の方法で行った。
【0096】
(焼成工程)
表4に示すセッター番号1〜9のセッター10〜30のそれぞれを用い、積層体番号1〜4の積層体のそれぞれを用いて、
図7に示すように積層体を3枚のセッター10(20、30)で挟持し、10kg/cm
2の圧力をセッターに加えた状態で焼成した。焼成工程は、以下の二段階で行った。
【0097】
第一焼成工程(脱脂工程):空気を流通させた雰囲気中で、室温から400℃の温度まで徐々に昇温し、400℃の温度にて5時間保持した後、室温まで徐冷することにより、積層体からアクリル樹脂を除去した。
【0098】
第二焼成工程:第一焼成工程の後、窒素を流通させた雰囲気中で、室温から700℃の温度まで徐々に昇温し、700℃の温度で10時間保持した後、室温まで徐冷することにより、積層体を焼結した。
【0099】
その後、積層体をセッター10(20、30)から取り外した。
【0100】
このようにして作製された実施例1〜10と比較例の全固体電池の積層体100と実施例11の固体電解質層を次のようにして評価した。
【0101】
(評価1:目視)
焼成後の積層体の側面を光学顕微鏡(600倍)で観察し、固体電解質層2の色を観察した。固体電解質層2に変色が認められた場合を×、変色が認められなかった場合を○として評価結果を以下の表4に示す。固体電解質層2にアクリル樹脂の残留物が炭化した状態で存在している場合、固体電解質層2の色は、白色から黒色に変色することが予測される。なお、実施例1〜11と比較例のそれぞれに対して、9個の焼結体について同じ評価を行い、1個でも変色が認められた場合は×とした。
【0102】
(評価2:内部短絡の有無)
焼結体としての積層体100の両面に、銀(Ag)ペーストを塗布し、その金属ペースト中に銅(Cu)製のリード端子を埋没させた状態で乾燥させて、正極端子と負極端子を形成した。
【0103】
正負極端子が取り付けられた全固体電池の積層体100に、アルゴンガス雰囲気中で、5μAの電流で6.5Vの電圧まで充電した後、6.5Vの電圧で10時間保持した。そして、電池電圧の低下速度が0.1mV/秒に低下するまで放置した(充電休止)。その後、5μAの電流で0Vの電圧まで放電した。
【0104】
図8に、実施例1の全固体電池の積層体100の充放電曲線(2サイクル目)を、一例として示す。
【0105】
図8から、充電休止後の電池電圧は約5.9Vであることがわかる。この電池電圧の値は、正極活物質材料と負極活物質材料から推定される電池電圧と概ね一致する。さらに、充放電曲線の形状にも特に問題はなく、良好に充電と放電が行われていることがわかる。これらのことから、この例の全固体電池の積層体100は、内部短絡を起こしておらず、全固体電池として良好に充放電していることがわかる。
【0106】
内部短絡の有無の判断については、
図8の充放電曲線を基準として、以下の3つの条件をすべて満たす場合に内部短絡があると判断した。
【0107】
(i)充電時間(電池電圧が6Vに達するまでの時間)が
図8の2倍以上の場合
【0108】
(ii)充電休止中に電池電圧が5V以下まで低下した場合
【0109】
(iii)放電時間が
図8の半分以下である場合
【0110】
内部短絡がある場合を×、ない場合を○として評価結果を以下の表4に示す。なお、各実施例1〜10と比較例のそれぞれに対して、9個の焼結体としての全固体電池の積層体100について同じ評価を行い、1個でも内部短絡が認められた場合は×とした。実施例11に対して、9個の焼結体についても同じ評価を行った。なお、実施例11では内部短絡の有無は確認しなかった。
【0111】
【表4】
【0112】
表4に示すように、実施例1〜10と比較例から、外側層に比べて内側層の気孔率が大きいセッターを用いた場合には、内部短絡がないことが確認された。
【0113】
実施例1、2、4〜6、8〜10では、積層体100を構成する各層においてアクリル樹脂の体積比率が10体積%以上であるので、ガスの透過性が良好であることにより、固体電解質層2に変色が認められず、内部短絡もないことが確認された。ただし、実施例6では、セッター10の外側層11の気孔率が31%よりも大きいために、焼結体としての積層体100の表面にセッター10の凹凸によるものと推定される凹凸を生じた。
【0114】
実施例3では、内部短絡は認められないが、積層体100を構成する正極層1においてアクリル樹脂の体積比率が10体積%未満であるので、ガスの透過性が良好でないことにより、固体電解質層2に変色が認められた。
【0115】
実施例7では、内部短絡は認められないが、セッター10の内側層12の気孔率が31%よりも小さいために、セッター10と積層体100との間での気体の流入と流出が十分に行われないことにより、固体電解質層2に僅かな変色が認められた。実施例11では、固体電解質層に変色が認められなかった。このことから、この固体電解質層を用いた電池では内部短絡が抑制できると推定できる。
【0116】
したがって、実施例1、2、4、5、8〜11の結果から、セッター10、20、30の外側層11、21、31の気孔率が31体積%以下であり、かつ、セッター10、20、30の内側層12、22、32の気孔率が31体積%以上であることが、特に好ましいことが確認された。
【0117】
なお、実施例8、9から、セッターの構造は、
図1に示すような多孔体の積層構造ではなく、
図3、
図5に示す中空構造であっても、内部短絡のない良好な結果を得ることが確認された。
【0118】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。