特許第6192551号(P6192551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192551
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/167 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   H02K5/167 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-15454(P2014-15454)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-142474(P2015-142474A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和司
(72)【発明者】
【氏名】高栖 善実
【審査官】 島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−196030(JP,A)
【文献】 特開平9−154271(JP,A)
【文献】 米国特許第5811903(US,A)
【文献】 特開平8−103044(JP,A)
【文献】 特表2004−506161(JP,A)
【文献】 特開2004−84897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反出力側の端部に断面V字形状の回転軸側凹部が形成された回転軸、および該回転軸の
外周面に固定された磁石を備えたロータと、
前記磁石の外周面に径方向外側で対向する筒状のステータと、
前記回転軸側凹部の錐面に当接する球体、および該球体を前記錐面との間に支持する軸
受部材を備えた反出力側軸受部と、
前記回転軸および前記軸受のうちの一方側部材に前記回転軸と前記球体とが接触しよう
とする第1方向の付勢力を印加する付勢部材と、
前記第1方向とは反対側の第2方向への前記一方側部材の移動を制限するストッパ部と

を有し、
前記一方側部材の前記第2方向への可動距離をdとし、前記球体の半径をrとし、前記
磁石の外周面と前記ステータとの間隔をGとし、前記回転軸の中心軸線と前記錐面とが成
す角度をθとし、前記錐面の開口縁と前記回転軸の中心軸線との距離をRとしたとき、
前記可動距離d、前記半径r、前記間隔G、前記角度θ、および前記距離Rは、以下の
条件式1および条件式2
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
条件式2:G>d・tanθ
を満たすことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記一方側部材は、前記軸受部材であり、
前記反出力側軸受部は、前記軸受部材を軸線方向に移動可能に支持する貫通孔を備えた軸受ホルダを有し、
前記付勢部材は、前記軸受部材を前記第1方向としての出力側に向けて付勢し、
前記ストッパ部は、前記第2方向としての反出力側への前記軸受部材の移動を制限していることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記付勢部材は、前記軸受部材の中心部分から径方向にずれた位置に当接していることを特徴とする請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記可動距離dは、前記間隔Gの1.5倍から1.6倍であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記回転軸の中心軸線と前記錐面とが成す角度θが45°以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と軸受部材とが接近する方向に付勢したモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、DVDプレーヤ等に用いられる光ピックアップ装置や、カメラに用いられるレンズ群等を移動させるモータとして、ステッピングモータが知られている。
【0003】
かかるモータは、図4(a)に示すように、回転軸2および回転軸2の外周面2cに固定された磁石3を備えたロータ4と、磁石3の外周面3cに対向する筒状のステータ10とを有している。また、回転軸2の反出力側L2の端部2eをスライド軸受からなる軸受部材7によって支持する場合、軸受部材7をモータ軸線L0方向に移動可能に支持する筒状の軸受ホルダ8と、軸受部材7を回転軸2の出力側L1に向けて付勢する板バネ部95(付勢部材)を備えた板状部材9とが設けられている。また、軸受部材7と回転軸2の端部2eとの間には球体6が配置されており、軸受部材7には、出力側L1に向けて開口して球体6を支持する軸受側凹部72が形成されている。また、回転軸2の端部2eには、反出力側L2に向けて開口して球体6を支持する断面V字形状の回転軸側凹部2fが形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−196030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受部材7(スライド軸受)を用いたモータでは、回転している回転軸2に衝撃が加わって、回転軸2に反出力側L2への負荷が加わることがある。また、回転軸2にリードスクリューが形成されている場合、回転軸2に加わる径方向の側圧によって、回転軸2に反出力側L2への負荷が加わることがある。さらに、モータ1の停止中においても、回転軸2に衝撃が加わって、回転軸2に反出力側L2への負荷が加わることもある。このような負荷が加わって、軸受部材7が反出力側L2に変位すると、回転軸2が球体6を介して軸受部材7によって支持されている状態が解除され、回転軸2には、回転軸2の中心軸線Lsとモータ軸線L0方向とが傾くような変位が発生する。その際、図4(b)に示すように、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間に隙間が存在している場合、回転軸2が回転でき、回転軸2への負荷がなくなったときには、図4(a)に示す状態に復帰する。しかしながら、図4(c)に示すように、磁石3の外周面3cがステータ10の内周面10cに接すると、磁石3がステータ10に吸着されてしまい、回転軸2が回転不能となるとともに、回転軸2への負荷がなくなったときでも、図4(a)に示す状態に復帰しない。このような不具合の発生を防止するには、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間隔Gを十分に広く設定すればよいが、その場合、トルクが低下する等、モータ特性が低下してしまう。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、回転軸と軸受部材とが離間する方向に移動するような事態が発生した場合でも、ロータが回転不能となる事態の発生を抑制することのできるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータは、反出力側の端部に断面V字形状の
回転軸側凹部が形成された回転軸、および該回転軸の外周面に固定された磁石を備えたロ
ータと、前記磁石の外周面に径方向外側で対向する筒状のステータと、前記回転軸側凹部
の錐面に当接する球体、および該球体を前記錐面との間に支持する軸受部材を備えた反出
力側軸受部と、前記回転軸および前記軸受のうちの一方側部材に前記回転軸と前記球体と
が接触しようとする第1方向の付勢力を印加する付勢部材と、前記第1方向とは反対側の
第2方向への前記一方側部材の移動を制限するストッパ部と、を有し、
前記一方側部材の前記第2方向への可動距離をdとし、前記球体の半径をrとし、前記
磁石の外周面と前記ステータとの間隔をGとし、前記回転軸の中心軸線と前記錐面とが成
す角度をθとし、前記錐面の開口縁と前記回転軸の中心軸線との距離をRとしたとき、
前記可動距離d、前記半径r、前記間隔G、前記角度θ、および前記距離Rは、以下の
条件式1および条件式2
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
条件式2:G>d・tanθ
を満たすことを特徴とする。
【0008】
本発明では、一方側部材の第2方向への可動距離d、球体の半径r、回転軸の中心軸線と錐面とが成す角度θ、および錐面の開口縁と回転軸の中心軸線との距離Rは、以下の条件
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
を満たしている。このため、一方側部材が第2方向に最大距離(可動距離d)を移動した場合でも、錐面と球体とが接している。
【0009】
また、一方側部材の第2方向への可動距離d、磁石の外周面とステータとの間隔G、および回転軸の中心軸線と錐面とが成す角度θは、以下の条件
条件式2:G>d・tanθ
を満たしている。このため、一方側部材が第2方向に最大距離(可動距離d)を移動し、ロータがモータ軸線に対して直交する方向に変位した場合でも、磁石の外周面とステータとの間に隙間が存在し、ロータの磁石とステータとの吸着を防止することができる。
【0010】
従って、回転軸が傾いても、ロータが回転不能となる事態の発生を抑制することができる。また、回転軸への負荷がなくなったときには、元の状態に復帰する。また、上記の条件式1、2を満たせば、ロータが回転不能となる事態の発生を抑制することができるので、磁石の外周面とステータの内周面との間隔を過度に広く設定する必要がない。
【0011】
本発明において、前記一方側部材は、前記軸受部材であり、前記反出力側軸受部は、前記軸受部材を軸線方向に移動可能に支持する貫通孔を備えた軸受ホルダを有し、前記付勢部材は、前記軸受部材を前記第1方向としての出力側に向けて付勢し、前記ストッパ部は、前記第2方向としての反出力側への前記軸受部材の移動を制限している構成を採用することができる。
【0012】
この場合、前記付勢部材は、前記軸受部材の中心部分から径方向にずれた位置に当接していることが好ましい。かかる構成によれば、軸受部材は、わずかに傾いて軸受ホルダの内周面に接した状態となる。このため、軸受ホルダの内側(貫通孔内)での軸受部材のがたつきを防止することができる。
【0013】
本発明において、前記可動距離dは、前記間隔Gの1.5倍から1.6倍であることが好ましい。かかる構成によれば、回転軸の中心軸線と錐面とが成す角度θを30°前後に設定した場合において、磁石の外周面とステータとの間隔Gを過度に広げなくても済む。従って、モータにおいて大きなトルクを得ることができる。
【0014】
本発明において、前記回転軸の中心軸線と前記錐面とが成す角度θが45°以下であることが好ましい。かかる構成によれば、磁石の外周面とステータとの間隔Gを過度に広げなくても済む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るモータでは、回転軸および軸受部材のうちの一方側部材が互いに離間する方向に最大距離を移動した場合でも、錐面と球体とが接しているという条件と、磁石の外周面とステータが吸着することを防止することができるという条件とを満たしている。従って、回転軸が傾いても、ロータが回転不能となる事態の発生を抑制することができるので、磁石の外周面とステータの内周面との間隔を過度に広く設定しなくてもよい。また、回転軸への負荷がなくなったときには、元の状態に復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用したモータの部分断面図である。
図2】本発明を適用したモータの反出力側軸受部等の説明図である。
図3】本発明を適用したモータにおいてロータがモータ軸線に対して直交する方向に変位した様子を示す説明図である。
図4】モータにおいて回転軸が傾いて回転が停止する状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明を適用したモータの一例を説明する。なお、本発明において、モータ軸線L0方向のうち、回転軸2がステータ10から突出している側が出力側L1であり、回転軸2がステータ10から突出している側とは反対側が反出力側L2である。ここで、モータ軸線L0は、ステータ10の中心軸線であり、回転軸2が傾いていない状態では、回転軸2の中心軸線Lsとモータ軸線L0とは一致する。また、以下の説明では、径方向とはモータ軸線L0方向に直交する方向である。また、以下の説明では、図4を参照して説明した構成との対応が分かりやすいように、対応する部材には同一の符号を付して説明する。
【0018】
(モータの概略構成)
図1は、本発明を適用したモータ1の部分断面図であり、図1(a)、(b)は、モータ1全体の部分断面図、およびステータ10が構成されている部分の部分断面図である。
【0019】
図1に示すモータ1は、いわゆるPM型のステッピングモータであって、かつ、小型のステッピングモータである。モータ1は、回転軸2および回転軸2の外周面2cに固着された磁石3を備えたロータ4と、磁石3の外周面3cに径方向外側で対向する筒状のステータ10とを有している。ステータ10の出力側L1にはフレーム11が設けられている。フレーム11は、ステータ10の出力側L1の端面に溶接等の方法で固定された第1板部111と、第1板部111に出力側L1で対向して回転軸2の出力側L1の端部2rを支持する第2板部112と、モータ軸線L0方向に延在して第1板部111と第2板部112とを連結する連結部113とを備えている。第1板部111には、回転軸2を貫通させる穴115が形成されている。また、モータ1は、回転軸2の出力側L1の端部2rを支持する出力側軸受部1aと、回転軸2の反出力側L2の端部2eを支持する反出力側軸受部1bとを有している。
【0020】
(出力側軸受部1aの構成)
出力側軸受部1aでは、フレーム11の第2板部112に軸受部材18が保持されており、回転軸2の出力側L1の端部2rは、軸受部材18の筒部181において反出力側L2に向けて開口する有底の凹部182の内側に嵌って、ラジアル方向およびスラスト方向で回転可能に支持されている。軸受部材18は、筒部181がフレーム11の第2板部1
12に形成された穴116を貫通した状態で第2板部112の反出力側L2の面に当接する大径部184を有しており、軸受部材18は、大径部184によって出力側L1への移動が規制されている。また、回転軸2の出力側L1の端部2rは、先端が半球状に加工されている。
【0021】
(反出力側軸受部1bの概略構成)
反出力側軸受部1bには、スライド軸受からなる軸受部材7と、軸受部材7をモータ軸線L0方向に移動可能に支持する筒状の軸受ホルダ8と、軸受部材7を回転軸2の出力側L1に向けて付勢する板バネ部95(付勢部材)を備えた板状部材9とを有している。また、回転軸2と軸受部材7との間には、鋼球からなる球体6が配置されている。
【0022】
(ロータ4の構成)
ロータ4において、回転軸2の出力側L1はステータ10から突出しており、回転軸2のステータ10から突出した部分2gの外周面にはリードスクリュー2aが形成されている。リードスクリュー2aは、たとえば、光ピックアップ装置等の被移動体と螺合して被移動体を直動させる。本形態において、回転軸2においてステータ10から出力側L1に突出した部分2gの外径は、ステータ10の内側に位置する部分の外径より大である。
【0023】
ここで、回転軸2の反出力側L2の端部2eには、反出力側L2に向けて開口して球体6を支持する断面V字形状の回転軸側凹部2fが形成されており、かかる回転軸側凹部2fの内周面は、円錐面あるいは角錐面からなる錐面2hになっている。
【0024】
磁石3は、N極とS極とが周方向に沿って交互に形成された円筒状の永久磁石であり、回転軸2の外周面2cにおいて、モータ軸線L0方向で離間する位置に2つの磁石3が接着剤によって固定されている。かかる2つの磁石3は、外径等のサイズが同一である。
【0025】
(ステータ10の構成)
ステータ10は、モータ軸線L0方向で重ねて配置された第1ステータ組12および第2ステータ組13を備えている。本形態では、第1ステータ組12が反出力側L2に配置され、第2ステータ組13が出力側L1に配置されている。
【0026】
第1ステータ組12は、外ヨーク14と、コイル5が巻回されたボビン15と、ボビン15を外ヨーク14との間に挟むように配置された内ヨーク16と、これらの部材を径方向外側および反出力側L2から覆う第1ケース17とを備えている。かかる第1ステータ組12は、反出力側L2に配置された磁石3の径方向外側に配置されている。
【0027】
ボビン15は、モータ軸線L0方向の両端に鍔部を有する筒状部材であり、鍔部の間にコイル5が巻回されている。ボビン15には、端子台15aが形成されており、端子台15aには、コイル5の端部が接続される端子(図示省略)が固定されている。
【0028】
外ヨーク14は、ボビン15の鍔部に反出力側L2で重なる円環部と、円環部の内縁から出力側L1に折れ曲がった複数の極歯14aを備えている。内ヨーク16は、ボビン15の鍔部に出力側L1で重なる円環部と、円環部の内縁から反出力側L2に折れ曲がった複数の極歯16aとを備えており、ボビン15に対して、外ヨーク14および内ヨーク16を重ねた状態で、極歯14a、16aは、ボビン15の内周面に沿って所定のピッチで交互に配置される。従って、極歯14a、16aの径方向内側の面によって、ステータ10の内周面10cが規定される。
【0029】
第1ケース17は、薄鋼板で形成されるとともに、プレス加工によって形成されている。また、第1ケース17は、外ヨーク14を反出力側L2で覆ってステータ10の反出力
側端面を構成する端板部171と、ボビン15等を径方向外側で覆う側板部172とを備えている。第1ケース17において端板部171には、軸受部材7が貫通する開口部175が形成されている。
【0030】
第2ステータ組13は、第1ステータ組12と同様な構成を有している。すなわち、第2ステータ組13は、外ヨーク19と、コイル5が巻回されたボビン20と、ボビン20を外ヨーク19との間に挟むように配置された内ヨーク21と、これらの部材を径方向外側および出力側L1から覆う第2ケース22とを備えている。かかる第2ステータ組13は、出力側L1に配置された磁石3の径方向外側に配置されている。
【0031】
ボビン20は、モータ軸線L0方向の両端に鍔部を有する筒状部材であり、鍔部の間にコイル5が巻回されている。ボビン20には、端子台20aが形成されており、端子台20aには、コイル5の端部が接続される端子(図示省略)が固定されている。
【0032】
外ヨーク19は、ボビン20の鍔部に出力側L1で重なる円環部と、円環部の内縁から反出力側L2に折れ曲がった複数の極歯19aを備えている。内ヨーク21は、ボビン15の鍔部に反出力側L2で重なる円環部と、円環部の内縁から出力側L1に折れ曲がった複数の極歯21aとを備えており、ボビン20に対して、外ヨーク19および内ヨーク21を重ねた状態で、極歯19a、21aは、ボビン20の内周面に沿って所定のピッチで交互に配置される。従って、極歯19a、21aの径方向内側の面によって、ステータ10の内周面10cが規定される。
【0033】
第2ケース22は、薄鋼板で形成されるとともに、プレス加工によって形成されている。また、第2ケース22は、外ヨーク19を出力側L1で覆ってステータ10の出力側端面を構成する端板部221と、ボビン20等を径方向外側で覆う側板部222とを備えている。第2ケース22において端板部221には、回転軸2が貫通する開口部225が形成されている。
【0034】
このように構成したステータ10は、モータ軸線L0方向から見たとき、円形状あるいは長円形状に構成される。ステータ10が長円形状に構成される場合、曲率半径および曲率中心が同一の円弧と、かかる2つの円弧を結ぶ平行な2本の直線とを備えた形状となる。
【0035】
(軸受部材7の構成)
図2は、本発明を適用したモータ1の反出力側軸受部1b等の説明図であり、図2(a)、(b)は、反出力側軸受部1b等の断面図、および反出力側軸受部1b等の寸法関係を示す説明図である。
【0036】
図2において、モータ1の反出力側L2には軸受部材7が配置されている。軸受部材7は、樹脂製であり、金型を用いた成形加工により製造される。軸受部材7は、モータ軸線L0方向に沿って軸線が延在する略円柱形状を有しており、回転軸2およびステータ10と同心状である。本形態において、軸受部材7は、反出力側L2に位置する大径部分7aと、出力側L1に位置する小径部分7bとを有しており、小径部分7bは、大径部分7aよりわずかに外径寸法が小である、また、小径部分7bは、出力側L1に向かうに従って外径寸法が連続的に小さくなっている縮径部分になっている。
【0037】
軸受部材7において、出力側L1の面の中央部分には、出力側L1に向けて開口する段付きの出力側凹部70が形成されており、かかる出力側凹部70は、内径が大の端部収容用凹部71と、端部収容用凹部71の底部からさらに反出力側L2に向けて凹む球体支持用の軸受側凹部72とからなる。端部収容用凹部71は、回転軸2の端部2eが入り込む
部位であり、軸受側凹部72は、球体6を支持する部位である。
【0038】
軸受側凹部72は、モータ軸線L0方向に平行な側面72aと、円錐状あるいは角錐状の底部72bとを有している。従って、球体6は、回転軸2の回転軸側凹部2fと軸受部材7の軸受側凹部72とに支持された状態にあり、その結果、回転軸2は、球体6を介して軸受部材7に支持された状態となる。また、ロータ4が回転した際、球体6は回転軸2とともに回転する。従って、ロータ4が回転した際には、軸受側凹部72の側面72aおよび底部72bと球体6との間で滑りが生じる。
【0039】
このように軸受部材7を構成した結果、端部収容用凹部71の径方向外側には、回転軸2の端部2eを径方向外側で囲むように出力側L1に向けて突出した円環状の凸部75が位置し、凸部75は、回転軸2およびステータ10と同心状である。
【0040】
軸受部材7の反出力側L2の面の中央部分には、出力側L1に向けて凹んだ反出力側凹部76が形成されており、その結果として、反出力側凹部76の周りには、反出力側凹部76の底部から反出力側L2に向けて突出した環状の突起77が形成されている。かかる反出力側凹部76の深さは、出力側L1に形成した出力側凹部70の深さ(端部収容用凹部71および軸受側凹部72)よりかなり浅い。
【0041】
(軸受ホルダ8の構成)
軸受ホルダ8は、金属材料で形成されている。また、軸受ホルダ8は、金型を用いたダイカスト加工等によって形成されている。軸受ホルダ8は、扁平な略直方体状に形成されている。軸受ホルダ8には、モータ軸線L0方向に貫通する円形の貫通孔81が形成されており、軸受ホルダ8は、貫通孔81の内周面81cで軸受部材7の大径部分7aをモータ軸線L0方向へ移動可能に支持している。軸受ホルダ8は、第1ケース17の端板部171に反出力側L2で隣接する位置に配置されており、第1ケース17の外部に配置されている。本形態において、軸受ホルダ8は、端板部171の反出力側L2の面に固定されている。具体的には、軸受ホルダ8は、溶接によって、端板部171に固定されている。本形態では、プロジェクション溶接によって、軸受ホルダ8が端板部171に固定されている。
【0042】
ここで、第1ケース17の端板部171には、軸受部材7が貫通する開口部175が形成されている。本形態において、開口部175の内径は、軸受ホルダ8の貫通孔81の内径寸法と同一であり、開口部175の内周面は、軸受ホルダ8の貫通孔81の内周面81cとモータ軸線L0方向で重なっている。従って、本形態では、開口部175の内周面は、軸受ホルダ8の貫通孔81の内周面81cとともに、軸受ホルダ8をモータ軸線L0方向へ移動可能に支持する軸受支持面80を構成している。
【0043】
(板状部材9の構成)
板状部材9は、軸受ホルダ8の反出力側L2に固定されている。板状部材9は、軸受ホルダ8の反出力側L2の面に重なる底板部91と、底板部91の端部から出力側L1に折り曲げられた複数の側板部92とを有しており、複数の側板部92のうち、相対向する一組の側板部92によって、板状部材9が軸受ホルダ8に固定されている。
【0044】
板状部材9では、底板部91の中央付近に板バネ部95(付勢部材)が出力側L1に向けて斜めに切り起こされており、かかる板バネ部95は、軸受部材7の反出力側L2の面に形成された反出力側凹部76の底部に当接し、軸受部材7を回転軸2の側(出力側L1:第1方向)に付勢している。このため、板バネ部95は、軸受部材7および球体6を介して回転軸2を出力側L1に付勢している。このため、回転軸2は、出力側軸受18(図1(a)参照))に向けて付勢されているため、回転軸2にはモータ軸線L0方向のガタ
つきが抑制されている。
【0045】
また、板状部材9において、底板部91は、板バネ部95の付勢力に抗して軸受部材7が反出力側L2(第2方向)に移動した際の可動範囲を規定するストッパ部として機能する。
【0046】
本形態において、板バネ部95は、軸受部材7の略中心部分から径方向にずれた位置に当接している。そのため、軸受ホルダ8の内側において、軸受保持面80の相対向する位置で軸受保持面80と軸受部材7の外周面との接触圧が高くなるように、軸受部材7がわずかに傾いた状態になっている。従って、軸受部材7の加工精度が低くても、軸受保持面80に対する軸受部材7のがたつきを防止することができる。なお、開口部175の周方向の複数箇所に凹部を形成しておけば、軸受部材7の外周面と軸受保持面80との接触面積を減らすことができるので、軸受部材7の外周面と軸受保持面80との間の摺動抵抗を低減することができる。それ故、軸受部材7が傾くように板状部材9によって付勢されていても、軸受部材7をモータ軸線L0方向へ円滑に移動させることができる。
【0047】
(隙間等の寸法)
このように構成したモータ1においては、回転軸2にリードスクリュー2aが形成されているため、回転軸2が回転すると、回転軸2に加わる径方向の側圧によって、回転軸2に反出力側L2への負荷が加わることがある。また、回転している回転軸2に衝撃が加わって、回転軸2に反出力側L2の負荷が加わることもある。また、モータ1の停止中においても、回転軸2に衝撃が加わって、回転軸2に反出力側L2への負荷が加わることもある。その結果、図4を参照して説明したように、軸受部材7が反出力側L2に変位し、回転軸2が球体6を介して軸受部材7によって支持されている状態が解除されると、回転軸2には、回転軸2の中心軸線Lsとモータ軸線L0方向とが傾くような変位が発生する。その際の軸受部材7の反出力側L2への可動距離をd(mm)とすると、可動距離dは、軸受部材7の反出力側L2に位置する環状の突起77と板状部材9の底板部91(ストッパ部)の間隔に相当する。
【0048】
そこで、本形態では、図3を参照して後述するように、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間隔をG(mm)とし、球体6の半径をr(mm)とし、回転軸2の中心軸線Lsと錐面2hとが成す角度をθとし、錐面2hの開口縁と回転軸2の中心軸線Lsとの距離をR(mm)としたとき、可動距離d、半径r、間隔G、角度θ、および距離Rが、以下の条件式1および条件式2
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
条件式2:G>d・tanθ
を満たすように設定してある。このため、軸受部材7が反出力側L2(第2方向)に可動距離dを移動した際に回転軸2が傾いても、図4(b)に示すように、錐面2hが球体6と接しているとともに、磁石3の外周面3cがステータ10と離間した状態が位置される。従って、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間隔を過度に広く設定しなくても、ロータ4が回転不能となる事態の発生を抑制することができる。また、回転軸2が傾いても、回転軸2への負荷がなくなったときには、図4(a)に示す状態に復帰する。
【0049】
(条件式1、2について)
図3は、本発明を適用したモータ1においてロータ4がモータ軸線L0に対して直交する方向に変位した様子を示す説明図であり、図3(a)、(b)は、ロータ4がモータ軸線L0に対して直交する方向に変位した様子の断面図、およびロータ4がモータ軸線L0に対して直交する方向に変位したときの各寸法関係を示す説明図である。
【0050】
本形態では、図4(b)を参照して説明したように、回転軸2が傾いた状態で、モータ
軸線L0と回転軸2の中心軸線Lsとがなす角度αが小さいことから、図3(a)に示す
ように、回転軸2がモータ軸線L0に直交する方向に変位するものと見做し、軸受部材7
が反出力側L2(第2方向)に可動距離dを移動した際に回転軸2が傾いても、回転軸2
が回転でき、回転軸2への負荷がなくなったときには、図4(a)に示す状態に復帰する
条件を検討した。
【0051】
まず、図3(b)において、軸受部材7が反出力側L2(第2方向)に可動距離dを移動すると、球体6は、実線で示す位置から一点鎖線6′で示す位置に移動する。なお、球体6が移動する前の中心の位置を点Oで示し、球体6が移動した後の中心の位置を点O′で示してある。
【0052】
このような移動が発生すると、回転軸2は、モータ軸線Lに直交する方向に距離Δxを変位する。かかる変位の結果、回転軸2の中心軸線Lsは、一点鎖線Ls′で示す位置に移動し、磁石3の外周面3cは、実線で示す位置から一点鎖線3c′で示す位置に移動する。また、回転軸2の錐面2hは、実線で示す位置から一点鎖線2h′で示す位置に移動し、球体6と接することになる。なお、回転軸2が移動する前、回転軸2の錐面2hが球体6と接する位置を点Qで示し、回転軸2が移動した後、回転軸2の錐面2hが球体6と接する位置を点Q′で示してある。また、回転軸2が移動する前の錐面2hの頂部の位置を点Pで示し、回転軸2が移動した後の錐面2hの頂部の位置を点P′で示してある。
【0053】
ここで、距離Δxは、点P−点P′に相当することから、下式
Δx=d・tanθ
により求まる。
【0054】
また、回転軸2が移動する前、回転軸2の錐面2hが球体6と接する位置(点Q)と、中心軸線Lsとの距離(P1−P)は、下式
距離(P1−P)=r・cosθ
で求まることから、回転軸2が移動した後、回転軸2の錐面2hが球体6と接する位置(点Q′)と、一点鎖線2h′との距離(P1−P′)は、下式
距離(P1−P′)=距離(P1−P)+Δx
=r・cosθ+d・tanθ
で求まる。
【0055】
ここで、回転軸2が移動しても、回転軸2が回転でき、回転軸2への負荷がなくなったときには、図4(a)に示す状態に復帰するには、回転軸2が移動した後も錐面2hが球体6と接しているという条件1と、回転軸2が移動した後も磁石3の外周面3cがステータ10の内周面10cと離間しているという条件2を満たせばよい。従って、前者の条件1を満たすには、以下の条件式1
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
を満たせばよいことになる。また、後者の条件2を満たすには、
条件式2:G>d・tanθ
を満たせばよいことになる。
【0056】
例えば、軸受部材7の反出力側L2への可動距離dを0.16mmとし、球体6の半径
rを0.5mmとし、回転軸2の中心軸線Lsと錐面2hとが成す角度θを30°とした
場合、球体6の錐面2hの開口縁と回転軸2の中心軸線Lsとの距離R(mm)、および
磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間隔G(mm)は、以下の条件と
なる。
条件式1:R>r・cosθ+d・tanθ
=0.5×0.866+0.16×0.577
0.525
条件式2:G>d・tanθ
=0.16×0.577
=0.0923
【0057】
従って、球体6の錐面2hの開口縁と回転軸2の中心軸線Lsとの距離Rが0.525
mm以上であればよい。また、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間
隔G(mm)は、0.0923mm以上であればよい。この場合、可動距離dは、間隔G
の1.73倍に設定した条件となる。このように、本形態によれば、上記の条件式1、2
を満たせばよいので、磁石3の外周面3cとステータ10の内周面10cとの間隔Gを過
度に広く設定する必要がないので、大きなトルクを得ることができる。

【0058】
ここで、回転軸2の中心軸線Lsと錐面2hとが成す角度θは、45°以下、例えば、約30°が好ましく、この場合、可動距離dは、間隔Gの1.5倍から1.6倍の範囲に設定すればよい。かかる構成によれば、回転軸の中心軸線と錐面とが成す角度θを30°前後に設定した場合において、磁石の外周面とステータとの間隔Gを過度に広げなくても済む。従って、モータにおいて大きなトルクを得ることができる。
【0059】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0060】
例えば、上記実施の形態では、軸受部材7がモータ軸線L方向に移動可能で、軸受部材7を反出力側L2に配置した付勢部材(板バネ部95)によって回転軸2に向けて付勢するモータ1を例示したが、回転軸2をモータ軸線L方向に移動可能とし、回転軸2を出力側L1に配置した付勢部材によって軸受部材7に向けて付勢する構造のモータ1に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 モータ
1a 出力側軸受部
1b 反出力側軸受部
2 回転軸
2c 回転軸の外周面
2e 回転軸の端部
2f 回転軸側凹部
2h 錐面
3 磁石
3c 磁石の外周面
4 ロータ
5 コイル
6 球体
7 軸受部材
8 軸受ホルダ
9 板状部材
10 ステータ
10c ステータの内周面
81 貫通穴
91 底板部(ストッパ部)
95 板バネ部(付勢部材)
L0 モータ軸線
Ls 回転軸の中心軸線
L1 出力側
L2 反出力側
図1
図2
図3
図4