(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱交換器ケースを構成する矩形プレート型部品が、周縁に縦壁部を備えた箱型部品であり、当該箱型部品と同形の箱型部品が水平面の向きを反転させて前記箱型部品に積層されるとともに、当該積層された積層下部品の縦壁部上部が当該積層された積層上部品の縦壁部下部に嵌入されており、上面平坦部の垂直方向に対する前記縦壁部の角度(θ)が15°≦θ≦30°であって、前記縦壁部上部と前記縦壁部下部との当接部位において少なくとも一部が固相拡散接合されていることを特徴とするプレート式熱交換器。
前記箱型部品は、その上面において対称位置に二種の開口が、一方は当該箱型部品の上方に張出して開口し、他方は当該箱型部品の内方に同じ高さで張出して開口した形で形成されたプレス成型品であり、前記積層下部品の上方張出開口部上面と前記積層上部品の下方張出開口部上下面の当接部において両者が固相拡散接合またはろう付け接合されている請求項1〜3のいずれかに記載のプレート式熱交換器。
積層された二つの箱型部品の間に、断面形状が三角または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィン部品が挿入され、積層上部品の先端片が積層下部品のパンチ肩近傍平坦部に当接させた際に、前記フィン部品の先端が箱型部品の上面平坦部に当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合またはろう付けされた流路接合部が良好な接合強度を有する請求項1〜4のいずれかに記載のプレート式熱交換器。
請求項1〜6のいずれかに記載のプレート式熱交換器の製造方法であって、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦0.3μmのフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板を用いた箱型部品の積層組立体を、加熱温度が1100℃以上、加圧力が0.3MPa以上、雰囲気圧力10−2Pa以下の雰囲気で加熱して固相拡散接合することを特徴とするプレート式熱交換器の製造方法。
請求項1〜6のいずれかに記載のプレート式熱交換器の製造方法であって、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦2.0μmの2相系ステンレス鋼板を用いた箱型部品の積層組立体を、加熱温度が1000℃以上、加圧力が0.1MPa以上、雰囲気圧力10−2Pa以下の雰囲気で加熱して固相拡散接合することを特徴とするプレート式熱交換器の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、波形状が付与されたプレート型部品を積層してろう付けにより接合しようとすると、接合時に生じる溶損やろう部の割れ、耐食性の低下、溶融したろうによる流路埋没等、ろう材特有の接合不具合が発生する場合がある。また、ろう材の使用によるコストもかかる。
一方、接合部の耐食性低下を抑制する方法として、ろう付けに替えて固相拡散接合の適用が考えられる。固相拡散接合は高温圧力下で接合界面に生じる母材原子の相互拡散を利用した接合方法であり、接合部は母材なみの強度、耐食性を呈している。一方で、固相拡散による接合性は、接合面での加圧力や温度等が影響する。
【0006】
特に、素材金属板としてステンレス鋼板を用いる場合、ステンレス鋼の拡散接合には添加元素が強く影響し、易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し接合を阻害することがある。
また、積層したプレート型部品を上下方向から加圧して固相拡散接合させようとするとき、上下関係の接合面での固相拡散接合は十分に行われるが、側面方向からの押圧力が不十分になりやすいため、上下のプレートの側端面の接合が不十分になりやすい。
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、プレート式熱交換器を構成するプレート型部品の側端面の形状を規定し、側端面および上下のプレート型部品の流路の接合を、ろう付けに替えて固相拡散接合で行うことにより、特に素材としてステンレス鋼板を用いたものであっても、気密性を確保したプレート式熱交換器を簡便に製造することを目的とする。なお、加重付与されにくい領域には、一部ろう材を供給することが許容される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレート式熱交換器は、その目的を達成するため、熱交換器ケースを構成する矩形プレート型部品が、周縁に縦壁部を備えた箱型部品であり、当該箱型部品と同形の箱型部品が水平面の向きを反転させて前記箱型部品に積層されるとともに、当該積層された積層下部品の縦壁部上部が当該積層された積層上部品の縦壁部下部に嵌入されており、前記縦壁部の角度(θ)がθ≦30°であって、前記縦壁部上部と前記縦壁部下部との当接部位において少なくとも一部が固相拡散接合されていることを特徴とする。
また、必要とする接合強度によっては、前記当接部位の少なくとも一部にろう付け接合を適用できる。その他の前記積層上部品と前記積層下部品との当接部においても、固相拡散接合またはろう付け接合により接合することが好ましい。
【0008】
前記箱型部品は、その上面において対象位置に二種の開口が、一方は当該箱型部品の上方に張出して開口し、他方は当該箱型部品の内方に同じ高さで張出して開口した形で形成されたプレス成型品であり、前記積層下部品の上方張出開口部上面と前記積層上部品の下方張出開口部上下面の当接部において両者が固相拡散接合またはろう付け接合されていることが好ましい。
【0009】
また、前記積層箱型部品の上面平坦部に、断面形状が三角または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィンが形成されており、積層上部品の先端片が積層下部品のパンチ肩近傍平坦部に当接させた際に、前記フィンの先端同士が当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合またはろう付けされて形成された流路接合部が、母材強度と同等並みの良好な接合強度を有することが好ましい。
積層された二つの箱型部品の間に、断面形状が三角または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィン部品が挿入され、積層上部品の先端片が積層下部品のパンチ肩近傍平坦部に当接させた際に、前記フィン部品の先端が箱型部品の上面平坦部に当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合またはろう付けされて流路接合部が形成されているものであってもよい。
【0010】
前記形状のプレート式熱交換器を、ステンレス鋼板を素材として製造する場合、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦0.3μmのフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板を用いた積層組立体を、加熱温度が1100℃以上、加圧力が0.3MPa以上、1×10
−2Pa以下の雰囲気で加熱して固相拡散接合することにより製造される。ここで1×10
−2Pa以下は、加熱温度に達したときの雰囲気圧力を示す。加熱中の炉中の雰囲気圧力がこの圧力まで低下した後であれば、このあと、炉中にArやN
2などの不活性ガスを含有していても構わない。
化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%の2相系ステンレス鋼板を使用し、加熱温度が1000℃以上、加圧力が0.1MPa以上、雰囲気圧力1×10
−2Pa以下の雰囲気で加熱する場合、表面粗さRa≦2.0μmのステンレス鋼板でも十分に固相拡散接合することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレート式熱交換器を構成するプレート型部品の側端面の接合および上下のプレート型部品の流路の接合の少なくとも一部が、CuやNi等のろう材を用いることのない固相拡散接合で行われているため、気密性が十分に確保されたプレート式熱交換器が低コストで提供される。
また、素材鋼板としてステンレス鋼板を使用することにより、耐久性に優れたプレート式熱交換器が低コストで提供できることになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前記した通り、プレート式熱交換器は、積層したプレートにより熱交換媒体の通路、つまり高温媒体と低温媒体の通路を隣接して構成し、これら高温媒体の通路と低温媒体の通路に流す温度差を有する媒体が熱の授受により相互に熱交換作用を行うように構成されている。
簡便な構造としては、例えば
図1、2に見られるように、同形状の箱型部品を複数製造し、この箱型部品に水平面で180°程度回転し、向きを反転させた箱型部品を積み重ね、さらに箱型部品を積み重ねることを繰り返して、熱交換器を構築することが想定される。
【0014】
そして、上記積層体を熱交換器として機能させるためには、積層した箱型部品の周縁縦壁部および開口周縁部の当接部位において、上部品と下部品を気密接合する必要がある。
箱型部品として、鋼板にプレス加工を施し、周縁縦壁部を僅かに下開きにするとともに、対象位置に二種の開口が、一方は周縁縦壁部高さの1/2より低い高さで当該矩形プレート型部品の上方に開口し、他方は同じく周縁縦壁部高さの1/2より低い高さで当該矩形プレート型部品の内方に開口した形で形成された部品を作製し、この箱型部品を底板の上に載置した後、この箱型部品上に同形の箱型部品を水平面で180°程度回転し、向きを反転させて載置する操作を繰り返すと、
図2に見られるような熱交換器構造が得られる。なお上側の箱型部品の周縁縦壁部は下側の箱型部品の周縁縦壁部にラップするように差し込まれる形態となっている。
【0015】
ここで、上部品と下部品を気密接合する必要がある。気密接合する部位としては、上部品の流路となる下方開口端と下部品の流路となる上方開口端との当接部及び上側箱型部品の周縁縦壁部と下側箱型部品の周縁縦壁部のラップ部である。
前記各部位をろう付けはなく、固相拡散接合しようとすると、上記のような積層構造では、上部品の下方開口端と下部品の上方開口端との当接部への加重付与は問題ないが、周縁縦壁部のラップ部への加重付与が困難となる。すなわち、周縁縦壁部のラップ部に上下方向から加重を掛けることは極めて難しくなって、十分に固相拡散接合が行えなくなる。
したがって、周縁縦壁部のラップ部位について接合方法を再検討する必要がある。
【0016】
そこで、本発明では、上部品の下方開口端と下部品の上方開口端の当接部は、固相拡散接合を行い、上側箱型部品の周縁縦壁部と下側箱型部品の周縁縦壁部のラップ部は、形状を規定し、接合性を確保しようとするものである。
具体的には、
図3(b)に示すように、鋼板にプレス加工を施し周縁に縦壁部を有するとともに、その上面において対象位置に二種の開口が、一方は当該箱型部品の上方に張出して開口し、他方は当該箱型部品の内方に同じ高さで張出して開口した形で形成されたプレス成形で形成された箱型部品を作製した。なお、
図3(a)中、箱型部品1と箱型部品2は、単に水平面の向きを反転させたものであり、同形状を有している。そして、上方及び下方に張出して開口した開口部の高さを足し合わせた高さが箱型の矩形プレート型部品単品の高さとなる。
【0017】
上記の箱型部品を底板の上に載置した後、この箱型部品上に同形の箱型部品を水平面で180°程度回転し、向きを反転させて載置する操作を繰り返し、別途準備した継手や天板を積層体に組み付けると、
図3(a)に見られるような熱交換器構造が得られる。
なお、上側の箱型部品の周縁縦壁部は下側の箱型部品の周縁縦壁部にラップするように、差し込まれる形態となっている。このため、縦壁部の高さは前記上方及び下方に張出して開口した開口部の高さを足し合わせた高さよりも高くする必要がある。
【0018】
本発明では、上側箱型部品の周縁縦壁部と下側箱型部品の周縁縦壁部との少なくとも一部が固相拡散接合される。このため、上側箱型部品の周縁縦壁部および下側箱型部品の下開きの角度、すなわち
図5(b)に示す縦壁角度(θ)は、固相拡散接合させる際には、上下方向からの加重が縦壁部に付与されるように、15°≦θ≦30°であることが望ましい。気密性を十分確保するため、縦壁部の一部をろう付けする際は、縦壁部がわずかに下開きの形態で、かつ、プレート式熱交換器そのものの大きさが大きくならないために、0≦θ≦15°と極力小さくすることが好ましい。
【0019】
箱型部品1と、それを向きを反転させたものである箱型部品2を、別途準備した底板や天板、継手とともに、
図3(a)に示すように組み付けた積層体を上下方向から加重をかけた状態で高温下に保持すると、
図3(a)中a、b、c、及びdで示される部位で固相拡散接合されることになる。
【0020】
ところで、熱交換器では、熱交換媒体の通路、つまり高温媒体と低温媒体の通路を隣接して構成し、高温媒体の通路と低温媒体の通路に流す温度差を有する媒体に熱の授受により相互に熱交換作用を行うように構成されている。このため、熱交換作用の効率を高めるためには、高温媒体と低温媒体の通路を分ける隔壁面を広くすることが有効である。
そこで、本発明では、積層箱型部品の上面平坦部に、断面形状が三角または台形または四角形で高さが箱型部品の高さと同じフィンを設けることにした。
【0021】
具体的には、
図4に示すように、断面形状が三角形、台形、または四角形で高さが箱型部品の高さと同じフィンを箱型部品の上面平坦部に当該箱型部品の内側方向に形成する。この上面平坦部にフィンを形成した箱型部品を積み重ねる。なお、
図4中、箱型部品2は箱型部品1を向きを反転させたものであり、箱型部品3は箱型部品1と同じ形の同じ方向に配置したものである。
上側箱型部品の縦壁部に下側箱型部品の縦壁部が差し込まれるように積み重ねると、前記フィンの先端同士が当接することになる。したがって、この状態で上下方向から加重をかけた状態で高温下に保持すると、
図5中、○部、□部で固相拡散接合される。なお、フィン部品同士をろう付け接合してもよい。
箱型部品自体にフィンを設けるのではなく、フィン部品と箱型部品を別々に作製し、積層した上下の箱型部品の間にフィン部品を挿入してもよい。
【0022】
縦壁部の一部をろう付けする場合、ろう材としては、JISZ3265に規定されるNiろうのBNi−5や、BNi−5をベースにPを添加したもの、JISZ3262に規定されるCuろうのBCu−1(無酸素銅)を主に用いることができる。形態としては、粉末およびバインダーを混合してペースト状にしたもの、ろう材を箔状に成形したものを使用できる。箱型部品の素材、形状などに応じてろう材の種類、形態、使用量を選択することができる。例えば、フィン部品を配置した箱型部品を積層したときに形成される縦壁部の隙間にろう材を0.1g/cm
2以上1.0g/cm
2以下を塗布することが好ましい。
【0023】
以上、本発明のプレート式熱交換器の構造について説明してきたが、課題の項中にも記載しているように、耐食性が必要な環境下で本発明のプレート式熱交換器に耐久性を持たせるには、素材鋼板としてステンレス鋼板を用いることが好ましい。
しかしながら、素材鋼板としてステンレス鋼板を用いる場合、ステンレス鋼の拡散接合には添加元素が強く影響し、易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し接合を阻害することがある。
そこで、本発明のプレート式熱交換器を、ステンレス鋼板を素材として製造する際には、易酸化元素であるAl、Ti、Siの含有量を制限し、かつ素材ステンレス鋼板の表面性状や固相拡散接合時の加圧力と加熱温度を規定することにした。
【0024】
用いるステンレス鋼の基本組成に制限はない。JIS等で規定される一般的な組成を有するフェライト単相系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板あるいは2相系ステンレス鋼板を用いることができる。
易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し、接合を阻害するので、その総量については制限する。詳細は実施例の記載に譲るが、0.1Si+Ti+Alが0.15%以上になると、接合品内部の酸化が進んだ状態となり、接合も不十分となる。
【0025】
用いるステンレス鋼板としては、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Cu:0〜1.0%、Mo:0〜2.5%、Al:0.15%未満、Ti:0.15%未満、Nb:0〜1.0%、V:0〜0.5%、N:0〜0.025%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト単相系のものが好ましい。
【0026】
また、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Cu:0〜3.5%、Mo:0〜7.0%、Al:0.15%未満、Ti:0.15%未満、Nb:0〜1.0%、V:0〜0.5%、N:0〜0.3%、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系のものであってもよい。
【0027】
さらに、質量%で、C:0.15〜1.5%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜1.0%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0.15%未満、Ti:0.15%未満、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、残部Feおよび不可避的不純物からなるマルテンサイト系のものであってもよい。
【0028】
さらにまた、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜1.0%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0.05〜6.0%、Cr:13.0〜25.0%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜4.0%、Al:0.15%未満、Ti:0.15%未満、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、N:0.005〜0.2%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト+マルテンサイト2相系またはフェライト+オーステナイト2相系のものであってもよい。
以上述べたステンレス鋼は、製造性を確保するためにBを0〜0.01%、Ca、Mg、REMを1種以上で0〜0.1%添加することが可能である。
【0029】
また固相拡散接合では接合しようとする金属を互いに強く押し当てた状態で接合するため、その接合性には両者の表面粗さが影響することになる。
この表面粗さについても詳細は実施例の記載に譲るが、接合しようとする金属間の接触面圧にもよるが、0.3MPaの加圧力で固相拡散接合する場合、比較的の拡散接合し易い2相系ステンレス鋼板では表面粗さはRa≦2.0μmに、拡散接合し難い他のフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板ではRa≦0.3μmにする必要がある。
【0030】
拡散接合に供する両ステンレス鋼板間に付加する加圧力は2相系ステンレス鋼では0.1MPa以上、フェライト単相系またはオーステナイト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼板では0.3MPa以上とする。加圧力がこれらの値以下であれば、健全な接合界面を形成するためにより高温まで加熱が必要となり、後述するように製品として好ましくない。加圧力がこれらの値以上であれば比較的簡便な設備にて拡散接合が行える。
上下方向への加圧力の付与には金属製の錘を使用することが好ましい。錘には耐熱性に優れ、熱膨張が小さい耐熱フェライト系ステンレス鋼の使用が好ましい。加圧力は錘の荷重を上下接合面積で除すことで求める。
【0031】
加熱時に加圧力が大きいほど接合阻害要因となる接合表面の不動態皮膜や酸化皮膜を破壊し易くなり、鋼板表面の微視的な凹凸の接触面積(境界接触面積)が拡大し易くなるため、原子拡散範囲が拡大し拡散接合し易くなる。一方、加圧力拡大により錘が大きくなることで、重心不安定による荷崩れや、荷重不均一による形状不良が発生し易くなる。また錘の荷重が拡大することで炉床または送りレールの許容荷重に占める錘の割合が大きくなるため搭載可能な製品量が制限され、量産性を著しく低下する。そのため加圧力は接合に必要な最小値である0.8MPa以下にすることが望ましい。
【0032】
拡散接合の加熱温度は2相系ステンレス鋼では1000℃以上、フェライト単相系またはオーステナイト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼板では1100℃以上とする。これらの温度に満たないと十分に拡散接合できない。
一般的にステンレス鋼表層の固相拡散は900℃前後より始まる。とくに1100℃以上に加熱すると原子拡散が活発化するため短時間で拡散接合し易くなるが、1200℃以上に加熱すると高温強度が低下し、結晶粒も粗大化し易くなる。高温強度が低下すると接合部品は加熱中に著しい熱変形を生じる。また結晶粒が粗大化すると母材強度が低下し耐圧性が劣化する。そのため極力低温度で拡散接合できる加熱温度を検討するに至った。その結果、上述した化学成分、表面粗さ、加圧力に従うとともに、接合時の加熱温度をフェライト単相系またはオーステナイト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼板においては1100℃〜1200℃、2相系ステンレス鋼板では1000℃〜1200℃、これらの異材接合においては1100℃〜1200℃の範囲とすればよいことを知見した。なお、部分的にろう材を用いる場合には、ろう接の適正温度である1100℃以上とすることが好ましい。
【0033】
ステンレス鋼板同士の拡散接合は、真空引きにより圧力を1×10
−2Pa以下とした雰囲気中で被接合部材を加熱保持することによって行うことができる。1×10
−2Paを超える雰囲気下では十分に拡散接合できない。
雰囲気圧力が1×10
−2Paより高いと(>1×10
−2Pa)、接合するステンレス鋼板の隙間に内包する酸素が残存し、加熱時に接合面表層に酸化皮膜が生成することで接合性を著しく阻害する。雰囲気圧力を1×10
−2Paより低く、すなわち雰囲気圧力を1×10
−2Pa以下にすると表層の酸化皮膜は極薄となり拡散接合に最適な条件となる。なお、前述したように雰囲気圧力1×10
−2Pa以下とした後にAr、He、N
2、などの不活性ガスを封入して接合させることも可能である。
【0034】
加熱方法はヒーターにより炉内の部材全体を均一に加熱する方法を採用する。加熱保持時間は30〜120minの範囲で設定すればよい。
量産性の観点から、加熱保持時間は極力短い方が良い。ただし、接合部品全体へ均一に熱を付与し、原子拡散を十分に励起するためには30min以上の加熱時間が必要であった。一方、120min以上の保持時間を与えると母材強度に影響を及ぼす程度まで結晶粒が成長するため、好適な保持時間を30〜120minとした。
【実施例】
【0035】
実施例1:
まず、供試材の接合性を確認するために、表1に記載の成分組成を有する鋼板を用い、板厚0.4mmの箱型部品のみを成形し、
図5(a)に示すように3枚積層させた。このときの縦壁角度θは、30°とし、ろう材の塗布は行わなかった。また、成形部の表面粗さRaは0.3μm≦である。
この仮組した加工品を表2に記載の条件および
図6にヒートパターンより選択した条件で拡散接合を行った。すなわち、横型真空炉に入れ、雰囲気圧力を1×10
−2Pa以下に到達させた後、
図6に示すヒートパターン(3)にて加熱し、加熱温度を1200℃、均熱時間を2.0h、負荷面圧を0.5MPaとした。この条件は、量産性の観点から上限と考えられる温度、面圧である。
負荷は、加工品の上下をアルミナ製のセラミックス板で挟み、その上にSUS430製の錘を乗せることにより付与した。加圧力は縦壁部の接触総面積S(mm
2),錘の重量P(N)よりPsinθ/S=0.5MPaとなるよう簡易的に調整した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
得られた3枚重ねの加工品について内部の酸化状況の状態と縦壁部の接合状態を確認した。内部の酸化状態の確認は、断面を切断し目視観察にて着色状況により判断し、縦壁部の接合状態は、5断面を顕微鏡観察し全く接合していない箇所が1断面あった場合を不可と判断した。
結果を表3に示す。
サンプルNo.7〜11、No.15〜19、No.21〜28の発明材は、1200℃、2.0h、0.5MPaの条件において酸化する着色が認められず、また良好な接合性を有していた。一方、比較材のサンプルNo.1〜6、No.12〜14、No.20は、着色していたとともに接合状態も不十分であった。そこで、以下の実験には、発明材のみを用いて好適な接合状態を確認した。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例2:
実施例1のNo.10、No.16、No.24で作製した3枚の箱型部品の間に、0.4mmの鋼板を成形した断面が(1)三角形、(2)台形、(3)四角形からなるフィン型部品を2枚挿入した。そして、
図3(a)に示すような板厚1.0mmの天板と底板を、前記箱型部品およびフィン型部品に組み込んで、仮組みの熱交換器とした。なお、縦壁の角度θをプレスにて矯正し種々変化させた。
図3にa(天板−箱型部品)、b(底板−箱型部品)、c(フィン部)、d(箱型部品縦壁部)で示す各当接箇所において拡散接合処理を施すための試験体を作製した。また、前記c、dで示す当接箇所については、当接領域の一部に純Cuろうを塗布した試験体も作製した。このときのCuろうは、0.3g/cm
2とした。
【0041】
上記の仮組みされた熱交換器に、1100℃、2.0h、0.3MPaの加熱加圧条件で接合処理を施した。接合強度の測定には耐圧試験を用いた。耐圧試験は、
図4に記載した箱形部品の上面平坦部に配置された4つのジョイント(開口)のうち3つを塞ぎ、残りの1箇所より、熱交換器の内部に水圧を付与し、設定圧力の3MPaで漏れの発生状況を把握した。
結果を表4にまとめて示す。本発明例に含まれるNo.1〜9は、全て3MPaの耐圧試験にて漏れが発生せず、良好な接合性を有していた。一方、比較例のNo.10およびNo.11は、縦壁角度が大きく、また、No.12は、内部にフィンを用いなかったため、試験中に箱型部品が潰れてしまい、十分な耐圧性を有しなかった。
【0042】
【表4】
【0043】
表4の発明例のうち、No.7は、a〜cの箇所で拡散接合を行い、dの箇所で一部ろう付けを行った例であり、No.8は、a〜dの箇所で拡散接合した例である。これら代表的な試験例を用いて、温度、時間、加圧力、雰囲気圧力の接合条件を変化させて、適した接合条件を確認した。
結果を表5に示す。No.13およびNo.15は、ろうの溶融が不十分で接合が不完全であった。また、No.14およびNo.16は、温度および時間が高温長時間側で外れており、No.18は、加圧力が高すぎ、加熱中の変形が大きく耐圧性に劣った。No.17は、加圧力が低すぎ、またNo.19は、雰囲気の雰囲気圧力が低すぎて、いずれも十分に接合できず、耐圧性に劣った。
このように接合条件が、本規定の範囲から外れると十分な耐圧性を有しないことがわかる。なお、本規定の範囲に含まれる条件で接合を行うと、表3およびNo.20に示すように十分な耐圧性を有することがわかる。
【0044】
【表5】