(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192581
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】仮撚加工糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/02 20060101AFI20170828BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20170828BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20170828BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
D02G3/02
D02G1/02 Z
D01F8/06
D01F8/14 D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-74987(P2014-74987)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196914(P2015-196914A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】多賀 史彦
(72)【発明者】
【氏名】出口 章時
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雅春
【審査官】
相田 元
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2011/155524(JP,A1)
【文献】
特開2001−303370(JP,A)
【文献】
特開平03−249216(JP,A)
【文献】
特開平03−234819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00−13/00
D01F 8/00− 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と芯部を完全に覆う鞘部からなる複合繊維を用いた仮撚加工糸であって、芯部のポリマーは2種類以上の熱可塑性ポリマーからなるポリマーアロイであり、上記ポリマーアロイは、ポリエステル、ポリオレフィンおよび相溶化剤とからなり、上記ポリマーアロイは海相がポリエステル、島相がポリオレフィンの海島構造を形成したものであり、鞘部のポリマーはポリエステルであることを特徴とする耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項2】
伸縮復元率が20%以上である請求項1記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項3】
前記ポリオレフィンが低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンである請求項1または2記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項4】
芯部のポリマーのポリエステルとポリオレフィンの質量比率が95:5〜55:45質量%である請求項1〜3いずれか一項に記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項5】
残留トルクが30T/m以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項6】
強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸。
【請求項7】
芯部のポリマーは2種類以上の熱可塑性ポリマーからなるポリマーアロイであり、当該ポリマーアロイは、ポリエステル、ポリオレフィンおよび相溶化剤とからなり、上記ポリマーアロイは海相がポリエステル、島相がポリオレフィンの海島構造を形成した、芯部が繊維表面に露出しない複合繊維を用いて、ヒーター温度が180〜220℃、撚数が3000〜4000T/mの条件で仮撚加工することを特徴とした請求項1〜6いずれか一項に記載の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、その優れた力学的特性および化学的特性から、スポーツ衣料分野に数多く利用されている。しかし、ポリエステル等の合成繊維は、綿やレーヨンなどの天然系繊維と異なり、体育館等でのスライディング時、床と布帛との間で生じる摩擦熱によって布帛が溶融し、布帛に穴が空いてしまう欠点を有する。
【0003】
このような問題を解決するため、これまで数多くの提案がなされている。特にポリエステル繊維そのものを改善する方法として、特許文献1〜3では、ポリエステル繊維の芯部にポリエステルよりも融点の低い低融点ポリマーを配した芯鞘型複合繊維による方法が提案されており、作用機構としては、摩擦により発生した摩擦熱を鞘部のポリエステルが溶融する前に、芯部の低融点ポリマーの融解による吸熱作用により吸収することで、ポリエステルの溶融を低減させている。また、摩擦熱が解除された場合、芯部の低融点ポリマーが再度固化することが認められ、繊維内部である鞘に包まれた芯部で、可逆的に起こる相変化のため繰り返しての利用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−11006号公報
【特許文献2】特開平6−49712号公報
【特許文献3】特願平4−65537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の方法は、芯部の低融点ポリマーとして、ポリオレフィンを使用することが記載されているが、この場合、ポリエステルとの親和性が不十分なため、鞘部にポリエステルを配した芯鞘複合繊維とする際、紡糸時や仮撚り加工などの後工程の際に、容易に芯鞘剥離が生じる。このため、染色工程で染め斑となったり、芯鞘剥離が生じるなど耐久性に劣る等の問題がある。
【0006】
特に、熱と外力が大きく加わる仮撚加工において、ポリエステル繊維と同等の加工温度条件で行った場合、芯鞘間の剥離だけでなく、鞘部に亀裂が発生し、芯部のポリオレフィンが漏出することで、白粉が多量に発生する問題が生じる。
【0007】
仮に、芯部のポリオレフィンの融点を考慮して低温条件で加工した場合、充分な伸縮性、嵩高性を有するポリエステル仮撚加工糸が得られない。
【0008】
したがって、本発明の第1の目的は、上記の問題を改善し、芯鞘剥離を軽減し、染色性の良好な、耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、伸縮性や嵩高性が良好な耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリマーアロイ技術を利用し、ポリエステル中にポリオレフィンを安定的に分散させた、海相がポリエステル、島相がポリオレフィンの海島型アロイ構造をなすことで、ポリマー界面の剥離を軽減し、さらにこのポリマーアロイを芯部に、ポリエステルを鞘部に配した芯鞘型構造糸とすることにより、芯部と鞘部の親和性が良好となり芯鞘間の剥離も抑制できる耐摩擦溶融性のある仮撚加工糸を得ることができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、芯部と芯部を完全に覆う鞘部からなる複合繊維を用いた仮撚加工糸であって、芯部のポリマーは2種類以上の熱可塑性ポリマーからなるポリマーアロイであり、上記ポリマーアロイは、ポリエステル、ポリオレフィンおよび相溶化剤とからなり、上記ポリマーアロイは海相がポリエステル、島相がポリオレフィンの海島構造を形成したものであり、鞘部のポリマーはポリエステルであることを特徴とする耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸をその要旨とする。
【0011】
また、上記仮撚加工糸は、伸縮復元率が20%以上であることが好ましく、前記ポリオレフィンは低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種類のポリマーであることが好ましい。
また、上記仮撚加工糸は、芯部のポリマーアロイにおけるポリエステルおよびポリオレフィンの質量比率が95:5〜55:45質量%である複合繊維を用いたものが好ましく、残留トルクが30T/m以上であることがより好ましく、強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%以上であることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明は、芯部のポリマーは2種類以上の熱可塑性ポリマーからなるポリマーアロイであり、当該ポリマーアロイは、ポリエステル、ポリオレフィンおよび相溶化剤とからなり、上記ポリマーアロイは海相がポリエステル、島相がポリオレフィンの海島構造を形成した、芯部が繊維表面に露出しない複合繊維を用いて、ヒーター温度が180〜220℃、撚数が3000〜4000T/mの条件で仮撚加工することを特徴とした耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一般のポリエステルと同等の温度条件で仮撚加工した場合においても芯鞘の剥離、亀裂等がなく伸縮性、嵩高性に優れた耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸を得ることができる。
本発明の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸によれば、染色工程の染色斑がないものとなる。
本発明の耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸の製造方法によれば、芯鞘の剥離、亀裂等がなく、伸縮性、嵩高性が良好な耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に用いる複合繊維の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、耐摩擦溶融性布帛用仮撚加工糸である。
この仮撚加工糸は芯部にポリエステルおよびポリエチレンのポリマーアロイ、鞘部にポリエステルを用いた形態である。
【0017】
まず本発明の鞘部のポリマーおよび芯部の海相であるポリエステルについて説明する。
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーである。このようなポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられる。力学的特性、紡糸性の観点からポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
また、これらのポリエステルには、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、他の成分が共重合されていてもよい。具体的には、共重合成分としては、ジカルボン酸成分では、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。また、ジオール成分としてはジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールも挙げられる。共重合量としては、構成する繰り返し単位あたり10モル%以内が好ましく、5モル%以内がより好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルの製造方法としては、まず、前述のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成誘導体とを主たる出発原料として、常法に従い、エステル化またはエステル交換反応を行った後、さらに高温・減圧下で重縮合反応を行うことによって製造する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明のポリエステル粘度は特に制限されるものではなく、通常のポリエステル繊維に利用されている極限粘度[η]のポリエステルを使用することができる。紡糸性および繊維の力学的強度の点から、例えばポリエチレンテレフタレートであれば、極限粘度[η]は0.4〜1.5であることが好ましく、極限粘度[η]は0.55〜1.0であることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明の目的を損なわない範囲において、これらのポリエステル中には少量の他の重合体や酸化防止剤、熱安定剤、艶消し剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤またはその他の添加剤等が含有されていてもよい。
【0022】
次に、本発明の芯部の島相であるポリオレフィンについて説明する。
芯部のポリマーには、ポリエステル複合繊維の耐摩擦溶融性を得るため、上記ポリエステルにポリエステルよりも融点の低いポリマーを分散させたものを用いる。耐摩擦溶融性を最大限発揮するためには、ポリエステルとの融点差が大きく、融解熱量が大きいポリマーが好ましく、また、ポリエステルの溶融紡糸温度に耐え得るポリマーが好ましい。これらの要求を満足するポリマーとしては、ポリオレフィンが挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またこれらの共重合体などが挙げられる。中でも、ポリエステルとの親和性が他のポリオレフィンと比べ良好で、融解熱量の大きい低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンが好ましい。特に好ましくは、高密度ポリエチレンである。なお、低密度ポリエチレンとは、密度が0.910〜0.929であり、直鎖状低密度ポリエチレンとは、密度が0.930〜0.941であり、高密度ポリエチレンとは、密度が0.942以上である。また、これらのポリオレフィンは、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。ここでいう密度とは、試料の質量と体積の比であり、単位としては、g/cm
3で表す。
【0023】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、これらのポリオレフィンには少量の他の重合体や酸化防止剤、熱安定剤、艶消し剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤又はその他の添加剤等が含有されていてもよい。
【0024】
本発明の芯部のポリマーアロイにおけるポリエステルとポリオレフィンの質量比率として、95:5〜55:45が好ましく、より好ましくは85:15〜60:40である。ポリオレフィンが5質量%未満では、得られるポリエステル複合繊維として十分な耐摩擦溶融性が得られないおそれがある。一方、ポリオレフィンが45質量%より多い場合、ポリエステル中へのポリオレフィンの分散が悪くなることで紡糸性が悪化したり、また相構造の海相と島相が逆転するおそれがあるため、好ましくない。
【0025】
次に、本発明の芯部のポリマーアロイ中に含まれる相溶化剤について説明する。
本発明の芯成分であるポリマーアロイは、ポリエステルとポリオレフィンとの相溶性が不十分なため、通常の方法で溶融混合して得たものでは、ポリエステル中へのポリオレフィンの分散性が悪く、紡糸性の悪化や得られる繊維物性の低下が生じる。そこで本発明では、上記ポリマーアロイに相溶化剤を添加することが必要である。本発明における相溶化剤とは、2種類以上のポリマーを混合させた場合、ポリマー界面に働き、両者のモルフォロジーを安定化させる化合物である。本発明では、相溶化剤を添加することで、ポリエステル中におけるポリオレフィンの分散を安定させ、紡糸性を良好にする役割を果たす。これより、ポリエステル中に安定的にポリオレフィンを高分散させることが可能となる。本発明におけるポリエステルとポリオレフィンとのポリマーアロイの場合、使用される相溶化剤としては、変性ポリオレフィンが挙げられる。上記変性ポリオレフィンとは、分子内にカルボン酸、カルボン酸金属塩基、カルボン酸エステル基、無水酢酸およびエポキシ基などの官能基を有するポリオレフィンである。これらの官能基を有するモノマーが共重合されたポリオレフィンであれば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体いずれであってもよい。また、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンを主成分とする重合体やエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体等の共重合体などを挙げることができる。
【0026】
本発明に使用可能な相溶化剤の具体例としては、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、アクリル酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン−メタクリル酸グラフトグリシジル共重合体、無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン共重合体およびアクリル酸グラフトエチレン/酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、これらの相溶化剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記相溶化剤の添加量としては、ポリマーアロイ全体に対し0.1〜30質量%(外添)であることが好ましく、0.3〜20質量%であることがより好ましい。相溶化剤が0.1質量%未満では、ポリエステルとポリオレフィンとの相溶性を改善することが難しく、一方、30質量%を超えると、それ自身が阻害物となり、紡糸性の悪化や繊維物性の低下が生じるため好ましくない。
【0028】
本発明におけるポリマーアロイの作製方法としては、特に制限されるものではなく、例えば(1)ポリエステルとポリオレフィンおよび相溶化剤をドライブレンド後、そのまま紡糸機に投入し、紡糸機流路内で混合する方法、(2)ポリエステルとポリオレフィンおよび相溶化剤をドライブレンド後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法、(3)ポリエステルにポリオレフィンおよび相容化剤を夫々押出機に投入する方法が挙げられる。
【0029】
上記混練機の例としては、一軸押出機、二軸混練押出機、ロールミキサー、バンバリーミキサー等が挙げられる。なかでも、二軸混練押出機が作業性、混練性の点から好ましい。
【0030】
次に本発明における複合繊維について説明する。
本発明における複合繊維は、上記ポリエステルとポリオレフィンおよび変性ポリオレフィンからなるポリマーアロイとポリエステルを通常の方法で乾燥後、複合紡糸装置を用いて、通常の溶融紡糸を行うことにより得ることができる。ここでいう複合繊維とは、ポリマーアロイとポリエステルとを別々に溶融し、紡糸時に様々な形状にて結合させた複合(コンジュゲート)繊維のことを示す。
【0031】
紡糸方法は特に限定するものではなく、例えば低速で未延伸糸を巻き取った後、延撚工程にて延伸する所謂コンベンショナル法、直接紡糸延伸法(スピンドロー法)、高速で巻き取り部分未延伸糸を得るPOY法が挙げられる。なお、省力化、および安価生産可能な点から、スピンドロー法、POY法を採用することが好ましい。
【0032】
本発明における複合繊維は、芯部にポリマーアロイ成分、芯部を完全に覆った鞘部にポリエステル成分を配置した繊維横断面形状をしている必要がある。芯部を完全に覆うとは、芯部が繊維表面に露出しないことを意味する。ポリマーアロイ成分が表面に露出した場合、一部の島相であるポリオレフィンが露出することで、紡糸性の悪化を生じてしまう。このため、ポリマーアロイ成分をポリエステル成分で完全に覆った形状をとることでそれらの欠点なく、ポリエステル複合繊維の作製が可能となる。
【0033】
本発明における複合繊維の繊維横断面形状は、上述した通り、芯部にポリマーアロイ成分、芯部を完全の覆った鞘部にポリエステル成分を配置した繊維断面形状であれば特に限定するものではないが、例えば、
図1(A)のような単芯の芯鞘型、
図1(B)のような多芯の芯鞘型等が挙げられる。
【0034】
芯部および鞘部の割合としては、耐摩擦溶融性及び糸質の点から、容積比率が芯部:鞘部が95:5〜20:80であることが好ましく、より好ましくは80:20〜30:70の範囲である。芯部が20容積%よりも小さい場合、鞘部のポリエステルが厚くなり、耐摩擦溶融性が得られにくくなるため好ましくない。また、鞘部が5容積%よりも小さい場合、繊維強さが低下するため好ましくない。
【0035】
このようにして得られたポリエステル複合繊維は、耐摩擦溶融性を必要とする製品などで使用した場合を考慮すると、繊度/フィラメント数は、22〜267dtex/12〜72fであることが好ましく、50〜168dtex/12〜48fがより好ましい。
【0036】
また、本発明におけるポリエステル複合繊維は、製品として実用可能な力学的特性を考慮すると、強度は3.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは3.5cN/dtex以上である。伸度は30%以上であることが好ましい。
【0037】
本発明の仮撚加工糸は、上記ポリエステル複合繊維を仮撚加工して得ることができる。
【0038】
仮撚加工方法は、ピン方式、フリクション方式のどちらでも可能であるが、生産効率の良いフリクション方式が好ましい。
【0039】
以下、仮撚加工の好適な製造方法の例を説明する。
【0040】
例えば、延伸糸をピン方式で仮撚加工する場合、糸速は、50〜200m/分が好ましく、撚数は、3000〜4000T/mが好ましく、ヒーターの温度は、180〜220℃が好ましい。
【0041】
また、POY糸をフリクション方式で仮撚加工する場合、糸速は、700〜900m/分が好ましく、撚数は、3000〜4000T/mが好ましく、延伸倍率は1.5〜2倍、ヒーターの温度は、180〜220℃が好ましい。
【0042】
また、嵩高性および伸縮復元率を良好なものとするためには、2ヒータータイプのものが好ましい。
【0043】
なお、本発明における複合繊維は、通常のポリエステル単独糸に用いられる好適なヒーター温度(例えば180〜220℃)で加工を行うことができるため、嵩高性の良好なものが得られ易く、取り扱い性にも優れている。ヒーター温度が低すぎる場合、捲縮は十分に付与されず、また逆に過度に高い場合はフィラメント間の融着を招きタイトスポット(くびれ、未解撚)が発生し易くなる傾向がある。
【0044】
また、下記に示す撚係数は、26,500〜34,900が好ましい。
【数1】
尚、上記撚数の好適範囲は、一般的な繊度84dtexから、上記式を用いて算出した。撚数が過度に少ない場合、捲縮が不良となり易く、過度に多い場合も二重撚り等が生じ易いため、撚数は、繊度に応じて、上記撚係数から算出した撚数の範囲となることが好ましい。
【0045】
このようにして得られた本発明の仮撚加工糸は、伸縮性が良好で嵩高性にも優れたものとなる。
【0046】
本発明の仮撚加工糸は、耐摩擦溶融性を必要とする製品などで使用した場合を考慮すると、繊度/フィラメント数は、22〜267dtex/12〜72fであることが好ましく、50〜168dtex/12〜48fがより好ましい。
【0047】
本発明の仮撚加工糸は、織編工程、染色工程の工程通過性及び耐摩溶融性を良好に保つ点から、伸縮復元率20%以上であることが好ましく、より好ましくは、25%以上である。
【0048】
本発明の仮撚加工糸は、織編工程、染色工程の工程通過性及び耐摩溶融性を良好に保つ点から、残留トルク30T/m以上であることが好ましく、より好ましくは、50T/m以上である。
【0049】
本発明の仮撚加工糸は、織編工程、染色工程の工程通過性、製品として実用可能な力学的特性及び耐摩溶融性を良好に保つ点から、強度3.0cN/dtex以上が、伸度30%以上が好ましい。
【0050】
このような本発明の仮撚加工糸は、伸縮性が良好で嵩高性にも優れたものである。
【0051】
本発明の仮撚加工糸は、耐摩擦溶融性布帛に好適に用いることができる。
本発明の仮撚加工糸を使用して、耐摩擦溶融性布帛を作製する場合、布帛の種類としては特に制限するものではないが、織物、編物、不織布などいずれでもよい。また、布帛全体に使用してもよく、摩擦面のみの一部に使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリエステル仮撚加工糸は、例えば、学校体育衣料等やバレーボール、バスケットボール、ハンドボール等のスポーツ衣料等の材料として、好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各評価項目は次の方法で測定した。
(1)極限粘度[η]
フェノール/テトラクロロエタン、6/4(質量比)の混合溶媒中20℃で常法により求めた。
(2)MFR(g/10分)
測定法は、JIS K 6922−2に従った。
(3)強度、伸度
島津製作所製オートグラフAGSを用いた引張試験を行い、測定長:200mm、引張り速度:200mm/分の条件下にて、繊維が破断したときの破断強さをそれぞれ5回測定し、その平均値を求めて、強度とした。
(4)染色性
得られた仮撚加工糸を用いて丸編みにし、精練した後、染料D/N BLUEACE1.0%owf、酢酸0.2ml/L、イオネットRP1.0g/L、の染浴中、浴比1:20にて130℃で60分染色させ、目視での観察から、○(染色性良好)、×(染色性不良)として評価した。
(5)耐摩擦溶融性
得られた仮撚加工糸を用いて丸編みにし、JIS L1056(B法)に準拠してローター型摩擦溶融試験を用いる方法にて実施した。10秒間押し当てた後の布帛表面の様子を次の三段階○(擦過跡のみ)、△(一部溶融跡あり)、×(試料が破損し穴あき有り)で評価した。
(6)紡糸操業性
24時間紡糸した際に、一度も糸切れのなかったものを○、糸切れ発生したものを×とした。
(7)仮撚操業性
仮撚加工を実施した際の操業性を、以下の基準で評価した。
○:糸切れなし、サージングなし
×:糸切れ発生、他異常の発生
(8)伸縮復元率
JIS L1013 8.12に準じて測定した。
(9)残留トルク
0.2g/dexの荷重下で25cm長の撚数を検撚器で測定し、得られた撚数(T/25cm)を4倍して、残留トルク(T/m)を算出した。
【0054】
[実施例1]
極限粘度[η]が0.64のポリエチレンテレフタレートとMFRが7.0で密度が0.964の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製)を使用し、相溶化剤として、エチレン―グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学社製ボンドファースト、グレード:2C)を使用して、それぞれ表1に示す所定量に配合しドライブレンドした後、二軸混練押出機に供給し、混練温度270℃、スクリュー回転数250rpmの条件にて溶融混練し、冷却ペレット化して芯部に使用するポリマーアロイを得た。一方、鞘部として、極限粘度[η]が0.64のポリエチレンテレフタレートを使用した。それぞれのポリマーを乾燥後に複合紡糸機に導入しポリマーアロイとポリエチレンテレフタレートの容積比率を2:1として溶融し、
図1(A)の芯部にポリマーアロイ、鞘部にポリエチレンテレフタレートとなるように紡糸口金から押し出し、通常の方法で油剤付与後、紡速4300m/分のPOY法にて、150dtex/24fの芯鞘型複合繊維(POY糸)を得た。得られた芯鞘型複合繊維を用い、ヒーター温度200℃、糸速760m/分、撚数3100T/mの条件にて、フリクション方式で1.785倍に延伸しながら糸速度760m/分にて仮撚加工を行ったところ、伸縮性及び嵩高性が良好な仮撚加工糸を得た。得られた仮撚加工糸は、繊度84dtex/24f、伸縮復元率が26%、残留トルクがZ方向50T/m以上、強度が3.3cN/dtex、伸度は30%であった。さらにこの仮撚加工糸を用いて、丸編みを作製し、耐摩擦溶融性評価および染色性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様に紡糸口金から押し出し、通常の方法で油剤を付与し、紡速1600m/分で芯鞘型複合繊維の未延伸糸を巻き取った。得られた未延伸糸を、3.120倍で延伸し、84dtex/24fの芯鞘型複合繊維(延伸糸)を得た。得られた芯鞘型複合繊維を、ピン方式で糸速度120m/分、ヒーター温度200℃、撚数3100T/mにて仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸は、伸縮性及び嵩高性が良好であった。またこの仮撚加工糸は繊度84dtex/24f、伸縮復元率が25%、残留トルクはZ方向50T/m以上、強度は3.3cN/dtex、伸度は30%であった。さらにこの仮撚り加工糸を用いて、丸編みを作製し、耐摩擦溶融性評価および染色性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
極限粘度[η]が0.64のポリエチレンテレフタレートを用いて、84dtex/24fでの単独繊維を得た。得られた繊維を、実施例1と同様に仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の物性及び評価を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
芯成分としてMFR2.3の高密度ポリエチレン、鞘成分として極限粘度[η]が0.64のポリエチレンテレフタレートを用いて、容積比率を1:3とする以外は、実施例1と同様に、84dtex/24fの芯鞘型複合繊維を得た。得られた芯鞘型複合繊維を、実施例1と同様に仮撚加工を行ったところ、鞘部に亀裂が生じ、芯成分である高密度ポリエチレンの露出が確認され、白粉が多量に発生し、糸切れが多発したが、仮撚加工糸は少量得られた。得られた仮撚加工糸の物性及び評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
実施例1で得た芯部のポリマーアロイのみの単独成分で紡糸し、84dtex/24fの繊維を得た。紡糸の際、一部表面に高密度ポリエチレンが露出し、白粉が発生し、糸切れも多発した。得られた繊維を実施例1と同様に仮撚加工したところ、白粉が発生し、糸切れも多発したが、仮撚加工糸をごく少量得ることができた。得られた仮撚加工糸の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1、2より得られた仮撚加工糸は、紡糸工程・仮撚工程・染色等の後工程とも、芯鞘剥離が生じなかった。またこれらの仮撚加工糸は伸縮性及び嵩高性に優れるうえ、耐摩擦溶融性にも優れ、また染色工程でも、染色斑なく染色でき、耐久性も良好で、伸縮性及び嵩高性にも優れていた。
比較例1から得られたポリエチレンテレフタレート単独繊維を用いた仮撚加工糸は、耐摩擦溶融性に劣り、また比較例2から得られた芯部をポリエチレン、鞘部をポリエチレンテレフタレートとした芯鞘型複合繊維からなる仮撚加工糸は、芯鞘剥離が生じ、染色性が不良であるうえ、実施例品と比べて耐摩擦溶融性に劣っていた。また、比較例3から得られたポリマーアロイのみからなる繊維は、紡糸工程、仮撚工程とも、白粉が発生し糸切れが多発し、染色した際には染色斑が生じ、耐摩擦溶融性も不良であった。