(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年では、燃費向上の観点から、種々の内燃機関(例えば、リーンバーン内燃機関や直噴内燃機関等)の開発が進められている。内燃機関の開発が進むに従って、着火性とスパークプラグの耐久性との更なる向上が、望まれている。しかし、着火性とスパークプラグの耐久性との向上は、容易ではなかった。
【0005】
本発明の主な利点は、着火性とスパークプラグの耐久性とを向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に配置される中心電極と、前記絶縁体の径方向の周囲に配置される主体金具と、前記主体金具に接合され前記中心電極の先端面との間で間隙を形成する棒状の接地電極と、を有するスパークプラグと、
前記スパークプラグの前記中心電極と前記接地電極とのうちの前記間隙を形成する部分が露出する燃焼室の一部を形成し、N個(Nは1以上の整数)の吸気バルブとM個(Mは1以上の整数)の排気バルブとを有するエンジンヘッドと、
を有する内燃機関であって、
前記接地電極は、前記主体金具に接合されて前記主体金具から前記中心電極の先端側まで延びる軸部と、前記軸部から突出して前記間隙を形成する突出部と、を含み、
閉じた状態の前記N個の吸気バルブと、閉じた状態の前記M個の排気バルブと、前記スパークプラグとを、前記中心電極の軸線に垂直である投影面上に投影した場合において、
前記M個の排気バルブのM個のそれぞれの中心位置の重心位置から、前記N個の吸気バルブのN個のそれぞれの中心位置の重心位置へ向かう方向をバルブ配置方向としたとき、前記軸線から前記バルブ配置方向に向かう方向を、第1方向とし、
前記軸線から、前記主体金具と前記接地電極との接合領域の重心である重心位置へ向かう方向を、第2方向とし、
前記突出部が前記軸部から最大に突出する方向を突出方向としたとき、前記軸線から前記突出部の突出方向に向かう方向を、第3方向とし、
前記軸線と前記接合領域の前記重心位置との間の距離を距離LAとし、
前記軸部の前記第2方向の厚さを厚さLBとし、
前記軸部の前記第2方向と垂直な方向の幅を幅LCとし、
前記第1方向と前記第2方向との間の小さい方の角度を第1角度αとし、
前記第1方向と前記第3方向との間の、前記第1方向から前記第2方向に前記第1角度αで向かう周方向の角度を第2角度βとしたときに、
α<βが満たされ、
以下の式(1)、(2)が満たされる、内燃機関。
【数1】
【数2】
【0008】
この構成によれば、燃焼室内のガス流がスパークプラグの間隙に到達することが接地電極によって抑制される可能性を低減できる。この結果、着火性を向上できる。また、火花放電がガス流に流される場合に、火花放電が接地電極の突出部上を移動可能であるので、火花放電が消失することを抑制でき、この結果、着火性を向上できる。また、火花放電が接地電極の軸部に移動する可能性を低減できるので、軸部の意図しない消耗を抑制できる。この結果、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の内燃機関であって、
以下の式(3)が満たされる、内燃機関。
【数3】
【0010】
この構成によれば、燃焼室内のガス流がスパークプラグの間隙に到達することが接地電極によって抑制される可能性を更に低減できる。この結果、着火性を更に向上できる。また、火花放電が接地電極の軸部に移動する可能性を更に低減できるので、軸部の意図しない消耗を抑制できる。この結果、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または2に記載の内燃機関であって、
前記投影面上において、
前記突出部の幅は、前記軸部の前記幅LCよりも小さく、
前記第2方向と前記第3方向とがなす角度は、0度より大きく180度よりも小さい、
内燃機関。
【0012】
この構成によれば、軸部の縁のうち突出部に隠されずに中心電極から見える部分を小さくできるので、火花放電が接地電極の軸部に移動することを抑制できる。この結果、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1から3のいずれか1項に記載の内燃機関であって、
前記投影面上において、前記軸部からの前記突出部の前記突出方向の突出長さである第1突出長は、0.5mm以上である、
内燃機関。
【0014】
この構成によれば、火花放電が接地電極の突出部から軸部に移動することを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれか1項に記載の内燃機関であって、
前記突出部は、さらに、前記軸部の前記中心電極側の表面である内表面から前記中心電極側に突出しており、
前記軸部の前記内表面からの前記軸線と平行な方向の前記突出部の突出長さである第2突出長は、0.5mm以上である、
内燃機関。
【0016】
この構成によれば、接地電極の軸部による火炎からの熱の吸収が抑制されるので、着火性を向上できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1から5のいずれか1項に記載の内燃機関であって、
前記突出部の体積は、5mm
3以下であり、
前記投影面上において、前記軸部からの前記突出部の前記突出方向の突出長さである第1突出長は、3.5mm以下である、
内燃機関。
【0018】
この構成によれば、振動に対する突出部の耐久性を向上できる。
【0019】
[適用例7]
適用例1から6のいずれか1項に記載の内燃機関であって、
前記突出部は、前記軸部の先端部に接合されており、
前記投影面上において、前記突出部の少なくとも一部は、前記軸部の先端面の少なくとも一部と、重なっている、
内燃機関。
【0020】
この構成によれば、火花放電が接地電極の突出部から軸部に移動することを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0021】
[適用例8]
適用例1から7のいずれか1項に記載の内燃機関に用いられるスパークプラグであって、
軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の先端側に配置される中心電極と、前記絶縁体の径方向の周囲に配置される主体金具と、前記主体金具に接合され前記中心電極の先端面との間で間隙を形成する棒状の接地電極と、を有し、
前記内燃機関は、前記スパークプラグの前記中心電極と前記接地電極とのうちの前記間隙を形成する部分が露出する燃焼室の一部を形成し、N個(Nは1以上の整数)の吸気バルブとM個(Mは1以上の整数)の排気バルブとを有するエンジンヘッドを有し、
前記接地電極は、前記主体金具に接合されて前記主体金具から前記中心電極の先端側まで延びる軸部と、前記軸部から突出して前記間隙を形成する突出部と、を含み、
閉じた状態の前記N個の吸気バルブと、閉じた状態の前記M個の排気バルブと、前記スパークプラグとを、前記中心電極の軸線に垂直である投影面上に投影した場合において、
前記M個の排気バルブのM個のそれぞれの中心位置の重心位置から、前記N個の吸気バルブのN個のそれぞれの中心位置の重心位置へ向かう方向をバルブ配置方向としたとき、前記軸線から前記バルブ配置方向に向かう方向を、第1方向とし、
前記軸線から、前記主体金具と前記接地電極との接合領域の重心である重心位置へ向かう方向を、第2方向とし、
前記突出部が前記軸部から最大に突出する方向を突出方向としたとき、前記軸線から前記突出部の突出方向に向かう方向を、第3方向とし、
前記軸線と前記接合領域の前記重心位置との間の距離を距離LAとし、
前記軸部の前記第2方向の厚さを厚さLBとし、
前記軸部の前記第2方向と垂直な方向の幅を幅LCとし、
前記第1方向と前記第2方向との間の小さい方の角度を第1角度αとし、
前記第1方向と前記第3方向との間の、前記第1方向から前記第2方向に前記第1角度αで向かう周方向の角度を第2角度βとしたときに、
α<βが満たされ、
以下の式(4)、(5)が満たされる、スパークプラグ。
【数4】
【数5】
【0022】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、内燃機関用のスパークプラグ、そのスパークプラグを備える内燃機関等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
A.第1実施形態:
図1は、内燃機関の一例の説明図である。図中には、内燃機関700の複数(例えば、4個)の燃焼室(シリンダとも呼ばれる)のうちの1個の燃焼室790の概略断面図が示されている。内燃機関700は、エンジンヘッド710と、シリンダブロック720と、ピストン750と、スパークプラグ100と、を含んでいる。ピストン750は、図示しないコネクティングロッドに連結され、コネクティングロッドは、図示しないクランクシャフトに連結されている。
【0025】
シリンダブロック720は、燃焼室790のうちの一部(略円筒状の空間)を形成するシリンダ壁729を有している。シリンダブロック720の一方向側(
図1の上側)には、エンジンヘッド710が固定されている。エンジンヘッド710は、燃焼室790の端部を形成する内壁719と、燃焼室790に連通する吸気ポート712を形成する第1壁711と、吸気ポート712を開閉可能な吸気バルブ730と、燃焼室790に連通する排気ポート714を形成する第2壁713と、排気ポート714を開閉可能な排気バルブ740と、スパークプラグ100を取り付けるための取付孔718と、を有している。ピストン750は、シリンダ壁729によって形成される空間内を、往復動する。ピストン750のエンジンヘッド710側の面759と、シリンダブロック720のシリンダ壁729と、エンジンヘッド710の内壁719と、に囲まれる空間が、燃焼室790に相当する。スパークプラグ100の中心電極20と接地電極30とは、燃焼室790に露出している。図中の中心軸CLは、中心電極20の中心軸CLである(軸線CLとも呼ぶ)。
【0026】
図2は、スパークプラグ100と吸気バルブ730と排気バルブ740との配置例を示す投影図である。この投影図は、スパークプラグ100の中心電極20の軸線CLに垂直な投影面上に要素100、730、740を投影することによって得られる投影図である。図示された要素100、730、740は、1個の燃焼室790(
図1)の要素である。図中では、バルブ730、740を表す領域のそれぞれに、ハッチングが付されている。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の内燃機関700の1個の燃焼室790には、1個のスパークプラグ100と、2個の吸気バルブ730と、2個の排気バルブ740と、が設けられている。投影図中のバルブ730、740は、いずれも、閉じた状態のバルブ730、740を示している。また、投影図中のバルブ730、740は、いずれも、燃焼室790内から見える部分を示している。以下、2個の吸気バルブ730を区別する場合には、符号「730」の末尾に識別子(ここでは、「a」または「b」)を付加する。2個の排気バルブ740についても、同様である。
【0028】
図中には、バルブ730a、730b、740a、740bのそれぞれの中心位置C3a、C3b、C4a、C4bが、示されている。これらの中心位置C3a、C3b、C4a、C4bは、それぞれ、
図2に示す投影面上におけるバルブ730a、730b、740a、740bを表す領域の重心位置を示している。例えば、第1中心位置C3aは、第1吸気バルブ730aを表す領域の重心位置である。なお、領域の重心は、領域内に質量が均等に分布していると仮定した場合の重心の位置である。
【0029】
図中には、2個の重心位置C3、C4が示されている。吸気重心位置C3は、2個の吸気バルブ730a、730bのそれぞれの中心位置C3a、C3bの重心位置である。排気重心位置C4は、2個の排気バルブ740a、740bのそれぞれの中心位置C4a、C4bの重心位置である。なお、複数の中心位置の重心位置は、各中心位置に同じ質量が配置されていると仮定した場合の重心の位置である。
【0030】
図中には、第1方向D1が示されている。第1方向D1は、排気重心位置C4から吸気重心位置C3に向かう方向を「バルブ配置方向」としたときに、中心軸CLからバルブ配置方向に向かう方向である(第1方向D1は、バルブ配置方向と平行である)。スパークプラグ100の点火時には、吸気バルブ730から排気バルブ740に向かう方向、すなわち、第1方向D1とは反対の方向のガス流が、スパークプラグ100の電極20、30の近傍を流れ得る。
【0031】
次に、スパークプラグ100の構成について、説明する。
図3は、スパークプラグの一例の断面図である。図中には、中心電極20の中心軸CLが示されている。本実施形態では、中心電極20の中心軸CLは、スパークプラグ100の中心軸と同じである。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLと平行な方向のうち、
図3における上方向を先端方向Dfと呼び、下方向を後端方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、
図3における先端方向Df側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図3における後端方向Dfr側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0032】
スパークプラグ100は、絶縁体10(以下「絶縁碍子10」とも呼ぶ)と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、先端側パッキン8と、タルク9と、第1後端側パッキン6と、第2後端側パッキン7と、を備えている。
【0033】
絶縁体10は、中心軸CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、先端側胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、後端側胴部18と、を有している。第1縮外径部15の外径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(
図3の例では、先端側胴部17)には、後端側から先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、先端側から後端側に向かって、徐々に小さくなる。
【0034】
絶縁体10の軸孔12の先端側には、中心軸CLに沿って延びる棒状の中心電極20が挿入されている。中心電極20は、軸部27と、中心軸CLを中心として中心軸CLに沿って延びる略円柱状のチップ部28と、を備えている。軸部27は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端(すなわち、軸部27の先端)には、チップ部28が接合されている(例えば、レーザ溶接)。チップ部28の全体は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。鍔部24の先端方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、軸部27は、外層21と芯部22とを有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料、すなわち、内燃機関の燃焼室内で燃焼ガスに曝された場合の消耗が少ない材料(例えば、純ニッケル、ニッケルとクロムとを含む合金、等)で形成されている。芯部22は、芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅合金、等)で形成されている。芯部22の後端部は、外層21から露出し、中心電極20の後端部を形成する。芯部22の他の部分は、外層21によって被覆されている。ただし、芯部22の全体が、外層21によって覆われていても良い。また、チップ部28は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0035】
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40の一部が挿入されている。端子金具40は、導電性材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。
【0036】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための、略円柱形状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、導電性材料(例えば、炭素粒子)と、セラミック粒子(例えば、ZrO
2)と、ガラス粒子(例えば、SiO
2−B
2O
3−Li
2O−BaO系のガラス粒子)と、を含む材料を用いて形成されている。抵抗体70と中心電極20との間には、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70の材料に含まれるものと同じガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を含む材料を用いて、形成されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続される。
【0037】
主体金具50は、中心軸CLに沿って延びて主体金具50を貫通する貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電性材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端(本実施形態では、後端側胴部18の後端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。
【0038】
主体金具50は、先端側から後端側に向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関(例えば、ガソリンエンジン)の取付孔に螺合するためのネジ部52が形成されている。座部54とネジ部52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
【0039】
主体金具50は、変形部58よりも先端方向Df側に配置された縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、鉄製でO字形状のリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
【0040】
工具係合部51の形状は、スパークプラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。また、加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端(すなわち、後端方向Dfr側の端)を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。加締部53の先端方向Df側では、主体金具50の内周面と、絶縁体10の外周面と、の間に、第1後端側パッキン6と、タルク9と、第2後端側パッキン7とが、先端方向Dfに向かってこの順番に、配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製でC字形状のリングである(他の材料も採用可能である)。
【0041】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向Df側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
【0042】
接地電極30は、棒状の軸部37と、軸部37から突出する突出部38と、を有している。軸部37の一端は、主体金具50の先端面57(すなわち、先端方向Df側の面57)に接合されている(例えば、抵抗溶接)。軸部37は、主体金具50の先端面57から先端方向Dfに向かって延び、中心軸CLに向かって曲がって、先端部31に至る。先端部31は、中心電極20の先端方向Df側に配置されている。突出部38は、軸部37の先端部31に接合されている(例えば、レーザ溶接)。突出部38の後端方向Dfr側の面39は、チップ部28の先端面29(すなわち、先端方向Df側の面29)との間で間隙gを形成する。以下、突出部38の後端方向Dfr側の面39を、「間隙面39」と呼ぶ。
【0043】
軸部37は、軸部37の表面を形成する母材35と、母材35内に埋設された芯部36と、を有している。母材35は、耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルとクロムとを含む合金)を用いて形成されている。芯部36は、母材35よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅)を用いて形成されている。突出部38は、軸部37よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0044】
図4は、中心電極20と接地電極30との概略図である。
図4(A)は、絶縁体10と中心電極20と接地電極30とのそれぞれの間隙gの近傍の部分の斜視図である。
図4(B)は、中心軸CLと垂直な後述する第2方向D2に平行な方向を向いて見た概略図である。
図4(C)は、中心軸CLと垂直な後述する第3方向D3に平行な方向を向いて見た概略図である。
図4(D)は、中心電極20と接地電極30と主体金具50との配置例を示す投影図である。この投影図は、中心電極20の軸線CLに垂直な投影面上に要素20、30、50を投影することによって得られる投影図である。
【0045】
図4(D)に示すように、接地電極30の軸部37は、主体金具50の先端面57に接合されている。本実施形態では、先端面57は、中心軸CLとおおよそ垂直である。図中のハッチングが付された領域350は、軸部37と主体金具50との接合領域350を示している。本実施形態では、軸部37の断面の形状は、矩形である。接合領域350の形状は、軸部37の断面の形状と、おおよそ同じである。図中の重心350cは、接合領域350の重心である。以下、中心軸CLから重心350cへ向かう方向を、第2方向D2と呼ぶ。
【0046】
図4(D)中には、距離LAと厚さLBと幅LCとが示されている。距離LAは、中心軸CLと重心350cとの間の距離である。厚さLBは、軸部37のうちの接合領域350の近傍における第2方向D2の厚さである。幅LCは、軸部37のうちの接合領域350の近傍における、第2方向D2と垂直な方向の幅である。本実施形態では、厚さLBと幅LCとは、軸部37のうちの中心軸CLとおおよそ平行に延びる部分の厚さと幅とを示している。
【0047】
接地電極30の軸部37は、主体金具50の先端面57から、径方向の内側に向かって、中心軸CLの手前まで、延びている。
図4(C)に示すように、軸部37の先端面37hは、中心軸CLとおおよそ平行な平面であり、中心軸CLから離れた位置に配置されている。
【0048】
図4(A)に示すように、軸部37の先端面37hには、突出部38が接合されている。突出部38は、棒状の部材である。突出部38の断面形状は、矩形状である。
図4(A)、
図4(D)に示すように、突出部38は、中心軸CLから径方向の外側に向かって延びている。そして、突出部38は、軸部37の先端面37hから、第2方向D2と交差する方向に、突出している。突出部38が軸部37から最大に突出する方向を突出方向と呼ぶ。この突出方向は、棒状の突出部38の延びる方向(すなわち、棒状の突出部38の軸線方向)と平行である。図中の第3方向D3は、中心軸CLから突出方向に向かう方向である(第3方向D3は、突出方向と平行である)。本実施形態では、突出部38は、中心軸CLから第3方向D3に向かって延びている。また、本実施形態では、第3方向D3は、第2方向D2と垂直である。図中の第1突出長Tは、
図4(D)に示す投影面上における、軸部37からの突出部38の第3方向D3の突出長さである。すなわち、第1突出長Tは、
図4(D)の投影面上において、第3方向D3に延びる棒状の突出部38のうち、突出部38と軸部37との接触面Csの第3方向D3側の端Cseよりも第3方向D3側の部分の長さである。図中の幅Wは、
図4(D)の投影面上における、第3方向D3と垂直な方向の突出部38の幅である。突出部38の幅Wは、軸部37の幅LCよりも小さい。
【0049】
図4(B)、
図4(C)に示すように、突出部38の表面のうち後端方向Dfr側の間隙面39は、中心軸CLとおおよそ垂直な平面である。この間隙面39のうち中心軸CLの近傍の部分は、中心電極20の先端面29(本実施形態では、チップ部28の先端面29)と対向して、間隙gを形成する。また、間隙面39は、中心軸CLから第3方向D3に向かって延びている。なお、
図4(D)の例では、第3方向D3は、第1方向D1の反対方向を向いている。ただし、第3方向D3が第1方向D1の反対方向とは異なるように、内燃機関700に対してスパークプラグ100が取り付けられてもよい。
【0050】
図5は、絶縁体10と中心電極20と接地電極30とのそれぞれの間隙gの近傍の部分の側面図である。この側面図は、中心軸CLと垂直な方向に平行な方向を向いて見た概略構成を示している。図中では、左方向が第1方向D1であり、右方向が第3方向D3であり、上方向が先端方向Dfであり、下方向が後端方向Dfrである。図中では、軸部37を透過して見た突出部38が示されている。
【0051】
図中の矢印G1は、間隙gの近傍での混合気の流れ(すなわち、内燃機関の燃焼室内の混合気の流れ)を示している(以下、「ガス流G1」と呼ぶ)。このガス流G1は、第1方向D1の反対方向D1r(以下「風下方向D1r」と呼ぶ)に沿って、間隙gを通り抜ける流れである。このようなガス流G1は、種々の種類の内燃機関の気筒内で、生じ得る。間隙gで生じる火花放電は、このガス流G1によって風下へ吹き流され得る。
【0052】
図中の放電経路P1〜P5は、火花放電の経路の例を示している。第1経路P1は、火花放電がガス流G1に流されない場合の経路の例であり、突出部38の間隙面39からチップ部28の先端面29に至る中心軸CLと略平行な経路である。第2経路P2〜第5経路P5は、火花放電がガス流G1に流される場合の経路の例である。図中の端E1〜E5は、接地電極30の表面上の放電経路の端である。5個の端E1〜E5は、それぞれ、5個の放電経路P1〜P5の端を示している。経路の番号(すなわち、経路に付された符号の数字)が大きいほど、その経路の端は中心軸CLから遠い位置まで流されている。
【0053】
図5の例では、突出部38が風下方向D1rに向かって延びている。従って、放電経路P1〜P5のそれぞれの端E1〜E5は、突出部38の間隙面39上に位置している。
図4(D)に示す端E1〜E5は、
図5の端E1〜E5を、それぞれ示している。このように、火花放電がガス流G1に流される場合に、火花放電が突出部38上を移動可能であるので、火花放電の消失を抑制できる。この結果、着火性を向上できる。また、火花放電が突出部38上を移動する場合には、火花放電が軸部37上を移動する場合と比べて、軸部37の意図しない消耗を抑制できる。なお、
図5では、全ての放電経路P1〜P5の中心電極20上の端Exが、チップ部28の先端面29の縁29eに位置している。ただし、中心電極20上の端Exは、他の位置に配置され得る。
【0054】
図6、
図7は、好ましい第2方向D2を説明するための説明図である。図中には、
図4(D)と同様の投影図が示されている。
図6の右上部には、中心軸CLを中心とする電極角度γの説明図が示されている。電極角度γは、中心軸CLを中心とする軸部37を見込む角γwの半分である。図中の2個の端301、302は、軸部37の周方向の両端である。軸部37を見込む角γwは、中心軸CLから見た2個の端301、302の間の角度である。これらの端301、302は、軸部37のうちの接合領域350の近傍(本実施形態では、中心軸CLとおおよそ平行に延びる部分)における端である。中心軸CLから軸部37側を見る場合、軸部37は、一端301から他端302までの範囲を、カバーしている。
【0055】
図中の中点303は、2個の端301、302の中点である。中心軸CLから見る場合、中点303は、重心350cと同じ方向(すなわち、第2方向D2)に位置している。電極角度γは、中点303と一端301と中心軸CLとがなす直角三角形を用いて、算出可能である。中点303と一端301との間の距離は、LC/2である。中点303と中心軸CLとの間の距離は、LA−LB/2である。中点303を頂点とする内角は、90度(°)である。以上により、γ=tan
−1((LC/2)/(LA−LB/2))=tan
−1((LC)/(2*LA−LB))である。ここで、演算記号「*」は乗算記号であり、関数「tan
−1」は、tanの逆関数である(以下、同様)。
【0056】
図6、
図7には、第1角度αが示されている。この第1角度αは、第1方向D1と第2方向D2との間の小さい方の角度である。
図6は、第1角度αが電極角度γよりも小さい場合を示している。
図7は、第1角度αが電極角度γよりも大きい場合を示している。
【0057】
図6に示すように、α<γである場合、軸部37(特に、主体金具50との接合領域350)は、中心軸CLから第1方向D1に延びる直線と重なる位置に配置される。すなわち、軸部37は、中心軸CL(すなわち、間隙g)に流入するガス流G1(すなわち、混合気)の進路上に配置される。この結果、混合気が間隙gに到達しにくくなるので、着火性が低下し得る。
【0058】
図7に示すようにα>γである場合、軸部37(特に、接合領域350)は、中心軸CLから第1方向D1に延びる直線から離れた位置に配置される。すなわち、軸部37は、ガス流G1の進路から離れた位置に配置される。従って、ガス流G1は、容易に、間隙gに到達することができる。この結果、
図6の場合(α<γ)と比べて、着火性の低下を抑制できる。
図7中の第1差分ε1は、第1角度αから電極角度γを引いた差分である。
図7に示すように0°≦α≦90°である場合、ガス流G1が容易に間隙gに到達するためには、第1差分ε1が大きいことが好ましい。
【0059】
図8、
図9は、好ましい第2方向D2と第3方向D3とを説明するための説明図である。図中には、
図4(D)と同様の投影図が示されている。図中の対象周方向Dtは、双方向の周方向(すなわち、時計回り方向と反時計回り方向)のうち、第1方向D1から第2方向D2に第1角度αで向かう周方向である。
図8の例では、対象周方向Dtは、反時計回り方向である。第1角度αは、第1方向D1から第2方向D2までの対象周方向Dtの角度である。第2角度βは、第1方向D1から第3方向D3までの対象周方向Dtの角度である。
【0060】
図中の二分方向D23は、第2方向D2と第3方向D3との間を二分する方向である。この二分方向D23は、対象周方向Dtに沿って第2方向D2から第3方向D3へ至る角度範囲を二分する方向である。
【0061】
図8は、第1方向D1から二分方向D23までの対象周方向Dtの角度A23が180度よりも大きい場合を示している。この場合、第3方向D3よりも第2方向D2の方が、風下方向D1rに近い。ここで、上述したように、火花放電は、風下方向D1r側に向かって流れ得る。
図8の場合、中心軸CL(すなわち、間隙g)から見ると、軸部37の延びる方向D2は、突出部38の延びる方向D3よりも、風下方向D1rに近い。従って、火花放電は、突出部38よりも軸部37に沿って、移動し易い。この結果、軸部37が意図せず消耗する場合がある。
【0062】
図9は、二分方向D23の角度A23が、180度よりも小さい場合を示している。中心軸CL(間隙g)から見ると、突出部38の延びる方向D3は、軸部37の延びる方向D2よりも、風下方向D1rに近い。従って、火花放電は、軸部37よりも突出部38に沿って、移動し易い。この結果、軸部37の意図しない消耗を抑制できる。
図9中の第2差分ε2は、180度から二分方向D23の角度A23を引いた差分である。
図9に示すようにα<βである場合、火花放電が軸部37に沿って流れることを抑制するためには、第2差分ε2が大きいことが好ましい。
【0063】
なお、火花放電が突出部38上を移動するためには、中心軸CLから見て突出部38が風下方向D1r側に向かって延びていることが好ましい。具体的には、第2角度βが、90度以上、かつ、270度以下であることが好ましい。また、火花放電が軸部37上ではなく突出部38上を移動するためには、第1角度αが第2角度βよりも小さいことが好ましい。
【0064】
B.第1評価試験:
スパークプラグ100のサンプルを用いて、第1角度αの好ましい下限を評価する試験を行った。スパークプラグ100のサンプルは、ガス流G1(ここでは、空気の流れ)が間隙gを通り抜け得る環境下に、配置された。そして、スパークプラグ100のサンプルに電源が接続された。電源は、スパークプラグ100のサンプルに電気エネルギーを供給することによって、間隙gにて火花放電を生成した。スパークプラグのサンプルとしては、構成が互いに異なる2種類のサンプルが、評価された。各サンプルの構成は、以下の通りであった。
パラメータ :第1サンプル :第2サンプル
距離LA :5mm :5mm
厚さLB :1.5mm :2mm
幅LC :3mm :3.5mm
電極角度γ :19.4度 :23.6度
なお、サンプルの他の構成は、共通であった。例えば、突出部38の材料は、イリジウム(Ir)合金であった。突出部38の幅W(
図4(D))は、0.5mmであった。突出部38の第1突出長T(
図4(D))は、0.5mmであった。突出部38の体積は、0.875mm
3であった。チップ部28の外径Dd(
図4(C))は、0.5mmであった。ガス流G1の流速は、5m/secであった。以下の表1は、第1サンプルの試験結果を示している。表2は、第2サンプルの試験結果を示している。
【0067】
表1と表2とは、試験条件の番号と、第1角度α(単位は度)と、吹き流れの可能性の評価結果と、の対応関係を示している。第1角度αは、
図7で説明した第1差分ε1と電極角度γとの和で表されている。γは、表1(第1サンプル)では、19.4度であり、表2(第2サンプル)では、23.6度であった。第1角度α(すなわち、第1差分ε1)は、ガス流G1の向きに対するスパークプラグ100のサンプルの向きを調整することによって、調整された。第1差分ε1としては、0度と5度と10度と15度との4個の値が評価された。
【0068】
吹き流れは、接地電極30上の放電位置が、中心電極20の先端面29と対向する対向領域の外に移動することである。対向領域は、中心軸CLに垂直な投影面上で先端面29と重なる部分である。例えば、
図7では、突出部38の間隙面39のうち、ハッチングが付された領域39xが、先端面29と対向する領域を示している(以下「対向領域39x」と呼ぶ)。本評価試験では、高速度カメラを用いて所定の試験回数(ここでは、100回)の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像から接地電極30上の放電位置を特定した。A評価は、全ての放電で放電位置が対向領域39xの外に移動したことを示している。B評価は、少なくとも1回の放電で放電位置が対向領域39xの外に移動しなかったことを示している。
【0069】
表1、表2に示すように、第1差分ε1が「0度」または「5度」である場合には、各サンプルにおいて、吹き流れの可能性がB評価であった。この理由は、ガス流G1が間隙gに到達することが、軸部37によって抑制されたからだと推定される。第1差分ε1が「10度」または「15度」である場合には、各サンプルにおいて、吹き流れの可能性がA評価であった。この理由は、ガス流G1が、軸部37に制限されずに、間隙gに到達できたからだと推定される。このように、ガス流G1(すなわち、混合気)が容易に間隙gに到達するためには、第1差分ε1が10度以上であることが好ましい。すなわち、第1角度αが、10度+tan
−1((LC)/(2*LA−LB))以上であることが好ましい。
【0070】
なお、評価された第1差分ε1に限らず、第1差分ε1が大きいほど、ガス流G1に対する軸部37の影響が小さくなると推定される。従って、第1差分ε1としては、15度よりも大きい値を採用可能である。例えば、第1差分ε1が20度以上であることが、さらに好ましい。すなわち、第1角度αが、20度+tan
−1((LC)/(2*LA−LB))以上であることが、さらに好ましい。このように、第1差分ε1を大きくすることによって、内燃機関700に対するスパークプラグ100の取付誤差(すなわち、第1方向D1に対する第2方向D2の取付誤差)が大きい場合であっても、ガス流G1が間隙gに到達することが軸部37によって抑制される可能性を低減できる。
【0071】
また、第1角度αの上記の好ましい下限は、評価された2種類のサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。例えば、軸部37の幅LCが小さいほど、軸部37がガス流G1を抑制する可能性を低減できる。従って、幅LCとしては、評価された最小の幅LCである3mmよりも小さい値を採用可能である。なお、接地電極30の折損を抑制するためには、幅LCが大きいことが好ましい。例えば、幅LCが2mm以上であることが好ましい。
【0072】
また、第1角度αの上記の好ましい下限を採用することによって、軸部37(特に接合領域350)を、中心軸CLから第1方向D1に延びる直線から離れた位置に配置可能である。従って、第1角度αの上記の好ましい下限を採用する場合には、評価された最大の幅LCである3.5mmよりも大きい幅LCを採用可能と推定される。なお、スパークプラグの小型化のためには、幅LCが小さいことが好ましい。例えば、幅LCが4mm以下であることが好ましい。
【0073】
距離LAと厚さLBとは、幅LCと比べて、ガス流G1に与える影響が小さいと推定される。従って、距離LAと厚さLBとしては、評価された値に限らず、他の種々の値を採用可能と推定される。
【0074】
C.第2評価試験:
スパークプラグ100の上記の第1と第2のサンプルを用いて、第1角度αの好ましい上限を評価する試験を行った。第2評価試験は、第1評価試験と同様に、ガス流G1が間隙gを通り抜け得る環境下で、行われた。ガス流G1の流速は、5m/secであった。以下の表3は、第1サンプルの試験結果を示している。表4は、第2サンプルの試験結果を示している。
【0077】
表3と表4とは、試験条件の番号と、第1角度α(単位は、度)と、軸部37への飛火の可能性の評価結果と、の対応関係を示している。第1角度αは、「135度−第2差分ε2」で表されている。第2差分ε2は、
図9で説明した角度ε2である。135度は、第2差分ε2がゼロである場合の第1角度αである。各サンプルでは、第2方向D2と第3方向D3との間の角度、すなわち、「β−α」が90度である。従って、第2差分ε2=ゼロの場合、第1角度αは、180−(β−α)/2=180−45=135である。第1角度α(すなわち、第2差分ε2)は、ガス流G1の向きに対するスパークプラグ100のサンプルの向きを調整することによって、調整された。第2差分ε2としては、0度と5度と10度と15度との4個の値が評価された。
【0078】
軸部37への飛火は、接地電極30上の放電位置が、軸部37に移動することである。本評価試験では、高速度カメラを用いて上記の試験回数の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像から接地電極30上の放電位置を特定した。A評価は、全ての放電で放電位置が軸部37に移動しなかったことを示している。B評価は、少なくとも1回の放電で放電位置が軸部37に移動したことを示している。
【0079】
表3、表4に示すように、第2差分ε2が「0度」または「5度」である場合には、各サンプルにおいて、軸部37への飛火の可能性がB評価であった。一方、第2差分ε2が「10度」または「15度」である場合には、各サンプルにおいて、軸部37への飛火の可能性がA評価であった。このように、軸部37への飛火を抑制するためには、第2差分ε2が10度以上であることが好ましい。すなわち、第1角度αが、「180度−(β−α)/2−10度」以下であることが好ましい。
【0080】
なお、評価された第2差分ε2に限らず、第2差分ε2が大きいほど、軸部37への飛火を抑制できると推定される。従って、第2差分ε2としては、15度よりも大きい値を採用可能である。例えば、第2差分ε2が20度以上であることが、さらに好ましい。すなわち、第1角度αが、「180度−(β−α)/2−20度」以下であることが、さらに好ましい。このように、第2差分ε2を大きくすることによって、内燃機関700に対するスパークプラグ100の取付誤差(すなわち、第1方向D1に対する第2方向D2の取付誤差)が大きい場合であっても、軸部37への飛火を抑制できる。
【0081】
なお、軸部37への飛火の可能性は、第1方向D1に対する第2方向D2と第3方向D3とのそれぞれの相対的な角度から、大きな影響を受けると推定される。具体的には、軸部37の延びる方向(第2方向D2)よりも突出部38の延びる方向(第3方向D3)が風下方向D1rに近い場合には、突出部38への飛火が生じ易い。逆に、突出部38の延びる方向(第3方向D3)よりも軸部37の延びる方向(第2方向D2)が風下方向D1rに近い場合には、軸部37への飛火が生じ易い。このような傾向は、スパークプラグ100の方向D2、D3以外の他の構成に拘わらず、同様であると推定される。
【0082】
以上により、第1角度αの上記の好ましい上限は、評価された2種類のサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。例えば、第2方向D2と第3方向D3との間の角度、すなわち、「β−α」としては、90度以外の種々の値を採用可能である。例えば、90度未満の値(例えば、60度)を採用してもよい。また、90度を超える値(例えば、120度)を採用してもよい。また、距離LAと厚さLBと幅LCとのそれぞれとしては、評価された値とは異なる値を採用してもよい。
【0083】
D.第3評価試験:
スパークプラグ100のサンプルを用いて、第1突出長T(
図4(D)の好ましい下限を評価する試験を行った。本評価試験では、第1突出長Tが互いに異なる複数のサンプルを用いて、軸部37への飛火の可能性を評価した。複数のサンプルの間では、第1突出長T以外の構成(距離LAと厚さLBと幅LCとを含む)は、上記の第1サンプルと同じであった。また、本評価試験では、第1評価試験と同様に、ガス流G1が間隙gを通り抜け得る環境下で、行われた。ガス流G1の流速は、上記の評価試験よりも速い10m/secであった。このように、第4評価試験は、上記の評価試験よりも厳しい条件下で、行われた。また、第1角度αは、150度であった(第2角度βは、190度)。以下の表5は、第4評価試験の結果を示している。
【0085】
表5は、試験条件の番号と、第1突出長T(単位はmm)と、軸部37への飛火の可能性の評価結果と、の対応関係を示している。軸部37への飛火の可能性は、以下のように評価された。高速度カメラを用いて上記の試験回数の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像から接地電極30上の放電位置を特定した。A評価は、全ての放電で放電位置が軸部37に移動しなかったことを示している。B評価は、少なくとも1回の放電で放電位置が軸部37に移動したことを示している。
【0086】
表5に示すように、第1突出長Tが「0.3mm」または「0.4mm」である場合には、軸部37への飛火の可能性がB評価であった。第1突出長Tが「0.5mm」または「0.6mm」である場合には、軸部37への飛火の可能性がA評価であった。第1突出長Tが短い場合に軸部37への飛火の可能性が高くなる理由は、火花放電が、突出部38に移動した後に軸部37に移動し易いからである。突出部38に移動した火花放電が更に軸部37に移動することを抑制するためには、第1突出長Tが長いことが好ましい。例えば、第1突出長Tが0.5mm以上であることが好ましく、第1突出長Tが0.6mm以上であることがさらに好ましい。
【0087】
なお、第1突出長Tの好ましい下限は、評価されたサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。また、第1突出長Tの好ましい下限は、評価された角度α、βとは異なる角度α、βにも、適用可能と推定される。なお、第1突出長Tが0.5mm以下であってもよい。この場合も、角度α、βを調整することによって、軸部37への飛火を抑制できると推定される。
【0088】
E.第4評価試験:
スパークプラグ100のサンプルを用いて、第1突出長T(
図4(D)の好ましい上限を評価する試験を行った。本評価試験では、第1突出長Tが互いに異なる複数のサンプルを用いて、振動試験を行った。複数のサンプルの間では、第1突出長T以外の構成(距離LAと厚さLBと幅LCとを含む)は、上記の第1サンプルと同じであった。例えば、突出部38の体積は、第1突出長Tが最も長いサンプルにおいて、5mm
3であった。そして、第1突出長Tが小さいほど、突出部38の体積も小さかった。以下の表6は、評価試験の結果を示している。
【0090】
表6は、試験条件の番号と、第1突出長T(単位はmm)と、突出部38の振動耐久性の評価結果と、の対応関係を示している。突出部38の振動耐久性は、以下の振動試験に従って、評価された。すなわち、振動試験器にスパークプラグ100のサンプルを取り付け、バーナーによって接地電極30を摂氏900度に加熱しつつ、サンプルに対して、60Gの加速度の振動を、200Hzで(すなわち、毎分12000回の割合で)、10
5(=100000)回与える試験を行った。A評価は、10
5回の振動を与えた後に、突出部38と、突出部38と軸部37との溶接部分と、のいずれにも折損が生じなかったことを示している。B評価は、10
5回の振動を与えた後に、突出部38と、突出部38と軸部37との溶接部分と、の少なくとも一方に折損が生じたことを示している。
【0091】
表6に示すように、第1突出長Tが、2.5、3、3.5(mm)のいずれかである場合、突出部38の振動耐久性はA評価であった。第1突出長Tが4mmである場合、突出部38の振動耐久性はB評価であった。第1突出長Tが長い場合に振動耐久性が低下する理由は、第1突出長Tが長い場合には、突出部38のうちの接合領域350の近傍の部分に振動によって大きな力が働くからである。振動耐久性を向上するためには、第1突出長Tが短いことが好ましい。例えば、第1突出長Tが3.5mm以下であることが好ましく、第1突出長Tが3mm以下であることが特に好ましく、第1突出長Tが2.5mm以下であることが最も好ましい。
【0092】
なお、第1突出長Tの好ましい上限は、評価されたサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。例えば、突出部38の体積が小さいほど、振動耐久性は向上する。従って、突出部38の体積が5mm
3以下である種々の構成に、第1突出長Tの上記の好ましい上限を適用可能である。ただし、第1突出長Tが、3.5mmを超えていてもよい。
【0093】
F.第2実施形態:
図10は、第2実施形態のスパークプラグ100bの概略図である。
図10(A)は、
図4(A)と同じ斜視図を示し、
図10(B)、
図10(C)は、
図4(B)、
図4(C)とそれぞれ同じ側面図を示している。
図4の第1実施形態のスパークプラグ100との差異は、2点ある。第1の差異は、接地電極30bの軸部37bが、中心軸CLと重なる位置まで延びている点である。第2の差異は、突出部38が、軸部37bの中心電極20側の表面である内表面37sに接合されている点である。スパークプラグ100bの他の構成は、第1実施形態のスパークプラグ100の構成と、同じである。以下、スパークプラグ100bの要素のうちスパークプラグ100の要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0094】
図10(C)には、間隙距離Dgと第2突出長Hとが示されている。間隙距離Dgは、間隙gの距離である。本実施形態では、間隙距離Dgは、チップ部28の先端面29と突出部38の間隙面39との間の距離(中心軸CLと平行な距離)である。
【0095】
第2突出長Hは、軸部37bの内表面37sからの中心軸CLと平行な方向の突出部38の突出長さである。
図10(C)の例では、軸部37bの内表面37sと、突出部38の中心電極20側の面39と、の間の中心軸CLと平行な距離である。突出部38は、軸部37bの内表面37sから、第2突出長Hだけ、中心電極20側に突出している。逆に、軸部37bは、
図4の第1実施形態と比べて、第2突出長Hだけ、間隙gから離れている、ということもできる。間隙距離Dgが同じ場合、第2突出長Hが大きいほど、軸部37bが間隙gから遠くなるので、軸部37bによる消炎作用を抑制できると推定される。ここで、消炎作用は、軸部37bが熱を吸収することによる火炎を消火する作用である。すなわち、間隙距離Dgが同じ場合、第2突出長Hが大きいほど、着火性を向上できると推定される。
【0096】
G.第2方向D2と第3方向D3との間の角度δ
図11は、第2方向D2と第3方向D3との間の角度δの好ましい範囲の説明図である。
図10(A)〜
図10(C)に示す実施形態では、第2方向D2と第3方向D3との間の角度が90度である。ここで、突出部38の延びる方向(第3方向D3)は、中心軸CLを中心として、任意の方向に設定可能である。すなわち、第2方向D2と第3方向D3との間の角度を、種々の角度に調整可能である。
図11(A)、
図11(B)には、中心軸CLに垂直な投影面上に投影された軸部37bと突出部38とが示されている。角度δは、第2方向D2と第3方向D3との間の小さい方の角度である。
図11(A)は、角度δが180度である場合を示している。
図11(B)は、角度δが180度未満である場合を示している(角度δは、おおよそ150度)。また、突出部38の幅Wは、軸部37bの幅LCよりも、小さい。
【0097】
図中では、突出部38の輪郭と軸部37bの輪郭とが実線で示されている。本実施形態では、このような輪郭は、尖った隅を表している。火花放電は、電極上の尖った隅で生じ易く、また、電極上の尖った隅に沿って移動し易い。
【0098】
図中には、軸部37bの先端面37bhが示されている。第2実施形態では、先端面37bhは、中心軸CLと平行であり、また、第2方向D2と垂直である。図示された軸部37bの輪郭は、先端面37bhの縁を含んでいる。また、図中には、軸部37bの輪郭(ここでは、先端面37bhの縁)のうちの一部分Pc1、Pc2が、二重線で示されている。これらの部分Pc1、Pc2は、軸部37bの輪郭のうち、突出部38に隠されて中心電極20から見えない部分を示している(以下、「遮蔽部分Pc1、Pc2」と呼ぶ)。
【0099】
遮蔽部分Pc1、Pc2は、突出部38に隠れて中心電極20から見えないので、軸部37bの遮蔽部分Pc1、Pc2では、火花放電は生じない。従って、遮蔽部分の長さが長いほど、軸部37bの縁のうちの中心電極20から見える部分を小さくできるので、軸部37bへの飛火を抑制できると推定される。図中の長さLw1、Lw2は、それぞれ、遮蔽部分Pc1、Pc2の長さを示している。
図11(A)の長さLw1は、幅Wと同じである。
図11(B)の長さLw2は、幅Wよりも大きい。従って、
図11(B)の構成では、
図11(A)の構成よりも、軸部37bへの飛火が生じ難いと推定される。
【0100】
一般的に、遮蔽部分の長さLwは、以下の式で表される。Lw=W/cos(180−δ)。ただし、長さLwの最大値は、幅LCである。遮蔽部分の長さLwを、突出部38の幅Wよりも大きくするためには、角度δが、0度よりも大きく180度よりも小さいことが好ましい。ここで、角度δが小さい場合には、突出部38の第3方向D3側の端38hが軸部37bに近くなるので、突出部38の端38hから軸部37bへ火花放電が移動し易くなる。軸部37bへの飛火を抑制するためには、例えば、角度δが45度以上であることが好ましい。また、遮蔽部分の長さLwをより大きくするためには、例えば、角度δが170度以下であることが好ましい。ただし、角度δが170度を超えていても良い(例えば、180度)。
【0101】
H.第5評価試験:
第2実施形態のスパークプラグ100bのサンプルを用いて、第2角度βの好ましい範囲を評価する試験を行った。第5評価試験は、第1評価試験と同様に、ガス流G1が間隙gを通り抜け得る環境下で、行われた。ガス流G1の流速は、5m/secであった。スパークプラグ100bのサンプルとしては、軸部37bの構成が互いに異なる2種類のサンプルが、評価された。第1種サンプルでは、距離LAと厚さLBと幅LCとが、第1実施形態の第1サンプルと同じであった。そして、第2角度βが互いに異なる複数の第1種サンプルが評価された。第2種サンプルでは、距離LAと厚さLBと幅LCとが、第1実施形態の第2サンプルと同じであった。そして、第2角度βが互いに異なる複数の第2種サンプルが評価された。以下の表7は、第1種サンプルの試験結果を示している。表8は、第2種サンプルの試験結果を示している。なお、各サンプルにおいて、第1角度αは、45度に固定された。
【0104】
表7と表8とは、試験条件の番号と、第2角度β(単位は、度)と、飛火位置の評価結果と、の対応関係を示している。飛火位置の評価結果は、接地電極30b上の放電位置が軸部37bと突出部38とのいずれに移動し易いかを表している。本評価試験では、高速度カメラを用いて上記の試験回数の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像から接地電極30b上の放電位置を特定した。A評価は、全ての放電で放電位置が突出部38上で移動したことを示している。B評価は、少なくとも1回の放電で放電位置が軸部37bに移動したことを示している 。
【0105】
表7、表8に示すように、第2角度βが90度以上270度以下である場合には、各サンプルにおいて、飛火位置の評価結果がA評価であった。一方、第2角度βが「85度」または「275度」である場合には、各サンプルにおいて、飛火位置の評価結果がB評価であった。このように、軸部37への飛火を抑制するためには、第2角度βが90度以上270度以下であることが好ましい。すなわち、突出部38が、風下方向D1rと垂直な方向、あるいは、風下方向側に向かって延びる構成を採用することが好ましい。
【0106】
A評価を実現した第2角度βは、90、95、150、180、265、270(度)であった。これらの値から任意に選択された値を、第2角度βの好ましい範囲(下限以上、上限以下)の下限として採用可能である。例えば、第2角度βとしては、95度以上の値を採用してもよい。また、これらの値のうち、下限以上の任意の値を上限として採用可能である。例えば、第2角度βとしては、265度以下の値を採用してもよい。
【0107】
なお、突出部38が風下方向側に向かって延びる場合には、接地電極の構成に拘わらずに、風下方向側に移動する火花放電を突出部38上に導くことができると推定される。従って、第2角度βの上記の好ましい範囲は、評価されたサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。例えば、第1角度αが45度と異なっていても良い。
【0108】
I.第6評価試験:
第2実施形態のスパークプラグ100bのサンプルを用いて、第2突出長Hの好ましい下限を評価する試験を行った。以下の表9は、試験結果を示している。
【0110】
表9は、試験条件の番号と、第2突出長H(単位はmm)と、空燃比(A/F)と、の対応関係を示している。空燃比は、燃焼変動率が5%となる空燃比を示している。燃焼変動率は、燃焼圧力から図示平均有効圧力(IMEP、Indicated Mean Effective Pressure)を求め、500サンプルの平均値と標準偏差に基づいて、「(燃焼変動率)=(標準偏差/平均値)×100(%)」として求められた値である。本評価試験では、スパークプラグ100bのサンプルを、排気量が1500ccのガソリンエンジンに装着し、750rpmの回転速度でアイドリング運転を行い、空燃比を薄くすることによって、燃焼変動率の悪化を調べた。
【0111】
また、本評価試験では、第2突出長Hが互いに異なる6種類のスパークプラグ100bのサンプルが評価された。第2突出長Hの調整は、軸部37bに凹部を形成し、突出部38の一部を軸部37bの凹部内に配置することによって、行われた。
図10(D)は、突出部38の一部が軸部37bの凹部37br内に配置されたスパークプラグ100bの概略図である。図中には、
図10(C)と同じ側面図が示されている。図示するように、軸部37bの第2方向D2とは反対方向D2r側の端部の中心電極20側の隅に凹部37brが形成されている。この凹部37brは、中心軸CLと平行な壁37b1と中心軸CLと垂直な壁37b2とによって形成されており、突出部38の延びる方向と同じ方向に向かって延びている。突出部38の一部は、この凹部37brに、嵌め込まれている。この結果、
図10(C)の例と比べて、第2突出長Hが小さい。なお、6種類のサンプルの間では、以下のパラメータは共通であった。例えば、距離LAと厚さLBと幅LCとは、第1実施形態の第1サンプルと同じであった。また、第1角度αは、おおよそ150度であった(第2角度βは、190度)。間隙距離Dgは、1mmであった。
【0112】
表9に示すように、第2突出長Hが大きいほど、空燃比を薄くすることができた。すなわち、第2突出長Hが大きいほど、着火性が良好であった。特に、第2突出長Hが0.5mm以上である場合には、空燃比を20以上に薄くすることができた。
【0113】
なお、20以上の空燃比を実現した第2突出長Hは、0.5、0.6、0.7(mm)であった。従って、これらの値から任意に選択された値を、第2突出長Hの好ましい範囲(下限以上、上限以下)の下限として採用してもよい。例えば、第2突出長Hとしては、0.5mm以上の値を採用してもよい。そして、これらの値のうち、下限以上の任意の値を上限として採用してもよい。例えば、第2突出長Hとしては、0.7mm以下の値を採用してもよい。なお、評価された第2突出長Hに限らず、第2突出長Hが大きいほど、着火性を向上できる推定される。従って、第2突出長Hとしては、0.7mmよりも大きい値を採用可能であると推定される。なお、スパークプラグの小型化のためには、第2突出長Hが小さいことが好ましい。例えば、第2突出長Hが1.5mm以下であることが好ましい。
【0114】
なお、第2突出長Hの上記の好ましい範囲は、評価されたサンプルとは異なる構成を有するスパークプラグにも適用可能と推定される。例えば、接地電極の軸部37bの厚さLBと幅LCとが、評価されたサンプルの値と異なっていてもよい。また、第2突出長Hが、0.5mm未満であってもよい。例えば、
図4(A)に示す実施形態のように、第2突出長Hがゼロmmであってもよい。
【0115】
J.接地電極の別の実施形態
接地電極の構成としては、
図4、
図10に示す構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。
図12、
図13は、接地電極の別の実施形態を示す概略図である。以下、
図4のスパークプラグ100、または、
図10のスパークプラグ100bの要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。また、各図中には、第1突出長Tが示されている。
【0116】
図12(A)のスパークプラグ100cでは、接地電極30cの突出部38cの中心軸CLと平行な方向の厚さが、軸部37の厚さと同じである。スパークプラグ100cの他の構成は、
図4(A)のスパークプラグ100の構成と同じである。
【0117】
図12(B)のスパークプラグ100dでは、接地電極30dの突出部38dの第3方向D3とは反対方向D3r側の端38deが、軸部37の先端面37hの反対方向D3r側の端37heよりも、第3方向D3側に配置されている。これにより、突出部38dが火炎の伝播を抑制する可能性を低減できる。スパークプラグ100dの他の構成は、
図12(A)のスパークプラグ100cの構成と同じである。
【0118】
図12(C)のスパークプラグ100eでは、接地電極30eの突出部38dの一部が、軸部37eに形成された凹部37erに、嵌め込まれている。凹部37erは、軸部37eの第2方向D2とは反対方向D2r側の端部の中心電極20側の隅に、形成されている。この凹部37erは、軸部37eの第3方向D3側の一部分に形成されている。この軸部37eに、
図12(B)と同じ突出部38dの一部が、嵌め込まれている。突出部38dは、軸部37eの内表面37esから中心軸CLと平行な方向に沿って中心電極20に向かって突出している。これにより、軸部37eを間隙gから遠ざけることができるので、着火性を向上できる。スパークプラグ100eの他の構成は、
図12(B)のスパークプラグ100dの構成と同じである。
【0119】
図13(A)のスパークプラグ100fでは、接地電極30fの突出部38fの第3方向D3と垂直な断面の形状が三角形である。突出部38fは、軸部37の先端面37hに接合される第1面38f1と、中心電極20と対向する第2面38f2と、先端方向Df側の面である第3面38f3と、を有している。第2面38f2と第3面38f3とは、中心軸CLに対して斜めに傾斜している。これにより、突出部38fが火炎の伝播を抑制する可能性を低減できる。スパークプラグ100fの他の構成は、
図12(A)のスパークプラグ100cの構成と同じである。
【0120】
図13(B)のスパークプラグ100gでは、接地電極30gの突出部38gの第3方向D3と垂直な断面の形状が三角形である。突出部38gは、軸部37の先端面37hに接合される第1面38g1と、中心電極20と対向する第2面38g2と、先端方向Df側の面である第3面38g3と、を有している。第3面38g3は、中心軸CLと垂直である。第2面38g2は、中心軸CLに対して斜めに傾斜している。これにより、突出部38gが火炎の伝播を抑制する可能性を低減できる。スパークプラグ100gの他の構成は、
図12(A)のスパークプラグ100cの構成と同じである。
【0121】
K.変形例:
(1)接地電極の構成としては、上述の構成に限らず、他の構成を採用してもよい。例えば、
図13(A)の第2面38f2が、中心軸CLと垂直であってもよい。また、
図10の実施形態において、突出部38の代わりに、
図12(B)の突出部38dと、
図13(B)の突出部38gとのいずれかを採用してもよい。また、
図6から
図9の説明図において、第2方向D2が、第1方向D1を、時計回り方向に第1角度α(すなわち、第1方向D1と第2方向D2との間の小さい方の角度)回転させた方向となるように、接地電極が構成されていてもよい。
【0122】
一般的には、突出部が軸部の先端部に接合されており、そして、中心電極の軸線に垂直である投影面上において、突出部の少なくとも一部が軸部の先端面の少なくとも一部と重なっていることが好ましい。例えば、
図4(D)の実施形態では、突出部38の第2方向D2側の面が、軸部37の先端面37hと重なっている。
図10(A)の例では、投影面の図示を省略するが、突出部38の第2方向D2の反対方向D2r側の面38rが、軸部37bの先端面37bhと重なっている。
図11(A)、
図11(B)の例では、先端面37bhのうちの遮蔽部分Pc1、Pc2が、突出部38と重なっている。
図12(A)、
図12(B)、
図13(A)、
図13(B)の実施形態では、投影面の図示を省略するが、突出部38c、38d、38f、38gのうちの軸部37の先端面37hに接合された面が、先端面37hと重なる。
図12(C)の実施形態では、突出部38dのうちの凹部37erから第2方向D2の反対方向D2r側に突出する部分が、軸部37eの先端面37ehと重なる。
【0123】
このように、中心電極の軸線に垂直である投影面上において、突出部の少なくとも一部が軸部の先端面の少なくとも一部と重なっていれば、火花放電が軸部の先端面に移動することを抑制できる。この結果、スパークプラグの耐久性を向上できる。なお、
図11(A)、
図11(B)の実施形態のように、投影面上において突出部38が軸部37bの先端面37bhを横切るように配置されている場合に限らず、
図4(D)の実施形態のように突出部38が軸部37の先端面37hに接合されている場合と、
図10(A)の実施形態のように軸部37bの先端面37bhと突出部38の1つの面38rとが同一平面上にある場合とにも、投影面上において突出部の少なくとも一部が軸部の先端面の少なくとも一部と重なっている、ということができる。
【0124】
(2)スパークプラグ100の構成としては、上記の構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、中心電極20のチップ部28の外径Dd(
図4(C))としては、0.5mmに限らず、他の種々の値を採用可能である。一般には、外径Ddが大きいほど、チップ部28の消耗に起因して間隙距離Dgが広くなることを抑制できる。例えば、外径Ddが0.3mm以上であることが好ましい。また、スパークプラグが大きくなることを抑制するためには、外径Ddが小さいことが好ましい。例えば、外径Ddが1.6mm以下であることが好ましい。また、中心電極20のチップ部28が省略されてもよい。
【0125】
(3)内燃機関700の構成としては、上記の構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、1個の燃焼室790の吸気バルブ730の総数は、1個、または、3個以上であってもよい。また、1個の燃焼室790の排気バルブ740の総数は、1個、または、3個以上であってもよい。
【0126】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。