【文献】
NIWA, Eiki et al.,Conductivity and sintering property of LaNi1-xFexO3 ceramics prepared by Pechini method,Solid State Ionics,2011年,Volume 201, Issue 1,p.87-93
【文献】
JULPHUNTHONG, Phongthorn et al.,The Effects of Firing Temperatures and Dwell Time on Phase and Morphology Evolution of LaNi0.6Fe0.4O,Ferroelectrics,2013年,Volume 454, Issue 1,p.135-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガスセンサ素子の電極に関しては、小さな電気抵抗値や耐熱性だけでなく、機械的な衝撃に対する耐性(耐衝撃性)も必要である。特に、ガスセンサ素子の電極は、ガスの検出に用いられる検知電極部と、検知電極部で検出した出力信号を外部回路に出力するためのリード部を備えている。このうち、リード部は、外部回路と電気的に接続する接続端子と接触する場合があるが、この場合には耐衝撃性が特に必要となる。これに対し、導電性酸化物は、貴金属材料に比べて脆く耐衝撃性が低いので、ガスセンサ素子の電極材料として単に導電性酸化物を用いただけは、十分な耐衝撃性を得ることができず、ガスセンサ素子やガスセンサに対する要求性能を満足できないという問題が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、軸線方向に延び、酸素イオン伝導性を有するZrO
2を含む固体電解質体と、前記固体電解質体の一方の表面に設けられて被測定ガスと接する外側電極と、前記固体電解質体の他方の表面に設けられて基準ガスと接する内側電極と、を有すると共に、前記内側電極は、前記軸線方向の先端側に配置され、被測定ガス中の特定ガスを検知するために用いられる内側検知電極部と、前記内側検知電極部よりも後端側に配置されると共に、前記内側検知電極部に接続しつつ、外部出力するための接続端子が接触する内側リード部と、を含むガスセンサ素子が提供される。前記内側電極は、組成式:La
aM
bNi
cO
x(MはCoとFeのうちの一種以上、a+b+c=1、1.25≦x≦1.75)で表されペロブスカイト型結晶構造を有するペロブスカイト相を主成分とする導電性酸化物層を含み、前記a,b,cが、0.459≦a≦0.535、0.200≦b≦0.475、0.025≦c≦0.350を満たす。前記内側リード部は、前記導電性酸化物層と前記固体電解質体との間に、ランタンジルコネート層を有し、前記内側検知電極部は、(i)前記導電性酸化物層と前記固体電解質体との間にランタンジルコネート層が形成されていないか、又は、(ii)前記導電性酸化物層と前記固体電解質体との間に形成されたランタンジルコネート層が、前記内側リード部の前記ランタンジルコネート層よりも薄い、という特徴を有する。
このガスセンサ素子によれば、内側リード部の導電性酸化物層と固体電解質体との間に、ランタンジルコネート層を有するので、ランタンジルコネート層を両側から挟む導電性酸化物層と固体電解質体の密着性が良好になり、内側リード部の耐衝撃性が向上する。一方、内側検知電極部では、導電性酸化物層と固体電解質体との間にランタンジルコネート層が形成されていないか、又は、ランタンジルコネート層が内側リード部のランタンジルコネート層よりも薄く形成されている。これは、ランタンジルコネート層が高抵抗層であるために内側検知電極部と固体電解質体との間の界面抵抗が過度に上昇することを抑制できる。
【0008】
(2)上記ガスセンサ素子において、前記内側検知電極部と前記固体電解質体との間に、希土類添加セリアが主成分として含まれてなる反応防止層を有するものとしても良い。
この構成によれば、反応防止層が、導電性酸化物層のLaと固体電解質体のZrO
2との反応を生じ難くするので、仮に反応防止層が無い場合にはランタンジルコネート層が形成されてしまうようなガスセンサ素子であっても、反応防止層を設けることで、ランタンジルコネート層の形成を防止する、もしくはランタンジルコネート層の形成を薄くできる。なお、「希土類添加セリアが主成分として含まれてなる」とは、反応防止層に希土類添加セリアが最も含まれてなることをさす。
【0009】
(3)上記ガスセンサ素子において、前記反応防止層は、前記ガスセンサ素子がガスセンサに組み込まれる際に前記ガスセンサ素子を保持する保持部材の位置よりも前記ガスセンサ素子の前記先端側の位置のみに設けられているものとしても良い。
ガスセンサ素子は、ガスセンサに組み込まれる際に、主体金具等のハウジングに挿入され、ハウジングとガスセンサ素子との間に配置された滑石等の保持部材によって保持される場合がある。この場合、ガスセンサ素子において、固体電解質体のうち保持部材が配置される部分の外表面には、保持部材によりかなり大きな圧縮応力が掛かる。一方、この圧縮応力の影響により、固体電解質体のうち保持部材が配置される部分の内表面には引張応力が掛かり、その結果、反応防止層にクラックが発生してしまうことがある。そこで、反応防止層を保持部材の位置よりもガスセンサ素子の先端側の位置のみに設けるようにすれば、反応防止層がこの引張応力の影響を受けず、反応防止層にクラックが発生することを抑制できる。
【0010】
(4)上記ガスセンサ素子において、前記内側検知電極部は、前記反応防止層と前記導電性酸化物層の間に形成された中間導電層を有し、前記導電性酸化物層は、希土類添加セリアを含まず、前記組成式で表されるペロブスカイト相で形成されており、前記中間導電層は、前記組成式で表されるペロブスカイト相と、希土類添加セリアとを含むものとしても良い。
この構成によれば、導電性酸化物層が希土類添加セリアを含まないので、室温における導電性酸化物層の電子伝導性が高くなり、電気抵抗値を低下させることが可能である。一方、導電性酸化物層に希土類添加セリアを含まないので、反応防止層との密着性が低下することがあるが、ペロブスカイト相と、希土類添加セリアとを含む中間導電層を反応防止層と導電性酸化物層との間に形成することで、反応防止層と導電性酸化物層との密着性を向上することができる。その上、内側検知電極部の中間導電層は、ペロブスカイト相と、希土類添加セリアとを含むので、ガス濃度の測定時における内側検知電極部と固体電解質体との間の界面抵抗が過度に上昇することを抑制できる。
【0011】
(5)上記ガスセンサ素子において、前記導電性酸化物層は、前記内側リード部を構成する第1導電性酸化物層と、前記内側検知電極部を構成する第2導電性酸化物層と、を含み、前記第1導電性酸化物層と前記第2導電性酸化物層は、いずれも前記ペロブスカイト相と、希土類添加セリアとを含んでおり、前記第2導電性酸化物層における希土類添加セリアの含有割合は、前記第1導電性酸化物層における希土類添加セリアの含有割合以上であるものとしても良い。
この構成によれば、内側検知電極部を構成する導電性酸化物層において希土類添加セリアの含有割合を増やすことにより、内側検知電極部の組織が多孔になり、3相界面が増えて界面抵抗を小さくすることができる。また、内側リード部では、希土類添加セリアの含有割合を減らすことにより、内側リード部の組織が緻密になり、電子伝導性が向上するとともに、内側リード部自体の強度が増して耐衝撃性が更に向上する。
【0012】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガスセンサ素子、及び、ガスセンサ素子を備えたガスセンサ、並びに、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.ガスセンサの構成
図1は、本発明の第1実施形態としてのガスセンサ300の構成を示す断面図である。ガスセンサ300は、軸線Oに沿って伸長する細長形状を有している。以下の説明では、
図1の下方側を先端側と呼び、上方側を後端側と呼ぶ。また、軸線Oと垂直な方向であって、軸線Oから外部に向かう方向を「径方向」と呼ぶ。このガスセンサ300は、酸素濃度センサであり、例えば、自動車の排気ガス中の酸素濃度を検出するために用いることができる。ガスセンサ300は、ガスセンサ素子10と、主体金具20と、プロテクタ62と、外筒40と、保護外筒38と、後述する電極配線構造(電極およびリード線)と、を備えている。
【0015】
ガスセンサ素子10は、イオン伝導性(酸素イオン伝導性)の固体電解質体11の両面に一対の電極が設けられた酸素センサ素子であり、酸素濃淡電池として機能して酸素分圧に応じた検出値を出力する。このガスセンサ素子10は、外径が先端に向かってテーパ状に縮径する有底筒状の固体電解質体11と、固体電解質体11の先端部の外表面に形成された外側電極100と、固体電解質体11の内表面に形成された内側電極200(基準参照電極)と、を備えている。使用時には、ガスセンサ素子10の内部空間を基準ガス雰囲気とし、ガスセンサ素子10の外表面に被検出ガスを接触させた状態で、ガスの検知を行う。ガスセンサ300の後端からは、内側電極200からの検出信号を取り出すためのリード線60が引き出されている。ガスセンサ素子10の軸線方向の中ほどには、径方向に突出した鍔部12が全周に渡って形成されている。
【0016】
主体金具20は、ガスセンサ素子10を取り囲む金属(例えばステンレス鋼)製の部材であり、主体金具20の先端部からはガスセンサ素子10の先端部が突出している。主体金具20の内表面には、先端方向に向かって内径が縮径する段部20bが設けられている。また、主体金具20の中央付近には、六角レンチ等の取り付け工具を係合させるために、径方向外側に突出した多角形状の鍔部20cが設けられている。さらに、鍔部20cよりも先端側の外表面には、雄ねじ部20dが形成されている。主体金具20の雄ねじ部20dを、例えば内燃機関の排気管のネジ孔に取付けて、ガスセンサ素子10の先端を排気管内に配置することにより、被検出ガス(排気ガス)中の酸素濃度の検知が可能になる。鍔部20cの先端側の面と雄ねじ部20dの後端との間の段部には、さらに、ガスセンサ300を排気管に取付けた際のガス抜けを防止するガスケット29が嵌挿される。
【0017】
プロテクタ62は、金属(例えばステンレス鋼)製の筒状の部材であり、主体金具20の先端部から突出するガスセンサ素子10の先端部を覆っている。プロテクタ62の後端部は、径方向外側に向かって屈曲されている。この後端部が、ガスセンサ素子10の鍔部12の先端側の面と、主体金具20の段部20bとに挟まれることによって、プロテクタ62が固定されている。主体金具20とガスセンサ素子10とを組み付ける際には、まず、主体金具20の後端側から、プロテクタ62を主体金具20内に挿入し、プロテクタ62の後端部を、主体金具20の段部20bに当接させる。そして、主体金具20の後端側から、ガスセンサ素子10をさらに挿入し、鍔部12の先端側の面をプロテクタ62の後端部に当接させる。後述するように、ガスセンサ素子10の鍔部12の先端側の面には外側電極100のリングリード部115が設けられており、このリングリード部115とプロテクタ62とを介して、外側電極100が主体金具20と導通する。なお、プロテクタ62には、排気ガスをプロテクタ62の内部に取り込むための複数の孔部が形成されている。この複数の孔部からプロテクタ62内に流入した排気ガスは、被検出ガスとして外側電極100に供給される。
【0018】
ガスセンサ素子10の鍔部12の後端側と、主体金具20との間の空隙には、滑石粉末を含む粉体材料が圧縮充填された粉体充填部31(特許請求の範囲の保持部材に相当)が配置されており、ガスセンサ素子10と主体金具20の隙間がシールされている。そして、粉体充填部31の後端側には、筒状の絶縁部材(セラミックスリーブ)32が配置されている。
【0019】
外筒40は、ステンレス鋼等の金属材料で形成された部材であり、ガスセンサ素子10の後端部を覆うように、主体金具20の後端部に接合されている。主体金具20の後端部の内表面と、外筒40の先端部の外表面との間には、ステンレス鋼等の金属材料で形成された金属リング33が配置されている。そして、外筒40の先端部が主体金具20の後端部にて加締められることにより、主体金具20と外筒40とが固定されている。この加締めを行なうことにより、鍔部20cの後端側に屈曲部20aが形成される。主体金具20の後端部に屈曲部20aを形成することにより、絶縁部材32が先端側に押し付けられて粉体充填部31を押し潰し、絶縁部材32および粉体充填部31が加締め固定されるとともに、ガスセンサ素子10と主体金具20の隙間がシールされる。
【0020】
外筒40の内側には、略円筒形状で絶縁性のセパレータ34が配置されている。セパレータ34には、セパレータ34を軸線O方向に貫通し、リード線60が挿通される挿通孔35が形成されている。リード線60は、接続端子70と電気的に接続している。接続端子70は、センサ出力を外部に取り出すための部材であり、内側電極200と接触するように配置されている。外筒40の内側には、さらに、セパレータ34の後端に接して、略円柱状のグロメット36が配置されている。グロメット36には、軸線Oに沿って、リード線60が挿通される挿通孔が形成されている。グロメット36は、例えば、シリコンゴムやフッ素ゴム等のゴム材料によって形成することができる。
【0021】
外筒40の側面のうち、グロメット36が配置される位置よりも先端側の位置には、複数の第1通気孔41が周方向に並んで開口している。そして、外筒40の後端部の径方向外側には、第1通気孔41を覆うように、環状の通気性のフィルタ37が被せられ、さらに、フィルタ37を径方向外側から金属製筒状の保護外筒38が囲んでいる。この保護外筒38は、例えばステンレス鋼によって形成することができる。保護外筒38の側面には、複数の第2通気孔39が周方向に並んで開口している。その結果、保護外筒38の第2通気孔39と、フィルタ37と、外筒40の第1通気孔41とを介して、外筒40内部、さらにはガスセンサ素子10の内側電極200へと、外気を導入可能になっている。なお、第2通気孔39の先端側と後端側で外筒40及び保護外筒38を加締めることで、外筒40と保護外筒38の間にフィルタ37を保持している。フィルタ37は、例えばフッ素系樹脂等の撥水性樹脂の多孔質構造体によって構成することができ、撥水性を有しているため外部の水を通さずにガスセンサ素子10の内部空間に基準ガス(大気)を導入可能となっている。
【0022】
図2(A)は、一実施形態におけるガスセンサ素子10の外見を示している。ガスセンサ素子10の固体電解質体11は、鍔部12と、鍔部12の先端側(
図2の左側)に設けられた有底部13と、鍔部12の後端側に設けられた基体部18と、を有している。有底部13は、先端側に向かって次第に縮径されており、その先端部が閉塞されている。基体部18は、後端に開口を有する略中空円筒状の部分である。固体電解質体11の外表面には、外側電極100が形成されている。
【0023】
外側電極100は、外側リード部110と外側検知電極部120とを有している。外側検知電極部120は、固体電解質体11の有底部13の先端側の一部の外表面を覆うように形成されている。外側検知電極部120は、被測定ガスと接する位置に設けられており、内側電極200の内側電極検知部(後述)及び固体電解質体11と共に酸素濃淡電池を構成して、被測定ガスのガス濃度に応じた起電力(電圧)を発生する。
【0024】
外側リード部110は、外側検知電極部120の後端側に接続されている。外側リード部110は、縦リード部114と、リングリード部115と、を備えている。リングリード部115は、鍔部12の先端側の面(鍔部12と有底部13との間の段差部)において、ガスセンサ素子10の全周に亘って環状に形成されている。このリングリード部115は、プロテクタ62(
図1)に接して電気的に接続される。縦リード部114は、外側検知電極部120の後端とリングリード部115とを接続するように、軸線O方向に沿って線状に形成されている。なお、外側検知電極部120の表面上に、外側検知電極部120を保護するための電極保護層(図示省略)を形成してもよい。なお、外側電極100の形状や配置は単なる一例であり、これ以外の種々の形状や配置を採用可能である。
【0025】
固体電解質体11は、酸素イオン伝導性を有するZrO
2を含む固体電解質で形成されている。この固体電解質としては、通常は安定化剤を添加した安定化ジルコニアが使用される。安定化剤としては、酸化イットリウム(Y
2O
3)や、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)等から選択される酸化物が利用可能である。
【0026】
図2(B)は、ガスセンサ素子10の縦断面図である。前述したように、固体電解質体11の内表面には、内側電極200(基準参照電極)が設けられている。この内側電極200は、内側リード部210と内側検知電極部220とを有している。
【0027】
内側検知電極部220は、固体電解質体11の先端側の一部の内表面を覆うように形成されている。内側リード部210は、内側検知電極部220の後端側に接続されており、接続端子70(
図1)と接触して電気的に接続される。内側検知電極部220と内側リード部210は、全体として固体電解質体11の内面のほぼ全面を覆うように形成されている。後述するように、内側リード部210は、内側検知電極部220に比べて高い耐衝撃性を有している。
図2(B)の例では、内側検知電極部220と内側リード部210の境界は、固体電解質体11の鍔部12の位置にある。
図1で説明したように、鍔部12の後端側には、保持部材(粉体充填部31)が配置される。粉体充填部31が配置される鍔部12の後端側の内面は、内側検知電極部220でなく、内側リード部210が形成されていることが好ましい。この理由は、粉体充填部31が配置される鍔部12の後端側の部位の外表面には、加締めによってかなり大きな圧縮応力が掛かる。これにより、鍔部12の後端側の部位の内表面には引張応力が掛かり、その結果、後述するように内側検知電極部220に設けられる反応防止層BLにクラックが発生してしまうことがある。これに対し、鍔部12の後端側の部位の内表面に内側リード部210を設けるようにすれば、反応防止層BLがこの引張応力の影響を受けず、反応防止層BLにクラックが発生することを抑制できる。
【0028】
内側検知電極部220と内側リード部210は、導電性酸化物で形成された導電体酸化物層を用いて形成されていることが好ましい。一方、外側検知電極部120や外側リード部110は、白金(Pt)等の貴金属や白金合金等の貴金属合金によって形成している。
【0029】
図2(C)は、内側検知電極部220の断面構造を拡大して示す説明図である。この内側検知電極部220は、固体電解質体11の内面に形成された導電性酸化物層OCL2で構成されており、一層構造を有する。導電性酸化物層OCL2は、以下の組成式を満たすペロブスカイト型酸化物結晶構造を有する結晶相(ペロブスカイト相)を主成分として含むことが好ましい。
La
aM
bNi
cO
x …(1)
ここで、元素MはCoとFeのうちの一種以上を表し、a+b+c=1、1.25≦x≦1.75である。係数a,b,cは以下の関係を満たすことが好ましい。
0.459≦a≦0.535 …(2a)
0.200≦b≦0.475 …(2b)
0.025≦c≦0.350 …(2c)
【0030】
上記組成式で表される組成を有するペロブスカイト型導電性酸化物は、室温(25℃)での導電率が250S/cm以上で、かつB定数が600K以下となり、これらの関係を満たさない場合に比べて導電率が高くB定数が小さいという良好な特性を有する。また、このペロブスカイト型導電性酸化物は、貴金属電極に比べて界面抵抗の活性化エネルギーが小さいので、低温においても界面抵抗を十分に小さくすることができる。なお、大気中で約600℃の環境で放置すると、Pt電極は酸化して界面抵抗が上昇するのに対して、ペロブスカイト型導電性酸化物ではこのような経時変化が起こり難いという利点もある。
【0031】
係数b,cに関しては、上記(2b),(2b)の代わりに下記の(3b),(3c)を満足することが更に好ましい。
0.200≦b≦0.375 …(3b)
0.125≦c≦0.300 …(3c)
こうすれば、導電率を更に高くするとともに、B定数を更に小さくすることができる。
【0032】
上記(1)式のO(酸素)の係数xに関しては、上記組成を有する導電性酸化物がすべてペロブスカイト相からなる場合には、理論上はx=1.5となる。但し、酸素が量論組成からずれることがあるので、典型的な例として、xの範囲を1.25≦x≦1.75と規定している。
【0033】
なお、導電性酸化物層OCL2は、上記組成のペロブスカイト相以外の他の酸化物を含んでいても良い。例えば、導電性酸化物層OCL2は、ペロブスカイト相と、セリア以外の希土類酸化物が添加されたセリア(「希土類添加セリア」と呼ぶ)と、を含むものとしてもよい。なお、以下では、この希土類添加セリアを「共素地」とも呼ぶ。セリア以外の希土類酸化物としては、La
2O
3や、Gd
2O
3、Sm
2O
3、Y
2O
3等を利用することができる。このような希土類添加セリアにおける希土類元素REの含有割合は、セリウムと希土類元素REのモル分率{RE/(Ce+RE)}に換算して、例えば、10mol%以上50mol%以下の範囲とすることができる。また、導電性酸化物層OCL2における希土類添加セリアの体積割合は、例えば、10vol%以上40vol%以下の範囲とすることができる。このような希土類添加セリアは、低温(室温)では絶縁体であるが、高温(ガスセンサ300の使用温度)では酸素イオン伝導性を有する固体電解質として機能する。従って、希土類添加セリアを含むようにすれば、ガスセンサ300の使用時において導電性酸化物層OCL2の界面抵抗値を低下させることが可能である。但し、室温における電気抵抗値を低下させるためには、希土類添加セリアを含まない方が好ましい。
【0034】
導電性酸化物層OCL2は、導電性に影響を与えない範囲で極微量のアルカリ土類金属元素を含有することが許容されるが、アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることが好ましい。こうすれば、ガスセンサ300の使用時に、室温から900℃近傍までの広い範囲の温度に導電性酸化物層OCL2が晒された場合にも、導電性酸化物層OCL2の重量変化、すなわち酸素の吸収や放出が生じ難くなる。これにより、高温環境下での使用に適した導電性酸化物層OCL2が得られる。なお、本明細書において、「アルカリ土類金属元素を実質的に無含有」とは、蛍光X線分析(XRF)によってもアルカリ土類金属元素が検出又は同定できないことを意味する。
【0035】
図2(D)は、内側リード部210の断面構造を拡大して示す説明図である。この内側リード部210は、固体電解質体11の内面に形成されたランタンジルコネート層LZLと、ランタンジルコネート層LZLの内面側に形成された導電性酸化物層OCL1とを含む多層構造を有する。導電性酸化物層OCL1は、上述した内側検知電極部220の導電性酸化物層OCL2とほぼ同様の組成とすることができる。但し、内側検知電極部220を構成する導電性酸化物層OCL2における希土類添加セリアの含有割合は、内側リード部210を構成する導電性酸化物層OCL1における希土類添加セリアの含有割合と同じか、又は、それよりも多いことが好ましい。この理由は、内側検知電極部220において希土類添加セリアの含有割合を増やすことにより、内側検知電極部220の組織が多孔になり、3相界面が増えて界面抵抗が小さくなるからである。また、内側リード部210では、希土類添加セリアの含有割合を減らすことにより、内側リード部210の組織が緻密になり、電子伝導性が向上するとともに、内側リード部210自体の強度が増して耐衝撃性が更に向上するからである。
【0036】
ランタンジルコネート層LZLは、内側リード部210の焼成時に、導電性酸化物層OCL1に含まれるランタン(La)と、固体電解質体11に含まれるZrO
2とが反応して形成された層である。このようなランタンジルコネート層LZLを、以下では「反応層LZL」とも呼ぶ。ランタンジルコネート層LZLが形成されると、ランタンジルコネート層LZLと導電性酸化物層OCL1の間、及び、ランタンジルコネート層LZLと固体電解質体11の間の密着性が高まるので、耐衝撃性が向上する。従って、内側リード部210が存在する部分では、耐衝撃性を向上させるために、導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間にランタンジルコネート層LZLが形成されていることが好ましい。
【0037】
なお、ランタンジルコネート層LZLは、酸素イオン伝導性を有していないので、内側検知電極部220(
図2(C))にはランタンジルコネート層LZLが形成されないことが好ましい。但し、酸素イオン伝導性が実用上十分に確保される程度であれば、内側検知電極部220に薄いランタンジルコネート層LZLが形成されていてもよい。換言すれば、内側検知電極部220は、(i)導電性酸化物層OCL2と固体電解質体11との間にランタンジルコネート層LZLが形成されていないか、又は、(ii)導電性酸化物層OCL2と固体電解質体11との間に形成されたランタンジルコネート層LZLが、内側リード部210の導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間に形成されたランタンジルコネート層LZLよりも薄い、ことが好ましい。こうすれば、高抵抗層であるランタンジルコネート層が形成されることで、導電性酸化物層OCL2と固体電解質体11との界面抵抗が過度に上昇することを抑制できる。
【0038】
図3は、他の実施形態におけるガスセンサ素子10aを示す説明図である。
図2との違いは、内側検知電極部220aの位置における断面構造(
図3(C))と、内側検知電極部220aと内側リード部210の境界位置(
図3(B))、の2点だけであり、他の構成は
図2と同じである。
図3(C)に示すように、内側検知電極部220aは、固体電解質体11の内面に形成された反応防止層BLと、導電性酸化物層OCL2とを含む多層構造を有する。この反応防止層BLは、希土類添加セリアで形成された酸化物層である。前述したように、希土類添加セリアは、高温では酸素イオン伝導性を有する固体電解質として機能する。このような反応防止層BLの性質を考えると、内側検知電極部220aは導電性酸化物層OCL2の一層構造であり、その内側検知電極部220a(=OCL2)と固体電解質体11との間に反応防止層BLが形成されているものと考えることが可能である。反応防止層BLは、導電性酸化物層OCL2のLaと固体電解質体11のZrO
2との反応を生じ難くする機能を有する。このような反応防止層BLを設けるようにすれば、仮に反応防止層BLが無い場合にはランタンジルコネート層LZL(反応層)が形成されてしまうような条件で焼成が行われた場合にも、ランタンジルコネート層LZLの形成を抑制できるという利点がある。
【0039】
図4は、更に他の実施形態におけるガスセンサ素子10bを示す説明図である。
図3との違いは、内側検知電極部220bの位置における断面構造(
図4(C))と、導電性酸化物層OCL1b,OCL2bの組成と、の2点だけであり、他の構成は
図3と同じである。
図4(C)に示すように、内側検知電極部220bは、固体電解質体11の内面に形成された反応防止層BLと、反応防止層BLの内面に形成された中間導電層ICLと、導電性酸化物層OCL2bとを含む多層構造を有する。なお、
図3でも説明したように、反応防止層BLを内側検知電極部220bとは別の層として考える場合には、この内側検知電極部220bは、中間導電層ICLと導電性酸化物層OCL2bとで構成された2層構造を有する。この構造は、
図3(C)の構造に中間導電層ICLを追加したものである。この中間導電層ICLは、ペロブスカイト相を主成分とし、希土類添加セリアを副成分として含むことが好ましい。中間導電層ICLは、
図2及び
図3で使用した導電性酸化物層OCL1,OCL2と同様に、高温(ガスセンサ300の使用時)においてイオン導電性と電子導電性の両方の性質を有しているので、十分に低い界面抵抗値を示す。また、この構造では、導電性酸化物層OCL1b,OCL2bを、希土類添加セリアを含まず、ペロブスカイト相のみで形成するようにしてもよい。こうすれば、室温における導電性酸化物層OCL1b,OCL2bの電子伝導性が高まるので、電気抵抗値を低下させることが可能である。
【0040】
B.製造方法
図5は、
図2に示したガスセンサ素子10の製造方法を示すフローチャートである。工程T210では、固体電解質体11の材料(例えばイットリア安定化ジルコニア粉末)をプレスし、
図2に示す形状(筒状)となるように切削し、生加工体(未焼結成形体)を得る。工程T230では、導電性酸化物のスラリーを作製する。この工程T230では、例えば、導電性酸化物の原料粉末を秤量した後、湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調整する。ペロブスカイト相の原料粉末としては、例えば、La(OH)
3又はLa
2O
3、並びに、Co
3O
4、Fe
2O
3、及びNiOを用いることができる。また、希土類添加セリアの原料粉末としては、CeO
2の他に、La
2O
3、Gd
2O
3、Sm
2O
3、Y
2O
3等を利用することができる。これらの原料粉末混合物を大気雰囲気下、700〜1200℃で1〜5時間仮焼して仮焼粉末を作製する。そして、この仮焼粉末を、湿式ボールミル等による粉砕を行い所定の粒度に調整した後、ターピネオールやブチルカルビトール等の溶媒に、エチルセルロース等のバインダとともに溶解してスラリーを作製する。
【0041】
工程T240では、外側電極100(
図2(A))の部分にPtペースト等の貴金属酸化物のスラリーを塗布し、内側リード部210の部分(
図2(B))に、導電性酸化物のスラリーを塗布する。この際、内側検知電極部220の部分には、導電性酸化物のスラリーが塗布されないように、予めマスク部材を塗布してマスクしておくとよい。工程T250では、乾燥を行った後、例えば1250℃以上1450℃以下(好ましくは1350±50℃)の焼成温度で焼成する。この際、
図2(D)に示したように、内側リード部210の導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間に、ランタンジルコネート層LZLが形成される。前述したように、ランタンジルコネート層LZLは、導電性酸化物層OCL1に含まれるランタン(La)と、固体電解質体11に含まれるZrO
2とが反応して形成された層である。なお、ランタンジルコネート層LZLの厚みは、焼成温度が高いほど厚くなり、また、希土類添加セリアの含有割合が低いほど厚くなる。従って、これらのパラメーターを調整することによって、ランタンジルコネート層LZLの厚みを調整することが可能である。
【0042】
工程T260では、導電性酸化物のスラリーを、内側検知電極部220の部分(
図2(B))に塗布する。工程T270では、乾燥を行った後、例えば800℃以上1050℃以下(好ましくは1000±50℃)の焼成温度で焼成する。工程T260における焼成温度を1050℃以下に制限すれば、ランタンジルコネート層LZLは全く形成されないか、或いは、形成されるとしても内側リード部210に形成されるランタンジルコネート層よりも薄い。この結果、
図2(C)に示したように、内側検知電極部220の導電性酸化物層OCL2と固体電解質体11との間に、ランタンジルコネート層LZLはほとんど形成されない。
【0043】
図6は、
図3に示したガスセンサ素子10aの製造方法を示すフローチャートである。工程T310は、
図5の工程T210と同じである。工程T330では、導電性酸化物のスラリーと反応防止層BL(
図3(C))のスラリーを得る。導電性酸化物のスラリーは、
図5の工程T230で作製したものと同じである。前述したように、反応防止層BLは、希土類添加セリアで形成されている。従って、反応防止層BL用のスラリーは、固相法や共沈法によって作製された市販の希土類(La
2O
3、Gd
2O
3、Sm
2O
3、又はY
2O
3等)添加セリアを、ターピネオールやブチルカルビトール等の溶媒に、エチルセルロース等のバインダとともに溶解する。工程T340では、外側電極100(
図3(A))の部分にPtペースト等の貴金属酸化物のスラリーを塗布し、反応防止層BLの部分に希土類添加セリアのスラリーを塗布する。また、反応防止層BLの内面側の内側検知電極部220a(
図3(C))の部分と内側リード部210の部分(
図3(B))とを覆うように、導電性酸化物のスラリーを塗布する。この場合には、内側検知電極部220aと内側リード部210は、同じ導電性酸化物で形成される。なお、内側検知電極部220aと内側リード部210の導電性酸化物の組成を異ならせる場合には、異なる組成のスラリーをそれぞれの部分に塗布すればよい。
【0044】
工程T350では、乾燥を行った後、例えば1250℃以上1450℃以下(好ましくは1350±50℃)の焼成温度で焼成する。この際、
図3(C)に示したように、内側検知電極部220aの導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間には、反応防止層BLが形成されているので、ランタンジルコネート層LZLは形成されない。
図6の工程は、
図5の工程に比べて焼成工程が少なくて済むので、全体の製造時間を短く出来るという利点がある。
【0045】
図7は、
図4に示したガスセンサ素子10bの製造方法を示すフローチャートである。
図7が
図6と異なる点は、2つの工程T330a,T340aのみであり、他の工程は
図6と同じである。
図7の工程T330aは、導電性酸化物のスラリーとして、希土類添加セリアを含むものと、含まないもの、の2種類を作製する点が
図6の工程T330と異なる。
図7の工程T340aでは、反応防止層BLのスラリーの塗布の後に、中間導電層ICL(
図4(C))のスラリーを塗布し、その後、内側検知電極部220bの導電性酸化物層OCL2bのスラリーを塗布する点が、
図6の工程T340と異なる。前述したように、中間導電層ICLは、ペロブスカイト相と、希土類添加セリアとを含むものである。一方、導電性酸化物層OCL2bは、希土類添加セリアを含まず、ペロブスカイト相のみで構成されたものである。そこで、工程T340aでは、工程T330aで作製された2種類の導電性酸化物のスラリーと、反応防止層BLのスラリーとを用いて、それぞれの部分に適したスラリーを塗布する。こうすれば、工程T350において、例えば1250℃以上1450℃以下(好ましくは1350±50℃)の焼成温度で焼成することにより、
図4に示した構造が得られる。
【0046】
なお、上述した
図5〜
図7の製造方法における各種の製造条件は一例であり、製品の用途等に応じて適宜変更可能である。
【0047】
C.機械衝撃耐性試験
図8は、内側リード部210の機械衝撃耐性(耐衝撃性)に関する試験結果を示す説明図である。サンプルS01,S02は実施例であり、「*」が付されたサンプルS03,S04は比較例である。各サンプルの固体電解質体11としては、イットリアを5mol%を添加したジルコニア(5YSZ)を使用した。各サンプルの作製時には、まず、固体電解質体11の内側リード部210に相当する部分に、導電性酸化物層OCL1のスラリーを塗布して乾燥させた。このスラリーは、上記(1)式の組成を有するペロブスカイト型導電性酸化物の粉末と、副成分としてのガドリニウム添加セリア(GDC)と、バインダーと、有機溶剤とを混合して作製した。導電性酸化物の粉末としては、
図8に示すように、LaCo
0.5Ni
0.5O
3(「LCN」と呼ぶ)又はLaFe
0.5Ni
0.5O
3(「LFN」と呼ぶ)を使用した。ガドリニウム添加セリアは、ガドリニウムを20mol%添加したものである。導電性酸化物層OCL1におけるガドリニウム添加セリアの割合は、30vol%とした。サンプルS01,S02では、固体電解質体11の未焼結成形体にスラリーを塗布・乾燥し、その後、1350℃で1時間焼成した。一方、サンプルS03,S04では、固体電解質体11の未焼結成形体を1350℃で1時間焼成し、そして、スラリーを塗布・乾燥し、その後、1000℃で1時間焼成した。
【0048】
図9は、サンプルS01〜S04について、内側リード部210の導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間の界面の断面SEM像を示している。実施例のサンプルS01,S02では反応層LZL(ランタンジルコネート層)が存在するのに対して、比較例のサンプルS03,S04では反応層LZLが存在していないことが分かる。この違いは、サンプルS01,S02では焼成温度を1350℃としたのに対して、サンプルS03,S04では焼成温度を1000℃としたことに起因する。すなわち、焼成温度を1000℃を超える高い値に設定すれば、導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間に反応層LZL(ランタンジルコネート層)を形成することができる。なお、反応層LZLを形成するためには、焼成温度を1250℃以上1450℃以下とすることが好ましく、1350±50℃とすることが更に好ましい。
【0049】
機械衝撃耐性試験では、SUS製の接続端子70(
図1)を用い、その挿入/抜去を30回繰り返した。その後、各サンプルを切断して半割の状態にし、接続端子70が接触した内側リード部210の部分を拡大鏡で観察した。その結果、実施例のサンプルS01,S02では内側リード部210に損傷が見られなかったのに対して、比較例のサンプルS03,S04では内側リード部210に剥がれが生じた(
図8の右端参照)。この理由は、実施例のサンプルS01,S02では、
図2(D)で説明したように、反応層LZLが、導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11の間の接着層として機能し、界面が強固になったからであると推定される。この試験結果から理解できるように、内側電極200の耐衝撃性を向上させるという観点からは、内側リード部210の導電性酸化物層OCL1と固体電解質体11との間に、反応層LZL(ランタンジルコネート層)が形成されることが好ましい。
【0050】
D.電極界面抵抗測定
図10は、
図2及び
図3の構造を有するガスセンサ素子について、電極界面抵抗を測定した試験結果を示す説明図である。サンプルS11〜S15は実施例であり、「*」が付されたサンプルS16は比較例である。
図10では、各サンプルについて、内側検知電極部220の組成及び焼成温度と、内側リード部210の組成及び焼成温度と、電極界面抵抗の測定結果とを示している。組成の欄は、簡略化している。例えば、サンプルS11の内側検知電極部220(すなわち導電性酸化物層OCL2)の組成は、主成分としてのLCN(LaCo
0.5Ni
0.5O
3)に、副成分としてのGDC(ガドリニウムを20mol%含むガドリニウム添加セリア)を30vol%加えたものである。なお、サンプルS14,S15には内側検知電極部220に反応防止層BL(
図3(C))が設けられているが、他のサンプルS11〜S13,S16には、反応防止層BLは設けられていない。各サンプルの固体電解質体11としては、イットリアを5mol%を添加したイットリア安定化ジルコニア(5YSZ)を使用した。
【0051】
サンプル11〜S13は、
図5に示した手順に従って作製した。
図5の工程T240において、外側電極100用のスラリーとしては、白金粉末(Pt)にイットリア安定化ジルコニア(5YSZ)を30vol%混合したものを使用した。また、内側リード部210用のスラリーとしては、
図10に示す組成のスラリーを使用した。
図5の工程T250では1350℃で焼成を行い、工程T270では1000℃で焼成を行った。この結果、サンプルS11〜S13のガスセンサ素子として、いずれも
図2に示した構造の素子が得られた。
【0052】
サンプル14,S15は、
図6に示した手順に従って作製した。外側電極100用のスラリーとしては、白金粉末(Pt)にイットリア安定化ジルコニア(5YSZ)を30vol%混合したものを使用した。他の部分のスラリーとしては、
図10に示す組成のスラリーを使用した。
図6の工程T350では1350℃で焼成を行った。この結果、サンプルS14,S15のガスセンサ素子として、いずれも
図3に示した構造の素子が得られた。
【0053】
比較例のサンプルS16も、
図6に示した手順に従って作製した。外側電極100用のスラリーとしては、白金粉末(Pt)にイットリア安定化ジルコニア(5YSZ)を30vol%混合したものを使用した。他の部分のスラリーとしては、
図10に示す組成のスラリーを使用した。但し、サンプルS16では、反応防止層BL用のスラリーは塗布しなかった。
図6の工程T350では1350℃で焼成を行った。この結果、サンプルS16のガスセンサ素子として、内側検知電極部220と内側リード部210の両方において反応層LZL(ランタンジルコネート層)が形成された素子が得られた。
【0054】
上述したサンプルS11〜S16については、それぞれ2本の素子を作製した。得られた2本の素子のうち、1本の素子の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して、内側検知電極部220と固体電解質体11との間、及び、内側リード部210と固体電解質体11との間における反応層LZLの状態を確認した。すなわち、SEMの反射電子像の観察、及び、EDS(エネルギー分散型X線分析)を併用することにより、反応層LZLの有無及び厚みを調べた。
図10に示したように、サンプルS11〜S15では、内側検知電極部220には反応層LZLは形成されていなかったのに対して、サンプルS16では内側検知電極部220には反応層LZLが形成されていた。また、内側リード部210については、すべてのサンプルS11〜S16で反応層LZLが形成されていた。
【0055】
各サンプルS11〜S16の2本の素子のうち、もう1本の素子を用いて電極界面抵抗を測定した。すなわち、各サンプルの素子を温度が550℃になるように炉内に設置し、交流インピーダンス法により電極界面抵抗の測定を行った。測定時の振幅電圧は10mVとした。
【0056】
図11は、サンプルS11〜S16の電極界面抵抗の測定結果を示すグラフである。サンプルS11〜S15は、電極界面抵抗が500Ω以下であり、実用上十分に小さいのに対して、比較例のサンプルS16は、電極界面抵抗が2000Ωを超えており、非常に高くなった。これらの結果から理解できるように、
図2又は
図3の構造を採用して、内側検知電極部220に反応層LZL(ランタンジルコネート層)が形成されないようにすることによって、電極界面抵抗を十分に小さくすることができ、ガスセンサ素子の内部抵抗を低く抑えることが可能である。
【0057】
・変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0058】
・変形例1:
上記実施形態では、酸素濃度センサの例を説明したが、板型のガスセンサ素子を備える酸素センサや、酸素以外のガスを被測定ガスとするガスセンサにも本発明を適用可能である。