特許第6192712号(P6192712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192712湿式動作型クラッチを制御するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192712
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】湿式動作型クラッチを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   F16D48/02 640K
   F16D48/02 640J
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-506151(P2015-506151)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公表番号】特表2015-517064(P2015-517064A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】EP2013056049
(87)【国際公開番号】WO2013156247
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年3月18日
(31)【優先権主張番号】102012206128.2
(32)【優先日】2012年4月16日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012214032.8
(32)【優先日】2012年8月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】エアハート ホドルス
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−519343(JP,A)
【文献】 特開2011−236946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開位置と閉位置との間で操作可能な自動車用湿式動作型摩擦クラッチ(106)の制御のための方法であって、
前記摩擦クラッチ(106)は、プレッシャープレートと、該プレッシャープレートに対して軸方向に変位可能なコンタクトプレートと、前記プレッシャープレートと前記コンタクトプレートとの間でクランプ可能なクラッチディスクとを有し、
前記摩擦クラッチ(106)は、クラッチ特性曲線(202、416)に基づいて制御される、方法において、
基準ドラッグトルクに、作動油温度に依存する係数と、作動油の流れに依存する係数とを乗算してクラッチドラッグトルク特性曲線(302)を求め、該クラッチドラッグトルク特性曲線を前記クラッチ特性曲線(202、416)に重畳し、それによって、修正されたクラッチ特性曲線(204、408)が得られるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記クラッチ特性曲線(202、416)と前記クラッチドラッグトルク特性曲線(302)は、それぞれ1つのアクチュエータ位置値を含む複数のチェックポイント(206、208、306、310、314)を有し、位置−ドラッグトルク特性曲線(302)のチェックポイント(306、310、314)のアクチュエータ位置値は、位置−トルク特性曲線(202)のチェックポイント(206、208)のアクチュエータ位置値に対応している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記クラッチドラッグトルク特性曲線(302)は、繰り返し求められる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記クラッチドラッグトルク特性曲線(302)は、クラッチスリップ、流体の流れ、及び/又は、流体の温度を考慮して求められる、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開位置と閉位置との間で操作可能な自動車用湿式動作型摩擦クラッチの制御のための方法であって、前記摩擦クラッチは、プレッシャープレートと、該プレッシャープレートに対して軸方向に変位可能なコンタクトプレートと、前記プレッシャープレートと前記コンタクトプレートとの間でクランプ可能なクラッチディスクとを有し、前記摩擦クラッチは、クラッチ特性曲線に基づいて制御される方法に関している。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願第10 2011 084 671.9号の明細書からは、クラッチ、特に自動車のドライブトレーン用のクラッチが公知である。このクラッチは、ベアリングシャフトに支承されてトルクの導入及び伝達を担うように構成されているクラッチディスクを含み、該クラッチディスクは、クラッチが開かれた時にクラッチディスクの方向付けを行う位置決め装置を有しており、前記位置決め装置は、少なくとも1つの第1要素を含み、該第1の要素は、回転軸から半径方向に間隔をおいて前記クラッチディスク上若しくはその内部に設けられ、非接触で次のような応力、すなわちクラッチが開かれたときの軸受けにおけるクラッチディスクの傾きに対抗し得るような応力をかけるように作用しており、それによって一定の間隙のもとで、クラッチディスクのドラッグトルクが低減されるか、若しくは一定のドラッグトルクのもとでクリアランスが減少するようなクラッチ設計構造になっている。
【0003】
本発明の課題は、冒頭に述べたような形式の方法を機能的にさらに向上させることにある。特にここでは快適性が向上されるべきである。また振動の励起も低減させるか又は阻止すべきである。さらに、修正されたパラメータのフィードバックも回避されるべきである。
【0004】
前記課題は本発明により、開位置と閉位置との間で操作可能な自動車用湿式動作型摩擦クラッチの制御のための方法であって、前記摩擦クラッチは、プレッシャープレートと、該プレッシャープレートに対して軸方向に変位可能なコンタクトプレートと、前記プレッシャープレートと前記コンタクトプレートとの間でクランプ可能なクラッチディスクとを有し、前記摩擦クラッチは、クラッチ特性曲線に基づいて制御される方法において、クラッチドラッグトルク特性曲線を求めて前記クラッチ特性曲線に重畳し、それによって、修正されたクラッチ特性曲線が得られるようにして解決される。
【0005】
湿式動作型摩擦クラッチ(wet-running friction clutch)とは、流体の流れによって付勢される摩擦クラッチであり得る。この流体の流れは、特に摩擦クラッチ自体の冷却に使用することが可能である。流体は所定の作動油であってもよいし、ギヤーオイルであってもよい。前記摩擦クラッチは、摩擦クラッチ装置の一部であってもよい。さらに前記摩擦クラッチは、シングルクラッチであってもよい。さらにまた前記摩擦クラッチは、第2のクラッチと協働するツインクラッチの一部であってもよい。また前記摩擦クラッチは、単板クラッチであってもよい。さらにまた前記摩擦クラッチは、多板クラッチであってもよい。前記摩擦クラッチは操作を自動化させることも可能である。
【0006】
摩擦クラッチは、自動車のドライブトレーン内の装置に使用することができる。このドライブトレーンは、内燃機関を含んでいてもよい。またドライブトレーンは、変速機を含んでいてもよい。摩擦クラッチは、エンジンと変速機との間のドライブトレーンに配置されてもよい。摩擦クラッチは、入力側部材と出力側部材を有していてもよい。前記摩擦クラッチの入力側部材は、内燃機関の出力軸に接続して駆動力を受けられるようにすることができる。また前記摩擦クラッチの出力側部材は、変速機の入力軸に接続して駆動力を出力できるようにすることができる。これらの摩擦クラッチの「入力側部材」及び「出力側部材」とは、内燃機関から伝達される動力の流れ方向に関連する。
【0007】
摩擦クラッチは、入力側部材と出力側部材との間で実質的に動力伝達が全く行われない全開操作位置から、入力側部材と出力側部材との間で実質的に完全な動力伝達が行われる全閉操作位置までの、操作量に依存して増加する動力伝達が可能である。この場合の入力側部材と出力側部材との間の動力伝達は、摩擦係合によって行われる。さらに上記のような動力伝達方向とは逆に、入力側部材と出力側部材との間で実質的に完全な動力伝達が行われる全閉操作位置から、入力側部材と出力側部材との間で実質的に動力伝達が全く行われない全開操作位置までの、操作量に依存して減少する動力伝達も可能である。
【0008】
前記摩擦クラッチは、アクチュエータ装置の支援によって操作可能であってもよい。このアクチュエータ装置は、摩擦クラッチ装置の一部であってもよい。また前記アクチュエータ装置は、摩擦クラッチのセミオートマチック式の油圧制御に使用してもよい。アクチュエータ装置は、油圧区間を備えることが可能である。アクチュエータ装置は、マスターシリンダを含むことができるし、アクチュエータ装置は、スレーブシリンダを含むこともできる。特にスレーブシリンダは、摩擦クラッチの付勢のために使用することができる。前記油圧区間は、マスターシリンダとスレーブシリンダの間の油圧力伝達のために使用することができる。アクチュエータ装置は、電気モータによる駆動部を含むことができる。この駆動部は、マスターシリンダの付勢のために使用することができる。アクチュエータ装置は、ギアを含んでいてもよい。
【0009】
摩擦クラッチ装置は、当該摩擦クラッチ装置の設定位置を検出するためのセンサを備えることが可能である。このセンサは、位置センサであってもよいし、摩擦クラッチの設定位置を求めるのに使用してもよい。さらにこのセンサは、アクチュエータ装置の設定位置を求めるために使用することもできる。摩擦クラッチ装置は、伝達されるトルクを検出するためのセンサを備えることができる。このセンサは、トルクセンサであってもよい。摩擦クラッチ装置は、摩擦クラッチのスリップを検出するためのセンサを備えることができる。このスリップは、摩擦クラッチの入力側部材と出力側部材との間の回転数差であってもよい。摩擦クラッチ装置は、流体の流れを検出するためのセンサを備えることができる。摩擦クラッチ装置は、特に、流体の有する温度を検出するためのセンサを備えてもよい。
【0010】
摩擦クラッチの操作には、接触点が関連していてもよい。この接触点は、摩擦クラッチが、開かれた操作位置から出発して、トルクを伝達することができる閉じられた操作位置方向にスタートする摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設定位置を表すことが可能である。またこの接触点は、摩擦クラッチが所定のトルクを伝達する摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設置位置を表すことも可能である。ここでの所定のトルクとは、例えば約2〜3Nmのトルクであり得る。本発明によれば、前述の「接触点」とは、前述したような接触点自体であってもよいし、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設定位置に対応付けられた接触点であってもよい。
【0011】
摩擦クラッチ装置は、制御装置を備えることができる。この制御装置は、開ループ制御及び/又は閉ループ制御のための装置であってもよい。この制御装置は、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置を制御するために使用することができる。この制御装置も開ループ制御及び/又は閉ループ制御のための装置であり得る。この制御装置は、本発明による方法を実施するために使用することができる。この制御装置は、電子制御機器を備えていてもよい。制御装置は、記憶装置を含んでいてもよい。この記憶装置は、その記憶された情報が電気的に消去若しくは上書きすることができる不揮発性のメモリを有していてもよい。この記憶装置は、EEPROMを有していてもよい。クラッチ特性曲線は、前記記憶装置に記憶させることも可能である。クラッチドラッグトルク特性曲線も、前記記憶装置に記憶可能である。摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の接触点に対応付けられた設定位置も、前記記憶装置に記憶させることができる。前記制御装置は、計算装置を含んでいてもよい。
【0012】
前記クラッチ特性曲線は、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ若しくはアクチュエータ装置の設定位置に依存して、摩擦クラッチから伝達されるトルクを表すものであってもよい。クラッチ特性曲線は、x軸に、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ又はアクチュエータ装置の設定値がプロットされ、y軸に、伝達されたトルクがプロットされたグラフで表されたものであってもよい。
【0013】
クラッチドラッグトルク特性曲線は、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ又はアクチュエータ装置の設定位置に応じて、摩擦クラッチのドラッグトルクを表すものであってもよい。またクラッチドラッグトルク特性曲線は、x軸に、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ又はアクチュエータ装置の設定値がプロットされ、y軸に、ドラッグトルクがプロットされたグラフで表されたものであってもよい。
【0014】
クラッチドラッグトルクは、コンタクトプレートがプレッシャープレートに接近したときに生じ得る。このクラッチドラッグトルクは、クラッチディスクがプレッシャープレートとコンタクトプレートの間に挟まれる前に、既に出現し得るものである。このクラッチドラッグトルクは、湿式動作型摩擦クラッチの流体に起因して生じ得る。クラッチドラッグトルクは、この流体の粘度に影響され得る。クラッチドラッグトルクは、流体の温度によっても影響され得る。クラッチドラッグトルクは、流体の流れによっても影響され得る。
【0015】
本発明による方法は、クラッチ特性曲線の修正を可能にする。その際には、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置に依存して、そのつどのクラッチドラッグトルクに適合した修正が行われる。これにより快適性が向上する。振動励起も低減されるかまたは阻止される。修正されたパラメータのフィードバックも回避される。これは、クラッチドラッグトルクを考慮するための堅固な手段を提供する。
【0016】
クラッチ特性曲線とクラッチドラッグトルク特性曲線は、それぞれ1つのアクチュエータ位置値を含む複数のチェックポイントを有し、位置−ドラッグトルク特性曲線のチェックポイントのアクチュエータ位置値は、位置−トルク特性曲線のチェックポイントのアクチュエータ位置値に相応する。これらのチェックポイントは、データ点であってもよい。クラッチ特性曲線のチェックポイントは、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設定位置と、対応するトルク値に関する情報を含むことができる。クラッチドラッグトルク特性曲線のチェックポイントは、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設定位置と、対応するドラッグトルク値に関する情報を含むことができる。
【0017】
クラッチドラッグトルク特性曲線は、繰り返し求めることが可能である。クラッチドラッグトルク特性曲線は、連続的に求めることが可能である。これにより、クラッチドラッグトルクは、繰り返し若しくは連続的に適合化させることが可能になる。クラッチドラッグトルク特性曲線は、クラッチスリップ、流体の流れ及び/又は流体の温度を考慮して求めることができる。クラッチドラッグトルク特性曲線は、摩擦クラッチ装置、摩擦クラッチ及び/又はアクチュエータ装置の設定位置値を考慮して求めることが可能である。この設定位置値は、そこから接触点設定位置値が差し引かれた設定位置値実際値であってもよい。
【0018】
以上の点を要約して換言すると、本発明によれば、とりわけ湿式クラッチシステム/ツインクラッチシステムにおけるドラッグトルクの考慮が、クラッチ特性曲線の修正によって実現される。このドラッグトルクは、異なるプレート間隔毎に求めることができ、このドラッグトルク特性曲線は、クラッチ特性曲線に加算することが可能である。ドラッグトルクは、十分に開かれた位置から、接触点の直前まで増加し、接触点におけるプレート間隔はゼロであり得る。この場合のドラッグトルクのチェックポイントは、ドラッグトルクが加算されるトルク特性曲線のチェックポイントと同一であってもよい。その際のドラッグトルク特性曲線は、スリップ、オイルの流れ、オイルの温度に依存し、各計算ステップにおいて、異なるプレート間隔毎に新たに算出され得る。1つの計算ステップに対しては、スリップ、オイルの流れ及びオイルの温度が定期的に観察される。クラッチ特性曲線は、加算によって左方にシフトさせることが可能である。
【0019】
特に、本明細書では、「可能/できる」という表現によって、本発明の任意の特徴を表している。従って、各特徴を1つ若しくは複数有する本発明のそれぞれの実施態が特定され得る。
【0020】
以下では、本発明の実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。この説明からは、さらなる特徴や利点が導き出される。それらの実施態様の個々の特徴は、本発明の一般的な特徴も表し得る。これらの実施態様の他の特徴に結びつく特徴でも、本発明の個々の特徴を表すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】液圧式クラッチシステムの構造を示した図
図2】位置−トルク特性曲線を示す線図
図3】位置−ドラッグトルク特性曲線を示す線図
図4】トルク及び距離決定構成のための線図
【実施例】
【0022】
図1は、液圧式クラッチシステム100の構造を示している。このクラッチシステム100は、デュアルクラッチの2つのクラッチの一方を操作するために使用され、相応に第2のクラッチの操作も行われる。電気機械式アクチュエータ102は、マスターシリンダ104の付勢のために使用される。このマスターシリンダ104は、作動油を押し出し、この押し出された作動油は、クラッチ106に対応付けられたスレーブシリンダ108を動かす。これにより、クラッチ106が操作される。このクラッチ106は、直接操作型の湿式クラッチである。
【0023】
クラッチ106は、入力側部材と出力側部材とを含む。入力側部材は、プレッシャープレートとコンタクトプレートを有する。コンタクトプレートは、回転不動にかつ軸方向に変位可能にプレッシャープレートに接続される。出力側部材は、クラッチディスクを有している。このクラッチディスクは、軸方向で見て、プレッシャープレートとコンタクトプレートとの間に配置されている。クラッチ106が操作されると、コンタクトプレートが変位し、それによってプレッシャープレートとコンタクトプレートとの間の間隔が変化する。クラッチ106は、一方のプレッシャープレートないしコンタクトプレートと、他方のクラッチディスクとの間の摩擦の際に生じる熱を放出するために、冷却油によって付勢されている。但しこの冷却油の流れは、プレッシャープレートとコンタクトプレートが互いに近接したとき、ないしはそれらがクラッチディスクに対して近接したときにクラッチドラッグトルクを引き起こす。このクラッチドラッグトルクは既に、一方のプレッシャープレートないしコンタクトプレートと、他方のクラッチディスクとの間で、直接的な接触接続がなされる前に発生する。クラッチドラッグトルクは、プレッシャープレートとコンタクトプレート相互の間の間隔、ないしはそれらとクラッチディスクとの間の間隔の他に、冷却油に依存し、特に冷却油の粘度、温度及び/又は流れに依存している。
【0024】
マスターシリンダ104とスレーブシリンダ108との間には、液圧区間110が形成されている。このマスターシリンダ104とスレーブシリンダ108は、それぞれ異なるピストン面積を有している。それにより、油圧区間の変換がもたらされる。アクチュエータ102は、電気モータ112とギア114を有している。電気モータは、集積されたECモータであってもよい。電気モータ112は、統合された制御機器116を有している。ギア114は、電気モータ112の回転運動を線形のストローク運動に変換するために使用される。ギア114は、変速比を有する。このギア114は、スピンドルギア、例えば遊星転動ねじ付きスピンドル(Planetenwaelzgewindespindel)であってもよい。
【0025】
マスターシリンダ104は比較的大きなピストン面積を有するピストン118を備えている。マスターシリンダ104のピストン面積は、全長が短くなるように、半径方向でスピンドル駆動装置の周りに配置されている。ピストン118は、ハウジングからスピンドル軸受への短い応力の流れの中で軸方向応力を還元するためにプルピストンとして設計されている。液圧システムの体積補償のために、いわゆるスニッファ(吸引)位置がクラッチ係合解除位置に設けられている。この位置では、圧力管路120が還流チャンバ122に接続され、それによって、液圧区間110内の流体の温度に起因する体積変化が補償され得る。
【0026】
電気モータ112は、回転角識別機能を備えたロータを有している。この目的のために、スピンドルに固定された磁石の磁界が直接プリント回路基板に設けられた角度センサによって評価される。この解決手段は、例えばステータとセンサ位置との間の機械的な設定調整が省略されるため、空間の最適化にも係わらず有利である。電気モータ112は、出力段を保護するための統合された温度センサを有している。
【0027】
クラッチシステム100は、センサーベースの過負荷保護装置を備えている。それにより、比較的僅かなコストで安全機能が可能となり、さらなる利点が得られる。圧力センサ124は、液圧区間110とクラッチ106のための過負荷保護として用いられる。さらにこの圧力センサ124の信号は、ギヤを入れていない場合でもクラッチ特性曲線の確実な検出のために利用することができる。例えば流体の熱膨張などに起因する液圧区間110の寿命なども、クラッチ106の操作の際に識別され、ソフトウェアプログラムによって考慮することも可能である。ピストン118の位置を測定するために、絶対距離センサ126が設けられている。ローカル制御機器116の導入と、全てのセンサをプリント回路基板の近傍に配置することによって、センサ系が低コストで実現可能になる。なぜなら付加的なケーブル配線や接続コストが必要にならないからである。
【0028】
図2には、図1に示すクラッチ106のようなクラッチの位置−トルク特性曲線202がプロットされた線図200が示されている。この位置−トルク特性曲線202は、クラッチ特性曲線とも称する。この線図200では、x軸上にアクチュエータ位置値がプロットされている。このアクチュエータ位置値は、図1のセンサ126のようなセンサを用いて求められる。また前記線図200では、y軸上に現下のトルク値がプロットされている。この位置−トルク特性曲線202は、複数のチェックポイントを有しており、これらのチェックポイントは図中+マークで示されている。位置−トルク特性曲線202は、図1中の制御機器116のような制御機器内に記憶されている。
【0029】
位置−トルク特性曲線202は、クラッチが完全に開かれた位置から、閉じられた位置の方向に向かって連続的にかつスムーズに増加している。特に位置−トルク特性曲線202は、次のような移行領域においてスムーズに増加するように経過する。すなわち、まずプレッシャープレートとコンタクトプレート相互の間の間隔ないしはそれらとクラッチディスクとの間の間隔が、ドラッグトルクが発生する位に僅かとなり、続いて一方のプレッシャープレートないしコンタクトプレートと、他方のクラッチディスクとの間で直接の接触接続が形成されるまでの移行領域である。
【0030】
図3は、図1に示すクラッチ106のようなクラッチの位置ドラッグトルク特性曲線302がプロットされた線図300が示されている。この位置−ドラッグトルク特性曲線302は、クラッチドラッグトルク特性曲線とも称される。この線図300では、x軸上にアクチュエータ位置値がプロットされている。このアクチュエータ位置値は、図1のセンサ126のようなセンサを用いて求められる。また前記線図300では、y軸上にドラッグトルク値がプロットされている。この位置−ドラッグトルク特性曲線302は、複数のチェックポイントを有しており、これらのチェックポイントは図中+マークで示されている。位置−ドラッグトルク特性曲線302の複数のチェックポイントのアクチュエータ位置値は、前記位置−トルク特性曲線202のチェックポイントのアクチュエータ位置値に対応している。
【0031】
位置−ドラッグトルク特性曲線302は、図1の制御機器106のような制御機器の支援のもとで求められる。この位置−ドラッグトルク特性曲線302は、例えば以下のような関数式、
【数1】
に従って求められてもよい。前記関数式では、基準ドラッグトルクTrqDragnom(NSlipSpeed,Liftoff)に、作動油温度に依存する係数KVis(TOil)と、作動油の流れに依存する係数
とが乗算されている。
【0032】
前記位置−ドラッグトルク特性曲線302は、チェックポイント310と314の間の区間312において急速に上昇している。この区間312においては、クラッチはまだ開いてはいるが、いずれにせよコンタクトプレートとクラッチディスクとの間のクリアランスは急激に減少している。チェックポイント314からは区間316が続く。この区間では、位置−ドラッグトルク特性曲線302が、水平方向に延在する。実際のドラッグトルク特性曲線302は、区間312の場合と同じように引き続き大きく上昇するのであるが、しかしながらここでは最大値に制限される。区間304においては、クラッチの完全に開いた開位置から出発して閉位置の方向に水平に、y=0のもとで、ドラッグトルクがゼロに設定される。それにより、接触点といわゆる修正点との間(例えば−3Nmのもと)において、類似の経路長が、経年劣化したクラッチシステム(ここでは接触点が右方向にシフトしている)のもとでも達成される。
【0033】
位置−ドラッグトルク特性曲線302は、位置トルク曲線202に重畳される。それにより、ドラッグトルクを考慮した、修正された位置−トルク特性曲線204が得られる。この修正された位置−トルク特性曲線204は、位置−トルク特性曲線202に対応しているが、但し左方向にシフトしている。チェックポイント206(これはチェックポイント306に対応する)から出発して、修正された位置−トルク特性曲線204は、線形に上昇している区間を有する。チェックポイント208(これはチェックポイント310に対応する)からは折れ曲がり分岐でもって、位置−トルク特性曲線部分202に対応する、修正された位置−トルク特性曲線204の曲線区間への移行がなされる。
【0034】
図4は、トルク及び距離決定を構成するための線図400を示している。このトルク及び距離決定は、図1の制御機器106のような制御装置において実施される。まず、クラッチ距離402に基づき、種々のパラメータ406、例えばクロストーク、ヒステリシス、内燃機関回転数、及び/又は温度を考慮して補償クラッチ距離404が決定される。続いて、前記補償クラッチ距離404から出発して、修正されたクラッチ特性曲線408に基づき(例えば図2の修正された位置−トルク特性曲線204)、クラッチトルク410が決定される。このクラッチトルク410は、適合化パラメータ412並びにさらなるパラメータ414、例えばスリップ、温度及び/又は損失出力を考慮して決定される。修正されたクラッチ特性曲線408は、クラッチ特性曲線416に基づいて、スリップ、作動油の流れ、作動油の温度、及び/又はアクチュエータ位置(接触点位置を差し引いた)などのパラメータ418を考慮して決定される。
【符号の説明】
【0035】
100 クラッチシステム
102 アクチュエータ
104 マスターシリンダ
106 クラッチ
108 スレーブシリンダ
110 液圧区間
112 電気モータ
114 ギア
116 制御機器
118 ピストン
120 圧力管路
122 還流チャンバ
124 圧力センサ
126 絶対距離センサ
200 線図
202 位置−トルク特性曲線(クラッチトルク特性曲線)
204 修正された位置−トルク特性曲線
206 チェックポイント
208 チェックポイント
300 線図
302 位置−ドラッグトルク特性曲線(クラッチドラッグトルク特性曲線)
304 区間
306 チェックポイント
310 チェックポイント
312 区間
314 チェックポイント
316 区間
400 線図
402 クラッチ距離
404 修正されたクラッチ距離
406 パラメータ
408 修正されたクラッチ特性曲線
410 クラッチトルク
412 適合化パラメータ
414 パラメータ
416 クラッチ特性曲線
418 パラメータ
図1
図2
図3
図4