(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192726
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】音響振動を制限する誘導デバイス
(51)【国際特許分類】
H01F 27/33 20060101AFI20170828BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20170828BHJP
H01F 27/22 20060101ALI20170828BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
H01F27/33
H01F37/00 M
H01F27/22
H05K7/20 F
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-533669(P2015-533669)
(86)(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公表番号】特表2015-536045(P2015-536045A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】FR2013052221
(87)【国際公開番号】WO2014049253
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】1259093
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュネ, ルイ−マリー
(72)【発明者】
【氏名】デスレウモーラ, ローラン
【審査官】
右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−124401(JP,A)
【文献】
特開2011−165977(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/067414(WO,A1)
【文献】
特開2007−129146(JP,A)
【文献】
特開2008−198981(JP,A)
【文献】
特開2012−169463(JP,A)
【文献】
特開2011−066242(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0045898(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/33
H01F 27/22
H01F 37/00
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙(EF)を有する強磁性本体(CF)が少なくとも部分的に挿入されている巻線(SPI)を含み、巻線(SPI)が金属ハウジング(BI)内に保持されている、誘導デバイスであって、強磁性本体(CF)と金属ハウジング(BI)の基部のうちの1つとの間に熱伝導性フィルム(FTC)が配置されており、熱伝導性フィルム(FTC)は10MPa未満の静水圧圧縮剛性を有することを特徴とする、誘導デバイス。
【請求項2】
金属ハウジング(BI)の基部は、電気推進モータを有する車両の少なくとも1つのパワー電子機器モジュールの金属ケーシング(CA)に一体的に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の誘導デバイス。
【請求項3】
金属ハウジング(BI)の基部は、冷却系の動作を受けるケーシング(CA)の領域に位置付けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の誘導デバイス。
【請求項4】
巻線(SPI)および強磁性本体(CF)は、制振合成樹脂の静水圧圧縮剛性が500MPaを下回る制振合成樹脂によって金属ハウジング内(BI)内に構造的に保持されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘導デバイス。
【請求項5】
熱伝導性フィルム(FTC)は、0.5W/mKよりも大きい熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘導デバイス。
【請求項6】
熱伝導性フィルム(FTC)は、0.1〜2mmの範囲内の厚さを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘導デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、電気工学の分野に関し、より詳細には、パワー電子機器のための誘導デバイス、たとえば、約100アンペアの電流にも耐えることができ、特に電気車両またはハイブリッド車両の充電器に使用することができるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の誘導デバイスまたはインダクタンスは、既知のように、巻線の内側を強磁性本体が通る該巻線を含み、巻線は、強磁性本体の飽和を制限するように意図されている機械的な隙間である間隙を有する。強磁性本体は、たとえば、間隙によって互いから分離されている複数の強磁性ブロック、たとえば、フェライトブロックによって形成される。巻線および強磁性本体は両方とも、アルミニウムポッド内に挿入され、樹脂に埋め込まれる。強磁性本体は、その冷却を容易にするためにポッドの基部と直に接して配置される。
【0003】
たとえば、誘導デバイスの上流における電流スイッチングに起因して、巻線を通る電流が変動すると、それに応じて強磁性ブロック間の引力および/または斥力が変化し、それによって、強磁性本体が変形して、結果として空気または樹脂が満たされている間隙に振動がもたらされる。これらの振動は、巻線の電気的励起の周波数と同一の周波数において生成され、誘導デバイスのハウジングを形成するアルミニウムポッドに伝達される。このハウジングは一般にケーシング、たとえば、パワー電子機器ケーシングに一体的に固定されているため、振動はケーシングにも伝達される。したがって、誘導デバイスの重量を所与として、デバイスは、誘導デバイスおよび基礎となるパワー電子機器のノイズおよび機械的脆化などの問題を引き起こす音響パワーを放出し、これがシステムを通じて伝播されてケーシング冷却系の振動に加わる場合はなおさらである。ケーシングは、機械的な観点から誘導デバイスよりも構造的でない場合があるため、生成される音響汚染を増幅する。
【0004】
このタイプの誘導デバイスの振動を低減するために、間隙によって分離される強磁性ブロックとは異なる構造を有する強磁性本体を使用するという既知の方法がある。たとえば、積層および反転されたプレートから作製される強磁性本体、または、気泡の形態で強磁性本体を通じて分散されている間隙を有する成形強磁性本体を使用することが可能である。
【0005】
しかしながら、これらのソリューションは、コストがかかり、低コストハイブリッド車両または電気車両の設計要件に適合しない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの目的は、変動する電流が通過するときにデバイスの外側に伝達される振動を経済的かつ効率的に制限する誘導デバイスを提供することによって従来技術の欠点の少なくともいくつかを克服することである。特に、本発明は、誘導パワーデバイスによって使用することができる最大電力の利点を失うことを意味する、デバイスを通じて流れる電流の変動の制限を必要とせずに、これらの振動が制限されることを可能にする。
【0007】
この目的のために、本発明は、間隙を有する強磁性本体が少なくとも部分的に挿入される巻線を含む誘導デバイスであって、上記巻線は、上記デバイスの金属ハウジング内に保持される誘導デバイスにおいて、
上記強磁性本体と上記金属ハウジングの基部のうちの1つとの間に熱伝導性フィルムが配置され、上記フィルムは、たとえば、巻線および強磁性本体を含む金属ハウジングを充填する樹脂のような、合成樹脂の剛性よりも低い剛性を有することを特徴とする、誘導デバイスを提案する。
【0008】
好ましくは、熱伝導性フィルムは、間隙、または間隙の大部分と同じ方向に配列される。
【0009】
本発明は、本発明による誘導デバイス内に安価な強磁性本体を使用することを可能にし、熱伝導性フィルムによって振動が低減される。これは、この構成が、強磁性本体および巻線を誘導デバイスのハウジング内に保持するための樹脂によって可能にされるよりも大きな、強磁性本体とデバイスのハウジングとの間の機械的分離を可能にするためである。さらに、熱伝導性フィルムを使用することによって、それ自体が冷却され、本発明による誘導デバイスのハウジングの基部が固定されるケーシングによって強磁性本体を冷却し続けることが可能になる。誘導デバイスの要素および後者とケーシングとの間の接合部の構造適合性を保持することも可能になる。最後に、間隙が分散された成形本体および組立てプレートから形成される磁性体などのより構造的な強磁性本体を使用することが回避される。これらのソリューションは、材料と製造の両方の観点からよりコストがかかる。さらに、成形強磁性本体を使用するソリューションは、組立てフェライト本体よりも磁気性能に劣る。
【0010】
本発明の有利な特性によれば、金属ハウジングの上記基部は、電気推進モータを有する車両の少なくとも1つのパワー電子機器モジュールの金属ケーシングに一体的に固定される。
【0011】
誘導デバイスはそれ自体が充電器の構成要素であるため、電気車両またはハイブリッド車両のパワー電子機器ケーシングに、たとえば、そのような車両を再充電するのに使用される、本発明による誘導デバイスを固定することによって、車両充電器の全体的な寸法を最適化し、そのコストを低減することが可能である。事実、このタイプの誘導デバイスは安価であり、その位置付けは、たとえパワー電子機器ケーシングの中であっても制約されない。
【0012】
別の有利な特性によれば、上記ハウジングの上記基部は、冷却系の動作を受ける上記ケーシングの領域に位置付けられる。
【0013】
したがって、電気車両またはハイブリッド車両の充電器のパワー電子機器モジュールを冷却するのに使用される冷却系は、誘導デバイスを冷却するのにも使用される。
【0014】
別の有利な特性によれば、上記巻線および上記強磁性本体は、制振合成樹脂の静水圧圧縮剛性が500MPaを下回る該制振合成樹脂によって上記ハウジング内に構造的に保持される。好ましくは、静水圧圧縮係数によってもたらされるこの制振樹脂の剛性は、100MPa〜1000MPa(メガパスカル)の範囲内である。
【0015】
この制振合成樹脂を使用して誘導デバイスの巻線および強磁性本体をハウジング内に保持することによって、誘導デバイスの「空中伝搬」振動を抑制することが可能であり、それによって、誘導デバイスによって放出される全体的な音響パワーが低減される。事実、ハウジングの基部においては、樹脂はまったく、または少量しか存在せず、熱伝導性フィルムによって制振がもたらされ、ハウジングがケーシングから機械的に分離されることが可能である。それゆえ、この樹脂は、ハウジングが外部で自由大気と接している部分において、一方ではハウジングと他方では巻線および強磁性本体との間に存在する。
【0016】
別の有利な特性によれば、上記熱伝導性フィルムは、10MPaを下回る静水圧圧縮剛性を有する。
【0017】
したがって、伝導性フィルムは、誘導デバイスのハウジングとケーシングとの間の機械的分離が、10〜250アンペアの範囲内の電流(製品の様々な使用形態において)の電流が流れる誘導デバイスについて、ハウジングの基部において少なくとも約10デシベルだけ音響振動を低減するのに十分に、柔軟である。
【0018】
別の有利な特性によれば、上記熱伝導性フィルムは、0.5W/mKの熱伝導率を有する。
【0019】
この特性によって、誘導デバイスが、フィルムが存在するにもかかわらず、ケーシングによって容易に冷却されることが可能になる。
【0020】
別の有利な特性によれば、上記熱伝導性フィルムは、0.1〜2mmの範囲内の厚さを有する。
【0021】
このフィルムの薄さによって、誘導デバイスの良好な音響分離がもたらされながら、良好なレベルの熱伝導性が維持されることが可能になる。
【0022】
他の特性および利点は、本発明による誘導デバイスを好ましい実施形態において表している単一の図面を参照してこの好ましい実施形態を読むことから明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による誘導デバイスを好ましい実施形態において表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面に示されている本発明の好ましい実施形態によれば、本発明による誘導デバイスは、アルミニウムポッドによって形成されるハウジングBIを有する。ハウジングBIは、充電器の冷却系によって冷却されるケーシングCAの領域において、4つのねじによって、電気車両充電器のパワー電子機器モジュールを保護するケーシングCAにその下側基部で固定される。これは、本発明のこの実施形態において、誘導デバイスが電気車両充電器のインダクタンスとして使用されるためである。
【0025】
巻線SPIが、ハウジングBI内で長手方向において垂直に保持され、電気コネクタCEに接続され、それを通じて、電流変動VIを有する高電流が、誘導デバイスが使用されているときに出入りする。強磁性本体CFが、巻線SPI内に部分的に挿入される。強磁性本体は、巻線SPIに対して横断方向に配置されている間隙EFによって離間されている強磁性ブロック、たとえば、フェライトブロックから構成される。
【0026】
強磁性本体は、ハウジングBIの下側基部の内面を被覆する熱伝導性フィルムFTC上に配置される。巻線SPIおよび強磁性本体CFは、それらの周縁およびハウジングBIの上側部分に存在する樹脂RESに埋め込まれている。樹脂RESは、巻線SPIおよび強磁性本体CFがハウジングBI内に構造的に保持されることを可能にし、熱伝導性フィルムFTCの上に注がれている。
【0027】
熱伝導性フィルムFTCは、フィルタリングおよび制振機能を有し、誘導デバイスが電流変動VIを受けているときに強磁性本体CFによって放出される振動を低減することが可能である。事実、これらの電流変動VIによって間隙EFで振動VEが引き起こされ、これは、ハウジングが自由大気と接している箇所における空中伝搬振動VA、および、ケーシングCAに固定されているハウジングBIの下側基部における固体伝搬振動VSとして示されている。熱伝導性フィルムFTCは、誘導デバイスを通じて流れる250アンペア程度の電流について固体伝搬振動VSおよび空中伝搬振動VAを約10デシベルだけ低減することを可能にし、この分離によって、ケーシングCAに伝達される振動VTを低減することを可能にする。強磁性本体CFとハウジングBIの基部との間のフィードバックが低減されるため、強磁性本体CFとハウジングBIの基部との間の分離はまた、強磁性本体CFが動くのを制限することも可能にすることが留意されるべきである。それゆえこのように、空気経路によって伝達される強磁性本体CFの振動が低減される。
【0028】
ケーシングCAによって誘導デバイスの冷却のために良好な熱伝導率を維持しながら、良好なレベルのフィルタリングおよび制振を達成するために、熱伝導性フィルムFTCは、以下の特性を有する、すなわち、
その厚さが0.1mm(ミリメートル)〜2mmの範囲内であり、
その熱伝導率が0.5W/mK(ワット毎メートルケルビン)よりも大きく、
その静水圧圧縮係数によって与えられるその剛性が、10MPa(メガパスカル)未満であり、少なくとも樹脂RESの静水圧圧縮係数の50倍未満である。フィルムFTCは、その機械破砕を防止する圧縮率で、理想的には、圧縮される領域のその最初の厚さの90%〜30%の範囲内の圧縮率で設置されることが留意されるべきである。
【0029】
熱伝導性フィルムFTCの厚さおよび材料の選択は、妥結に応じて決まる。これは、
熱伝導性フィルムFTCの厚さが増大すると、誘導デバイスの音響分離が増大するが、熱的により分離されることにもなって誘導デバイスのコストもかかるようになり、
熱伝導性フィルムFTCの剛性が低減すると、すなわち、より柔軟になると、誘導デバイスの音響分離が増大するが、フィルムFTCは熱伝導性が低くなり、
フィルムFTCの熱伝導率が増大すると、フィルムはよりコストがかかるようになるためである。
【0030】
好ましくは、熱伝導率2.5W/mK、厚さ1mm、および剛性3.2MPaの、Keratherm(登録商標)Softtherm(登録商標)86/320の名称で市販されているようなタイプの熱伝導性フィルムFTCが本発明の適用に使用される。
【0031】
同様に、500MPa未満の静水圧圧縮係数および0.05W/mK〜2W/mKの範囲内の熱伝導率を有する制振合成樹脂が樹脂RESとして使用され、一例が、ELAN_TRON(登録商標)MC125W80LVの商標名で市販されている樹脂である。
【0032】
誘導デバイスを通じて流れる210アンペアの電流について、フィルムFTCに加えて制振樹脂RESを使用することによって、誘導デバイスの放出の音響レベルが15デシベルだけ低減されることが可能になる。
【0033】
明らかに、本発明の他の実施形態が可能である。たとえば、本発明の別の実施形態において、ハウジングは、車両充電器に使用されるアーキテクチャに応じて、固体伝播が増大することと引き換えに、ハウジングの下にまたはハウジングに対して側方に位置するケーシングに固定されることによって、水平に保持される。可能な代替形態は、たとえば、連続的な放熱を可能にするために、ケーシングと誘導デバイスとの間の熱交換の領域に伝熱シートを加えることによって、「サイレントブロック」タイプのソリューションを使用して固定点の周囲での分離を可能にする代替形態であることが留意されるべきである。最後に、本発明は明らかに、分離を設計し直すことによって動力車の分野以外の用途において、かつより高い電流レベルに対して有用である。