特許第6192733号(P6192733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧

特許6192733エポキシ化脂肪酸アルキルエステル可塑剤およびエポキシ化脂肪酸アルキルエステル可塑剤を作製するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192733
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】エポキシ化脂肪酸アルキルエステル可塑剤およびエポキシ化脂肪酸アルキルエステル可塑剤を作製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/1515 20060101AFI20170828BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170828BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20170828BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170828BHJP
   C08G 59/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C08K5/1515
   C08L101/00
   C08L27/06
   C08L63/00 A
   C08G59/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-541304(P2015-541304)
(86)(22)【出願日】2012年11月12日
(65)【公表番号】特表2015-533919(P2015-533919A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】IN2012000746
(87)【国際公開番号】WO2014072987
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ゴッシュ・ダスティダー・アビジット
(72)【発明者】
【氏名】カウジャルギカ・サーラブ
(72)【発明者】
【氏名】シャウダリ・アイ・バラット
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03377304(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08G 59/00− 59/72
C08H 1/00
C08K 5/1515
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤組成物であって、
エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを含み、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、7〜10g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を有し、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、少なくとも6重量パーセントのオキシラン酸素含有量を有し、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、エステル化した大豆油に由来するものであり、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、0.8重量パーセント未満の親水性不純物含有量を有する、可塑剤組成物。
【請求項2】
ポリマー樹脂および請求項1に記載の可塑剤組成物を含む、ポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリマー樹脂が、塩化ビニル樹脂であり、前記ポリマー組成物が、血液バッグ、静脈注射用バッグ、生理食塩水バッグ、シリンジ、静脈注射用管、経鼻胃管、カテーテル管、排液管、診察用手袋、酸素マスク、矯正リテーナー、人工皮膚、および食品包装からなる群から選択される製造品である、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを生成するための方法であって、
脂肪酸アルキルエステルを、制御されたエポキシ化を用いて、酸および水性過酸化物溶液と接触させることによって、エポキシ化し、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを形成することを含み、
前記制御されたエポキシ化が、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルに、7〜10g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を示すのに十分な不飽和を維持させる反応温度、反応時間、水性過酸化物溶液濃度、および過酸化物溶液供給速度を選択することを含み、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、少なくとも6重量パーセントのオキシラン酸素含有量を有し、
記脂肪酸アルキルエステルが、大豆油のエステル交換によって得られるものであり、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、0.8重量パーセント未満の親水性不純物含有量を有する、方法。
【請求項5】
前記反応温度が、30〜50℃の範囲であり、前記水性過酸化物溶液が、40%未満の濃度を有し、前記反応時間が、6時間を超え、前記過酸化物溶液供給速度が、毎時、前記脂肪酸アルキルエステルにおける炭素−炭素二重結合のモル当量当たり、0.3〜4モルの過酸化物溶液の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、R−C(=O)O−Rの構造を有し、Rが、直鎖状または分枝状C〜Cアルキル基であり、Rが、飽和、一価不飽和、および/または多価不飽和C12〜C22エポキシ化脂肪酸鎖を示す、請求項4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の様々な実施形態は、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを作製するための方法に関する。かかるエポキシ化脂肪酸アルキルエステルは、可塑剤として、または可塑剤組成物中に用いられ得る。
【0002】
概要
可塑剤は、ポリマー樹脂に添加される場合、それらが添加される樹脂(典型的には、熱可塑性ポリマー)の係数および引張強度のうちの1つ以上を低減し得、かつ柔軟性、伸長性、衝撃強度、および引裂き強度のうちの1つ以上を増加させ得る化合物または化合物の混合物である。可塑剤はまた、ポリマー樹脂の融点を低減し得、それが、ガラス転移温度を低減し、かつポリマー樹脂の加工性を向上させる。
【0003】
フタル酸ジエステル(「フタル酸塩」としても知られる)は、ポリ塩化ビニル(「PVC」)および他のビニルポリマーから形成されるポリマー生成物などの多くの柔軟性ポリマー生成物における可塑剤として通常使用される。フタル酸塩可塑剤の例としては、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジオクチル、およびフタル酸ジイソデシルが挙げられる。高温適用で使用される他の可塑剤は、トリメリテートおよびアジピン酸ポリエステルである。
【0004】
フタル酸塩可塑剤は、近年、フタル酸塩の環境への負の影響およびフタル酸塩に曝された人の健康への悪影響を懸念する公益団体によって厳重調査されている。その結果、フタル酸塩の使用を最小限にするか、または除去する可塑剤が必要とされる。進歩はしてきたが、かかる可塑剤の改善が依然として所望される。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを含み、該エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、4〜15g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を有する、可塑剤組成物である。
【0006】
別の実施形態は、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを生成するための方法であり、該方法は、酸および水性過酸化物溶液と接触させることによって、脂肪酸アルキルエステルを、制御されたエポキシ化を用いて、エポキシ化し、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを形成することを含み、該制御されたエポキシ化が、該エポキシ化脂肪酸アルキルエステルに、4〜15g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を示すのに十分な不飽和を維持させる反応温度、反応時間、水性過酸化物溶液濃度、および過酸化物溶液供給速度を選択することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の様々な実施形態は、エステル化天然油からエポキシ化脂肪酸アルキルエステル(「eFAAE」)を調製するための方法に関する。かかるeFAAEは、単独でまたはエポキシ化天然油(「eNO」)との組み合わせで可塑剤として用いられ得る。eFAAEおよび任意選択でeNOを含む可塑剤は、様々なポリマー樹脂と共に、様々な製造品の作製において用いられ得る。
【0008】
エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの調製
eFAAEは、エステル化(例えば、エステル交換)天然油のエポキシ化によって調製され得る。したがって、1つ以上の実施形態において、eFAAEは、最初に、天然油をエステル化(例えば、エステル交換)させることによって調製され得、それによって、脂肪酸アルキルエステルを生成する。用語「天然油」は、脂肪酸トリグリセリドを含み、かつ微生物(藻類、バクテリア)、植物/野菜、および/または種に由来する油である。一実施形態において、天然油は、遺伝子組み換えの天然油を含む。別の実施形態において、天然油は、石油系油を含まない。適切な天然油の非限定例としては、藻類油、牛脂油、キャノーラ油、ヒマシ油、コーン油、魚油、亜麻仁油、パーム油、菜種油、紅花油、大豆油、ヒマワリ油、トール油、桐油、およびそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。一実施形態において、天然油は、大豆油、キャノーラ油、亜麻仁油、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態において、天然油は、大豆油である。一実施形態において、天然油は、5重量パーセント(「重量%」)を超えるリノレン酸含有量を有する。
【0009】
一実施形態において、天然油のエステル化は、エステル交換によって実施される。エステル交換は、任意の従来の、または今後発見される技法を用いて実施され得る。一実施形態において、天然油は、酸または塩基触媒のいずれかを伴い、エステル交換条件下で、アルコールと接触させることによってエステル交換される。グリセロール副生成物は、不溶性のために反応生成物から除去される。エステル交換に用いられるアルコールは、脂肪酸アルキルエステルの所望のアルキル置換基に基づいて、選択される。エステル交換で使用するのに適切なアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールなどのC〜C一価直鎖状アルコール、またはイソプロパノール、イソブタノール、および2−エチルヘキサノールなどのC〜C分枝状アルコールを含む。一実施形態において、その結果生じた脂肪酸アルキルエステルが脂肪酸メチルエステルであるように、アルコールはメタノールである。
【0010】
一実施形態において、脂肪酸アルキルエステルは、R−C(=O)O−Rの構造を有し、Rが直鎖状または分枝状C〜Cアルキル基であり、Rが1つ以上の飽和、一価不飽和、および多価不飽和C12〜C22脂肪酸鎖を示す。
【0011】
触媒もまた、エステル化(例えば、エステル交換)のために用いられ得る。エステル化で使用するのに適切な触媒は、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、およびナトリウムエトキシドなどの金属アルコキシド、または水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物を含む均一アルカリ触媒、または坦持固体アルカリ触媒を含む。同様に用いられ得る触媒の他の部類は、酸、酸性樹脂、複金属シアン化物触媒、酵素、超酸、超塩基、および金属塩を含む。触媒は、均一または不均一な形態であり得る。一実施形態において、エステル交換に用いられる触媒は、メタノール中のナトリウムメトキシド溶液である。
【0012】
市販のFAAEが、様々な実施形態において用いられ得る。適切な市販のFAAEの例としては、SOYCLEAR(商標)1500およびSOYGOLD(商標)1100(大豆油からの脂肪酸メチルエステル、AG Environmental Products,Inc.から入手可能)、CANOLAGOLD(商標)110(キャノーラ油からの脂肪酸メチルエステル、AG Environmental Products,Inc.から入手可能)、ならびにSE−1885およびSE−1885D(大豆油からの脂肪酸メチルエステル、Felda Iffco,Inc.から入手可能)が挙げられる。
【0013】
脂肪酸アルキルエステルは、次に酸および水性過酸化物溶液と接触させることによってエポキシ化され、それによって、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル、残留酸、残留過酸化物、および水を含むエポキシ化反応混合物を生成する。天然油のエポキシ化に使用するのに適切な過酸化物は、過酸化水素、ペルオキシカルボン酸、アルキルヒドロ過酸化物、および三級ヒドロ過酸化物の水溶液を含む。一実施形態において、用いられる過酸化物は、過酸化水素の水溶液である。
【0014】
脂肪酸アルキルエステルのエポキシ化の使用に適切な酸は、ギ酸および酢酸などのカルボン酸、ならびに過ギ酸および過酢酸などのペルオキシカルボン酸を含む。一実施形態において、ペルオキシカルボン酸が用いられ、酸および過酸化物両方として働く。鉱酸(例えば、硫酸)および不均一酸樹脂(例えば、Amberlite(商標)IR120H、Rohm&Haasから入手可能)などの触媒が、任意選択で、酸の存在下で用いられ得る。一実施形態において、エポキシ化に用いられる酸はギ酸である。
【0015】
1つ以上の実施形態において、エポキシ化反応は、100グラムのエポキシ化脂肪酸アルキルエステル当たり4〜15グラムのヨウ素(「g・I/100g」)の範囲、4〜10g・I/100gの範囲、7〜10g・I/100gの範囲、または8〜10g・I/100gの範囲のヨウ素価を有するeFAAEを生成するように制御される。ヨウ素価は、米国油脂化学協会(American Oil Chemists’Society)(「AOCS」)推奨方法Cd1〜25に従い判定される。さらに、制御されたエポキシ化反応条件は、eFAAEの総重量に基づいて、少なくとも6重量%、または少なくとも6.5重量%のオキシラン酸素含有量を有するeFAAEを生成するために、選択され得る。様々な実施形態において、eFAAEは、eFAAEの総重量に基づいて、最大8重量%、または7.5重量%のオキシラン酸素含有量を有し得る。オキシラン酸素含有量は、AOCS推奨方法Cd9〜57に従い判定される。
【0016】
制御されたエポキシ化は、所望のヨウ素価および/またはオキシラン酸素含有量に到達するために、反応温度、反応時間、水性過酸化物溶液濃度、過酸化物対炭素/炭素二重結合のモル比、および過酸化物溶液供給速度の組み合わせを選択することを含む。一実施形態において、用いられるエポキシ化反応温度は、20〜60℃の範囲、30〜50℃の範囲、または40〜50℃の範囲で維持され得る。様々な実施形態において、用いられる水性過酸化物溶液は、50体積パーセント(「体積%」)未満、40体積%未満、20〜40体積%の範囲、25〜35体積%の範囲、または30体積%の濃度を有し得る。1つ以上の実施形態において、FAAEにおける過酸化物対炭素/炭素二重結合のモル比は、1.5〜2、1.7〜2、または2であり得る。一実施形態において、過酸化物溶液供給速度は、毎時、脂肪酸アルキルエステルのグラム当たり、0.2〜2グラムの過酸化物溶液の範囲であり得る。別の実施形態において、過酸化物溶液供給速度は、毎時、脂肪酸アルキルエステルにおける炭素−炭素二重結合のモル当量当たり、0.3〜4モルの過酸化物溶液の範囲であり得る。過酸化物溶液供給速度を決定するためにどの測定値が用いられるかにかかわらず、一実施形態において、過酸化物溶液供給速度は、エポキシ化反応温度が、上述の所望の最高温度を超えないように制御され得る。一実施形態において、過酸化物供給速度は、エポキシ化反応温度が、60℃、50℃、または40℃を超えるのを防止するために制御され得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、上述のヨウ素価を維持するために選択される反応条件は、オキシラン酸素含有量の減少を引き起こし得る。所望のオキシラン酸素含有量(例えば、少なくとも6または少なくとも6.5重量%)に到達するためには、従来の反応時間より長い時間が用いられ得る。様々な実施形態において、エポキシ化を制御するために用いられる反応時間は、6時間超、7〜20時間の範囲、8〜15時間の範囲、または10〜12時間の範囲であり得る。
【0018】
理論に束縛されるものではないが、驚くべきことに、少なくとも4のヨウ素価を維持することが、従来のeFAAEと比較して低い濃度の親水性不純物を有するeFAAEを生成することが見出された。用語「親水性不純物」は、脂肪酸鎖上の分解されたエポキシ環から形成されるヒドロキシル基を含有するエポキシ化脂肪酸エステル化合物を示す。一実施形態において、eFAAEは、eFAAEの総重量に基づいて、0.8重量%未満、0.7重量%未満、0.6重量%未満、0.5重量%未満、0.4重量%未満、0.3重量%未満、0.2重量%未満、または0.1重量%未満の親水性不純物含有量を有し得る。親水性不純物含有量は、以下の実施例において記載される試験方法に従い、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)によって判定される。
【0019】
エポキシ化後、残留酸、過酸化物、および水が、層分離および中和によってエポキシ化反応混合物から除去される。層分離は、水、酸、過酸化物、ならびに可能性のある油およびエステルの痕跡を含む水層の、eFAAEを含む有機層からの分離を伴う。層分離を達成するには、反応混合物を沈殿させ、かつ密度の違いにより二層に分離させ、底部水層は、処分されるが、一方で、上部有機層は、さらに処理され、所望の生成物を得る。
【0020】
層分離後、残留酸は、ナトリウム/重炭酸塩溶液と接触させることなどによって中和され得る。その後、有機層は、水で1時間以上洗浄され得る。一実施形態において、有機層は、中性(約7のpHを有する)になるまで、繰り返し、洗浄される。その後、洗浄済混合物は、さらに層分離をされ、続いて、上部有機層の真空蒸留をし、残留水を除去し得る。
【0021】
可塑剤
本開示は、上述のように調製されたeFAAEを含む可塑剤組成物を提供する。任意選択で、可塑剤組成物は、eNOなどの他の種類の可塑剤をさらに含み得る。適切なエポキシ化天然油は、エポキシ化動物および植物油、例えば、エポキシ化大豆油(「eSO」)、エポキシ化コーン油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化パーム油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化キャノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化紅花油、エポキシ化トール油、エポキシ化桐油、エポキシ化魚油、エポキシ化牛脂油、エポキシ化ヒマシ油、またはそれらの組み合わせを含む。一実施形態において、本可塑剤は、フタル酸塩非含有可塑剤であるか、さもなければ、フタル酸塩が無いかまたは実質的に無い。
【0022】
eFAAEおよびeNOの両方が存在するとき、可塑剤組成物は、重量比で、0超(「>」):100未満(「<」)〜<100:>0、より典型的には10:90〜90:10、より典型的には20:80〜80:20、さらにより典型的には30:70〜70:30の範囲のeFAAE(例えば、eFAME)対eNO(例えば、eSO)の相対量を含有し得る。別の実施形態において、可塑剤組成物は、20〜100重量%未満のeFAAEおよび0超〜80重量%のeSOを含む。重量比および重量パーセントは、可塑剤組成物の総重量に基づく。様々な実施形態において、可塑剤組成物は、eFAAEおよびeNOからなるか、またはから本質的になる。
【0023】
ポリマー組成物
本開示は、ポリマー組成物を提供する。一実施形態において、ポリマー樹脂および上で開示された本可塑剤を含むポリマー組成物が提供される。
【0024】
適切なポリマー樹脂の非限定例としては、ポリスルフィド、ポリウレタン、アクリル、エピクロロヒドリン、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレン、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、合成ゴム、EPDMゴム、プロピレン系ポリマー、エチレン系ポリマー、および塩化ビニル樹脂が挙げられる。用語「プロピレン系ポリマー」は、本明細書で使用される場合、大部分の重量パーセントを重合されたプロピレンモノマー(重合可能モノマーの総量に基づく)を含み、かつ任意選択で少なくとも1つの重合されたコモノマーを含み得るポリマーである。用語「エチレン系ポリマー」は、本明細書で使用される場合、大部分の重量パーセントを重合されたエチレンモノマー(重合可能モノマーの総量に基づく)を含み、かつ任意選択で少なくとも1つの重合されたコモノマーを含み得るポリマーである。
【0025】
用語「塩化ビニル樹脂」は、本明細書で使用される場合、ポリ塩化ビニル(「PVC」)などの塩化ビニルポリマー、または塩化ビニル/ビニルアセテートコポリマー、塩化ビニル/塩化ビニリデンコポリマー、塩化ビニル/エチレンコポリマー、または塩化ビニルをエチレン/ビニルアセテートコポリマーにグラフトすることによって調製されるコポリマーなどの塩化ビニルコポリマーである。塩化ビニル樹脂はまた、上述の塩化ビニルポリマーまたは塩化ビニルコポリマーと、塩素化ポリエチレン、熱可塑性ポリウレタン、メタクリルポリマー、またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマーなどのオレフィンポリマーを含むが、これらに限定されない他の混和性または適合性ポリマーとのポリマー配合物を含み得る。
【0026】
一実施形態において、ポリマー樹脂はPVCである。
【0027】
一実施形態において、ポリマー組成物は、25重量%〜90重量%のPVC、5重量%〜35重量%のeFAAE、0重量%〜35重量%のeNO、および0重量%〜35重量%の充填剤を含有する。
【0028】
添加剤
ポリマー組成物は、以下の任意の添加剤のうちの1つ以上を含み得る:充填剤、抗菌剤、殺生物剤、難燃剤、熱安定剤、防滴剤、着色剤、潤滑剤、低分子量ポリエチレン、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、硬化剤、ブースター、抑制剤、加工助剤、結合剤、帯電防止剤、造核剤、スリップ剤、粘度調整剤、粘着付与剤、ブロッキング防止剤、界面活性剤、伸展油、酸掃去剤、金属不活性化剤、およびそれらの任意の組み合わせ。
【0029】
一実施形態において、ポリマー組成物は、PVC、本可塑剤、充填剤(炭酸カルシウム、粘土、シリカ、およびそれらの任意の組み合わせ)、金属石鹸安定剤(ステアリン酸亜鉛またはCa、Zn、Mg、Sn、およびそれらの任意の組み合わせを含む混合金属石鹸安定剤)、フェノールまたは関連する抗酸化剤、および加工助剤を含む。
【0030】
製造品
上述のポリマー組成物を含む製造品が、調製され得る。かかる製造品は、医療または食品産業で使用するために設計されたもの、特に、溶出性化合物が懸念である場合に頻繁に水と接触し得るそれらの物品を含み得る。製造品の例としては、血液バッグ、静脈注射用バッグ、生理食塩水バッグ、シリンジ、静脈注射用管、経鼻胃管、カテーテル管、排液管、診察用手袋、酸素マスク、矯正リテーナー、人工皮膚、および食品包装(例えば、様々な飲料、肉、および冷凍野菜のための包装)が挙げられる。
【0031】
試験方法
親水性不純物測定
水溶出性(すなわち、親水性)不純物の量を、蒸発光散乱検出器(「ELSD」)を備えるHPLCを使用して計測する。方法は以下の通りである。
1)0.04gのeFAME(液体)を8gの脱イオン水に添加する。
2)サンプルを、40℃のオーブンで24時間加熱する。
3)1mLのサンプルをバイアル瓶の底から取り出す。
4)HPLC−ELSDを各サンプルに対して実施する。
【0032】
【0033】
【0034】
オキシラン酸素含有量
AOCS Cd9〜57に従い、オキシラン酸素含有量を判定する。
【0035】
ヨウ素価
AOCS Cd1〜25に従い、ヨウ素価を判定する。
【実施例】
【0036】
実施例1
50gのFAME(SOYCLEAR(商標)1500、AG Environmental Products,Inc.から入手可能)および5.8gのギ酸(98〜100%純度、RANKEM,RFCL Ltd.から入手可能)を、TEFLON(商標)ブレードを有するオーバーヘッド撹拌機を備える250mLガラス反応装置に満たし、30℃の初期温度を有する油浴に浸す。用いられるFAMEおよびギ酸の量は、0.5の酸対炭素/炭素二重結合(「C=C」)モル比に到達する。57.5gの30体積%の過酸化水素(「H」)(Merck&Co.から入手)溶液(水中)を添加し、2のH対C=Cモル比という結果となる。Hを、最初の2時間、一定速度で添加し、反応温度を、油浴の温度を調節することによって、40℃に維持する。反応混合物を、400rpmでオーバーヘッド撹拌機によって撹拌し、反応装置中での適切な混合を確実にする。供給時間を含む合計11時間の反応条件を維持する。11時間後、撹拌を停止し、反応混合物を2時間かけて、水(底部)および有機(上部)層へと分離させる。その結果生じた水層を排出し、ほとんどの水およびギ酸を分離する。有機層を、希釈重炭酸ナトリウム溶液(S.d.fine Chemから入手した8.4gの重炭酸ナトリウム粉末を1リットルの蒸留水に溶解することによって調製した0.1M溶液)で中和し、それによって残留ギ酸を本質的に除去する。合計75mLの0.1M重炭酸ナトリウム溶液を、中和のために5段階で添加する。その後、有機層を水で洗浄し、それが中性になるまで繰り返す(約25mLの水、合計)。各洗浄後にpH試験紙を使用して、洗浄水のpHを測定し、それが約7のpH値に到達するまで洗浄し続ける。最終洗浄後に、50mLの蒸留水を、有機層を含む分液漏斗に添加する。その混合物を振動させ、適切な接触を確実にし、その混合物を沈殿させる。分離に到達すると直ぐに、底部水層を排出する。上部有機層を真空(約10mbar(1,000Pa)、60℃)下に2時間配置し、残留水を除去する。
【0037】
実施例2
実施例1で上述した通りに、eFAMEサンプルを調製するが、但し、出発物質として大豆油をエステル交換することによって調製したFAMEを用いる。以下の方法に従い、FAMEを調製する。100g(0.113モル)の大豆油(Cargill Geminiから入手)を、500mLの3つ首丸底フラスコに満たす。21.72g(0.68モル)のメタノール(99.5%純度、Sigma Aldrichから入手)を反応装置に添加し、6:1のメタノール:大豆油のモル比を維持する。反応装置は、凝縮器、温度センサ、およびTEFLON(商標)ブレードを有するオーバーヘッド撹拌機を備える。反応装置を油浴に浸し、窒素流下で、60℃の反応温度を維持する。60℃の反応温度に到達すると直ぐに、メタノール(Sigma Aldrichから市販)中に溶解した4gの25%ナトリウムメトキシドを反応装置に添加する。反応後、反応混合物を水で数時間洗浄(pHが約7になるまで)し、残留ナトリウムメトキシドを除去する。最終生成物を、真空下(60℃で10mbar)で乾燥させ、FAMEを得る。
【0038】
実施例3
eFAMEサンプルを、実施例2で調製された通りの出発物質を使用して、実施例1に記載の方法に従い調製するが、但し、エポキシ化反応温度を40℃の代わりに50℃に維持する。
【0039】
比較実施例1
eFAMEサンプルを、50gのFAME(実施例2で調製された通りの)および5.8gのギ酸を、実施例1で記載の通りに装備されたガラス反応装置(0.5の酸対C=Cモル比)に満たすことによって、調製する。34.5gの50体積%H(Merckから入手)溶液(水中)を、一定の速度で、添加し、2のH対C=Cモル比を提供する一方で、反応混合物を撹拌し、反応温度を60〜70℃に維持する。6時間の反応時間後、撹拌を停止し、反応混合物を2時間にわたって水および有機層へと分離させる。残りのステップを実施例1で記載の通りに繰り返す。
【0040】
比較実施例2
eFAMEサンプルを、50gのFAME(SOYCLEAR(商標)1500)および5.8gのギ酸を実施例1で記載の通りに装備されたガラス反応装置(0.5の酸対C=Cモル比)に満たすことによって、調製する。34.5gの50体積%H(Merckから入手)溶液(水中)を、一定速度で、添加し、2のH対C=Cモル比を提供する一方で、反応混合物を撹拌し、60℃の反応温度を維持する。3時間の反応時間後、撹拌を停止し、反応混合物を2時間にわたって水および有機層へと分離させる。残りのステップを実施例1で記載の通りに繰り返す。
【0041】
分析
上述の通りに調製された各サンプルに対して、上述の手順に従いオキシラン酸素含有量を判定する。さらに、各サンプルのヨウ素価を、上述の手順に従い判定する。最後に、各サンプルの親水性不純物含有量を、上述の手順に従い判定する。これらの分析の結果を、以下表1に提供する。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果からわかるように、eFAME実施例1および2における親水性不純物の量は、ヨウ素価が、3.2から8〜10に増加したときに90%を超えて減少した。親水性不純物含有量もまた、実施例3でわかるようにヨウ素価が、3.2から4を超えて増加したときに85%を超えて減少した。その一方で、比較実施例1で示されるように、ヨウ素価がさらに1.6まで減少したときに、親水性不純物は、60%を超えて増加した。
なお、本発明には、以下の実施態様が包含される。
[1]可塑剤組成物であって、
エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを含み、
前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、4〜15g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を有する、可塑剤組成物。
[2]前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、7〜10g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を有する、[1]に記載の可塑剤組成物。
[3]前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、少なくとも6重量パーセントのオキシラン酸素含有量を有する、[1]または[2]のいずれかに記載の可塑剤組成物。
[4]前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、0.8重量パーセント未満の親水性不純物含有量を有する、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の可塑剤組成物。
[5]ポリマー樹脂および[1]〜[4]のいずれか1項に記載の可塑剤組成物を含む、ポリマー組成物。
[6]前記ポリマー樹脂が、塩化ビニル樹脂であり、前記ポリマー組成物が、血液バッグ、静脈注射用バッグ、生理食塩水バッグ、シリンジ、静脈注射用管、経鼻胃管、カテーテル管、排液管、診察用手袋、酸素マスク、矯正リテーナー、人工皮膚、および食品包装からなる群から選択される製造品である、[5]に記載のポリマー組成物。
[7]エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを生成するための方法であって、
脂肪酸アルキルエステルを、制御されたエポキシ化を用いて、酸および水性過酸化物溶液と接触させることによって、エポキシ化し、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルを形成することを含み、
前記制御されたエポキシ化が、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルに、4〜15g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を示すのに十分な不飽和を維持させる反応温度、反応時間、水性過酸化物溶液濃度、および過酸化物溶液供給速度を選択することを含む、方法。
[8]前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、7〜10g・I/100g(エポキシ化脂肪酸アルキルエステル)の範囲のヨウ素価を有し、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、少なくとも6重量パーセントのオキシラン酸素含有量を有し、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルの総重量に基づいて、0.8重量パーセント未満の親水性不純物含有量を有する、[7]に記載の方法。
[9]前記反応温度が、30〜50℃の範囲であり、前記水性過酸化物溶液が、40%未満の濃度を有し、前記反応時間が、6時間を超え、前記過酸化物溶液供給速度が、毎時、前記脂肪酸アルキルエステルにおける炭素−炭素二重結合のモル当量当たり、0.3〜4モルの過酸化物溶液の範囲である、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記脂肪酸アルキルエステルが、天然油をエステル交換することによって調製され、前記天然油が、大豆油、キャノーラ油、亜麻仁油、およびそれらの混合物からなる群から選択され、前記エポキシ化脂肪酸アルキルエステルが、R−C(=O)O−Rの構造を有し、Rが、直鎖状または分枝状C〜Cアルキル基であり、Rが、飽和、一価不飽和、および/または多価不飽和C12〜C22エポキシ化脂肪酸鎖を示す、[7]〜[9]のいずれか1項に記載の方法。