【実施例】
【0030】
実施例1:組み換えベクターpCC1BAC−rpoHの製作
(1)rpoH遺伝子断片の準備
rpoH遺伝子(配列番号14、アミノ酸配列番号16)を含むDNA断片約1.0kbを得るために、キアゲン社製のGenomic−tipシステムを用いて大腸菌野生株であるW3110の染色体DNA(gDNA)を抽出し、前記gDNAを鋳型としてPCRHLプレミックスキット(BIONEER社製、以下、同じ。)を用いて重合酵素連鎖反応(polymerase chain reaction、以下、「PCR」と略称する。)を行った。
rpoH遺伝子を増幅させるための重合酵素連鎖反応(PCR)は、配列番号1および2のプライマーを用いて、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における1分間の伸張よりなるサイクルを27回繰り返し行った。
前記重合酵素連鎖反応(PCR)結果物をEcoRIで切断して1.0Kbの大きさのDNA断片(以下、「rpoH断片」と命名する。)を0.8%のアガロースゲルにおいて電気泳動した後、溶離して得た。
【0031】
(2)組み換えベクターpCC1BAC−rpoHの製作
複製数調節pCC1BAC EcoRIクローニングレディベクター(Copycontrol pCC1BAC EcoRI cloning−ready vector;EPICENTRE(USA))および実施例1−(1)において得られたrpoH断片をそれぞれ制限酵素EcoRIで処理し、結さつしてpCC1BAC−rpoHプラスミドを製作した。
【0032】
実施例2:組み換えベクターpCC1BAC−rpoHの変異体ライブラリーの製作
(1) エラープローン 重合酵素連鎖反応(PCR)を用いたrpoH変異体の準備
無作為的突然変異が取り込まれたrpoH変異体断片よりなるDNAプールを得るために、実施例1−(1)において抽出したW3110のgDNAを鋳型としてクローンテック社製のdiversifyPCRrandommutagenesiskit(カタログ番号K1830−1)のユーザーマニュアルに提示されている表3の突然変異反応4の条件で重合酵素連鎖反応(PCR)を行った。重合酵素連鎖反応(PCR)は、配列番号1および2のプライマーを用いて、94℃における30秒間の変性、68℃における1分間の伸張よりなるサイクルを25回繰り返し行った。
前記重合酵素連鎖反応(PCR)結果物をEcoRIで切断して1.0Kbの大きさのDNA断片(以下、「rpoH
m断片」と命名する。)を0.8%のアガロースゲルにおいて電気泳動した後、溶離して得た。
【0033】
(2)組み換えベクターpCC1BAC−rpoHの変異体ライブラリーの製作
複製数調節pCC1BAC EcoRIクローニングレディベクターを実施例2−(1)において得られたrpoH
m断片と結さつしてpCC1BAC−rpoH
mベクターを製作した。
これをトランスフォーマックスEPI300エレクトロコンピテント大腸菌(TransforMax EPI300 Electrocompetent E.coli;EPICENTRE(USA))に形質転換し、LBプレート+15μg/mlクロラムフェニコール+40μg/ml X−Gal+0.4mM IPTGにおいて選別して青いコロニーが出ないことを確認し、取得されたコロニーを集めてプラスミドプレップを行ってpCC1BAC−rpoHの変異体ライブラリーを製作した。
【0034】
(3) pCC1BAC−rpoHの変異体ライブラリーのスレオニン産生菌株の取り込み
前記実施例1−(2)において得られたpCC1BAC−rpoHおよび実施例2−(2)において得られたpCC1BAC−rpoHの変異体ライブラリーをコンピテントな状態で製造したスレオニン産生菌株である大腸菌KCCM 10541にそれぞれ形質転換して取り込み、得られた菌株をそれぞれKCCM10541/pCC1BAC−rpoHおよびKCCM 10541/pCC1BAC−rpoH変異体ライブラリーと命名した。
この実施例において用いられた母菌株である大腸菌KCCM 10541は、メチオニン栄養要求性、イソロイシン漏出型要求性、L−スレオニン類似体(例えば、α−アミノ−β−ヒドロキシヒドロキシ酪酸;AHV)に対する耐性、L−リシン類似体(例えば、S−(2−アミノエチル)−L−システイン;AEC)に対する耐性、イソロイシン類似体(例えば、α−アミノ酪酸)に対する耐性、メチオニンの類似体(例えば、エチオニン)に対する耐性などの特性を有する母菌株である大腸菌(Escherichia coli)KCCM 10236の染色体の内部に存在するtyrR遺伝子およびgalR遺伝子を不活性化させることにより向上したL−スレオニン産生能を有する菌株である(大韓民国特許登録番号第10−0576342号)。
【0035】
実施例3:温度に耐性を有するRNAポリメラーゼシグマ32ファクター変異体の選別
この実施例においては、温度に耐性を有するRNAポリメラーゼシグマ32ファクター変異体を選別するための実験を行った。
前記実施例2−(3)において製造した大腸菌KCCM10541/pCC1BAC−rpoHおよび大腸菌KCCM 10541/pCC1BAC−rpoH変異体ライブラリーを37℃、33℃の培養器においてLB固体培地中に一晩培養し、これをそれぞれ下記表1の25mLの力価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを37℃、33℃の震とう培養器において200rpmにて48時間それぞれ培養した。
【表1】
【0036】
rpoH変異体ライブラリーが取り込まれたそれぞれのコロニーを37℃で培養してKCCM 10541/pCC1BAC−rpoHに比べてスレオニンの濃度が上昇する変異体を選別し、これを33℃で培養して評価する過程を繰り返し行ってrpoH変異体ライブラリーに対する評価を行った。このような過程を通して、温度への耐性及び歩留まり率の向上が両立されたクローンを選別した。前記クローンからベクターを抽出してpCC1BAC−rpoH
2−G6と命名した。
前記pCC1BAC−rpoH
2−G6の変異を確認するために、複製数調節pCC1BAC EcoRIクローニングレディベクターキットに確認用プライマーとして提供されるpIBFP(配列番号3)およびpIBRP(配列番号4)を用いてpCC1BAC−rpoH
2−G6の重合酵素連鎖反応(PCR)を行い、得られた重合酵素連鎖反応(PCR)結果物の配列を分析した。配列を分析したところ、rpoHの変異体であるrpoH
2−G6(配列番号15)は、配列番号17のアミノ酸配列を有することを確認した。
【0037】
実施例4:組み換え菌株のL−スレオニン産生能の比較
前記実施例3において得られたベクターpCC1BAC−rpoH
2−G6を大腸菌KCCM 10541に形質転換して大腸菌KCCM 10541/pCC1BAC−rpoH
2−G6を製造した。
母菌株である大腸菌KCCM 10541、大腸菌KCCM 10541/pCC1BAC−rpoHおよび大腸菌をKCCM 10541/pCC1BAC−rpoH
2−G6をそれぞれ上記表1のスレオニン力価培地を用いて三角フラスコにおいて培養してL−スレオニン産生性を確認した。その結果を下記表2に示す。
【表2】
【0038】
上記表2に記載されているように、母菌株である大腸菌KCCM 10541と対照 群菌株であるKCCM 10541/pCC1BAC−rpoH菌株は、48時間培養した場合、30.6g/L、30.5g/LのL−スレオニンを産生したが、上記のようにして得た大腸菌KCCM 10541/pCC1BAC−rpoH
2−G6菌株は31.1g/LのL−スレオニンを産生して母菌株に比べて約1%向上したL−スレオニン産生能を示した。
37℃では母菌株(KCCM 10541)および対照群菌株(KCCM10541/pCC1BAC−rpoH)の歩留まり率が下がる様相を示すのに対し、KCCM 10541/pCC1BAC−rpoH
2−G6菌株は温度による濃度低下現象を示さず、31.8g/LのL−スレオニンを産生して高温における培養時に対照群に比べて約8%向上したスレオニン産生能が与えられたことを確認することができた。
【0039】
実施例5:選別されたrpoH変異体(rpoH
2−G6)のスレオニン産生菌株別の効果の比較
(1) ABA5G/pAcscBAR'−M、pC−Ptrc−scrAB菌株におけるrpoH変異体(rpoH2−G6)効果の確認
前記実施例4において効果が確認されたベクターpCC1BAC−rpoH
2−G6をスレオニン産生菌株であるABA5G/pAcscBAR'−M、pC−Ptrc−scrAB(大韓民国特許登録番号第10−1145943号)に取り込んでABA5G/pAcscBAR'−M、pC−Ptrc−scrAB、pCC1BAC−rpoH
2−G6を製作し、下記表3に示す力価培地を製造して力価評価を行った。その結果を下記表4に示す。
この実施例において用いられた母菌株であるABA5G/pAcscBAR'−M、pC−Ptrc−scrABは、スレオニン産生菌株であるABA5G菌株(母菌株である大腸菌W3110のN−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)突然変異の誘起により製作された菌株であり、メチオニン要求性、イソロイシン漏出、α−アミノ−β−ヒドロキシヒドロキシ酪酸に対する耐性、2−アミノエチル−1−システインに対する耐性、1−アゼチジン−2−カルボン酸に対する耐性を有する)にpAcscBAR'−M遺伝子群およびpC−Ptrc−scrAB遺伝子群を含むベクターに形質転換して得られたL−スレオニン産生能を有する大腸菌である。
【表3】
【表4】
【0040】
上記表4に記載されているように、大腸菌KCCM 10541を除く他のスレオニン産生菌株に取り込んだ場合にも、上記表2から確認されたところと同様に、ベクターpCC1BAC−rpoH
2−G6を取り込むと、33℃ではスレオニンの歩留まり率が維持され、37℃でもスレオニンの歩留まり率が33℃の歩留まり率と略同じレベルに維持されることを確認することができた。
【0041】
(2) 大腸菌KCCM11167P菌株におけるrpoH変異体(rpoH2−G6)効果の確認
さらに他のスレオニン産生菌株である大腸菌KCCM11167P(大韓民国特許出願番号第2011−0005136号)にベクターpCC1BAC−rpoH
2−G6を取り込んで大腸菌KCCM11167P/pCC1BAC−rpoH
2−G6を製作し、上記表1の力価培地を製造してスレオニン産生能を評価した。その結果を下記表5に示す。
この実施例において用いられた母菌株である大腸菌KCCM11167Pは、KCCM 10541菌株(大韓民国特許登録番号第10−0576342)にtdcBを不活性化させ、nadKを2copyに強化させてNADキナーゼ活性を強化させた菌株である。
【表5】
【0042】
上記表5の力価評価の結果から、前記実施例5−(1)に示す他のスレオニン産生菌株に取り込まれたときと同様に、スレオニン産生能を有する菌株にpCC1BAC−rpoH
2−G6が取り込まれると、33℃ではスレオニンの歩留まり率が維持され、37℃ではスレオニンの歩留まり率が33℃における歩留まり率と略同様に維持されることを確認することができた。
【0043】
実施例6:選別されたrpoH変異体(rpoH
2−G6)の染色体への追加挿入
(1) rpoH2−G6挿入用カセット断片の準備
前記実施例3において選別されたrpoH
2−G6変異体を染色体に追加的に挿入するために線形挿入用カセットを製作した。線形挿入用カセットは、下記の方法に従い製作した。
配列番号5および6のプライマーを用いて、大腸菌W3110 gDNAを鋳型として重合酵素連鎖反応(PCR)を行った。重合酵素連鎖反応(PCR)は、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における30秒間の伸張よりなるサイクルを27回繰り返し行った。このようにして得られたDNA断片を相同性部位1と命名した。
配列番号7および8のプライマーを用いて、pMloxCmtを鋳型として変異体loxP−Cm
r−loxPカセットを増幅させるための重合酵素連鎖反応(PCR)を行い、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における1分間の伸張よりなるサイクルを27回繰り返し行った。このようにして得たDNA断片を相同性部位1と命名した。ここで、鋳型として用いられたpMloxCmtは、鈴木らがlox71およびlox66と命名した変異体loxPを用いた改善された遺伝子の欠失方法について報告した内容を応用して当業者が製作したベクターである(Suzuki N. et al., Appl. Environ. Microbiol. 71:8472, 2005)。
このようにして得た相同性部位1および変異体loxP−Cm
r−loxPカセット部分を配列番号5および8を用いて重複伸長重合酵素連鎖反応(PCR)を行い、相同性領域1−変異体loxP−Cm
r−loxPを得た。このとき、重合酵素連鎖反応(PCR)は、プライマーがない状態で、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における1分30秒間の伸張よりなるサイクルを5回繰り返し行った後、プライマーを入れて23サイクルをさらに行った。
配列番号9および10のプライマーを用いて、pCC1BAC−rpoH
2−G6を鋳型として重合酵素連鎖反応(PCR)を行った。94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における1分間の伸張よりなるサイクルを27回繰り返し行った。
配列番号11および12のプライマーを用いて、大腸菌W3110 gDNAを鋳型として重合酵素連鎖反応(PCR)を行った。94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における30秒間の伸張よりなるサイクルを27回繰り返し行った。このようにして得たDNA断片を相同性部位2と命名した。
上記のrpoH
2−G6および相同性部位2の部分に対して配列番号9および12を用いて重複伸長重合酵素連鎖反応(PCR)を行ってrpoH
2−G6−相同性部位2を得た。このとき、重合酵素連鎖反応(PCR)は、プライマーがない状態で、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における1分30秒間の伸張よりなるサイクルを5回繰り返し行った後、プライマーを入れて23サイクルをさらに行った。
このようにして得た相同性部位1−変異体loxP−Cm
r−loxP、rpoH
2−G6−相同性部位2を鋳型として、配列番号5および12を用いて重複伸長重合酵素連鎖反応(PCR)を行ってrpoH
2−G6挿入用カセットを製作した。このとき、重合酵素連鎖反応(PCR)は、プライマーがない状態で、94℃における30秒間の変性、55℃における30秒間のアニーリングおよび72℃における3分間の伸張よりなるサイクルを5回繰り返し行った後、プライマーを入れて23サイクルをさらに行った。このような過程を経て配列番号13に記載のrpoH
2−G6挿入用カセットを製作した。
【0044】
(2) 染色体の上にrpoH2−G6変異体がさらに挿入された組み換え菌株の製造
染色体の上に既に選別されたrpoH
2−G6変異体を挿入するために、大腸菌KCCM 10541に前記実施例6−(1)において製作したrpoH
2−G6挿入用カセットDNA断片を分離精製して公知の1段階不活性化(Warner et al., PNAS, 6;97(12):6640, 2000)の方法と同様にして既存の内在されたrpoHの後ろの染色体部分にrpoH
2−G6変異体をさらに挿入した。次いで、抗生剤耐性標識遺伝子を除去してrpoH
2−G6変異体がさらに挿入された菌株を製作し、塩基配列の分析を行って重合酵素連鎖反応(PCR)エラーが導入されていないことを確認した。製作されたrpoH
2−G6の追加挿入菌株をFTR2700と命名し、前記形質転換された大腸菌FTR2700を2013年2月5日付けで韓国微生物保存センター(KoreanCulture Center of Microorganisms、以下、「KCCM」と略称する。)に寄託した(受託番号KCCM 11368P)。
【0045】
(3) L−スレオニン産生性の確認
前記実施例6−(2)において製造した組み換え微生物を上記表1のスレオニン力価培地を用いて三角フラスコにおいて培養してL−スレオニン産生性を確認した。
33℃、37℃の培養器においてLB固体培地中に一晩培養した大腸菌KCCM 10541および大腸菌KCCM 11368Pをそれぞれ上記表1の25mLの力価培地に一白金耳ずつ接種した後、これを33℃、37℃の震とう培養器において200rpmにて48時間培養した。
下記表6に記載されているように、母菌株である大腸菌KCCM 10541菌株は、48時間培養した場合に30.3g/LのL−スレオニンを産生し、本発明の前記実施例6−(2)において製作されたKCCM11368P大腸菌菌株は30.0g/LのL−スレオニンを産生して母菌株と略同じL−スレオニン産生性を示した。37℃では母菌株(KCCM 10541)の歩留まり率が下がる様相を示すのに対し、KCCM 11368P菌株は温度による濃度低下現象を示さず、濃度が上がる様相を示した。
これにより、ベクターの形で取り込まれて形質転換された菌株と同様に、37℃の培養時にも33℃の培養時と略同じレベルのスレオニン産生能あるいはこれを上回るレベルのスレオニン産生能が与えられたことを確認することができた。
【表6】
【0046】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須的特徴を変更することなく他の具体的な形態にて実施可能であるということが理解できる筈である。これと関連して、上述した実施例はあらゆる面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味および範囲並びにその等価概念から導き出されるあらゆる変更例または変形例が本発明の範囲に含まれるものと解釈さるべきである。
【0047】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(海外)
受託番号:KCCM 11368P
受託日:2013年02月05日
寄託機関の名称
韓国微生物保存センター
寄託機関の住所(郵便番号および国名を含む)
〒120-091 韓国ソウル特別市西大門区弘済1洞361-221番地ユリムビル 寄託日
2013年02月05日
寄託番号
KCCM 11368P