(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192829
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】スピンドル駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20170828BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
F16H25/24 J
F16H25/20 Z
F16H25/24 A
F16H25/24 B
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-526574(P2016-526574)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2016-524112(P2016-524112A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014065090
(87)【国際公開番号】WO2015007709
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】102013214093.2
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ヨハニング
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン コーラー
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許第00010540(EP,B1)
【文献】
実開昭54−156071(JP,U)
【文献】
実開昭48−061287(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転運動と並進運動との間で変換を行うスピンドル駆動装置(100)であって、
スピンドル(105)と、
スピンドルナット(115)と、を有しており、
前記スピンドル(105)と前記スピンドルナット(115)とは、ねじ山(110,120)によって互いに連結されており、
前記スピンドルナット(115)は、その前記ねじ山(120)の軸方向延長部にリザーバ(150)を有しており、該リザーバ(150)内には前記スピンドル(105)の一部が延在しており、
前記リザーバ(150)内に、潤滑剤(155)が収容されており、
前記スピンドル(105)の、前記リザーバ(150)の領域に、押退け体(165)が取り付けられており、該押退け体(165)は、半径方向外側に向かって、前記スピンドル(105)の前記ねじ山(110)よりも大きく延在しており、
前記押退け体(165)には、片側が開いたワッシャ(305)が含まれ、前記スピンドル(105)は、前記ワッシャ(305)を取り付けるための半径方向溝(170)を有している、
ことを特徴とする、スピンドル駆動装置。
【請求項2】
前記リザーバ(150)は軸方向に少なくとも、前記スピンドル(105)が軸方向に移動可能な距離と同程度に延在している、請求項1記載のスピンドル駆動装置。
【請求項3】
前記スピンドル(105)は、前記リザーバ(150)を完全に通り抜ける、請求項1又は2記載のスピンドル駆動装置。
【請求項4】
前記リザーバ(150)は回転対称的である、請求項1から3までのいずれか1項記載のスピンドル駆動装置。
【請求項5】
前記押退け体(165)は、前記スピンドル(105)に相対回動不能に結合されている、請求項1から4までのいずれか1項記載のスピンドル駆動装置。
【請求項6】
前記潤滑剤(155)には、粘性の低いグリースが含まれる、請求項1から5までのいずれか1項記載のスピンドル駆動装置。
【請求項7】
前記リザーバ(150)を周辺環境に接続するための通気開口(175)が設けられている、請求項1から6までのいずれか1項記載のスピンドル駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル駆動装置に関する。特に本発明は、自動車で使用されるアクチュエータに設けられるスピンドル駆動装置に関する。
【0002】
背景技術
スピンドル駆動装置は、共通の回転軸線に対して同軸的に支持された、スピンドルとスピンドルナットとを有している。スピンドルナットは雌ねじ山を有しており、スピンドルは雄ねじ山を有している。この場合、両ねじ山は互いに噛み合っている。ナットとスピンドルとが回転軸線を中心として相対回動されると、スピンドルとスピンドルナットとの間に、回転軸線に沿った並進運動が生じる。1つの構成では、スピンドルを回転軸線に沿って移動させるために、スピンドルナットが回転軸線を中心として回転させられるようになっている。
【0003】
スピンドル駆動装置は、例えば自動車に搭載して使用するための電気液圧式アクチュエータに用いることができる。この場合、スピンドルは、液圧式シリンダ内に収容されている液圧式ピストンに対して軸方向に作用する。スピンドルナットを回転させるために、電動モータが準備されていてよい。電動モータの回転は、スピンドル駆動装置によって並進運動に変換され、且つピストンによってシリンダ内の液圧流体の体積流量又は圧力変化に変換される。このようにして、例えばブレーキ装置又はクラッチ装置を電動モータによって作動させることができる。
【0004】
独国特許出願公開第102011108962号明細書には、電気的に駆動されるスピンドル駆動装置が開示されている。
【0005】
独国特許出願公開第102009005886号明細書には、スピンドルが、スピンドルナットに対して所定の停止位置にある時に、スピンドルとスピンドルナットのねじ山を潤滑剤で濡らすために潤滑通路を備える、別のスピンドル駆動装置が開示されている。
【0006】
このスピンドル駆動装置は、互いに係合し合っているねじ山の領域内の潤滑剤不足に敏感に反応することができる。ねじ山の領域内の潤滑膜が裂断すると、ねじ山部分は乾燥して互いに擦れ合うので、一方又は両方のねじ山が激しい摩耗に晒される恐れがある。ねじ山側面が1箇所摩耗すると、他のねじ山側面に研磨材の作用を及ぼすことがあり、これらの他のねじ山側面もやはり、摩耗が加速されることになる。極端な場合には、スピンドルが折れるか、スピンドルナットに沿って軸方向に滑り抜けるか、又はスピンドルとスピンドルナットとが互いに食い込んで動かなくなる恐れがあり、これにより、更なる相対運動は全く不可能である。このような損傷は、特に機械的な荷重が大きいか、サイクル数が多い場合、又は自動車のアクチュエータの領域内に存在し得るような、高い周囲温度において発生する。
【0007】
本発明の課題は、改良された耐荷重能力を有し、且つ可能な限り簡単に構成されたスピンドル駆動装置を提供することにある。本発明はこの課題を、独立請求項に記載の特徴を有するスピンドル駆動装置によって解決する。従属請求項には好適な構成が記載されている。
【0008】
発明の開示
本発明による、回転運動と並進運動との間で変換を行うスピンドル駆動装置は、並進運動用のスピンドルと、回転運動用のスピンドルナットとを有しており、この場合、スピンドルとスピンドルナットとは、ねじ山によって互いに連結されている。スピンドルナットは、そのねじ山の軸方向延長部にリザーバを有しており、このリザーバ内に、スピンドルの一部が延びている。リザーバには潤滑剤が収容されており、スピンドルの、リザーバの領域には押退け体が取り付けられており、押退け体は、半径方向外側に向かってスピンドルのねじ山よりも大きく延びている。
【0009】
押退け体は、スピンドルナットがスピンドルに対して回動させられると、スピンドルと共に軸方向に移動する。これにより、リザーバ内の潤滑剤が、押退け体の軸方向の一方の側から他方の側に向かって循環させられる。この循環により、スピンドルのねじ山をより良好に濡らすことができるようになり、これにより潤滑剤は、スピンドルの軸方向移動が繰り返されると、スピンドルナットのねじ山とスピンドルのねじ山との間の空間に沿って分配されることになる。これにより、スピンドル駆動装置の乾燥状態を阻止することができる。循環により、潤滑剤の凝固も回避可能なので、増加された潤滑剤量が、両ねじ山の潤滑に関与することができる。更に循環により、例えば基油や増粘剤等の潤滑剤の種々様々な成分の分離が阻止され得る。改善された潤滑によって、より高い荷重をかけることができるか、又は信頼性の改善されたスピンドル駆動装置が提供され得る。
【0010】
リザーバが軸方向に少なくとも、スピンドルが軸方向に移動可能な距離と同程度に延在していると好適である。これら両方の軸方向寸法がほぼ同じであると、特に好適である。これにより、リザーバ内の潤滑剤の最適な循環若しくは混合が得られる。例えばクラッチを作動させるための既知の作動行程又は最大行程を有するスピンドル駆動装置の場合、スピンドルの軸方向の可動性と、リザーバの軸方向の伸長とは、互いに正確に適合され得る。
【0011】
1つの構成では、スピンドルは片側しかリザーバに進入しない。これに対して1つの好適な構成では、スピンドルはリザーバを完全に通り抜ける。この場合、リザーバ内に収容されたスピンドル体積の変化が、スピンドル行程にわたってあまり大きくないか、又は全く変化しないと有利である。押退け作業が減少されたことにより、機械的な抵抗が低下されていてよい。
【0012】
1つの構成では、リザーバは回転対称的である。これにより、潤滑剤が循環させられない半径方向ポケット内に集まることが回避され得る。リザーバが円筒形状を有していると、特に好適である。リザーバの半径方向制限部と、押退け体の回転体との間の環状ギャップが、リザーバ内で潤滑剤を均一に循環させるために役立つことができる。
【0013】
押退け体は、スピンドルに相対回動不能に結合されていてよい。これにより潤滑剤に、より良好な循環に寄与することのできる回転運動の影響を及ぼすことも可能である。
【0014】
押退け体は、回転対称的であってよい。特に押退け体には、スピンドルを取り囲むように射出成形された、又はスピンドルに圧着されたプラスチックワッシャが含まれていてよい。これにより、押退け体とリザーバの制限部との間の半径方向ギャップが、特に正確に維持され得る。これにより、ギャップ間隔よりも大きな潤滑剤の塊が、押退け体を軸方向に通過することが確実に阻止され得る。その代わりに塊はギャップ内で破砕され得る。
【0015】
別の構成において、押退け体には片側が開いたワッシャが含まれており、この場合、スピンドルは、ワッシャを取り付けるための半径方向溝を有している。このようなワッシャは、位置固定ワッシャ又はロックワッシャとして知られている。半径方向の取付けにより、スピンドル駆動装置の部品の組立てを容易にすることができる。
【0016】
潤滑剤には、好適には粘性の低いグリースが含まれる。特に、潤滑剤には高融点グリースが含まれていてよい。更に潤滑剤には、グラファイト又は二硫化モリブデン等の乾燥潤滑剤が混加されていてよい。
【0017】
更に別の構成では、リザーバを周辺環境に接続するための通気開口が設けられている。これにより、スピンドルがスピンドルナットに対して軸方向に移動させられた場合にリザーバ内に残留する体積の変化が、より良好に補償され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1に示したスピンドル駆動装置の第2の図面である。
【
図3】
図1又は
図2の一方に示すスピンドル駆動装置用の押退け体を示す図である。
【0019】
実施形態の詳細な説明
以下に、本発明の実施形態を図面につき詳しく説明する。
【0020】
図1には、特に自動車に搭載して使用するためのスピンドル駆動装置100が示されている。このスピンドル駆動装置100は、例えば液圧式シリンダ内で液圧式ピストンを軸方向に作動させるために設けられていてよい。スピンドル駆動装置100は、雄ねじ山110を備えるスピンドル105と、雌ねじ山120を備えるスピンドルナット115とを有しており、この場合、雄ねじ山110と雌ねじ山120とは互いに噛み合っていて、回転軸線125に対して同軸的に配置されている。純粋に例として示したスピンドルナット115は、ラジアル軸受130によって半径方向で支持されている。軸方向力又は傾動力を吸収するように調整された別の軸受が使用されてもよい。典型的には、スピンドルナット115はウォーム歯車伝動装置135を介して電動モータ(図示せず)に接続されている。ウォーム歯車伝動装置135は、ここではスピンドルナット115と一体的且つ回転軸線125に対して同軸的に形成されたウォーム歯車140と、ウォーム歯車140に噛み合い且つ電動モータの軸に取り付けられるように調整されたウォーム145とを有している。ウォーム歯車伝動装置135の代わりに、スピンドルナット115に力を伝達するための別の装置が設けられていてもよい。
【0021】
スピンドルナット115にはリザーバ150が形成されており、リザーバ150は、潤滑剤155を収容するために設けられている。リザーバ150は、スピンドルナット115の雌ねじ山120の軸方向延長部に位置している。この場合、リザーバ150は回転軸線125に対して好適には回転対称的であり、特に円筒形に形成されている。
【0022】
スピンドル105は、回転軸線125に沿って最大の軸方向作業行程を進むように調整されている。作業行程におけるスピンドル105の位置に関係なく、リザーバ150内には常に、スピンドル105の一部が位置している。この場合、スピンドル105は一方の軸方向端部で以てリザーバ150内に多少深く進入するか、又は図示の実施形態のようにリザーバ150を完全に通り抜けてよい。この場合、リザーバ150の第1の軸方向端部をスピンドル105に対してシールするために、好適にはシール部材160が設けられている。リザーバ150の他方の軸方向端部には、スピンドル105の雄ねじ山110とスピンドルナット115の雌ねじ山120とが互いに噛み合っている部分が位置している。
【0023】
リザーバ150の領域内でスピンドル105には、押退け体165が取り付けられている。押退け体165は、半径方向でスピンドル105の雄ねじ山110よりも大きく延在しており、以下で
図3に関してより詳細に説明するように、種々様々な形状を有していてよい。押退け体165は、スピンドル105に軸方向に取り付けられているので、スピンドル105がスピンドルナット115に対して軸方向に移動させられると、押退け体165はリザーバ150を通って軸方向に移動する。押退け体165は、リザーバ150内の潤滑剤155を循環させ、これにより、スピンドル105の雄ねじ山110が、潤滑剤155でより良好に濡らされることになる。そうすると、スピンドルナット115の雌ねじ山120の回転運動が、潤滑剤155を更に軸方向に運び、係合領域全体に沿った、雌ねじ山120と雄ねじ山110との間の潤滑膜を保証することができる。
【0024】
押退け体165は周方向で、スピンドル105に不動に又はルーズに固定されていてよい。スピンドル105には、押退け体165を軸方向で固定するための溝170が設けられていてよい。この溝170は、好適には半径方向の環状溝である。1つの実施形態では、例えば潤滑剤155の一部がリザーバ150から流出する時に、リザーバ150の、周辺環境との圧力補償を行うための通気開口175が設けられている。
【0025】
図2には、
図1に示したスピンドル駆動装置100の第2の図面において別の実施形態が示されている。ここでは、リザーバ150の領域が拡大されて図示されている。押退け体165は、リザーバ150の半径方向制限部と共に、環状ギャップ205を形成している。押退け体165と環状ギャップ205とは、リザーバ150を
図2の上部に示した第1の軸方向部分210と、
図2の下部に示した第2の軸方向部分215とに分けている。押退け体165がスピンドル105と共に軸方向に移動させられると、一方の軸方向部分の容積が拡大され且つ他方の軸方向部分の容積が縮小される。潤滑剤155はリザーバ150を、好適には少なくとも充填直後は最大限に満たしている。前記部分210,215の変化する容積は強制的に、潤滑剤155に環状ギャップ205を通過させる。これにより、潤滑剤155はリザーバ150内で循環させられて混合される。これにより、潤滑剤155はより良好にスピンドル105の雄ねじ山110を濡らし、且つ雄ねじ山110とスピンドルナット115の雌ねじ山120との間の領域に侵入することができる。このようにして、ねじ山110,115に潤滑剤155をより良好に施すことができるので、スピンドル駆動装置100の耐用年数、耐荷重能力又は信頼性が向上され得る。
【0026】
押退け体165は、スピンドル105において種々様々な形式で実現されていてよい。
図3には、
図1及び
図2に示したスピンドル駆動装置100用の典型的な押退け体165が示されている。上から下に向かって、第1の押退け体305、第2の押退け体310及び第3の押退け体315が示されている。
【0027】
第1の押退け体305は、スピンドル105に軸方向に取り付けるようになっている。図示の第1の押退け体305は、ロックワッシャ(Bzワッシャ)としても知られている軸用の位置固定リングの形態で形成されている。別の構成形態の外側位置固定リングを使用してもよい。この場合、第1の押退け体305は、スピンドル105の溝170内で回動可能であってよい。
【0028】
第2の押退け体310は、スピンドル105に軸方向に取り付けることが想定されている。半径方向内向きのばね舌片が取付けを可能にし、且つ第2の固定体310を溝170内で軸方向に保持する。
【0029】
第3の押退け体315は、スラストワッシャ又は座金の形態を有しており、例えば材料接続的に、ろう接又は溶接等により、スピンドル105に取り付けられていてよい。第3の押退け体315が溝170内で固定のために軸方向に押圧されるように、スピンドル105を形成することも可能である。更に別の実施形態では、第3の押退け体315は例えばプラスチックから、スピンドル105に一体的に射出成形される。この場合はスピンドル105もやはりプラスチックから製造されているか、又は例えば鋼から製造されていてよい。
【0030】
押退け体165の別の可能な変化態様は、
図1〜
図3の観察及び押退け体165の用途や性質に関する上記説明に基づき直接に、当業者に明らかになる。