特許第6192842号(P6192842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192842油圧式のクラッチ調整器を作動させる、最大位置において係止するアクチュエータ、及び電気作動式のクラッチシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192842
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】油圧式のクラッチ調整器を作動させる、最大位置において係止するアクチュエータ、及び電気作動式のクラッチシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 28/00 20060101AFI20170828BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20170828BHJP
   F16H 25/14 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   F16D28/00 Z
   F16H1/16
   F16H25/14
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-536531(P2016-536531)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公表番号】特表2016-539294(P2016-539294A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2014073253
(87)【国際公開番号】WO2015082137
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2016年6月3日
(31)【優先権主張番号】102013225009.6
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ゲルント
(72)【発明者】
【氏名】アーミン シュトゥープナー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ペーター ドムシュ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン デモント
(72)【発明者】
【氏名】マークス ファイグル
(72)【発明者】
【氏名】ジハド ブスル
(72)【発明者】
【氏名】リュカ デュリ
(72)【発明者】
【氏名】フェンメイ チェン
(72)【発明者】
【氏名】インゴ ドレーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−リュク オジエ
(72)【発明者】
【氏名】ノアベアト マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ケアナー
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−106613(JP,A)
【文献】 特開2012−62966(JP,A)
【文献】 特開2008−304062(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第19723394(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 28/00
F16H 1/16
F16H 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式のクラッチ調整器(14)を作動させるアクチュエータ(13)であって、
電動機(11)と、
該電動機(11)によって軸線(65)を中心にして回転駆動される調節円板(55)と、
該調節円板(55)に連結されたカム構造体(31)と、操作ロッド(41)と、を有しており、
前記カム構造体(31)は、圧着面(33)を形成しており、該圧着面(33)の半径(r)が、前記軸線(65)に関して、最小半径点(35)から、操作回転方向(39)において前記軸線(65)を中心にして、最大半径点(37)に向かって増大しており、
前記操作ロッド(41)はその一方の端部(43)において、前記クラッチ調整器(14)に係合しており、
操作ロッド(41)は、前記操作回転方向(39)における前記調節円板(55)の回転時に、前記カム構造体(31)から前記操作ロッド(41)に対して押圧力が加えられるように、案内されかつ前記カム構造体(31)に支持されており、
前記カム構造体(31)には、保持構造体(40)が形成されており、該保持構造体(40)は、前記操作ロッド(41)が前記保持構造体(40)の作用に基づいて、前記クラッチ調整器(14)に対してほぼ最大にクラッチが解放される位置において動かなくなるように構成されており、
前記保持構造体は、前記カム構造体(31)における局部的な凹部(40)として形成されていることを特徴とする、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータ。
【請求項2】
前記半径(r)が前記凹部(40)の始端部(42)における点から前記軸線(65)を中心にした前記操作回転方向(39)において前記凹部(40)の中心に向かって減少するように、前記凹部(40)は構成されている、請求項記載のアクチュエータ。
【請求項3】
油圧式のクラッチ調整器(14)を作動させるアクチュエータ(13)であって、
電動機(11)と、
該電動機(11)によって軸線(65)を中心にして回転駆動される調節円板(55)と、
該調節円板(55)に連結されたカム構造体(31)と、操作ロッド(41)と、を有しており、
前記カム構造体(31)は、圧着面(33)を形成しており、該圧着面(33)の半径(r)が、前記軸線(65)に関して、最小半径点(35)から、操作回転方向(39)において前記軸線(65)を中心にして、最大半径点(37)に向かって増大しており、
前記操作ロッド(41)はその一方の端部(43)において、前記クラッチ調整器(14)に係合しており、
操作ロッド(41)は、前記操作回転方向(39)における前記調節円板(55)の回転時に、前記カム構造体(31)から前記操作ロッド(41)に対して押圧力が加えられるように、案内されかつ前記カム構造体(31)に支持されており、
前記カム構造体(31)には、保持構造体(40)が形成されており、該保持構造体(40)は、前記操作ロッド(41)が前記保持構造体(40)の作用に基づいて、前記クラッチ調整器(14)に対してほぼ最大にクラッチが解放される位置において動かなくなるように構成されており、
前記保持構造体は、前記カム構造体(31)の平らな真っ直ぐな面として形成されており、前記操作ロッド(41)は前記調節円板(55)のさらなる回転時に、前記最大半径点(37)を越えて軸方向において前記軸線(65)に向かって移動させられることを特徴とする、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータ。
【請求項4】
前記保持構造体は、前記調節円板(55)の周面として形成されている、請求項記載のアクチュエータ。
【請求項5】
油圧式のクラッチ調整器(14)を作動させるアクチュエータ(13)であって、
電動機(11)と、
該電動機(11)によって軸線(65)を中心にして回転駆動される調節円板(55)と、
該調節円板(55)に連結されたカム構造体(31)と、操作ロッド(41)と、を有しており、
前記カム構造体(31)は、圧着面(33)を形成しており、該圧着面(33)の半径(r)が、前記軸線(65)に関して、最小半径点(35)から、操作回転方向(39)において前記軸線(65)を中心にして、最大半径点(37)に向かって増大しており、
前記操作ロッド(41)はその一方の端部(43)において、前記クラッチ調整器(14)に係合しており、
操作ロッド(41)は、前記操作回転方向(39)における前記調節円板(55)の回転時に、前記カム構造体(31)から前記操作ロッド(41)に対して押圧力が加えられるように、案内されかつ前記カム構造体(31)に支持されており、
前記カム構造体(31)には、保持構造体(40)が形成されており、該保持構造体(40)は、前記操作ロッド(41)が前記保持構造体(40)の作用に基づいて、前記クラッチ調整器(14)に対してほぼ最大にクラッチが解放される位置において動かなくなるように構成されており、
前記調節円板(55)は、前記カム構造体(31)と一体に構成されていることを特徴とする、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータ。
【請求項6】
前記圧着面(33)の半径(r)は、前記最小半径点(35)から前記最大半径点(37)に向かって連続的に増大している、請求項1から5までのいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記保持構造体(40)は、前記最大半径点(37)の近傍に形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記操作ロッド(41)は、前記カム構造体(31)に向かう方向で弾性的に予荷重をかけられていて、前記カム構造体(31)は、前記操作ロッド(41)によって前記保持構造体(40)に基づく戻し力が前記調節円板(55)に加えられるように構成されており、かつ前記操作回転方向(39)とは逆向きに前記調節円板(55)を回転させるためには、少なくとも短時間、前記電動機(11)によって、前記操作回転方向(39)とは逆方向に前記調節円板(55)に力が加えられねばならないようになっている、請求項1からまでのいずれか1記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記操作ロッド(41)は、該操作ロッド(41)に取り付けられた軸受(47)を介して、前記カム構造体(31)に支持されている、請求項1からまでのいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記電動機(11)の軸(57)にウォーム(59)が配置されていて、前記調節円板(55)はウォーム歯車(61)として形成されており、該ウォーム歯車(61)の歯列(56)が前記ウォーム(59)に係合している、請求項1からまでのいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記電動機(11)の軸(57)と前記操作ロッド(41)とは、互いに対して斜めの角度をおいて配置されている、請求項1から10までのいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の、油圧式のクラッチ調整器(14)を作動させるアクチュエータ(13)を有する、電気作動式のクラッチシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータ、及びこのようなアクチュエータを備えた、電気作動式のクラッチシステムに関する。
【0002】
従来技術
自動車において、通常クラッチは、エンジンと自動車のホイールに連結されたパワートレーンとの間における出力の流れを時々遮断することができるようにするために使用される。
【0003】
特にドライバによって操作されるクラッチシステムのためのさらなる改良として、今日の自動車のために電気作動式のクラッチが現在開発されている。このようなクラッチでは、クラッチペダルはもはや直接機械式に、油圧システムに接続されていない。その代わりに例えばセンサが、現在のペダル位置を検出し、次いで相応の信号を制御装置に送信する。この信号に基づいて、制御装置は、電気油圧式のアクチュエータを作動させ、このアクチュエータは、多くの場合、電動機の回転運動によって、クラッチシステムの油圧システムのマスタシリンダにおけるピストンを移動させる。
【0004】
このようなアクチュエータは、例えば、電気機械式に駆動されるスピンドルナットがスピンドルを移動させ、このスピンドルがさらに油圧ピストンを押圧するように実現することができる。
【0005】
常態において閉鎖されているクラッチでは、一般的に、クラッチを閉鎖するために必要な、クラッチ板に対して作用する力は、クラッチばねによって生ぜしめられる。このようなクラッチばねの特性線は、ドライバによって直接機械式に操作される汎用のクラッチでは、クラッチから油圧システムを介してクラッチペダルに伝達される、ひいてはドライバが感触で得る、クラッチの力特性を、確定する。典型的にはクラッチばねは、直線的な力特性線を有しておらず、S字形の特性線を有している。クラッチの操作時には、一般的に、特性線の最初の部分では、つまりクラッチペダルが最初に押し下げられた場合に、クラッチペダルを、僅かな力で素早く移動させることができ、かつ第2の部分でははるかに大きな力で、つまりばねが強く緊縮もしくは緊張させられて、かつ高い精度をもって、クラッチペダルを移動させることができることが、望まれているもしくは必要である。
【0006】
上に述べたスピンドルナット式アクチュエータのような直線的なシステムは、このような要求に適合しない。
【0007】
さらに、例えば燃費を低下させるため又は走行快適性を高めるために、今日の自動車のために追加的な機能性が開発される。例えば今日、車両が適宜な走行状態において自由に走行させられる、いわゆる「惰行走行(Segeln)」の機能性が開発され、この場合車輪と車両の駆動ユニットとの間における動力伝達経路が、一時的に、クラッチの自動化された操作によって中断される。このような惰行走行中に、クラッチは場合によっては比較的長い時間にわたって、開放状態に保たれる。
【0008】
発明の開示
本発明の構成は、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータを可能にし、このアクチュエータは、一方では、クラッチを操作させるための適宜な力特性線を実現することができ、かつ他方では、簡単に構成すること及び確実に操作することができる。特に、アクチュエータにおいて油圧式のクラッチ調整器は、特定の運転状態において移動することができ、この場合クラッチ調整器は、クラッチが開放されている位置に保たれることができ、つまり係止されることができる。このときそのためにアクチュエータに持続的に大きな出力が供給される必要はない。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、油圧式のクラッチ調整器を作動させるアクチュエータが提案され、このアクチュエータは、電動機と、該電動機によって軸線を中心にして回転駆動される調節円板と、該調節円板に連結されたカム構造体と、操作ロッドと、を有している。このときカム構造体は、圧着面を形成しており、該圧着面の半径が、それを中心にして調節円板が回転する軸線に関して、連続的に、最小半径点から、軸線を中心にした操作回転方向において、最大半径点に向かって増大している。操作ロッドはその一方の端部において、クラッチ調整器に、例えばマスタシリンダのピストンに、係合している。このとき操作ロッドは、操作回転方向における調節円板の回転時に、カム構造体から操作ロッドに対して押圧力が加えられるように、案内されかつカム構造体に支持されている。このようなアクチュエータにおいて本発明によれば、カム構造体には、最大半径点の近傍に、保持構造体が形成されており、該保持構造体は、操作ロッドが保持構造体の作用に基づいて、クラッチ調整器に対してほぼ最大にクラッチが解放される位置において動かなくなるように構成されている。
【0010】
本発明の構成に対する着想は、特に、以下に記載の思想及び認識に基づいていると見なすことができる。
【0011】
導入部において記載したことから分かるように、電気作動式のクラッチシステムでは、作動力を直線的に生ぜしめるアクチュエータ、例えばスピンドルナット式アクチュエータは、クラッチを操作するための力特性線における要求には、通常、適合することができない。解決の手がかりは、アクチュエータに一種のカム円板を設けることであり、このカム円板では、圧着面が、1つの回転中心を中心にした円形ではなく、ウォーム形状であるカム軌道を描く。カム構造体の、このようにウォーム形状に形成された圧着面では、半径、つまり圧着面と回転中心との間における間隔は、回転角の関数として増大する。このときカム構造体の湾曲もしくはカーブは、クラッチの特性線及びここで生じる要求に適合させられることができる。
【0012】
ウォーム形状のカム構造体は、電動機によって駆動される調節円板に取り付けられているか又は、少なくともこの調節円板に機械的に連結されているので、調節円板が電動機によってその回転軸線を中心にして回転させられると、カム構造体もまた同様に回転する。このとき操作ロッドの一方の端部は、カム構造体によって形成された圧着面に支持されている。カム構造体の半径は変化するので、調節円板の回転によって、ひいてはカム構造体の回転によって、操作ロッドを移動させることができる。
【0013】
他方の端部において液圧式のクラッチ調整器に連結されている操作ロッドは、油圧装置を介して、ばねによって予荷重を加えられたクラッチに結合されており、通常時には、弾性的な相応の予荷重力によってカム構造体の圧着面に押し付けられる。圧着面に対して作用するこのような力及び、圧着面の半径が最小半径点に向かって減少するという特性に基づいて、カム構造体に結合された調節円板に対して作用する戻しトルクが、生ぜしめられる。このトルクは、調節円板を、クラッチが操作ロッドを介して操作されない位置に移動させようとする。クラッチを操作したい場合には、このトルクは、調節円板を、操作ロッドがクラッチを操作する位置に移動させるために、調節円板に作用する電動機を用いて過補償されねばならない。
【0014】
クラッチを例えば惰行走行(Segeln)時に、比較的長い時間にわたって操作された状態に保つためには、従って汎用のアクチュエータでは、調節円板を駆動する電動機は、持続的に、調節円板に対して作用する戻しトルクに抗して作動し、これにより連続的に通電されねばならない。
【0015】
従って、カム構造体には、圧着面の最大半径点の近傍に保持構造体を設けることが提案される。この保持構造体は、ほぼ最大にクラッチが解放される位置において操作ロッドを係止させるように形成されていることが望ましい。言い換えれば、保持構造体は、操作ロッドがクラッチを操作する位置において保持されかつ調節円板と共働して、調節円板に対して戻しトルクが加えられないように、形成されていることが望ましい。これによって、係止された状態においては、戻しトルクを電動機によって過補償する必要がないので、クラッチを例えば惰行走行中に比較的長く停止状態に操作したままにしたい場合に、電動機に通電する必要がなくなる。
【0016】
本発明の態様では、操作ロッドは、カム構造体に向かう方向で弾性的に予荷重をかけられていて、カム構造体は、操作ロッドによって保持構造体に基づく力が調節円板に加えられるように構成されており、かつこのとき、操作回転方向とは逆向きに調節円板を回転させるためには、少なくとも短時間、電動機によって、操作回転方向とは逆方向に調節円板に力が加えられねばならないようになっている。言い換えれば、アクチュエータは、操作ロッドがクラッチが解放される位置において係止されている場合に、一種の準安定状態にあり、この準安定状態からアクチュエータは、電動機によって操作回転方向とは逆向きの力を調節円板に加えることによって初めて、再び移動することができるようになっている。
【0017】
別の態様によれば、保持構造体は、カム構造体の圧着面における局部的な凹部として、最大半径点の近傍に形成されている。言い換えれば、圧着面の半径は、最小半径点から最大半径点にまで等しい値で、つまり等しい勾配で増大し、そして圧着面が終端するのではなく、勾配は、最大半径点の近傍において局部的に減じられる、又はそれどころか負になる。このようにして圧着面には局部的に凹部又は窪みが形成される。圧着面に支持されて該圧着面に対して弾性的に予荷重をかける操作ロッドは、この凹部において係止することができる。このように係止された状態において、操作ロッドは確かになお圧着面を押圧するが、このときに作用する力は、もはや調節円板の移動を生ぜしめることができない。その代わりに調節円板は、電動機によって調節円板にトルクが加えられない限り、この係止されたポジションにおいて停止状態に保たれる。
【0018】
上に述べた態様の特殊な改良態様によれば、半径(r)が凹部の始端部における点から軸線を中心にした操作回転方向において凹部の中心における点に向かって減少するように、凹部は構成されている。言い換えれば、圧着面の半径は、最小半径点から操作回転方向において連続的に凹部の始端部に到るまで増大する。さらに操作回転方向において半径は、次いでしかしながら少なくとも短時間減少し、その後で再び増大することができ、これによって、保持構造体として作用することができる凹部が、圧着面において形成され、これにより操作ロッドは最大にクラッチが解放される位置において係止することができる。
【0019】
択一的な態様では、保持構造体は、一定の半径を備えた領域として形成されており、このとき特に操作ロッドは、調節円板のさらなる回転時に、最大半径点を越えて軸方向において移動させられない。
【0020】
別の態様では、保持構造体は、カム構造体の平らな真っ直ぐな面として、特に調節円板の周面として形成されており、このとき操作ロッドは調節円板のさらなる回転時に、最大半径点を越えて軸方向において軸線に向かって移動させられる。
【0021】
別の態様によれば、操作ロッドは、該操作ロッドに取り付けられた軸受を介してカム構造体に支持されている。操作ロッドをカム構造体に支持する軸受は、カム構造体と直に機械的に接触している必要はなく、軸受に例えばローラが支持されて設けられていてよく、このとき軸受は、ローラを介してカム構造体に支持されてよく、かつローラはカム構造体の圧着面に沿って転動することができる。
【0022】
別の態様によれば、電動機の軸にスピンドルが配置されていて、調節円板はウォーム歯車として形成されており、該ウォーム歯車の歯列がスピンドルに係合している。この具体的な態様において、ウォーム歯車として形成された調節円板は、電動機によって、該電動機の軸に設けられたスピンドルを用いて、ウォーム伝動装置のように、駆動されることができる。このとき調節円板の角速度は、電動機の回転数に一次関数的に関連している。しかしながら、調節円板に連結された第1のカム構造体によって操作ロッドに加えられる力は、カム構造体のウォーム状の形状に基づいて、電動機の回転数に一次関数的に関連していない。
【0023】
本発明の別の態様によれば、調節円板とカム構造体とは一体に形成されている。言い換えれば、カム構造体は調節円板に直に一体成形されていてよい。例えば共通の部材を射出成形品として製造することができる。
【0024】
別の態様によれば、電動機の軸と操作ロッドとは、互いに対して斜めの角度をおいて配置されている。例えば操作ロッドは、次のように配置されていてよい。すなわちこの場合、操作ロッドは、該ロッドの一方の端部が第1のカム構造体に接触している位置から、電動機の軸に対して斜めに配置され、これにより操作ロッドの反対側に位置する端部が斜めに電動機に向かって戻るように配置されている。これによって、操作ロッドの第2の端部に配置されたクラッチ調整器を、電動機のそば近くに配置することができ、その結果、クラッチ調整器を含めたアクチュエータの構造寸法全体を、最小にすることができる。
【0025】
本発明の態様によるアクチュエータを有する電気作動式のクラッチシステムは、一方ではクラッチの操作時における所望の非直線的な力特性を生ぜしめることができ、かつ他方ではアクチュエータもしくはアクチュエータに設けられた操作ロッドを、ほぼ最大にクラッチが解放される状態において係止させることができ、これによって、電動機を連続的に通電状態にしておく必要なしに、クラッチを比較的長い時間にわたって作動状態に保つことができる。
【0026】
付言すると、本発明の態様の可能な特徴及び利点が、本発明の種々様々な態様との関連において記載されている。本発明のさらに別の態様を得るために、これらの特徴が交換可能又は組合せ可能であるということは、当業者にとって明らかである。
【0027】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳説する。なお、図面及び以下の記載は、本発明を制限するものと見なすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】電気作動式のクラッチシステムを概略的に示す図である。
図2】本発明の1実施形態によるアクチュエータを示す斜視図である。
図3】本発明の別の実施形態によるアクチュエータを示す斜視図である。
図4】本発明のさらに別の実施形態によるアクチュエータを示す断面図である。
【0029】
発明の実施の形態
図1には、自動車用の電気作動式のクラッチシステム1が示されている。フットペダル3は、ばね5に抗してドライバによって押し下げられることができる。フットペダル3のその時の位置は、センサ7を用いて検出され、制御装置9に送信される。センサ7の信号に基づいて、制御装置9は、アクチュエータ13の電動機11を制御し、これにより、例えばギヤユニットとして形成された適宜な力伝達装置15を介して、クラッチ調整器14の一部を形成するマスタシリンダ19の内部においてピストン17を移動させる。これによって油圧オイルを、管路21を通してスレーブシリンダ23内に押し込むことができる。スレーブシリンダ23内におけるピストン25は、クラッチ27に機械式に結合されており、スレーブシリンダ23によって操作されてクラッチ27を解除もしくは遮断することができる。クラッチ27に設けられた戻しばね29は、このときスレーブシリンダ23に対する相応の反圧を生ぜしめるために使用され、その結果フットペダル3の操作が弱まり、アクチュエータ13が相応に制御された場合に、クラッチ27は再び連結される。クラッチ調整器14を形成するマスタシリンダ19の後方領域には、吸込み孔もしくはスニッファ孔(Schnueffelbohrung)18が設けられている。ピストン17がこのスニッファ孔18を越えて後方に向かって十分に大きく移動させられると、油圧オイルをリザーバ16からマスタシリンダ19の内部に流入させて補充することができる。
【0030】
図2にはアクチュエータ13が斜視図で示されており、このアクチュエータ13では、電動機11が、調節円板(図2では斜視図のために認識不能である)を回転駆動し、この調節円板にはカム構造体(Kulissenstruktur)31が取り付けられている。このカム構造体31は、図示の実施形態では、その周面に圧着面33を形成しており、この圧着面33の半径rは、その周面に圧着面33を形成しており、この圧着面33の半径rは、カム構造体31に連結された調節円板がカム構造体31を操作回転方向39において回転させると、最小半径点35から最大半径点37に到るまで連続的に増大する。操作ロッド41は、その一方の端部43において、油圧式のクラッチ調整器(図2には示されていない)に連結されている。操作ロッド41は、その他方の端部45で、該操作ロッド41に取り付けられた軸受47を介して、カム構造体31の圧着面33に支持されている。カム構造体31が操作回転方向39において回転させられると、圧着面33は、増大する半径rに基づいて、操作ロッド41を連続的に矢印49の方向に向かって油圧式のクラッチ調整器へと押圧する。このとき、他方の端部においてクラッチ調整器に連結されたクラッチが操作され、つまりクラッチ板は遮断され、これにより互いに切り離される。クラッチ板に対して互いに向かって予荷重をかけるばねが、このときクラッチ調整器に対して戻し力を生ぜしめ、これによって操作ロッド41は圧着面33に向かって押圧される。補足的に、図2に示した実施形態では、操作ロッド41は、軸受53に支持された追加的なばね51によって、矢印49とは逆方向に、つまりクラッチ調整器から離れる方向に、予荷重をかけられ、これによって圧着面33に押し付けられる。
【0031】
最大半径点37の近傍において、圧着面33は局部的な凹部40を有している。この凹部40の始端部42に、つまり最大半径点37の直ぐ後ろにおいて、圧着面33の半径は局部的に幾分減少しており、この減少は、半径rが凹部40の中心44の後ろで再び増大するまで続く。これによってカム構造体31が、操作回転方向39において最大半径点37を越えてさらに回転させられると、操作ロッド41の軸受47の、圧着面33に沿って回転するローラ67は、凹部40と係合するので、操作ロッド41はいわば係止する。この係止された状態において、操作ロッドはほぼ最大に遮断されているので、クラッチは操作される。この係止された状態は、準安定性(metastabil)であり、つまりカム構造体31は、操作方向49とは逆向きに作用する、操作ロッド41によって伝達された戻し力に基づいて、回転させられるのではなく、その位置に留まる。従って、電動機11が持続的にトルクを生ぜしめる必要なしに、操作ロッド41もまた、そのクラッチが解放される位置において留まることになる。
【0032】
図3には、本発明に係るアクチュエータ13の別の実施形態が斜視図で示されている。本実施形態では、電動機11が軸57を介してスピンドル59を駆動する。このスピンドル59は、この場合ウォーム歯車61として形成された調節円板55の歯列56に係合している。これによって電動機11は、調節円板55を操作回転方向39に又は操作回転方向39とは逆方向に移動させることができる。
【0033】
調節円板55には、両端面にそれぞれカム構造体31が形成されている。このカム構造体31はそれぞれ、圧着面33を形成しており、この圧着面33の半径rは、調節円板55の軸線65に対して、操作回転方向39において点37に到るまで連続的に増大する。
【0034】
調節円板55が相応に電動機11によって回転させられると、操作ロッド41に結合されている軸受47は、ローラ67を介して圧着面33に沿って回転する。このとき圧着面33の増大する半径rに基づいて、操作ロッド41に押圧力が加えられ、操作ロッド41は次第にピストン17に向かって(矢印49の方向に)移動させられる。これによりピストン17によって生ぜしめられた油圧が、これに応じてクラッチ27を遮断、つまり連結解除させることができる。
【0035】
クラッチ27を次いで再び連結するために、アクチュエータ13は逆方向に作動させられる。電動機11が調節円板55を回転させると、軸受47のローラ67は、第1のカム構造体31の圧着面33に持続的に押し付けられる。それというのは、クラッチ27の戻しばね29によって、軸受47に連結された操作ロッド41に対して戻し力が加えられるからである。
【0036】
各圧着面33には、本実施形態においても凹部40が設けられている。アクチュエータがその最大位置にまで操作させられると、軸受47のローラ67は、凹部40内に係合し、ローラ67が、該ローラ67から伝達される圧着面33への戻し力によって、調節円板55を戻し回転させることによって、操作ロッド41が自発的に戻り運動できることを阻止する。ローラ67が凹部40から外に移動するまで、電動機11が調節円板55をアクティブに操作回転方向39とは逆向きに回転させた時に初めて、調節円板55は再び、電動機11によるサポートを伴って又はサポートなしに、操作回転方向39とは逆向きに戻り回転することができる。
【0037】
図3に示した実施形態では、操作ロッド41は、電動機11の軸57に対してほぼ平行に延びている。
【0038】
図4において断面図で示された択一的な構成では、これとは異なり、操作ロッド41は、電動機11の軸57に対して斜めの角度を成して配置されており、つまり電動機11に向かって戻る方向に斜めに配置されている。これによってクラッチ調整器14を、電動機11のそばに配置することができ、その結果クラッチシステム1のための構造空間全体を減じることができる。
【0039】
操作ロッド41の配置形態を無視すれば、図4に示したアクチュエータ13のコンポーネントの構造及び作用形式は、図3に示したシステムにおけるとほぼ同じである。
図1
図2
図3
図4