特許第6192848号(P6192848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192848組成物、担体、排水処理システム、排水処理方法、消臭方法及び回分式排水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192848
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】組成物、担体、排水処理システム、排水処理方法、消臭方法及び回分式排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20170828BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20170828BHJP
   C12N 11/00 20060101ALI20170828BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20170828BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20170828BHJP
   C02F 3/08 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C12N1/20 D
   C12N1/20 F
   C02F3/34 Z
   C12N11/00
   C02F3/00 G
   C02F3/06
   C02F3/08 B
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-545539(P2016-545539)
(86)(22)【出願日】2015年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2015073815
(87)【国際公開番号】WO2016031804
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-171005(P2014-171005)
(32)【優先日】2014年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-171006(P2014-171006)
(32)【優先日】2014年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514214966
【氏名又は名称】株式会社日本環境科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 誠
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−232905(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102212493(CN,A)
【文献】 特開平03−236771(JP,A)
【文献】 特開平10−295367(JP,A)
【文献】 特開平11−179396(JP,A)
【文献】 特開2005−185658(JP,A)
【文献】 特開2001−129580(JP,A)
【文献】 特開2001−104991(JP,A)
【文献】 秋山 澄夫,油脂,1991年,Vol. 44, No. 10,p. 46-51,ISSN 0912-5396,特に1.、4.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N,A61K,C02F,B09B
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を有効成分として含有する排水処理用組成物。
【請求項2】
粉末である、請求項1に記載の排水処理用組成物。
【請求項3】
液状である、請求項1に記載の排水処理用組成物。
【請求項4】
油脂分解用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排水処理用組成物。
【請求項5】
デンプン分解用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排水処理用組成物。
【請求項6】
タンパク質分解用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排水処理用組成物。
【請求項7】
排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであって、前記生物処理槽中に請求項1に記載の組成物を含む、排水処理システム。
【請求項8】
排水を生物学的に処理する排水処理方法であって、前記排水に請求項1に記載の組成物を添加する工程を備える、排水処理方法。
【請求項9】
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた排水処理用担体。
【請求項10】
排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであって、前記生物処理槽中に、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を含む、排水処理システム。
【請求項11】
排水を生物学的に処理する排水処理方法であって、前記排水に、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を添加する工程を備える、排水処理方法。
【請求項12】
排水を生物学的に処理する生物処理槽内に排水を導入する排水導入工程と、
導入した排水を曝気する曝気工程と、
曝気後に静置する静置工程と、
静置後に処理水を排出する排出工程と、を備え、
前記排水導入工程、前記曝気工程、前記静置工程及び前記排出工程の各工程を繰り返す、回分式排水処理方法であって、
前記生物処理槽が、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を含む、回分式排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、担体、排水処理システム、排水処理方法、消臭方法及び回分式排水処理方法に関する。
本願は、2014年8月25日に、日本に出願された特願2014−171005号及び特願2014−171006号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
飲食店等の外食産業の業務用厨房や、食品工場、食品加工工場等の工場等から排出される排水には、多量の油脂、デンプン、タンパク質等が含まれている。近年、顧客のニーズの変化により、特に排水中の油脂の濃度が高くなっている。このため、このような排水を排出する施設では、排水処理が必須となっている。
【0003】
排水処理は、活性汚泥法により行われることが一般的である。活性汚泥法では、排水の油脂濃度が高いと生物処理槽での処理能力が低下してしまう。このため、加圧浮上装置等を使用して、排水の前処理が行われる。しかしながら、加圧浮上装置の使用には凝集剤等の薬剤が必要であり、また、加圧浮上装置の使用により汚泥が発生する。そこで、装置の導入及び維持費用、薬剤費、汚泥処理の費用等が、多くの企業で負担となっている。
【0004】
また、日本では、全ての業務用厨房にグリーストラップを設置することが義務付けられている。グリーストラップとは、槽内が複数の区画に区切られた貯水槽であり、排水が導入される入水口と、排水が排出される排水口を備え、排水中の油脂をトラップ内に捕捉して、直接下水道等に流出するのを防ぐ。グリーストラップの清掃を怠ると、悪臭が発生するだけでなく、油脂、汚泥、スカムが溜まり不衛生になりやすい。しかしながら、グリーストラップの清掃作業は重労働であり、多くの企業で負担となっている。
【0005】
このような状況の下、微生物を用いて排水処理等を効率化する試みがなされている。例えば、特許文献1には、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)の培養生菌体及び生菌剤を含油排水中に投入することにより油を分解し、n−ヘキサン抽出物質量を減じる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2553727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、BN1001菌のみの使用では、排水処理等の効率化が十分でない場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、排水処理システムの生物処理槽に添加することにより、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる、微生物群を担持させた担体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、処理能力が向上した排水処理システム、及び処理能力が向上した排水処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、効率の高い消臭方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、処理能力が向上した回分式排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を有効成分として含有する排水処理用組成物。
(2)粉末である、(1)に記載の排水処理用組成物。
(3)液状である、(1)に記載の排水処理用組成物。
(4)油脂分解用である、(1)〜(3)のいずれかに記載の排水処理用組成物。
(5)デンプン分解用である、(1)〜(3)のいずれかに記載の排水処理用組成物。
(6)タンパク質分解用である、(1)〜(3)のいずれかに記載の排水処理用組成物。
(7)排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであって、前記生物処理槽中に(1)に記載の組成物を含む、排水処理システム。
)排水を生物学的に処理する排水処理方法であって、前記排水に(1)に記載の組成物を添加する工程を備える、排水処理方法。
(9)バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた排水処理用担体。
10)排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであって、前記生物処理槽中に、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を含む、排水処理システム。
11)排水を生物学的に処理する排水処理方法であって、前記排水に、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を添加する工程を備える、排水処理方法。
12)排水を生物学的に処理する生物処理槽内に排水を導入する排水導入工程と、導入した排水を曝気する曝気工程と、曝気後に静置する静置工程と、静置後に処理水を排出する排出工程と、を備え、前記排水導入工程、前記曝気工程、前記静置工程及び前記排出工程の各工程を繰り返す、回分式排水処理方法であって、前記生物処理槽が、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を含む、回分式排水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる組成物を提供することができる。また、本発明によれば、排水処理システムの生物処理槽に添加することにより、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる、微生物群を担持させた担体を提供することができる。さらに、処理能力が向上した排水処理システム、及び処理能力が向上した排水処理方法を提供することができる。また、効率の高い消臭方法を提供することができる。さらに、処理能力が向上した回分式排水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】カタラーゼ活性試験の結果を示す写真である。
図2】培養6時間後の寒天培地の写真である。
図3A】粉末調味料を製造している食品工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3B】洋菓子を製造している食品工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3C】牛豚惣菜を製造している食品工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3D】和惣菜を製造している食品工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3E】米飯工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3F】米飯工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図3G】麺工場の排水処理システムの概要を示すフロー図である。
図4】排水処理システムから発生する硫化水素の濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい例を説明するが、本発明はこれら例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0013】
[組成物]
1実施形態において、本発明は、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を有効成分として含有する組成物を提供する。
【0014】
後述するように、上記の組成物は、粉末の形態で供給することもできるし、液状の形態で供給することもできる。ここで、粉末とは、粉末を圧縮成型した固形物等の形態を含む。また、液状とは、液体、ゲル、ペースト等の流動性のある形態を含む。
【0015】
本実施形態の組成物は、粉末の形態であるか、液状の形態であるかに関わらず、BN1001菌及び納豆菌のほか、担体、炭素源、窒素源、無機栄養源等を含んでいてもよい。本実施形態の組成物が、液状の形態である場合には、上記の各成分の他に水を含む。
【0016】
担体としては、例えば、セルロース、活性炭、セラミック、ポリプロピレン、多孔質炭素組成物、パーライト、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0017】
炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、デンプン等が挙げられる。
【0018】
窒素源としては、アミノ酸、尿素、ペプトン、ブイヨン、酵母エキス、大豆粉、大豆粕、綿実油粕、コーンスティープリカー、フスマ、豆乳、肉エキス等が挙げられる。
【0019】
無機栄養源としては、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カルシウム、ビタミン類、その他の微量元素等が挙げられる。
【0020】
BN1001菌及び納豆菌は市販されている。納豆菌としては、Bacillus subtilis var. nattoに分類される菌であれば、特に制限なく用いることができる。本実施形態の組成物中のBN1001菌及び納豆菌の存在割合は、10:90〜90:10であることが好ましく、40:60〜60:40であることがより好ましい。
【0021】
また、「有効成分として含有する」とは、BN1001菌及び納豆菌が本願発明の効果を奏する程度に含有されていれば特に限定されないが、好ましくは、組成物中に含まれる微生物全体を基準として、乾燥質量で、BN1001菌が10質量%〜90質量%、納豆菌が10質量%〜90質量%含まれることを意味し、より好ましくは、BN1001菌が40質量%〜60質量%、納豆菌が60質量%〜40質量%含まれることを意味する。
【0022】
本実施形態の組成物は、それぞれ別々に培養したBN1001菌及び納豆菌の培養液を混合することにより製造してもよいし、BN1001菌及び納豆菌の混合物を培養した培養液から製造してもよい。また、本実施形態の組成物は、BN1001菌及び納豆菌を有効成分として含有している限り、これら以外の微生物を含有していてもよい。BN1001菌及び納豆菌以外の微生物としては、BN1001菌以外の枯草菌、乳酸菌、酵母菌などを挙げることができる。
【0023】
後述するように、上記の組成物を、例えば、排水処理システムの生物処理槽中に添加すると、排水中の油脂、デンプン、タンパク質等の難分解成分の分解効率が格段に向上する。その結果、処理水質が向上し、悪臭や汚泥の発生が大幅に減少する。
【0024】
その結果、油脂濃度が高い排水を処理する場合に必要な、加圧浮上装置の運転が不要となる。このため、加圧浮上装置の使用に必要な薬剤が不要となり、また、加圧浮上装置の使用により発生する汚泥も発生しなくなる。その結果、排水処理に要するコストや労力を大幅に削減することができる。
【0025】
また、本実施形態の組成物は、排水処理に限らず、例えば、家庭又は業務用施設における、キッチン、厨房、トイレ、浴室、洗濯機置き場、生ごみ集積所等、あるいは、例えば、養豚場、養鶏場等の畜舎等の、悪臭を発生する場所で使用することにより、悪臭を効率よく低減させることができる。具体的には、これらの場所における悪臭源に、本実施形態の組成物を振り掛ける等して接触させるとよい。その結果、悪臭の原因物質又はその発生原因となる物質を、組成物中の菌が効率的に分解することにより、消臭することができる。
【0026】
悪臭の原因物質としては、例えば、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。
【0027】
このように、本実施形態の組成物によれば、例えば排水中に含まれる、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる。
【0028】
したがって、上記の組成物は、排水処理用組成物として非常に有用である。また、上記の組成物は、油脂分解用組成物ということもできるし、デンプン分解用組成物ということもできるし、タンパク質分解用組成物ということもできる。また、上記の組成物は、消臭用組成物ということもできる。
【0029】
本実施形態の組成物の使用量は、排水処理の効果、消臭効果等を確認しながら適宜調整すればよい。
【0030】
[担体]
1実施形態において、本発明は、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を担持させた担体を提供する。
【0031】
微生物を担体に担持させることにより、取り扱い性が向上する。また、生物処理槽に微生物を添加した場合、微生物が排水とともに流失して失われてしまう場合があるが、微生物を担体に担持させておくことにより、微生物を生物処理槽内に定着させやすくなる。
【0032】
担体は、固定床方式用であってもよく、流動床方式用であってもよく、これら以外の方式用であってもよい。固定床方式とは、微生物を担持させた担体を生物処理槽中に固定して、その下部から曝気する排水処理方式である。固定床方式では、SS(浮遊物質)の吸着に優れ、上質な処理水が得られやすい。
【0033】
流動床方式とは、微生物を担持させた担体を生物処理槽に添加し、曝気などの攪拌力によって担体を流動させる排水処理方式である。流動担体では、大きな比表面積がとれ、排水との接触を高効率化できるだけでなく、運転時の担体磨耗、損傷が少なく耐久性にも優れている。
【0034】
固定床方式用の担体としては、担体を生物処理槽中に固定することができれば特に制限されず、粉末状の担体を封入した、袋状、カプセル状、ボール状等の担体;網目状、網目球状、ひも状等の担体等が挙げられる。
【0035】
流動床方式用の担体としては、担体を生物処理槽中で流動させることができれば特に制限されず、スポンジ状、ゲル状等の担体等が挙げられる。
【0036】
排水処理の方式、担体の形状、担体の使用量等は、排水処理システムが処理する排水の特性等に応じて適宜選択することができる。
【0037】
本実施形態の担体は、BN1001菌及び納豆菌のほか、担体、炭素源、窒素源、無機栄養源等を担持していてもよい。BN1001菌、納豆菌、担体、炭素源、窒素源、無機栄養源としては、本実施形態の組成物に含まれるものと同じものを挙げることができる。
【0038】
微生物を担体に担持する方法としては、例えば、微生物を適切な培地で培養した培養液と担体とを接触させる方法等が挙げられる。上記の培養液は、それぞれ別々に培養したBN1001菌及び納豆菌の培養液を混合することにより製造してもよいし、BN1001菌及び納豆菌の混合物を培養して製造してもよい。
【0039】
本実施形態の担体は、BN1001菌及び納豆菌を有効成分として含有している限り、これら以外の微生物を担持していてもよい。BN1001菌及び納豆菌以外の微生物としては、BN1001菌以外の枯草菌、乳酸菌、酵母菌などを挙げることができる。
【0040】
ここで、「有効成分として含有する」とは、BN1001菌及び納豆菌が本願発明の効果を奏する程度に含有されていれば特に限定されないが、好ましくは、担体に担持された微生物全体を基準として、乾燥質量で、BN1001菌が10質量%〜90質量%、納豆菌が10質量%〜90質量%含まれることを意味し、より好ましくは、BN1001菌が40質量%〜60質量%、納豆菌が60質量%〜40質量%含まれることを意味する。
【0041】
後述するように、上記の担体を、例えば、排水処理システムの生物処理槽中に添加すると、排水中の油脂、デンプン、タンパク質等の難分解成分の分解効率が格段に向上する。その結果、処理水質が向上し、悪臭や汚泥の発生が大幅に減少する。
【0042】
その結果、油脂濃度が高い排水を処理する場合に必要な、加圧浮上装置の運転が不要となる。このため、加圧浮上装置の使用に必要な薬剤が不要となり、また、加圧浮上装置の使用により発生する汚泥も発生しなくなる。その結果、排水処理に要するコストや労力を大幅に削減することができる。
【0043】
また、本実施形態の担体を、排水処理システムの生物処理槽中に添加することにより、排水から発生する悪臭を効率よく低減させることができる。これは、悪臭の原因物質又はその発生原因となる物質を、担体中の菌が効率的に分解することによる。
【0044】
このように、本実施形態の担体によれば、例えば排水中に含まれる、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる。
【0045】
[排水処理システム]
1実施形態において、本発明は、排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであって、前記生物処理槽中に上述した組成物または担体を含む、排水処理システムを提供する。
【0046】
本実施形態の排水処理システムは、排水中の油脂、デンプン、タンパク質等の難分解成分の分解効率が格段に高いため、処理水質が高く、悪臭や汚泥の発生も少ない。このため、食品工場、食品加工工場に限らず、有機汚染物質を含む排水を排出する工場や研究施設、畜舎、下水処理場等における排水処理に好適に用いることができる。
【0047】
納豆菌としては、Bacillus subtilis var. nattoに分類される菌であれば、特に制限なく用いることができる。また、上記の生物処理槽中のBN1001菌及び納豆菌の含有量は、本願発明の効果を奏する程度に含有されていれば特に限定されないが、生物処理槽中に含まれる微生物全体を基準として、乾燥質量で、BN1001菌が10質量%〜90質量%、納豆菌が10質量%〜90質量%含まれることが好ましく、BN1001菌が40質量%〜60質量%、納豆菌が60質量%〜40質量%含まれることがより好ましい。
【0048】
また、上述したグリーストラップ中に上述した組成物または担体を添加することも有効である。この場合、グリーストラップに曝気装置を追加して、微生物群の増殖に必要な酸素を供給することが好ましい。
【0049】
通常のグリーストラップは、排水を生物学的に処理するものではないが、このようなグリーストラップは、排水を生物学的に処理する生物処理槽を備える排水処理システムであるといえる。
【0050】
グリーストラップ中に上述した組成物または担体を添加することにより、グリーストラップに溜まる油脂がほとんど目立たなくなり、スカムもほぼなくなり、悪臭も低減する。このため、グリーストラップの清掃作業を簡略化することができる。
【0051】
[排水処理方法]
1実施形態において、本発明は、排水を生物学的に処理する排水処理方法であって、前記排水に上述した組成物または担体を添加する工程を備える、排水処理方法を提供する。
【0052】
本実施形態の排水処理方法によれば、排水中の油脂、デンプン、タンパク質等の難分解成分を格段に効率よく分解することができるため、高い処理水質が得られ、悪臭や汚泥の発生も少ない。このため、本実施形態の排水処理方法は、食品工場、食品加工工場に限らず、有機汚染物質を含む排水を排出する工場や研究施設、畜舎、下水処理場等における排水処理に好適に用いることができる。
【0053】
納豆菌としては、Bacillus subtilis var. nattoに分類される菌であれば、特に制限なく用いることができる。また、BN1001菌及び納豆菌の添加量は、本願発明の効果を奏する程度であれば特に限定されず、適宜調整することができる。
【0054】
また、上述したグリーストラップ中に上述した組成物または担体を添加する、排水処理方法も有効である。この場合、グリーストラップに曝気装置を追加して、微生物群の増殖に必要な酸素を供給することが好ましい。
【0055】
通常のグリーストラップは、排水を生物学的に処理するものではないが、このようなグリーストラップは、排水を生物学的に処理するものであるといえる。
【0056】
グリーストラップ中に上述した組成物または担体を添加することにより、グリーストラップに溜まる油脂がほとんど目立たなくなり、スカムもほぼなくなり、悪臭も低減する。このため、グリーストラップの清掃作業を簡略化することができる。
【0057】
[消臭方法]
1実施形態において、本発明は、悪臭源にバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を接触させる工程を備える、消臭方法を提供する。
【0058】
本実施形態の消臭方法によれば、排水処理システムの消臭に限らず、例えば、家庭又は業務用施設における、キッチン、厨房、トイレ、浴室、洗濯機置き場、生ごみ集積所等、あるいは、例えば、養豚場、養鶏場等の畜舎等の、悪臭を発生する場所の消臭を効率よく行うことができる。
【0059】
悪臭源にBN1001菌及び納豆菌を接触させるとは、例えば、悪臭の原因物質が存在する場所に、これらの菌の培養物や、これらの菌を粉末又は液状の形態に加工した上述の組成物を振り掛けることを意味する。その結果、これらの菌が悪臭の原因物質又はその発生原因となる物質を効率的に分解することにより、消臭することができる。悪臭の原因物質としては、上述したものと同様のものを例示できる。
【0060】
[回分式排水処理方法]
1実施形態において、本発明は、排水を生物学的に処理する生物処理槽内に排水を導入する排水導入工程と、導入した排水を曝気する曝気工程と、曝気後に静置する静置工程と、静置後に処理水を排出する排出工程と、を備え、前記排水導入工程、前記曝気工程、前記静置工程及び前記排出工程の各工程を繰り返す、回分式排水処理方法であって、前記生物処理槽が、上述した担体を含む、回分式排水処理方法を提供する。
【0061】
回分式排水処理方法とは、1つの生物処理槽内で、排水導入、曝気、静置(沈殿)、処理水(上澄水)を排出するサイクルを繰り返しながら排水処理を行う方法である。静置工程中に、表面にSS(浮遊物質)が浮上することが多いため、処理水の排出は、水面からではなく、水中(汚泥界面と水面の間)から行うことが好ましい。
【0062】
回分式排水処理方法では、排水導入時や静置時に嫌気状態となるため、脱窒菌による脱窒効果が期待できること、静時間を長くとることができるため、汚泥の沈降性がよいこと、1つの生物処理槽が、曝気槽と沈殿槽を兼ねるため、装置の構造が単純であること等の利点がある。また、曝気時間や静置時間等を容易に変更できるため、排水量や水温等の変化に合わせて排水処理条件を容易に調整することができる。
【0063】
本実施形態の回分式排水処理方法によれば、排水中の油脂、デンプン、タンパク質等の難分解成分を格段に効率よく分解することができるため、高い処理水質が得られ、悪臭や汚泥の発生も少ない。このため、本実施形態の回分式排水処理方法は、食品工場、食品加工工場に限らず、有機汚染物質を含む排水を排出する工場や研究施設、畜舎、下水処理場等における排水処理に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0065】
[実験例1:BN1001菌単体と、BN1001菌及び納豆菌の混合物との比較]
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)単体と、BN1001菌及び納豆菌の混合物との特性を比較した。
【0066】
(カタラーゼ活性の比較)
表1に示す組成の培地を用いて、BN1001菌単体並びにBN1001菌及び納豆菌の混合物をそれぞれ培養した。対数増殖期に各培養液を回収し、新しい培地を用いて菌の濃度(OD600)が0.5となるように調整した。
【0067】
【表1】
【0068】
続いて、3%過酸化水素水を5mLずつ入れた試験管を2本用意し、一方に上記のBN1001菌単体の培養液1mLを添加し、もう一方に上記のBN1001菌及び納豆菌の混合培養液1mLを添加した。その結果、菌が産生したカタラーゼにより過酸化水素が分解されて酸素の泡が発生した。図1は、カタラーゼ活性試験の結果を示す写真である。図中、右側の試験管はBN1001菌単体の結果を示し、左側の試験管は、BN1001菌及び納豆菌の混合物の結果を示す。
【0069】
その結果、BN1001菌及び納豆菌の混合物は、BN1001菌単体と比較して、カタラーゼ活性が格段に高いことが明らかとなった。
【0070】
また、この結果は、BN1001菌単体とBN1001菌及び納豆菌の混合物とが、異なる菌学的性質を有することを示す。
【0071】
(生育速度の比較)
上述した表1に示す組成の培地に1.5質量%の寒天を加えてシャーレ内で固化させ、寒天培地を調製した。
【0072】
また、上述した表1に示す組成の培地を用いて、BN1001菌単体並びにBN1001菌及び納豆菌の混合物をそれぞれ培養した。対数増殖期に各培養液を回収し、新しい培地を用いて菌の濃度(OD600)が0.5となるように調整した。
【0073】
上記の寒天培地にこれらの培養液をそれぞれ50μLずつ接種し、30℃のインキュベーター内で6時間培養し、菌の増殖の度合いを検討した。図2は、培養6時間後の寒天培地の写真である。図中、左側のシャーレはBN1001菌単体の結果を示し、右側のシャーレは、BN1001菌及び納豆菌の混合物の結果を示す。
【0074】
その結果、BN1001菌及び納豆菌の混合物は、BN1001菌単体と比較して、増殖速度が格段に速いことが明らかとなった。
【0075】
(排水処理能力の比較)
魚貝類、海藻類の佃煮を製造している食品工場から排出された排水を試料として、排水処理能力を比較した。
【0076】
まず、上述した表1に示す組成の培地を用いて、BN1001菌単体並びにBN1001菌及び納豆菌の混合物をそれぞれ培養した。対数増殖期に各培養液を回収し、新しい培地を用いて菌の濃度(OD600)が0.5となるように調整した。
【0077】
500mLの三角フラスコ2個に、それぞれ、上記の排水200mLを入れた。これらの三角フラスコに、上記の培養液をそれぞれ1mLずつ添加し、室温で、マグネチックスターラーを用いて連続撹拌することにより排水処理を行った。
【0078】
排水処理前の排水(排水原水)及び排水処理48時間後の排水について、pH、生物学的酸素要求量(BOD)、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)を測定した。pHは、JIS K0102.12.1にしたがって測定した。BODは、JIS K0102.21及び32.3にしたがって測定した。n−ヘキサン抽出物質量は、環境庁告示64号(「排水基準を定める省令の規定に基づく環境大臣が定める排水基準に係る検定方法」公布日:昭和49年9月30日)の付表4に記載された方法にしたがって測定した。
【0079】
結果を表2に示す。表2中、pHについては処理率としてpHの上昇量を記載した。排水原水のpHは3.7であった。BN1001菌を用いて48時間排水処理を行った結果、pHは1.5上昇し、5.2となった。一方、BN1001菌及び納豆菌の混合物を用いて48時間排水処理を行った結果、pHは3.1上昇し、6.8となった。
【0080】
また、排水原水のBODは2200mg/Lであった。BN1001菌を用いて48時間排水処理を行った結果、BODは730mg/Lに減少した。BODの処理率は67%であった。一方、BN1001菌及び納豆菌の混合物を用いて48時間排水処理を行った結果、BODは450mg/Lに減少した。BODの処理率は80%であった。
【0081】
また、排水原水のn−ヘキサン抽出物質量は110mg/Lであった。BN1001菌を用いて48時間排水処理を行った結果、n−ヘキサン抽出物質量は75mg/Lに減少した。n−ヘキサン抽出物質の処理率は32%であった。一方、BN1001菌及び納豆菌の混合物を用いて48時間排水処理を行った結果、n−ヘキサン抽出物質量は30mg/Lに減少した。n−ヘキサン抽出物質量の処理率は73%であった。
【0082】
このように、BN1001菌及び納豆菌の混合物は、BN1001菌単体と比較して、pH上昇率、BOD処理率、n−ヘキサン抽出物質の処理率のいずれにおいても格段に高い排水処理能力を示した。
【0083】
【表2】
【0084】
(その他の性質について)
BN1001菌及び納豆菌の混合物の菌学的性質を解析した結果、BN1001菌及び納豆菌の混合物は、pH3〜9で生育可能であることが明らかとなった。また、BN1001菌及び納豆菌の混合物は、10〜50℃で生育可能であることが明らかとなった。
【0085】
[実験例2:組成物及び担体の製造]
(製造例1:液状の組成物)
水道水15Lに、グルコース75g、肉エキス105g、ペプトン150g、塩化ナトリウム45gを溶解させ、pHを7.2に調整して培地を調製した。調製した培地を容量30Lのジャーファーメンターに入れ、121℃で30分間滅菌した。続いて、滅菌後の培地を冷却させた後に、あらかじめ前培養しておいたバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を接種し、30℃で24時間通気撹拌培養した。得られた培養液を、液状形態の組成物とした。
【0086】
(製造例2:粉末形態の組成物(担体))
水道水15Lに、グルコース75g、肉エキス105g、ペプトン150g、塩化ナトリウム45gを溶解させ、pHを7.2に調整して培地を調製した。調製した培地を121℃で30分間滅菌した。続いて、滅菌後の培地を冷却させ、あらかじめ前培養しておいたバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を接種し、30℃で24時間通気撹拌培養した。続いて、得られた培養液に、パーライトを加えて混合し、更にこれを乾燥後粉砕することにより、粉末形態の組成物(担体)1.3kgを得た。この組成物(担体)に含まれる生菌数は8×10個/gであった。
【0087】
(製造例3:粉末形態の組成物(担体))
市販大豆粕1kgにpHを7に調整したコーンスティープリカー500g、水道水300gを加え、よく混合して培地を調製した。調製した培地を121℃で60分間滅菌した。続いて、滅菌後の培地を冷却させ、あらかじめ前培養しておいたバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)BN1001菌(受託番号 FERM P−11132)及び納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を接種し、30℃で120時間通気撹拌培養した。続いて、得られた培養液に、炭酸カルシウムを加えて混合し、粉末形態の組成物(担体)1.6kgを得た。この組成物(担体)に含まれる生菌数は8×10個/gであった。
【0088】
(製造例4:担体)
製造例2の粉末形態の組成物(担体)を、プラスチック製の容器に封入して、ボール形状の担体を製造した。プラスチック製の容器は、粉末形態の組成物(担体)を容器内に留めることが可能な大きさの多数の穴を有しており、生物処理槽に添加した場合には、排水と担体が接触するようにした。
【0089】
[実験例3:本発明の方法と活性汚泥法との比較]
表3に示す生分解性人工原水を試料として、本発明の方法と活性汚泥法について生分解性バッチテストを行い、人工原水処理能力を比較した。
【0090】
【表3】
【0091】
まず、本発明の方法を用いて実験を行った。表3に示す組成の人工原水に製造例1の組成物を添加して10ppmとし、固定接触曝気槽(容量500L)に導入した。
【0092】
人工原水及び3週間後の処理水について、pH、生物学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)を測定した。
【0093】
次に、活性汚泥法を用いて実験を行った。表3に示す組成の人工原水を活性汚泥槽(容量500L)に導入した。
【0094】
3週間後の処理水について、pH、生物学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)を測定した。
【0095】
結果を表4に示す。表4中、pHについては処理率としてpHの上昇量を記載した。人工原水のpHは5.5であった。本発明の方法を用いて3週間処理を行った結果、pHは1.7上昇し、7.2となった。一方、活性汚泥法を用いて3週間処理を行った結果、pHは1.5上昇し、7.0となった。
【0096】
また、人工原水のBODは2400mg/Lであった。本発明の方法を用いて3週間処理を行った結果、BODは41mg/Lに減少した。BODの処理率は98.3%であった。一方、活性汚泥法を用いて3週間処理を行った結果、BODは150mg/Lに減少した。BODの処理率は93.8%であった。
【0097】
また、人工原水のCODは1600mg/Lであった。本発明の方法を用いて3週間処理を行った結果、CODは130mg/Lに減少した。CODの処理率は91.9%であった。一方、活性汚泥法を用いて3週間処理を行った結果、CODは300mg/Lに減少した。CODの処理率は81.3%であった。
【0098】
また、人工原水のn−ヘキサン抽出物質量は280mg/Lであった。本発明の方法を用いて3週間処理を行った結果、n−ヘキサン抽出物質量は5mg/Lに減少した。n−ヘキサン抽出物質の処理率は98.2%であった。一方、活性汚泥法を用いて3週間処理を行った結果、n−ヘキサン抽出物質量は19mg/Lに減少した。n−ヘキサン抽出物質量の処理率は93.2%であった。
【0099】
このように、本発明の方法は、活性汚泥法と比較して、pH上昇率、BOD処理率、COD処理率、n−ヘキサン抽出物質の処理率のいずれにおいても高い人工原水処理能力を示した。
【表4】
【0100】
[実験例4:排水処理システムへの適用]
実際の食品工場の排水処理システムに、上述した組成物または担体を適用し、排水処理能力を検討した。
【0101】
(適用例1)
粉末調味料を製造している食品工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0102】
図3Aは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり600mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、調整槽(容量100m)に導入した。続いて、調整槽から排出された排水を固定接触槽(容量200m)に導入した。固定接触槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、固定接触槽から排出された排水を2つの回分槽(容量はいずれも500m)に導入した。続いて、回分槽から排出された処理水を河川に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は2.2日であった。
【0103】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。BOD及びn−ヘキサン抽出物質量は上述したものと同様にして測定した。SSは、環境庁告示59号(「水質汚濁に係る環境基準について」公布日:昭和46年12月28日)の付表8に記載された方法にしたがって測定した。CODは、JIS K0102.17にしたがって測定した。T/Nは、JIS K0102.45.2にしたがって測定した。T/Pは、JIS K0102.46.3.1にしたがって測定した。
【0104】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(a)に示す。表5中、pHについては処理率としてpHの上昇量を記載した。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、余剰汚泥の発生が減少した。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0105】
(適用例2)
洋菓子を製造している食品工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0106】
図3Bは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり120mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、流動調整槽(容量58m)に導入した。流動調整槽は、スポンジ状の担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または流動床方式用の担体を含んでおり、前記担体は、調整槽内で流動するようにした。続いて、流動調整槽から排出された排水を固定接触槽(容量16m)に導入した。固定接触槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、固定接触槽から排出された排水を活性汚泥槽(容量221m)に導入した。続いて、活性汚泥槽から排出された排水を沈殿槽(容量33m)に導入した。続いて、沈殿槽から排出された処理水を河川に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は2.8日であった。
【0107】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0108】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(b)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、汚泥の発生が減少した。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0109】
(適用例3)
牛豚惣菜を製造している食品工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0110】
図3Cは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり60mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、調整槽(容量40m)に導入した。続いて、調整槽から排出された排水を流動接触曝気槽(容量96m)に導入した。流動接触曝気槽は、スポンジ状の担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または流動床方式用の担体を含んでおり、前記担体は、流動接触曝気槽内で流動するようにした。続いて、流動接触曝気槽から排出された排水を回分槽(容量112m)に導入した。続いて、回分槽から排出された処理水を河川に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は4.2日であった。
【0111】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0112】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(c)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、余剰汚泥の発生が減少した。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0113】
(適用例4)
和惣菜を製造している食品工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0114】
図3Dは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり500mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、流動調整槽(容量200m)に導入した。流動調整槽は、スポンジ状の担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または流動床方式用の担体を含んでおり、前記担体は、調整槽内で流動するようにした。続いて、流動調整槽から排出された排水を第1の固定接触槽(容量200m)に導入した。第1の固定接触槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、第1の固定接触槽から排出された排水を第2の固定接触槽(容量200m)に導入した。第2の固定接触槽の構成は第1の固定接触槽の構成と同様であった。続いて、第2の固定接触槽から排出された処理水を下水に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は1.2日であった。
【0115】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0116】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(d)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、沈殿汚泥が減少し、搬出の必要がなくなった。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0117】
(適用例5)
米飯工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0118】
図3Eは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり200mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、調整槽(容量63m)に導入した。続いて、調整槽から排出された排水を第1の固定接触槽(容量72m)に導入した。第1の固定接触槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、第1の固定接触槽から排出された排水を第2の固定接触槽(容量107m)に導入した。第2の固定接触槽の構成は第1の固定接触槽の構成と同様であった。続いて、第2の固定接触槽から排出された排水を第3の固定接触槽(容量49m)に導入した。第3の固定接触槽の構成は第1の固定接触槽の構成と同様であった。続いて、第3の固定接触槽から排出された処理水を下水に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は1.4日であった。
【0119】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0120】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(e)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、沈殿汚泥が減少し、搬出の必要がなくなった。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0121】
(適用例6)
米飯工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0122】
図3Fは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり60mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、調整槽(容量55m)に導入した。続いて、調整槽から排出された排水を第1の固定接触槽(容量62m)に導入した。第1の固定接触槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、第1の固定接触槽から排出された排水を活性汚泥槽(容量62m)に導入した。続いて、活性汚泥槽から排出された排水を第2の固定接触槽(容量41m)に導入した。第2の固定接触槽の構成は第1の固定接触槽の構成と同様であった。続いて、第2の固定接触槽から排出された処理水を下水に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は3.7日であった。
【0123】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0124】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(f)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、沈殿汚泥が減少し、搬出の必要がなくなった。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0125】
(適用例7)
麺工場の排水処理システムに、製造例1の組成物を適用した。
【0126】
図3Gは、本適用例の排水処理システムの概要を示すフロー図である。本工場では、1日あたり220mの排水を排出していた。排水処理システムの構成は次の通りとした。まず、排水原水に製造例1の組成物を添加し、固定接触調整槽(容量140m)に導入した。固定接触調整槽は、固定された担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または固定床方式用の担体を含んでいた。続いて、固定接触調整槽から排出された排水を流動接触曝気槽(容量280m)に導入した。流動接触曝気槽は、スポンジ状の担体に保持されたBN1001菌及び納豆菌、または流動床方式用の担体を含んでおり、前記担体は、流動接触曝気槽内で流動するようにした。続いて、流動接触曝気槽から排出された排水を沈殿槽(容量50m)に導入した。続いて、沈殿槽から排出された処理水を河川に放流した。本排水処理システムでは、排水の滞留期間は2.1日であった。
【0127】
排水原水及び処理水について、pH、BOD、n−ヘキサン抽出物質量(n−Hex)、浮遊物質濃度(SS)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T/N)、全リン(T/P)を測定した。
【0128】
各項目の測定値及び排水処理の処理率を表5(g)に示す。本組成物の適用により、適用前と比較して、排水からの悪臭が減少した。また、沈殿汚泥が減少し、搬出の必要がなくなった。また、排水のpH調整が不要となった。
なお、製造例2または3の粉末形態の組成物(担体)を水に溶解させて得られた液状の組成物を適用しても、同様の結果が得られた。
【0129】
【表5】
【0130】
[実験例5:消臭]
レストランの排水処理システムにおいて、硫化水素が発生し、問題となっていた。そこで、前記排水処理システムに、製造例1の組成物と製造例4の担体を併用して適用し、発生する硫化水素濃度の変化を測定した。
【0131】
図4は、排水処理システムから発生する硫化水素の濃度、及び排水処理システムの生物処理槽の温度の変化を示すグラフである。図4中の矢印は、排水処理システムに、製造例1の組成物と製造例4の担体を併用して適用した時点を示す。製造例1の組成物と製造例4の担体を併用して適用した後、約8時間で硫化水素の発生がほとんど消失した。この結果は、BN1001菌及び納豆菌を含有する組成物、またはBN1001菌及び納豆菌を担持させた担体が、消臭に高い効果を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明によれば、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる組成物を提供することができる。また、排水処理システムの生物処理槽に添加することにより、油脂、デンプン、タンパク質等の分解効率をより向上させ、排水処理や消臭をより効率化させることができる、微生物群を担持させた担体を提供することができる。さらに、処理能力が向上した排水処理システム、及び処理能力が向上した排水処理方法を提供することができる。また、効率の高い消臭方法を提供することができる。さらに、処理能力が向上した回分式排水処理方法を提供することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4