(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192862
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】Fc融合高親和性IgE受容体α鎖
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20170828BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20170828BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20170828BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
C07K19/00ZNA
C12N15/00 A
A61K38/17
A61P37/08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-574302(P2016-574302)
(86)(22)【出願日】2016年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2016054854
(87)【国際公開番号】WO2016133197
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-32231(P2015-32231)
(32)【優先日】2015年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-252231(P2015-252231)
(32)【優先日】2015年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104560
【氏名又は名称】キッセイ薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆志
(72)【発明者】
【氏名】稲田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】横山 和正
【審査官】
市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−511707(JP,A)
【文献】
特表2013−520176(JP,A)
【文献】
特表2013−538052(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/124451(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/124450(WO,A1)
【文献】
特開2006−257098(JP,A)
【文献】
J. Immunol.,1993年,Vol.151,pp.351-358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)高親和性IgE受容体α鎖;及び
(ii)IgG1のFc領域
とを含有し、前記(i)及び(ii)のリンカーフラグメント領域が、配列番号2のアミノ酸配列であることを特徴とするFc融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のFc融合タンパク質であって、配列番号3のアミノ酸配列を含むことを特徴とするタンパク質、又は配列番号3のアミノ酸配列のC末端のリシン(K)が欠損したアミノ酸配列を含むFc融合タンパク質。
【請求項3】
2量体である、請求項1又は2に記載のFc融合タンパク質。
【請求項4】
リンカーフラグメント領域のシステイン残基同士が3つのジスルフィド結合を形成する、請求項3記載のFc融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のFc融合タンパク質を有効成分として含有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として有用なFc融合高親和性IgE受容体α鎖(Fc-fused high affinity IgE receptor α-chain)に関する。
【0002】
さらに詳しく述べれば、本発明は、低pHにおける優れた安定性を有するFc融合高親和性IgE受容体α鎖、及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫グロブリンE(IgE)は、アレルギー反応を担う免疫グロブリン群の1つである。B細胞により分泌され、又はB細胞の表面上に発現されるIgEは、マスト細胞及び好塩基球等の表面上に認められる高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合する。マスト細胞表面受容体上のIgEに抗原タンパク質が結合すると、IgEが抗原を架橋するような形になる。その後、細胞内顆粒中に貯蔵されているヒスタミンやセロトニン等のケミカルメディエーター等が放出される。この結果、炎症反応が誘起され、毛細血管拡張、血管透過性亢進等のI型アレルギー症状が引き起こされる(非特許文献1)。
【0004】
したがって、IgEとFcεRIとの結合を阻害する化合物又はタンパク質は、IgEがマスト細胞及び好塩基球等の表面上に認められるFcεRIに結合することを阻害するので、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等のI型アレルギー性疾患の治療剤として期待される(非特許文献2)。
【0005】
近年、従来の低分子化合物を有効成分とする医薬品に加え、生体内の特定の受容体等に強く結合し、優れた治療効果を示すタンパク質医薬品の開発が行われている。例えば、関節リウマチの治療剤としてエタネルセプトが知られている。エタネルセプトは、腫瘍壊死因子(TNF)の可溶性レセプターが生体内においてTNFの作用を抑制する役割を果たしていることに着目し開発された、完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤である。
【0006】
タンパク質医薬品は高い治療効果が期待できるが、その反面、その製造工程において、タンパク質医薬品特有の問題が生じることもある。
【0007】
一般に、抗体やFc融合タンパク質を医薬品として製造する際、プロテインAを用いた精製方法が用いられる。この方法には、プロテインAに結合した目的タンパク質を溶出させるために、低pHの緩衝液が用いられる。また、ウィルス不活化のために、目的タンパク質を一定時間、低pHで処理することが望ましい。
【0008】
低pHにおける安定性が乏しいタンパク質は、凝集体を作りやすい。凝集体の割合が高い場合、タンパク質医薬品の製造において精製効率や生産量の低下が引き起こされる。また、医薬品に凝集体が混入することにより、免疫反応が惹起され、アナフィラキシー等の重大な副作用が引き起こされる可能性もある。
【0009】
そのため、タンパク質医薬品の製造において、低pHにおける目的タンパク質の不安定性が問題になることがある。
【0010】
免疫グロブリン及び細胞外ドメインを含んでなるポリペプチド(免疫アドヘゾン)が特許文献1に記載されている。特許文献1において免疫アドヘゾンの例示の1つとして高親和性IgE受容体が記載されている。しかしながら、前記文献には、高親和性IgE受容体と免疫グロブリンとの融合タンパク質は、具体的に記載されていない。
【0011】
高親和性IgE受容体α鎖(FcεRI α-chain、以下「FCER1A」とする。)と免疫グロブリンG1(IgG1)との融合タンパク質(以下、「Fusion protein A」とする。)が、非特許文献3に記載されている。しかしながら、前記文献に記載のFusion protein Aと、本願発明のタンパク質とは、FCER1A とIgG1(Fc)の接合様式が大きく異なる。すなわち、本願発明のタンパク質は、そのFcεRIとIgG1のリンカーフラグメント領域に特徴的なアミノ酸配列を有する。
【0012】
高親和性IgE受容体(FcεRI)の水溶性断片とヒトFc領域とがペプチドリンカーで連結された融合タンパク質(NPB301)が特許文献2に記載されている。しかしながら、本願発明のタンパク質は、特許文献2に記載されたペプチドリンカーを含まない。また、特許文献2には、本願発明のリンカーフラグメント領域の特徴的なアミノ酸配列について、記載も示唆も無い。
【0013】
FCER1Aと免疫グロブリンG2(IgG2)との融合タンパク質が、特許文献3に記載されている。しかしながら、前記IgG2との融合タンパク質と本願発明のタンパク質とは、リンカーフラグメント領域及びFc領域においてアミノ酸配列が異なる。
【0014】
非ヒト霊長類FCER1AとIgG1との融合タンパク質が、特許文献4に記載されている。また、FCER1AとIgG1との融合タンパク質が、特許文献5〜7に記載されている。しかしながら、前記文献には、本願発明のリンカーフラグメント領域の特徴的なアミノ酸配列について、記載も示唆も無い。
【0015】
上述の非特許文献3、及び特許文献1〜7には、本発明のタンパク質は、記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許5,565,335号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/169735号
【特許文献3】中国特許出願公開第101633698号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/028068号
【特許文献5】国際公開第2011/056606号
【特許文献6】国際公開第2008/099178号
【特許文献7】国際公開第2008/099188号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】羅智靖、「アレルギーの分子細胞機構」、BIO INDUSTRY、2008年、第25巻、第9号、P.23-39
【非特許文献2】Chisei Raら、「International Immunology」、1993年、第5巻、第1号、P.47-54
【非特許文献3】M. Haak-Frendschoら、「Journal of Immunology」、1993年、第151巻、第1号、P. 351-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、低pHにおける優れた安定性を有するFc融合高親和性IgE受容体α鎖を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、低pHや熱に対して安定性の高いFc融合高親和性IgE受容体α鎖を得ようと鋭意検討を行った。その結果、高親和性IgE受容体α鎖とIgG1のFc領域を含む融合タンパク質において、リンカーフラグメントとして3つのCysを含むものを用いることにより、安定性の高いFc融合高親和性IgE受容体α鎖を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0020】
本発明は、以下の〔1〕〜〔5〕等に関する。
〔1〕(i)高親和性IgE受容体α鎖;及び
(ii)IgG1のFc領域
とを含有し、前記(i)及び(ii)のリンカーフラグメント領域が、配列番号2のアミノ酸配列であることを特徴とするFc融合タンパク質。
〔2〕〔1〕のFc融合タンパク質であって、配列番号3のアミノ酸配列を含むことを特徴とするタンパク質、又は配列番号3のアミノ酸配列のC末端のリシン(K)が欠損したアミノ酸配列を含むFc融合タンパク質。
〔3〕2量体である、〔1〕又は〔2〕のFc融合タンパク質。
〔4〕リンカーフラグメント領域のシステイン残基同士が3つのジスルフィド結合を形成する、〔3〕のFc融合タンパク質。
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかのFc融合タンパク質を有効成分として含有する、医薬組成物。
【0021】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015-032231号、2015-252231号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のタンパク質は、低pHにおける優れた安定性を有する。また、本発明のタンパク質は、IgEに対する優れた中和活性を有する。したがって、本発明のタンパク質は、IgEが介在するI型アレルギー性疾患の予防又は治療用のタンパク質医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ヒトIgEに対する結合阻害活性を示す。図中、横軸は各薬物の濃度(mol/L)を示し、縦軸はプレートに固定したProtein 1に結合したIgEの量を一定量のIgEを添加したときの結合量を基準とした百分率で示した値(フリーIgE (コントロールに対する%))を示す。図中、丸はProtein 1、四角はomalizumabの値をそれぞれ示す。
【
図2】低pHにおける凝集体含有率変化(%)の推移を示す。図中、横軸は日数(日)を示し、縦軸は凝集体含有率の変化(%)を示す。図中、丸はProtein 1、四角はFusion protein Aの値をそれぞれ示す。
【
図3】熱処理における凝集体含有率変化(%)の推移を示す。図中、横軸は日数(日)を示し、縦軸は凝集体含有率の変化(%)を示す。図中、丸はProtein 1、四角はFusion protein Aの値をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。
【0025】
本発明において、各用語は、特に断らない限り、以下の意味を有する。
【0026】
本発明において、「高親和性IgE受容体α鎖(FCER1A)」とは、高親和性IgE受容体の細胞外ドメインであるα鎖部分を含むタンパク質をいう。高親和性IgE受容体α鎖は、例えば、以下の配列番号1で表されるタンパク質をいう。
配列番号1:
VPQKPKVSLNPPWNRIFKGENVTLTCNGNNFFEVSSTKWFHNGSLSEETNSSLNIVNAKFEDSGEYKCQHQQVNESEPVYLEVFSDWLLLQASAEVVMEGQPLFLRCHGWRNWDVYKVIYYKDGEALKYWYENHNISITNATVEDSGTYYCTGKVWQLDYESEPLNITVIKAPREKYWL
【0027】
上記高親和性IgE受容体α鎖には、配列番号1に表されるアミノ酸配列に対して、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、IgEに対する結合能を有するタンパク質が含まれる。また、配列番号1に表されるアミノ酸配列に対して1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、IgEに対する結合能を有するタンパク質が含まれる。
【0028】
本発明において、「IgG1のFc領域」とは、免疫グロブリンG1のFcフラグメント、すなわち、天然の免疫グロブリンG1のCH2及びCH3定常ドメインをいう。前記IgG1のFc領域には、天然の突然変異体、人工変異体、及びトランケートされた形態のいずれも含まれる。
【0029】
本発明において、「高親和性IgE受容体α鎖及びIgG1のFc領域のリンカーフラグメント領域」とは、上記高親和性IgE受容体α鎖と上記IgG1のFc領域の接合点からFc領域方向に14アミノ酸残基の領域をいう。
【0030】
本発明において、「Fc融合タンパク質」とは、高親和性IgE受容体α鎖及び免疫グロブリンのFcフラグメントを含む組換えタンパク質をいう。
【0031】
本発明のタンパク質は、その高親和性IgE受容体α鎖及びIgG1のFc領域のリンカーフラグメント領域が、以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列であることを特徴とする。
配列番号2:
EPKSCDKTHTCPPC
【0032】
本発明のタンパク質は、好ましくは、以下の配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むFc融合タンパク質(以下、「Protein 1」とする。)である。
配列番号3:
VPQKPKVSLNPPWNRIFKGENVTLTCNGNNFFEVSSTKWFHNGSLSEETNSSLNIVNAKFEDSGEYKCQHQQVNESEPVYLEVFSDWLLLQASAEVVMEGQPLFLRCHGWRNWDVYKVIYYKDGEALKYWYENHNISITNATVEDSGTYYCTGKVWQLDYESEPLNITVIKAPREKYWLEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0033】
配列番号3で表されるアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(配列番号3で表されるアミノ酸配列の1番目のValから179番目のLeuまで)と配列番号2で表されるアミノ酸配列(配列番号3で表されるアミノ酸配列の180番目のGluから193番目のCysまで)と免疫グロブリンのFcフラグメントのアミノ酸配列(配列番号3で表されるアミノ酸配列の194番目のProから411番目のLysまで)をこの順で融合した配列を有する。該Fc融合タンパク質は、配列番号3に表されるアミノ酸配列のうち配列番号2のアミノ酸配列に相当する180番目のGluから193番目のCysまでのアミノ酸配列以外のアミノ酸配列に対して、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、IgEに対する結合能を有するタンパク質が含まれる。また、配列番号3に表されるアミノ酸配列のうち配列番号2のアミノ酸配列に相当する180番目のGluから193番目のCysまでのアミノ酸配列以外のアミノ酸配列に対して、1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、IgEに対する結合能を有するタンパク質が含まれる。
【0034】
リコンビナント抗体を製造する際、C末端のリシンが翻訳後修飾により欠失する場合がある。従って、本発明のタンパク質は、上記Protein 1のC末端のリシン(K)が欠損したアミノ酸配列を含むFc融合タンパク質であっても良い。例えば、配列番号3に表されるタンパク質のProtein 1のC末端のリシン(K)が欠損したアミノ酸配列を含むFc融合タンパク質は、配列番号3で表されるアミノ酸配列の1番目から410番目のアミノ酸配列からなる。
【0035】
本発明のタンパク質は、高親和性IgE受容体α鎖及びIgG1のFc領域が、配列番号2のアミノ酸配列からなるリンカーフラグメントを介したFc融合タンパク質の単量体も、2量体も含む。上記リンカーフラグメント領域には3つのCys残基が存在し(配列番号3で表されるアミノ酸配列の第184番目、第190番目及び第193番目のCys)、ジスルフィド結合により2量体を形成し得る。通常、2つのFc融合タンパク質単量体は上記の3つのCysの同じ位置のCys同士間の3つのジスルフィド結合の形成により2量体を形成する。上記3つのジスルフィド結合により2量体は安定化され、低pH、熱に対して高い安定性を有する。低pH、熱に対する安定性が高いとは、例えば、低pH条件下、加熱下における凝集体の形成が少ないことをいい、例えば、低pH処理又は加熱処理した後に、ゲル濾過クロマトグラフィーで凝集体の含有量を測定することにより確認することができる。例えば、本発明のFc融合タンパク質を2〜8℃、好ましくは4℃の低温下、pH1〜5、好ましくはpH2〜4で、1日〜1か月間、好ましくは1日〜14日間、さらに好ましくは5〜12日間保存しても、あるいは、25〜45℃、好ましくは30〜40℃で1日〜1か月間、好ましくは1日〜14日間、さらに好ましくは1日〜7日間保存しても、凝集体含有率変化は少ない。例えば、本発明のタンパク質の凝集体含有率変化はゲル濾過クロマトグラフィーのピーク面積に基づいて計算した場合に10%以下、好ましくは8%以下である。また、リンカーフラグメントとして、2つ以下のCysを有するものを有するFc融合タンパク質に比べて、本発明のタンパク質の凝集体含有率変化は小さい。
【0036】
本発明のタンパク質は、例えば、以下の方法若しくはそれに準じた方法、又は文献記載の方法若しくはそれに準じた方法に従い、製造することができる。
【0037】
本発明のタンパク質は、当該技術分野の当業者にとって周知の遺伝子組換え技術を用いて製造することができる。例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを用意し、このDNAを含む発現ベクターを構築する。次いで、前記ベクターを用いて原核又は真核細胞を形質転換又はトランスフェクションし、得られた細胞の培養上清から目的のタンパク質を単離及び精製することができる。
【0038】
本発明のタンパク質は、当該技術分野の当業者にとって周知のタンパク質発現細胞を用いて製造することもできる。例えば、配列番号3のアミノ酸配列をコードするcDNAを、哺乳類発現プラスミドベクターに組込んでタンパク質発現プラスミドを調製したのち,チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)等の動物細胞に導入して、安定発現細胞株を樹立する。この細胞を培養して培養上清中から本発明のタンパク質を得ることができる。
【0039】
本発明のタンパク質は、必要に応じて、当該技術分野の当業者にとって周知の単離及び精製手段により、単離及び精製することができる。例えば、単離及び精製方法としては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、透析、沈殿分画法、電気泳動等が挙げられる。これらの方法を適宜組み合わせて、本発明のタンパク質を単離及び精製することもできる。
【0040】
本発明のタンパク質は、当該技術分野の当業者にとって周知の化学修飾がされていてもよい。例えば、化学修飾には、グリコシル化、ポリエチレングリコール(PEG)化、アセチル化、アミド化等が挙げられる。
【0041】
本発明のタンパク質は、IgEに対する優れた中和活性を有するので、IgEが介在する種々の疾患の予防又は治療薬として使用することができる。例えば、本願発明のタンパク質は、気管支喘息、好酸球性中耳炎、好酸球性副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、食物アレルギー、ダニアレルギー疾患、蕁麻疹、アナフィラキシーショック等のI型アレルギーが関与する疾患等の予防又は治療薬として有用である。
【0042】
本発明のタンパク質は、IgEに対する優れた親和性を有する。そのため、抗体薬物複合体(ADC)のように、本発明のタンパク質は、その親和性を利用した「タンパク質−薬物複合体」としても使用することもできる。例えば、「Protein 1−薬物」、「Protein 1−リンカー−薬物」等の使用態様が挙げられる。薬物としては抗アレルギー剤等を用いることができ、複合体は当該技術分野の当業者にとって周知の方法で作製することができる。
【0043】
本発明の医薬組成物は、用法に応じ種々の剤型のものが使用される。例えば、経口剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等が挙げられる。非経口剤としては、注射剤、吸入粉末剤、吸入液剤、点眼剤、液剤、ローション剤、スプレー剤、点鼻剤、点滴剤、軟膏剤、坐剤、貼付剤等を挙げることができる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、用法に応じ種々の投与方法が用いられる。例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、局所投与、筋肉内投与等が挙げられる。
【0045】
本発明の医薬組成物は、本発明のタンパク質及び少なくとも1つの医薬品添加物を用いて調製される。本発明の医薬組成物は、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により調製することができる。例えば、医薬品添加物としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物が挙げられる。前記医薬品添加物には、生理食塩水、注射用水等も含まれる。本発明の医薬組成物は、前記医薬品添加物と混合、希釈又は溶解することにより調製することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物を予防又は治療に用いる場合、その有効成分である本発明のタンパク質の投与量は、患者の年齢、性別、体重、疾患の程度、剤型、投与経路等により、適宜決定される。成人に対する投与量は、経口投与の場合、例えば、0.1μg/kg 〜1000mg/kg/日の範囲で定めることもできる。経口投与の1日投与量は、剤型に応じて、好ましくは0.1mg/kg 〜10mg/kg/日の範囲である。1日投与量を、1回、2回又は3回に分けて投与しても良い。また、成人に対する投与量は、非経口投与の場合の0.01μg/kg 〜1000mg/kg/日範囲で定めることもできる。非経口投与の1日投与量は、剤型に応じて、好ましくは0.1μg/kg 〜10μg/kg/日、1μg/kg 〜100μg/kg/日、又は10μg/kg 〜1000μg/kg/日の範囲である。
【実施例】
【0047】
本発明の内容について、以下の実施例及び試験例により、さらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は、その内容に限定されるものでない。
【0048】
実施例1
Protein 1の発現及び調製
(1)Protein 1発現ベクターの調製
配列番号3のアミノ酸配列をコードするcDNAを、哺乳類発現プラスミドベクターに組み込んでProtein 1発現プラスミドを調製した。
【0049】
(2)Protein 1発現細胞の調製
Protein 1発現プラスミドを、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)に導入して、Protein 1の安定発現細胞株を樹立した。培養上清中へのProtein 1の分泌をSDS-PAGEにて確認した。
【0050】
試験例1
IgE結合阻害活性(IgE中和活性)
(1)アッセイプレートの調製
Protein 1をコーティング緩衝液に溶解して、マイクロプレートに一定量を添加した。4℃で18時間以上放置後、洗浄用緩衝液(PBS-Tween20)にて洗浄し、ブロッキング液(Assay Diluent)(BD Biosciences)を添加した。室温で1時間放置後にブロッキング液を除去し、洗浄用緩衝液で洗浄し、結合阻害活性測定に用いた。
【0051】
(2)結合阻害活性の測定方法
陽性対照としてomalizumab(抗ヒトIgE抗体)を用いて、Protein 1のIgE結合阻害活性を以下の方法で測定した。
【0052】
一定量のヒトIgE(ANTIBODYSHOP)と任意の濃度のProtein 1またはomalizumab(Novartis)を混合して、上記(1)で調製したプレートに添加して室温にて約2時間放置した。混合液を廃棄後、洗浄用緩衝液で洗浄し、HRP標識抗ヒトIgE抗体(BD Biosciences)を添加し、室温にて約1時間放置した。抗体液を廃棄後、洗浄用緩衝液を用いて洗浄した。TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加し、一定時間後にリン酸を加えて発色反応を停止した。その後、プレートリーダーを用いて吸光度(OD450)を測定した。プレートに固定したProtein 1に結合した IgE量よりProtein 1 およびomalizumabのIgE結合阻害活性(IgE中和活性)を評価した(
図1)。
【0053】
(3)結果
本発明のProtein 1は、IgEのFCER1Aへの結合を濃度依存的に阻害した。
【0054】
試験例2
低pHにおける安定性試験
(1)サンプルの調製
精製操作はAKTA Explorer 10 S(GEヘルスケア)を用いて実施した。実施例1記載の方法と同様の方法によりProtein 1を発現し、その培養上清をD-PBS(-)(Dulbecco's Phosphate Buffered Saline)で2倍希釈し、HiTrap rProtein A FF(GEヘルスケア、17-5079-01)に負荷した。前記カラムをD-PBS(-)で洗浄後、100mMグリシン塩酸緩衝液(pH2.2)で溶出し、プロテインA吸着フラクションを1.0mL/tubeで分取した。ピークフラクションを混合し低pH処理サンプル(pH2.9)とした。前記低pH処理サンプルを4℃で保存したものを評価用サンプルとした。評価用サンプルから所定の時間(4℃保存から5日〜12日後)に0.25mLのサンプリングを行い、0.05mLの1M トリス塩酸緩衝液(pH9.0)を加えて中和し、中和処理サンプルを得た。
【0055】
比較対照として、非特許文献3記載のFusion protein Aを用いた。実施例1と同様の方法によりFusion protein Aを発現し、上記方法と同様の方法により、中和処理サンプルを得た。なお、本試験に用いたFusion protein Aは、以下の配列番号4のアミノ酸配列で表されるタンパク質である。配列番号4のアミノ酸配列は、第180番目のAspから第188番目のCysからなるリンカーフラグメントを含み、該リンカーフラグメントに含まれるCysの数は2個である。
配列番号4:
VPQKPKVSLNPPWNRIFKGENVTLTCNGNNFFEVSSTKWFHNGSLSEETNSSLNIVNAKFEDSGEYKCQHQQVNESEPVYLEVFSDWLLLQASAEVVMEGQPLFLRCHGWRNWDVYKVIYYKDGEALKYWYENHNISITNATVEDSGTYYCTGKVWQLDYESEPLNITVIKAPREKYWLDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0056】
(2)凝集体含量の解析方法
凝集体の解析操作はAKTA Explorer 10 S(GEヘルスケア)を用い、移動相をD-PBS(-)としてSuperdex200 10/300GL(GEヘルスケア、17-5175-01)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより確認した。溶出位置が単量体であるピークと、高分子領域に溶出される凝集体ピークについての面積を算出し、Protein 1及びFusion protein Aの低pH処理に対する凝集体含有率変化(%)の推移を評価した(
図2)。
【0057】
(3)結果
本発明のタンパク質は、Fusion protein Aに比べ低pH処理時間に伴う凝集体形成の増加量が大幅に少なく、低pH暴露に対する高い安定性を示した。したがって、本発明のタンパク質は低pHにおける安定性に優れ、製造プロセスおいて精製効率や生産性の向上が期待される。
【0058】
試験例3
熱に対する安定性試験
(1)サンプルの調製
精製操作はAKTA Explorer 10 S(GEヘルスケア)を用いて実施した。実施例1記載の方法と同様の方法によりProtein 1を発現し、その培養上清をHiTrap MabSelect SuRe(GEヘルスケア、17-0034-94)に負荷した。前記カラムをD-PBS(-)及び100mM クエン酸緩衝液(pH4.0)で洗浄後、プロテインA吸着物を100mMグリシン塩酸緩衝液(pH3.3)で溶出した。回収したフラクションに1/10容量の1M トリス塩酸緩衝液(pH9.0)を加えて中和し、プロテインA精製タンパク質を得た。このプロテインA精製タンパク質を1 N HClでpH4.0に調整し、疎水性相互作用と陽イオン交換のミックス-モード樹脂を充填したカラムに負荷した。50mM 酢酸緩衝液(pH4.0)で非吸着タンパク質を洗浄後、50mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0)への100%リニアグラジエント溶出を行い、ピークフラクションを回収して精製タンパク質を得た。得られたタンパク質を、移動相をD-PBS(-)としてHiLoad 16/60 Superdex200 prep grade(GEヘルスケア、17-1069-01)を用い、ゲル濾過分画を行った。単量体に相当するピークフラクションを回収してゲル濾過精製サンプルを得た。このゲル濾過精製サンプルについてD-PBS(-)で再調製してマイクロチューブに分注し、37℃でインキュベーションしたものを評価用サンプルとした。評価用サンプルから所定の時間(37℃保存から1日〜7日後)にサンプリングを行い、熱処理サンプルを得た。
【0059】
比較対照として、非特許文献3記載のFusion protein Aを用いた。実施例1と同様の方法によりFusion protein Aを発現し、上記方法と同様の方法により熱処理サンプルを得た。なお、試験に用いたFusion protein Aは、試験例2で用いたタンパク質と同じアミノ酸配列のタンパク質である。
【0060】
(2)凝集体含有量の解析方法
凝集体の解析操作はAKTA Explorer 10 S(GEヘルスケア)を用い、移動相をD-PBS(-)としてSuperdex200 10/300GL(GEヘルスケア、17-5175-01)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより確認した。溶出位置が単量体であるピークと、高分子領域に溶出される凝集体ピークについての面積を算出し、Protein 1及びFusion protein Aの熱処理における凝集体含有率変化(%)の推移を評価した(
図3)。
【0061】
(3)結果
本発明のタンパク質は、Fusion protein Aに比べ37℃保存での凝集体含量の増加が少なく、37℃暴露に対してより安定であることを示した。したがって、本発明のタンパク質は、低pHにおける安定性に加え、熱に対する安定性にも優れ、製造プロセスおいて精製効率や生産性の向上が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のタンパク質は、IgEに対する優れた中和活性を有するので、IgEが介在する種々の疾患の予防又は治療用のタンパク質医薬品として使用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0063】
配列番号2 合成
【0064】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]