特許第6192887号(P6192887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192887
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】レーザー光を用いた接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20170828BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20170828BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20170828BHJP
   B29C 65/72 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B29C65/16
   B23K26/21 G
   B29C65/48
   B29C65/72
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-173890(P2010-173890)
(22)【出願日】2010年8月2日
(65)【公開番号】特開2012-30560(P2012-30560A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年5月16日
【審判番号】不服2015-20600(P2015-20600/J1)
【審判請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 功作
(72)【発明者】
【氏名】村上 博文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和也
【合議体】
【審判長】 加藤 友也
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 守安 智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−119239(JP,A)
【文献】 特開2005−119051(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044349(WO,A1)
【文献】 特開2007−231088(JP,A)
【文献】 特開2003−128941(JP,A)
【文献】 特開平9−95657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C63/00-65/82
B23K26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を透過させる第1部材の凹凸形状を有する接合面と、該第1部材と同種又は異種材料からなる第2部材の上記凹凸形状に嵌まる凹凸形状を有する接合面とをレーザー光を用いて接合する接合方法において、
熱可塑性エラストマーをトルエンに溶解させてカーボンブラックを分散させた流動性を有するレーザー接合剤を、流動性を有している状態でディスペンサーによって上記第1部材及び上記第2部材の少なくとも一方の接合面に付着させた後、該レーザー接合剤が流動性を有しているうちに、上記第1部材の上記接合面及び上記第2部材の上記接合面を重ね合わせて該第1部材の上記凹凸形状に該第2部材の上記凹凸形状を嵌め、上記レーザー接合剤を上記両接合面間で均一厚さにしてから固化させ、
その後、上記第1部材側からレーザー光を照射して上記レーザー接合剤を発熱させ、上記第1部材と上記第2部材とを上記レーザー接合剤を介して接合することを特徴とするレーザー光を用いた接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて第1部材と第2部材とを接合する接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、樹脂材からなる第1及び第2部材を接合する方法として、レーザー光の照射による接合方法が広く用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1〜3に開示されている接合方法では、レーザー光を透過する第1部材と第2部材との間に、レーザー光の照射に先立ってレーザー接合用中間部材を介在させる。その後、第1部材側からレーザー光を照射することによってレーザー接合用中間部材を加熱して溶融又は軟化させ、この中間部材によって第1部材及び第2部材を接合するようにしている。
【0004】
特許文献1のレーザー接合用中間部材は、エラストマーからなるものである。このレーザー接合用中間部材を用いることで、接合界面に生じる応力を低減させることができる点で有効である。
【0005】
特許文献2のレーザー接合用中間部材は、多層シートからなるものである。このレーザー接合用中間部材を用いることで、種々の材料を簡便に接合できる点で有効である。
【0006】
特許文献3のレーザー接合用中間部材は、粘着性を有している。このレーザー接合用中間部材を用いることで、接合前における第1及び第2部材の仮固定が可能になるとともに、接合強度を高くすることができる点で有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−7584号公報
【特許文献2】特開2009−173023号公報
【特許文献3】国際公開第2008/044349号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のように第1及び第2部材の間にレーザー接合用中間部材を介在させることで様々なメリットがあるので、その適用範囲を拡大させたい。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3のレーザー接合用中間部材は、予めシート状に加工されており、第1及び第2部材の接合面に沿わせて接合面全体に密着させるのが困難な場合が考えられる。
【0010】
すなわち、第1及び第2部材の接合面は常に平坦であるとは限らず、製品によっては、接合面が湾曲又は屈曲していたり、接合面が深く窪んだ形状や突出した形状になっていることがある。接合面がこのような複雑な形状である場合には、シート状のレーザー接合用中間部材を配置して第1及び第2部材を積層しても、レーザー接合用中間部材が接合面にきれいに沿わずに、接合面とレーザー接合用中間部材との間に隙間ができるおそれがある。また、製品によっては第1及び第2部材の隙間が極めて狭い場合もある。この場合にもレーザー接合用中間部材を狙い通り配置するのが困難であり、このため、接合面とレーザー接合用中間部材との間に隙間ができるおそれがある。
【0011】
上述のように第1及び第2部材の接合面と中間部材との間に隙間ができると、接合不良が起こって接合強度が低下してしまう。また、シール性が必要な部分を接合する場合に接合不良が起こるとシール性を確保できず問題となる。
【0012】
つまり、レーザー接合用中間部材を用いた接合方法は様々な点で有効であるにもかかわらず、上記した問題点があるため適用範囲が限定されていた。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1及び第2部材の接合面の形状が複雑な場合や、第1及び第2部材の接合面間の隙間が狭い場合であっても、接合強度を向上させるとともに、シール性が必要な場合に確実にシールできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、流動性を有するレーザー接合剤を用いるようにした。
【0015】
第1の発明は、レーザー光を透過させる第1部材の凹凸形状を有する接合面と、該第1部材と同種又は異種材料からなる第2部材の上記凹凸形状に嵌まる凹凸形状を有する接合面とをレーザー光を用いて接合する接合方法において、熱可塑性エラストマーをトルエンに溶解させてカーボンブラックを分散させた流動性を有するレーザー接合剤を、流動性を有している状態でディスペンサーによって上記第1部材及び上記第2部材の少なくとも一方の接合面に付着させた後、該レーザー接合剤が流動性を有しているうちに、上記第1部材の上記接合面及び上記第2部材の上記接合面を重ね合わせて該第1部材の上記凹凸形状に該第2部材の上記凹凸形状を嵌め、上記レーザー接合剤を上記両接合面間で均一厚さにしてから固化させ、その後、上記第1部材側からレーザー光を照射して上記レーザー接合剤を発熱させ、上記第1部材と上記第2部材とを上記レーザー接合剤を介して接合することを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、レーザー接合剤が流動性を有しているので、形状の複雑な接合面に塗布した場合に、レーザー接合剤を流動させて接合面の全体に容易に付着させることが可能になる。また、第1及び第2部材の接合面の隙間が狭い場合には、レーザー接合剤が流動してその隙間に対応するように広がって接合面の全体に行き亘る。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、レーザー接合剤が流動性を有しているので、接合面の形状が複雑である場合や、第1及び第2部材の接合面間の隙間が狭い場合に、レーザー接合剤を接合面の全体に付着させることができる。これにより、接合強度を十分に高めることができるとともに、シール性が必要な接合部分では高いシール性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態にかかるレーザー光を用いた接合方法により接合された接合品の断面図である。
図2】(a)は第2部材にレーザー接合剤を塗布する工程を示し、(b)は第1部材と第2部材とを積層する工程を示す図である。
図3】(a)は接合面の形状が複雑な場合の図2相当図であり、(b)は図1相当図である。
図4】参考例1の説明図であり、(a)は第2部材にレーザー接合剤を塗布した直後の状態を示し、(b)は第1部材と第2部材とを重ね合わせた状態を示すものである。
図5】参考例4の説明図であり、(a)は図4(a)相当図であり、(b)は図4(b)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかるレーザー光を用いた接合方法により製造された接合品Aの断面図である。
【0021】
接合品Aは、第1部材1と第2部材2とを備え、第1及び第2部材1,2をレーザー接合用中間物3を介して接合してなるものである。この接合品Aは、例えば、化粧品用ケース、電気製品のケースやカバー、自動車部品、建設部材等に用いられるものである。
【0022】
第1部材1は、レーザー光を通すレーザー光透過性を有する材料で構成された板状の部材である。レーザー光透過性とは、加熱源としてのレーザー光を殆ど反射も吸収もせずに透過させるか、レーザー光を一部透過及び/又は反射しても溶融することなく、残りのレーザー光を透過させることのできる性質をいい、レーザー光の全てを透過させるものも含む。図2(b)に示すように、第1部材1の下面には、略平坦な接合面1aが設けられている。
【0023】
第1部材1は、例えば熱可塑性樹脂である。第1部材1を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルニトリルブチレンスチレン共重合、アクリルニトリルブチレン共重合、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0024】
第2部材2は、レーザー光を透過する、またはレーザー光を通さないレーザー光非透過性を有する材料で構成された板状の部材である。レーザー光非透過性とは、レーザー光を吸収するレーザー光吸収性のことであり、加熱源としてのレーザー光を一部透過及び/又は反射しても残りを吸収する性質をいい、レーザー光の全てを吸収するものも含む。このような性質を持つ材料としては、例えば、金属、セラミックスの他、樹脂やゴムに顔料や染料を混合した材料もある。レーザー光非光透過性としては、例えば、波長940nmのレーザー光の透過率が15%未満であることが好ましい。第2部材2の上面には、上記第1部材1の接合面1aに対応する略平坦な接合面2a(図2(a)参照)が設けられている。
【0025】
本実施形態では、第2部材2は樹脂材料で構成されている。第2部材2を構成する樹脂材料としては、レーザー吸収性の成分を含んでいても含まなくてもよく、一般的な樹脂、例えば、熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルニトリルブチレンスチレン共重合、アクリルニトリルブチレン共重合、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。その他、レーザー接合剤3による接合強度が得られれば上記以外の材料であってもよく、例えば、金属や金属酸化物、ガラスや磁器等であってもよい。
【0026】
レーザー接合剤3は、第1部材1や第2部材2に付着する前において流動性を有している。レーザー接合剤3が流動性を有していることで、例えば刷毛、筆やディスペンサー、噴霧装置等で第1部材1の接合面1aや第2部材2の接合面2aに付着させることが可能である。レーザー接合剤3の粘度は、高すぎると接合面1a,2aへの塗布作業が難しくなるとともに広がりにくくなるので、塗布作業が容易に行え、かつ、広がり易さを確保できる程度の粘度であることが好ましい。
【0027】
レーザー接合剤3は、ホットメルト接着剤を加熱して溶融、流動化させた状態のものや、ホットメルト接着剤を溶剤に溶かした溶液(溶剤溶解型)を含んでおり、これらのうち、一方のみでレーザー接合剤3を構成してもよいし、両方でレーザー接合剤3を構成してもよい。
【0028】
ホットメルト接着剤は、第1部材1及び第2部材2への接着性を有している。また、ホットメルト接着剤を溶融、流動化させたものは、常温になれば固化する。また、溶剤溶解型の場合、溶剤は揮発性を有しており、第1部材1や第2部材2に塗布した後、しばらくすると蒸発する。
【0029】
ホットメルト接着剤または溶剤溶解の接着成分は熱可塑性で第1部材1、第2部材2に接着もしくはお互いの樹脂が溶融接合する接着成分であれば問題なく使用できる。
【0030】
接着成分として使用できる樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリエチレン(HDPE、LDPE、LLDPE、VLDPE、ULDPE、UHDPE、Polyethylene)、ポリプロピレン(PP Co-Polymer、PP Homo-Polymer、PP Ter-Polymer)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、K-レジン、SBS樹脂(SBS block co-polymer)、PVDC樹脂、EVA樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド(PA、PA6、PA66、PA46、PA610、PA612、PA6/66、PA6/12、PA6T、PA12、PA1212、PAMXD6)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフ夕レート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエチレンナフタリン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリチオエチルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン及びポリエーテルイミド、などである。
【0031】
その他、極性官能基が化学的に結合した変性樹脂であってもよく、具体的には、アクリル酸変性オレフィン樹脂、マレイン酸変性オレフィン樹脂、塩化変性オレフィン樹脂(CPP、CPE)、シラン変性オレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン変性オレフィン樹脂、エポキシ変性樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂(EVOH)、エチレンビニールアセテート樹脂、ホットメルト接着樹脂などの樹脂が挙げられ、これらと上記熱可塑性樹脂の混合物または組合物であってもよい。
【0032】
また、熱可塑性エラストマーであってもよく、具体的には、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、塩ビ系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、イソプレン系エラストマー、イオンクラスターと非晶性PE系のエラストマー、塩素化PEと非晶性PE系のエラストマー、フッ素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー等が挙げられる。
【0033】
樹脂の他に、レーザー光を吸収するレーザー光吸収剤が混合されている。レーザー光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、有機顔料、染料等であるが、これに限られるものではない。
【0034】
次に、上記第1部材1及び第2部材2の接合方法について説明する。本方法に用いられるレーザー接合装置は、図示しないが、レーザー発振器、ヘッド、制御装置等を備えており、レーザー発振器及びヘッドは制御装置により制御され、所望出力のレーザー光を走査できるようになっている。レーザー光の出力、走査速度、フォーカスは任意に調整することが可能である。
【0035】
まず、図2(a)に示すように、第2部材2の接合面2aにレーザー接合剤3を付着させる。この実施形態では、レーザー接合剤3を刷毛や筆で接合面2aに塗布するようにしているが、これに限らず、例えば、スプレーノズルを備えた噴霧装置で噴霧させることによって付着させるようにしてもよいし、ディスペンサーで付着させても、スポンジローラー等を用いて塗布してもよく、付着させる方法は特に限定されない。
【0036】
その後、図2(b)に示すように、第1部材1を第2部材2に積層する。第1部材1を第2部材2に積層するタイミングとしては、レーザー接合剤3がホットメルト接着剤の場合は、加熱溶融した状態であってもよいし、冷却されて固化した状態であってもよい。レーザー接合剤3が溶剤溶解型の場合は、レーザー接合剤3の溶剤成分が完全に蒸発した状態である。
【0037】
第1部材1を第2部材2に積層すると、レーザー接合剤3が第1部材1の接合面1aと第2部材2の接合面2aとで上下方向に圧縮力を受ける。このとき、レーザー接合剤3がホットメルト接着剤を加熱溶融したものの場合は流動性を失っていないので、このような圧縮力を受けたレーザー接合剤3は、接合面1a,2aに沿って広がり、このことにより接合面1a,2aの全体に略均一に行き渡る。
【0038】
レーザー接合剤3が溶剤溶解型の場合も、第2部材2の形状に沿った形で塗布されて乾燥するため、第2部材2から剥がれて問題になることはない。
【0039】
しかる後、第1部材1側からレーザー光L(図1に一点鎖線で示す)を照射する。
【0040】
レーザー光Lは、第1部材1に僅かに吸収されるが大部分が第1部材1を通過し、レーザー吸収剤が含まれるレーザー接合剤3で吸収され発熱する。このレーザー接合剤3は発熱により溶融し、ホットメルト接着剤として、または第1部材1と第2部材2とが共に溶融しあった後、冷却されることにより、第1部材1と第2部材2とが接合される。
【0041】
上記のようにして接合された接合品Aは、レーザー接合剤3が接合面1a,2aの全体に行き渡っているので、全面が接合している。これにより、接合強度が十分に高まる。また、第1部材1と第2部材2との間にシール性が必要な場合には、高いシール性が確保される。
【0042】
また、第1部材1及び第2部材2の接合面1a,2aの隙間が例えば数十μm程度で狭い場合がある。この場合、従来のシート状の中間物では、薄くなって破れが生じ易くなり、その結果、接合面1a,2aの全体に中間物を配置できないことが考えられる。これに対し、本実施形態では、レーザー接合剤3は、塗布する時には流動性を有しているので、積層する前に塗布しておくだけで、数十μm程度の狭い隙間であっても全体に容易に行き渡らせることが可能になる。よって、上記したように接合強度が十分に高まるとともに、シール性が必要な場合に高いシール性が確保される。
【0043】
また、図3に示すように、第1部材1及び第2部材2の接合面1a、2aに凹部、凸部、角部等が形成されていて、接合面1a,2aの形状が複雑な場合がある。このような場合でも、上記したようにレーザー接合剤3を接合面2aに塗布することで、接合面2aの全体に行き渡らせることができる。このとき、レーザー接合剤3が流動性を有しているので同図に示すように凹部に溜まるようになる場合が想定されるが、第1部材1と第2部材2とを積層することで、凹部に溜まったレーザー接合剤3を略均等に分散させることが可能になる。
【0044】
以上説明したように、この実施形態によれば、第2部材2の接合面2aに流動性を有するレーザー接合剤3を付着させるようにしたので、第1部材1及び第2部材2の接合面1a,2aの間の隙間が狭い場合であっても、接合面1a,2aの形状が複雑な場合であっても、レーザー接合剤3を接合面1a,2aの全体に付着させることができる。これにより、接合強度を十分に高めることができるとともに、シール性が必要な接合部分では高いシール性を確保できる。
【0045】
また、レーザー接合剤3がホットメルト接着剤を含んでいるので、このホットメルト接着剤を第1及び第2部材1,2の接合面1a,2aの全体に行き渡らせることが可能になる。よって、接合面1a,2aの全体に亘って高い接合強度が得られる。
【0046】
また、上記実施形態では、レーザー接合剤3にホットメルト接着剤を含ませているが、これに限らず、例えば、第1部材1と第2部材2との少なくとも一方に接着する接着性を有する樹脂が溶解した溶液を含むものとしてもよい。
【0047】
また、レーザー接合剤3は、第1部材1と第2部材2との少なくとも一方に接着する接着性を有する樹脂が分散したエマルジョンであってもよい。
【0048】
エマルジョンとしては、例えば、酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル系、酢酸ビニル共重合系、スチレン系、スチレン/アクリル系、スチレン/ブタジエン系、アクリル系、エポキシエステル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、スチレン/ブタジエン系、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン系、ブタジエン系、イソプレン系、アクリロニトリル/ブタジエン系等のエマルジョンを用いることができ、また、必要によりレーザー吸収剤としてのカーボンブラック、有機顔料、有機染料等を加えることができる。
【0049】
これら場合も、上記したように接着性を有する樹脂を接合面1a,2aの全体に行き渡らせることが可能になるので、接合面1a,2aの全体に亘って高い接合強度が得られる。
【0050】
また、本発明は板材のレーザー接合に限られるものではなく、例えば、管部材同士のレーザー接合、筒状容器と蓋とのレーザー接合等に適用することが可能である。上記したように本発明によれば高いシール性が得られるので、特に適しているのは、気密性及び液密性が要求されるものである。
【0051】
また、レーザー接合剤3には、溶剤の揮発後に弾性を持たせるためのエラストマーを含ませてもよいし、第1部材1や第2部材2へ粘着する粘着性を持たせるための粘着付与剤を含ませてもよい。
【0052】
また、レーザー接合剤3には、レーザー光の吸収性を持たせるようにしてもよい。これにより、レーザー光Lを照射した際にレーザー接合剤3を直接加熱することができる。
【0053】
また、レーザー接合剤3は、第2部材2の接合面2aに塗布してもよいし、第1部材1の接合面1a及び第2部材2の接合面2aの両方に塗布してもよい。
【0054】
また、レーザー接合剤3は、積層した状態にある第1及び第2部材1,2の接合面1a,2a間に注入器等を用いて注入するようにしてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0056】
(参考例1)
第1部材1及び第2部材2は、アクリル樹脂製の同じ板材であり、幅25mm、長さ60mm、厚さ2mmである。
【0057】
レーザー接合剤3は、アクリル系熱可塑性エラストマー(株式会社クラレ製のLA2140E)がベース剤であり、これにカーボンブラックを分散させた。カーボンブラックの量は、0.5重量%である。
【0058】
上記レーザー接合剤3は、150℃に加熱して溶融状態を保ち、市販のディスペンサーに入れた。図4(a)に示すように、ディスペンサーのレーザー接合剤3を、第2部材2の短辺に沿うように線状に吐出させ、溶融状態のうちに、図4(b)に示すように第2部材2の上に第1部材1を重ね合わせた。そして、第1部材1を第2部材2へ指で強く押圧して固定した。
【0059】
指での押圧後に冷却固化したレーザー接合剤3を第1部材1と第2部材2とで挟んだまま、クランプ具を用いて両部材1,2にクランプ圧0.4MPaをかけた。このときのレーザー接合剤3の厚みは20μmであった。
【0060】
次に、レーザー光Lを第1部材1側からレーザー接合剤3に対応する部分に照射した。レーザー光Lは半導体レーザーであり、波長は940nm、出力は30W、走査速度は1.2m/minである。フォーカスは、レーザー接合剤3よりも5mmだけ先(図4の下側)に設定した。これにより、レーザー接合剤3に照射されたレーザー光Lの幅は3mmとなった。レーザー光Lの軌跡を仮想線で示す。
【0061】
レーザー光Lの照射後、常温まで冷却した後に、接合強度の試験を行った。試験方法は、第1部材1及び第2部材2を、接合面の剪断方向で、かつ、レーザー光Lの走査方向と直交する方向(図4(b)に白抜きの矢印で示す方向)に引張力(引張速度5mm/min)を加えた。この試験方法によれば、1800Nの引張力を加えたときに第1部材1及び第2部材2が破壊した。つまり、レーザー接合剤3による接合力は十分に実用に耐え得る程度に強力なものであった。
【0062】
(参考例2)
参考例2は、参考例1と同様にクランプ圧0.4MPaをかけた状態でレーザー接合剤3の厚みが30μmとなるようにレーザー接合剤3を塗布した。他は参考例1と同様である。
【0063】
参考例1と同様な試験方法により接合強度を測定すると、1700Nの引張力を加えたときに第1部材1が第2部材2から剥がれた。この参考例2においても、十分に実用に耐え得る程度に強力な接合力が得られた。
(参考例3)
参考例1との相違点は、第1部材1及び第2部材2の形状だけであり、図3に示す複雑な接合面1a,2aを持つ形状とした。各条件は参考例1と同様である。
【0064】
参考例1と同様な試験方法により接合強度を測定すると、2000Nの引張力を加えたときに第1部材1及び第2部材2が破壊した。つまり、レーザー接合剤3による接合力は十分に実用に耐え得る程度に強力なものであった。
【0065】
(参考例4)
第2部材2は、100mm×100mmの正方形で厚み2mmの板材の表面に、幅1mmで高さ1mmの側壁2bを設けたものとした。これはアクリル樹脂製である。第1部材1も同様である。
【0066】
第2部材2の側壁2bの先端面にレーザー接合剤3を参考例1と同様に塗布した。そして、第1部材1の側壁1bの先端と第2部材2の側壁2bの先端とを突き合わせてクランプした。
【0067】
その後、第1部材1側から側壁1bに沿うようにレーザー光Lを照射した。レーザー光Lの軌跡を仮想線で示す。
【0068】
このようにして密閉容器が得られ、これを水中に24時間沈めた。水深は1mである。回収後、内部を観察すると水の浸入は見られなかった。つまり、非常に高い水密性が得られた。また、接合強度については十分な強度であった。
【0069】
(参考例5)
第1部材1は参考例1と同サイズのポリカーボネート(三菱樹脂株式会社製ステラS300)製板材とした。他は参考例1と同様である。
【0070】
参考例1と同様な試験方法により接合強度を測定すると、1600Nの引張力を加えたときに第1部材1が第2部材2から剥がれた。この参考例5においても、十分に実用に耐え得る程度に強力な接合力が得られた。
【0071】
(実施例1)
実施例1では、レーザー接合剤3を溶剤溶解型とした。すなわち、SEBS系(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)熱可塑性エラストマー(旭化成ケミカルズ株式会社製タフテックH104)と、トルエンと、カーボンブラックとでレーザー接合剤3を作った。カーボンブラックは、3本ローラー等を用いて予めトルエンに分散させた。このカーボンブラックは、0.5重量%となるように、上記エラストマーに添加した。そして、上記エラストマー及びカーボンブラックを、固形成分が40重量%となるようにトルエンに分散溶解させた。
【0072】
第1部材1及び第2部材2は、参考例1と同サイズのポリプロピレン(共栄産業株式会社製PX−2)製の板材とした。
【0073】
レーザー接合剤3は筆を用いて参考例1と同一部位に塗布した。塗布幅は10mmである。その後、第1部材1及び第2部材2を重ね合わせてクランプ圧0.4MPaでクランプし、参考例1と同様にレーザー光Lを照射した。
【0074】
参考例1と同様な試験方法により接合強度を測定すると、1800Nの引張力を加えたときに第1部材1が第2部材2から剥がれた。この実施例1においても、十分に実用に耐え得る程度に強力な接合力が得られた。
【0075】
(参考例6)
参考例6では、レーザー接合剤3をエマルジョンとした。すなわち、アクリル・スチレンエマルジョン(東洋インキ株式会社製TOCRYLPEX−379 固形分50%)である。
【0076】
第1部材1及び第2部材2は、参考例1と同サイズのABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)(三菱樹脂株式会社製ヒシプレートY−208)製の板材とした。
【0077】
レーザー接合剤3は筆を用いて参考例1と同一部位に塗布した。塗布幅は10mmである。
【0078】
レーザー接合剤3が乾燥固化した後、第1部材1及び第2部材2を重ね合わせてクランプ圧0.4MPaでクランプし、参考例1と同様にレーザー光Lを照射した。
【0079】
参考例1と同様な試験方法により接合強度を測定すると、1600Nの引張力を加えたときに第1部材1が第2部材2から剥がれた。この参考例6においても、十分に実用に耐え得る程度に強力な接合力が得られた。
【0080】
以上のように、本発明によれば、様々な素材を十分な強度で接合することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明にかかるレーザー光を用いた接合方法は、例えば、板材や管部材等を接合する場合に適している。
【符号の説明】
【0082】
1 第1部材
1a 接合面
2 第2部材
2a 接合面
3 レーザー接合剤
A 接合品
L レーザー光
図1
図2
図3
図4
図5