特許第6192894号(P6192894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アツミテックの特許一覧

特許6192894多元系のナノ粒子膜形成装置及びこれを用いたナノ粒子膜形成方法
<>
  • 特許6192894-多元系のナノ粒子膜形成装置及びこれを用いたナノ粒子膜形成方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192894
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】多元系のナノ粒子膜形成装置及びこれを用いたナノ粒子膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20170828BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170828BHJP
【FI】
   C23C14/00 A
   B82Y40/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-65703(P2012-65703)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-194312(P2013-194312A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年2月20日
【審判番号】不服2016-7514(P2016-7514/J1)
【審判請求日】2016年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】391064005
【氏名又は名称】株式会社アツミテック
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】内山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金井 友美
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 宮澤 尚之
【審判官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−297361(JP,A)
【文献】 特開平05−339720(JP,A)
【文献】 特開平02−125866(JP,A)
【文献】 B.L.Halpern,Jet Vapor Deposition of Single and Multicomponent Thin Films,Metal Finishing,1992年,37−41頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属材料が配設され、前記金属材料ごとのナノ粒子から多元系のナノ粒子が生成する生成室と、
前記多元系のナノ粒子が成膜されるべき基板が配設された成膜室と、
前記生成室と前記成膜室とを接続する連通管と、
前記成膜室を排気する排気ユニットと、
前記生成室に冷却ガスを導入する冷却ガス導入ユニットと、
前記複数の金属材料ごとに対応して前記生成室内に配設された粒子化ユニットと
を備え、
前記粒子化ユニットは、前記金属材料を覆う容器と、該容器内に配設されたヒータと、前記容器に設けられて前記ナノ粒子が流出する流出口と、前記容器に設けられて前記冷却ガスが導入される導入口とを有し、
前記金属材料ごとに前記容器内の容量及び前記流出口から前記連通管までの距離がそれぞれ異なることを特徴とする多元系のナノ粒子膜形成装置。
【請求項2】
前記冷却ガス導入ユニットと前記粒子化ユニットのそれぞれの前記導入口との間に、前記冷却ガスの導入量を前記容器ごとに調整する流量調整手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の多元系のナノ粒子膜形成装置。
【請求項3】
前記粒子化ユニットごとに前記金属材料からナノ粒子を生成するナノ粒子生成工程と、
前記生成室内で複数の前記ナノ粒子を結合させて多元系のナノ粒子を生成するナノ粒子結合工程と、
前記多元系のナノ粒子が前記連通管を通過し、前記成膜室内の前記基板に成膜する成膜工程と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の多元系のナノ粒子膜形成装置を用いた多元系のナノ粒子膜形成方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子生成工程にて、前記ヒータによる加熱温度及び前記容器内に導入される前記冷却ガスの導入量は、前記粒子化ユニット内に配された前記金属材料ごとに異なるように調整されることを特徴とする請求項3に記載の多元系のナノ粒子膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多元系のナノ粒子膜形成装置及びこれを用いたナノ粒子膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超微粒子膜形成方法及び超微粒子膜形成装置が特許文献1に記載されている。この装置は、材料から蒸気原子を発生させ、これを不活性ガスとともに搬送管を移動させて基板に超微粒子膜を形成するものである。このような粒子膜形成装置及び方法を一般的な表現で換言すると、チャンバを上下に設置して細管でこれらを連通させる。そして、上部チャンバを真空引きして下部チャンバに冷却ガスを流す。そして、蒸発した金属が冷却されるとともに、圧力差により上部チャンバに移動する。そして、上部チャンバの基板に粒子状態で捕集される。冷却ガスは例えばヘリウムやアルゴンガスであり、これを流すことで粒子が移動中の凝集や粒成長を防いでいる。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の装置を用いて複数の金属材料を蒸発させて多元系の金属ナノ粒子として基板に成膜しようとした場合、金属材料の種類により蒸発圧や粒子の質量が異なるため、基板に対する各金属粒子の集積率や集積量が異なってしまう。例えばMgとNiの材料を下部チャンバに並べて同条件にて蒸発させた場合、Mgは蒸発圧が高いため少しの加熱で蒸発し、Niはあまり蒸発しないため、ほとんどがMgの粒子として基板に成膜されてしまう。また、金属材料の熱影響を他の金属材料に及ぼすことがあるため、高い融点の金属材料の隣に低い融点の金属材料を配置できない等、金属材料の設置位置にも制約がある。以上より、所望の多元系の金属ナノ粒子を得るためには、温度制御が困難であり、粒子径や粒子量の調整も困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-297361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、複数の金属材料ごとの蒸発圧にかかわらず、また互いの熱影響を受けないで適切な径及び量のナノ粒子を金属材料ごとに発生させることができ、基板に対して多元系のナノ粒子を成膜することができる多元系のナノ粒子膜形成装置及びこれを用いたナノ粒子膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、複数の金属材料が配設され、前記金属材料ごとのナノ粒子から多元系のナノ粒子が生成する生成室と、前記多元系のナノ粒子が成膜されるべき基板が配設された成膜室と、前記生成室と前記成膜室とを接続する連通管と、前記成膜室を排気する排気ユニットと、前記生成室に冷却ガスを導入する冷却ガス導入ユニットと、前記複数の金属材料ごとに対応して前記生成室内に配設された粒子化ユニットとを備え、前記粒子化ユニットは、前記金属材料を覆う容器と、該容器内に配設されたヒータと、前記容器に設けられて前記ナノ粒子が流出する流出口と、前記容器に設けられて前記冷却ガスが導入される導入口とを有し、前記金属材料ごとに前記容器内の容量及び前記流出口から前記連通管までの距離がそれぞれ異なることを特徴とする多元系のナノ粒子膜形成装置を提供する。
【0007】
好ましくは、前記冷却ガス導入ユニットと前記粒子化ユニットのそれぞれの前記導入口との間に、前記冷却ガスの導入量を前記容器ごとに調整する流量調整手段を更に有する。
また、本発明では、前記粒子化ユニットごとに前記金属材料からナノ粒子を生成するナノ粒子生成工程と、前記生成室内で複数の前記ナノ粒子を結合させて多元系のナノ粒子を生成するナノ粒子結合工程と、前記多元系のナノ粒子が前記連通管を通過し、前記成膜室内の前記基板に成膜する成膜工程とを備えたことを特徴とする多元系のナノ粒子膜形成装置を用いた多元系のナノ粒子膜形成方法も提供する。
【0008】
好ましくは、前記ナノ粒子生成工程にて、前記ヒータによる加熱温度及び前記容器内に導入される前記冷却ガスの導入量は、前記粒子化ユニット内に配された前記金属材料ごとに異なるように調整される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生成室に配設された金属材料ごとに独立した粒子化ユニットが設けられているので、各金属材料をそれぞれの材料ごとに適した条件で蒸発させてナノ粒子を得ることができる。したがって、複数の金属材料ごとの異なる蒸発圧にかかわらず、また互いの熱影響を受けないで適切な径及び量のナノ粒子を金属材料ごとに発生させることができ、基板に対して多元系のナノ粒子を成膜することができる。
【0010】
また、金属材料ごとに最適な容器内の容量とすれば、各金属材料の蒸発圧に適して蒸発させることができる。また、金属材料ごとに流出口から連通管までの距離を最適な距離とすれば、各金属材料の質量による速度の違いを調整できる。
また、ナノ粒子生成工程にて粒子化ユニットごとに金属材料を蒸発させてそれぞれのナノ粒子を生成させるので、各金属材料は互いの熱影響を受けず、また重さや蒸発圧の違いにかかわらずそれぞれの金属材料に適した条件でナノ粒子を発生させることができる。
【0011】
また、粒子化ユニットごとにヒータも別々に設けられ、ヒータによる加熱温度を異なるように調整するので、各金属材料に適した温度で加熱することができる。さらに、粒子化ユニットごとに冷却ガスの導入量を異なるように調整するので、各金属材料に適した冷却が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るナノ粒子膜形成装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、本発明に係るナノ粒子膜形成装置1は、生成室2と、成膜室3とを備えている。生成室2には複数の金属材料(図では3つの金属材料4a〜4c)が配設されている。生成室2は、これらの金属材料4a〜4cのナノ粒子8a〜8cが結合した多元系のナノ粒子9を生成するためのものである。この金属材料4a〜4cは例えばマグネシウムやニッケル、あるいはこれらの合金からなる金属線を用いることができる。生成室2には冷却ガス導入ユニット10が取り付けられていて、この冷却ガス導入ユニット10から冷却ガスが導入される。
【0014】
成膜室3には排気ユニット(図では真空ファン)5が取り付けられていて、この排気ユニット5により成膜室3は真空引きされる(矢印D方向)。生成室2は連通管6を介して成膜室3と接続されている。連通管6としては、例えば1/8管を用いることができる。したがって、生成室2と成膜室3との間には圧力差が生じ、この圧力差により生成室2で生成された多元系のナノ粒子9は素早く連通管6を通って成膜室3に流入する。成膜室3には基板7が配設されていて、多元系のナノ粒子9はこの基板7に成膜される。
【0015】
生成室2には、金属材料4a〜4cのそれぞれに対応して粒子化ユニット11a〜11cが配設されている。この粒子化ユニット11a〜11cは、それぞれ対応する金属材料4a〜4cを覆う容器12a〜12cを有している。各容器12a〜12cは、ナノ粒子8a〜8cが流出する流出口13a〜13cと冷却ガスが導入される導入口14a〜14cとを有し、この流出口13a〜13c及び導入口14a〜14cのみが開口されている。図では容器12a〜12cは略円錐台形状であり、上面を流出口13a〜13cとし、下面を導入口14a〜14cとしている。また、各容器12a〜12cにはそれぞれ別々にヒータ15a〜15cが配設されている。各金属材料4a〜4cは、それぞれ対応するヒータ15a〜15cによって加熱されることにより蒸発してナノ粒子8a〜8cを生成する。ヒータ15a〜15cとしては、るつぼやプラズマ発生装置等を用いることができる。
【0016】
このように、ナノ粒子膜形成装置1には、生成室2に配設された金属材料4a〜4cごとに独立した粒子化ユニット11a〜11cが設けられているので、各金属材料4a〜4cをそれぞれの材料4a〜4cごとに適した条件で蒸発させてナノ粒子8a〜8cを得ることができる。したがって、複数の金属材料4a〜4cごとの異なる蒸発圧にかかわらず、また互いの熱影響を受けないで適切な径及び量のナノ粒子8a〜8cを金属材料4a〜4cごとに発生させることができ、基板7に対して多元系のナノ粒子9を成膜することができる。
【0017】
また、容器12a〜12cの容量を金属材料4a〜4cごとに最適なものとすれば、金属材料4a〜4cごとに適した蒸発圧で蒸発させることができる。上述したように、図では、容器12a〜12cは略円錐台形状であり、径や長手方向の長さがそれぞれの容器12a〜12cごとに異なっている。蒸発圧が高い金属材料を覆う容器の容量は大きくなるように設定される。また、流出口13a〜13cから連通管6までの距離A〜Cを金属材料4a〜4cごとに最適な距離とすれば、各金属材料4a〜4cの質量による移動速度の違いを調整できる。移動速度を調整できれば、多元系のナノ粒子9としたときの組成比が調整しやすくなるというメリットがある。
【0018】
以上説明したようなナノ粒子膜形成装置1を用いたナノ粒子膜形成方法について以下に説明する。
まず、ナノ粒子生成工程を行う。この工程は、生成室2、より詳しくは各粒子化ユニット11a〜11c内で行われる。ここでは、粒子化ユニット11aを例にして説明するが、粒子化ユニット11b及び11cでも同様である。容器12a内に金属線からなる金属材料4aを配する。そして、冷却ガス導入ユニット10を駆動させて冷却ガス(ヘリウム又はアルゴンガスを含む冷却ガス)を導入口14aから容器12a内に導入するとともに、ヒータ15aにより金属材料4aを加熱する。そして、金属材料4aを蒸発させることによりナノ粒子8aを得る。このように、気相環境にてナノ粒子8aを生成するので、金属材料4aが例えばマグネシウム等の酸化されやすい金属である場合であっても、不要な酸化を防止できる。生成されたナノ粒子8aは、容器12aの流出口13aから流出する。
【0019】
このナノ粒子生成工程にて、上述したように金属材料4a〜4cごとに設けた粒子化ユニット11a〜11cを用いているので、金属材料4a〜4cごとに最適な条件でナノ粒子を生成できる。すなわち、上述したように、容器12a〜12cの容量と流出口13a〜13cから連通管6までの距離A〜Cを最適なものにすることで各金属材料4a〜4cのナノ粒子を生成できる。さらに、粒子化ユニット11a〜11cにはそれぞれ別々にヒータ15a〜15cが備わっているので、各金属材料4a〜4cに対する加熱温度を調整できるので、各金属材料4a〜4cに適した温度で加熱することができる。また、各容器12a〜12cに導入される冷却ガスの導入量を変更させることで、各金属材料4a〜4cに適した冷却が可能となる。冷却ガスの導入量の調整は、例えば導入口14a〜14cの開口面積(開口率)を容器12a〜12cごとに異ならせたり、冷却ガス導入ユニット10から容器12a〜12cに通じる導入管(不図示)を設けてここに流量調整バルブ(不図示)を設けて行う。図では矢印の大きさで冷却ガスの導入量の大小を表していて、矢印Eで表した容器12bに導入される導入量が一番大きく、その次が矢印Fで表した容器12aへの導入量であり、矢印Gで表した容器12cへの導入量が最も小さい。
【0020】
次に、ナノ粒子結合工程を行う。この工程は、生成室2で行われる。具体的には、粒子化ユニット11a〜11cで生成されたナノ粒子8a〜8cが、それぞれの容器12a〜12cの流出口13a〜13cから流出したときに互いに結合する。これにより、多元系のナノ粒子9が生成される
【0021】
次に、成膜工程を行う。ナノ粒子結合工程にて形成された多元系のナノ粒子9は成膜室3と生成室2との間の圧力差により、連通管6を通って成膜室3に流入する。そして、多元系のナノ粒子9は成膜室3内に配設された基板7に成膜される。十分に基板7に多元系のナノ粒子9が成膜されたら、基板7を交換して新たに成膜工程を行う。基板7を交換する際の基板7の移動手段は、基板7をロールで巻きながら送り出すようにしてもよいし、あるいはローラコンベヤ等の搬送装置を用いて移動させてもよい。このような移動手段で移動している基板7に成膜することも可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 ナノ粒子膜形成装置
2 生成室
3 成膜室
4a〜4c 金属材料
5 排気ユニット
6 連通管
7 基板
8a〜8c ナノ粒子
9 多元系のナノ粒子
10 冷却ガス導入ユニット
11a〜11c 粒子化ユニット
12a〜12c 容器
13a〜13c 流出口
14a〜14c 導入口
15a〜15c ヒータ
図1