特許第6192901号(P6192901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192901養生シート、型枠構成材およびコンクリート構造物の製作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192901
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】養生シート、型枠構成材およびコンクリート構造物の製作方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/10 20060101AFI20170828BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   E04G9/10 101B
   E04G21/02 104
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-145967(P2012-145967)
(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-9481(P2014-9481A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】高倉 克彦
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 秀介
(72)【発明者】
【氏名】陣内 浩
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−187260(JP,A)
【文献】 特開平01−250560(JP,A)
【文献】 特開2004−276241(JP,A)
【文献】 特開2011−056767(JP,A)
【文献】 特開2005−133307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/10
E04G 21/02
B28B 7/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊が塗着された織布により構成されている養生シートであって、
前記織布を構成する糸が、綿若しくは麻の繊維からなる糸、綿と麻の混紡糸、綿とポリエステルの混紡糸、又は、麻とポリエステルの混紡糸であり、
前記織布が、綿番手30〜80のたて糸と、綿番手30〜80のよこ糸とが平織りされてなることを特徴とする、養生シート。
【請求項2】
板材と、
前記板材の内側面を覆う脱気部と、を備える型枠構成材であって、
前記脱気部が、フィルム層と、吸気シートと、糊が塗着された織布により構成されている養生シートと、の三層構造からなることを特徴とする、型枠構成材。
【請求項3】
開口部を有した型枠を形成する工程と、
前記開口部からセメント系混合材料を流し込んで前記型枠内に充填する工程と、
請求項2に記載の型枠構成材を前記開口部の蓋として設置し、前記養生シートをコンクリート面に接触させる工程と、を備えることを特徴とする、コンクリート構造物の製作方法。
【請求項4】
開口部を有した型枠を形成する工程と、
前記開口部からセメント系混合材料を流し込んで前記型枠内に充填する工程と、
糊が塗着された織布により構成されている養生シートを前記開口部のカバーとして設置し、前記養生シートをコンクリート面に接触させる工程と、を備えるコンクリート構造物の製作方法であって、
前記織布を構成する糸が、綿若しくは麻の繊維からなる糸、綿と麻の混紡糸、綿とポリエステルの混紡糸、又は、麻とポリエステルの混紡糸であることを特徴とする、コンクリート構造物の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養生シート、型枠構成材およびコンクリート構造物の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系混合材料の一つである繊維補強セメント系混合材料は、セメント、シリカフューム、ポゾラン系反応粒子、砂などを最密充填理論に基づいて配合設計しているため、水/セメント比が20〜22%と非常に少なく、また多量に混入される繊維との分離抵抗を避けるために高い分離抵抗性を保有している。そのため、繊維補強セメント系混合材料には、混練り終了後においてもエントラップドエアーが残存してしまう。
【0003】
このような繊維補強セメント系混合材料は、図4に示すように、養生中に材料内部に残存していた空気(エントラップドエアー)Aが上昇して型枠下面に残り、脱型後には部材表面にクレーター状に気泡が残ってしまう傾向にある。
【0004】
そのため、本出願人は、特許文献1に示すように、部材表面に上昇した気泡を除去することで、平滑な仕上がり面を作ることを目的として、板材と、板材の表面に備えたフィルム層、吸気シートおよび穴あきフィルム層の三層構造からなる脱気シートとからなる型枠構成材と、この型枠構成材を使用したコンクリート構造物の製作方法を開発した。
この脱気シートでは、穴あきフィルム層として、ポリエステル系樹脂などからなるシートに微細な穴が複数形成されたものを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−133307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、穴あきフィルム層を備える脱気シートにより部材表面の気泡の脱気を行っているものの、穴あきフィルム層は、シート全体の面積に対して、脱気用の穴が形成されている部分の面積の割合が小さいため、気泡の脱気が不十分となり、部材表面にクレーター状に表面気泡が残ってしまう場合があった。
また、孔あきフィルム層は、強度が弱く、脱型時に破損して部材表面に残存してしまう場合があった。孔あきフィルム層の破片が部材表面に残存すると、その撤去作業に手間を要していた。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、コンクリート構造物の製作において、密実で平滑な仕上がり面を簡易に作ることを可能とした養生シート、型枠構成材およびコンクリート構造物の製作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の養生シートは、糊が塗着された平坦な織布により構成されている養生シートであって、前記織布を構成する糸が、綿若しくは麻の繊維からなる糸、綿と麻の混紡糸、綿とポリエステルの混紡糸、又は、麻とポリエステルの混紡糸であり、前記織布が、綿番手30〜80のたて糸と綿番手30〜80のよこ糸とが平織りされてなることを特徴としている。
【0009】
かかる養生シートによれば、通気性にすぐれているため、養生中に上昇した気泡の脱気を確実に行うことができる。
また、一定の強度を備えているため、脱型する際に、コンクリートとの付着力により破損することがなく、簡易に脱型作業を行うことができる。
【0010】
また、糊が塗着されているため、まだ固まらないコンクリート(フレッシュコンクリート)に接触してもしわが生じにくく、平滑な仕上がり面を形成することができる。
さらに、保湿、保水機能を有しているため、打設面からの水分の蒸発を抑制することができ、したがって、打設面が打設直後にこわばるようなことはなく、コンクリート部材の表面のひび割れの発生も防ぐことができる。
【0011】
前記織布を構成する糸が、綿若しくは麻の繊維からなる糸、綿と麻の混紡糸、綿とポリエステルの混紡糸、又は、麻とポリエステルの混紡糸であるため、伸縮性の低い養生シートを構成することができる。
【0012】
なお、織布が、綿番手30〜80のたて糸と、綿番手30〜80のよこ糸とが平織りされてなるものであれば、目が細かく保湿性、保水性がより優れた養生シートを構成することができる。
【0013】
また、本発明の型枠構成材は、板材と、前記板材の内側面を覆う脱気部とを備えるものであって、前記脱気部が、フィルム層と、吸気シートと、糊が塗着された織布により構成されている養生シートとの三層構造からなることを特徴としている。
【0014】
かかる型枠構成材によれば、通気性に優れた養生シートを備えているため、例えば超高強度の繊維補強セメント系混合材料によるコンクリート構造物の製作において、密実で平滑な仕上がり表面をつくることができる。
脱気シートを備えているため、仕上がり面を含めて全面を型枠構成材で覆うことができ、複雑な形状のコンクリート構造物であっても精度のよく製作することができる。
【0015】
また、本発明のコンクリート構造物の製作方法は、開口部を有した型枠を形成する工程と、前記開口部からセメント系混合材料を流し込んで前記型枠内に充填する工程と、前記型枠構成材を前記開口部の蓋として設置し、前記養生シートをコンクリート面に接触させる工程とを備えることを特徴としている。
【0016】
かかるコンクリート構造物の製作方法によれば、養生シートを備えた型枠構成材を使用することによって、例えば超高強度の繊維補強セメント系混合材料によるコンクリート構造物の製作において、密実で平滑な仕上がり表面を作ることができる。
【0017】
また、本発明の第2のコンクリート構造物の製作方法は、開口部を有した型枠を形成する工程と、前記開口部からセメント系混合材料を流し込んで前記型枠内に充填する工程と、糊が塗着された織布により構成されている養生シートを前記開口部のカバーとして設置し、前記養生シートをコンクリート面に接触させる工程とを備えるコンクリート構造物の製作方法であって、前記織布を構成する糸が、綿若しくは麻の繊維からなる糸、綿と麻の混紡糸、綿とポリエステルの混紡糸、又は、麻とポリエステルの混紡糸であることを特徴としている。
【0018】
かかるコンクリート構造物の製作方法によれば、コンクリート構造物を密実で平滑な仕上がり面に成形することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の養生シート、型枠構成材およびコンクリート構造物の製作方法によれば、コンクリート構造物の製作において、密実で平滑な仕上がり面を簡易に作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一の実施形態に係る型枠構成材の使用状況を示す断面図である。
図2】第二の実施形態に係る養生シートの使用状況を示す断面図である。
図3】(a)〜(c)は、他の形態に係る養生シートの使用状況を示す断面図である。
図4】従来の型枠構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、図1に示すように、上面に開口部を有して形成された型枠2の開口部に、型枠構成材1を蓋として設置することで、部材を平滑な仕上がり面に形成する場合について説明する。
【0022】
型枠構成材1は、板材11と、板材11の内側面を覆う脱気部12とを備えて構成されている。
【0023】
板材11を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、木製、鋼製、アルミ合金製、プラスチック製などのボードを使用すればよい。
板材11の形状は、製作されるコンクリート構造物の形状寸法に応じて、適宜形成すればよい。
【0024】
脱気部12は、フィルム層13と、吸気シート14と、養生シート10との三層構造に構成されている。
【0025】
養生シート10は、糊が塗着された織布により構成されている。
糊を構成する材料は限定されるものではないが、本実施形態では融点が150〜230℃程度のものを採用する。このような糊であれば、コンクリート養生時の熱により溶け出すこと(コンクリートにしみ込むこと)を防止することができる。
【0026】
養生シート10を構成する織布には、綿番手40のたて糸と、綿番手40のよこ糸とが平織りされてなるものを採用する。なお、たて糸およびよこ糸の太さはこれに限定されるものではなく、双糸の場合は綿番手50〜80の範囲内、単糸の場合は綿番手30〜50の範囲内のものが望ましい。このような範囲内の糸によれば、目が細かく保湿性、保水性に優れているとともに、糊が塗着された後であっても目詰まりされ難い織布を構成することができる。そのため、エントラップドエアーを排気するための通気性を確保することができる。また、糊の塗着後も布の表面が粗くなり難いため、硬化後のコンクリート表面に布表面の粗さや凹凸が転写され難く、滑らかな仕上がり面を得ることができる。
【0027】
また、織布を構成する糸としては、綿とポリエステルの混紡糸を採用している。なお、織布を構成する糸は、綿とポリエステルとの混紡糸に限定されるものではなく、例えば、綿若しくは麻から選択した1種類の繊維からなる糸でもよいし、綿と麻の混紡糸や麻とポリエステルの混紡糸であってもよい。
【0028】
吸気シート14は、養生シート10を通ってきた空気(気泡)Aを吸気するためのシートであり、その材質は空気を吸収し、保持できるものであればよい。吸気シート14は、例えば合成繊維を成分とする不織布や紙などによって製作することができる。
吸気シート14の厚みは、例えば0.5〜1.5mm程度に製作するのが好ましい。吸気性能を確保しながらも、過度の厚みを備えないようにするためである。
【0029】
フィルム層13は、板材11と吸気シート14の間に介在させるシートである。かかるフィルム層13の材質は限定されるものではないが、例えばポリエステル系樹脂などにより構成すればよい。
フィルム層13には、脱気量が多い場合等、必要に応じて5〜10μm程度の穴径を有する複数の穴を設けてもよい。
【0030】
型枠2は、板材11を組み合わせることにより形成されている。
なお、型枠2は、型枠構成材1を組み合わせることにより形成してもよい。
【0031】
次に、本実施形態のコンクリート構造物の製作方法について説明する。
コンクリート構造物の製作方法は、型枠形成工程と、打設工程と、開口部遮蔽工程と、養生工程とを備えている。
【0032】
型枠形成工程は、板材11を組み合わせることにより開口部を有した型枠2を形成する工程である。
【0033】
打設工程は、開口部からセメント系混合材料Cを流し込んで型枠2内にセメント系混合材料Cを充填する工程である。
本実施形態では、セメント系混合材料Cとして、繊維補強セメント系混合材料を使用する。ここで、繊維補強セメント系混合材料としては、例えば、セメント、ポゾラン系反応粒子(例えば、珪石の微粉末、フライアッシュ、高炉スラグ、石灰粉など)、シリカフューム、粒径6mm以下の珪砂あるいは砂、少なくとも一種類の高性能減水剤、および水から構成されるセメント系マトリックス混合物に、直径が0.05〜0.3mmで、長さが8〜16mmの繊維(金属繊維あるいはビニロン繊維などの化学繊維)を容積で1〜4%程度混入して得られるものを使用する。
なお、セメント系混合材料Cは繊維補強セメント系混合材料に限定されるものではなく、例えば、普通コンクリート、高強度コンクリート、高流動コンクリート等であってもよい。
【0034】
開口部遮蔽工程は、型枠構成材1を型枠2の開口部の蓋として設置する工程である。
型枠構成材1を開口部に設置すると、養生シート10がセメント系混合材料Cの表面(コンクリート面)に接触する。
養生シート10は、表面張力により、セメント系混合材料Cの表面と密着する。
【0035】
養生工程は、型枠2に打設されたセメント系混合材料Cを養生する工程である。
セメント系混合材料Cの養生は、常温で行ってもよいし、加温した状態で行ってもよい。
【0036】
養生工程では、セメント系混合材料Cの内部に残存していた空気(エントラップドエアー)Aが上昇するが、空気Aは、養生シート10を通過して抜け出すため、型枠構成材1の下面に残ることがない。
そのため、脱型後のコンクリート部材の表面にクレーター状に気泡が残ることがない。
【0037】
また、養生シートを挿通して空気が抜け出したあとも、表面張力によりまだ固まらないセメント系混合材料Cと養生シート10との密着性が維持されるため、養生シート10とセメント計混合材料Cの表面との境界部に空洞が形成されることがない。
【0038】
また、養生シート10として、目が細かく保湿性、保水性に優れたものを使用しているため、エントラップドエアー(空気A)の脱気効果が期待できるほか、型枠構成材1の脱型時においては、硬化後のセメント系混合材料Cから容易に脱型できるという効果も期待できる。
【0039】
養生シート10は、板材11により補強されているため、しわが入ることやたわむことがなく、コンクリート部材の表面を平坦に仕上げることを可能としている。
また、養生シート10は、織布であるため、脱型時に破損することがなく、コンクリート部材の表面に残存することがない。
【0040】
第二の実施の形態に係るコンクリート構造物の製造方法は、図2に示すように、型枠2の開口部を養生シート10によりカバーする点で、型枠構成材1により蓋をする第一の実施の形態と異なっている。
この他の各工程や構成は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0041】
養生シート10は、端部を引っ張った状態でセメント系混合材料Cの上面に載置することで、開口部をカバーしている。
【0042】
養生シート10をセメント系混合材料Cの表面に上載させたら、コテ、ハケ、ブラシ等を利用して、養生シート10のしわやたるみを伸ばしつつ、養生シート10をセメント系混合材料Cの表面に接触させ、養生シート10とセメント系混合材料Cとの間に空気が残ることがないようにする。
【0043】
養生シート10は、軽量な織布により構成されているので、セメント系混合材料Cの上面においてたわむがことなく、したがって、コンクリート部材の平坦性を維持することができる。
【0044】
なお、養生シート10の設置方法は限定されるものではなく、図3の(a)に示すように、張った状態(しわやたるみのない状態)で設置した後、型枠2の側面に垂れ下がった養生シート10の端部をゴムや紐などにより固定してもよい。
【0045】
また、養生シート10は、必ずしも型枠2の側面に垂れ下がっている必要はなく、図3の(b)に示すように、型枠2の上端の端部において寸止めされていてもよい。
さらに、養生シート10の端部は、図3の(c)に示すように、型枠2の上端において、幅木等の固定部材16により端部が固定されていてもよい。
【0046】
第二の実施の形態に係るコンクリート構造物の製造方法によれば、第一の実施の形態で示した内容と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 型枠構成材
10 養生シート
11 板材
12 脱気部
13 フィルム層
14 吸気シート
2 型枠
A 空気
図1
図2
図3
図4