【実施例】
【0013】
[車載用レーダ装置の構成]
最初に、
図1を用いて、車載用レーダ装置10の構成を説明する。
図1は、車載用レーダ装置の構成を示す図である。なお、車載用レーダ装置10は、車両制御用ECU(Electronic Control Unit)と接続されており、車両制御用ECUとの間で情報の送受信を行うが、車両制御用ECUについては図示を省略している。また、
図1に示す接続は、電気的接続を示すものである。
【0014】
図1に示すように、車載用レーダ装置10は、複数の送信アンテナ11a〜11dと、複数の受信アンテナ12a〜12dと、ミキサー13と、AD変換器14と、信号生成部15と、発振器16と、スイッチ17と、信号処理部18とを有する。
【0015】
送信アンテナ11a〜11dは、垂直方向にずらして配置され、スイッチ17から入力されたミリ波をそれぞれ送信する。受信アンテナ12a〜12dは、水平方向にずらして配置され、反射波をそれぞれ受信する。
【0016】
ここで、
図2の(1)、(2)を用いて、アンテナの構成例について説明する。
図2は、アンテナの構成例を示す図である。
図2の(1)に例示するように、送信アンテナ11a〜11dは、垂直方向にずらして配置され、受信アンテナ12a〜12dは、水平方向にずらして配置される。また、
図2の(2)に例示するように、送信アンテナ11a〜11dについて、垂直方向の斜めにずらして配置するようにしてもよい。このように、送信アンテナ11a〜11dを垂直方向にずらして配置して、垂直方向を適当な角度推定方式を用いて算出することで、垂直方向の方位を算出でき、また受信アンテナ12a〜12dを水平方向にずらして配置して、適当な角度推定方式を用いて算出することで、水平方向の方位を算出できる。即ち、これら送信アンテナ11a〜11dと受信アンテナ12a〜12dにより、比較的安価で、なおかつレーダの構成を大きく変えることなく水平方向と垂直方向の方位を同時に算出することが出来る。なお、垂直方位の算出方法については、信号処理部18の説明で詳述する。
【0017】
ミキサー13は、送信アンテナ11a〜11dから送信されたミリ波の周波数と、受信アンテナ12a〜12dによって受信された反射波の周波数とを検出して復調し、AD変換器14に入力する。AD変換器14は、ミキサー13から入力された復調信号をデジタル信号に変換し、信号処理部18に入力する。
【0018】
信号生成部15は、変調用の三角波信号を生成し、発振器16に入力する。発信器16は、信号生成部15から入力された三角波信号をミリ波帯に変調し、スイッチ17に入力する。スイッチ17は、発信器16から入力されたミリ波を複数の送信アンテナ11a〜11dのいずれかに入力する。また、スイッチ17は、ミリ波を入力する送信アンテナ11a〜11dを順次切り替える。
【0019】
信号処理部18は、フーリエ変換部18a、ピーク抽出部18b、水平方位演算部18c、距離・相対速度演算部18d、物標高算出部18eを有する。
【0020】
フーリエ変換部18aは、AD変換器14によって変換されたデジタル信号をDSP(Digital Signal Processor)回路によって周波数分析を行う処理部である。具体的には、フーリエ変換部18aは、デジタル信号を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)することによって周波数ごとのレベルに分解する。
【0021】
ピーク抽出部18bは、フーリエ変換部18aによって周波数分析されたレベルに含まれるピーク周波数であって、所定の閾値以上であるピーク周波数を抽出する。なお、ピーク周波数とは、特定の周波数域で最も高いレベルのことである。
【0022】
水平方位演算部18cは、地面に対して水平方向におけるターゲットの方位である水平方位を、既存の角度推定方式を用いて演算する。具体的には、水平方位演算部18cは、ピーク抽出部18bにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに基づいて各物標の方位を演算し、演算した方位を距離・相対速度演算部18dへ出力する。
【0023】
水平方位演算部18cは、ピーク抽出部18bの抽出結果に基づき、強反射物そのものを含めたベースとなる方位演算を行う。なお、かかる水平方位演算部18cの方位演算においては、その手法は特に限定されないが、まず強反射物そのものを精度よく検出しておく必要性から高分解能であることが好ましい。
【0024】
そこで、水平方位演算部18cは、ESPRITを用いた方位演算を行う。ここで、公知ではあるが、かかるESPRITについて
図3を用いて説明しておく。
図3は、ESPRITの概要を示す図である。
【0025】
ESPRITは、受信アンテナ12a〜12dを位置のずれた2つのサブアレーに分けて考え、かかる2つのサブアレーの位相差から到来波(すなわち、反射波)の到来方向を推定する手法である。
【0026】
図3に示すように、K素子のリニアアレーを想定する。また、
図3に示すように、到来波数はLとし、第i到来波の方位をθ
i(i=1,2,・・・,L)とする。
【0027】
ここで、ESPRITは、回転不変式(rotational invariance)「J
1AΦ=J
2A」に基づき、アレー全体の平行移動によって生じる各到来波の位相回転を推定する。行列J
1および行列J
2は(K−1)×Kの変換行列、Aはそれぞれθ
1〜θ
Lを変数とするアレー応答ベクトルからなる方向行列、ΦはL次の対角行列である。
【0028】
図3に示すように、K素子のリニアアレーにおいて、第1素子から第(K−1)素子をサブアレー#1、第2素子から第K素子をサブアレー#2とすると、上記回転不変式のJ
1Aは行列Aの1〜(K−1)行目を、J
2Aは行列の2〜K行目を抽出する操作を意味する。すなわち、
図3に示すように、J
1Aはサブアレー#1の方向行列を、J
2Aはサブアレー#2の方向行列を、それぞれ表す。
【0029】
ここで、Aが既知であれば、Φを求めてパスの到来角を推定できるが、Aは推定すべきものであるため、直接Φを求解することができない。そこで、K次元受信信号ベクトルのK×K共分散行列R
xxを求めたうえで、かかるR
xxを固有値展開することによって得られる固有値から、熱雑音電力σ
2よりも大きい固有値に対応する固有ベクトルを用いて信号部分空間行列E
sを生成する。
【0030】
生成された信号部分空間行列E
sと行列Aは、双方の間に唯一存在するL次の正則行列Tを用いてA=E
sT
−1と表せる。ここで、E
sはK×L行列、TはL×Lの正則行列である。したがって、上記回転不変式に代入すると、(J
1E
s)(TΦT
−1)=J
2E
sが得られる。かかる式でTΦT
−1を求めて固有値展開すれば、その固有値がΦの対角成分となる。したがって、その固有値から到来波の方位を推定することができる。
【0031】
なお、このようにESPRITは、アレー応答ベクトルの情報を必要としないので、アレーアンテナの較正が不要となる、また、スペクトルにおけるピーク探索等の探索操作が不要となる。
【0032】
距離・相対速度演算部18dは、ターゲットまでの距離や相対速度を演算する。なお、ターゲットまでの距離や相対速度の算出については、公知技術であるので説明を省略する。
【0033】
物標高算出部18eは、ターゲットの地面からの高さを算出する処理部であり、垂直方位算出部181、角度差算出部182、取得部183、高さ算出部184を有する。
【0034】
垂直方位算出部181は、地上にある実像の方位と地下に存在する虚像の方位とを算出する。具体的には、垂直方位算出部181は、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波が物標で反射した反射波(直接反射波)から、地上にある実像の方位(実像垂直方位)を算出する。また、垂直方位算出部181は、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波が物標で反射し、さらに地面に反射した反射波(地面経由波)から地下に存在する虚像の方位(虚像垂直方位)を算出する。
【0035】
この垂直方位算出部181では、垂直方位の算出方法として、特に順次送信アンテナ11a〜11dを切り替えて送信する方法が有効であるが、同時送信する場合でも実行可能である。
【0036】
図4に例示するように、垂直方位算出部181は、送信アンテナ11a〜11dが送信する送信波が物標で反射した直接反射波の垂直方位である実像垂直方位とともに、ターゲットで反射した反射波が地面でさらに反射された地面経由波の垂直方位である虚像垂直方位を算出する。そして、垂直方位算出部181は、実像垂直方位の角度(
図4のαに相当)と虚像垂直方位の角度(
図4のβに相当)とをそれぞれ求める。なお、垂直方位算出部181は、上述した水平方位演算部18cと同様に、既知のESPRIT等を用いて、地面に対して垂直方向におけるターゲットの方位である垂直方位を演算することができる。
【0037】
ここで、
図5の例を用いて、水平垂直方位算出時の受信信号の用い方を説明する。
図5は、水平垂直方位算出時の受信信号の用い方を説明する図である。ここでは、
図5の(1)に示すように、送信アンテナが4つ、受信アンテナが4つの場合を説明する。なお、ここでは、送信アンテナをTx1〜4、受信アンテナをRx1〜4と記載する。
【0038】
図5の(2)に示すように、水平方位の演算を水平方向にずらした受信アンテナにより演算し、垂直方位の演算を垂直方向にずらした送信アンテナにより演算を行う。
図5の例では、上述したように、送信アンテナが4つ、受信アンテナが4つであるので、計16個の受信信号がある。
【0039】
この16個の受信信号について、
図5の(3)に示す表のように対応付けする。そして、水平方位演算部18cは、水平方位の演算を行う場合には、受信信号として、「X11、X12、X13、X14」、「X21、X22、X23、X24」、「X31、X32、X33、X34」、「X41、X42、X43、X44」の4つの組を抜き出し、上記の水平方位演算部18cの説明で詳述した手法を用いて、水平方位演算を行う。例えば、上述したESPRITを用いた方位演算において、水平方向にずれた受信アンテナが受信した受信信号の4つの組「X11、X12、X13、X14」、「X21、X22、X23、X24」、「X31、X32、X33、X34」、「X41、X42、X43、X44」の位相差から物標の水平方位を推定する。
【0040】
また、垂直方位算出部181は、垂直方位の演算を行う場合には、受信信号として、「X11、X21、X31、X41」、「X12、X22、X32、X42」、「X13、X23、X33、X43」、「X14、X24、X34、X44」の4つの組を抜き出し、上記の水平方位演算部18cの説明で詳述した手法と同様の手法を用いて、垂直方位演算を行う。例えば、上述したESPRITを用いた方位演算において、受信アンテナが受信した受信信号の4つの組「X11、X21、X31、X41」、「X12、X22、X32、X42」、「X13、X23、X33、X43」、「X14、X24、X34、X44」の位相差から物標の垂直方位を推定する。
【0041】
図1の説明に戻って、角度差算出部182は、垂直方位算出部181によって算出された実像垂直方位と虚像垂直方位との角度差を算出する。具体的には、角度差算出部182は、垂直方位算出部181によって算出された物標の方位として、同じ距離に2つの垂直方位が存在する場合、上側の方位を実像垂直方位とし、下側の方位を虚像垂直方位として、両者の角度の差分を角度差として算出する。なお、物標が地上にある落下物である場合は、マルチパスが発生しないため、垂直方位算出部181によって算出された物標の方位として、同じ距離に1つの垂直方位しか存在しない。この場合は角度差を算出することなく後述する高さ算出部184において距離、垂直方位およびレーダ搭載高とからターゲットの高さを算出し、高さがほぼ0であれば落下物と判定する。あるいは、同じ距離に1つの垂直方位しか存在しない場合にその物標を落下物と判定してもよい。ここで。必ずしも虚像垂直方位が現れるとは限らない。落下物の場合はマルチパスがないため実像のみが現れ、上方物の場合は実像の方位と虚像の方位が現れる。
【0042】
取得部183は、距離・相対速度演算部18dによって演算された車載用レーダ装置10からターゲットまでの距離を取得し、予め設定された車載用レーダ装置10の地面からの高さであるレーダ搭載高を取得する。
【0043】
高さ算出部184は、角度差算出部182によって算出された角度差を用いて、ターゲットの地面からの高さを算出する。具体的には、高さ算出部184は、角度差算出部182によって算出された角度差を用いて、下記(1)式により、ターゲットの地面からの高さ(以下、「ターゲット高さ」と記載する)を算出する。そして、高さ算出部184は、ターゲットの距離、相対速度、水平方向の角度、および高さを算出すると、接続された車両制御用ECU(図示せず)にターゲット高さの情報を出力する。
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、
図6の例を用いて、ターゲット高さの算出処理に用いられる算出式について説明する。
図6は、ターゲット高さの算出処理を説明する図である。
図6の例では、θは、角度差算出部182によって算出される垂直角度差であり、αは、実像垂直方位の角度であり、βは、虚像垂直方位の角度であり、hは、取得部183により取得されるレーダ搭載高であり、Xは、取得部183により取得されるターゲットまでの距離であり、zは、レーダ基準ターゲット高さであり、Yは、ターゲット高さであり、高さ算出部184が求める値である。
【0046】
図6のような状況であったとして、まず、下記(2)式を用いると、下記(3)式および(4)式とできる。
【0047】
【数2】
【0048】
【数3】
【0049】
【数4】
【0050】
ここで、三角関数のtanに関する加法定理である下記(5)式を用いて、式を整理すると、下記(6)式となる。そして、下記(6)式をYについて解くと、下記(7)式となる。
【0051】
【数5】
【0052】
【数6】
【0053】
【数7】
【0054】
このとき、高さの値は+であるので、±の+の値が高さの値となる。このため、ターゲット高さが求まる値は、前述の算出式(1)となる。このように、角度差からターゲット高さを適切に算出することが出来る結果、道路の看板や落下物を誤検出することなく正面のターゲットのみを適切に認識することができる。また、物標が地上にある落下物である場合は、マルチパスが発生しないため実像のみが現れ、虚像は現れず、垂直方位算出部181によって算出された物標の方位として、1つの垂直方位しか存在しないため、角度差が算出されない。そして、高さ算出部184は、距離、垂直方位およびレーダ搭載高からターゲットの高さを算出し、高さがほぼ0であれば落下物と判定する。あるいは、同じ距離に1つの垂直方位しか存在しない場合にその物標を落下物と判定してもよい。
【0055】
また、垂直角度差を用いて、ターゲット高さを算出するので、特に送信アンテナ11a〜11dを順次切り替えて送信する方法において、有効である。つまり、相対速度のあるターゲットに対して、送信タイムラグによる影響を抑えられる。これは、純粋な方位が送信タイムラグの影響で大きくずれてしまうが、方位差はほぼ一定であるためである。
【0056】
ここで、
図7および
図8を用いて、従来、送信タイムラグにより角度がずれていた理由について説明する。
図7に示すように、方位演算において、特に角度分離の出来る方式のほとんどが、アンテナ間の位相差(経路長差)を用いて算出されている。つまり、
図7の例に示すように、受信アンテナが受信する信号の到来方向により経路長差が異なり、その分だけ位相がずれることを用いる。ここで、受信アンテナで位相差を出す場合には、同時に受信した信号を扱えるため、ほぼ設計通りの位相差が算出される。
【0057】
ただし、
図8に示すように、送信アンテナを順次切り替えて送信する方法では、ターゲットが動いた分の経路長が加算されてしまい、位相差を適切に算出することができない。例えば、アンテナ間隔「2.88λ」でタイムラグが「5ms」であっても、相対速度差約「0.06km/h」で「1deg」の誤差が生じてしまう。
【0058】
ここで、本実施例の車載用レーダ装置10では、直接波と地面経由波の角度差の場合では、相対速度がほぼ同一のため、ずれる位相の量も同一になる。このため、角度の誤差は大きいが、角度差の誤差は比較的小さくなる。
【0059】
また、直接波と地面経由波の誤差の量がほぼ相対速度に比例するため補正も比較的容易にできる。例えば、車載用レーダ装置10は、相対速度と角度差の誤差とを対応付けて記憶するテーブルを予め記憶するようにしてもよい。この場合に、車載用レーダ装置10は、演算した相対速度に対応する角度差の誤差の値をテーブルから読み出し、読み出した角度差の誤差の値を用いて、直接波と地面経由波の角度差を補正する。
【0060】
次に、
図9を用いて、静止状態および接近状態でのターゲット高さの算出結果について説明する。
図9は、静止状態および接近状態でのターゲット高さの算出結果例を示す図である。例えば、
図9の(1)では、車両とターゲットとの距離が「80m」であり、ターゲット高さが「4.5m」であって、車両が静止状態である場合の例について説明する。
図9の(1)の算出結果に示すように、車載用レーダ装置10は、ターゲット高さ算出処理を100回行っており、すべてのターゲット高さ算出処理の算出結果において約4.5mを算出しており、精度よくターゲット高さを算出することが出来ている。
【0061】
また、
図9の(2)の例では、車両がターゲットから「100m」の地点から時速「10km/h」で接近する場合の例について説明する。
図9の(2)の算出結果に示すように、車両がターゲットから「100m」の地点から「約20m」の地点に近づくまで、ターゲット高さ算出処理を繰り返しているが、すべてのターゲット高さ算出処理の算出結果において約3.5mを算出している。つまり、ターゲットの相対速度の有無に関わらず、送信アンテナ11a〜11dの位相差からターゲットの高さを精度良く算出することができ、看板や落下物などの上下方物の判定を行うことが可能となる。
【0062】
[車載用レーダ装置による処理]
次に、
図10および
図11を用いて、車載用レーダ装置10による処理を説明する。
図10は、車載用レーダ装置による全体の処理手順を示すフローチャートである。
図11は、車載用レーダ装置による高さ算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0063】
図10に示すように、まず、車載用レーダ装置10のフーリエ変換部18aは、AD変換部24によって変換されたデジタル信号をフーリエ変換する(ステップS101)。具体的には、フーリエ変換部18aは、デジタル信号を高速フーリエ変換することによって周波数ごとのレベルに分解する。
【0064】
次に、水平方位演算部18cは、地面に対して水平方向におけるターゲットの方位である水平方位を、既存の角度推定方式を用いて演算する(ステップS102)。続いて、距離・相対速度演算部18dは、ターゲットまでの距離や相対速度を演算する(ステップS103)。なお、ターゲットまでの距離や相対速度の算出処理については、公知技術であるので詳細な説明を省略する。
【0065】
そして、物標高算出部18eは、ターゲットの地面からの高さを算出する高さ算出処理(後に
図11を用いて詳述)を実行する(ステップS104)。続いて、物標高算出部18eは、ターゲットの地面からの高さを算出すると、ターゲットの地面からの高さ等のターゲットに関する情報を目標物標情報として、外部の車両制御用ECUに送信し(ステップS105)、処理を終了する。
【0066】
次に、
図11を用いて、車載用レーダ装置10による高さ算出処理を説明する。
図11に示すように、車載用レーダ装置10の垂直方位算出部181は、地上にある実像の方位と地下に存在する虚像の方位とを算出する。具体的には、垂直方位算出部181は、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波が物標で反射した反射波(直接反射波)から、地上にある実像の方位を算出する。また、垂直方位算出部181は、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波が物標で反射し、さらに地面に反射した反射波(地面経由波)から地下に存在する虚像の方位を算出する(ステップS201)。
【0067】
次に、角度差算出部182は、垂直方位算出部181によって算出された実像垂直方位と虚像垂直方位との角度差を算出する(ステップS202)。具体的には、角度差算出部182は、ターゲットと虚像の両方の角度をそれぞれ算出し、両者の角度の差分を角度差として算出する。
【0068】
そして、取得部183は、距離・相対速度演算部18dによって演算された車載用レーダ装置10からターゲットまでの距離を取得する(ステップS203)。続いて、取得部183は、予め設定された車載用レーダ装置10の地面からの高さであるレーダ搭載高を取得する(ステップS204)。
【0069】
その後、高さ算出部184は、角度差算出部182によって算出された角度差を用いて、ターゲットの地面からの高さを算出する(ステップS205)。具体的には、高さ算出部184は、角度差算出部182によって算出された角度差を用いて、上記した(1)式により、ターゲットの地面からの高さを算出する。
【0070】
上述したように、第1の実施形態に係る車載用レーダ装置10では、地面に対して垂直方向におけるターゲットの方位である垂直方位として、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波が物標で反射した反射波から地上にある実像の方位を算出するとともに、送信アンテナ11a〜11dから送信される送信波がターゲットで反射し、さらに地面に反射した反射波から地下に存在する虚像の方位を算出する。そして、車載用レーダ装置10では、算出された実像の方位と虚像の方位との角度差を算出し、算出された角度差を用いて、ターゲットの地面からの高さを算出する。これにより、第1の実施形態に係る車載用レーダ装置10では、ターゲットの地面からの高さを把握することが出来る結果、ターゲットが、例えば、上に設置された道路の看板や下に落ちている落下物なのか、正面を走る車両等なのかを判別することができ、道路の看板や落下物を誤検出することなく正面のターゲットのみを適切に認識することが可能となる。
【0071】
また、第1の実施形態に係る車載用レーダ装置10では、送信アンテナは、複数の送信アンテナ11a〜11dを含み、各送信アンテナ11a〜11dは、垂直方向にずらした位置に配置されている。このため、車載用レーダ装置10では、送信波のターゲットに対する垂直方位である実像垂直方位と、送信波が地面により反射された反射波の物標に対する垂直方位である虚像垂直方位とを適切に算出することができる。
【0072】
また、第1の実施形態に係る車載用レーダ装置10では、複数の送信アンテナ11a〜11dのうちの、いずれかの送信アンテナ11a〜11dが順次送信波を送信する。車載用レーダ装置10では、実像垂直方位と虚像垂直方位との角度差を用いて、ターゲットの地面からの高さを算出するので、送信アンテナを順次切り替えて送信する方法で、相対速度のあるターゲットを検出する場合であっても、送信タイミングラグによる影響を抑えることができる。
【0073】
[他の実施例]
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下に示すように、(1)レーダの垂直軸の軸ズレ判定、(2)アンテナ数、(3)レーダ、(4)車両への搭載、(5)システム構成等、にそれぞれ区分けして異なる実施例を説明する。
【0074】
(1)レーダの垂直軸の軸ズレ判定
上記の実施例では、実像垂直方位と虚像垂直方位の角度を算出し、ターゲットの地面からの高さを算出する場合を説明した。ここで、実像垂直方位と虚像垂直方位の角度を算出し、レーダの垂直軸のズレ量(垂直軸ズレ量)を推定するようにしてもよい。
【0075】
ここで、
図12を用いて、垂直軸ズレ量の算出方法の概要について説明する。
図12は、垂直軸算出方法の概要を説明する図である。
図12に示すように、車載用レーダ装置は、実像方位と虚像方位との平均値を、地面方位と仮定する。そして、車載用レーダ装置は、実像方位と虚像方位との平均値と、地面真値方位との誤差から、垂直軸ズレ量を推定する。なお、実像方位と虚像方位との平均値を地面方位と仮定して垂直軸ズレ量を推定する手法では、レーダ搭載高や物標の高さが高い場合、および、ターゲットの距離が近い場合に、垂直軸ズレ量の誤差が大きくなる。このため、より厳密に垂直軸ズレ量を推定する方法については後に詳述する。
【0076】
まず、実像方位と虚像方位との平均値を地面方位と仮定して垂直軸ズレ量を推定する処理手順を、
図13を用いて説明する。
図13は、車載用レーダ装置による垂直軸算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図13に示すように、車載用レーダ装置は、実像・虚像角度の算出を行う(ステップS301)。そして、車載用レーダ装置は、実像・虚像の角度平均値を算出する(ステップS302)。
【0077】
ここで、
図14を用いて、実像・虚像角度の算出処理と、実像・虚像の角度平均値を算出する処理を説明する。
図14は、実像・虚像角度の算出処理と、実像・虚像の角度平均値を算出する処理を説明する図である。
図14に示すように、地上にある実像の方位による角度(実像方位[deg])と地下に存在する虚像の方位による角度(虚像方位[deg])とを算出する。そして、車載用レーダ装置は、下記(8)式を用いて、実像方位[deg]と虚像方位[deg]との平均である角度平均値[deg]を求める。
【0078】
【数8】
【0079】
次に、車載用レーダ装置は、車載用レーダ装置から物標までの距離を算出する(ステップS303)。そして、車載用レーダ装置は、レーダ搭載高と、車載用レーダ装置から物標までの距離とを用いて、地面角度真値を算出する(ステップS304)。
【0080】
ここで、
図15を用いて、地面角度真値を算出する処理を説明する。
図15は、地面角度真値を算出する処理を説明する図である。
図15に示すように、車載用レーダ装置は、車載用レーダ装置から物標までの距離(距離[m])と、予め設定されたレーダの搭載高(レーダ搭載高[m])とを取得し、下記(9)式を用いて、地面方位の角度である地面角度真値(地面方位[deg])を算出する。
【0081】
【数9】
【0082】
続いて、車載用レーダ装置は、角度平均値および地面角度真値を用いて、軸ズレ量を推定する(ステップS305)。具体的には、車載用レーダ装置は、「軸ズレ推定値[deg]=−角度平均値[deg]+地面方位[deg]」を算出することにより、軸ズレ量を推定する。
【0083】
このように、上記では、実像方位と虚像方位との平均値を、地面方位と仮定し、軸ズレ量を推定する方法を説明したが、上記の軸ズレ量を推定する処理よりも厳密に軸ズレ量を推定する場合の手法を以下に説明する。
【0084】
まず、垂直軸ズレが有る時と無い時の角度推定のスペクトラムの出方の違いについて、
図16および
図17を用いて説明する。
図16は、垂直軸ズレが無いときの角度推定のスペクトラムの出方の一例を示す図である。
図17は、垂直軸ズレが有るときの角度推定のスペクトラムの出方の一例を示す図である。垂直軸ズレが無い場合には、
図16に示すように、車両を基準とした垂直方位の角度である車両基準0[deg]と、レーダの中心方向として設定された垂直方位の角度であるレーダ中心0[deg]とが同一である。一方、垂直軸ズレが有る場合には、
図17に示すように、車両基準0[deg]と、レーダ中心0[deg]との間にズレが生じている。また、
図17に示すスペクトラムを
図16のスペクトラムと比較すると、スペクトラムの出方が異なっており、
図17に示すスペクトラムは、軸ズレによる誤差が発生している。このように、垂直軸ズレが有る時と無い時の角度推定のスペクトラムの出方の違いに着目して、軸ズレ量を推定する手法を以下に説明する。
【0085】
軸ズレ量を推定する処理手順を、
図18を用いて説明する。
図18は、車載用レーダ装置による垂直軸算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図18に示すように、車載用レーダ装置は、実像・虚像角度の算出を行う(ステップS401)。そして、車載用レーダ装置は、実像・虚像の角度差を算出する(ステップS402)。
【0086】
ここで、
図19の例を用いて、実像・虚像角度の算出処理と、実像・虚像の角度差を算出する処理を説明する。
図19は、垂直方位演算結果のスペクトラムの一例を示す図である。
図19に示すように、車載用レーダ装置は、垂直方位の角度推定(DBF、ESPRIT等)を実施して、実像・虚像の角度を算出する(手順1)。そして、車載用レーダ装置は、実像角度[deg]から虚像角度[deg]を減算することで、実像角度[deg]との虚像角度[deg]差分である実像・虚像角度差[deg]を算出する(手順2)。
【0087】
続いて、車載用レーダ装置は、車載用レーダ装置から物標までの距離を算出する(ステップS403)。そして、車載用レーダ装置は、物標の地面からの高さを算出する(ステップS404)。その後、車載用レーダ装置は、距離と高さから、実像・虚像の角度真値を算出する(ステップS405)。
【0088】
ここで、
図20を用いて、距離の算出処理と、高さの算出処理と、角度真値の算出処理とを説明する。
図20は、距離の算出処理と、高さの算出処理と、角度真値の算出処理とを説明する図である。
図20に示すように、車載用レーダ装置は、既存技術のFM-CWなどにより物標までの距離を算出する(手順3)。そして、車載用レーダ装置は、実像・虚像角度差「θ」と物標までの距離「X」とレーダ搭載高「h」とを用いて、下記(10)式により、物標の地面からの高さを算出する(手順4)。
【0089】
【数10】
【0090】
そして、車載用レーダ装置は、物標までの距離[m]とレーダ搭載高[m]と物標の地面からの高さ[m]とを用いて、下記(11)式により、実像真値[deg]を算出する(手順5)。また、車載用レーダ装置は、物標までの距離[m]とレーダ搭載高[m]と物標の地面からの高さ[m]とを用いて、下記(12)式により、虚像真値[deg]を算出する(手順5)。
【0091】
【数11】
【0092】
【数12】
【0093】
そして、車載用レーダ装置は、軸ズレ量を推定する(ステップS406)。ここで、
図21を用いて、軸ズレ量の推定処理について説明する。
図21は、軸ズレ量の推定処理について説明する図である。
図21に示すように、手順1で算出した実像角度および虚像角度と、手順5で算出した実像真値および虚像真値とを比較する。比較の結果、実像角度と実像真値との差分、および、虚像角度と虚像真値との差分を軸ズレによる誤差と推定する。
【0094】
具体的には、車載用レーダ装置は、「軸ズレ推定値(実像)[deg]=−実像角度(算出値)[deg]+実像角度(理論値)[deg]」を計算して、軸ズレ推定値(実像)[deg]を算出する(手順6)。また、車載用レーダ装置は、「軸ズレ推定値(虚像)[deg]=−虚像角度(算出値)[deg]+虚像角度(理論値)[deg]」を計算して、軸ズレ推定値(虚像)[deg]を算出する(手順6)。ここで、実像から算出した軸ズレ推定値(実像)[deg]と虚像から算出した軸ズレ推定値(虚像)[deg]とは、理論上一致するが、実際には誤差が生じることが予想される。このような誤差が生じた場合には、例えば、軸ズレ推定値(実像)[deg]と軸ズレ推定値(虚像)[deg]との平均値を取る等の処理を行って軸ズレ推定値を算出する。
【0095】
このように、車載用レーダ装置は、軸ズレ推定値を算出することができるので、軸ズレ推定値を基に車載用レーダ装置の取り付け角度を調整することが可能であり、車載用レーダ装置の垂直軸の軸ズレを防止し、適切にターゲット高さを算出することが可能となる。
【0096】
(2)アンテナ数
上記の実施例では、送信アンテナおよび受信アンテナが4つずつある場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、送信アンテナが3つ以上であって、受信アンテナが2つ以上あればよい。
【0097】
(3)レーダ
また、上述した実施例では、アンテナが送受信するビームとしてミリ波を想定していたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、ミリ波以外の電波や光、超音波などにも、本発明を同様に適用することができる。
【0098】
(4)車両への搭載
また、上述した実施例では、車両の前部に搭載し、車両の前方を走査範囲とする車載用レーダ装置を想定していたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、車両の後方、前側方、車両周辺などを走査範囲とする車載用レーダ装置にも、本発明を同様に適用することができ、走査範囲に限定されるものではない。
【0099】
(5)システム構成等
また、本実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0100】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0101】
なお、本実施例で説明した物標高算出方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。