特許第6192911号(P6192911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000002
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000003
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000004
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000005
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000006
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000007
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000008
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000009
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000010
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000011
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000012
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000013
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000014
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000015
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000016
  • 特許6192911-有機EL装置及びその製造方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192911
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】有機EL装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20170828BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170828BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-198590(P2012-198590)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-53252(P2014-53252A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山岸 英雄
(72)【発明者】
【氏名】林 克彦
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−033734(JP,A)
【文献】 特開平08−236271(JP,A)
【文献】 特表2005−516369(JP,A)
【文献】 特開2011−222334(JP,A)
【文献】 特開2001−042784(JP,A)
【文献】 特開2008−226471(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0139844(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/050751(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に順に、第1電極層と、有機発光層と、第2電極層を備えた積層体を備え、前記積層体封止層と別途成形された封止部材が載置された断面構造を備え、前記基材を平面視したときに、実際に発光する発光領域が存在する有機EL装置において、
前記発光領域を構成する積層体の積層方向の投影面上にさらに軟質接着層が積層され、前記基材を平面視したとき前記軟質接着層の外側の領域が硬質接着層で囲まれており、前記軟質接着層及び硬質接着層によって前記封止部材が前記封止層と接着されており、
前記軟質接着層は、シート状又は板状であって、表面に粘着性加工が施されており、
前記硬質接着層は、前記封止層上であって前記封止部材の基材側において、前記軟質接着層に対してオーバーラップして、前記軟質接着層の前記封止部材側を庇状に覆い被さっており、かつ前記発光領域側に向かって延伸していることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
軟質接着層と硬質接着層のオーバーラップによる重なり幅は、0.05mm以上2mm以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記第1電極層は、前記基材を平面視したときに、前記発光領域から外側に延びており、
前記硬質接着層は、前記発光領域の外側で前記第1電極層と直接接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの有機EL装置を製造する製造方法であって、
前記積層体を形成する積層体形成工程と、
軟質接着層を形成する工程と、
封止部材を接着する封止部材接着工程と、を有し、
前記封止部材接着工程において、軟質接着層の一部に流動性を有した硬質用接着材を塗布し、
当該接着材が固化することによって硬質接着層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)装置に関するものである。また、本発明は、当該有機EL装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に代わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。
【0003】
ここで、有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。
また、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL装置は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また、白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
ところで、有機EL装置は、有機EL素子への水分や酸素(以下、水等ともいう)の進入を防止するために有機EL素子を外部の雰囲気から遮断する封止構造を備えている。しかしながら、有機EL素子の封止機能が不十分な場合には、有機EL装置を長期間使用すると、ダークスポットと呼ばれる非発光点が発生する。このダークスポットについて詳説すると、有機EL素子の封止が不十分な場合、水等が封止構造内に進入し、有機EL素子が水等に曝された状態となる。この状態で使用(点灯)すると、有機EL素子を構成する電極あるいは電極界面付近の有機化合物層の一部が酸化され、表面に絶縁性の酸化被膜が形成される。この酸化被膜が形成されると、形成箇所は部分的に絶縁化されるため、点灯時に当該箇所が発光せず、ダークスポットが形成される。
すなわち、有機EL装置のダークスポットの形成を防止するためには、有機EL素子への水等の進入を確実に防止することが必要となる。
【0005】
そこで、有機EL素子への水等の進入を防ぐ技術として、特許文献1では、基材上に順次、第1電極(電極)と有機化合物層(発光層)と第2電極(電極)とを積層した構造を有する有機EL素子を有し、第2電極の上に、封止層としてシリコン合金層を積層して封止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−285659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、引用文献1の有機EL装置は、一定以上の封止性能を有するものの、シリコン合金層のみでは封止が十分ではない。そのため、更なる封止性能を有した有機EL装置が求められており、未だ改良の余地が残されている。
【0008】
そこで、本発明は、上記した問題点を解決するものであり、有機EL素子への水分の侵入を防止可能で短絡による不点灯等の不具合の発生の無い有機EL装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、発明者らは、特許文献1の構造を参考にしてシリコン合金層上にさらに封止層を被覆した構造を有する有機EL装置を試作した。すなわち、2重の封止構造を有する有機EL装置を試作して、封止性能の向上を図った。
具体的には、試作した有機EL装置100は、図16(a)のように、ガラス基板102上に順次、透明電極層103と有機発光層105と裏面電極層106とを積層した構造を有する有機EL素子120を積層し、この裏面電極層106の上に、シリコン合金層107を積層し、さらにその外側を硬質のエポキシ樹脂層108で封止した。
この試作した有機EL装置100は、旧来のものに比べて、封止性能が各段に向上するはずであり、本発明者らは、ダークスポットの発生個数や、その成長が大幅に低減され、装置の信頼性や寿命が大幅に向上するものと期待した。
しかしながら、試作した有機EL装置100は、予想したほどの効果は得られなかった。すなわち、試作した有機EL装置100は、旧来のものに比べて、ダークスポットの成長は抑制されるものの、短絡によるとみられる不点灯を引き起こすものが多数発生した。
そこで、この原因を検討した結果、有機EL装置100の内部で発生する局所的な熱膨張、破損等によって、電極層103,106や、有機発光層105が変形するのではないかと考えた。
すなわち、初期不良や環境、外的要因等の原因によって、有機EL素子120の一部が膨張したり、破損して飛散したりした場合、シリコン合金層107は、図16(b)のように、その圧力や衝撃を受けて外側(有機EL素子120と反対側)に向けて応力が逃げるので、有機EL素子120側には応力がかかりにくい。
ところが、この試作した有機EL装置100の場合、シリコン合金層106の外側に覆われたエポキシ樹脂層107の剛性によって、図16(c)のようにシリコン合金層106が有機EL素子120側に押し返されてしまう。また、シリコン合金層106とエポキシ樹脂層107間の熱膨張係数の違いにより歪みも生じやすい。そのため、シリコン合金層106が有機EL素子120の膨張部位を圧迫し、透明電極層103と裏面電極層106との距離が近接するため、新たな短絡を引き起こす。すなわち、この試作した有機EL装置100の構造では、封止性能は向上するが、一度ダークスポットが発生すると、それに付随してダークスポットが増加してしまったのではないかと考察した。また、ダークスポットの増加が引き金となり、有機EL装置100全体が不点灯になってしまったのではないかと考察した。
本発明者らは、上記した仮説に基づき、シリコン合金層106とエポキシ樹脂層107との間に緩衝層を介在させ、緩衝層内部で、応力を緩和させる構造を試作した。その結果、予想を上回るダークスポットの発生個数の減少や、その成長の大幅な低減が見られた。また、この緩衝層を介在した有機EL装置は不点灯になりにくいこともわかった。
【0010】
以上の知見に基づいて、導き出された請求項1に記載の発明は、基材上に順に、第1電極層と、有機発光層と、第2電極層を備えた積層体を備え、前記積層体封止層と別途成形された封止部材が載置された断面構造を備え、前記基材を平面視したときに、実際に発光する発光領域が存在する有機EL装置において、前記発光領域を構成する積層体の積層方向の投影面上にさらに軟質接着層が積層され、前記基材を平面視したとき前記軟質接着層の外側の領域が硬質接着層で囲まれており、前記軟質接着層及び硬質接着層によって前記封止部材が前記封止層と接着されており、前記軟質接着層は、シート状又は板状であって、表面に粘着性加工が施されており、前記硬質接着層は、前記封止層上であって前記封止部材の基材側において、前記軟質接着層に対してオーバーラップして、前記軟質接着層の前記封止部材側を庇状に覆い被さっており、かつ前記発光領域側に向かって延伸していることを特徴とする有機EL装置である。
本発明は、基材上に順に、第1電極層と、有機発光層と、第2電極層を備えた積層体を備え、前記積層体に、別途成形された封止部材が載置された断面構造を備え、前記基材を平面視したときに、実際に発光する発光領域が存在する有機EL装置において、前記発光領域を構成する積層体の積層方向の投影面上にさらに軟質接着層が積層され、前記基材を平面視したとき前記軟質接着層の外側の領域が硬質接着層で囲まれており、前記軟質接着層及び硬質接着層によって前記封止部材が接着されている。
【0011】
本発明の構成によれば、前記発光領域を構成する積層体の積層方向の投影面上にさらに軟質接着層が積層され、前記基材を平面視したとき前記軟質接着層の外側の領域が硬質接着層で囲まれており、前記軟質接着層及び硬質接着層によって前記封止部材が接着されている。すなわち、発光領域に対応する部位においては、軟質接着層によって封止部材が接着され、その周りにおいては、硬質接着層によって封止部材が接着されている。つまり、2種類接着層によって封止部材が接着されている。そのため、接着面積を確保しつつ、上記したような軟質接着層によって発生する応力を緩和できる。それ故に、封止性能が高く、不点灯になりにくい。軟質接着層は、積層体の熱膨張による応力を吸収できるため、冷熱衝撃耐性が高く、クラックが生じにくい。
【0012】
上記した発明は、前記軟質接着層と硬質接着層がオーバーラップする領域が存在する。
【0013】
この発明の構成によれば、前記軟質接着層と硬質接着層がオーバーラップする領域が存在する。すなわち、前記軟質接着層と硬質接着層のうち、一方が他方に対して覆い被さっている。言い換えると、軟質接着層と硬質接着層が面方向に互いに入り組んでいる。そのため、積層方向において、発光領域内の積層体に水が進入しにくく、より確実に封止できる。
【0014】
請求項1に記載の発明は、前記硬質接着層は、軟質接着層に対してオーバーラップしており、かつ発光領域側に向かって延伸している。
【0015】
本発明の構成によれば、前記硬質接着層は、軟質接着層に対してオーバーラップしており、かつ発光領域側に向かって延伸している。すなわち、硬質接着層は、発光領域側に覆い被さっている。そのため、たとえ封止部材と硬質接着層と界面を伝わってもオーバーラップ部位が軟質接着層側への水の進入を堰き止めることができるため、発光領域上に水が進入することがない。また、封止部材の端部から硬質接着層と軟質接着層と境界部位の距離がオーバーラップしていない場合よりも遠くすることが可能であるため、より確実に封止できる。
【0016】
請求項1に記載の有機EL装置において、軟質接着層と硬質接着層のオーバーラップによる重なり幅は、0.05mm以上2mm以下となっていることが好ましい(請求項2)。より好ましくは0.1mm以上1mm以下とすることである。
【0017】
上記した発明は、軟質接着層は、シート状の軟質用接着材で形成されており、硬質接着層は、流動性を有した硬質用接着材で形成されていることとしてもよい。
【0018】
この発明の構成によれば、軟質接着層は、シート状の軟質用接着材で形成されており、硬質接着層は、流動性を有した硬質用接着材で形成されている。すなわち、軟質接着層はシート状の軟質用接着材で形成されているため、接着時にシート状に形状をとどめており、接着ムラが生じにくい。また、硬質接着層は、流動性を有した硬質用接着材で形成されているため、軟質接着層の外側の領域を硬質接着層で囲みやすい。
請求項3に記載の発明は、前記第1電極層は、前記基材を平面視したときに、前記発光領域から外側に延びており、前記硬質接着層は、前記発光領域の外側で前記第1電極層と直接接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかの有機EL装置を製造する製造方法であって、前記積層体を形成する積層体形成工程と、軟質接着層を形成する工程と、封止部材を接着する封止部材接着工程と、を有し、前記封止部材接着工程において、軟質接着層の一部に流動性を有した硬質用接着材を塗布し、当該接着材が固化することによって硬質接着層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法である。
【0020】
本発明の製造方法によれば、軟質接着層の一部に流動性を有した硬質用接着材を塗布し、当該接着材が固化することによって硬質接着層を形成するため、製造しやすい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機EL装置によれば、積層体への水分の進入を防止できる。
本発明の有機EL装置の製造方法によれば、製造しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置を裏面側から観察した斜視図である。
図2図1の有機EL装置の分解斜視図である。
図3図1の有機EL装置のA−A断面図であり、理解を容易にするため、ハッチングを省略している。
図4】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の各位置における断面図である。
図5図3の基板及び有機EL素子の斜視図である。
図6図5の基板及び有機EL素子の分解斜視図である。
図7図1の有機EL装置の封止層積層工程までの製造方法の説明図であり、(a)〜(h)は各工程を表す。
図8図1の有機EL装置の軟質樹脂層を形成する工程の説明図であり、(a)〜(c)は各工程を表す。
図9図1の有機EL装置の硬質樹脂層を形成する工程の説明図であり、(d)〜(e)は各工程を表す。
図10図1の有機EL装置の防湿部材を取り付ける工程の説明図であり、(f)〜(g)は各工程を表す。
図11図10(f)の状態を表す有機EL装置の説明図である。
図12図1の有機EL装置の有機EL素子を表す説明図である。
図13図1の有機EL装置の有機EL素子が飛散した際の説明図であり、有機EL素子の飛散後を表す。
図14図1の有機EL装置の一部破断斜視図である。
図15】他の実施形態における有機EL装置の斜視図であり、理解を容易にするため、防湿部材を取り外している。
図16】試作した有機EL装置の有機EL素子が飛散した際の説明図であり、(a)は有機EL素子の飛散前、(b)は有機EL素子の飛散した瞬間、(c)は有機EL素子の飛散後を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、有機EL装置に係るものである。図1は、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置1を示している。以下、上下の位置関係は、特に断りのない限り、図1の姿勢を基準に説明する。すなわち、有機EL装置1の駆動時における光取り出し側が下である。
【0024】
本実施形態の有機EL装置1は、図2のように透光性を有した基板2(基材)上に有機EL素子12が積層されており、さらにその上に無機封止層7(封止層)と、軟質接着層8と、硬質接着層10と、防湿部材11とを備えている。有機EL素子12は、第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6から形成されている。
そして、本実施形態の有機EL装置1は、軟質接着層8及び硬質接着層10によって、無機封止層7と防湿部材11を接着するとともに、軟質接着層8上に硬質接着層10がオーバーラップすることによって、ダークスポットの発生や発光不能状態(不点灯)に陥ることを防止する特徴を有している。
【0025】
このことを踏まえて、以下、有機EL装置1の詳細な構造について説明する。
有機EL装置1は、図2図3のように駆動時において実際に発光する発光領域30と、発光領域30内の有機EL素子12に給電する給電領域31,32を有している。
発光領域30は、図3のように第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6が重畳した部位である。発光領域30は、図2図5のように長手方向l及び短手方向w(長手方向lに直交する方向)の中央に位置しており、その長手方向lの両外側に給電領域31,32が位置している。
給電領域31,32の短手方向w(長手方向lに直交する方向)の中央には、図5のように島状の取出部35,36を有している。取出部35,36は、平面視すると四角形状をしており、基板2の短辺(短手方向に延びる辺)に沿って形成されている。取出部35,36は、図2図3のように導電性の接着部材27,28によって、電極部材25,26と接着されている。
【0026】
軟質接着層8は、図2のように無機封止層7上であって、少なくとも、発光領域30の部材厚方向の投影面全面を覆うように積層されている。言い換えると、軟質接着層8は、図3のように後述する有機EL素子分離溝21と第1電極層分離溝15の外側まで延びており、電極接続溝16,17の外側まで延びていることが好ましく、取出電極分離溝22,23の近傍まで覆っていることが特に好ましい。すなわち、軟質接着層8は、面状に広がりをもって、無機封止層7の大部分を覆っている。
軟質接着層8の縁には図2図3図4のように、硬質接着層10の一部が庇状に覆い被さっていることが好ましい。すなわち、硬質接着層10は、無機封止層7から軟質接着層8に跨がって覆っている。軟質接着層8の4縁から所定の範囲まで硬質接着層10が内側(発光領域30側)に延伸していることが好ましい。この場合、軟質接着層8は、本発明に係る緩衝機能を保持しつつ、硬質接着層10によって押さえつけられていることとなり本発明の効果を奏しつつ、より信頼性の高い有機EL装置となる。図14に示される軟質接着層8の4縁からの硬質接着層10の被覆長さ(重なり幅)L1は、非発光の額縁領域(発光領域30以外の部位)の面積を減らして発光領域30の面積を増やす観点から、0.05mm以上2mm以下となっており、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であることが特に好ましい。
【0027】
硬質接着層10は、防湿部材11が有機EL素子12側に近接しないように防湿部材11を支持している。すなわち、硬質接着層10は、発光領域30を含む領域を囲むような壁を形成している。また、発光領域30の投影面上には、無機封止層7と防湿部材11と硬質接着層10によって密閉空間が形成されており、その内部に軟質接着層8が位置している。言い換えると、当該密閉空間内に軟質接着層8が充填されている。
ここでいう「充填」とは、空間の90パーセント以上の領域を占める状態をいう。空間の95パーセント以上を占める状態であることが好ましく、99パーセント以上を占める状態であることが特に好ましい。なお、本実施形態では、シート状の軟質接着層8を形成し、その周囲を硬質接着層10で覆っているため、充填率はほぼ100パーセントとなっている。
【0028】
さらに硬質接着層10は、図4のように電極部材25,26の一部を被覆している。具体的には、硬質接着層10は、電極部材25,26の基板2からの張り出し部位を除いて電極部材25,26を覆っている。すなわち、有機EL装置1は、図1のように硬質接着層10から電極部材25,26の一部のみが露出している。
【0029】
また、本実施形態の有機EL装置1は、深さの異なる複数の溝によって、複数の区画に分離されて区切られている。
具体的には、有機EL装置1は、図3のように部分的に第1電極層3を除去した第1電極層分離溝15と、部分的に機能層5を除去した電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20と、部分的に機能層5と第2電極層6の双方を除去した有機EL素子分離溝21及び取出電極分離溝22,23を有しており、これらの溝によって複数の区画に分離されている。
【0030】
各溝について詳説すると、第1電極層分離溝15は、図3図6のように基板2上に積層された第1電極層3を2つの領域に分離する溝であり、有機EL素子12を発光領域30と給電領域32(電極部材26側)に分離する溝である。
また、第1電極層分離溝15内には図6のように機能層5の一部が進入しており、機能層5は第1電極層分離溝15の底部で基板2と直接接触している。すなわち、発光領域30内の第1電極層3と給電領域32内の第1電極層3を、絶縁性を有した機能層5によって電気的に切り離している。
【0031】
電極接続溝16,17は、図3図6のように第1電極層3上に積層された機能層5のみを3つの領域に分離する溝であり、給電領域31,32に位置する溝である。
すなわち、電極接続溝17は、給電領域32内であって、第1電極層分離溝15の長手方向外側に位置しており、電極接続溝16は、給電領域31内であって、有機EL素子分離溝21の長手方向外側に位置している。
【0032】
取出電極固定溝18,20は、図3図6のように、取出電極分離溝22,23の外側であって、取出部35,36の機能層5のみに設けられた溝である。取出電極固定溝18,20は、図6のように取出部35,36の長手方向中央に設けられており、短手方向に延伸している。
具体的には、取出電極固定溝18,20は、図6のようにその周囲が取出電極分離溝22,23に囲まれるように形成されており、取出部35,36を長手方向に2等分するようにそれぞれ形成されている。
【0033】
また、電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20内には、いずれも第2電極層6の一部が進入しており、第2電極層6は電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20の底部で基板2と直接接触している。すなわち、給電領域31,32では電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20の内部を経由して第1電極層3と第2電極層6とが電気的に接続されている。
【0034】
有機EL素子分離溝21は、図3図6のように第1電極層3上に積層された機能層5及び第2電極層6の双方に亘って分離する溝であり、有機EL素子12を発光領域30と給電領域31とに分離する溝である。
取出電極分離溝22,23は、図3図5のように第1電極層3上に積層された機能層5及び第2電極層6を分離して、島状の取出部35,36の外形を形成する溝である。
具体的には、取出電極分離溝22,23は、平面視すると、「コ」の字状をした溝であり、その内側に取出電極固定溝18,20が位置している。すなわち、取出電極分離溝22,23は、基板2の短辺に対して平行な部位と、直交する部位(長辺に対して平行)から形成されている。
【0035】
また、有機EL素子分離溝21及び取出電極分離溝22,23内には、図3のように絶縁性を有した無機封止層7の一部が進入しており、無機封止層7は有機EL素子分離溝21及び取出電極分離溝22,23の底部で第1電極層3と直接接触している。すなわち、発光領域30内の第2電極層6と給電領域31内の第2電極層6は、無機封止層7によって電気的に切り離されている。また、給電領域31内において、取出部35の第2電極層6とその他の部位の第2電極層6は、無機封止層7によって電気的に切り離されており、給電領域32内においても、取出部36の第2電極層6とその他の部位の第2電極層6は、無機封止層7によって電気的に切り離されている。
【0036】
続いて、有機EL装置1の各層構成について説明する。
上記したように、有機EL装置1は、図3のように基板2上に、第1電極層3と機能層5と第2電極層6とがこの順に積層し、その上に、無機封止層7、軟質接着層8及び/又は硬質接着層10、防湿部材11が順に積層したものである。また、取出部35,36に接着部材27,28を介して電極部材25,26が固定されている。
【0037】
基板2は、透光性及び絶縁性を有したものである。基板2の材質については特に限定されるものではなく、例えば、フレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板などから適宜選択され用いられる。特にガラス基板や透明なフィルム基板は透明性や加工性の良さの点から好適である。
基板2は、面状に広がりをもっている。具体的には、多角形又は円形をしており、四角形であることが好ましい。本実施形態では、長方形状のガラス基板を採用している。
【0038】
第1電極層3の材質は、透明であって、導電性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性酸化物などが採用される。機能層5内の発光層から発生した光を効果的に取り出せる点では、透明性が高いITOあるいはIZOが特に好ましい。本実施形態では、ITOを採用している。
【0039】
機能層5は、第1電極層3と第2電極層6との間に設けられ、少なくとも一つの発光層を有している層である。機能層5は、主に有機化合物からなる複数の層から構成されている。この機能層5は、一般的な有機EL装置に用いられている低分子系色素材料や、共役系高分子材料などの公知のもので形成することができる。また、この機能層5は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの複数の層からなる積層多層構造であってもよい。
本実施形態では、機能層5は、図12に示すように、第2電極層6側から第1電極層3側に向けて順に、電子注入層60、電子輸送層61、発光層62、正孔輸送層63、正孔注入層64がこの順番に積層された構造を有している。電子注入層60、電子輸送層61、発光層62、正孔輸送層63、正孔注入層64のいずれも公知の材料を採用している。
【0040】
また、これらの機能層5を構成する層は、真空蒸着法やスパッタ法、CVD法、ディッピング法、ロールコート法(印刷法)、スピンコート法、バーコート法、スプレー法、ダイコート法、フローコート法など適宜公知の方法によって成膜できる。
【0041】
第2電極層6の材質は、導電性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば銀(Ag)やアルミニウム(Al)などの金属が挙げられる。本実施形態の第2電極層6は、Alで形成されている。また、これらの材料はスパッタ法又は真空蒸着法によって堆積されることが好ましい。
また、第2電極層6の電気伝導率及び熱伝導率は、第1電極層3よりも大きい。言い換えると、第2電極層6は、第1電極層3よりも電気伝導性及び熱伝導性が高い。
【0042】
無機封止層7の材質は、絶縁性及び封止性を有していれば、特に限定されるものではないが、酸素、炭素、窒素の中から選ばれた1種類以上の元素と、ケイ素元素とからなるシリコン合金により形成されていることが好ましく、Si−O、Si−N、Si−H、N−H等の結合を含む窒化珪素や酸化珪素、及び両者の中間固溶体である酸窒化珪素であることが特に好ましい。
また、無機封止層7は、所定の条件で有機EL素子と離反する方向に圧縮応力が発生する層であることが好ましい。
ここでいう「所定の条件」とは、有機EL素子12の熱膨張などに起因して発生する押圧力を受けた場合などである。
そして、本実施形態では、多層構造の無機封止層を使用している。
具体的には、無機封止層7は、図3のように有機EL素子12側から乾式法によって形成される第1無機封止層50と、湿式法によって形成される第2無機封止層51がこの順に積層されて形成されている。
第1無機封止層50は、化学気相蒸着によって形成される層であり、さらに詳細にはシランガスやアンモニアガス等を原料としてプラズマCVD法で成膜される層である。第1無機封止層50は、後述するように有機EL装置1の製造工程において、水分含量が少ない雰囲気下で、有機EL素子12の形成工程に連続して成膜できるため、空気や水蒸気に晒さずに成膜でき、使用直後の初期ダークスポットの発生を低減することができる。
【0043】
第2無機封止層51は、液体状又はゲル状の原料を塗布した後、化学反応を介して成膜される層である。第2無機封止層51は、緻密性を有したシリカを素材としている。また、より詳細には、第2無機封止層51はポリシラザン誘導体を原料とするのが好ましい。ポリシラザン誘導体を用いてシリカ転化によって第2無機封止層51を成膜した場合、シリカ転化時に重量増加を生じ、体積収縮が小さい。また、シリカ転化時(固化時)に樹脂の耐え得る温度で十分にしかもクラックを生じ難くすることができるという利点を有する。
なお、ここでいうポリシラザン誘導体は、珪素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si34、及び両者の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体ポリマーである。また、このポリシラザン誘導体は、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換された誘導体も含む。
ポリシラザン誘導体の中でも特に側鎖が全て水素であるペルヒドロポリシラザンや、珪素と結合する水素部分が一部メチル基に置換された誘導体が好ましい。
【0044】
また、このポリシラザン誘導体は、有機溶媒に溶解した溶液状態で塗布し使用することが好ましい。この溶解する有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。
【0045】
第2無機封止層51は、第1無機封止層50に比べて緻密な層が形成できるため、封止性が高く、経時的な新たなダークスポットの発生を防止したり、発生したダークスポットの拡大化を抑制したりすることができる。
【0046】
また、無機封止層7の成膜位置は、基板2の長手方向の少なくとも電極接続溝16,17の外側まで形成しており、本実施形態の無機封止層7の成膜位置は、図3図4のようにさらに取出電極分離溝22,23の近傍まで至っている。無機封止層7は、少なくとも発光領域30の全面に成膜されており、さらに給電領域31,32の一部まで至っている。
【0047】
無機封止層7の平均厚みは、1μm〜10μmであることが好ましく、2μm〜5μmであることがより好ましい。
無機封止層7の一部を担う第1無機封止層50の厚みは、1μm〜5μmであることが好ましく、1μm〜2μmであることがより好ましい。
また、無機封止層7の一部を担う第2無機封止層51の厚みは、好ましくは1μm〜5μmであることが好ましく、1μm〜3μmであることがより好ましい。
【0048】
軟質接着層8に目を移すと、軟質接着層8は、柔軟性を有し、所定の条件によって塑性変形又は弾性変形する層である。本実施形態では、軟質接着層8は、無機封止層7の圧縮応力などを受けた場合に、その応力にほとんど逆らわずに、塑性変形可能となっている。
JIS K 6253に準じた軟質接着層8のショア硬さは、ショア硬さがA30以上A70以下であることが好ましく、A40以上A65以下であることがより好ましく、A45以上A63以下であることが特に好ましい。
緩衝層のショア硬さがA70より大きい場合、緩衝層の剛性が大きすぎて、膨らみや衝撃が十分吸収できない。また、防湿部材11として例えばフィルム等の剛性が低いものを採用する際に、軟質接着層8のショア硬さがA30より小さい場合には、防湿部材11の形状を維持できない。
軟質接着層8の曲げ弾性率は、3MPa以上30MPa以下であることが好ましく、3MPa以上25MPa以下であることがより好ましく、3.9MPa以上23MPa以下であることが特に好ましい。
軟質接着層8の具体的な材質としては、アクリルゴム(ACM)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、シリコーンゴム(Q)、ブチルゴム(IIR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム材料が使用できるが、一定の水蒸気バリア性を有し、安価に入手可能である点から、アクリルゴム系樹脂、エチレンプロピレンゴム系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、及びブチルゴム系樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましく、その中でもフィルムとして入手が容易な、ブチルゴム系樹脂がより好ましい。なお、本実施形態の軟質接着層8は、ブチルゴム系樹脂シートを採用している。
また、本実施形態の軟質接着層8は、接着性を有しており、複数部材を互いに接着可能となっている。具体的には、本実施形態の軟質接着層8は、シート状又は板状の部材であり、表面に粘着性加工が施されている。
軟質接着層8の厚みは、有機EL素子12の局所的なショート欠陥(電気的に短絡)の対応部分が膨らむことで局所的なオープン欠陥(電気的に開放)となるようにし、有機EL装置そのものが不点灯とならないようにする観点や、衝撃の吸収を十分なものとしつつ有機EL装置の薄さの特長を活かす観点から、2μm以上1000μm以下とすることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましく、20μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
硬質接着層10は、軟質接着層8よりも剛性が高く硬い材質となっている。具体的には、JIS K 6253に準じた硬質接着層10のショア硬さ(及び対応する曲げ弾性率の概算値)は、ショアA80以上、すなわち、ショアD30以上(25MPa以上)であることが好ましく、より高信頼性の有機EL装置とする観点からショアD55以上(250MPa以上)、ショアD95以下(6000MPa以下)とすることがより好ましく、ショアD80以上(1500MPa以上)、ショアD90以下(4000MPa以下)とすることがさらに好ましい。
また、本実施形態の硬質接着層10は、防水性及び接着性(粘着性)を有しており、複数部材を互いに接着可能となっている。具体的には、本実施形態の硬質接着層10は、溶液又はゲル状の流動体を固化して形成されるものである。
硬質接着層10の具体的な材質としては、例えば、エポキシ樹脂などが採用できる。なお、本実施形態では、エポキシ樹脂を採用している。
このような硬質接着層10から構成される本発明に係る硬質壁部は、本発明に係る防湿部材11を十分な強度で支持し、また、水分の有機EL素子12への進入を十分に防止し、本発明に係る電極部材25,26(給電部材)を十分な強度で補強し、また、その酸化を防止し、かつ、硬質壁部が存在する非発光領域となる額縁領域を狭くする観点から、図15に示されるその基板2の面に平行な方向の硬質接着層10の幅(硬質壁部の厚み)D1,D2が、0.05mm以上、10mm以下とすることが好ましく、0.1mm以上5mm以下とすることがより好ましく、0.5mm以上2mm以下とすることがさらに好ましい。
【0050】
防湿部材11は、防湿性を有した板状又はシート状の部材である。
防湿部材11の材質は、防湿性を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、アルミ箔によって形成された層やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって形成された層、SiaAlbcd(サイアロン)によって形成された層などが採用できる。
また、防湿部材11は、複数層によって形成されていてもよい。具体的には、防湿部材11は、図3のように金属箔55と、金属箔55の少なくとも無機封止層7側の片面全体をコーティングする絶縁性樹脂膜52又は絶縁性樹脂膜53から形成されている。本実施形態では、金属箔55の両面に絶縁性樹脂膜52,53がコーティングされている。
金属箔55の表面は、絶縁性樹脂膜52,53によってあらかじめラミネート加工されていてもよい。
金属箔55の平均厚みは2μm以上200μm以下とすることが好ましく、トータルの厚みがこの範囲以内であれば、複数の樹脂層等を介在させて複数の金属箔から構成することもできる。例えば、2μm〜20μmの厚みの金属箔と、10μm〜100μmの厚みの金属箔を併用することが考えられる。トータルの厚みのより好ましい範囲は、5μm〜100μmであり、より好ましい範囲は、20μm〜60μmである。
金属箔55の材質は、均熱性又は放熱性と、水蒸気バリア性を有していれば特に限定されるものではなく、例えば、銅やアルミニウム、ステンレスなどが採用でき、その中でもアルミニウムで形成されていることが好ましい。また、アルミニウムは、耐腐食性があり、伝熱性が高いので伝熱機能が高く、かつ、水分の透過性が低いので封止機能も高い。そのため、本実施形態では金属箔55としてアルミニウムを採用している。
【0051】
絶縁性樹脂膜52,53の材質は、絶縁性を有していれば特に限定されるものではないが、封止性が高い観点からポリエチレンテレフタレート(PET)とポリ塩化ビニリデン(PVDC)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうちいずれかであることが好ましい。本実施形態では、無機封止層7側の絶縁性樹脂膜52にPTFEを採用し、反対側の絶縁性樹脂膜53にPETを採用している。
絶縁性樹脂膜52,53の平均厚みは、5μmから100μmであり、10μmから50μmであることが好ましい。
【0052】
防湿部材11の設置領域は、少なくとも軟質接着層8全体を覆っており、さらに、硬質接着層10の一部又は全部を覆っている。すなわち、防湿部材11は、少なくとも発光領域30を覆っており、さらに給電領域31,32まで至っている。
そのため、金属箔55の均熱機能によって発光領域30全体の熱を均等にすることができ、発光領域内の有機EL素子12の輝度ムラを防止することができる。また、給電領域31,32まで延在しているため、外部と、発光領域内の有機EL素子12との距離を遠くすることができ、発光領域30内の有機EL素子12内への水等の進入を効果的に防止することができる。
【0053】
本実施形態では、防湿部材11は、図1のように基板2全面に敷設されている。すなわち、電極部材25,26の一部も覆っている。
【0054】
電極部材25,26は、外部電源と有機EL素子12の第1電極層3又は第2電極層6とを電気的に接続する部材である。電極部材25,26は、電気伝導性を有した箔状体又は板状体であり、取出部35,36に載置可能となっている。
【0055】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法について説明する。
有機EL装置1は、図示しない真空蒸着装置及びCVD装置によって成膜し、図示しないパターニング装置、本実施形態では、レーザースクライブ装置を使用してパターニングを行い、製造される。
【0056】
まず、有機EL素子を積層する有機EL素子形成工程を行う。
具体的には、まず、スパッタ法やCVD法によって基板2の一部又は全部に第1電極層3を成膜する(図7(a)から図7(b))。
このとき、本実施形態では、基板2の長辺(長手方向に延伸する辺)の近傍には第1電極層3を積層していない。ここでいう「長辺近傍」とは、長辺からの距離が1mm以下のものを表し、500μm以下であることが好ましい。
また、形成される第1電極層3の平均厚さは、50nmから800nmであることが好ましく、100nmから400nmであることがより好ましい。
【0057】
その後、第1電極層3が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって第1電極層分離溝15を形成する(図7(b)から図7(c))。
このとき、第1電極層分離溝15は、基板2の短辺に平行に形成されており、短手方向全体に亘っている。
第1電極層分離溝15は、有機EL装置1が形成された際に給電領域32と発光領域30との境界部位に形成されている。すなわち、第1電極層分離溝15は、長手方向において、第1電極層3を2つの領域に分割している。
また、この基板上には第1電極層分離溝15を除いてほぼ全面に第1電極層3が存在している。そのため、このようにレーザースクライブ処理を用いることが可能であり、前記第1電極層3を成膜する際に、成膜を行わない被成膜面を隠すマスクプロセスを省略できる。
【0058】
次に、真空蒸着装置によって、この基板に電子注入層60、電子輸送層61、発光層62、正孔輸送層63、正孔注入層64などを順次積層し、機能層5を成膜する(図7(c)から図7(d))。
このとき、第1電極層分離溝15内に機能層5が積層され、第1電極層分離溝15内に機能層5が満たされるとともに、この基板のほぼ全面に機能層5が積層される。
【0059】
その後、機能層5が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって、電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20をそれぞれ形成する(図7(d)から図7(e))。
このとき、電極接続溝16,17は、基板の短辺に平行になるように形成されており、基板の短手方向全体に亘って形成されている。すなわち、第1電極層分離溝15と平行となっている。また、電極接続溝16,17は、基板上の機能層5を少なくとも3つの領域に分離している。
取出電極固定溝18,20は、有機EL装置1が完成した時の取出部35,36の中央に形成されており、長手方向に均等に2分割するように設けられている。
そして、この基板上には電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20を除いて機能層5が存在している。そのため、このようにレーザースクライブ処理を用いることが可能であり、前記機能層5を成膜する際に、成膜を行わない被成膜面を隠すマスクプロセスを省略できる。
【0060】
次に、真空蒸着装置によって、この基板に第2電極層6を成膜する(図7(e)から図7(f))。
このとき、電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20内に第2電極層6が積層され、電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20内に第2電極層6が満たされるとともに、この基板全面に第2電極層6が積層される。すなわち、電極接続溝16,17及び取出電極固定溝18,20の底部で第1電極層3と第2電極層6が接触した状態で固着し、第1電極層3と第2電極層6が電気的に接続される。
そのため、第1電極層3と第2電極層6の間に機能層5が介在する場合に比べて、当該3つの層間の剥離強度を向上させることができる。
【0061】
その後、第2電極層6が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって、機能層5及び第2電極層6に亘って延伸した有機EL素子分離溝21及び取出電極分離溝22,23を形成する(図7(f)から図7(g))。
このとき、有機EL素子分離溝21は、電極接続溝16,17と平行に形成されており、第2電極層6が積層された領域の短手方向全体に亘って形成されている。すなわち、有機EL素子分離溝21は、第1電極層分離溝15とも平行の関係になっている。
有機EL素子分離溝21は、有機EL装置1が形成された際に給電領域31と発光領域30との境界部位に形成されている。すなわち、有機EL素子分離溝21は、長手方向において、機能層5及び第2電極層6を2つの領域に分割している。
具体的には、有機EL素子分離溝21は、第2電極層6を、発光領域30内の第2電極層6と、給電領域31内の第2電極層6とに分割している。
また、取出電極分離溝22,23は、機能層5と第2電極層6を島状に切り離しており、取出部35,36を形成している。
この基板上には有機EL素子分離溝21及び取出電極分離溝22,23を除いて第2電極層6が存在している。そのため、このようにレーザースクライブ処理を用いることが可能であり、前記第2電極層6を成膜する際に、成膜を行わない被成膜面を隠すマスクプロセスを省略できる。
以上が、有機EL素子形成工程である。
【0062】
続いて、無機封止層7を形成する無機封止層積層工程を行う。
具体的には、まず、この基板の一部をマスクで覆い、CVD装置によって、第1無機封止層50を成膜する(図7(g)から図7(h))。
このとき、第1無機封止層50は、少なくとも発光領域30内の第2電極層6を覆っており、さらに、電極接続溝16,17の部材厚方向の投影面上まで延伸している。すなわち、有機EL素子分離溝21内に第1無機封止層50が積層され、有機EL素子分離溝21内に第1無機封止層50が満たされる。そのため、封止機能を十分に確保することができる。
さらに、本実施形態の第1無機封止層50は、長手方向においては、取出電極分離溝22,23まで延伸しており、短手方向においては、基板の長辺まで至っている。そのため、伝熱性及び封止性をさらに向上させることができる。
【0063】
その後、第1無機封止層50を成膜したCVD装置から取り出して、第2無機封止層51の原料を塗布し、第2無機封止層51を形成し、無機封止層7が形成される。
このとき、第1無機封止層50上の全面を第2無機封止層51が覆っている。
このようにして、第1無機封止層50上に第2無機封止層51が積層されて無機封止層7が形成される。
【0064】
その後、電極部材25,26を取出部35,36に導電性の接着材によって接着する。
このとき、導電性の接着材が塗布した取出部35,36上に電極部材25,26を載置した後、真空ラミネーターで、接着部材27,28を形成する。
また、導電性の接着材が塗布される領域は、長手方向においては取出電極固定溝18,20の部材厚方向の投影面上を含み、取出部35,36の露出部位全面となっている。
【0065】
接着部材27,28の材料たる導電性の接着材料としては、導電性及び接着機能を有していれば、特に限定されないが、例えば、エポキシ系接着材料やアクリル系接着材料、低温半田などが採用できる。
導電性の接着材の塗布量は、固化後に形成される接着部材27,28の厚みが500nm以上50μm以下となっており、1μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることが特に好ましい。
以上が、封止層積層工程の説明である。
【0066】
上記した手順によって形成された無機封止層7に防湿部材11を接着する防湿部材接着工程を行う。
防湿部材接着工程では、無機封止層7に防湿部材11を接着するとともに、軟質接着層8及び硬質接着層10を形成する。
具体的には、無機封止層7上に軟質接着層8を真空ラミネーターで貼り合わせる(図8(a)から図8(b))。
このとき、軟質接着層8を形成するに当たって、軟質接着層8の両面に絶縁性のセパレーターが被覆したものを用いる。また、貼り合わせ時には、軟質接着層8の片面のセパレーターを剥離して、剥離面を無機封止層7上に貼り合わせる。
そして、この貼り合わせた状態では、軟質接着層8は発光領域30全体を覆っており、さらに、電極接続溝16,17まで延伸している。軟質接着層8は、取出電極分離溝22,23まで至っていない。すなわち、電極接続溝16,17から外側には、軟質接着層8が被覆しておらず、無機封止層7が露出している。言い換えると、無機封止層7上には、無機封止層7が露出した部位と、軟質接着層8が被覆した部位が混在し、軟質接着層8が被覆した部位は短手方向及び長手方向の中央に位置している。
【0067】
その後、前記剥離面の反対側の面のセパレーターを剥離する(図8(b)から図8(c))。
【0068】
続いて、この基板に、硬質接着層10の原料をディスペンサー70によって塗布し、硬質接着層10を成膜する(図9(d)から図9(e))。
硬質接着層10は、軟質接着層8の一部又は全面を覆っている。なお、本実施形態では、硬質接着層10は、軟質接着層8の一部を覆っており、図11のように軟質接着層8と無機封止層7に跨がって塗布されて形成されている。発光領域30に位置する軟質接着層8の大部分は、硬質接着層10が覆われていない。すなわち、軟質接着層8が露出する開口が形成されている。当該開口の面積は、発光領域30の面積に比べて一回り大きくなっている。当該開口の面積は、軟質接着層8の形成面積の90パーセント以上98パーセント以下となっており、95パーセント以上98パーセント以下であることが好ましい。
また、硬質接着層10は、電極部材26,27の一部(基板2の部材厚方向の投影面)を覆っている。言い換えると、電極部材26,27の一部は、硬質接着層10内に埋没している。すなわち、共に接着性を有した軟質接着層8と硬質接着層10が被っており、オーバーラップしている。
【0069】
続いて、この基板上であって、軟質接着層8及び硬質接着層10上に防湿部材11を載置し、真空ラミネーターで貼り合わせる(図10(f)から図10(g))。
【0070】
このとき、防湿部材11は、軟質接着層8及び硬質接着層10の全面を覆っており、軟質接着層8及び硬質接着層10の接着機能によって無機封止層7又は電極部材26,27に一体化される。すなわち、防湿部材11は、有機EL素子12の全面を間接的に覆っている。
【0071】
このようにして防湿部材接着工程を終了し、有機EL装置1が完成する。
【0072】
有機EL装置1の機能について説明する。
外的要因等によって、有機EL素子12が破損し、その一部が飛散した場合について説明する。なお、本実施形態の有機EL装置1は、無機封止層7と軟質接着層8と硬質接着層10と防湿部材11によって水等の進入を防止しているため、封止機能が高く、基本的には、ダークスポットが発生しないが、外的要因等によって、短絡等が発生し、ダークスポットが発生したものとして説明する。
図13のように、外的要因等の理由により、有機EL素子12内で短絡し、有機EL素子12が破損して飛散すると、無機封止層7を介して軟質接着層8が押圧され、塑性変形する。この押圧力は、軟質接着層8の弾性変形又は塑性変形によって受け流されて分散される。そのため、この押圧力は硬質接着層10にほとんど伝わらない。それ故に、硬質接着層10からの剛性によって、軟質接着層8が押し返されず、有機EL素子12がストレスを受けにくい。すなわち、第1電極層3と第2電極層6との間隔が狭まりにくく、ストレスによる短絡が起こりにくい。
また、硬質接着層10と防湿部材11によって、封止機能を維持しているため、たとえ、無機封止層7が破損しても、水等の進入を防止でき、水等の進入に伴うダークスポットの発生も抑制できる。
【0073】
上記した実施形態では、軟質接着層8が有機EL装置1の中央付近全体を覆っていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、図15のように平面視して「ロ」字状の軟質接着層8を使用し、その周りを硬質接着層10が覆っていてもよい。
【0074】
上記した実施形態では、硬質接着層10として、溶液又はゲル状の流動体を固化して形成されるものを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、シート状や板状のものであってもよい。また、シート状や板状の硬質樹脂層と流動体状の硬質樹脂層の原液を組み合わせて硬質接着層10を形成してもよい。
【0075】
上記した実施形態では、基板2として長方形状のガラス基板を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく正方形状であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 有機EL装置
2 基板(基材)
3 第1電極層
5 機能層(有機発光層)
6 第2電極層
7 無機封止層(封止層)
8 軟質接着層
10 硬質接着層
11 防湿部材(封止部材)
12 有機EL素子(積層体)
30 発光領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16