(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パワー強化編地の前記挿入組織では、2本の前記弾性糸が挿入された前記コースと、1本の前記弾性糸が挿入された前記コースとが前記ウェール方向に隣接している請求項1から3のいずれか1項に記載のボトム衣類。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の経編地の課題に鑑みてなされたものであり、パワー強化編地において編地の伸び始めに比較的緩やかなパワーを生じさせつつ、途中からパワーを増大させることで、緯方向の伸縮性を向上させた衣料用伸縮性経編地
を備えたボトム衣類
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
着用時に引き伸ばされることによって肌に密着するように形成された衣料用伸縮性経編地を
備えたボトム衣類であって、衣料用伸縮性経編地のコース方向を、
ボトム衣類の縦方向とし、衣料用伸縮性経編地は、非弾性糸が編み込まれた編成組織と、弾性糸が挿入された挿入組織と、を有するパワー強化編地を含み、挿入組織において、ウェール方向に隣接するコース同士の弾性糸の量が異なっており、隣接するコースのうち一方のコースに編み込まれる弾性糸が編み込まれる際に引き伸ばされた状態から縮もうとして生じる復元力によって他方のコースに編み込まれる弾性糸が引き伸ばされるように、他方のコースの弾性糸の量が一方のコースの弾性糸の量よりも少なく設定されて、弾性糸の量が異なって
おり、パワー強化編地が、着用者の腹部の正面に密着可能であり、パワー強化編地は、第1領域と、第1領域よりもパワーが弱い第2領域とを有し、逆三角形状に配置された第2領域の上辺がウエスト部の一部を形成しているボトム衣類を提供する。
【0008】
この衣料用伸縮性経編地は、主編地と、主編地よりもパワーが強化されたパワー強化編地と、を備え、パワー強化編地
の挿入組織では、隣接するコースにおける糸の太さが異なるように弾性糸が
挿入されている。
【0009】
ここで、隣接するコースにおいて糸の太さが異なっていると、隣接するコース間で、編み込み時の糸の伸び量に差が生じる。糸径が太い方(糸の外径が大きい方)が、テンションが高い状態で編み込まれることになる。これにより、経編地が編成されて一定時間の経過後、編糸同士の力が釣り合うと(生地がリラックスすると)、糸径が細い方は、糸径が太い方の強い回復(復元)力により弱い緊張状態(すなわち、弱い張力が作用した状態)で安定する。そのため、経編地に外力が作用していない状態において、隣接するコース毎に弾性糸の反発力に差を設けることができる。その結果、緯方向において、経編地が引き伸ばされると、引き伸ばされ始めた段階では、糸径が細い方(他方のコースの弾性糸)にパワーが生じ、糸径が太い方(一方のコースの弾性糸)にパワーが殆ど生じない状態となり、比較的緩やかなパワーを生じさせることができる。一方、経編地の伸び量が更に増加すると、糸径の太い方にもパワーが生じることになる。
そのため、経編地の伸び始めにおいて比較的緩やかなパワーを生じさせつつ、途中から大きなパワーを生じさせることができる。
この結果、経編地の緯方向のおける伸縮性を向上させることができる。
【0010】
パワー強化編地
の挿入組織では、隣接するコースにおける糸の本数が異なるように弾性糸が挿入されていることが好ましい。このように隣接するコースにおいて糸の本数を変化させることで、コース間における糸の太さを変化させてもよい。同一コースにおける糸の本数が多い方が、筬に対する糸の引っ掛かりを強くすることができ、編成時において糸に作用するテンションの差を大きくすることができる。
【0011】
パワー強化編地
の挿入組織では、2本の弾性糸が挿入されたコースと、1本の弾性糸が挿入されたコースとが
ウェール方向に隣接している構成でもよい。同一コースにおける糸の本数が2本の方が、同一コースにおける糸の本数が1本よりも、筬に対する糸の引っ掛かりを強くすることができ、編成時において糸に作用するテンションの差を大きくすることができる。
【0012】
パワー強化編地は、コース方向において編組織を切替えることで、編地のパワーが変更されていてもよい。
【0013】
本発明は、上記の衣料用伸縮性経編地を備えたボトム衣類であって、衣料用伸縮性経編地のパワー強化編地が、着用者の腹部の正面に密着可能であるボトム衣類を提供する。
【0014】
本発明は、上記の衣料用伸縮性経編地を備えた筒状衣類であって、衣料用伸縮性編地のパワー強化編地が、着用者の腹部の正面に密着可能である筒状衣類を提供する。
【0015】
本発明は、衣類に利用可能であり、着用時に引き伸ばされることによって肌に密着するように形成された衣料用伸縮性経編地を製造する方法であって、
衣料用伸縮性経編地のコース方向を、衣類の縦方向とし、衣料用伸縮性経編地は、非弾性糸が編み込まれた編成組織と、弾性糸が挿入された挿入組織とを有するパワー編地を含み、挿入組織において、ウェール方向に隣接するコースにおける弾性糸の量が異なっており、衣料用伸縮性経編地を製造する方法は、衣料用伸縮性経編地の一部には、隣接するコースのうち一方のコースに編み込まれる弾性糸が編み込まれる際に引き伸ばされた状態から縮もうとして生じる復元力によって他方のコースに編み込まれる弾性糸が引き伸ばされるように、他方のコースの弾性糸の量が一方のコースの弾性糸の量よりも少なくなるように弾性糸を編み込
む衣料用伸縮性経編地の製造方法を提供する。
【0016】
この衣類用伸縮性経編地の製造方法では、隣り合うコースのうち一方に編み込まれている弾性糸が編み込み時に引き伸ばされた状態から編み込み後に縮もうとする際に生じる復元力によって他方のコースに編み込まれた弾性糸が引き伸ばされるように、他方のコースに編み込まれる弾性糸の量が一方のコースに編み込まれる弾性糸の量よりも少なくなるように設定されている。
【0017】
ここで、隣接するコースにおいて、例えば、糸の太さや本数が異なることによって編み込まれる糸の量に差があると、隣接するコース間で、編み込み時の糸の伸び量に差が生じる。糸径が太い方(糸の外径が大きい方)が、テンションが高い状態で編み込まれることになる。これにより、編地が編成されて一定時間の経過後、編糸同士の力が釣り合うと(生地がリラックスすると)、糸径が細い方は、糸径が太い方の強い回復(復元)力により弱い緊張状態(すなわち、弱い張力が作用した状態)で安定する。そのため、編地に外力が作用していない状態において、隣接するコース毎に弾性糸の反発力に差を設けることができる。その結果、緯方向において、編地が引き伸ばされると、引き伸ばされ始めた段階では、糸径が細い方にパワーが生じ、糸径が太い方にパワーが生じない状態となり、比較的緩やかなパワーを生じさせることができる。一方、編地の伸び量が更に増加すると、糸径の太い方にもパワーが生じることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、編地の伸び始めに比較的緩やかなパワーを生じさせつつ、途中からパワーを増大させることができ、緯方向における伸縮性を向上させることが可能な衣料用伸縮性経編地
を備えたボトム衣類
を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による衣料用伸縮性経編地、ボトム衣類、及び筒状衣類の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(衣料用伸縮性経編地)
図1に示す編地10は、基礎部11(主編地)と、基礎部11よりもパワーが強化されたパワー強化部12(パワー強化編地)とを有する。編地10は、衣類に利用可能であり、着用時に引き伸ばされることによって着用者の肌に密着するように形成された衣料用伸縮性経編地である。基礎部11とパワー強化部12とは、ウェール方向に隣接している。なお、ウェール方向とは、矢印Xで示す左右方向を示している。コース方向とは、矢印Yで示す上下方向、すなわち各編成組織を構成する糸が編み込まれている方向を示している。
図2,
図4,
図6,及び
図8の組織図では、黒点が各コースにおける1コース分の進み幅を示しており、糸が矢印Y方向に編み込まれるときに、各コースにおいてどのような編み方をされるかを示している。
【0022】
編地10は、例えばジャカードラッセル機などの経編機(不図示)によって編成することができる。
【0023】
基礎部11は、地糸によって編目(ループ)が形成された経編の基本組織である。基礎部11は、例えば、デンビー編み、アトラス編みなどを基本組織とすることができる。基礎部11の編目は、閉じ目でもよく、開き目でもよい。
【0024】
パワー強化部12は、組織が異なる複数の領域20,30,40,50を有する。
図1では、各領域20,30,40,50の配置の一例を示している。第1の領域20は、パワー強化部12の中央部に配置されている。第2の領域
30は、第1の領域20の外側に配置されている。第3の領域30は、第1の領域20を取り囲むように配置されている。第4の領域
50は、例えば円形を成し、第3の領域
40に沿って複数配置されている。
【0025】
第1の領域20は、平面視において、例えばダイヤ形状(ひし形)を成すように形成されている。第2の領域30は、平面視において、例えば逆三角形を成すように形成されている。
【0026】
本実施形態では、第4の領域50、第2の領域30、第1の領域20、第3の領域40の順に編地のパワーが強化されている。第4の領域50のパワーが最も弱く、第3の領域40の最もパワーが強い。編地のパワーが強いとは、編地に力が作用したときの伸び量が小さいことをいう。すなわち、同一の伸び量を得るために必要な引張力が大きいことをいう。
【0027】
(パワー強化部;第1の領域)
図2では、各コースに対応して、左から右へ順に、X−1、X−2、X−3、X−4、X―5、X―6と符号を付している(以下、
図4、
図6、及び
図8について同じ)。また、下方から上方へ順に1コース分進むごとに、Y−1、Y−2、Y−3、Y−4、Y―5、Y−6と符号を付している。なお、Y−6、Y−5、Y−4、…、の順に編み込まれており、Y−1の位置が図示しない筬によって各編成組織が編みこまれている位置を示している。
【0028】
パワー強化部12の第1の領域20は、編成組織A(非弾性糸、60A)と、挿入組織B(弾性糸、70B)と、を有する。
【0029】
図3は、
図2中の第1の領域20の各組織を示す組織図である。
図3の組織図では、糸の編成をニードルの位置によって表す目的で、各糸がガイドバーに案内されて通過する最も右側のコース間の位置を0とし、そこから順に左側に1,2,3・・・の番号を付している。また、下方から上方へ順に1コース分進むごとに、Y−1、Y−2、Y−3、…、と符号を付している(以下、
図5、
図7、及び
図9について同じ)。
【0030】
編成組織A(60A)を編成する際の筬の動きは、1繰り返し単位を32/12/21/01/21/12//で表現することができる。編成組織Aの編糸は、非弾性糸からなる。編成組織Aは、1コース進むごとにループを形成している。編成組織Aで使用される非弾性糸としては、例えばナイロン糸、ポリエステル糸が挙げられる。
【0031】
編成組織Aは、位置Y−1で開き目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−2に至る。編成組織Aは、位置Y−2で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−3に至る。編成組織Aは、位置Y−3で開き目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−4に至る。
【0032】
編成組織Aは、位置Y−4で
開き目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−5に至る。編成組織Aは、位置Y−5で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−6に至る。編成組織Aは、位置Y−6で開き目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−7に至る。そして、これらを繰り返し単位として、編成組織Aを形成する。
【0033】
挿入組織B(70B)を編成する際の筬の動きは、11/33/11/22/00/22//で表現することができる。挿入組織B(70B)の編糸は、弾性糸からなる。挿入組織Bで使用される弾性糸としては、例えば、ポリウレタン糸等のスパンデックス(弾性)糸が挙げられる。
【0034】
挿入組織Bは、位置Y−1から左へ2ウェール分の振り幅として1コース進み、位置Y−2に至る。挿入組織Bは、位置Y−2から右へ2ウェール分の振り幅として1コース進み、位置Y−3に至る。挿入組織Bは、位置Y−3から左へ1ウェール分の振り幅として1コース進み、位置Y−4に至る。
【0035】
挿入組織B(70B)は、位置Y−4から右へ2ウェール分の振り幅として1コース進み、位置Y−5に至る。挿入組織Bは、位置Y−5から左へ2ウェール分の振り幅として1コース進み、位置Y−6に至る。そして、これらを繰り返し単位として、挿入組織Bを形成する。
【0036】
図2に示す第1の領域20の編成組織A(60A)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1、X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。第1の領域20の挿入組織B(70B)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。
【0037】
挿入組織Bは、隣接するコースにおける編糸の番手が互いに異なるように形成されている。挿入組織Bは、隣接するコースにおける編糸の本数が異なるように弾性糸が挿入されている。例えば、挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−4、X−6に1本の弾性糸が挿入されている。挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−3、X−5に2本の弾性糸が挿入されている。隣接するコース(X−2,X−3)のうち一方のコース(X−3)に編み込まれる弾性糸を2本とし、他方のコース(X−2)に編み込まれる弾性糸を1本とすることで、他方のコース(X−2)の弾性糸の量を一方のコース(X−3)の弾性糸の量より少なく設定している。
【0038】
第1の領域20は、同一コースの一つの繰り返し単位(6コース分)において、ブラインドラップが6つ形成され、イベージョンラップが形成されていない。イベージョンラップが多い場合には、伸縮性が大きくなり、ブラインドラップが多い場合には、伸縮性が小さくなる。
【0039】
(パワー強化部;第2の領域)
図4及び
図5に示すパワー強化部12の第2の領域30は、編成組織A(非弾性糸、61A)と、挿入組織B(弾性糸、70B)と、を有する。
【0040】
図5は、
図4中の第2の領域30の各組織を示す組織図である。編成組織A(61A)を編成する際の筬の動きは、1繰り返し単位を01/12/10/01/10/01//で表現することができる。編成組織Aの編糸は、非弾性糸からなる。編成組織Aは、1コース進むごとにループを形成している。
【0041】
編成組織Aは、位置Y−1で閉じ目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−2に至る。編成組織Aは、位置Y−2で閉じ目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−3に至る。編成組織Aは、位置Y−3で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−4に至る。
【0042】
編成組織Aは、位置Y−4で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−5に至る。編成組織Aは、位置Y−5で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−6に至る。編成組織Aは、位置Y−6で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−7に至る。そして、これらを繰り返し単位として、編成組織Aを形成する。
【0043】
図4に示す第2の領域30の編成組織A(61A)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。編成組織Aは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。第2の領域30の挿入組織B(70B)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。
【0044】
第2の領域30は、同一コースの一つの繰り返し単位(6コース分)において、ブラインドラップが4つ形成され、イベージョンラップが2つ形成されている。
【0045】
(パワー強化部;第3の領域)
図6及び
図7に示すパワー強化部12の第3の領域40は、編成組織A(非弾性糸、62A)と、挿入組織B(弾性糸、70B)と、を有する。
【0046】
図7は、
図6中の第3の領域40の各組織を示す組織図である。編成組織A(62A)を編成する際の筬の動きは、32/12/32/01/21/01//で表現することができる。編成組織Aの編糸は、非弾性糸からなる。編成組織Aは、1コース進むごとにループを形成している。
【0047】
編成組織Aは、位置Y−1で開き目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−2に至る。編成組織Aは、位置Y−2で開き目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−3に至る。編成組織Aは、位置Y−3で開き目を形成し、左へ2ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−4に至る。
【0048】
編成組織Aは、位置Y−4で開き目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−5に至る。編成組織Aは、位置Y−5で開き目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−6に至る。編成組織Aは、位置Y−6で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−7に至る。そして、これらを繰り返し単位として、編成組織Aを形成する。
【0049】
図6に示す第3の領域40の編成組織A(62A)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1、X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。第3の領域40の挿入組織B(70B)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。
【0050】
第3の領域40は、同一コースの一つの繰り返し単位(6コース分)において、ブラインドラップが6つ形成され、イベージョンラップが形成されていない。
【0051】
(パワー強化部;第4の領域)
図8及び
図9に示すパワー強化部12の第4の領域50は、編成組織A(非弾性糸、63A)と、挿入組織B(弾性糸、70B)と、を有する。
【0052】
図9は、
図8中の第4の領域50の各組織を示す組織図である。編成組織A(63A)を編成する際の筬の動きは、1繰り返し単位を12/23/21/12/10/12//で表現することができる。編成組織Aの編糸は、非弾性糸からなる。編成組織Aは、1コース進むごとにループを形成している。
【0053】
編成組織Aは、位置Y−1で閉じ目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−2に至る。編成組織Aは、位置Y−2で閉じ目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−3に至る。編成組織Aは、位置Y−3で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−4に至る。
【0054】
編成組織Aは、位置Y−4で閉じ目を形成し、右へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−5に至る。編成組織Aは、位置Y−5で閉じ目を形成し、左へ1ウェール分の振り幅として1コース分進み、位置Y−6に至る。編成組織Aは、位置Y−6で開き目を形成し、ウェール方向には移動せず1コース分進み、位置Y−7に至る。そして、これらを繰り返し単位として、編成組織Aを形成する。
【0055】
図8に示す第4の領域50の編成組織A(63A)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。編成組織Aは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。第4の領域50の挿入組織B(70B)は、位置Y−1において、コース上の位置X−1に編糸が配置されず、コース上の位置X−2に編糸が配置されている。挿入組織Bは、位置Y−1において、コース上の位置X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、…、に編糸が配置されている。
【0056】
第4の領域50は、同一コースの一つの繰り返し単位(6コース分)において、ブラインドラップが2つ形成され、イベージョンラップが4つ形成されている。
【0057】
次に、
図10を参照して、編地がリラックスした状態について説明する。
図10は、リラックスした状態の編地の糸の配置を示す概略図であり、
図10(a)は、第1の領域30を示し、
図10(b)は、第2の領域30を示し、
図10(c)は、第3の領域40を示し、
図10(d)は、第4の領域50を示している。
【0058】
編成時において伸びた状態であった挿入組織B(弾性糸、例えばポリウレタン糸)は、編地がリラックスした状態において、
図10に示すように、元の形状(直線状)に戻ろうとして、編成組織A(非弾性糸)を引き込むことになる。これにより、挿入組織Bが直線状にウェルを形成する。ウェル間を渡る糸がジャカードであり、編成組織Aである。
図10(d)に示す第4の領域50では、編成組織Aは、挿入組織Bに沿った動きとなっている。
【0059】
一般に、経編機では、それぞれの筬に対応するビームから供給される糸の供給速度は、各筬が編成する編組織に応じて設定される。なお、各ビームには全て同じ長さの糸が均等に巻回されている。
【0060】
このため、編地10の編成では、ジャカード糸(編成組織A)は、ビームにより同じ送り出し速度で供給されている。
【0061】
一方、ジャカードで表現可能な自由な絵柄を描く際に、それぞれの糸が異なる動きで編み込まれていても個々の糸の送り出し量を変化させることは困難である。このため、ジャガードで糸を多く必要とすると、ジャガード糸の供給不足になり編地を絞る、締め付けることになる。
【0062】
図10では、ウェル間を渡るジャカード糸は、第3の領域40が最も多く、第4の領域50が最も少ない。このため、第3の領域40では、ウェル間は絞られて狭くなり、第4の領域50では、シンカーループの渡りが無く緩み、ウェル間は広くなる。したがって、
図10を参照すると、第3の領域40、第1の領域20、第2の領域30、第4の領域50の順に、編地のパワーが強くなることが判る。
【0063】
図10では、1本の弾性糸で形成された挿入組織Bを破線で示し、2本の弾性糸で形成された挿入組織Bを実線で示している。1本の弾性糸で形成された挿入組織Bは、例えば310dtexの弾性糸を用いており、2本の弾性糸で形成された挿入組織Bは、例えば310dtexの糸を2本用いている。
【0064】
このように本実施形態に係る編地10は、隣接するコースにおける糸の太さの合計(断面積とも表現できる)が互いに異なるように弾性糸が挿入されている。編地10を製造する際には、編糸にテンションを作用させた状態で編糸を編み込むので、このとき、隣接するコースにおいて糸の上記太さが異なっていると、隣接するコース間で、編み込み時の編糸の伸び量に差が生じることになる。
【0065】
編糸が太い方(コースにおける糸の太さが大きい方)が、編糸に作用するテンションが高い状態で編み込まれるようになる。編地10が編成されて一定時間の経過後、編糸同士の力の釣り合いがとれ、編地10は、リラックスした状態となる。これにより、リラックス状態において、細い方の編糸が、太い方の編糸の大きい復元力によって引っ張られ多少テンションが付与された状態で編地が安定する。このため、編地10では、リラックス状態において、隣接するコース毎に弾性糸の反発力に差が生じ、糸の細い方だけにパワーが生じ易い状態となっている。
【0066】
このような編地10では、伸び始めにおいて、細い方の糸にパワーが生じ、太い方の糸にパワーが生じないようにすることができ、比較的緩やかなパワーを生じさせることができる。すなわち、編地10の伸び量が増加するのに伴い、最初は細い方の糸にパワーが生じ、次第に太い方の糸にもパワーが生じることになる。その結果、編地10の伸び始めに比較的緩やかなパワーを生じさせた後に、徐々にパワーを増大させることができる。編地10では、基礎部11とパワー強化部12とのパワー差に変化を持たせることができる。
【0067】
また、同一コースにおける糸の本数が2本の方が、同一コースにおける糸の本数が1本よりも、筬に対する糸の引っ掛かりを強くすることができるので、編地10の編成時において糸に作用するテンションの差を大きくすることができる。これにより、編地10におけるパワーの差の変化を大きくすることが可能となる。
【0068】
編地10のパワー強化部12は、コース方向において編組織が異なる複数の領域が形成されている。このようにコース方向において編組織を切替えることで、パワー強化部12内におけるパワー差を設けることができる。編地10では、複数の領域のイベージョンラップと、ブラインドラップとの組み合わせ(割合)を変えることで、伸縮性に変化が与えられている。
なお、本実施形態では、パワー強化部12が編地10の一部に編成されている例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、編地10全体をパワー強化部12によって編成するものとしてもよい。
【0069】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る衣料用伸縮性経編地について説明する。なお、上記の実施形態と同一の説明は、省略する。
図11は、本発明の第2実施形態に係る衣料用伸縮性経編地の正面図である。
図11に示す第2実施形態の編地10Bが、
図1に示す第1実施形態の編地10と違う点は、パワー強化部12の各領域20,30,40,50の配置が異なる点である。
【0070】
第2実施形態のパワー強化部12では、略三角形を成す第2の領域30の下辺に沿って、V字状に、第3の領域40が形成されている。第4の領域50は、楕円形を成し、第3の領域40内に配置されている。第1の領域20は、略ひし形を成すように形成されている。第1の領域20の縁を沿うように、第2の領域30又は基礎部11が帯状に形成されている。この帯状の第2の領域30及び基礎部11の外側には、第1の領域20が、中央の第1の領域20の形状に対応して、略ひし形の枠を形成するように配置されている。同様に、帯状の第2の領域30及び基礎部11を挟んで、さらに外側に、略ひし形の枠を形成するように、第1の領域20が配置されている。
【0071】
このような第2実施形態の編地10Bにおいても、第1実施形態の編地10と同様の作用、効果を奏する。
【0072】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るボトム衣類(ガードル)について説明する。なお、上記の実施形態と同一の説明は、省略する。
図12は、本発明の第3実施形態に係るガードルを正面側から示す斜視図である。
【0073】
図12に示すガードル210(ボトム衣類)は、着用者の下半身を覆う本体身頃211を備えている。本体身頃211の上端部212は、伸びの良いゴム素材等によって形成されたウエスト始末である。上端部212は、着用者の胴回りに対応するウエスト部の一部を形成している。
【0074】
ガードル210には、上記実施形態に記載の編地10B(10)が本体身頃211の生地として採用されている。ガードル210の正面中央に、パワー強化部12が配置されている。パワー強化部12は、従来から知られているガードルのタミー構造の代替部であり、一枚の編地によって構成されている。従来のガードルのタミー構造では、複数の生地(パネル)が縫い合わされることで、パワー差を生じさせていた。
【0075】
本実施形態のガードル210によれば、1枚の編地10によって、パワー強化部12が形成されているため、複数の生地を縫い合わせる必要がなくなり、製造時の作業工数を削減することができる。その結果、製造コストを抑制することができる。また、作業工数を削減することで、品質の向上を図ることができる。
【0076】
また、ガードル210では、編地10が採用されているので、ガードル210を着用する際に、比較的緩やかなパワーを発生させた後に、徐々にパワーを増大させることができる。そのため、着用者によっては、着心地の良いパワーを感じることができる。ガードル210では、はき始めの緩やかなパワーを生じることができると共に、確実にパワーを発生させて、着用者の体型を好適に補整することができる。パワー強化部12が密着する部分の外側への張り出しを抑制することで、着用者の体型を補整することができる。
【0077】
また、ガードル210では、パワー強化部12の逆三角形状に配置された、第2の領域30の上辺がウエスト部の一部を形成している。第1の領域20よりもパワーが弱い、第2の領域20をウエスト部に配置することで、ウエスト部として好適な伸びを実現することが可能である。
【0078】
なお、上記実施形態のガードル210では、パワー強化部12が正面側に配置されているが、その他の部分、例えば、脇部、背面側などにパワー強化部12が形成されているガードルでもよい。また、着用者の太腿に対応する部分にパワー強化部12が形成されたボトム衣類でもよい。ボトム衣類は、ガードルに限定されず、スパッツなどでもよい。
【0079】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るウエストニッパー(筒状衣類)について説明する。なお、上記の実施形態と同一の説明は、省略する。
図13は、本発明の第4実施形態に係るウエストニッパーの正面図である。ウエストニッパー400は、腰部周辺の体型を補整する補整衣類である。本例のウエストニッパー400は、バスト下方から腰部周辺までを覆うように身頃部401(身頃本体)が形成されている。
【0080】
ウエストニッパー400には、上記実施形態に記載の編地10B(10)が本体身頃401の生地として採用されている。ウエストニッパー400の正面中央に、パワー強化部12が配置されている。
【0081】
このようなウエストニッパー400によれば、着用者の腹部の出っ張りを補整することができる。なお、パワー強化部12の位置は、筒状衣類の仕様に応じて、変更することができる。より具体的には着用状態で贅肉が盛り上がり易い、左右の両脇部分や、背中心から左右の両脇に至る部分、その他の部分にだけパワー強化部12を設けるといったことが考えられる。この場合には、身頃部401の補整力によって押し出された贅肉をスムージングし、着用状態におけるシルエットをより滑らかな曲線状とすることができる。
【0082】
また、本実施形態では、ウエストニッパーを例に挙げて説明したが、その他の筒状衣類、例えば、靴下、ストッキング、サポーター、ボデイスーツ、水着等に適用することができる。筒状衣類とは、筒状部を有する衣類をいう。
【0083】
以上、本発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、パワー強化部は、編組織が異なる複数の領域を有するものでもよく、単一の編組織から構成されたものでもよい。
【0084】
本発明の衣類用伸縮性経編地は、ボトム衣類、筒状衣類に使用されるものに限定されず、その他の衣類に適用してもよい。例えば、上半身衣類、カップ付き衣類等の一部分に、本発明の衣類用伸縮性経編地を適用してもよい。
【0085】
上記実施形態では、2本の弾性糸が挿入されたコースと、1本の弾性糸が挿入されたコースとを交互に配置しているが、その他の配置でもよい。例えば、3本の弾性糸が挿入されたコースと、1本の弾性糸が挿入されたコースとを交互に配置してもよい。3本の弾性糸が挿入されたコース、2本の弾性糸が挿入されたコース、及び1本の弾性糸が挿入されたコースを順に配置してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、隣接するコースにおいて、弾性糸の本数を変えることで、弾性糸の量を変えているが、同一の糸の本数として、弾性糸の量として糸の太さ(弾性糸の断面積)を変えてもよい。
【0087】
上記実施形態では、編地の繰り返し単位が6コースであるが、繰り返し単位は5コース以下でもよく、7コース以上でもよい。