特許第6192921号(P6192921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000004
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000005
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000006
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000007
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000008
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000009
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000010
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000011
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000012
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000013
  • 特許6192921-モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192921
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20170828BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
   B60L9/18 J
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-246140(P2012-246140)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-96885(P2014-96885A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】神田 剛志
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125121(JP,A)
【文献】 特開2009−255776(JP,A)
【文献】 特開2008−114818(JP,A)
【文献】 特開2002−174328(JP,A)
【文献】 特開2005−348535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/00−15/42,9/00−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転をギヤを介して車輪に伝達し、前記モータの冷却用の油と前記ギヤの潤滑用の油とが共用されるモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、
アクセル入力手段から入力されたアクセル入力に応じて前記モータへの指令トルクを演算する指令トルク演算手段と、
この指令トルク演算手段で演算された指令トルクに応じて、前記モータに流す電流値を制御するモータ駆動制御手段と、
前記油の温度を検出する油温検出手段と、
前記油温検出手段で検出される油温に応じて、指令トルクを変更するモータトルク変更手段と、を有し、このモータトルク変更手段は、前記油温検出手段で検出される油温が定められた温度よりも低温のとき、常温時の最大電流以上の電流値を前記モータに流すことを特徴とするモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、前記モータトルク変更手段は、前記指令トルク演算手段で演算された指令トルクに、前記油温検出手段で検出される油温によって変わる係数を、乗算するものとしたモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、前記モータトルク変更手段は、前記指令トルク演算手段で演算された指令トルクに、前記油温検出手段で検出される油温によって変わるオフセット値を、加算するものとしたモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、アクセル入力とトルク指令値との関係を表すマップを油温毎に複数設け、前記モータトルク変更手段は、前記油温検出手段で検出される油温によって定められるマップを選択し、マップの設定内容に応じて、トルク指令値を変更し前記モータに流す電流値を変更するモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、前記油温検出手段は、前記モータのステータまたはモータハウジングの温度を検出する温度センサと、この温度センサで検出される温度に基づき前記油の温度を推定する油温推定手段とを有するモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、前記モータ搭載自動車全体の統合制御を行う統合制御ECUに、前記モータトルク変更手段を備えたモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、前記モータに接続されたインバータと、このインバータを制御する前記モータ駆動制御手段とを有するインバータ装置に、前記油温検出手段で検出される油温に応じて、前記モータに流す電流値を変更するモータ電流変更手段を備えたモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電気自動車またはハイブリッド車において、外気温が極めて低温の場合に、車輪駆動用のモータに通電する電流値を常温時に比べて大きくするモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転をギヤを介して車輪に伝達し、前記モータの冷却用の油と前記ギヤの潤滑用の油とが共用される電気自動車が提案されている(特許文献1)。この電気自動車では、例えば、外気温が氷点下以下の低温時において、モータのコイルに通電することで、前記油を温めて始動性の向上を図っている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−89625号公報
【特許文献2】特許第3918631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外気温が極めて低温の場合には、モータ冷却用およびギヤ潤滑用の油の粘度が高くなるため、モータの回転抵抗が増加する。この場合、アクセルペダルの踏み込み量に応じて出るトルクが常温時よりも小さくなり、運転者は違和感を感じる。
始動前にモータのコイルに通電して油を温める技術では、油が温まる前に始動され、運転者が違和感を感じる場合がある。
【0005】
この発明の目的は、低温時において、アクセル入力に応じた実際に出力されるトルクを常温時に比べて違和感のないものとし、且つ、迅速に発進することができるモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置は、モータ9の回転をギヤ13,14,17を介して車輪1に伝達し、前記モータ9の冷却用の油と前記ギヤ13,14,17の潤滑用の油とが共用されるモータ搭載自動車において、
アクセル入力手段27から入力されたアクセル入力に応じて前記モータ9への指令トルクを演算する指令トルク演算手段24と、
この指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに応じて、前記モータ9に流す電流値を制御するモータ駆動制御手段23と、
前記油の温度を検出する油温検出手段21と、
前記油温検出手段21で検出される油温に応じて、指令トルクを変更するモータトルク変更手段25とを有することを特徴とする。
【0007】
前述の「油が共用される」とは、同一の粘度を有し、必要な添加剤等を添加した同一銘柄の油を、前記モータ9の冷却用と前記ギヤ13,14,17の潤滑用とに同時に用いることを言う。
前記モータ搭載自動車の電源を投入し、このモータ搭載自動車を発進させるとき、指令トルク演算手段24は、アクセル入力手段27から入力されたアクセル入力に応じてモータ9への指令トルクを演算する。モータ駆動制御手段23は、演算された指令トルクに応じて、モータ9に流す電流値を制御する。ここで外気温が極めて低温の場合には、モータ9の冷却用およびギヤ13,14,17の潤滑用の油の粘度が高くなるため、モータ9の回転抵抗が増加する。
【0008】
そこで油温検出手段21は、例えば、直接またはモータ9のステータやモータハウジングHs等の温度から油温を推定する。さらにモータトルク変更手段25は、油温検出手段21で検出される油温に応じて、モータ駆動制御手段23に送るトルク指令を変更しモータ駆動制御手段23はそのトルク指令に応じた電流をモータ9に流すように制御する。例えば、油温が極低温の場合、アクセル入力より求められた指令トルクに相当するモータ通電電流を、常温時に比べて大きくする。これにより、アクセルの踏み込み量と、実際に出力されるトルクとの関係を、常温時と同様にすることができる。したがって、低温時において、アクセル入力に応じた実際に出力されるトルクを常温時に比べて運転者にとって違和感のないものとし、且つ、従来のモータ搭載自動車よりも迅速に発進することができる。なお常温とは20℃である。
【0009】
前記モータトルク変更手段25は、前記指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに、前記油温検出手段21で検出される油温によって変わる係数を、乗算するものとしても良い。
前記モータトルク変更手段25は、前記指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに、前記油温検出手段21で検出される油温によって変わるオフセット値を、加算するものとしても良い。
アクセル入力とトルク指令値との関係を表すマップを油温毎に複数設け、前記モータトルク変更手段25は、前記油温検出手段21で検出される油温によって定められるマップを選択し、マップの設定内容に応じて、モータ駆動制御手段23に送る指令トルクを変更するものとしても良い。
例えば、極低温時における実験やシミュレーション等により、アクセルの踏み込み量と、出力されるモータトルクとの関係を求め、常温時におけるアクセルの踏み込み量と、出力されるモータトルクとの関係と比較する。これにより、前記係数、前記オフセット値、前記マップを定めることができる。
【0010】
前記モータトルク変更手段25は、前記油温検出手段21で検出される油温が定められた温度よりも低温のとき、常温時の最大電流以上の電流値を前記モータ9に流す。前記定められた温度とは、例えば−20℃とする。油温が極低温である場合は、常温時に流す電流以上の電流をモータ9に流したとしても、モータ9の巻き線の許容電流を超えにくくなる。このため、油温が極低温の場合、常温時の最大電流以上の電流値をモータ9に流し、常温相当の最大トルクを出力することが可能となる。
【0011】
前記油温検出手段21は、前記モータ9のステータまたはモータハウジングHsの温度を検出する温度センサ19と、この温度センサ19で検出される温度に基づき前記油の温度を推定する油温推定手段20とを有するものとしても良い。
前記モータ搭載自動車全体の統合制御を行う統合制御ECU6に、前記モータトルク変更手段25を備えたものとしても良い。
前記モータ9に接続されたインバータ22と、このインバータ22を制御する前記モータ駆動制御手段23とを有するインバータ装置7に、前記油温検出手段で検出される油温に応じて、前記モータに流す電流値を変更するモータ電流変更手段25Aを備えたものとしても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明のモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置は、モータの回転をギヤを介して車輪に伝達し、前記モータの冷却用の油と前記ギヤの潤滑用の油とが共用されるモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置において、アクセル入力手段から入力されたアクセル入力に応じて前記モータへの指令トルクを演算する指令トルク演算手段と、この指令トルク演算手段で演算された指令トルクに応じて、前記モータに流す電流値を制御するモータ駆動制御手段と、前記油の温度を検出する油温検出手段と、前記油温検出手段で検出される油温に応じて、指令トルクを変更するモータトルク変更手段とを有し、このモータトルク変更手段は、前記油温検出手段で検出される油温が定められた温度よりも低温のとき、常温時の最大電流以上の電流値を前記モータに流す。このため、低温時において、アクセル入力に応じた実際に出力されるトルクを常温時に比べて違和感のないものとし、且つ、迅速に発進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の第1の実施形態に係るモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置の概念構成を示す説明図である。
図2】同モータ搭載自動車の車両用モータ駆動装置の断面図である。
図3】同モータ搭載自動車の低温時駆動制御装置の構成を詳細化して他の部分を簡略化したブロック図である。
図4】各種油の温度と粘度との関係を示す図である。
図5】常温時および低温時における、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図である。
図6】常温時および低温時における、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。
図7】(A)は、油温によって変わるオフセット値を設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図、(B)は、前記オフセット値を設定した場合の、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。
図8】(A)は、油温によって変わる係数を設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図、(B)は、前記係数を設定した場合の、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。
図9】(A)は、油温毎にマップを設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図、(B)は、前記マップを設定した場合の、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。
図10】この発明の他の実施形態に係るモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置の要部の構成を示すブロック図である。
図11】この発明のさらに他の実施形態に係るモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図面と共に説明する。図1は、この発明の第1の実施形態に係る低温時駆動制御装置を備えたモータ搭載自動車の概念図である。なお以下の説明は、低温時駆動制御方法についての説明をも含む。このモータ搭載自動車は、左右一対の前輪1を車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車である。車両用モータ駆動装置Aにより、モータ9の回転をギヤを介してアクスル3に伝達することで、前輪1である前側の車輪が回転駆動される。各車輪1,2には、ブレーキ4が設けられている。なお図示しないが、例えば、ハイブリッド車において、補助駆動輪としての後輪を、前記車両用モータ駆動装置により回転駆動することも可能である。
【0015】
車体5には、統合制御電子制御ユニット(統合制御ECU)6と、インバータ装置7と、車両用モータ駆動装置Aと、バッテリ8とが搭載されている。統合制御ECU6は、自動車全体の統括制御,協調制御を行い、インバータ装置7に指令を与える上位制御手段であり、相互にコントロール・エリア・ネットワーク(略称:CAN)等で接続されている。統合制御ECU6は、マイクロコンピュータとその制御プログラム、および電子回路等で構成されている。
【0016】
車両用モータ駆動装置Aについて説明する。
図2に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、走行駆動用のモータ9と、このモータ9の出力軸10の回転を変速して出力する変速機11と、この変速機11から出力された回転を左右一対の前輪1(図1)に分配するディファレンシャル12とを有する。
変速機11は、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列13,14と、モータ9の出力軸であるモータ軸10に連結された入力軸15と前記各変速段のギヤ列13,14にそれぞれ介在し断続の切換えが可能な2ウェイ型のローラクラッチ(図示せず)と、これら各ローラクラッチの断続の切換えを行う変速比切換機構16とを有する。
【0017】
各変速段のギヤ列13,14、ディファレンシャル12を構成するギヤ列17、および前記ローラクラッチ(ギヤ列等と称す)が、互いに共通のケース18内に収められて同ケース18内の共通の油浴によって潤滑されるように構成されている。またケース18と、モータ9のモータハウジングHsとが固定されて一体に設けられている。モータハウジングHsの外周面に、例えば、断面凹形状の環状溝およびこの環状溝を覆う覆い部材が設けられ、環状溝にモータ9の冷却用の油が設けられる。このモータ9の冷却用の油と、前記ギヤ列等の潤滑用の油とが共用される。つまり同一の粘度を有し、必要な添加剤等を添加した同一銘柄の油を、モータ9の冷却用と前記ギヤ列等の潤滑用とに同時に用いるようになっている。
【0018】
モータ9のステータまたはモータハウジングHsに、いずれかの温度を検出する温度センサとして、例えば、サーミスタ19(図3)が取付けられている。この例では、サーミスタ19で検出された検出値から、定められた関係式からなる油温推定手段20(図3)により油の温度が間接的に推定される。前記関係式は、例えば、実験、シミュレーション等に基づいて設定される。このモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置は、これらサーミスタ19と、油温推定手段20とを含む油温検出手段21(図3)を有する。なお車両用モータ駆動装置Aにおける油の貯留部等(図示せず)に、油温を直接検出する温度センサを設けても良い。
【0019】
制御系について説明する。
図3に示すように、インバータ装置7は、インバータ22と、このインバータ22を制御するモータ駆動制御手段23とを有する。インバータ22は、スイッチング素子からなる複数のパワー素子で構成されて、バッテリ8の直流電力を3相の交流電力に変換する。モータ駆動制御手段23は、後述する指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに応じて、モータ9に流す電流値を制御する。このモータ駆動制御手段23では、指令トルクから電流指令に変換して、図示外のPWMドライバに電流指令を与える。このPWMドライバは入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各スイッチング素子にオンオフ指令を与える。インバータ装置7には、さらに前記油温推定手段20が設けられている。
【0020】
統合制御ECU6には、指令トルク演算手段24と、モータトルク変更手段25とを含むモータ制御部26が設けられている。
このモータ搭載自動車の低温時駆動制御装置は、指令トルク演算手段24と、モータ駆動制御手段23と、油温検出手段21と、モータトルク変更手段25とを有する。
指令トルク演算手段24は、アクセルペダル(アクセル入力手段)27から入力されたアクセル入力、つまり加速指令に応じてモータ9への指令トルクを演算する。なお、この例では、アクセル入力のみから指令トルクを演算しているが、この例に限定されるものではない。例えば、アクセルペダル27の出力する加速指令と、図示外のブレーキ操作手段の出力する減速指令とから、モータ9に与える加速・減速指令を指令トルクとして演算しても良い。
【0021】
モータトルク変更手段25は、油温検出手段21の油温推定手段20で推定された油温に応じて指令トルクを変更し、モータ駆動制御手段23によりその指令トルク相当の電流をモータ9に流す。具体的に、モータトルク変更手段25は、油温推定手段20で推定され前記CANで送られた油温が設定温度よりも低いか否かを判定する判定部25aを含む。モータトルク変更手段25は、判定部25aで油温が設定温度よりも低いと判定されたときのみ、指令トルクを変更し、モータ駆動制御手段23によりその指令トルク相当の電流をモータ9に流す。前記設定温度は、例えば0℃よりも低い温度とされる。
前述したように、外気温が極めて低温の場合には、モータ冷却用およびギヤ潤滑用の油の粘度が高くなるため、モータ9の回転抵抗が増加する。
図4は、各種油の温度と粘度との関係を示す図である。同図に示すように、モータ冷却用およびギヤ潤滑用の4種類の油(1)〜(4)について油温と粘度との関係を調べたところ、いずれの油(1)〜(4)についても、油温が下がる程、粘度が高くなる傾向が認められた。
【0022】
図5は、常温時および低温時における、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図である。以下、図3も参照しつつ説明する。モータトルク変更手段25は、常温時におけるアクセル入力に対する指令トルクよりも、低温時におけるアクセル入力に対する指令トルクが大きくなるように、モータ9に流す電流値を増やす。図6は、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。具体的に、常温時におけるトルク・電流直線よりも、低温時におけるトルク・電流直線が油温に応じて図6縦軸方向に高くなるように、モータ9に流す電流値を増やす。より具体的には、図7乃至図9に示すように、低温時にモータに流す電流値を増やす。
【0023】
図7(A)は、油温によって変わるオフセット値を設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図であり、図7(B)は、前記オフセット値を設定した場合の、指令トルクとモータ9に流す電流値との関係を示す図である。モータトルク変更手段25は、例えば、指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに、油温検出手段21で検出される油温によって変わるオフセット値を、加算する。オフセット値は、例えば、モータトルク変更手段25におけるメモリ28に書換え可能に記録される。このようなオフセット値を設定した場合、図7(A)に示すように、同一のアクセル入力に対し、油温が低くなればなる程、指令トルクが大きくなる。
【0024】
ここで表1は、油温によって変わるオフセット値の一例を表す。
【表1】
【0025】
図8(A)は、油温によって変わる係数を設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図であり、図8(B)は、前記係数を設定した場合の、指令トルクとモータに流す電流値との関係を示す図である。モータトルク変更手段25は、例えば、指令トルク演算手段24で演算された指令トルクに、油温検出手段21で検出される油温によって変わる係数を、乗算する。前記係数は、例えば、前記メモリ28に書換え可能に記録される。このような係数を設定した場合、油温が低くなればなる程、図8(A)に示すように、アクセル入力に対する指令トルクの直線の傾きが大きくなり、図8(B)に示すように、指令トルクに対するモータ9の電流値の直線の傾きが大きくなる。
【0026】
ここで、表2は、油温によって変わる係数の一例を表す。
【表2】
【0027】
図9(A)は、油温毎にマップを設定した場合の、アクセル入力と指令トルクとの関係を示す図であり、図9(B)は、前記マップを設定した場合の、指令トルクとモータ9に流す電流値との関係を示す図である。モータトルク変更手段25は、例えば、油温検出手段21で検出される油温によって定められるマップを選択する。前記マップは、アクセルと指令トルクとの関係を表すデータであり、例えば、前記メモリ28に書換え可能に記録される。このようなマップを設定した場合、図9(A)に示すように、同一のアクセル入力に対し、油温が低くなればなる程、指令トルクが大きくなり、図9(B)に示すように、同一の指令トルクに対し、油温が低くなればなる程、モータ9の電流値が大きくなる。
【0028】
作用効果について説明する。
モータ搭載自動車の電源を投入し、このモータ搭載自動車を発進させるとき、指令トルク演算手段24は、アクセル入力手段27から入力されたアクセル入力に応じてモータ9への指令トルクを演算する。モータ駆動制御手段23は、演算された指令トルクに応じて、モータ9に流す電流値を制御する。ここで外気温が極低温(例えば、−30℃よりも低温)の場合には、モータ9の冷却用およびギヤ列等の潤滑用の油の粘度が高くなるため、モータ9の回転抵抗が増加する。
【0029】
そこでサーミスタ19で、モータ9のステータまたはモータハウジングHsの温度を常時に検出する。このサーミスタ19で検出された検出値から、油温推定手段20により油温を間接的に推定する。さらにモータトルク変更手段25は、油温に応じて指令トルクを変更し、モータ駆動制御手段23によりその指令トルク相当の電流をモータ9に流す。例えば、油温が極低温の場合、アクセル入力より求められた指令トルクに相当するモータ通電電流を、常温時に比べて大きくする。このモータ通電電流は、前述したように油温によって変わる係数、オフセット値、およびマップの少なくともいずれか1つに基づき求めた指令トルクより算出される。これにより、アクセルの踏み込み量と、実際に出力されるトルクとの関係を、常温時と同様にすることができる。したがって、低温時において、アクセル入力に応じたトルクを常温時に比べて運転者にとって違和感のないものとし、且つ、従来のモータ搭載自動車よりも迅速に発進することができる。
【0030】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0031】
モータトルク変更手段25は、油温検出手段21で検出される油温が定められた温度よりも低温のとき、常温時の最大電流以上の電流値をモータ9に流すものとしても良い。前記定められた温度とは、例えば−20℃とする。油温が極低温である場合は、常温時に流す電流以上の電流をモータ9に流したとしても、モータ9の巻き線の許容電流を越えにくくなる。このため、油温が極低温の場合、常温時の最大電流以上の電流値をモータ9に流し、常温相当の最大トルクを出力することが可能となる。これにより、前述の第1の実施形態と同様に、低温時において、アクセル入力に応じた実際に出力されるトルクを常温時に比べて運転者にとって違和感のないものとし、且つ、従来のモータ搭載自動車よりも迅速に発進することができる。
【0032】
前記モータトルク変更手段25に代えて、図10に示すように、モータ電流変更手段25Aをインバータ装置7に設けても良い。その場合、統合制御ECU6より送られた指令トルクより求められる電流値を油温によって変更する。油温推定手段20を、インバータ装置以外の箇所に設けても良い。
図3または図10の構成において、判定部25aおよびメモリ28のいずれか一方または両方を、モータトルク変更手段25,モータ電流変更手段25Aとは別に設けても良い。
【0033】
図11に示すように、駆動輪となる左右の車輪2,2が、それぞれ独立の走行用のモータ9,9により駆動される電気自動車に、いずれかの低温時駆動制御装置を搭載してもよい。前記モータ9の回転は、減速機(ギヤ)29、および車輪用軸受30を介して車輪2に伝達される。これらモータ9、減速機29、および車輪用軸受30は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置31を構成している。図11の構成においても、モータトルク変更手段が油温に応じて指令トルクを変更し、モータ駆動制御手段によりモータ9に流す電流値が変更されることで、低温時において、アクセル入力に応じたトルクを常温時に比べて運転者にとって違和感のないものとし、且つ、従来のモータ搭載自動車よりも迅速に発進することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…車輪
6…統合制御ECU
7…インバータ装置
9…モータ
20…油温推定手段
21…油温検出手段
22…インバータ
23…モータ駆動制御手段
24…指令トルク演算手段
25…モータトルク変更手段
25A…モータ電流変更手段
27…アクセル入力手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11