(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る具体的態様は、新たな構造の配向膜を用いた新規な液晶素子を提供することを目的の1つとする。
また、本発明に係る具体的態様は、上記課題を解決し得るエレクトロスプレー技術を利用した新たな配向膜の製造技術を提供することを目的の1つとする。
さらに、本発明に係る具体的態様は、上記の新たな配向膜の製造技術を用いた液晶素子の製造技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)対向配置された第1基板と第2基板と、(b)第1基板と第2基板の少なくとも一方の一面側を部分的に覆うようにして設けられた複数の導電膜と、(c)
複数の導電膜の少なくとも一部を覆うようにして設けられた第1配向膜と、(d)第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層
と、(e)複数の導電膜と重なる領域及びその周辺領域を覆うように設けられた第2配向膜と、を含み、(
f)第1配向膜は、複数の導電膜の各々ごとに異なる種類のものであ
り、(g)第1配向膜は、複数の導電膜の各々との間に第2配向膜を挟んで設けられている、液晶素子である
【0008】
上記構成によれば、基板上の複数の導電膜の各位置に対応して選択的にそれぞれ異なる種類の配向膜が設けられ、これらの配向膜によって液晶層を配向させることが可能な液晶素子が得られる。
また、複数の導電膜と重なる領域とその周辺領域で液晶層を異なる状態に配向させることができるため、多様な配向制御が可能となる。
【0011】
上記の液晶素子において、例えば第1配向膜は、複数の微細な配向膜片が不規則に積み重なった構造を有する。
【0012】
このような構造の配向膜であれば、例えば後述する製造方法によって導電膜の位置に対応して選択的に形成することが可能である。
【0013】
上記の液晶素子においては、
複数の導電膜
の各々が液晶層に電界を与えるための
画素電極であってもよい。
【0014】
それにより、構成の簡素化が可能となる。
【0015】
本発明に係る一態様の液晶用の配向膜製造方法は、基板上に液晶用の配向膜を製造するための方法であって、(a)基板上に、当該基板の一面側を部分的に覆う形状の複数の導電膜を形成する第1工程と、(b)基板の複数の導電膜の各々ごとに、当該各導電膜と配向膜の材料液との間に相対的に電位差を与えながら材料液を放出することにより材料液を霧状にして当該霧状の材料液を基板の複数の導電膜の各々の少なくとも一部と重なる領域に対して選択的に散布する第2工程と、(c)散布された材料液を固化させることにより第1配向膜を形成する第3工程を含
み、(d)第1工程の後であって第2工程の前に、導電膜と重なる領域及びその周辺領域を覆う第2配向膜を形成する第4工程を更に含む、液晶用の配向膜製造方法である。
【0016】
上記方法によれば、基板上の複数の導電膜が設けられた領域に対してそれぞれ選択的に材料液を散布することができるので、その領域に均一性の高い配向膜を製造することができる。また、導電膜に対応する領域とそれ以外の領域とで異なる配向規制力を発揮させることもできる。また、互いに分離した複数の導電膜を設けていることにより、それぞれの導電膜に対応して異なる種類の配向膜を形成することも可能となる。
また、比較的簡単な工程により基板面内において異なる種類の配向膜を容易に形成することが可能となる。
【0019】
本発明に係る一態様の液晶素子の製造方法は、(a)第1基板と第2基板の少なくとも一方の一面側に配向膜を形成する配向膜形成工程と、(b)第1基板と第2基板を対向配置させる基板配置工程と、(c)第1基板と第2基板の間に液晶層を形成する液晶層形成工程を含み、(d)配向膜形成工程が上記した配向膜製造方法を用いて行われる、液晶素子の製造方法である。
【0020】
上記方法によれば、均一性の高い配向膜を有する液晶素子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、エレクトロスプレー技術を利用した配向膜の形成方法を模式的に示した図である。
図1に示すように、基板101の一面には、予め所定形状にパターニングされた電極102が設けられている。このような基板101の一面とキャピラリー(毛細管)100との距離を適宜(例えば、数cm程度)に確保し、キャピラリー100と基板101の間に電圧印加装置104を用いて高電圧(例えば数kVの直流電圧)を印加しながら、配向膜の材料液(以下「配向膜液」という。)103をキャピラリー100の先端に供給する。それにより、キャピラリー100から吐出される配向膜液103はプラスの電位を帯びた状態の液体粒子となる。この電位を帯びた液体粒子は、電気的に反発しながら細かく分裂して拡がり、霧状の微小液滴(霧状体)105となる。この微小液滴105がマイナスに帯電した基板101に引き寄せられ、主に基板101の電極102上に付着する。その後、基板101に到達した微小液滴105に対して適宜熱処理等を与えて膜化(固化)させることにより、多数の微細な配向膜片を含んで構成された配向膜が電極102上に形成される。
【0024】
ここで、きれいに液滴を散布するためには配向膜液の粘度が低いことが望ましい。そのため、例えばテトラヒドロフラン、アセトニロリル、アセトン、エタノール、IPA等の溶剤によって配向材を希釈して配向膜液を調製することが望ましい。希釈用の溶剤としては、基本的には沸点が低く、揮発性の高い材料が望ましい。エレクトロスプレー堆積法により散布する際には非常に細かな液滴となるが、基板に向かって飛んでいる間にアセトンなどの有機溶媒は蒸発するものと考えられる。従って、ここで用いる希釈用の溶剤は、揮発性が高ければ何を選んでも液晶分子の配向性には大きな影響を与えないと考えられる。
【0025】
このような方法(以下「エレクトロスプレー堆積法」という)を使って配向膜を製造する方法の主な利点は以下の通りである。
(a)ナノオーダーの微細な液滴を散布可能
(b)常温常圧で成膜可能
(c)ドライプロセスで成膜可能
(d)装置構成が比較的に簡素(単純)
(e)成膜可能な材料が多い
(f)成膜に必要な材料が少量で済む
【0026】
図2は、本実施形態のエレクトロスプレー堆積法における好適な散布電圧について説明するための図である。
図2(A)はキャピラリーと基板の間の電圧(電極間電圧)と全イオン量との関係を示す。図示のように、電極間電圧をしきい値電圧より200V程度高い電圧としたときが安定電圧である場合が多い。
図2(B)に示すように、この電極間電圧の大きさにより配向膜液の散布モードが変化する。電極間電圧が相対的に低い時には比較的に液滴サイズが大きくなるマイクロドロッピングモードとなり、電極間電圧が大きくなるにつれて液適サイズが均一で微小となるコーンジェットモードが表れ、次いで液滴サイズの均一性が低下したマルチジェットモードとなる。
【0027】
図3は、エレクトロスプレー堆積法を用いた配向膜の製造装置の構成例を示す図である。
図3に示す配向膜の製造装置は、配向膜液を内部に保持するための円筒状等のシリンジ(筒)110とこのシリンジ110の一端に設けられたキャピラリー100と、配向膜を形成する対象となる基板101を保持する絶縁性の基板ホルダー(基板固定手段)111と、キャピラリー100と基板101の間に電圧を印加するための電圧印加装置(高圧直流電源)104を備える。基板ホルダー111は、基板101上の電極に接地電位を与えることが可能に構成されている。これにより、キャピラリー100と電極の間にのみ電圧を印加することができる。また、基板ホルダー111は、キャピラリー100と基板101の距離を調整することができるように構成されている。また、基板ホルダー111は、キャピラリー100に対する基板101の相対的な位置を移動可能に構成されていてもよい。例えば、基板101を一方向に搬送しながら配向膜液を塗布することにより、膜厚の均一性を向上させることができる。この場合、搬送速度は例えば10mm/分程度とすることができる。
【0028】
図4(A)〜
図4(C)は、本実施形態による配向膜の製造方法の一例を示す模式的な断面図である。
図4(A)に示すように、ガラス基板等の基板101の一面上に所定パターンの電極102を形成する。具体的には、例えばITO(インジウム錫酸化物)膜などの導電膜を基板101の一面上に成膜し、あるいは予めITO膜等の導電膜が全面に成膜された基板101を用意する。そして、この導電膜をフォトリソグラフィ技術により所望形状にパターニングする。次に、
図4(B)に示すように、基板101の一面上に電極102を覆うようにして配向膜106を形成する。具体的には、例えば基板101上に配向膜液をスピンコート法などで塗布し、所定条件にて焼成することにより配向膜106が形成される。配向膜106は、例えば水平配向膜または垂直配向膜である。形成された配向膜106に対して、ラビング処理等の配向処理を施してもよい。次に、
図4(C)に示すように、例えば上記した配向膜の製造装置を用いてエレクトロスプレー堆積法により配向膜107を形成する。各配向膜107は、図示のように電極102のパターンと対応した位置に選択的に形成される。各配向膜107は、微細な配向膜片が凝集した構造となる。なお、上記では配向膜106の形成後にラビング処理等の配向処理を行うと説明したが、配向膜107の形成後に配向処理を行ってもよいし、各配向膜106、107を形成するごとに配向処理を行ってもよい。
【0029】
次に、上記したエレクトロスプレー堆積法によって形成される配向膜を適用可能な液晶表示素子について説明する。
【0030】
図5は、一実施形態の液晶素子(液晶表示装置)の構成を模式的に示す断面図である。
図5に示す液晶素子は、第1基板11と第2基板12の間に液晶層17を介在させた基本構成を有する。第1基板11の外側には第1偏光板21が配置され、第2基板12の外側には第2偏光板22が配置されている。以下、さらに詳細に液晶素子の構造を説明する。なお、液晶層17の周囲を封止するシール材等の部材については図示および説明を省略する。
【0031】
第1基板11および第2基板12は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板11と第2基板12は互いの一面が対向するようにして、所定の間隙(例えば数μm)を設けて貼り合わされている。なお、図示を省略するが、いずれかの基板上に薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成されていてもよい。
【0032】
第1電極13は、第1基板11の一面側に設けられている。また、第2電極14は、第2基板55の一面側に設けられている。第1電極13および第2電極14は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0033】
配向膜15は、第1基板11の一面側に第1電極13を覆うようにして設けられている。配向膜16は、第2基板12の一面側に第2電極14を覆うようにして設けられている。これらの配向膜15、16は、例えばスピンコート法などによって配向膜液を塗布し、それを焼成することによって形成される。各配向膜15、16は、例えば水平配向膜である。
【0034】
配向膜18は、第1基板11の一面側において配向膜15に重ねて設けられている。この配向膜18は、第1電極13のパターンと対応した位置に設けられている。配向膜19は、第2基板12の一面側において配向膜16に重ねて設けられている。この配向膜19は、第2電極14のパターンと対応した位置に設けられている。これらの配向膜18、19は、上記したエレクトロスプレー堆積法によって形成される配向膜であり、それぞれ、例えば垂直配向膜である。
【0035】
液晶層17は、第1基板11と第2基板12の相互間に設けられている。液晶層17を構成する液晶材料の誘電率異方性Δεは正(Δε>0)であっても負(Δε<0)であってもよい。
【0036】
図6(A)は、電極構造の一例を示す模式的な平面図である。例えば、第1電極13は図中の左右方向に延在するストライプ状の電極であり、第2電極14は図中の上下方向に延在するストライプ状の電極である。この場合、第1電極13と第2電極14の交差する各領域が画素部50となる。すなわち、本例の液晶表示装置は、複数の画素部50がマトリクス状に配置された単純マトリクス型の液晶表示装置である。このような電極構造を有する場合には、例えば下地としての各配向膜15、16(
図5参照)を形成し、さらに上記したエレクトロスプレー堆積法により第1電極13と第2電極14の各々と重畳する領域に各配向膜18、19を形成する。
【0037】
このとき、例えば、各配向膜15、16として液晶分子に与えるプレティルト角が少し大きい配向膜(水平配向膜または垂直配向膜)を形成し、各配向膜18、19として液晶分子に与えるプレティルト角が相対的に少し小さい配向膜(水平配向膜または垂直配向膜)を形成することができる。それにより、画素部50とそれ以外の領域でプレティルト角を異なる大きさに設定できるため、いわゆるオフセグ見えを抑制することが可能になる。
【0038】
詳細には、一般に単純マトリクス型の液晶表示装置では、オフ画素であってもオフ電圧が印加されるため、電極が存在しない領域(背景領域)とオフ画素(オフセグ)で透過率に差が生じ、オフ画素が視認されてしまうという問題がある。これに対して、上記のように電極が存在しない領域にはプレティルト角の相対的に高い配向膜を設け、電極の存在する領域にはプレティルト角の相対的に低い配向膜を設けることで、背景領域とオフ画素の透過率の差をより少なくし、オフセグ見えを抑制することができる。
【0039】
また、この方法によれば駆動電圧を全体的に高くすることもできるため、オン画素の透過率をより高くすることができるというメリットもある。この場合、引き回し線部分はプレティルト角が相対的に低くオフ電圧でも動作しないため、なるべく細く目立たなくすることが望ましい。このような対応は、水平配向膜を用いて誘電率異方性が正の液晶材料を配向させる動作モード(TN、STN等)、もしくは垂直配向膜を用いて誘電率異方性が負の液晶材料を配向させる動作モードに適用することができる。
【0040】
図6(B)は、電極構造の他の一例を示す模式的な平面図である。本例の液晶表示装置は、図中の左右方向に延在する複数のゲート線60と図中の上下方向に延在する複数のソース線61と、それらの交差する位置に設けられた複数の薄膜トランジスタ62を有するアクティブマトリクス型の液晶表示装置である。そして、各第2電極14は1つの薄膜トランジスタ62に接続されて画素電極として機能する。なお、第1電極13(
図5参照)は各第2電極14と対向するように第1基板11の一面全体に設けられている。このような電極構造を有する場合には、例えば下地としての各配向膜15、16(例えば水平配向膜)を形成し、さらに上記したエレクトロスプレー堆積法により各第2電極14と重畳する領域に配向膜19(例えば垂直配向膜)を形成する。なお、この場合、配向膜18は省略される。
【0041】
このとき、各第2電極14は個別に選択して電圧を印加することが可能であるため、画素ごとに異なる種類の配向膜を設けることも可能である。さらに、それぞれが薄膜トランジスタ等のスイッチング素子と接続された複数のサブ画素電極を含んで1つの画素部が構成されている場合には、その画素部の中でサブ画素電極ごとに異なる配向膜を設けることも可能である。また、例えば、各配向膜15、16として垂直配向膜を設け、その上に各第2電極14と重なる位置に水平配向膜を設けることもできる。その場合、第1偏光板21と第2偏光板22をクロスニコル配置とすれば、電極間の透過光を黒色にすることができるため、いわゆるブラックマトリクスと同等な機能を実現することができる。この場合、従来は成膜精度の都合上、ブラックマトリクスはその端部がいくらか画像部の電極に重なるように形成されるためにその重なり領域の分だけ開口率が低下していたが、本実施形態の場合には原理上、画素部の電極以外の領域だけでブラックマトリクスの機能を発揮できるため、従来に比べて開口率を向上することができる。
【0042】
なお、上記した単純マトリクス型およびアクティブマトリクス型のいずれにおいても、配向処理の方向に対して液晶分子の並ぶ方向が異なる配向膜を塗り分けることで、画素ごとに視角特性が異なる液晶表示装置を安価に製造することができる。それにより、観察者の見る方向によって異なる情報を表示するマルチ視角表示を実現することができる。
【0043】
(実施例)
次に、本発明を適用した液晶素子の実施例について説明する。
【0044】
ITO(インジウム錫酸化物)膜が形成された一対のガラス基板を用意する。ITO膜の厚さは1500Å、ガラス基板の厚さは0.7mmであり材質は無アルカリガラスである。これらのガラス基板を洗浄し、ITO膜を一般的なフォトリソグラフィ工程およびエッチング工程によりパターニングする。ここでは、エッチング方法として第二塩化鉄を用いたウェットエッチングを用いた。一対のガラス基板のうちの一方には、ITO膜をパターニングすることにより、後のエレクトロスプレー堆積法による配向膜形成に対応した電極を形成した。
【0045】
次に、一対のガラス基板のうち、エレクトロスプレー堆積法による配向膜形成に対応した電極を有するガラス基板には水平配向膜の材料液をスピンコートにより塗布し、100℃・10分間の条件で仮焼成し、その後250℃・60分間の条件で本焼成した。同様に、他方のガラス基板には垂直配向膜の材料液をスピンコートにより塗布し、100℃・10分間の条件で仮焼成し、その後220℃・60分間の条件で本焼成した。その後、両方のガラス基板の各配向膜に対してラビング処理を行った。
【0046】
次に、水平配向膜を設けたガラス基板に、エレクトロスプレー堆積法によって垂直配向膜を形成した。具体的には、垂直配向膜の材料液と溶剤(テトラヒドロフランとアセトニトリルを6:4で混合したもの)の混合液をエレクトロスプレー堆積法に適した配向膜製造装置(
図3参照)によって塗布した。散布した混合液(配向膜液)については、100℃・10分間の条件で仮焼成し、その後220℃・60分間の条件で本焼成した。
【0047】
エレクトロスプレー堆積法の実施にあたっては、キャピラリーとガラス基板の相互間距離(電極間距離)は4〜8cmとし、これらの間に3.0〜4.2kVの電圧を印加し、散布時間は15〜30分間に設定した。キャピラリーの外径は150μm、内径は50μmである。なお、キャピラリー先端をガラス基板の中央と相対させず、わずかに(〜数cm)両者の相対的位置をずらすことにより、垂直配向膜の材料液と溶剤の混合液をより均一に散布できた。また、キャピラリーとガラス基板の相互間距離はより大きく設定するほうが混合液をより均一に散布できた。
【0048】
次に、一対のガラス基板の貼り合わせを行った。基板間距離を一定に保つため、一方のガラス基板上にギャップコントロール材を乾式散布法にて散布した。ギャップコントロール材としては粒径6μmの真し球を用いたが、プラスチックボール等を用いてもよい。また、他方のガラス基板上にはメインシール(および導通材)を形成した。ここでのメインシールの形成にはスクリーン印刷法を用いたが、ディスペンサ等を用いてもよい。シール剤としては熱硬化性のものを用いたが、光硬化性のものや光・熱併用型のものであってもよい。また、シール剤には粒径6μmのグラスファイバーを混入した。また、Auボールなどを含む導通材を所定の位置に印刷した。ここでは上記したシール材に、グラスファイバーの粒径よりも1μm程度ずつ大きな粒径を有するAuボールを混入したものを導通材としてスクリーン印刷した。なお、導通材は他方のガラス基板上に印刷してもよい。その後、一対のガラス基板を所定位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理によりシール剤を硬化させた。ここではホットプレス法(150℃焼成)にて熱硬化を行った。
【0049】
次に、セル化した一対のガラス基板の間隙に真空注入法によって液晶材料を注入し、注入口をエンドシール剤によって封止した。これにより一対のガラス基板の間に液晶層が形成された。その後、液晶層の配向を整えるために、液晶材料の相転移温度以上にセルを加熱した。ここでは、オーブンにより120℃・30分間の熱処理を行った。
【0050】
次に、洗剤や有機溶剤によってセルを洗浄し、一対のガラス基板の各外側に偏光板を貼り合わせた。以上により液晶素子が完成した。
【0051】
図7(A)〜
図7(C)は、それぞれ実施例の液晶素子の偏光顕微鏡による観察像を示す図である。
図7(A)はエレクトロスプレー堆積法に用いる電極の幅を50μmとした場合の観察像であり、
図7(B)はエレクトロスプレー堆積法に用いる電極の幅を200μmとした場合の観察像であり、
図7(C)はエレクトロスプレー堆積法に用いる電極の幅を250μmとした場合の観察像である。いずれの図においても「A,P」は偏光板の透過軸方向を示し、「R」はラビング方向を示している。また、各図において図中で黒色に見えている部分が電極の設けられた領域である。各図に示すように、電極の存在する領域に対して選択的に垂直配向膜を形成できており、それ以外の領域は下地の水平配向膜が露出していることが分かる。なお、ここでは代表的な観察像を示したが、これら以外にも電極の配置ピッチを変更した液晶素子を形成してそれらを観察したところ、少なくとも25μm〜400μmの配置ピッチの範囲内において、電極の存在する領域に対して選択的に垂直配向膜を形成できることを確認した。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態による液晶素子(あるいは液晶表示装置)の構造並びに製造方法は、特開2011−107376号公報等の特許文献に開示される2つの配向状態間の遷移を利用した新規なツイストネマティック型液晶素子のようなメモリー性を有する液晶素子(あるいは液晶表示装置)にも適用することが可能である。
【0053】
図8(A)〜
図8(C)は、メモリー性を有する液晶素子における適用例を説明するための模式図である。上記のようなメモリー性を有する液晶素子においては配向状態間を遷移させた後の保持時間をより長くするために高分子安定化処理を行う場合があるが、液晶層内に高分子ネットワークを形成するための紫外線照射工程が増加するという不都合がある。また、電極内に他の配向状態が存在するために特性に影響を与えるという不都合もある。これに対して、
図8(A)に示すように、上基板201の電極203および下基板202の電極204と重なる領域に上記のような方法によって選択的に配向膜を形成することで、電極の存在する領域とそれ以外の領域とで液晶層207の配向状態を変えることができる。この場合、
図8(B)に示すように各電極203、204を介して液晶層207に電圧を印加することによって液晶層207の各電極203、204に挟まれた領域の配向状態を遷移させた後、電圧印加を解除すると、
図8(C)に示すように配向状態の遷移した領域のみその配向状態を維持する。各電極203、204の形成領域以外の領域には予め保持したい配向状態に対応する配向膜を形成しておくことで、特性に影響することはない。