特許第6192941号(P6192941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192941
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】中綿および衣服
(51)【国際特許分類】
   B68G 3/04 20060101AFI20170828BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20170828BHJP
   D06C 11/00 20060101ALI20170828BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20170828BHJP
   A41D 31/00 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
   B68G3/04
   D03D1/00 Z
   D06C11/00 Z
   A41D13/00
   !A41D31/00 501A
   !A41D31/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-11483(P2013-11483)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2013-177721(P2013-177721A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-27657(P2012-27657)
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松精練株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高木 泰治
(72)【発明者】
【氏名】米澤 和洋
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−182456(JP,A)
【文献】 特開平01−272853(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0119811(US,A1)
【文献】 特開昭61−075841(JP,A)
【文献】 特開平08−218257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00−13/12
20/00
31/00−31/02
B68G1/00−99/00
D03D1/00−27/18
D06B1/00−23/30
D06C3/00−29/00
D06G1/00−5/00
D06H1/00−7/24
D06J1/00−1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物を起毛してなる中綿であって、前記中綿の目付が20g/m〜120g/mであり、前記中綿の厚みが0.5mm〜1.6mmである中綿。
【請求項2】
起毛前に比べて起毛後の厚みの増加率が50%以上である請求項1に記載の中綿。
【請求項3】
前記中綿を構成する単繊維の繊度が2.5デシテックス未満である請求項1または2に記載の中綿。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の中綿を用いた衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中綿およびこれを用いた衣服に関するものであり、特に織物または編物を用いて製造される中綿および衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中綿は、保温性を高める目的で衣料をはじめ寝具等に使用されている。その素材としては、綿(めん)、真綿、羊毛、羽毛などの天然繊維から合成繊維まで多くのものが知られている。
【0003】
中綿は、衣服等に保温性を付与するためには重要な材料ではあるが、従来の中綿を衣服等に用いる場合には以下の問題点があった。
【0004】
第1に、従来の中綿は嵩が大きいために運搬や保管のコストが高くつくという高コストの問題がある。第2に、従来の中綿は飛散したり嵩が高かったりするので衣服等に縫製しがたく、また、別途ダウンパックに羽毛を充填して使用するなど縫製時に手間がかかるという縫製時の問題がある。第3に、従来の中綿は縫製後に衣服内でずれてしまうというワタずれの問題がある。第4に、従来の中綿では、表地や裏地、また、縫製部の針穴から中綿が飛び出すことがあるという問題もある。
【0005】
従来、このような問題点を解消するために、中綿を挟む裏地や表地に対して種々の対応がとられている。例えば、ワタずれの問題に対しては、中綿を入れた部分にキルティングを細かく施す対応がとられている。また、中綿が飛び出す問題に対しては、表地や裏地に細い繊維を用いたり、カレンダー加工を行い繊維と繊維の隙間を小さくしたり、表地や裏地の糸を使って織・編組織や密度などを制限してカバーファクターを大きくしたりするなどの対応がとられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−285704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ワタずれや中綿の飛び出しを防止するために、キルティングを細かく施したりカバーファクターを大きくしたりなど表地や裏地に加工を施すと、表地や裏地の選択の自由度が制限されてしまい、衣服において最も重要な外観や風合いといった感性面における自由な表現が困難となってデザイン性に劣るといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、保温性に優れ、保管コストや輸送コストを抑え、縫製がしやすいとともに、表地や裏地の選択の自由度を高めて、得られる衣服のデザイン性を向上させることのできる中綿およびそれを用いた衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る中綿は、織物または編物を起毛してなるものである。
【0010】
さらに、本発明に係る中綿において、目付は20g/m〜200g/mであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係る中綿において、厚みは0.3mm〜30mmであることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る中綿において、当該中綿を構成する単繊維の繊度は2.5デシテックス未満であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る衣服は、上記のいずれかに記載の中綿を用いたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る中綿を用いれば、保温性に優れ、保管コストや輸送コストを抑え、縫製がしやすい。さらに、表地や裏地の選択の自由度が高いので、得られる衣服のデザイン性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る中綿およびこれを用いた衣服等について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る中綿は、織物または編物を起毛してなる。以下、本明細書では、織物と編物とを総称して繊維布帛ともいう。
【0017】
本発明における織物の組織(織組織)としては、例えば、平織、綾織、朱子織、重ね織物、又は、パイル織物などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく任意の組織のものを用いることができる。また、本発明における編物の組織(編組織)としては、例えば経編又は緯編(丸編、横編)などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく任意の組織のものを用いることができる。
【0018】
なお、本発明における繊維布帛の素材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリルもしくはポリプロピレンなどの合成繊維、ジアセテートもしくはトリアセテートなどの半合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、又は、綿、麻、絹もしくは羊毛などの天然繊維が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、本発明における繊維布帛の素材としては、これらの繊維を複合した、混紡、混繊、交織又は交編などであってもよい。
【0019】
特に、軽量で保温性を有するとの観点からはポリプロピレンを含むものが好ましい。また、軽量で吸湿発熱性を有し染色が容易との観点からはナイロンやアクリルを含むものが好ましい。また、軽量で染色が容易で後述する仮撚りなどの糸加工による空気の層の形成が容易で水や熱に対する形態の安定性が優れるとの観点からはポリエステルを含むものが好ましい。
【0020】
このように、本発明に係る中綿は、織物又は編物を用いているので、強度を向上させることができる。すなわち、綿(わた)や不織布を用いた中綿では伸縮を繰り返すと綿(わた)や不織布が使用中にちぎれてしまうことがあるが、織物や編物を用いた中綿であれば使用中にちぎれてしまうことを防ぐことができる。
【0021】
また、衣服の表地や裏地が伸縮性を有している場合は、繊維布帛についても同様に、伸縮性を有しているものを用いるとよい。このように、伸縮性のある繊維布帛を用いることにより、衣服の着用者はよりスムーズに身体を動かすことが可能となる。
【0022】
また、繊維布帛を構成する糸は、生糸、撚糸、仮より糸などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。なお、保温性の観点からは、撚糸、仮より、タスラン加工等が行われた加工糸を用いることが好ましい。これは、撚糸、仮より、タスラン加工等が行われた加工糸を用いることにより、得られる中綿が空気を多く含有することになり保温性を向上させることができるからである。
【0023】
また、糸使いとしては、10デシテックス〜500デシテックス程度のものを挙げることができるが、特にこの範囲に限定されるものではない。また、単繊維の繊度としても0.001デシテックス〜10デシテックス程度のものを挙げることができるが、特にこの範囲に限定されるものではない。
【0024】
なお、保温性の観点からは、単繊維の繊度は小さいほうが空気を多く含み好ましく、2.5デシテック未満、より好ましくは1.5デシテックス未満がよい。また、得られる中綿の厚みをある程度に保って保温性を維持するとの観点からは、単繊維の繊度が0.1デシテックス以上の繊維を含むとよい。また、単繊維の繊度が異なるものを複合して用いてもよい。さらに、糸は、長繊維で構成されたものであっても、短繊維で構成されたものあってもよく、また、長繊維と短繊維とを複合して構成されたものであってもよい。
【0025】
また、繊維布帛に対して染色を施してもよい。表地や裏地と同系色に繊維布帛を染色することにより、薄いまたは目の粗い表地や裏地を用いた場合においても深みのある色を表現することができ、また、万が一、縫製部の針穴から中綿が見えた場合においても目立たなくすることができる。
【0026】
また、表地や裏地と中綿とを異なる色に染色することにより、薄いまたは粗い目の表地や裏地を用いた場合には、表地、中綿、裏地の色の違いにより、さらにデザインの選択の幅を広げることができる。
【0027】
また、繊維布帛としては、以下に説明するように機能性が付与されたものを用いてもよい。
【0028】
例えば、カーボンブラック、アンチモン酸亜鉛、アンチモンドープ酸化錫、スズドープ酸化インジウム、ジイモニウム系化合物、アミニウム化合物などの赤外線吸収性能のある物質、吸湿発熱性のあるアクリル系樹脂、パラフィンなどの温度による相変化時に吸熱発熱機能を有する物質、または、デッドエアーを有する中空マイクロカプセル等の断熱性のある物質を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸したり、糸や繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂などを用いてこれらの物質を固着させたりすることで、保温性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0029】
なお、上記の赤外線吸収性能のある物質を付与することにより保温性を向上させるものについては、後述する温度上昇差試験にて1℃以上、より好ましくは2℃以上の温度上昇差を有するものが好ましい。温度上昇差の上限は高い方がよいが、風合い等の観点からは15℃程度が上限である。風合いに制限がない場合は、15℃以上の温度上昇差を有するものであってもよい。
【0030】
また、吸湿発熱性を利用し保温性を向上させたものは、後述する吸湿発熱性試験にて測定した吸湿発熱性が1℃以上、より好ましくは2℃以上であることが好ましい。快適性の観点からは吸湿発熱性の上限は10℃程度であり、好ましくは、2℃〜5℃がよい。
【0031】
また、銀、銅、第4級アンモニウム塩、ジンクピリチオン、または、酸化チタン光触媒等の抗菌性物質を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸や繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂などを用いてこれらの抗菌性物質を固着させたりすることで、制菌性や抗菌防臭性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0032】
また、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、または、パラフィン系撥水剤を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸や繊維布帛の表面にこれらの撥水剤を固着させたりすることで、撥水性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0033】
また、繊維布帛に、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂等の防水性樹脂膜を積層することで防水性が付与されたものを用いてもよい。
【0034】
また、ヘキサブロモシクロドデカンやヘキサブロモシクロデカン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート等のハロゲン系難燃剤、または、ビフェニリルジフェニルホスフェートやナフチルジフェニルホスフェートなどのリン系難燃剤を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸や繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂などを用いてこれらの難燃剤を固着させたりすることで、難燃性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0035】
また、ポリエチレングリコールもしくはその誘導体などの非イオン系帯電防止剤、第4級アンモニウム塩型などのカチオン系帯電防止剤、リン酸エステル系やスルホン酸塩系などのアニオン系帯電防止剤、ベタイン系などの両性系帯電防止剤、または、導電性カーボン粒子などの導電性微粒子などを、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸または繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂など用いてこれらの帯電防止剤を固着させたりすることで、制電性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0036】
なお、制電性の程度は、後述する制電性試験において測定される摩擦帯電圧で3000V以下が好ましい。3000Vを超えると衣服の着替え時にパチパチする現象が頻繁に発生するおそれがある。
【0037】
また、ポリエチレングリコールもしくはその誘導体などの吸湿性物質を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸または繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂など用いてこれらの吸湿性物質を固着させたりすることで、吸湿性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0038】
また、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化チタン光触媒もしくはゼオライトなどの多孔質微粒子、または、アミノ基やスルホン基等の極性の強い官能基を有する化合物などの消臭剤を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸または繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂など用いてこれらの多孔質微粒子や消臭剤を固着させたりすることで、消臭性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0039】
また、花粉やダニの屍骸などのアレルゲンを不活化する性能を有するフェノール系化合物などの抗アレルゲン化剤を、繊維を紡糸するための樹脂に練り込み紡糸した繊維を用いたり、糸または繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂など用いてこれらの抗アレルゲン化剤を固着させたりすることで、抗アレルゲン性が付与された繊維布帛を用いてもよい。
【0040】
なお、糸または繊維布帛の表面に直接またはバインダー樹脂など用いて、これらの機能性剤を付与する処理は、繊維布帛を起毛する前でも後でもよい。
【0041】
そして、本発明における繊維布帛は起毛されている。このように起毛することによって繊維布帛の厚みを増加させることができるので、保温性を向上させることができる。
【0042】
ここで、起毛されているとは、繊維布帛の表面をサンドペーパー等で研削処理(サンディング)したり、起毛用針布(以下、針布ともいう)を用いて起毛処理したりすることをいい、繊維布帛を構成する繊維の少なくとも一部が引き出されているものをいう。引き出された繊維は、ループを形成されているものであってもよいし、ループがカットされているものであってもよいし、また、繊維の末端が引き出されているものであってもよい。
【0043】
なお、本発明において、起毛による毛足の長さは特に限定されるものではないが、本実施の形態では、0.01mm〜10mm程度の長さである。
【0044】
また、起毛処理は、繊維布帛の両面のうちの少なくとも一方の面に施されていればよく、繊維布帛の片面または両面に施すことができる。なお、保温性の観点からは、繊維布帛の両面に対して起毛処理が施されているとよい。
【0045】
また、本発明に係る中綿は、目付が20g/m〜200g/mであるとよい。より好ましくは、30g/m〜120g/mの目付であるとよい。これは、目付が20g/mを下回ると強度が低下し、中綿として表地と裏地との間に用いた場合に、綿(わた)や不織布のように使用中に寸断してしまったり、糸がずれて中綿に穴があいた状態となったりするおそれがあるからである。また、目付が20g/mを下回ると十分な保温性が発揮できないおそれもある。一方、目付が200g/mを超えると、表地、中綿、裏地を用いた衣服自体の質量が大きくなりすぎて重くなり、使用範囲が限定されるおそれがある。
【0046】
また、本発明に係る中綿の厚みは、0.3mm〜30mmであるとよい。これは、厚みが0.3mmを下回ると十分な保温性が得られないおそれがあるからである。一方、厚みが30mmを超えると、嵩が高くなりすぎてファッション性の観点より使用範囲が限定されるおそれがあり、また、中綿の目付が大きくなって中綿を用いて得られた衣服が重くなるおそれがある。なお、より好ましい厚みは0.5mm〜20mmであり、さらに好ましくは0.8〜15mmの厚みである。
【0047】
また、保温性、柔軟性の観点からは、起毛前の繊維布帛と比べ起毛後の中綿の厚みの増加率は20%以上であることが好ましい。より好ましい厚みの増加率は50%以上であり、さらに好ましくは100%以上である。また、厚みの増加率の上限は特に限定されるものではないが、強度や毛羽立ちの観点からは2000%程度の増加率であることが好ましい。
【0048】
なお、起毛前の繊維布帛に比べ起毛後の中綿の厚みの増加率は、以下の式によって求めることができる。
【0049】
厚みの増加率(%)=[(起毛後の厚み(mm)−起毛前の厚み(mm))/起毛前の厚み(mm)]×100
【0050】
なお、厚みの測定は、測定時の圧力が1.5gf/cm(147pa)となる条件で、直径5cmの円盤状の測定子を用いて行うことができる。
【0051】
以上、本実施の形態に係る中綿は、織物や編物をベースとして起毛させた中綿であるので、優れた保温性を有するとともに、綿(わた)や不織布を用いた中綿と比べて強い強度を有する。
【0052】
このように、本実施の形態に係る中綿は強度が強いので、紙製の支管などに巻いて輸送や保管を行うことが可能となる。これにより、羽毛や真綿に比べて嵩を小さくして輸送や保管を行うことができるので、輸送コストや保管コストを軽減することができる。また、本実施の形態に係る中綿は強度が強いので、当該中綿を用いた衣服の着用中において当該中綿がちぎれてしまうことを防止できる。
【0053】
また、本実施の形態に係る中綿は織物や編物をベースとしているので、衣服として用いるために表地と裏地との間に当該中綿を縫製する場合において、表地や裏地と同等の強度や伸縮性を有するものを容易に供給することができる。これにより、縫製が容易となる。
【0054】
また、本実施の形態に係る中綿は、織物や編物をベースとしているので、羽毛や綿(わた)のように衣服として縫製した後に中綿のずれが発生しにくいので、細かなキルティングを施す必要がなくなり、デザインの自由度が向上する。また、羽毛や綿(わた)のようなダウンパックを製造する必要もないため、縫製も容易である。また、羽毛や綿のように表地や裏地から中綿が飛び出すことがほとんどないので、表地や裏地の糸使いあるいは織・編組織や密度などの制限を受けることがなく、また、カレンダー加工を施したり表地や裏地のカバーファクターを大きくしたりする必要もない。これにより、表地や裏地は任意のものを用いることができるのでデザインの選択の幅が大きくなり、デザインの自由度を向上させることができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る中綿は、織物や編物をベースとしているので、染色加工が容易にできる。これにより、中綿の色を表地や裏地と同系色にすることで、万が一、縫製時の針穴から中綿が見えたとしてもほとんど目立たなくすることができる。また、表地や裏地の色と異なる色にも容易に染めることができるので、デザインの自由度をさらに向上させることができる。
【0056】
また、本実施の形態に係る中綿は、織物や編物をベースとしているので、汎用性が高い。これにより、表地や裏地として用いるために製造された繊維布帛であっても、短期間で中綿とすることができる。また、染色加工や前記の各種機能性を付与する加工も速やかに行うことができるので、短期間で衣服を提供することができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る中綿は、衣服をはじめ布団などの寝具、その他任意のものに用いることができる。
【0058】
例えば、本実施の形態に係る中綿を用いた衣服は、任意の表地および/または裏地の間に前記中綿を挟み込んで縫製して得られる。また、本実施の形態に係る衣服は、縫製に限定されるものではなく、ウェルダー処理や接着剤により表地および/または裏地と中綿とを貼り合せたものであってもよい。
【0059】
本実施の形態に係る衣服は、織物や編物をベースとして起毛した中綿を用いているので、従来の綿(わた)等の中綿を用いたものに比べて、表地や裏地の選択(色、糸使い、密度、組織、カバーファクター、カレンダー加工の有無など)の幅を大きくすることができ、縫製方法等の制約を緩和することができる。これにより、デザインの自由度が高いものを提供できるので、デザイン性に優れた衣服が得られる。
【0060】
なお、本実施の形態における衣服の表地や裏地としては、撥水加工や保温加工、制電加工等任意の加工を施したものを用いることができる。また、本実施の形態における衣服としては、ジャンパー、コート、パーカー、ジャケット、Tシャツ、ズボン、手袋、帽子、靴などの一般衣服や作業服、または、スキーウェアー、スノーボードウェアー、ヤッケ、アノラック、ドライスーツ、ウインドブレーカー等のスポーツ用衣服等を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではなく任意のものを挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明に係る中綿について、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0062】
なお、本実施例において、得られた中綿の、保温性、目付、厚みの増加率、吸湿発熱性、制電性、温度上昇差、寸法安定性の評価は、以下の方法にて行った。
【0063】
<保温性>
2枚のナイロン製タフタの間に中綿を挟み込んだものと、前記2枚のナイロン製タフタのみのものとを試験片とし、36℃±1℃のお湯を入れた湯たんぽから10cmの距離に、前記試験片をそれぞれ並べて設置し、湯たんぽの反対側の面のそれぞれの試験片の表面温度を、Advanced Thermo TVS−500(NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)で測定した。なお、室温は15℃、湿度は60%、風速は0m/秒とした。
【0064】
また、測定されたそれぞれの試験片の表面温度から下記の式にて温度差を求め、この温度差を保温性として評価した。
【0065】
温度差(℃)=中綿をナイロン製タフタで挟んだ試験片の表面温度(℃)(※注1)−中綿を取り除きナイロン製タフタのみを試験片としたときの表面温度(℃)(※注1)
(※注1):表面温度は、試験片を設置して温度測定開始後60秒〜180秒間の平均温度である。
【0066】
<目付>
中綿を100cmにカットしたものを試験片とし、その試験片の質量を電子天秤にて測定し、1m当たりの質量に換算した。
【0067】
<厚みの増加率>
起毛前後の繊維布帛をタテ15cm×ヨコ15cmにカットしたものを試験片とし、その試験片の厚みを、PEACOK DIGITAL UPRIGHT GUAGE R5−257(株式会社尾崎製作所製)で測定し、厚みの増加率を下記の式により求めた。この場合、測定子として、直径5cmの円盤状の測定子を用いた。また、測定時の圧力が1.5gf/cm(147pa)となるように設定し、上記測定子を試験片に静かに載せた後、およそ3秒後に厚みを測定した。
【0068】
厚みの増加率(%)=[(起毛後の厚み(mm)−起毛前の厚み(mm))/起毛前の厚み(mm)]×100
【0069】
<吸湿発熱性>
10cm×10cmの試料を準備し、120℃の熱風オーブンの中に1時間放置する。次に、20℃×40%RHの雰囲気下で放冷する。次に、試料を温度計のセンサーに巻き付け、セロハンテープで試料を温度計のセンサー部分に固定し、引き続き20℃×40%RH雰囲気下で5分以上放置する。温度計の温度が20℃を示していることを確認し、すぐに、20℃×90%RHに設定した恒温恒湿器の中に試料をつけた温度計を入れ、5分後の温度を測定する。このときに測定された温度から20℃を引き、吸湿発熱性の測定とした。温度計は、棒状の接触温度計513E、記録計AP210(共に安立計器(株))を用いた。
【0070】
<制電性>
JIS L1094 摩擦帯電圧測定法に準じ、摩擦帯電圧を測定した。ただし、保温性試験で用いた制電加工の施されていない2枚のナイロン製タフタの間に中綿を挟み込んだものを試料として用いた。
【0071】
<温度上昇差>
1個のランプ(商品名:アイランプ、岩崎電気(株)製の100V、PRF−500WD)から15cmの距離に基準布と試験片を並べて設置し、基準布と試験片に対し光を照射した。次に、非接触型温度計(横河メータ&インスツルメンツ(株)製、ディジタル放射温度計 530 04)を用い、基準布のランプ照射面の裏面温度が40℃になった時の試験片のランプ照射面の裏面温度を測定し、試験布の温度から基準布の温度を引いたものを温度上昇差とした。
【0072】
基準布には、市販衣服に使用されていた中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いた。
【0073】
なお、基準布および試験片は、中綿の保温性試験で用いた2枚のナイロン製タフタの間に挟み込んで温度上昇差の試験を行った。
【0074】
<寸法安定性>
JIS L1096 寸法変化 G法(家庭用電気洗濯機法)に準じて試験を行った。なお、洗濯回数は5回とした。
【0075】
(実施例1)
実施例1では、起毛する繊維布帛として、ポリエステル/ナイロン交織平織物(ポンジ。タテ糸:(ポリエステル)55デシテックス36フィラメント。ヨコ糸:(ナイロン)77デシテックス/68フィラメント。タテ糸密度×ヨコ糸密度=99本/2.54cm×74本/2.54cm。厚み:0.18mm)からなる織物を用いた。
【0076】
この織物に起毛剤を付与した後、当織物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0077】
得られた中綿は、厚みが1.43mmであり、目付が96g/mであり、また、厚みの増加率は694%であった。
【0078】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.5℃あり、市販衣服に使用されていた不織布製中綿(マックスサーモ(登録商標)。東洋紡績(株)と日本バイリーン(株)の共同開発品。厚み1.66mm。当中綿を比較例とする。)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0079】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0080】
また、本実施例の中綿を表地と裏地との間に挟んでジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーが得られた。
【0081】
(実施例2)
実施例2では、起毛する繊維布帛として、赤色に染色されたポリエステル/ナイロン交織平織物(ポンジ。タテ糸:(ポリエステル)84デシテックス36フィラメント。ヨコ糸:(ナイロン)77デシテックス68フィラメント。タテ糸密度×ヨコ糸密度=90本/2.54cm×80本/2.54cm。厚み:0.20mm)からなる織物を用いた。
【0082】
この織物に起毛剤を付与した後、当織物の両面を、240メッシュのサンドペーパーを用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0083】
得られた中綿は、厚みが1.16mmであり、目付が119g/mであり、また、厚みの増加率は480%であった。
【0084】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.4℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿とほぼ同等の保温性を有していた。
【0085】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0086】
また、得られた中綿を、赤色に染められた透ける程度に薄い表地と裏地との間に挟んでジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーが得られた。また、外観も深みのある赤色のジャンパーであった。
【0087】
(実施例3)
実施例3では、起毛する繊維布帛として、青色に染色したポリエステル製編物(トリコット。糸:33デシテックス/12フィラメントおよび84デシテックス/36フィラメントの交編。厚み:0.19mm)からなる編物を用いた。
【0088】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0089】
得られた中綿は、厚みが1.60mmであり、目付が68g/mであり、また、厚みの増加率は742%であった。
【0090】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.5℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿とほぼ同等の保温性を有していた。
【0091】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0092】
また、得られた中綿を、伸縮性のある青色の表地と裏地との間に挟んで野球用のグランドジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーであり、また、体の動きに当該ジャンパーが追従して伸縮し、動きやすいものであった。
【0093】
(実施例4)
実施例4では、起毛する繊維布帛として、ポリエステル製編物(トリコット。糸:33デシテックス/12フィラメントおよび84デシテックス/36フィラメントおよび84デシテックス/144フィラメントの交編。厚み:0.20mm)からなる編物を用いた。
【0094】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0095】
得られた中綿は、厚みが1.14mmであり、目付が67g/mであり、また、厚みの増加率は470%であった。
【0096】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.4℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0097】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0098】
また、得られた中綿を、伸縮性のある表地と裏地との間に挟んで野球用のグランドジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーであり、また、体の動きに当該ジャンパーが追従して伸縮し、動きやすいものであった。
【0099】
(実施例5)
実施例5では、起毛する繊維布帛として、分散染料で茶色に染色した編物(トリコット。糸:(ポリエステル)33デシテックス/12フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/36フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/72フィラメントおよび(ナイロン)78デシテックス/68フィラメントおよび導電性繊維(登録商標:ベルトロン KBセーレン株式会社製)22デシテックス/3フィラメントの交編。密度:ウェル28本/2.54cm、コース98本/2.54cm。厚み:0.20mm)を用いた。
【0100】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0101】
得られた中綿は、厚みが1.00mmであり、目付が60g/mであり、また、厚みの増加率は400%であった。
【0102】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.6℃あり、比較例とした市販の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0103】
また、上記市販の比較例の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0104】
さらに、吸湿発熱性を測定したところ、2.7℃の吸湿発熱性が確認された。この温度上昇は吸湿性を有するナイロンに起因するものと思われる。
【0105】
また、制電性として摩擦帯電圧を測定したところ2100Vであった。導電性繊維を用いていない実施例4では5500Vであり、本実施例では制電性の向上が確認された。
【0106】
また、寸法変化率を測定したところタテ方向、ヨコ方向とも−1.5%であった。これに比べ市販衣服に使用されていた中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)はタテ方向−12.0%、ヨコ方向−15.0%であった。従って、一般的な従来の中綿は洗濯処理により大きく縮んでしまうため、従来の中綿を用いた衣服は洗濯に不向きである。一方、本実施例の中綿は、洗濯処理を行っても形態が安定しているため、本実施例の中綿を用いた衣服は洗濯等を行っても形崩れなどを起こすことなく洗濯処理を行うことができる。
【0107】
このように、本実施例では、優れた保温性および高い強度を有するだけではなく、吸湿発熱性、耐久制電性および寸法安定性にも優れていることが分かった。
【0108】
(実施例6)
実施例6では、起毛する繊維布帛として、編物(トリコット。糸:(ポリエステル)33デシテックス/12フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/36フィラメントおよび(ポリエステルにカーボンを練り込んだ黒色原着糸。)84デシテックス/72フィラメントおよび(ナイロン)78デシテックス/68フィラメントおよび導電性繊維(登録商標:ベルトロン KBセーレン株式会社製)22デシテックス/3フィラメントの交編。密度:ウェル28本/2.54cm、コース98本/2.54cm。厚み:0.20mm)を用いた。
【0109】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0110】
得られた中綿は、厚みが1.00mmであり、目付が62g/mであり、また、厚みの増加率は400%であった。
【0111】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.6℃あり、比較例とした市販の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0112】
また、上記市販の比較例の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0113】
さらに、吸湿発熱性を測定したところ、3.1℃の吸湿発熱性が確認された。この温度上昇は吸湿性を有するナイロンに起因するものと思われる。
【0114】
また、制電性として摩擦帯電圧を測定したところ2300Vであった。導電性繊維を用いていないトリコットである実施例4では5500Vであり、本実施例では制電性の向上が確認された。
【0115】
さらに、温度上昇差を測定したところ7℃の温度上昇差が確認された。
【0116】
また、寸法変化率を測定したところタテ方向−1.0%、ヨコ方向−1.5%であった。本実施例の中綿は、洗濯処理を行っても形態が安定しているため、本実施例の中綿を用いた衣服は洗濯等を行っても形崩れなどを起こすことなく洗濯処理を行うことができる。
【0117】
このように、本実施例では、優れた保温性および高い強度を有するだけではなく、吸湿発熱性、耐久制電性および寸法安定性にも優れていることが分かった。
【0118】
なお、以上の実施例1〜6の中綿と比較例の中綿との測定結果および性能を、以下の表1にまとめた。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すように、本実施例の中綿は、いずれも保温性に優れるとともに、強く強度を有することが分かる。
【0121】
以上、本発明に係る中綿および衣服について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および実施例に限定されるものではない。例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態および実施例における構成要素を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係る中綿は、ジャンパー、コート、パーカー、ジャケット、Tシャツ、ズボン、手袋、帽子、靴などの一般衣服や作業服、もしくは、スキーウェアー、スノーボードウェアー、ヤッケ、アノラック、ドライスーツ、ウインドブレーカー等のスポーツ用衣服等の衣服、布団等の寝具、または、その他の縫製品等において広く利用することができる。