【実施例】
【0061】
以下、本発明に係る中綿について、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0062】
なお、本実施例において、得られた中綿の、保温性、目付、厚みの増加率、吸湿発熱性、制電性、温度上昇差、寸法安定性の評価は、以下の方法にて行った。
【0063】
<保温性>
2枚のナイロン製タフタの間に中綿を挟み込んだものと、前記2枚のナイロン製タフタのみのものとを試験片とし、36℃±1℃のお湯を入れた湯たんぽから10cmの距離に、前記試験片をそれぞれ並べて設置し、湯たんぽの反対側の面のそれぞれの試験片の表面温度を、Advanced Thermo TVS−500(NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)で測定した。なお、室温は15℃、湿度は60%、風速は0m/秒とした。
【0064】
また、測定されたそれぞれの試験片の表面温度から下記の式にて温度差を求め、この温度差を保温性として評価した。
【0065】
温度差(℃)=中綿をナイロン製タフタで挟んだ試験片の表面温度(℃)(※注1)−中綿を取り除きナイロン製タフタのみを試験片としたときの表面温度(℃)(※注1)
(※注1):表面温度は、試験片を設置して温度測定開始後60秒〜180秒間の平均温度である。
【0066】
<目付>
中綿を100cm
2にカットしたものを試験片とし、その試験片の質量を電子天秤にて測定し、1m
2当たりの質量に換算した。
【0067】
<厚みの増加率>
起毛前後の繊維布帛をタテ15cm×ヨコ15cmにカットしたものを試験片とし、その試験片の厚みを、PEACOK DIGITAL UPRIGHT GUAGE R5−257(株式会社尾崎製作所製)で測定し、厚みの増加率を下記の式により求めた。この場合、測定子として、直径5cmの円盤状の測定子を用いた。また、測定時の圧力が1.5gf/cm
2(147pa)となるように設定し、上記測定子を試験片に静かに載せた後、およそ3秒後に厚みを測定した。
【0068】
厚みの増加率(%)=[(起毛後の厚み(mm)−起毛前の厚み(mm))/起毛前の厚み(mm)]×100
【0069】
<吸湿発熱性>
10cm×10cmの試料を準備し、120℃の熱風オーブンの中に1時間放置する。次に、20℃×40%RHの雰囲気下で放冷する。次に、試料を温度計のセンサーに巻き付け、セロハンテープで試料を温度計のセンサー部分に固定し、引き続き20℃×40%RH雰囲気下で5分以上放置する。温度計の温度が20℃を示していることを確認し、すぐに、
20℃×90%RHに設定した恒温恒湿器の中に試料をつけた温度計を入れ、5分後の温度を測定する。このときに測定された温度から20℃を引き、吸湿発熱性の測定とした。温度計は、棒状の接触温度計513E、記録計AP210(共に安立計器(株))を用いた。
【0070】
<制電性>
JIS L1094 摩擦帯電圧測定法に準じ、摩擦帯電圧を測定した。ただし、保温性試験で用いた制電加工の施されていない2枚のナイロン製タフタの間に中綿を挟み込んだものを試料として用いた。
【0071】
<温度上昇差>
1個のランプ(商品名:アイランプ、岩崎電気(株)製の100V、PRF−500WD)から15cmの距離に基準布と試験片を並べて設置し、基準布と試験片に対し光を照射した。次に、非接触型温度計(横河メータ&インスツルメンツ(株)製、ディジタル放射温度計 530 04)を用い、基準布のランプ照射面の裏面温度が40℃になった時の試験片のランプ照射面の裏面温度を測定し、試験布の温度から基準布の温度を引いたものを温度上昇差とした。
【0072】
基準布には、市販衣服に使用されていた中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いた。
【0073】
なお、基準布および試験片は、中綿の保温性試験で用いた2枚のナイロン製タフタの間に挟み込んで温度上昇差の試験を行った。
【0074】
<寸法安定性>
JIS L1096 寸法変化 G法(家庭用電気洗濯機法)に準じて試験を行った。なお、洗濯回数は5回とした。
【0075】
(実施例1)
実施例1では、起毛する繊維布帛として、ポリエステル/ナイロン交織平織物(ポンジ。タテ糸:(ポリエステル)55デシテックス36フィラメント。ヨコ糸:(ナイロン)77デシテックス/68フィラメント。タテ糸密度×ヨコ糸密度=99本/2.54cm×74本/2.54cm。厚み:0.18mm)からなる織物を用いた。
【0076】
この織物に起毛剤を付与した後、当織物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0077】
得られた中綿は、厚みが1.43mmであり、目付が96g/m
2であり、また、厚みの増加率は694%であった。
【0078】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.5℃あり、市販衣服に使用されていた不織布製中綿(マックスサーモ(登録商標)。東洋紡績(株)と日本バイリーン(株)の共同開発品。厚み1.66mm。当中綿を比較例とする。)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0079】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0080】
また、本実施例の中綿を表地と裏地との間に挟んでジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーが得られた。
【0081】
(実施例2)
実施例2では、起毛する繊維布帛として、赤色に染色されたポリエステル/ナイロン交織平織物(ポンジ。タテ糸:(ポリエステル)84デシテックス36フィラメント。ヨコ糸:(ナイロン)77デシテックス68フィラメント。タテ糸密度×ヨコ糸密度=90本/2.54cm×80本/2.54cm。厚み:0.20mm)からなる織物を用いた。
【0082】
この織物に起毛剤を付与した後、当織物の両面を、240メッシュのサンドペーパーを用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0083】
得られた中綿は、厚みが1.16mmであり、目付が119g/m
2であり、また、厚みの増加率は480%であった。
【0084】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.4℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿とほぼ同等の保温性を有していた。
【0085】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0086】
また、得られた中綿を、赤色に染められた透ける程度に薄い表地と裏地との間に挟んでジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーが得られた。また、外観も深みのある赤色のジャンパーであった。
【0087】
(実施例3)
実施例3では、起毛する繊維布帛として、青色に染色したポリエステル製編物(トリコット。糸:33デシテックス/12フィラメントおよび84デシテックス/36フィラメントの交編。厚み:0.19mm)からなる編物を用いた。
【0088】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0089】
得られた中綿は、厚みが1.60mmであり、目付が68g/m
2であり、また、厚みの増加率は742%であった。
【0090】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.5℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿とほぼ同等の保温性を有していた。
【0091】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0092】
また、得られた中綿を、伸縮性のある青色の表地と裏地との間に挟んで野球用のグランドジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーであり、また、体の動きに当該ジャンパーが追従して伸縮し、動きやすいものであった。
【0093】
(実施例4)
実施例4では、起毛する繊維布帛として、ポリエステル製編物(トリコット。糸:33デシテックス/12フィラメントおよび84デシテックス/36フィラメントおよび84デシテックス/144フィラメントの交編。厚み:0.20mm)からなる編物を用いた。
【0094】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0095】
得られた中綿は、厚みが1.14mmであり、目付が67g/m
2であり、また、厚みの増加率は470%であった。
【0096】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.4℃あり、比較例とした市販の不織布製中綿を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0097】
また、上記市販の比較例の中綿と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0098】
また、得られた中綿を、伸縮性のある表地と裏地との間に挟んで野球用のグランドジャンパーを製造したところ、薄くて暖かなジャンパーであり、また、体の動きに当該ジャンパーが追従して伸縮し、動きやすいものであった。
【0099】
(実施例5)
実施例5では、起毛する繊維布帛として、分散染料で茶色に染色した編物(トリコット。糸:(ポリエステル)33デシテックス/12フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/36フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/72フィラメントおよび(ナイロン)78デシテックス/68フィラメントおよび導電性繊維(登録商標:ベルトロン KBセーレン株式会社製)22デシテックス/3フィラメントの交編。密度:ウェル28本/2.54cm、コース98本/2.54cm。厚み:0.20mm)を用いた。
【0100】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0101】
得られた中綿は、厚みが1.00mmであり、目付が60g/m
2であり、また、厚みの増加率は400%であった。
【0102】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.6℃あり、比較例とした市販の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0103】
また、上記市販の比較例の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0104】
さらに、吸湿発熱性を測定したところ、2.7℃の吸湿発熱性が確認された。この温度上昇は吸湿性を有するナイロンに起因するものと思われる。
【0105】
また、制電性として摩擦帯電圧を測定したところ2100Vであった。導電性繊維を用いていない実施例4では5500Vであり、本実施例では制電性の向上が確認された。
【0106】
また、寸法変化率を測定したところタテ方向、ヨコ方向とも−1.5%であった。これに比べ市販衣服に使用されていた中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)はタテ方向−12.0%、ヨコ方向−15.0%であった。従って、一般的な従来の中綿は洗濯処理により大きく縮んでしまうため、従来の中綿を用いた衣服は洗濯に不向きである。一方、本実施例の中綿は、洗濯処理を行っても形態が安定しているため、本実施例の中綿を用いた衣服は洗濯等を行っても形崩れなどを起こすことなく洗濯処理を行うことができる。
【0107】
このように、本実施例では、優れた保温性および高い強度を有するだけではなく、吸湿発熱性、耐久制電性および寸法安定性にも優れていることが分かった。
【0108】
(実施例6)
実施例6では、起毛する繊維布帛として、編物(トリコット。糸:(ポリエステル)33デシテックス/12フィラメントおよび(ポリエステル)84デシテックス/36フィラメントおよび(ポリエステルにカーボンを練り込んだ黒色原着糸。)84デシテックス/72フィラメントおよび(ナイロン)78デシテックス/68フィラメントおよび導電性繊維(登録商標:ベルトロン KBセーレン株式会社製)22デシテックス/3フィラメントの交編。密度:ウェル28本/2.54cm、コース98本/2.54cm。厚み:0.20mm)を用いた。
【0109】
この編物に起毛剤を付与した後、当編物の両面を、針布を用いて起毛処理を行うことで中綿を作製した。
【0110】
得られた中綿は、厚みが1.00mmであり、目付が62g/m
2であり、また、厚みの増加率は400%であった。
【0111】
また、得られた中綿の保温性を測定したところ、温度差が1.6℃あり、比較例とした市販の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)を用いたものとほぼ同等の保温性を有していた。
【0112】
また、上記市販の比較例の中綿(BREATH THERMO(登録商標)。目付45g)と本実施例の中綿とを、同等の力で手で引っ張ってみたところ、比較例の中綿は簡単にちぎれてしまったが、本実施例の中綿はちぎれなかった。
【0113】
さらに、吸湿発熱性を測定したところ、3.1℃の吸湿発熱性が確認された。この温度上昇は吸湿性を有するナイロンに起因するものと思われる。
【0114】
また、制電性として摩擦帯電圧を測定したところ2300Vであった。導電性繊維を用いていないトリコットである実施例4では5500Vであり、本実施例では制電性の向上が確認された。
【0115】
さらに、温度上昇差を測定したところ7℃の温度上昇差が確認された。
【0116】
また、寸法変化率を測定したところタテ方向−1.0%、ヨコ方向−1.5%であった。本実施例の中綿は、洗濯処理を行っても形態が安定しているため、本実施例の中綿を用いた衣服は洗濯等を行っても形崩れなどを起こすことなく洗濯処理を行うことができる。
【0117】
このように、本実施例では、優れた保温性および高い強度を有するだけではなく、吸湿発熱性、耐久制電性および寸法安定性にも優れていることが分かった。
【0118】
なお、以上の実施例1〜6の中綿と比較例の中綿との測定結果および性能を、以下の表1にまとめた。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すように、本実施例の中綿は、いずれも保温性に優れるとともに、強く強度を有することが分かる。
【0121】
以上、本発明に係る中綿および衣服について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および実施例に限定されるものではない。例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態および実施例における構成要素を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。