特許第6192945号(P6192945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192945
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】抄紙用プレスフェルト
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   D21F7/08 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-23750(P2013-23750)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-141769(P2014-141769A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180597
【氏名又は名称】イチカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】大内 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 茂之
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 泰之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将士
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−265816(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0219313(US,A1)
【文献】 特開2009−155747(JP,A)
【文献】 特表2007−535619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿紙面側の上経糸と走行面側の下経糸と、前記上経糸及び前記下経糸の双方に絡合するように織り込まれた緯糸とからなる経糸2重・緯糸1重の組織構造で、前記上経糸が前記下経糸より多い糸本数で織り込まれた織布からなる基布を有する抄紙用プレスフェルトであって、前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する1つ以上の上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つ以上の下部ナックル部とを有し、各緯糸における、上部ナックル部および下部ナックル部の区別なく隣り合うナックル部同士の間隔の最大値と最小値の差が、前記上経糸の1.0本分以下であることを特徴とする、抄紙用プレスフェルト。
【請求項2】
前記基布の前記下部ナックル部が、隣接する緯糸で各々隣接しないで分散配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項3】
前記基布の前記下部ナックル部が、下経糸1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項4】
前記基布の前記下部ナックル部が、下経糸1本分ずつずれた隣接する4つ1のものとして分散配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項5】
前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する1つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、請求項2又は3に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項6】
前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項7】
前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する2つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、請求項3に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項8】
前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する3つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部及び前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する2つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、請求項3に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項9】
前記最大値と最小値の差が、前記上経糸の0.5本分以下であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の抄紙用プレスフェルト。
【請求項10】
前記基布が、湿紙面側の上経糸と走行面側の下経糸と、前記上経糸と前記下経糸の間に配置される中経糸とを有し、前記上経糸、前記下経糸及び前記中経糸のそれぞれに絡合するように織り込まれた緯糸とからなる経糸3重・緯糸1重の組織構造であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の抄紙用プレスフェルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に使用される抄紙用プレスフェルト(以下単にフェルトという)の基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートとを具えている。これらワイヤーパート、プレスパートおよびドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。
【0003】
ワイヤーパートからプレスパートに移行した湿紙は、通常基布にバット層がニードリングされたフェルトによって搬送され、該フェルトと共にロールプレスあるいはシュープレス機構によってプレスされることにより、湿紙内の水分が除去される。
【0004】
前記フェルトの一般的な構成は、基布にバット繊維をニードリングによって絡合一体化させたものであり、前記基布は、一般的には、織機で製織された織布が使用される。該織布の製織方法としては、袋織と平織とがあり、袋織とは、織機上の経糸(整経糸でフェルトの緯糸(CMD糸:Cross−Machine−Direction糸))と織機上の緯糸(打込糸でフェルトの経糸(MD糸:Machine−Direction糸))を、予め環状(エンドレス状)に製織する方法である。また、平織とは、織機上の経糸(整経糸でフェルトの経糸(MD糸:Machine−Direction糸))と織機上の緯糸(打込糸でフェルトの緯糸(CMD糸:Cross−Machine−Direction糸))を、織布の経糸方向長さが抄紙機のフェルトの走行方向の長さに等しくなるように織布を織り上げる方法で、織り上げた織布の両端を接合(縫合)することにより織布を環状にしている(以降便宜上、経糸、緯糸の呼称については、それぞれフェルトの経糸(MD糸)、緯糸(CMD糸)とする)。
【0005】
フェルトに要求される機能として、プレスによる加圧時の圧力状態を均一にすることで、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させることが挙げられる。また、フェルトを抄紙機に掛け入れフェルトの使用開始から常用運転速度に到達するまでの時間、即ち馴染み時間を短縮させることや走行が安定していることについてもフェルトの機能として要求される。
【0006】
特許文献1には、経糸方向の筋状マークと緯糸方向の筋状マークとの双方を同時に抑制して、紙の表面性のより一層の向上を図るために、製紙面側の上経糸と、走行面側の下経糸と、上経糸及び下経糸の双方に絡合するように2重織で織り込まれた緯糸とからなる経糸2重・緯糸1重の組織構造で、上経糸が下経糸より高い密度で織り込まれた織布からなり、上経糸が、扁平化可能なように複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りの撚糸からなり、緯糸が、上経糸の1本分だけ上経糸の上側を通るように屈曲するナックル部が、上経糸の3本分以上の等間隔をおいて配置されるように織り込まれた基布を用いたフェルトが開示されている。
【0007】
特許文献2には、マークや潰れの発生しない圧搾フェルトを提供するために、1組のトップ側MD糸と、1組のボトム側MD糸と、前記トップ側MD糸及び前記ボトム側MD糸と織り合わせられる1組のCMD糸とから構成される基布において、トップ側MD糸、ボトム側MD糸及びCMD糸は、各トップ側MD糸が前記1組のCMD糸のうち特定の連続複数本上に長いMD紙側浮糸を形成する一連の繰返しユニットになって織り合わせられた基布を用いたフェルトが開示されている。
【0008】
特許文献3には、優れた振動吸収能力を有する製紙用機械に使用される織布を提供し、より優れた走行性、より少ない保守点検のための停止並びに改善された紙質を確実に提供する優れた伸縮性および復元力を有するフェルトを提供するために、基布の上面の機械方向糸の数が下面の機械方向糸の数の2倍となっている製紙用フェルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−155747号公報
【特許文献2】特開2006−265816号公報
【特許文献3】特開平6−146191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜3については、基布の上経糸(トップ側MD糸、上面の機械方向糸)と緯糸(CMD糸、クロス機械方向糸)とで形成される上部ナックル部の間隔、個数、繰返しパターン等について検討し、フェルトに要求される機能であるプレスによる加圧時の圧力状態を均一にし、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させるフェルトを提供するものである。ところが、これらの先行技術文献に開示されるフェルトは、上記フェルト要求機能について、基布の下経糸(ボトム側MD糸、下面の機械方向糸)と緯糸(CMD糸、クロス機械方向糸)とで形成される下部ナックル部が及ぼす影響を考慮していないため、上部ナックル部と下部ナックル部の粗密の不均一性が存在し、プレスによる加圧時の圧力状態が不均一となってしまう。更に、上経糸が下経糸より高い密度で織り込まれた織布は、下経糸が上経糸よりも太い糸を使用することも可能であるが、この場合上記フェルト要求機能について、下部ナックル部が及ぼす影響はより顕著なものとなる。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解消すべく、プレスによる加圧時の圧力状態をより一層均一にすることで、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水できるフェルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明においては、前記フェルト機能に及ぼす因子となる上部ナックル部及び下部ナックル部の双方について、ナックル部の間隔、個数、繰返しパターンについて鋭意検討し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の技術を基礎としたものである。
[1] 湿紙面側の上経糸と走行面側の下経糸と、前記上経糸及び前記下経糸の双方に絡合するように織り込まれた緯糸とからなる経糸2重・緯糸1重の組織構造で、前記上経糸が前記下経糸より多い糸本数で織り込まれた織布からなる基布を有する抄紙用プレスフェルトであって、前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する1つ以上の上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つ以上の下部ナックル部とを有し、前記上部ナックル部と前記上部ナックル部の間隔、または前記上部ナックル部と前記下部ナックル部の間隔、または前記下部ナックル部と前記下部ナックル部の間隔の最大値と最小値の差が、前記上経糸の1.0本分以下であることを特徴とする、抄紙用プレスフェルト。
[2] 前記基布の前記下部ナックル部が、各々隣接しないで分散配置されていることを特徴とする、[1]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[3] 前記基布の前記下部ナックル部が、下経糸1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることを特徴とする、[1]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[4] 前記基布の前記下部ナックル部が、下経糸1本分ずつずれた隣接する4つ1対のものとして分散配置されていることを特徴とする、[1]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[5] 前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する1つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、[2]乃至[3]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[6] 前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、[2]乃至[4]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[7] 前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する2つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、[3]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[8] 前記基布は単位組織において、前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する3つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する1つの下部ナックル部及び前記緯糸が前記上経糸の1本分だけ前記上経糸の上側を通るように屈曲する2つの上部ナックル部と、前記緯糸が前記下経糸の1本分だけ前記下経糸の下側を通るように屈曲する2つの下部ナックル部とを有することを特徴とする、[3]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[9] 前記上部ナックル部と前記上部ナックル部の間隔、または前記上部ナックル部と前記下部ナックル部の間隔、または前記下部ナックル部と前記下部ナックル部の間隔の最大値と最小値の差が、前記上経糸の0.5本分以下であることを特徴とする、[2]乃至[4]に記載の抄紙用プレスフェルト。
[10] 前記基布が、湿紙面側の上経糸及び走行面側の下経糸と、前記上経糸と前記下経糸の間に配置される中経糸とを有し、前記上経糸、前記下経糸及び前記中経糸のそれぞれに絡合するように織り込まれた緯糸からなる経糸3重・緯糸1重の組織構造であることを特徴とする、[1]乃至[9]に記載の抄紙用プレスフェルト。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成により、フェルトに要求される機能であるプレスによる加圧時の圧力状態をより一層均一にし、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させるフェルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のフェルトの一例における経糸方向の断面図である。
図2A】〜
図2L図1に示した基布の緯糸方向の断面図である。
図3図1に示した基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図4】本発明によるフェルトの別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図5】本発明によるフェルトの更に別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図6】本発明によるフェルトの更に別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図7】本発明によるフェルトの更に別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図8】本発明によるフェルトの更に別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図9】本発明によるフェルトの更に別の例の基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図10】本発明のフェルトの別の例における経糸方向の断面図である。
図11A】〜
図11L図10に示した基布の緯糸方向の断面図である。
図12図10に示した基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図13】従来技術によるフェルトの基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図14】従来技術によるフェルトの基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図15】従来技術によるフェルトの基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の抄紙用プレスフェルトの好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のフェルトの一例における経糸方向断面図である。図2A図2Lは、図1に示したフェルトの基布の緯糸方向断面図である。図3(A)、(B)、(C)はそれぞれ、図1に示した基布の、湿紙面側にある上部ナックル部11、走行面側にある下部ナックル部12、湿紙面側にある上部11ナックル部及び走行面側にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。
【0017】
図1に示すように、フェルト10は基布1aと表バット繊維層2と裏バット繊維層3から構成されている。通常表バット繊維層2及び裏バット繊維層3はニードリング加工することによって、基布1aに絡合一体化される。なお、裏バット繊維層3については、省略することもできる。
【0018】
基布1aは、湿紙が載置される湿紙面側4の上経糸5と、抄紙機のロールなどに当接する走行面側6の下経糸7と、上経糸5及び下経糸7の双方に絡合するように織り込まれた緯糸8a〜8lとからなる経糸2重・緯糸1重の組織構造をなしている。緯糸8a〜8lは、図2A図2Lにそれぞれ示すように織り込まれ、この12本で単位組織を構成し、この単位組織(X)が経糸方向、緯糸方向に繰り返される組織構造となる。
【0019】
上経糸5は、下経糸7の2倍の糸本数で織り込まれており、これにより基布1aの湿紙面側4の表面の平滑性を向上させることができ、湿紙表面を平滑にすることができる。また、上経糸5により構成される基布上層の通水性が、下経糸7により構成される基布下層より低くなるため、基布上層から基布下層に移動した水が再度基布上層に移行しにくく、この結果、湿紙脱水直後において、湿紙面側4から湿紙に水が移行してしまう再湿現象を抑制することができる。更に、上経糸5を下経糸7より細い糸材とすることにより、湿紙表面平滑性や再湿現象の抑制がより顕著なものとなる。
【0020】
ここで、フェルトに要求される機能であるプレスによる加圧時の圧力状態を均一にし、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させるには、基布の繰返し組織構造における上部ナックル部11及び下部ナックル部12の位置関係について考慮することが重要である。
【0021】
図3(A)は、図1に示した基布の湿紙面側4にある上部ナックル部11の位置関係を示した概略図で、図3(B)は、図1に示した基布の走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図3(C)は、図1に示した基布の湿紙面側にある上部ナックル部11及び走行面側にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。
【0022】
図3(C)に示すように、基布1aは単位組織内の各緯糸8a〜8lにおいて、各緯糸8a〜8lと上経糸5で形成される1つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8lと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸5の6.5本分、5.5本分であり、その差は1.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12は下経糸7の1本分以上間隔を開けて配置され、下部ナックル部12が各々隣接しないで分散配置されていることが分かる。
【0023】
このように上部ナックル部11及び下部ナックル部12を配置させた単位組織を有する基布をフェルトに適用させることは、プレスによる加圧時の圧力状態を均一にし、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させることができるフェルトを提供することができる。
【0024】
次に図1図3のように経糸2重・緯糸1重の組織構造を基本とした本発明の応用例について説明する。
図4は、本発明のフェルトの別の例における基布1bの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図4(C)に示すように、基布1bは単位組織内の各緯糸8a〜8hにおいて、各緯糸8a〜8hと上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8hと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と上部ナックル部11の間隔または上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸5の5.5本分、5.0本分であり、その差は0.5本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12は下経糸7の1本分以上間隔を開けて配置され、下部ナックル部12が各々隣接しないで分散配置されていることが分かる。
【0025】
図5は、本発明のフェルトの更に別の例における基布1cの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図5(C)に示すように、基布1cは単位組織内の各緯糸8a〜8pにおいて、各緯糸8a〜8pと上経糸5で形成される1つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8pと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸5の8.5本分、7.5本分であり、その差は1.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸7の1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることが分かる。
【0026】
図6は、本発明のフェルトの更に別の例における基布1dの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図6(C)に示すように、基布1dは単位組織内の各緯糸8a〜8hにおいて、各緯糸8a〜8hと上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8hと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と上部ナックル部11の間隔または上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の5.5本分、5.0本分であり、その差は0.5本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸7の1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることが分かる。
【0027】
図7は、本発明のフェルトの更に別の例における基布1eの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図7(C)に示すように、基布1eは単位組織内の各緯糸8a〜8hにおいて、各緯糸8a〜8hと上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8hと下経糸7で形成される2つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の4.5本分、3.5本分であり、その差は1.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸7の1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることが分かる。
【0028】
図8は、本発明のフェルトの更に別の例における基布1fの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図8(C)に示すように、基布1fは単位組織内の各緯糸8a〜8fにおいて、緯糸8a、8b、8e、8fと上経糸5で形成される3つの上部ナックル部11と緯糸8a、8b、8e、8fと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12及び、緯糸8c、8dと上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と緯糸8c、8dと下経糸7で形成される2つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と上部ナックル部11の間隔または上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の4.5本分、3.5本分であり、その差は1.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸7の1本分ずれた隣接する2つ1対のものとして分散配置されていることが分かる。
【0029】
図9は、本発明のフェルトの更に別の例における基布1gの湿紙面側4にある上部ナックル部11及び走行面側6にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。図9(C)に示すように、基布1gは単位組織内の各緯糸8a〜8hにおいて、各緯糸8a〜8hと上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8hと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と上部ナックル部11の間隔または上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の5.5本分、5.0本分であり、その差は0.5本分である。故に、緯糸方向において上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸7の1本分ずつずれた隣接する4つ1対のものとして分散配置されていることが分かる。
【0030】
以上、本発明のフェルトの基布において、上経糸5及び下経糸7の双方に絡合するように織り込まれた緯糸とからなる経糸2重・緯糸1重の組織構造について説明した。次に、この基布において、上経糸5と下経糸7の間に中経糸9を配置し、上経糸5、下経糸7及び中経糸9のそれぞれに絡合するように織り込まれた緯糸とからなる経糸3重・緯糸1重の組織構造について説明する。
【0031】
図10は、本発明のフェルトの更に別の例における経糸方向断面図である。図11A図11Lは、図10に示したフェルトの基布の緯糸方向断面図である。図12(A)、(B)、(C)はそれぞれ、図10に示した基布の、湿紙面側にある上部ナックル部11、走行面側にある下部ナックル部12、湿紙面側にある上部ナックル部11及び走行面側にある下部ナックル部12の位置関係を示した概略図である。
【0032】
図10に示す基布1hは、図1に示す基布1aに中経糸9を配置したもので、湿紙が載置される湿紙面側4の上経糸5と、抄紙機のロールなどに当接する走行面側6の下経糸7と、上経糸5及び下経糸7の間に配置される中経糸9とを有し、上経糸5、下経糸7及び中経糸9のそれぞれに絡合するように織り込まれた緯糸8a〜8lとからなる経糸3重・緯糸1重の組織構造をなしている。緯糸8a〜8lは、図11A図11Lにそれぞれ示すように織り込まれ、この12本で単位組織を構成し、この単位組織(X)が経糸方向、緯糸方向に繰り返される組織構造となる。
【0033】
図12(C)に示すように、基布1hは単位組織内の各緯糸8a〜8lにおいて、各緯糸8a〜8lと上経糸5で形成される1つの上部ナックル部11と各緯糸8a〜8lと下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸5の6.5本分、5.5本分であり、その差は1.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、ほぼ均等に配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12は下経糸7の1本分以上間隔を開けて配置され、下部ナックル部12が各々隣接しないで分散配置されていることが分かる。なお、図3図12の上部ナックル部11及び下部ナックル部12の配置は同一である。また、図4乃至図9についても、上部ナックル部11及び下部ナックル部12の配置は同一のままで、中経糸9を配置した経糸3重・緯糸1重の組織構造とすることも可能である。
【0034】
上記応用例のように上部ナックル部11及び下部ナックル部12を配置させた単位組織を有する基布をフェルトに適用させることで、プレスによる加圧時の圧力状態を均一にし、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水させることができるフェルトを提供することができる。
【0035】
図13図15は、従来技術によるフェルトの基布で、基布のナックル部の位置関係を示す概略図である。
図13に示す基布は、単位組織内に6本の緯糸があり、各緯糸と上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸と下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして図13(C)に示すように、上部ナックル部11と上部ナックル部11の間隔または上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の6.0本分、2.5本分であり、その差は3.5本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、不均一に分散し配置されていることが分かる。更に隣接する緯糸で、下部ナックル部12が下経糸の1本分ずれた隣接する2つ1対のものと、隣接する4本の緯糸が下経糸1本分ずつずれた隣接する4つ1対のものが混在しており、この結果、基布の斜め方向に上部ナックル部11と下部ナックル部12の粗密の不均一性が強く存在してしまい、プレスによる加圧時の圧力状態の均一性、湿紙表面のマーク性、湿紙表面の平滑性、湿紙の均一な搾水性に影響が及んでしまう。
【0036】
図14に示す基布は、単位組織内に12本の緯糸があり、各緯糸と上経糸5で形成される1つの上部ナックル部11と各緯糸と下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして、図14(C)に示すように、上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の6.5本分、5.5本分のものと、7.5本分、4.5本分のものが混在し、その差は1.0本分、3.0本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、不均一に分散し配置されていることが分かる。また、図14(B)に示すように、各緯糸と下経糸7で形成される下部ナックル部12は、下経糸7の1本分以上間隔を開けて配置され、下部ナックル部12が各々隣接しないものと、下経糸の1本分ずれた隣接する2つ1対のものとが混在しており、この結果、基布の下部ナックル部12において粗密の不均一性が存在してしまう。
【0037】
図15に示す基布は、単位組織内に6本の緯糸があり、各緯糸と上経糸5で形成される2つの上部ナックル部11と各緯糸と下経糸7で形成される1つの下部ナックル部12を有する。そして、図15(C)に示すように、上部ナックル部11と下部ナックル部12の間隔の最大値及び最小値はそれぞれ上経糸の4.5本分、3.0本分であり、その差は1.5本分である。故に、緯糸方向において、上部ナックル部11及び下部ナックル部12は、不均一に分散し配置されていることが分かる。
【0038】
上記例示した本発明の基布1a〜1hの経糸、緯糸、表バット層3及び裏バット層4のバット繊維の素材としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、ウール、金属等を使用することができる。また基布に用いる経糸、緯糸には、通常の抄紙用プレスフェルトで使用される任意の形態、例えば、モノフィラメント、ツイストモノフィラメント、マルチフィラメント、紡出糸、トウ紡績糸等を選択することができる。そして、経糸、緯糸の撚り数、糸密度を設計に応じて適宜選択し、本発明の抄紙用プレスフェルトの基布に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかる抄紙用プレスフェルトは、フェルトの基布の上部ナックル部及び下部ナックル部の双方について、ナックル部の間隔、個数、繰返しパターンについて、上記の通りとすることで、プレスによる加圧時の圧力状態をより一層均一にすることで、湿紙表面にマークがなく、湿紙表面を平滑にさせ、湿紙の潰れがなく、湿紙から水分を均一に搾水できるフェルトを提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1a〜1h 基布
2 表バット繊維層
3 裏バット繊維層
4 湿紙面側
5 上経糸
6 走行面側
7 下経糸
8a〜8p 緯糸
9 中経糸
10 抄紙用プレスフェルト
11 上部ナックル部
12 下部ナックル部
X 繰返し単位組織
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図2L
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図11J
図11K
図11L
図12
図13
図14
図15