特許第6192961号(P6192961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192961
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】制震装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20170828BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20170828BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   E04H9/02 321B
   E04H9/02 311
   F16F15/02 S
   E04B1/58 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-63597(P2013-63597)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189950(P2014-189950A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖史
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、
これら第1および第2の躯体側部材の間に設けられて粘弾性体を有しこの粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容して吸振を行う粘弾性ダンパー機構と、
前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動が生じかつ前記粘弾性ダンパー機構に前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位が作用することを解消または緩和する摩擦ダンパー機構
とを備えた制震装置において、
前記摩擦ダンパー機構は、前記互いに摩擦接触する一対の接触部材の一方に貫通して設けられて横方向に延びるガイド長孔と、他方の接触部材に取付けられて前記ガイド長孔内に移動可能に挿通され、前記一対の接触部材に互いの押し付け力を与える軸状締め付け部材とを有し、
前記ガイド長孔を、水平方向に延びる円弧状で左右対称な形状としたことを特徴とする制震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制震装置において、前記ガイド長孔の前記円弧状の形状は、長手方向に沿う下側の縁が円弧状であって、上側の縁が直線状である制震装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制震装置において、
前記粘弾性ダンパー機構は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートと、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とでなり、
前記摩擦ダンパー機構は、前記中央プレートと前記第1の躯体側部材とが互いに接触する前記接触部材となり、かつ前記一対の前後プレートと前記第2の躯体側部材とが互いに接触する前記接触部材となる、
制震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、住宅等の建物に適用され地震等の外力による震動を減衰させる制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の柱と横架材とで構成される軸組フレーム内に設ける制震装置として、粘弾性ダンパーが一般的に用いられている。しかし、粘弾性ダンパーで吸収できるエネルギーを超えた負荷が加わると、粘弾性ダンパーが損傷する恐れがある。このような問題を解消するものとして、摩擦接触により制震機能を果たす摩擦ダンパーを粘弾性ダンパーと併用し、過大な負荷が作用した場合に摩擦ダンパーを機能させ、粘弾性ダンパーを保護するハイブリット構造のものが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4245258号公報
【特許文献2】特開2012−13215号公報
【特許文献3】特開2006−257674号公報
【特許文献4】特開2009−250354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
住宅に採用する制震装置の場合、層間変形1/15の大変形に追従して安定した減衰効果を発揮する必要がある。しかし、従来の制震装置は、ハイブリット構造のものであっても、このような大変形にまで追従する機能を備えたものが殆どない。また、その変形時には、水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも考慮しなくてはならないが、このような水平、垂直の両方の変位に対応できて、大変形に追従して安定した減衰効果を発揮できるものは、提案されるに至っていない。
【0005】
この発明の目的は、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも対処できるハイブリット構造の制震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の第1の制震装置は、
建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、
これら第1および第2の躯体側部材の間に設けられて粘弾性体を有しこの粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、
前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動が生じかつ前記粘弾性ダンパー機構に前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位が作用することを解消または緩和する摩擦ダンパー機構
とを備えた制震装置において、
前記摩擦ダンパー機構は、前記互いに摩擦接触する一対の接触部材の一方に貫通して設けられて横方向に延びるガイド長孔と、他方の接触部材に取付けられて前記ガイド長孔内に移動可能に挿通され、前記一対の接触部材に互いの押し付け力を与える軸状締め付け部材とを有し、
前記ガイド長孔を、水平方向に延びる円弧状で、左右対称な形状としたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、常時は、地震等により建物が変形して第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との間に外力が作用したときに、前記粘弾性ダンパー機構の粘弾性体がせん断変形することで震動エネルギーを吸収し、制震効果を発揮する。摩擦ダンパー機構は、接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用するまでは動作しない。そのため、粘弾性ダンパー機構のみが動作し、震動エネルギーを吸収する。建物の通常の地震等による小変形時は、この粘弾性体のせん断変形で吸収される。
【0008】
建物の変形が大きくなったり応答速度が大きくなると,粘弾性体の抵抗力によって摩擦ダンパー機構の接触部材間に作用する力が最大静止摩擦力を超える。これにより、摩擦ダンパー機構の摩擦部材間に相対移動が生じ、摩擦接触しながらの相対移動により摩擦減衰作用が生じる。すなわち摩擦ダンパーとして機能する。そのため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮できる。
また、摩擦ダンパー機構の摩擦部材の間に相対移動が生じることにより、粘弾性ダンパー機構の前記粘弾性体に過大な負荷が作用することが回避され、粘弾性体の損傷が保護される。
【0009】
摩擦ダンパー機構における摩擦部材の移動方向は、前記ガイド長孔とこれに挿通された前記締付け部材とにより規制され、そのため、この制震装置によって建物の大きな変形を許容する方向が規制される。この制震装置を壁フレーム等となる制震フレーム等に組み込む場合、ガイド長孔の延びる方向を水平とすることで、地震時等に生じる建物の水平方向の変形を許容することになる。しかし、この制震装置を、制震フレーム等に組み込んだ場合、制震フレームはせん断変形成分と曲げ変形成分とが混成された変形となり、前記ガイド長孔に挿通された締付け部材は、複雑な挙動を示そうとする。前記ガイド長孔は、この挙動を許容できる必要がある。前記ガイド長孔が直線状で水平方向に延びる場合、前記垂直方向の変形を許容できず、この制震装置に無理な荷重が作用することになる。しかし、前記ガイド長孔を左右に対称な円弧状としたため、前記締付け部材の前述の複雑な挙動を許容でき、水平方向の変形を円滑に許容することができる。
これらのため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも対処できる。
なお、前記ガイド長孔の長手方向中央の幅は前記締付け部材の軸径と同等であることが好ましく、これにより、摩擦ダンパー機構に原点回帰性を持たせることができる。
【0010】
この発明において、前記ガイド長孔の前記円弧状の形状は、長手方向に沿う下側の縁が円弧状であって、上側の縁が直線状であっても良い。
前記ガイド長孔の円弧状の形状が、長手方向に沿う下側の縁が円弧状であって、上側の縁が直線状であると、ガイド長孔の両端に至るに従ってガイド長孔の幅が広がる。そのため、前述のせん断変形成分と曲げ変形成分とが混成された変形による前記締付け部材の複雑な挙動に対する許容効果が大きく得られる。このガイド長孔の形状の場合も、ガイド長孔の中間部の幅寸法を軸状の締付け部材の軸径に合わせられるので、前記摩擦ダンパー機構の原点回帰性も維持することができる。
【0011】
この発明の制震装置において、前記粘性ダンパー機構は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートと、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とでなり、前記摩擦ダンパー機構は、前記中央プレートと前記第1の躯体側部材とが互いに接触する前記接触部材となり、かつ前記一対の前後プレートと前記第2の躯体側部材とが互いに接触する前記接触部材となるものであっても良い。
この構成の場合、粘弾性ダンパー機構が、摩擦ダンパー機構を介して躯体側部材に取付られることになり、摩擦ダンパー機構による粘弾性ダンパー機構の保護が行い易い。
【発明の効果】
【0015】
この発明の第1の制震装置は、建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、これら第1および第2の躯体側部材の間に設けられて粘弾性体を有しこの粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容して吸振を行う粘弾性ダンパー機構と、前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動が生じかつ前記粘弾性ダンパー機構に前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位が作用することを解消または緩和する摩擦ダンパー機構とを備えた制震装置において、前記摩擦ダンパー機構は、前記互いに摩擦接触する一対の接触部材の一方に貫通して設けられて横方向に延びるガイド長孔と、他方の接触部材に取付けられて前記ガイド長孔内に移動可能に挿通され、前記一対の接触部材に互いの押し付け力を与える軸状締め付け部材とを有し、前記ガイド長孔を、水平方向に延びる円弧状で左右対称な形状としたため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の第1実施形態の制震装置を示すもので、図(イ)は正面図、図(ロ)は側面図である。
図2】図(イ)は粘弾性ダンパー機構を示す正面図、図(ロ)は粘弾性ダンパー機構と躯体側部材とを分離状態にして示す側面図である。
図3】同制震装置の大変位時の作動状態を示す正面図である。
図4】図(イ)は同実施形態におけるガイド長孔の形状を示す拡大正面図、図(ロ)は、ガイド長孔の変形例の形状を示す正面図である。
図5】制震装置が適用された制震パネルの正面図である。
図6】同制震フレームのせん断変形および曲げ変形の説明図である。
図7】同制震フレームの最大変形を示す説明図である。
図8参考提案例の制震装置を示すもので、図(イ)は正面図、図(ロ)は側面図である。
図9】図(イ)は同提案例における第1の躯体側部材の正面図、図(ロ)は同実施形態における中央プレートおよび前後プレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4(イ)と共に説明する。この制震装置1は、住宅等の建物に用いられて地震等の外力による震動を減衰させる装置であって、図5に示すような建物用の制震パネル2用の制震装置として構成した場合のものである。制震パネル2は、階上側に一体化され、階上側から階下側に垂れ下がる上側フレーム3と、階下側に一体化され、階下側から階上側に立ち上がる下側フレーム4とを備え、パネル2の高さ方向の中間部位置において上側フレーム3の下端部と下側フレーム4の上端部とを制震装置1を介して連結したものである。震動によって建物に層間変位を生じると、上下のフレーム3,4が左右方向に相対変位をして制震装置1がエネルギーを吸収し、制震作用を行うようになされている。前記上下のフレーム3,4が、請求項1で言う「建物における震動で相対変位する一方および他方の部分」である。
【0020】
制震装置1は、図1及び図2に示すように、中央プレート5と一対の前後プレート6,6が面部を向き合わせるように前後方向に配列されると共に、これら中央プレート5と前後プレート6,6間に粘弾性体7,7が接着状態に介在している。一対の前後プレート6,6は、下端で互いに一体化されている。これら中央プレート5、前後プレート6,6、および粘弾性体7,7により、粘弾性ダンパー機構Aが構成される。粘弾性体6には、粘弾性を有する高分子物質等が用いられる。中央プレート5と前後の第1プレート6,6とが左右方向に相対変位を行うと、各粘弾性体7,7がせん断変形をしてエネルギーを吸収する。なお、前記中央プレート5および前後プレート6,6は、互いに相対移動する相対変位部材である。
【0021】
摩擦ダンパー機構Bは、次のように構成される。前記粘弾性ダンパー機構Aの中央プレート5に対応して、プレートからなる第1の躯体側部材8が備えられ、この躯体側部材8は、溶接などにより上側フレーム3に一体的に取り付けられている。
また、粘弾性ダンパー機構Aの前後プレート6,6に対応して、プレートからなる第2の躯体側部材9が備えられ、この躯体側部材が溶接などにより下側フレーム4に一体的に取り付けられている。
【0022】
前記中央プレート5および前後プレート6,6は、前述のように粘弾性ダンパー機構Aにおける相対変位部材となるが、これら中央プレート5および前後プレート6,6は、摩擦ダンパー機構Bにおける、第1,第2の躯体側部材8,9にそれぞれ摩擦接触する接触部材となる。また、第1,第2の躯体側部材8,9は、中央プレート5および前後プレート6,6に摩擦接触する相手側の接触部材となる。
【0023】
中央プレート5と第1の躯体側部材8とは重なり状態にされ、この重なり部分において、中央プレート5には、左右方向に延びる貫通したガイド長孔10が設けられると共に、第1の躯体側部材8には軸状締め付け部材であるボルト11が溶接などで一体化されて設けられ、各ボルト11の軸部11aは、ガイド長孔10に通され、各軸部11aには抜止め用のナット12が螺合されている。ナット12は、軸部11aがガイド長孔10から抜け出てしまうのを阻止するもので、中央第1プレート5と第1の躯体側部材8とを摩擦接合状態にしているものではない。
【0024】
前後プレート6,6と第2の躯体側部材9についても、重なり状態にされ、この重なり部分において、前後プレート6,6には、左右方向に延びる貫通したガイド長孔10が設けられると共に、第2の躯体側部材9には軸状締め付け部材であるボルト11が溶接などで一体化されて設けられ、各ボルト11の軸部11aは、ガイド長孔10に通され、各軸部11aには抜止め用のナット12が螺合されている。このナット12も、軸部11aがガイド長孔10から抜け出てしまうのを阻止するもので、前後の第1プレート5と第2の躯体側部材9とを摩擦接合状態にしているものではない。
【0025】
ガイド長孔10は図4(イ)に示すように円弧状とされ、水平方向に延び、左右に対称であり、その円弧状の円弧中心はガイド長孔10に対して下側とされている。ガイド長孔10は、この実施形態では長手方向に沿う上下両方の側縁とも円弧状とされ、長手方向の全域にわたって前記ボルト4の軸径D0 に合わせた同一幅寸法D1 とされている。
図4(ロ)は、ガイド長孔9の形状の他の例を示す。この例では、ガイド長孔10の円弧状の形状は、長手方向に沿う下側の縁が円弧状であって、上側の縁が直線状とされている。これによりガイド長孔10の両端部の幅寸法D1 は、前記ボルト4の軸径D0に合わせた中間部の幅寸法よりも大きくされている。
【0026】
この構成によると、常時は、地震等により建物が変形して第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との間に左右方向の外力が作用したときに、前記粘弾性ダンパー機構Aの粘弾性体5がせん断変形することで震動エネルギーを吸収し、制震効果を発揮する。すなわち、摩擦ダンパー機構Bは、それぞれ接触部材である中央プレート5と第1の躯体側部材8間、および前後プレート6と第2の躯体側部材9間の最大静止摩擦力を超える外力が作用するまでは、接触部材間に相対的な動作は生じない。そのため、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との間に外力が作用すると、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9とにそれぞれ摩擦接触で保持された中央プレート5と前後プレート6間に介在する粘弾性体7にその外力が伝わり、粘弾性体7がせん断変形することで、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との相対移動を許容する。この粘弾性体7のせん断変形により、粘弾性ダンパーとして機能し、震動エネルギーが吸収される。建物の通常の地震等による小変形時は、この粘弾性体7のせん断変形で吸収される。
【0027】
建物の変形が大きくなったり応答速度が大きくなって粘弾性体7の抵抗力が摩擦ダンパー機構Aの接触部材間の静止摩擦力を超えると、互いに摩擦接触する接触部材間、つまり中央プレート5と第1の躯体側部材8間、および前後プレート6と第2の躯体側部材9間に図3のように相対移動が生じる。なお、この相対移動は、ボルト11の軸部11aが長孔10内を移動可能な構成により許容されている。これにより粘弾性体7に過大な変形が作用することが回避され、過大な変形による粘弾性体7の損傷が保護されると共に、摩擦接触しながらの相対移動により摩擦減衰作用が生じる。すなわち摩擦ダンパーとして機能する。そのため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮できる。
【0028】
上記構成の制震フレーム2に地震等の外力が加わったときの変形を図6に示す。図6(イ)に示す制震フレーム2に外力が加わったときの変形は、図6(ロ)に示すせん断変形だけでなく、図6(ハ)に示すように曲げ変形が加わった混成の変形となる。例えば、制震フレーム2が水平方向に変形した場合、制震装置取付距離は変形前の(HD)から、曲げ変形時(H′D)や、せん断変形時(H″D)に変化する。特に、制震フレーム2の大変形時には、図7に示すように上下方向の変形量ho が大きくなる。なお、この場合の上下方向の変形量ho は、制震フレーム2の高さをHP 、最大層間変形角をθとしたとき、次式
ho =HP (1−cosθ)………(1)
で与えられる。このため、摩擦ダンパー機構Bの構成要素である前記ボルト11は複雑な挙動を示す。中央プレート5および前後プレート6,6のガイド長孔10は、ボルト11の動きに追従できる形状とする必要がある。
【0029】
そこで、図4(イ)に示した例では、ガイド長孔10の形状は、長手方向の全域にわたって前記ボルト11の軸径D0 に合わせた同一幅寸法D1 の円弧状とされている。これにより、上記した上下方向への変形に一応対応することができ、摩擦ダンパー機構に原点回帰性を持たせることができる。これにより、ボルト11とガイド長孔10との干渉を緩和して摩擦ダンパー機構としての減衰効果を発揮でき、ボルト11とガイド長孔10との干渉による金属擦れ音も低減できる。
【0030】
図4(ロ)に示した例では、ガイド長孔10の形状は、長手方向に沿う下側の縁が円弧状であって、上側の縁が直線状とされている。これによりガイド長孔10の両端部の幅寸法D1 は、前記ボルト11の軸径D0に合わせた中間部(センタープレート2の中央位置)の幅寸法よりも大きくされている。その両端部の幅寸法D1は、図7のように大変形時の制震動フレーム20の上下方向の変形量ho を用いて、次式
D1 =D0 +αho ………(2)
として与えることができる。ただし、αは、曲げ等による付加変形量を見込んだ余裕率(α≧1)である。これにより、小変形時から大変形時にわたって、ボルト11とガイド長孔10との干渉を緩和して摩擦ダンパー機構としての減衰効果を十分発揮できる。この場合、ガイド長孔10の中間部の幅寸法がボルト11の軸径D0に合わせているので、摩擦ダンパー機構の原点回帰性も維持することができる。
【0031】
このように、この実施形態の制震装置10によると、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも対処することができる。
【0032】
図8図9は、参考提案例に係る制震装置を示す。この実施形態は、特に説明する事項の他は、図1図4(イ)と共に前述した第1の実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。
この実施形態は、図1図4(イ)に示す第1の実施形態において、中央プレート5および前後プレート6に横方向に円弧状に延びるガイド長孔10を設け、かつボルト11を躯体側部材8,9に固定とした構成に代えて、次の構成としている。
【0033】
すなわち、この提案例では、中央プレート5および前後プレート6には横方向に直線状に延びる横ガイド長孔10Aを設け、第1,第2の躯体側部材8,9には上下方向に直線状に延びる縦ガイド長孔13を設けている。1本のボルト11は、中央プレート5の横ガイド長孔10Aと第1の躯体側部材8の縦ガイド長孔13に渡って挿通され、また他のボルト11は、前後プレート6の横ガイド長孔10Aと第2の躯体側部材9の縦ガイド長孔13に渡って挿通されている。各ボルト11は、それぞれ互いに重なる中央プレート5と第1の躯体側部材8との間の締め付け、および前後プレート6と第2の躯体側部材9との間の締め付けを行うが、各ガイド長孔10A,13の長手方向に移動可能とする。
この制震装置は、例えば図5の制震パネル2に、第の実施形態と同様に設置される。
【0034】
この構成の場合、摩擦ダンパー機構Bは、軸状締め付け部材であるボルト11が、互いに接する中央プレート5の横ガイド長孔10Aと第1の躯体側部材8の縦ガイド長孔13、および前後プレート6の横ガイド長孔10Aと第2の躯体側部材9の縦ガイド長孔13とに渡って挿通されている。このように横ガイド長孔10Aと縦ガイド長孔13とに挿通されているため、互いに接する中央プレート5と第1の躯体側部材8、および前後プレート6と第2の躯体側部材9とは、左右だけでなく、上下の相対移動も許容される。
建物の小変形時に粘弾性ダンパー機構Aが制震効果を奏すること、および建物の変形が大きくなったり応答速度が大きくなると、摩擦ダンパー機構Bの接触部材間に作用する力が最大静止摩擦力を超え、摩擦ダンパー機構Bの接触部材間に相対移動が生じことは、第1の実施形態の場合と同様である。
したがって、この提案例の制震装置においても、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ水平方向の変形だけでなく、垂直方向の変形にも対処することができる。
【0035】
なお、この提案例では、中央プレート5および前後プレート6に横ガイド長孔10Aを設けたが、中央プレート5および前後プレート6に縦ガイド長孔13を設け、第1、第2の躯体側部材8,9に横ガイド長孔10Aを設けても良い。
【0036】
また、上記実施形態および提案例では、粘弾性ダンパー機構Aを中央プレートと前後プレートとで構成したが、この発明および提案例は、図示の粘弾性ダンパー機構Aや摩擦ダンパー機構Bに限らず、種々の構成の粘弾性ダンパー機構および摩擦ダンパー機構を併用した制震装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…制震装置
2…制震パネル
3…上側フレーム(一方の部材)
4…下側フレーム(他方の部材)
5…中央プレート(接触部材)
6…前後プレート(接触部材)
7…粘弾性体
8…第1の躯体側部材(接触部材)
9…第2の躯体側部材(接触部材)
10…ガイド長孔
10A…横ガイド長孔
11…ボルト(軸状締め付け部材)
11a…軸部
13…縦ガイド長孔
A…粘弾性ダンパー機構
B…摩擦ダンパー機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9