【文献】
キッコーマン微生物測定用試薬キット(無菌確認用)「ルシフェール AT100」取扱い説明書 (2011) <URL: http://biochemifa.kikkoman.co.jp/pdf/j/j_kit_torisetu/toriat.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記貧栄養食品100g当たり、前記水分の配合量が90.0〜99.0gおよび前記ミネラルの配合量が1mg以上であることを特徴とする請求項1に記載の貧栄養食品の微生物試験方法。
前記貧栄養食品は、その形態がゼリー状またはとろみのついた半固形食品であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の貧栄養食品の微生物試験方法。
【背景技術】
【0002】
高齢者あるいは病後の人など喫食量の少ない人や嚥下能力が低下している人、嚥下機能訓練患者、水分制限患者において、経口摂取が不十分な低栄養患者などには、液状の栄養食品に限らずゲル状の栄養食品も用いられている。すなわち、咀嚼力が弱っている場合は、食材を細かく刻んだり、つぶしたりした形態とし、嚥下機能が弱っている場合は、ゼリー状やペースト状の形態と咀嚼力、嚥下機能の程度によって食べられる食事形態が異なってくるので、液状もしくはゲル状など、栄養を必要としている人に対して様々な形態の栄養食品が広く用いられている。
【0003】
このような栄養食品として、特許文献1には、蛋白質、糖質、脂質を主成分とし、ビタミンならびにミネラル等を含有する栄養食品が提案されている。また、患者の状況に合わせて、このような栄養食品と併用して、水分補給用食品が用いられることも多い。ミネラル等の栄養素により、消化器内で吸収されやすい組成となっており、お茶や水を飲用するよりも効率がよい。この場合には、患者によって必要な栄養素が異なるのに合わせて様々な組み合わせで使用が可能になると良い。そのため、水分補給用の食品においては、熱量や栄養素を控え、水分やミネラルを中心とした組成である貧栄養食品が好まれる。
【0004】
また、このような貧栄養の食品は液体であることが多いが、ゼリー状やとろみの付いた半固形の形状も好んで使用される。半固形の形状は、横たわった状態でも口に含みやすく少量ずつ摂取しやすいため、水分がむせやすい場合にも水分経口摂取が可能となる。チューブを介して栄養食品を投与する際には、逆流しにくいという利点もあり、食品等の逆流は消化器官の炎症、誤嚥性肺炎の原因になることから安全性の観点からも好まれている。また、併用する栄養食品を注入した後から貧栄養食品を注入してチューブに付着した併用食品を一緒に流し込む効果もある。
【0005】
一方、これまでは手術前の患者には、絶飲食し点滴による栄養補給が行われていたが、近年医療安全や患者ストレス軽減策が見直され、水分補給用食品の経口補水療法(oral rehydration therapy;ORT)が増加している。点滴手技が不要となり患者の痛み軽減および医療機関の業務負担軽減等の効果に加えて、これまで術前8時間は水分が制限されていたが、手術直前まで水を飲めることになり、ストレス軽減になるといわれる。また、状況に応じてゼリー状の食品が選択出来れば空腹感もまぎれるという効果がある。今後ますますこれらの食品の使用が増加すると考えられ、衛生管理が徹底した商品が提供できればさらに適応対象を広げられると期待できる。
【0006】
また、水分補給を目的とした貧栄養食品については体力低下のある病人や老人に利用されることが多く、品質管理は重要な課題である。なかでも微生物の増殖は下痢や食中毒の原因となり得、上記のような患者の場合は症状が重篤化しやすい。保管条件を保ち、微生物の増殖を抑えて品質を維持することも必要であるが、製造直後の微生物量混入が抑制されていることが重要である。従って、このような栄養食品製造時は微生物汚染について慎重に検査・判断され、微生物汚染がないことを確認した後、出荷されている。
【0007】
従来、貧栄養食品を含め、栄養食品の微生物汚染のないことの確認方法としては、食品衛生検査指針に記載されている培養法が広く用いられている。培養法における微生物(一般生菌数)測定法では、標準培地を用いて一般的な微生物の35℃〜24℃の温度条件下で48時間以内に繁殖する微生物を対象として、微生物の検出を行うものであり、微生物の増殖が認めらない場合は、微生物が混入していないとされる。
【0008】
培養法の問題点として、増殖条件が想定される条件外、すなわち低温、高温、標準培地に適応しない場合の微生物は検出されない危険性が指摘されており、必ずしも十分とは言えない。従って近年、食品の微生物測定にあたっては、対象とする食品の状況に適合した条件で培養、測定を行うことが求められている。これまで、培養法によって微生物繁殖が見過ごされてきた可能性は高くないが、環境の変化などの要因や誤作動により、発見されるべき異常が見過ごされる危険も予想でき、より確実な試験方法で検査することは有意と考えられる。
【0009】
一方、貧栄養食品においては、一般的な微生物が増殖しにくい条件であり、上記の様な問題はないと考えられる。しかし、近年高まる安全性への関心に伴い、微生物汚染状態をより正確に示すべく、酸性条件下で増殖する微生物を検出する試験方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
培養法を用いた従来の微生物試験方法は、製品を保温する工程と、保温後の製品から所定量の試料を採取し、その試料を培地と混釈し、その培地を用いて培養する工程と、培養後の培地に発育した微生物のコロニー数を計測する工程と、計測されたコロニー数によって製品の微生物汚染状態を判定する工程とを含む。そして、従来方法では、微生物汚染状態の判定結果、すなわち、出荷の判定結果を得るまでに長時間を要していた。したがって、従来方法には、微生物汚染状態の判定までの所要時間が長くなるため、栄養食品の微生物汚染状態の判定手法、工程管理手法として迅速性を欠くという問題がある。
【0012】
また、従来方法では、出荷判定までの所要時間が長くなるため、在庫が増加するという問題がある。その結果、在庫の増加に伴う倉庫スペースの拡大が必要となり、ロットや品種ごとに製品を管理することから管理工数や手間も比例して増大する。空間的・金銭的な損失に加えて管理の複雑化に伴う混乱もが生じうる。
【0013】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は、微生物汚染状態を迅速に判定でき、それによって在庫の圧縮が可能となり、また、貧栄養条件であっても微生物汚染を確実に検出できる貧栄養食品の微生物試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明に係る貧栄養食品の微生物試験方法は、水分おいよびミネラルを含有する貧栄養食品の微生物試験方法であって、前記貧栄養食品に酵母エキスを添加する添加工程と、前記酵母エキスを添加した前記貧栄養食品を所定条件で保温する保温工程と、前記保温工程の終了後に、前記貧栄養食品の相対発光量(相対発光強度、発光量とも呼ばれる)をATP法( Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)で測定する測定工程と、前記貧栄養食品の微生物汚染状態を前記相対発光量で判定する判定工程と、を含み、前記判定工程において、前記相対発光量が200RLU以下であるときに前記貧栄養食品に微生物汚染がないと判定し、かつ、前記相対発光量が200RLUを超えるときに前記貧栄養食品が微生物汚染されていると判定することを特徴とする。
【0015】
本発明の貧栄養食品の微生物試験方法は、従来の試験方法で行っていた微生物のコロニー数での微生物汚染状態の判定に変えて、ATP法で測定される相対発光量で微生物汚染状態を判定する判定工程を含む。そして、ATP法では、微生物数の増大に比例して相対発光量が大きくなるが、少ない微生物数であっても相対発光量を測定できる。したがって、本発明では、微生物汚染状態を確認するために、従来のように貧栄養食品から採取した試料を培地で長時間培養して微生物数を増大させる必要がない。その結果、本発明では、微生物汚染状態の判定に要する時間を短縮できる。
【0016】
一方、従来の試験方法においては、規定の培地上で増殖しない微生物が、食品内に混入していた場合でも試験時には検出されなかった。酵母エキスを含有する貧栄養食品の保温の際に生じた微生物の増殖状態のバラツキが、培養によって発育する微生物のコロニー数に影響を与え、微生物汚染状態の判定に影響を与えていた。しかしながら、本発明の試験方法においては、培地上で増殖させるのではなく、食品中で増殖させること、および、微生物増殖に必要となる養分を追加すること等の改善点により、混入した微生物が増殖しやすい環境を作る。また、微生物の種類に寄らず検出が可能なATP反応試薬を用いるため、発生微生物を確実に検出できる。さらに、簡便なATP法で相対発光量を測定するため、測定回数を考慮することによって増殖状態のバラツキの影響を少なくでき、微生物汚染状態の判定の信頼性が向上する。さらに、微生物汚染状態の判定のために相対発光量の閾値を設定することによって、微生物汚染された貧栄養食品を簡便かつ確実に取り除くことが可能となる。
【0017】
本発明の貧栄養食品の微生物試験方法は、水分、ミネラルおよび炭水化物を所定範囲で配合した貧栄養食品において、好適に用いられる。また、液状に限らず、ゼリー状やとろみの付いた貧栄養食品においても、好適に用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る貧栄養食品の微生物試験方法によれば、培養法を用いた従来の試験方法に比べて、微生物汚染状態を迅速に判定でき、微生物汚染状態の判定日数を削減できる。それによって在庫の圧縮、管理の簡便化が期待できる。また、微生物汚染状態がより正確に示され、信頼性の更なる向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る貧栄養食品の微生物試験方法(以下、貧栄養食品を製品、微生物試験方法を試験方法と称することがある)の実施形態について、詳細に説明する。
本発明の試験方法は、添加工程と、保温工程と、測定工程と、判定工程と、を含むものである。
【0021】
(添加工程)
添加工程は、微生物増殖時に必要とされる栄養分を酵母エキスとして貧栄養食品に添加する工程である。酵母エキスの添加量は、最終濃度が0.2〜0.6W/V%となるように調整することが好ましい。酵母エキスの添加濃度が0.2W/V%未満であると微生物数の増加が期待し難く、酵母エキスの添加濃度が0.6W/V%を超えても微生物数の著しい増加が現れず、過剰な酵母エキスを含有することとなり、コスト高となる。
【0022】
使用される酵母エキスは、特に限定されないが、YEAST EXTRACT,BD社製の酵母エキス、オリエンタル酵母社製のパン酵母エキス、和光純薬工業社製の粉末酵母エキスSH等が好適に使用される。これらの酵母エキスから10W/V%程度の水溶液を作製し、適切な濃度になるように添加される。また、酵母エキスに加えて、その他の栄養素が適宜添加されても良い。
【0023】
(保温工程)
保温工程は、製品の微生物汚染を後記する工程で測定、判定するために、製品を所定条件で保温して、製品に混入した微生物(細菌または真菌)を増殖させる(微生物数を増加させる)工程である。
【0024】
保温工程での保温条件としては、細菌の菌汚染を確認する際は32〜37℃で6日以上、真菌の菌汚染を確認する際は20〜25℃で6日以上が好ましい。保温温度または保温日数が下限値未満であると菌数が検出限界に達する菌数まで増殖する前に測定されてしまい、試験の結果が偽陰性となる危険性がある。また、保温時間の減少によって保温場所や管理工数の削減が期待される為、過剰に保温日数を設定することが不適であることは言うまでもない。
【0025】
(測定工程)
測定工程は、製品の相対発光量をATP法で測定する工程である。ここで、ATP法とは、微生物内のATPを抽出し、そのATPに応じて試薬を発光させ、その相対発光量が微生物内のATP量(微生物数)と比例することに基づいて、微生物汚染を測定する方法である。そして、試薬の相対発光量は、微生物の種類に寄らず、少ない微生物数であっても測定可能であるため、多様な微生物について、微生物数の少ない初期段階で微生物汚染を測定できることに特徴がある。ATP法では、具体的には、ルシフェラーゼおよびATP(微生物内)の存在下でルシフェリンを酸化させ、その酸化によって生じる発光の量を測定する。このようなATP法には、市販のルミテスターC−100N、ルシフェールAT100(販売元:キッコーマンバイオケミファ株式会社)が好適に使用される。
【0026】
(判定工程)
判定工程は、前記測定工程で測定した相対発光量で製品の微生物汚染状態を判定する工程である。そして、相対発光量が200RLUで以下あるときに、製品に微物汚染がないと判定し、かつ、相対発光量が200RLUを超えるときに、製品が微生物汚染されていると判定する。このように、製品の微生物汚染状態を判定するために、相対発光量に閾値を設定することによって、微生物汚染された製品を取り除くことが可能となる。
【0027】
また、判定工程では、相対発光量が150RLU以下であるときに製品に微生物汚染がないと判定し、かつ、相対発光量が150RLUを超えるときに、製品が微生物汚染されていると判定することがさらに好ましい。このように、相対発光量の閾値を200RLUよりも小さい値に設定することにより、微生物汚染状態の判定の信頼性が向上する。この時の閾値の設定は培養法に基づいて微生物数を測定し、同サンプルをATP法において相対発光量を測定して相関性を計算することからも求められる。このとき、両測定値から相関直線を求め、検出限界が計算される。検出限界以上であれば、培養法に対してATP法は信頼性があるとされる。さらに、培養法で微生物汚染状態が確認できるサンプルを用いてブランク測定を行い、閾値を設定する手法でも良く、これはより事実を反映した閾値と考えられる。
【0028】
(貧栄養食品)
つぎに、本発明の試験方法において、貧栄養食品とは、水分およびミネラルを含有し、蛋白質、脂質量の含有量が非常に低量に抑えられた栄養組成物である。また、本発明の試験方法に好適に使用される貧栄養食品は、熱量:20〜30kcal、質量:100〜400g、比重:1.00〜1.20、pH:4.0未満である。また、貧栄養食品は、その形態がゼリー状またはとろみのついた半固形食品であっても良い。貧栄養食品は、容器等に充填された状態にあるものも含まれ、その場合、食品を予め加熱殺菌した後に無菌的に容器に充填する方法、および、容器に充填した後に容器ごと加熱殺菌される方法の何れも採用可能である。
【0029】
前者の場合には、食品中に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や食品を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式等の直接加熱方法や、表面熱交換機器を用いる間接加熱方法によって加熱殺菌された食品がアセプティック充填法等で容器内に充填される。いずれの加熱条件も130〜150℃、2〜120秒程度の加熱処理が好ましい。
【0030】
後者の場合には、レトルト法、ボイル殺菌法などが用いられる。レトルト法による殺菌は110℃〜125℃、4〜30分程度の加熱条件が好ましく、ボイル殺菌法ではpH4.6以下の貧栄養食品においては70〜95℃、5〜20分程度の加熱処理が好ましい。また、加熱殺菌は必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気内で行うこともできる。
【0031】
貧栄養食品を充填する容器としては特に限定されないが、患者が摂取しやすい形態が好ましく、プラスチック、ペットボトル、カート缶、テトラパック等の紙容器、またはアルミパウチ、金属缶などが挙げられる。
【0032】
使用する容器の素材としては、可逆化塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、エチレン−酢酸ビニル(EVA)共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等の各種ポリオレフィン樹脂、ポリフルオロカーボン、ポリイミド等の軟質合成樹脂かあげられ、これらにより形成された密封型で、加熱殺菌可能な軟質容器が好適である。
【0033】
また、容器の内側面側にポリエチレンなどの合成樹脂また紙にアルミ箔などをラミネートした素材により形成された容器も用いることができ、とくにアセプティック充填法に好適とされる。
【0034】
その他にも医療用容器等とされる樹脂も適宜選択されており、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等のガスバリア性樹脂層や、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、酸化珪素皮膜、酸化アルミ皮膜等のガスバリア性を有する層をフィルムの層成分として貧栄養食品の容器として用いられている。
【0035】
貧栄養食品(以下、製品と称することがある)の栄養素について、説明する。
【0036】
(水分)
水分の配合量は、製品100g当たり、90.0〜99.0gが好ましい。ゼリー状やとろみの付けられた貧栄養食品の場合には、滑らかで喉越しがよく飲みやすいため体力低下した患者やお年寄りにも好適であるが、水分の配合量が製品100g当たり90.0g未満であると、製品を滑らかに調整することが難しくなる。水分配合量は食品全体の栄養素比率、液粘度、浸透圧をそれぞれ最適に保つべく調整される。患者や症状に応じて適宜設定された食品とすると良い。
【0037】
(ミネラル)
ミネラルとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン等が挙げられ、これらの1種でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。ミネラルの配合量は、製品100g当たり、1mg以上が好ましい。これらのミネラルが適宜添加されることによって、体内での水分の吸収効率が向上し、より良い。
【0038】
ミネラルの配合比としては、100gあたり、ナトリウムは5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg、カリウムは1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg、マグネシウムは1〜740mg、好ましくは25〜300mg、カルシウムは10〜2300mg、好ましくは250〜600mg、リンは1〜3500mg、好ましくは20〜1500mgの範囲が適当である。
【0039】
本発明の試験方法に使用される好適な貧栄養食品は、前記栄養素に加えて、微量元素、ビタミンをさらに含有することが好ましい。上記の通り、使用時に他栄養食品と組み合わされて使用する場合を考慮すると、微量元素、ビタミンは必ずしも添加されなくても良い。
【0040】
(微量元素)
微量元素としては、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、ヨウ素、クロム、およびモリブデン等が挙げられる。
【0041】
微量元素の配合比としては、製品100g当たり、鉄は0.1〜55mg、好ましくは1〜10mg、銅は0.01〜10mg、好ましくは0.1〜6.0mg、亜鉛は0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg、マンガンは0.01〜11mg、好ましくは0.1〜4mg、セレンは0.1〜450μg、好ましくは1〜35μg、クロムは0.1〜40μg、好ましくは1〜35μg、ヨウ素は0.1〜3000μg、好ましくは1〜150μg、モリブデンは0.1〜320μg、好ましくは1〜25μgの範囲が適当である。
【0042】
(ビタミン)
ビタミンとしては、ビタミンB
1、ビタミンB
2、ビタミンB
6、ビタミンB
12、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビチオン、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK等が挙げられる。
【0043】
ビタミンの配合比としては、製品100g当たり、ビタミンB
1は0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg、ビタミンB
2は0.1mg〜20mg、好ましくは0.33〜12mg、ビタミンB
6は0.1〜60mg、好ましくは0.1〜10mg、ビタミンB
12は0.1〜100μg、好ましくは0.6〜60μg、ナイアシンは1〜300mgNE、好ましくは3.3〜60mgNE、パントテン酸は0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg、ビオチンは1〜1000μg、好ましくは14〜500μg、葉酸は10〜1000μg、好ましくは60〜200μg、ビタミンCは10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg、ビタミンAは10〜3000μgRE、好ましくは135〜600μgRE、ビタミンDは0.1〜50μg好ましくは1.5〜5.0μg、ビタミンEは0.1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg、ビタミンKは0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μgの範囲が適当である。上記の通り、貧栄養食品は他栄養食品と併用される場合も考慮して処方されることが望ましく、適宜調整されると良い。
【0044】
なお、前記した各種のミネラルは、無機塩または有機塩として配合され、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸三カルシウム、クエン酸鉄、グルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、等が挙げられる。微量元素については、高濃度の微量元素培地を用いて培養された酵母等の微生物を利用した微量元素含有微生物菌体、例えばマンガン酵母、セレン酵母、モリブデン酵母、クロム酵母などを用いても良い。
【0045】
本発明の試験方法に使用される好適な貧栄養食品は、前記栄養素に加えて、炭水化物をさらに含有することが好ましい。
【0046】
(炭水化物)
炭水化物は、糖質とおよび食物繊維からなる。糖質としては、澱粉、加工澱粉、デキストリン、乳糖、ショ糖、グルコース、フルクトース、マルトース、粉飴等が挙げられ。これらの1種でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。炭水化物の配合量は、製品100g当たり、1.0〜3.0gが好ましい。炭水化物の配合量が製品100g当たり1.0g未満であると、炭水化物による栄養効果を挙げることが難しくなる。また、炭水化物の配合量が多くなりすぎると製品を滑らかに調整することが難しくなるという問題がある。さらに、本試験対象の貧栄養食品の使用の際に想定される、他栄養食品との併用について、組み合わせにより栄養素過多となることを防止するため、比較的低濃度とすることが望ましい。
【0047】
また、貧栄養食品は、製品の栄養効果の妨げにならない範囲で、必要に応じて、pH調整剤、酸味料、乳化剤、香料、スクラロース、アセスルファムカリウム等の甘味料を配合してもよい。製造方法は、特に限定される必要はなく、上記に説明した組成に基づいて適宜製造が選択され、製造される。
【実施例】
【0048】
つぎに、本発明の試験方法の実施例について、説明する。
<実験1:微生物汚染のない状態の確認試験>
表1に示す栄養素からなる貧栄養食品を調製し、試料を作製する。まず調合水を80℃以上に加温し、炭水化物、ミネラルを添加する。熱水を添加して全量を調整した後、均一な状態となるまで溶解分散させた。この溶液を200mLずつ口栓付きのアルミパウチに充填し、90℃で10分間の容器殺菌処理を行い、試料1Aとした。この試料1A500mlを1000mlの耐熱ビン(121℃で20分間加熱滅菌したもの)に入れ、さらに酵母エキス(BD社製)20ml(最終濃度0.4W/v%)を添加した。なお、酵母エキスは、酵母エキス10gを100mlの純水に溶解後、121℃で20分間加熱滅菌したものを使用した。
【0049】
つぎに、酵母エキスを含有した試料1A:500mlについて、細菌確認用として35℃で6日間保温し、真菌確認用として23℃で6日間保温した。保温後の試料1A〜3Aの各々から0.1mlを採取して、以下の分析装置、測定キットを用いてATP法で相対発光量を測定した。その結果を表2に示す。
(分析装置)
ルミタスターC−100H(販売元:キッコーマンバイオケミファ株式会社)
(測定キット)
ルシフェーノールAT100(販売元:キッコーマンバイオケミファ株式会社)
【0050】
なお、保温後の試料1Aの細菌数を確認するため、試料1Aについて1mlを標準寒天培地と混釈し、混釈後の培地を35℃で6日間培養した。培養後、発育したコロニー数を計測し、細菌の菌数(1ml当たりに換算)を求めた。その結果を表2に示す。また、保温後の試料1Aの真菌数を確認するため、試料1A:1mlをPDA培地と混釈し、混釈後の培地を23℃で6日間培養した。培養後、発育したコロニー数を計測し、真菌の菌数(1ml当たりに換算)を求めた。その結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表2の結果から、相対発光量が200RLU以下の試料1Aは、微生物汚染のない状態であることが確認できた。
【0054】
<実験2:微生物汚染のある状態の確認>
実験1で用いた試料1Aに、以下の手順で調製した菌懸濁液0.5mlを接種した(試料1B)。つぎに、接種後の試料1Bの菌数が30〜300個/mlになるように段階希釈した。
(菌懸濁液の調製)
細菌として乳酸菌(菌種:Lactobacillus plantarum NBRC 3070)を使用し、真菌として酵母(菌種:Saccharomyces cerevisiae NBRC 0565)を使用した。乳酸菌は標準寒天培地上で35℃、24時間発育させたものから、酵母はPDA培地上で23℃、24時間発育させたものから各々1白金耳(菌数:約10
7個)取り、10ml滅菌生理食塩水に懸濁した。
【0055】
保温、接種、稀釈後の試料1Bについて、実験1と同様にして、6日間保温して、保温後の試料1Bについて、ATP法で相対発光量を測定した。その結果を表3に示す。
また、保温、接種、稀釈後の試料1Bの乳酸菌および酵母の菌数を確認するため、実験1と同様にして培養して、培養後の試料1Bの菌数(1ml当たりに換算)を求めた。その結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3の結果から、相対発光量が200RLUを超える試料1Bは、微生物汚染がある状態であることが確認された。
よって、表2、3の結果から、本発明の試験方法、すなわち、貧栄養食品を所定条件で6日間保温後、ATP法で相対発光量を測定する方法においては、相対発光量:200RLUを閾値として微生物汚染状態の判定が可能であることが確認できた。
従来の試験方法においては、貧栄養食品を7日間保温後にさらに培養を5日間行って、培養後、発育したコロニー数を計測して、微生物汚染状態の判定を行っている。したがって、本発明の試験方法においては、製品の保温後に所定の培養を行う必要がないため、微生物汚染状態の判定日数を短縮できることが確認された。
【0058】
次に、酵母エキスを含有した試料1Aに乳酸菌および酵母を1白金耳接種し、乳酸菌は32〜37℃、酵母は20〜25℃で約24〜48時間培養した液を同じ接種した製品で段階希釈して、ATP法及び混釈法(培養法)で相対発光量および菌数を求め、横軸(X軸)に菌数の対数、縦軸(Y軸)に相対発光量(RLU)の対数を取り、各菌数(繰り返し3回平均)における相対発光量(繰り返し3回平均)をプロットして菌数と相対発光量の相関直線を求めた。
図1に、試料1Aの乳酸菌における相関直線を示す。求めた相関直線から相対発光量の検出限界を以下の式で算出した。
検出限界=(3.3×σ)/相関直線の傾き
ここで、σは、測定された相対発光量の標準偏差とする。そして、試料1Aの乳酸菌における検出限界は10(RLU)、酵母における検出限界は10(RLU)であった。
【0059】
図1の通り、菌数とATP法で測定した相対発光量とは相関性が高く、設定された条件下では貧栄養食品におけるATP法は有効な微生物試験方法であることが確認された。また、相関直線から算出した検出限界は、実験1で求めた微生物汚染のない状態での相対発光量よりも低値であった。本測定の範囲内において検出範囲が十分であり、測定法として問題ないことが確認された。