【実施例1】
【0012】
本発明の第1の実施例について説明する。
図1は,本実施例に係る蒸気タービン段落構造を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施例に係る蒸気タービンのタービン段落は、タービンロータ3の周方向に複数枚設置されたタービン動翼5と、ダイヤフラム外輪1とダイヤフラム内輪2の間にタービン周方向に複数枚設置されたタービン静翼4とから構成される。タービン動翼5のタービン半径方向外周側の先端にはシュラウド6が設けられている。また、タービン動翼5の先端側に設けられたシュラウド6の外周側壁面と、外周側壁面と対向する静止部との間には回転体と静止部との間隙を最小化し、漏れ流れを抑制するための径方向シールフィン7がロータ軸方向に複数枚設けられている。また、シュラウド6の下流側壁面と、下流側壁面に対向する静止部との間には軸方向シールフィン8が設けられており、シュラウド6と、静止部と、漏れ流路内の最下流側に設けられた径方向シールフィン7との間にキャビティ9を形成している。さらに、軸方向シールフィン8はそれを軸方向に駆動するための駆動装置に接続されており、軸方向に駆動可能なように構成されている。
作動流体である蒸気主流12は、タービン動翼5の蒸気流れ方向上流に設けられたタービン静翼4から流出し、流出した主流蒸気12の大半はタービン動翼5に流入し、一部は、静止部と回転体であるシュラウド6の間に形成された漏れ流路へと流入する。そして、漏れ流れ13として複数枚の径方向シールフィン7を通過した後、タービン動翼5の下流において主流蒸気12と再合流する。蒸気タービンは、タービン動翼5の上流側に設けられたタービン静翼から流出した蒸気主流12を、タービン動翼5に流入させることでタービン動翼5とともにタービンロータ3を回転させ、タービンロータの端部に接続する発電機(図示せず)を介して回転エネルギーと電気エネルギーを変換することで発電を行うものである。そのため、タービン動翼5を迂回し漏れ流路を通過した漏れ流れ13は、タービンロータ3の回転エネルギーへと変換されないため、損失となる。
【0013】
図2にタービン動翼先端側から見たときの翼形状および速度三角形を示す。
図2において符号17で表した破線は動翼周速度を表す。タービン静翼4の後縁から絶対速度15で流出した主流蒸気12は相対速度16としてタービン動翼に流入する。その後、タービン動翼5で転向され相対速度19として流出する。この時、流れは軸方向に近い流れ絶対速度18に転向されており、タービン動翼でエネルギーが回収された分、圧力、温度が低下し、次段へと流入する。
【0014】
一方、タービン動翼5を迂回する漏れ流れ13は、軸方向に複数枚設けられた径方向シールフィン7を通過する際に縮流され、全圧が低下するとともに軸流速度が増加するが、周方向速度は各運動量保存則により、タービン静翼4を流出した際の周方向速度成分をほぼ維持したまま漏れ流路を通過する。すなわち、
図2に示されるように、漏れ流れ13は漏れ流路において転向させられることなく流出し、蒸気主流12と合流する際に流れ角のミスマッチが生じる。この流れ角のミスマッチにより、蒸気主流12と漏れ流れ13が合流する際に生じる混合損失が助長される。
【0015】
本実施例の構成、動作の詳細を説明する。
【0016】
本発明の漏れ流路形状の拡大図を
図3に示す。ダイヤフラム外輪1と動翼のシュラウド6の間に,軸方向に複数枚の径方向シールフィン7が設けられている。径方向シールフィン7は,タービンの回転軸を中心とした回転対称な断面形状を有し,先端部が鋭角な楔形状となっている。径方向シールフィン7とシュラウド6の外周側壁面の間には,静止部と回転部の接触を防ぐため,間隙幅Crが設けられている。漏れ流れ13はこの間隙を通過する際に縮流膨張され、速度エネルギーが熱拡散することで全圧が低下する。この縮流膨張現象が漏れ流れへの抵抗となり漏れ流れ量を低減することができる。本実施例の場合,径方向シールフィン7はダイヤフラム外輪1に固定され,その先端部が動翼のシュラウド6側に向けられた構造をしているが,逆に,径方向シールフィン7をシュラウド6に固定し,その先端部をダイヤフラム外輪1側に向けて設置しても効果は変わらない。また、本実施例の場合、シュラウド外周側壁面の形状はステップ状をしているが、フラット状など他の形状であっても本発明の効果は変わらない。
【0017】
径方向シールフィン7の下流側には,軸方向シールフィン8が設けられている。軸方向シールフィン8は、シュラウドの下流側壁面と静止部との間の漏れ流路にロータ軸方向に突出するフィンである。軸方向シールフィン8は、シュラウド6、静止部、および漏れ流路内の最下流側に設けられた径方向シールフィン7とキャビティ9を形成しており、キャビティに流入した漏れ流れ13は2対の強い循環流20を形成する。漏れ流れ13はキャビティ内で循環する過程において壁面から粘性の影響を受け周方向速度成分が減衰される。径方向シールフィンを設けずキャビティを形成しない場合は漏れ流れと蒸気主流が強く干渉し流れが乱れるため、本実施例に示すような強い2対の循環流を形成することができない。さらに本実施例に比べ径方向シールフィン分の面積も減少するため、漏れ流れの旋回速度成分を十分に減衰することができない。そのため、本実施例では、漏れ流れ13がキャビティ9から流出し蒸気主流12と合流する際には、流れ角のミスマッチが緩和されており、混合損失を効果的に低減することが可能である。さらに、軸方向シールフィン8は高圧の蒸気主流12がキャビティ9内に逆流することを防止する効果も備えており、この効果により、より一層の混合損失低減が可能である。
【0018】
さらに、本実施例では、軸方向シールフィン8が、それを駆動するための受圧ヘッド10と弾性体11を有する駆動装置に接続されている。駆動装置は、静止部に形成された溝
23内に設けられており、蒸気圧を受けて径方向に移動する受圧ヘッド10と、受圧ヘッド10に押動されてロータ軸方向に移動するフィン支持部材24と、フィン支持部材24を受圧ヘッドによる押動方向と反対方向に付勢する付勢手段である弾性体11からなる。
受圧ヘッド10は、ロータ中心軸を中心にして円環状に連なるセグメント構造体であり、溝23内を半径方向に往復運動するピストンの役割を果たす。受圧ヘッド内周側のフィン支持部材との接触面10aは、ロータ軸方向に勾配を有する。
【0019】
フィン支持部材24は、円環状の部材であり、接触面10aと平行な接触面24aを有する。受圧ヘッド10とフィン支持部材24が、軸方向に傾斜する接触面10aと接触面24aで接触することで、受圧ヘッド10からの押力の作用方向が、軸方向の押力としてフィン支持部材に作用する。フィン支持部材24の軸方向他方の端部と溝23との間には、弾性体11が設けられており、この弾性体11はフィン支持部材24もしくは溝壁面に固定されている。さらにフィン支持部材24の内周側には、内周方向に突出する凸部が形成されている。凸部は溝23の蒸気主流路側の開口部に突出して、凸部先端で軸方向シールフィン8を支持している。
【0020】
駆動装置は、タービン起動時に、上流段から抽気する、もしくはボイラから直接、配管を通すなどして得た高圧蒸気14の蒸気力を、受圧ヘッド10を介して軸方向の力として変換することで軸方向シールフィンを軸方向に駆動し、軸方向シールフィン8とシュラウド6の間隙幅Caを広げることができる。そのため、起動時のタービンロータとケーシングの温度差に伴う熱膨張量の違いにより間隙幅Caが狭まったとしても、シュラウド6と軸方向シールフィン8は接触することなく安全に起動することができる。定常運転状態に入った際に蒸気の供給を止めることで、軸方向シールフィン8に接続されている弾性体11の反力により軸方向間隙幅Caをタービン停止時と同等の値まで狭めることができる。すなわち、駆動装置を用いて軸方向シールフィンの間隙幅Caを制御可能であり、常に適切な軸方向間隙幅Caを維持することができるため、より一層の漏れ流れ損失の低減が可能である。
【0021】
なお、本実施例は駆動装置を径方向に作用する蒸気圧を駆動源として軸方向シールフィンを軸方向に駆動させる構造を示しているが、本発明は、タービンロータやケーシングの線膨張係数よりも大きな線膨張係数を有する金属の伸縮力や形状記憶合金の元形状に戻ろうとする反力を駆動源とする駆動装置など、他の駆動機構であっても同様の効果を得られるものであり、本発明の効果は駆動機構に左右されるものではない。
【0022】
したがって、本実施例により、漏れ流れ量を抑えることでバイパス損失を低減するとともに、主流のキャビティへの流れ込み防止や、周方向速度成分の除去による漏れ流れと蒸気主流の合流時における流れ角のミスマッチの抑制により混合損失の低減することができ、効果的に漏れ損失を低減することができる。
【0023】
さらに、漏れ流れと蒸気主流の合流時における流れ角のミスマッチの抑制により翼高さ方向の流れ角の分布が一様化され、結果的に後段静翼へ向かう流れを翼高さ方向に整流化することができる。その結果、干渉損失を低減することができ、効果的に漏れ流れ損失を低減することができる。
【0024】
ところで、
図4に示すように、タービン停止時の軸方向シールフィンの間隙Caの広さを広く設定しすぎた場合、高圧の主流蒸気12の逆流を防ぐことができず混合損失を十分に低減することができない可能性がある。また、軸方向間隙Caが広い場合、キャビティ9が半開放領域となり、循環流20を形成することなく蒸気主流12へと再合流し、十分に周方向速度成分を除去することができず、混合損失低減効果を十分に得られない可能性がある。
図5に軸方向シールフィンの間隙の影響による動翼下流の絶対流出角分布の違いを示す。流出角は,軸方向を基準とし,軸方向速度に対し周方向速度が大きくなるにつれ,流れ角の絶対値が90度に近づくことになる。前述したように,軸方向シールフィンを設けることで、本来、静翼で与えられた強い周方向速度成分を残したまま再合流する漏れ流れについても,循環流の効果により,周方向速度成分を抑えた状態で動翼下流の主流と合流させることができる。この結果,翼端部近傍の流れ角分布に関しても,軸方向流出に近づけることができ,また,翼先端近傍における流れ角分布の変化も抑えられるため,主流と漏れ流れの混合で生じる混合損失が小さくなる。この効果は、
図5に示されるように、軸方向シールフィンの間隙を狭くした場合に顕著である。その結果、
図6に示されるように、漏れ流れと主流の混合損失を含めた動翼部損失が翼先端部分で低下させることができ,本発明を適用した段の段効率が向上する。
【0025】
その一方で、タービン停止時の軸方向シールフィンの間隙Caの広さを狭く設定しすぎた場合、定常運転時のシュラウドと軸方向シールフィンが接触する危険性が高まる。さらに、本発明において、軸方向シールフィンの主な効果は漏れ流れ量の削減ではなく、主流蒸気の逆流防止や漏れ流れの周方向速度成分除去による混合損失の低減である。そのため、径方向シールフィンの間隙幅Crほど間隙を狭める必要はない。
図7に複数の軸方向間隙幅Caの条件で数値解析を実施し得られた、混合損失と軸および径方向シールフィン間隙比のグラフを示す。ここで、間隙比は軸方向シールフィン間隙Caを径方向シールフィン間隙Crで無次元化したものである。
図7に示されるように、間隙比Ca/Crが約3.0以下であれば混合損失を効果的に低減することができ、それ以上の間隙比とした場合は徐々に混合損失低減効果が失われ、間隙比が約9.0以上では軸方向シールフィンの混合損失低減効果を殆ど得ることができない。
【0026】
以上の結果より、軸方向シールフィン間隙幅をCr≦Ca≦3Crとなるように構成することが効果的であると言える。
【実施例2】
【0027】
本発明の別の実施例を
図8に示す。本実施例は、径方向シールフィン7と軸方向シールフィン8の間のキャビティ9にリブ21を設けた場合である。本実施例の構成、動作の詳細を実施例1と異なる点を中心に説明する。
【0028】
図9に動翼先端下流側のキャビティ内の流れの状況を示す。実施例1で述べたように、主流から漏れ流路へと流入した漏れ流れ13は殆ど周方向速度成分を失うことなく漏れ流路を通過する。その後にキャビティ9へと流入し、循環流20を形成し壁面からの粘性の影響を受けながら周方向速度成分が減衰される。本実施例では、そのキャビティ内にさらに周方向速度を減速させるリブ21を設けている。リブ21は、キャビティ内をロータ軸方向に延伸する薄板で、静止部に固定されている。また
図9に示すように、リブ21は周方向に動翼と同じ周方向ピッチ(すなわちリブ枚数は動翼と同じ)で等間隔に設置されている。なお、リブの設置方向は、ロータ軸方向に沿って設置しても良いが、蒸気主流と同じ方向に向けてロータ軸方向に対して周方向に傾斜させて配置しても良い。傾斜させて配置することで、漏れ流れを蒸気主流と同じ方向に向けることができ、より効果を得られる。
【0029】
キャビティ内に流入した漏れ流れ13はリブ21に衝突し軸方向に転向させられるとともに、循環流20を形成する。その結果、漏れ流れ13を軸方向流出させることが可能となり、さらに混合損失を低減させることができる。
【0030】
図10にリブの有無による動翼下流の絶対流出角分布の違いを示す。リブを設けた場合、周方向速度成分をほぼ0にすることができ、翼先端近傍における流れ角分布の変化もより一層抑えられることができる。そのため,主流と漏れ流れの混合で生じる混合損失が小さくなる。その結果、
図6に示されるように、漏れ流れと主流の混合損失を含めた動翼部損失が翼先端部分で低下させることができ,本発明を適用した段の段効率が向上する。さらに、翼先端近傍においても一様な流出分布を維持することができるため、次段へのインシデンスも改善される。その結果、次段での段効率も向上させることができる。
【0031】
本実施例では、動翼と同じ周方向ピッチ(すなわちリブ枚数は動翼と同じ)で等間隔に設置されているとしたが,静翼で与えられる周方向速度によっては,動翼枚数よりも減らしても,本特許と同様な効果を発揮することが可能である。