特許第6193035号(P6193035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193035
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】分波器
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/72 20060101AFI20170828BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20170828BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20170828BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H03H9/72
   H03H9/25 C
   H03H9/17 F
   H03H9/54 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-151111(P2013-151111)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-23474(P2015-23474A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】堤 潤
(72)【発明者】
【氏名】井上 将吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−026623(JP,A)
【文献】 特開2011−135245(JP,A)
【文献】 特開2013−046106(JP,A)
【文献】 特開2010−109694(JP,A)
【文献】 特開2006−074749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/72
H03H 9/17
H03H 9/25
H03H 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
ストイキオメトリ組成のタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムにより形成された圧電基板、及び前記圧電基板の表面に設けられたIDTを有し、前記基板にフリップチップ実装された送信フィルタと、
コングルエント組成のタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムにより形成された圧電基板、及び前記圧電基板の表面に設けられたIDTを有し、前記基板にフリップチップ実装された受信フィルタと、
前記送信フィルタ及び前記受信フィルタの前記基板と対向する面とは反対側の面に接触して設けられた、金属により形成されたリッドと、
を具備することを特徴とする分波器。
【請求項2】
前記受信フィルタと前記送信フィルタとは互いに離間して、前記基板に実装されていることを特徴とする請求項1記載の分波器。
【請求項3】
前記送信フィルタのIDTの材料は、前記受信フィルタのIDTの材料と異なることを特徴とする請求項1または2記載の分波器。
【請求項4】
前記送信フィルタのIDTは多層膜により形成され、
前記受信フィルタのIDTは単層膜により形成されていることを特徴とする請求項3記載の分波器。
【請求項5】
前記送信フィルタは、複数の共振器を含み送信端子とアンテナ端子との間に接続されたラダー型フィルタであり、
前記複数の共振器のうち、前記送信端子に最も近い直列共振器及び並列共振器の少なくとも一方は2つに分割されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の分波器。
【請求項6】
前記送信フィルタは、複数の共振器を含み送信端子とアンテナ端子との間に接続されたラダー型フィルタであり、
前記複数の共振器のうち、前記アンテナ端子に最も近い直列共振器及び並列共振器の少なくとも一方は2つに分割されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の分波器。
【請求項7】
前記基板上に設けられ、前記送信フィルタ及び前記受信フィルタを囲み、前記送信フィルタおよび前記受信フィルタを封止する金属により形成された封止部を具備することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の分波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの通信機器は複数のバンドへの対応が要求されている。この要求を満たすため、通信機器に異なるバンドに対応した複数の分波器を搭載する。分波器には大電力の高周波信号が入力されるため、分波器には高い耐電力性能が要求される。大電力による圧電基板及びIDT(Interdigital Transducer)の破壊を抑制する技術が開発されている(特許文献1及び2)。また信号の電力により分波器の温度が上昇する。耐電力性能を高めるには、放熱性を高めることが有効である。非特許文献1にはサファイア基板を用いて放熱性を高める技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−135245号公報
【特許文献2】特開2001−156588号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アイ・イー・イー・イー ウルトラソニックス シンポジウム (IEEE Ultrasonics Symposium) pp945−948,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通信機器の小型化のため、分波器も小型化することが重要である。分波器が小型化されると熱容量が低下するため、温度が上昇しやすい。すなわち耐電力性能が低下する。特に分波器に含まれる送信フィルタには大電力の送信信号が入力されるため、温度が上昇しやすい。温度上昇により分波器の周波数特性が劣化する。本発明は上記課題に鑑み、高い耐電力性能を有する分波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、ストイキオメトリ組成のタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムにより形成された圧電基板、及び前記圧電基板の表面に設けられたIDTを有し、前記基板にフリップチップ実装された送信フィルタと、コングルエント組成のタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムにより形成された圧電基板、及び前記圧電基板の表面に設けられたIDTを有し、前記基板にフリップチップ実装された受信フィルタと、前記送信フィルタ及び前記受信フィルタの前記基板と対向する面とは反対側の面に接触して設けられた、金属により形成されたリッドと、を具備することを特徴とする分波器である。
【0007】
上記構成において、前記受信フィルタと前記送信フィルタとは互いに離間して、前記基板に実装されている構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記送信フィルタのIDTの材料は、前記受信フィルタのIDTの材料と異なる構成とすることができる。

【0009】
上記構成において、前記送信フィルタのIDTは多層膜により形成され、前記受信フィルタのIDTは単層膜により形成されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記送信フィルタは、複数の共振器を含み送信端子とアンテナ端子との間に接続されたラダー型フィルタであり、送信端子とアンテナ端子とに接続され、前記複数の共振器のうち、入力端子に最も近い直列共振器及び並列共振器の少なくとも一方は2つに分割されている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記送信フィルタは、複数の共振器を含み送信端子とアンテナ端子との間に接続されたラダー型フィルタであり、送信端子とアンテナ端子とに接続され、前記複数の共振器のうち、出力端子に最も近い直列共振器及び並列共振器の少なくとも一方は2つに分割されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐電力性能を有する分波器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1はモジュールを例示するブロック図である。
図2図2(a)は分波器を例示する平面図である。図2(b)は図2(a)の線A−Aに沿った断面図である。
図3図3(a)は送信フィルタを例示する平面図である。図3(b)は図3(a)の線B−Bに沿った断面図である。図3(c)は受信フィルタを例示する断面図である。
図4図4は温度の測定に用いた構成を例示する模式図である。
図5図5(a)は実施例2における送信フィルタを例示する断面図である。図5(b)は実施例2の変形例における送信フィルタを例示する断面図である。
図6図6は実施例3における分波器を例示するブロック図である。
図7図7(a)及び図7(b)はFBARを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
初めに分波器を含むモジュールについて説明する。図1はモジュール100を例示するブロック図である。図1に示すように、モジュール100は、アンテナ10及び20、スイッチ12及び22、4つのフィルタ16、4つの分波器26、4つのパワーアンプ(Power Amplifier:PA)30及びIC(Integrated Circuit:集積回路)32を備える。分波器26は受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bを含む。IC32はローノイズアンプ(Low Noise Amplifier:LNA)32a及び32bを含む。
【0019】
フィルタ16は受信フィルタであり、一端は入力端子14を介してスイッチ12と接続され、他端は出力端子18を介してLNA32aと接続されている。受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bそれぞれの一端はアンテナ端子24に共通して接続され、アンテナ端子24を介してスイッチ22と接続されている。受信フィルタ26aの他端は受信端子28aを介してLNA32bと接続されている。送信フィルタ26bの他端は送信端子28bを介してPA30と接続されている。
【0020】
アンテナ10及び20はRF(Radio Frequency)信号を受信及び送信する。スイッチ12は、4つのフィルタ16から1つを選択し、アンテナ10と接続する。フィルタ16は、アンテナ10が受信した受信信号をフィルタリングし、LNA32aは受信信号を増幅する。IC32は受信信号をダウンコンバートしベースバンド信号とする。スイッチ22は、4つの分波器26から1つを選択し、アンテナ20と接続する。受信フィルタ26aはアンテナ20が受信した受信信号をフィルタリングする。LNA32bは受信信号を増幅する。IC32はベースバンド信号をアップコンバートし送信信号を生成する。PA30は送信信号を増幅し、送信フィルタ26bは送信信号をフィルタリングする。アンテナ20は送信信号を送信する。
【0021】
4つの分波器26は異なる周波数帯域に対応する。分波器26の対応する周波数帯域は例えばW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access) Band1、Band2、Band5及びBand8などである。受信フィルタ26aの通過帯域は、送信フィルタ26bの通過帯域と異なる周波数に位置する。分波器26に実施例1が適用される。
【0022】
図2(a)は分波器26を例示する平面図である。リッド52は透視している。図2(b)は図2(a)の線A−Aに沿った断面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、分波器26は、受信フィルタ26a、送信フィルタ26b、基板40、封止部50及びリッド52を備える。図2(b)に示すように、基板40は、絶縁層41及び42、並びに導体層43〜45を交互に積層した多層基板である。導体層の間は、絶縁層を貫通するビア配線46により電気的に接続されている。
【0023】
受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bは基板40にフリップチップ実装されている。受信フィルタ26aと送信フィルタ26bとの間には空隙54が形成されている。受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bは封止部50及びリッド52により封止されている。封止部50は受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bを囲む。リッド52は受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bの上面に接触する。受信フィルタ26aは圧電基板60及び機能部61を備える。送信フィルタ26bは圧電基板62及び機能部63を備える。機能部61及び63は後述するようにIDTであり、弾性波を励振する。機能部61及び63と基板40との間には空隙が形成されている。受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bはバンプ47により導体層43に電気的に接続されている。
【0024】
絶縁層41及び42は例えばガラスエポキシ樹脂またはセラミックなどの絶縁体により形成されている。導体層43〜45及びビア配線46は例えば銅(Cu)などの金属により形成されている。導体層43及び45の表面は例えば金(Au)など半田に対する濡れ性の高い金属で覆われている。バンプ47は例えば錫銀(Sn−Ag)を主成分とする半田により形成されている。封止部50は例えば半田などの金属またはエポキシ樹脂などの絶縁体により形成されている。リッド52は例えばコバールなどの金属により形成されている。
【0025】
送信フィルタ26bについて詳しく説明する。図3(a)は送信フィルタ26bを例示する平面図である。図3(b)は図3(a)の線B−Bに沿った断面図である。図3(a)及び図3(b)は模式的な図であり、電極指の本数は簡略化している。
【0026】
図3(a)に示すように、送信フィルタ26bは、圧電基板62、直列共振器S1〜S3、並列共振器P1及びP2を備えるラダー型フィルタである。図3(a)及び図3(b)に示すように、各共振器は、圧電基板62の表面に設けられたIDT63a及び反射器63bを有する弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)共振器である。直列共振器S1〜S3は、送信端子28bとアンテナ端子24との間に直列接続されている。入力段の直列共振器S1は2つの共振器S1a及びS2aに分割されている。出力段の直列共振器S3は2つの共振器S3a及びS3bに分割されている。入力段の直列共振器とは、複数の直列共振器のうち送信端子28bに最も近い直列共振器である。出力段の直列共振器とはアンテナ端子24に最も近い直列共振器である。並列共振器P1の一端は直列共振器S1b及びS2の間に接続され、他端は接地されている。並列共振器P2の一端は直列共振器S2及びS3aの間に接続され、他端は接地されている。図1に示したように送信端子28bはPA30に接続され、アンテナ端子24は図1のアンテナ20に接続される。送信フィルタ26bは、送信端子28bから入力される送信信号をフィルタリングし、アンテナ端子24に出力する。
【0027】
直列共振器S1及びS3がそれぞれ2つに分割されているため、電力は共振器S1a及びS1bに分散され、かつ共振器S3a及びS3bに分散される。電力の分散によりIDT63aの破壊を抑制することができるため、送信フィルタ26bの耐電力性能を高めることができる。共振器の分割数は3つ以上でもよいが、分割数が多くなると送信フィルタ26bが大型化する。小型化と高い耐電力性能とを両立するために、分割数は2つであることが好ましい。入力段及び出力段の並列共振器を分割してもよい。入力段及び出力段の一方の共振器を分割し、他方の共振器を分割しなくてもよい。入力段及び出力段の共振器を1つとすることで、送信フィルタ26bのさらなる小型化が可能である。
【0028】
圧電基板62は例えば42°YカットX伝播(42°カットと記載することがある)のタンタル酸リチウム(LiTaO)または128°YカットX伝播(128°カットと記載することがある)ニオブ酸リチウム(LiNbO)などの圧電体により形成されており、ストイキオメトリな組成を有する。IDT63a及び反射器63bは、例えば圧電基板62に近い方から厚さ40nmのチタン(Ti)膜63c及び厚さ130nmのアルミニウム・銅(Al−Cu)合金膜63dを積層して形成されている。電極指の幅W及び周期Tは表3において後述する。
【0029】
受信フィルタ26aについて説明する。受信フィルタ26aは送信フィルタ26bと同じラダー型フィルタとすることができる。受信フィルタ26aの圧電基板60はコングルエント組成である。図3(c)は受信フィルタ26aを例示する断面図である。図3(c)に示すように、受信フィルタ26aのIDT61a及び反射器61bは厚さ180nmのAl−Cu合金により形成されている。
【0030】
表1はストイキオメトリ組成及びコングルエント組成のLiTaOにおけるLi組成比及びキュリー温度を示す表である。Li組成比とはタンタル(Ta)とリチウム(Li)との合計に対するLiの比率である。キュリー温度とは、圧電体(LiTaOまたはLiNbO)が強誘電体としての性質を消失する温度である。
【表1】
表2はストイキオメトリ組成及びコングルエント組成のLiNbOにおけるLi組成比及びキュリー温度を示す表である。Li組成比とはニオブ(Nb)とLiとの合計に対するLiの比率である。
【表2】
表1及び表2に示すように、コングルエント組成と比較してストイキオメトリ組成ではLi組成比が高い。コングルエント組成ではLiサイトに空隙が多く、ストイキオメトリ組成と比較して格子欠陥が多い。組成によりキュリー温度に違いがある。圧電体のキュリー温度を測定することにより、組成がストイキオメトリ組成またはコングルエント組成であるか調べることができる。キュリー温度の測定は、例えば示差熱分析(Differential Thermal Analysis)、及び示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry)などにより行われる。ストイキオメトリ組成のLiTaO及びLiNbOは、例えば2重るつぼを用いた回転引き上げ法(チョクラルスキー法)により製造することができる。またコングルエント組成のLiTaO及びLiNbOにVTE(Vapor Transport Equilibration)法を実施することにより、ストイキオメトリ組成のLiTaO及びLiNbOを製造することもできる。
【0031】
実施例1によれば、コングルエント組成の圧電体に比べ放熱性が高いストイキオメトリ組成の圧電体を送信フィルタ26bの圧電基板62に用いる。従って、送信フィルタ26bの放熱性が高くなり、温度上昇が抑制される。ストイキオメトリ組成のLiTaOの熱伝導率はコングルエント組成のLiTaOの熱伝導率の約1.9倍である。ストイキオメトリ組成のLiNbOの熱伝導率はコングルエント組成のLiNbOの熱伝導率の約1.5倍である。受信フィルタ26aは送信フィルタ26bと離間しているため、送信フィルタ26bにおいて発生する熱は受信フィルタ26aに伝わり難い。従って受信フィルタ26aの温度上昇も抑制される。このように、分波器26の放熱性が高くなることで、分波器26の耐電力性能が高くなる。熱伝導を抑制するため、図2(b)に示した空隙54の幅(送信フィルタ26bと受信フィルタ26aとの距離)は、例えば50μm以上が好ましい。
【0032】
受信フィルタ26aの圧電基板60はコングルエント組成またはストイキオメトリ組成とすることができる。圧電基板60をコングルエント組成とすることが好ましい。コングルエント組成の圧電基板60はストイキオメトリ組成の圧電基板60より低コストであり、かつ熱伝導性が低いためである。圧電基板60の熱伝導性が低くなることで、送信フィルタ26bの熱が受信フィルタ26aに伝わり難くなり、温度上昇が抑制される。例えば送信フィルタ26bと受信フィルタ26aとが接触していても、コングルエント組成の受信フィルタ26aの温度は上昇し難い。金属の封止部50及びリッド52により受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bを気密封止することができる。金属の熱伝導率は樹脂などより高い。圧電基板60をコングルエント組成とすることにより、受信フィルタ26aの温度上昇を抑制することができる。圧電基板60及び62のカット角は例えば128°などでもよい。
【0033】
通過帯域の周波数が高いほど、電極指の幅W及び周期Tが小さくなる(図3(a)参照)。幅W及び周期Tが小さくなることにより、耐電力性能は低下する。また、送信帯域の端の周波数では送信帯域の中央の周波数より耐電力性能が低下する。送信帯域と受信帯域との間隔が狭い周波数帯域では、送信帯域の端の周波数を使用することがあるため、耐電力性能が低下する。通過帯域の周波数が高くかつ送信帯域と受信帯域との間隔が狭い周波数帯域とは、例えばW−CDMA Band2、Band3、Band25及びBand7などである。表3は、W−CDMA Band2、Band3、Band25及びBand7の送信帯域の周波数(Tx)、受信帯域の周波数(Rx)、送信帯域の中心周波数fTx、IDT63aにおける電極指の周期Tの例、電極指の幅Wの例を示す表である。表3において周波数帯域はW−CDMAを省略しBandのみ記載した。
【表3】
表3に示すように、送信帯域の高周波側の端から受信帯域の低周波側の端までの間隔が数十MHz程度である。周期Tは2μm前後、幅Wは1μm未満である。実施例1を、表3に示したような周波数帯域の分波器に適用することで、耐電力性能を有効に高めることができる。実施例1を表3に示した以外の周波数帯域に適用してもよく、通過帯域が1.7GHz以上の周波数帯域に適用することが好ましい。
【0034】
送信フィルタ26bの耐電力性能を高めるため、送信フィルタ26bのIDT63a及び反射器63bは高い耐電力性能を有することが好ましい。IDT63a及び反射器63bは、Al−Cu/Tiの二層膜からなるため、送信フィルタ26bの耐電力性能が高くなる。受信フィルタ26aにおける信号の損失を小さくするため、受信フィルタ26aのIDT61a及び反射器61bは低い抵抗を有することが好ましい。IDT61a及び反射器61bは、Al−Cuの単層膜からなる。Al−Cuの比抵抗は4μΩ・cmであり、Al−Cu/Tiの比抵抗5μΩ・cmより低い。従って受信フィルタ26aは低抵抗になり、信号の損失が小さくなる。IDT63a及び反射器63bには、Al−Cu/Ti以外の多層膜を用いてもよい。上記の材料以外でも、IDTの材料が送信フィルタ26bと受信フィルタ26aとで異ならせ、耐電力性能の高い材料を送信フィルタ26bに、低抵抗の材料を受信フィルタ26aに用いればよい。
【0035】
受信フィルタ及び送信フィルタの両方にコングルエント組成の圧電基板を用いると、耐電力性能の向上が困難である。非特許文献1に記載のように、コングルエント組成の42°カットLiTaOにより形成された1つの圧電基板に受信フィルタ及び送信フィルタを形成し、温度を測定した。さらに上記1つの圧電基板の1つの面にサファイア基板を接合した場合においても温度を測定した。
【0036】
図4は温度の測定に用いた構成を例示する模式図である。分波器26はセラミックのパッケージ64に搭載されている。図4にブロック矢印で示す信号は、パッケージ64の送信端子64aに入力され、送信フィルタ26dによりフィルタリングされた後、アンテナ端子64bから出力される。
【0037】
表4は温度の測定結果を示す表である。
【表4】
表4に示すように、サファイア基板を接合しない場合、送信フィルタ26dの温度は約100℃であり、受信フィルタ26cの温度は約80℃である。このように、大電力の信号により送信フィルタ26dの温度が上昇する。サファイア基板を接合した場合、送信フィルタ26b及び受信フィルタ26aの温度は約85℃である。サファイアの熱伝導率は圧電体の熱伝導率より高いため、送信フィルタ26bにおいて発生する熱はサファイア基板を通じて放出される。この結果、送信フィルタ26bの温度は低下する。しかし、送信フィルタ26dから放出された熱がサファイア基板を通じて受信フィルタ26cに到達することで、受信フィルタ26cの温度が上昇してしまう。このようにコングルエント組成の圧電基板を用いると分波器26の耐電力性能が低下する。
【実施例2】
【0038】
実施例2は、絶縁膜66により周波数特性の温度変化を抑制する例である。図5(a)は実施例2における送信フィルタ26bを例示する断面図である。図5(a)に示すようにIDT63a及び反射器63bの上面及び側面を覆う絶縁膜66が設けられている。絶縁膜66の主成分は例えば酸化ケイ素(SiO)である。IDT63a及び反射器63bは圧電基板62に近い方からTi膜63e、Cu膜63f及びTi膜63gを積層した多層膜からなる。送信フィルタ26bの圧電基板62は、例えばストイキオメトリ組成の128°YカットX伝播LiNbOにより形成されている。
【0039】
実施例2によれば、実施例1と同様に放熱性が高くなるため、分波器26の温度上昇が抑制される。絶縁膜66を設けたことにより、送信フィルタ26bの周波数特性の温度変化が抑制される。従って、分波器26の周波数特性が改善する。特に、通過帯域の周波数が高くかつ送信帯域と受信帯域との間隔が狭い周波数帯域(W−CDMA Band2、Band3、Band25及びBand7など)の周波数特性を改善することができる。なお受信フィルタ26aにも絶縁膜66を設けてもよい。
【0040】
図5(b)は実施例2の変形例における送信フィルタ26bを例示する断面図である。絶縁膜66のIDT63a及び反射器63bに対応する位置に凸部66aが形成されている。IDT63a及び反射器63bを図3(b)と同じく二層構造にしてもよい。圧電基板62をストイキオメトリ組成の42°カットLiTaOとしてもよい。
【実施例3】
【0041】
実施例3は受信フィルタ26aを圧電薄膜共振器(Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)により形成する例である。図6は実施例3における分波器26を例示するブロック図である。図6に示すように、受信フィルタ26aは直列共振器S4〜S6、並列共振器P3及びP4を備えるラダー型フィルタである。直列共振器S4〜S6、並列共振器P3及びP4はFBARである。受信端子28aとアンテナ端子24との間に直列共振器S4〜S6が直列接続されている。直列共振器S4及びS5間に並列共振器P3が接続され、直列共振器S5及びS6間に並列共振器P4が接続されている。受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bは共通してアンテナ端子24に接続され、アンテナ端子24はアンテナ20に接続されている。インダクタLの一端がアンテナ端子24とアンテナ20との間に接続され、他端は接地されている。次にFBARの例を説明する。共振器S4〜S6、P3及びP4は以下のFBAR70及び71のいずれか一方とすることができる。
【0042】
図7(a)はFBAR70を例示する断面図である。図7(a)に示すように、基板72の上に、下部電極74、圧電薄膜76及び上部電極78が積層されている。下部電極74、圧電薄膜76及び上部電極78が重なる共振領域75において弾性波が励振される。共振領域75はドーム状に隆起しており、下部電極74と基板72との間には空隙77が形成される。空隙77があるため、弾性波の励振は妨げられない。図7(b)はFBAR71を例示する断面図である。図7(b)に示すように、基板72の共振領域75と重なる位置に凹部72aが形成されている。下部電極74は空隙77または凹部72aに露出してもよいし、下部電極74の下面に音響反射膜などを設けてもよい。基板72は例えばシリコン、ガラスなどにより形成されている。下部電極74及び上部電極78は、例えばルテニウム(Ru)などの金属により形成されている。圧電薄膜76は、例えば窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)などの圧電体により形成されている。
【0043】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bは例えば多重モードフィルタなどでもよい。共振器は弾性境界波共振器などでもよい。
【符号の説明】
【0044】
24 アンテナ端子
26 分波器
26a 受信フィルタ
26b 送信フィルタ
28b 送信端子
40 基板
50 封止部
52 リッド
54 空隙
60、62 圧電基板
61a、63a IDT
61b、63b 反射器
70、71 FBAR
S1〜S6 直列共振器
P1〜P4 並列共振器
100 モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7