(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、外科用止血材は、器官(呼吸器及び消化器等)、内臓(心臓等)、粘膜及び血管(動脈等)の外科手術に用いられるものであり、皮膚ではなく、体の内部において、縫合、吻合等の外科的処置を実施しても出血が収まらない場合に、止血を目的として術部に貼り付ける材である。
本発明において、外科用止血材基材は、外科用止血材の基材となるものであり、外科用止血材基材に医療用接着剤を塗布することで外科用止血材となるものである。また、医療用接着剤を塗布した術部を覆うこともできる。
【0012】
本発明の外科用止血材基材は、ウレタンフィルムからなる外科用止血材基材であって、ウレタンフィルムのJIS K6251−2004による下記吸水膨潤時の伸び率が100〜4,000%であり、JIS K6251−2004による下記吸水膨潤時の100%モジュラスが9.8×10
-3〜4.9N/mm
2であり、下記吸水率が1.1〜10である外科用止血材基材である。
吸水膨潤時:25℃の生理食塩水に3時間浸したとき。
吸水率:25℃の生理食塩水に3時間浸漬したときの浸漬後の重量と浸漬前の重量との比率{浸漬後の重量/浸漬前の重量}。
【0013】
ウレタンフィルム(外科用止血材基材)の伸縮性が高いことにより、血管等組織の動きに追随することができる。そのため、組織との接着面に応力集中が起こらず、剥離し難くなる。
ウレタンフィルムの伸び率は、止血効果の観点及び剥離し難さの観点から、110〜3,900%が好ましく、さらに好ましくは120〜3,800%である。
ウレタンフィルムの伸び率は、JIS K6251の引張試験片ダンベル3号形を作成し、「引張試験」に準じて(25℃、湿度65%)測定を行って求めた値である。
ウレタンフィルムの伸び率は、ウレタンフィルムの吸水率を変化させることによって調整することができる。吸水率が高くなれば、伸び率が大きくなる。吸水率は、ウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計により調整することができ、ウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計が低くなれば吸水率が高くなる。
また、ウレタンフィルムが後述するウレタン樹脂(X)又はウレタン樹脂形成性組成物(A)の硬化物であるウレタン樹脂(X−1)からなるウレタンフィルムである場合は、ポリオール(F)中のオキシエチレン基の含有量を変化する又は樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計を変化することによって調整することができる。(F)中のオキシエチレン基の含有量が高い及び/又は樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計(イソシアネート基含有率)が低いほど、伸び率は高くなる。
【0014】
ウレタンフィルムの吸水膨潤時の100%モジュラスは、止血効果の観点及び剥離し難さの観点から、4.9×10
-2〜3.9N/mm
2が好ましく、さらに好ましくは0.16〜1.0N/mm
2である。
ウレタンフィルムの吸水膨潤時の100%モジュラスは、ウレタンフィルムの吸水率を変化させることによって調整することができる。吸水率が高くなれば、100%モジュラスが大きくなる。
また、ウレタンフィルムが後述するウレタン樹脂(X)又はウレタン樹脂形成性組成物(A)の硬化物であるウレタン樹脂(X−1)からなるウレタンフィルムである場合は、ポリオール成分(F)中のオキシエチレン基の含有量を変化する又は樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計を変化することによって調整することができる。(F)中のオキシエチレン基の含有量が高い及び/又はウレタン樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計(イソシアネート基含有率)が低いほど、100%モジュラスは高くなる。
【0015】
ウレタンフィルムの吸水率は、止血効果の観点及び剥離し難さの観点から、1.2〜8.0が好ましく、さらに好ましくは1.3〜7.0であり、次にさらに好ましくは1.3〜5.0である。
ウレタンフィルムの吸水率は、下記測定法によって測定する。ウレタンフィルムの親水性を変化させることによって調整することができる。親水性が高くなれば、吸水率が大きくなる。
また、ウレタンフィルムが後述するウレタン樹脂(X)又はウレタン樹脂形成性組成物(A)の硬化物であるウレタン樹脂(X−1)からなるウレタンフィルムである場合は、ポリオール(F)中のオキシエチレン基の含有量を変化する又は樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計を変化することによって調整することができる。(F)中のオキシエチレン基の含有量が高い及び/又は樹脂中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計(イソシアネート基含有率)が低いほど、吸水率は高くなる。
【0016】
<吸水率の測定>
測定試料1.00gを、無撹拌下、100mLビーカーに入った0.9重量%生理食塩水100mLに3時間沈めて浸漬し、取り出して、表面に付着した水分を軽く除去し、再度、重量(x1)を測定する。吸水率は測定した重量を下記数式に当てはめることにより算出する。
吸水率=(x1)/1.00
【0017】
ウレタンフィルムの厚さは、フィルムの大きさにもよるが、剥離し難さの観点及び止血効果の観点から、1〜5,000μmが好ましく、さらに好ましくは5〜4,000μmであり、特に好ましくは10〜3,000μmである。
ウレタンフィルムが後述するウレタン樹脂形成性組成物(A)の硬化物である場合、ウレタンフィルムの厚さは、剥離し難さの観点、止血効果の観点及び硬化物作成時の気泡の発生量の観点から、1〜5,000μmが好ましく、さらに好ましくは5〜4,000μmであり、特に好ましくは10〜3,000μmである。
【0018】
ウレタンフィルムの形としては、患部を覆う大きさを有することができれば特に限定されず、例えば、長方形、正方形、円形、楕円形が挙げられる。
ウレタンフィルムの大きさも、患部の大きさ及び操作性の観点によって適宜選択される。例えば、ウレタンフィルムの形が長方形である場合、長辺の長さが、0.1〜100cmであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜90cm、特に好ましくは0.5〜80cmである。また、短辺の長さは、0.1〜50cmであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜40cm、特に好ましくは0.5〜30cmである。ウレタンフィルムの形が正方形の場合、一辺の長さが、0.1〜100cmであるものが好ましく、さらに好ましくは0.2〜90cm、特に好ましくは、0.5〜80cmである。ウレタンフィルムの形が円形の場合、直径が0.1〜100cmの円であるものが好ましく、さらに好ましくは0.2〜90cm、特に好ましくは0.5〜80cmである。ウレタンフィルムの形が楕円形の場合、長径の長さが、0.1〜100cmであるものが好ましく、さらに好ましくは0.2〜90cm、特に好ましくは0.5〜80cmである。また、短径の長さは、0.1〜50cmであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜40cm、特に好ましくは0.5〜30cmである。
【0019】
ウレタンフィルムは、ウレタン樹脂をシート又はフィルム状に加工したもので、上記伸び率、100%モジュラス及び吸水率を満たすものであればよく、従来のウレタンフィルムが使用でき、特に限定されないが、下記ウレタン樹脂(X)をシート状又はフィルム状に加工したものが含まれる。
ウレタン樹脂(X):ポリイソシアネート成分(E)と、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするポリオール成分(F)と
の反応
物であるウレタン樹脂。
【0020】
ウレタン樹脂(X)において、ポリイソシアネート成分(E)としては、公知のポリイソシアネートを制限なく使用でき、含フッ素ポリイソシアネート(E1)及びフッ素原子を含まないポリイソシアネート(E2)が含まれる。
【0021】
含フッ素ポリイソシアネート(E1)としては、公知{特開昭62−148666公報(特許文献7)、特開昭62−290465公報(特許文献8)、特開平01−227762公報(特許文献9)、特開2003−552828公報(特許文献10)又は特開2005−312935公報(特許文献11)等に記載}の含フッ素ポリイソシアネートが使用でき、下記(E11)〜(E13)が含まれる。
(E11)炭素数3〜24の含フッ素脂肪族ジイソシアネート
OCN−Rf−NCOで表されるもの(Rfは炭素数1〜22のパーフルオロアルキレン基を表す。)及びOCN−CH
2−Rf−CH
2−NCOで表されるもの(Rfは炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。)等が含まれ、具体的には、OCN−Rf−NCOで表されるもの{ジフルオロメチレンジイソシアネート、パーフルオロジメチレンジイソシアネート、パーフルオロトリメチレンジイソシアネート、パーフルオロオクチレンジイソシアネート及びパーフルオロエイコシレンジイソシアネート等};OCN−CH
2−Rf−CH
2−NCOで表されるもの{ビス(イソシアナトメチル)ジフルオロメタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロエタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロプロパン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロペンタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロヘキサン及びビス(イソシアナトメチル)パーフルオロエイコサン等}等が挙げられる。
(E12)炭素数8〜21の含フッ素脂環式ジイソシアネート
ジイソシアナトパーフルオロシクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロシクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロジメチルシクロヘキサン、ビス(イソシアナトパーフルオロシクロヘキシル)パーフルオロプロパン及びビス(イソシアナトメチルパーフルオロシクロヘキシル)パーフルオロプロパン等が挙げられる。
(E13)炭素数9〜72の含フッ素ポリ(3〜6価)イソシアネート
(E11)及び(E12)のヌレート体、上記ジイソシアネートのアダクト体及びトリス(イソシアナトテトラフルオロシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
【0022】
なお、(E1)は、1種でも、2種以上の混合物でもよい。
含フッ素ポリイソシアネート(E1)としては、変異原性等の安全性の観点等から、含フッ素脂肪族ポリイソシアネート(E11)が好ましく、さらに好ましくはOCN−CH
2−Rf−CH
2−NCOで表される含フッ素脂肪族ポリイソシアネート及びOCN−Rf−NCOで表される含フッ素脂肪族ポリイソシアネートであり、特に好ましくはジフルオロメチレンジイソシアネート、パーフルオロジメチレンジイソシアネート、パーフルオロトリメチレンジイソシアネート、パーフルオロオクチレンジイソシアネート、パーフルオロエイコシレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロプロパン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロペンタン及びビス(イソシアナトメチル)パーフルオロヘキサンである。
【0023】
また、ウレタンフィルムの吸水性及びイソシアネートの入手しやすさの観点等から、含フッ素ポリイソシアネート(E1)中のフッ素原子の重量の割合(重量%)は、(E1)の重量を基準として、35〜70が好ましく、さらに好ましくは38〜70、特に好ましくは40〜56である。
この範囲であると(E1)を用いて得られたウレタン樹脂(X)からなるウレタンフィルムの吸水性が良好である。
【0024】
ウレタン樹脂(X)、ウレタン樹脂組成物(A)及びウレタンプレポリマー(U)において、ポリイソシアネート成分(E)は、吸水性、ウレタンフィルムの製造し易さ、ウレタンフィルムの伸び率、安全性及び止血効果の観点から、含フッ素ポリイソシアネート(E1)を必須成分とするポリイソシアネート成分(E’)であることが好ましい。
【0025】
フッ素原子を含まないポリイソシアネート(E2)としては、公知{特許文献7〜11等に記載}のフッ素原子を含まないポリイソシアネートが含まれる。
なお、フッ素原子を含まないポリイソシアネート(E2)は、1種でも、2種以上を使用してもいい。
フッ素原子を含まないポリイソシアネート(E2)のうち、ウレタンフィルムの柔軟性の観点から、フッ素原子を含まない芳香族ポリイソシアネート{1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート(PDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び粗製MDI等}が好ましく、さらに好ましくはMDI及びTDIである。
【0026】
ウレタン樹脂(X)中のウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計は、ウレタンフィルムの柔軟性の観点から、2.8〜27.8重量%が好ましく、さらに好ましくは3.4〜22.0重量%、特に好ましくは、4.2〜16.6重量%である。なお、ウレタン基濃度は、ポリイソシアネート成分(E)とポリオール成分(F)との仕込量から算出する。
【0027】
ウレタン樹脂(X)において、ポリオール成分(F)は、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするものである。
親水性ポリオール(F1)としては、オキシエチレン基を含有してなり、オキシエチレン基の含有量が(F1)の重量に基づいて30〜100重量%である公知{特許文献7〜11等}のポリオールを使用でき、下記(F11)が含まれる。
【0028】
(F11)オキシエチレン基を含有するポリエーテルポリオール
少なくとも2個の活性水素を有する化合物へのエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)付加体あるいは、EOと炭素数3〜8のアルキレンオキサイド(1,2−プロピレンオキサイド(以下、POと略記する)、1,3−プロピレンオキサイド、1,2−、1,3−、2,3−又は1,4−ブチレンオキサイド及びスチレンオキサイド等)との共付加体等が挙げられる。共付加体の場合、その付加形式はランダム、ブロック及びこれらの組合せのいずれでもよいが、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、好ましくはランダムである。
また、炭素数3〜8のアルキレンオキサイドとしては、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、POが好ましい。
少なくとも2個の活性水素を有する化合物としては、水、ジオール(エチレングリコール及び1,2−プロピレングリコール等)、ジカルボン酸(マレイン酸及びコハク酸等)、3〜4価のポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、モノアミン(メチルアミン及びエチルアミン等)、ポリアミン(エチレンジアミン及びプロピレンジアミン等)並びにポリチオール(エタンジチオール等)等が挙げられる。
(F11)の好適な例としては、ジオールへのEO付加体(エチレングリコールへのEO付加体及びプロピレングリコールへのEO付加体等)、並びにジオールへのEOと炭素数3〜8のアルキレンオキサイドとの共付加体(エチレングリコールへのEOとPOとのランダム又はブロック共付加体、及び、エチレングリコールへのEOとブチレンオキサイドとのランダム又はブロック共付加体等)等が挙げられる。
(F11)としては、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、ジオールへのEO付加体、及びジオールへのEOとPOとの共付加体が好ましく、特に好ましくはジオールへのEOとPOとの共付加体である。
(F11)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0029】
親水性ポリオール(F1)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、(F1)の重量に基づいて、30〜100が好ましく、さらに好ましくは40〜95、次にさらに好ましくは50〜90である。
(F1)のヒドロキシル基当量(ヒドロキシル基1個あたりの数平均分子量)は、ウレタンフィルムの作成し易さ及びウレタンフィルムの吸水性の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000である。
なお、ヒドロキシル基当量は、JIS K1557−1:2007に準拠して水酸基価を測定し、下記式に当てはめることにより求める。
ヒドロキシル基当量=1,000×56.1/水酸基価の値
【0030】
親水性ポリオール(F1)の数平均分子量(Mn)は、ウレタンフィルムの作成し易さの観点等から、600〜10,000が好ましい。
なお、本発明において、数平均分子量(Mn)は、ポリエチレングリコールを標準物質として検量線を作成し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0031】
ポリオール成分(F)としては、親水性ポリオール(F1)を必須とするが、親水性の低い他のポリオール(F2)を含んでもよい。(F2)としては、特に限定なく、(F1)以外の公知{特許文献7〜11等}のもの等が含まれる。
(F2)のうち、ウレタンフィルムの吸水性の観点等から、ポリプロピレングリコールへのEO付加体(EOの含有量5〜30重量%未満)が好ましく、さらに好ましくはポリプロピレングリコールへのEO付加体(EOの含有量15〜30重量%)である。
ポリエーテルポリオール(F2)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
(F2)のヒドロキシル基1個あたりの数平均分子量(ヒドロキシル基当量)及びMnの好ましい範囲は、(F1)と同様である。
【0032】
親水性の低い他のポリオール(F2)を使用する場合、親水性ポリオール(F1)の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、ポリオール成分(F)の重量に基づいて、30〜99が好ましく、さらに好ましくは50〜98、特に好ましくは70〜95である。
親水性の低いポリオール(F2)を使用する場合、ポリオール(F2)の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、ポリオール成分(F)の重量に基づいて、1〜70が好ましく、さらに好ましくは2〜50、特に好ましくは5〜30である。
【0033】
また、ウレタン樹脂(X)において、ポリオール成分(F)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、(F)中のオキシアルキレン基の重量に基づいて、30〜79が好ましく、さらに好ましくは40〜78、特に好ましくは45〜77である。
ポリオール成分(F)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)をこの範囲で調整することによって、適度な吸水率となり、伸び率、100%モジュラスの値が適度になるので好ましい。
【0034】
また、ウレタン樹脂(X)において、ポリオール成分(F)全体の平均のヒドロキシル基当量は、ウレタンフィルムの吸水性及び作成し易さの観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000、最も好ましくは500〜2,000である。
【0035】
親水性の低い他のポリオール(F2)を用いる場合、親水性の低い他のポリオール(F2)としては、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、オキシエチレン基の含有量がオキシアルキレン基の重量に基づいて30重量%未満であるポリエーテルポリオールが好ましく、さらに好ましくはオキシプロピレン基を含有しオキシエチレン基の含有量がオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の合計重量に基づいて30重量%未満であるポリエーテルポリオールが好ましく、特に好ましくはポリプロピレングリコールである。
【0036】
ウレタン樹脂(X)中には、必要により、公知(特許文献7〜11に記載)の下記その他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、生理活性を有する薬物(中枢神経用薬、アレルギー用薬、循環器官用薬、呼吸器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、代謝性医薬品、抗悪性腫瘍剤、抗生物質製剤及び化学療法剤等)、充填剤(カーボンブラック、ベンガラ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、酸化チタン、アクリル系樹脂粉末及び各種セラミック粉末等)、及び可塑剤(フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、リン酸トリクレシル(TCP)、トリブトキシエチルホスフェート及びその他各種エステル等)等が含まれる。
その他の成分を含む場合、これらの含有量は用途等によって適宜決定される。
【0037】
ウレタン樹脂(X)には、さらに、公知{特許文献7〜11に記載}のフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)を含んでいてもよい。フェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)が含まれていると、作成したウレタンフィルムの経時劣化分解を抑制し、物性(強度及び止血性等)の低下を防止することができるため好ましい。
【0038】
フェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)のうち、ウレタンフィルムの経時劣化分解の抑制の観点等から、ビスフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤及び高分子型フェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤が好ましく、さらに好ましくはテトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン及び1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。
【0039】
ウレタン樹脂(X)中のフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)の含有量(重量%)は、ウレタン樹脂(X)の重量に基づいて、0.01〜3が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1、特に好ましくは0.05〜0.5である。この範囲であると、ウレタンフィルムの経時劣化を抑制することができる。
【0040】
ウレタンフィルムとしては、医療用接着剤(B)との間の接着力の観点から、下記ウレタン樹脂形成性組成物(A)の硬化物であるウレタン樹脂(X−1)からなるウレタンフィルムがさらに好ましい。
ウレタン樹脂形成性組成物(A):ポリイソシアネート成分(E)と、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするポリオール成分(F)と
の反応
物であるウレタンプレポリマー(U)を含有する組成物。
【0041】
ウレタンプレポリマー(U)は、ポリイソシアネート成分(E)とポリオール成分(F)とを反応(プレポリマー反応)させることにより得られる。
ポリイソシアネート成分(E)とポリオール成分(F)との使用量比としては、(U)の取り扱い易さの観点から、(E)のイソシアネート基と(F)のヒドロキシル基との当量比(NCO基/OH基)が、1.5〜3となるような使用量比が好ましく、さらに好ましくは1.8〜2.3、特に好ましくは1.9〜2.1となるような使用量比である。
【0042】
ウレタン樹脂形成性組成物(A)中のイソシアネート基含有率(重量%){(A)全体の重量に占めるイソシアネート基の重量比率}は、1〜10が好ましく、さらに好ましくは1.2〜8、特に好ましくは1.5〜6である。この範囲であると、ウレタンフィルムの吸水性がさらに良好となる。
【0043】
ウレタン樹脂形成性組成物(A)中のイソシアネート基含有率は、試料に過剰のジ−n−ブチルアミン溶液を加えて反応させ、未反応のジ−n−ブチルアミンを塩酸標準溶液で逆滴定する方法で測定することができ、例えばJIS K7301−1995、6.3イソシアナネート基含有率に準拠して測定される。
【0044】
ウレタンプレポリマー(U)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性の観点から、(U)の重量に基づいて、20〜70が好ましく、さらに好ましくは25〜65、特に好ましくは30〜60である。
【0045】
ウレタンプレポリマー(U)の数平均分子量(Mn)は、ウレタンフィルムの作成し易さの観点から、500〜30,000が好ましく、さらに好ましくは800〜20,000、特に好ましくは1,000〜10,000、最も好ましくは1,200〜8,000である。
【0046】
ウレタン樹脂形成性組成物(A)中には、ウレタンプレポリマー(U)以外に、必要によりフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)及び上述のその他の成分を含むことができる。
フェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)は、ウレタンプレポリマー(U)に添加してもよいし、予め、ポリイソシアネート成分(E)及び/又はポリオール成分(F)に添加してからウレタンプレポリマー(U)を得てもよい。
また、その他の成分は、予めポリイソシアネート成分(E)、ポリオール成分(F)及び/又はフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)に混合してプレポリマー反応を行ってもよく、また、反応後のウレタンプレポリマー(U)及び/又はフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)に混合してもよい。
【0047】
ウレタン樹脂形成性組成物(A)としては、医療用接着剤(B){特に(B11)}と界面剥離しにくい、劣化しにくい、安全性が高い、止血効果が高い及び剥離し難さの観点から、下記ウレタン樹脂形成性組成物(A1)の硬化物であることが好ましい。
ウレタン樹脂形成性組成物(A1):含フッ素ポリイソシアネート(E1)を必須成分とするポリイソシアネート成分(E’)と、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするポリオール成分(F)と
の反応
物であるウレタンプレポリマー(U1)を含有する組成物。
【0048】
ウレタン樹脂形成性組成物(A1)において、ポリイソシアネート成分(E’)は、含フッ素ポリイソシアネート(E1)を必須成分とするものである。
ポリイソシアネート成分(E’)中の(E1)の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの伸び率の観点から、80〜100が好ましく、さらに好ましくは90〜100であり、特に好ましくは95〜100である。
ポリイソシアネート成分(E’)中の(E2)の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの伸び率の観点から、ポリイソシアネート成分(E’)の重量に基づいて、0〜20が好ましく、さらに好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。
【0049】
ポリイソシアネート成分(E’)に含まれるフッ素原子の含有量(重量%)は、ウレタンフィルムの吸水性及びイソシアネートの入手し易さの観点から、(E’)重量を基準として、28〜85が好ましく、さらに好ましくは35〜70、特に好ましくは40〜56である。
この範囲であると(E’)をウレタン組成物(A1)に用いた際、ウレタンフィルムの吸水性が良好である。
【0050】
ウレタンプレポリマー(U)及び(U1)を製造する方法としては、従来公知の方法{国際公開WO03/051952パンフレット(米国特許出願10/499,331の開示内容を参照により本出願に取り込む)等}でよく、例えば、ポリイソシアネート成分(E){又は(E’)}とポリオール成分(F)とを50〜100℃で、1〜10時間反応させる方法等が挙げられる。この場合、ポリイソシアネート成分(E)とポリオール成分(F)との投入方法としては、最初から加えておく方法でも徐々に滴下する方法でもよい。
ポリイソシアネート成分(E)は、水分と極めて反応しやすいため、反応装置や原材料中の水分は極力除去しておく必要がある。特に、水分を含みやすいポリオール成分(F)は、脱水処理することが好ましい。脱水処理としては、50〜150℃、0.001hPa〜大気圧で、必要により不活性ガス(窒素ガス等)を通気しながら、0.5〜10時間、脱水する方法等が適用できる。
ポリイソシアネート成分(E)とポリオール成分(F)との混合方法としては、(1)一度に混合する方法、(2)(F)を(E)に徐々に滴下する方法、(3)(E)と(F)に徐々に滴下する方法、(4)(E)と(F)の一部とを混合して反応させた後、残りの(F)を滴下又は一度に混合する方法等のいずれでもよい。これらのうち、反応操作の簡便性の観点等から、(1)の方法及び(2)の方法が好ましく、さらに好ましくは(1)の方法である。
反応は、触媒(ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジラウレート等の有機金属化合物、酢酸ジルコニウム等の有機酸金属塩等)の存在下で行なってもよい。
【0051】
ウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化させてウレタンフィルムを製造する方法としては、板上に単一層に広げられたウレタン樹脂形成性組成物(A)を空気中の水分で湿気硬化させてウレタンフィルムを得る方法(単層湿気硬化法)、単層湿気硬化法で製造されたウレタンフィルム上にウレタン樹脂形成性組成物(A)を塗布して、さらに湿気硬化させるという操作を何度も繰り返してウレタンフィルムを製造する方法(多層湿気硬化法)、ウレタン樹脂形成性組成物(A)を有機溶剤に溶解した後、型に流し込んで湿気硬化させる方法(有機溶剤硬化法)、及び板上に広げられたウレタン樹脂形成性組成物(A)に直接、水、生理食塩水又は輸液を接触させ硬化する方法(水硬化法)がある。
【0052】
単層湿気硬化法、多層湿気硬化法又は水硬化法でウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化させる場合、ウレタン樹脂形成性組成物(A)を塗り広げるために使用される板としては、硬化したウレタンフィルムを剥離できる素材であれば何でも良く、例えば、ガラス、シリコーン樹脂(メチルシリコーン樹脂、ビニルメチルシリコーン樹脂、フェニルメチルシリコーン樹脂、フロロシリコーン樹脂等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリビニリデンフルオライド等)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ステンレス、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート及び環状ポリオレフィン等が挙げられる。
ウレタン樹脂形成性組成物(A)を塗布する板の表面は、平滑面であっても良いが、ウレタン樹脂形成性組成物(A)のハジキ防止の観点から、粗面であっても良い。また、後述する(iii)において、ウレタンフィルムがへこみを有するものである場合、へこみを形成できる凹凸を有するものであってもいい。
【0053】
多層湿気硬化法でウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化させる場合、最終的なウレタンフィルムの厚みが1〜5,000μmの範囲内に収まれば、一回当りの厚み及び積層回数に制限は無い。
【0054】
単層湿気硬化法又は多層湿気硬化法でウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化させる場合、気泡発泡量低減の観点から、温度は、−10〜75℃が好ましく、さらに好ましくは−5〜50℃、特に好ましくは0〜40℃である。また、気泡発泡量低減の観点から、湿度は、1〜95%RHが好ましく、さらに好ましくは2〜80%RH、特に好ましくは3〜60%RHである。
【0055】
単層湿気硬化法、多層湿気硬化法又は有機溶剤硬化法でウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化させる場合、硬化物であるウレタン樹脂(X−1)は、板から剥離可能だが、より容易に剥離させるために、水、生理食塩水又は輸液をウレタン樹脂(X−1)に吸水膨潤させて剥離させても良い。
【0056】
有機溶剤硬化法にてウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化する場合、使用する溶剤は、ウレタン樹脂形成性組成物(A)を溶解し且つウレタン樹脂形成性組成物(A)と反応しないものであれば良く、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチル、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン及びキシレン等が挙げられる。
【0057】
有機溶剤硬化法にてウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化する場合、フィルムの成形用の型の素材は、硬化物であるウレタン樹脂(X−1)を剥離できる素材であれば何でも良く、例えば、ガラス、シリコーン樹脂(メチルシリコーン樹脂、ビニルメチルシリコーン樹脂、フェニルメチルシリコーン樹脂及びフロロシリコーン樹脂等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン及びポリビニリデンフルオライド等)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ステンレス、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート並びに環状ポリオレフィン等が挙げられる。
フィルム成形用の型の表面は、平滑面であっても良いが、ウレタン組成物のハジキ防止の観点から、粗面であっても良い。また、後述する(iii)において、(A)がへこみを有するものである場合、へこみを形成できる凹凸を有するものであってもいい。
【0058】
本発明において、医療用接着剤(B)は、器官(呼吸器及び消化器等)、内臓(心臓等)、粘膜及び血管(動脈等)における外科手術で、縫合、吻合等の外科的処置を実施しても出血が収まらない場合に、止血を目的として用いられる接着剤であり、ウレタン接着剤組成物(B1)及び/又はシアノアクリレート接着剤(B2)が含まれる。
【0059】
ウレタン接着剤組成物(B1)としては、公知の液状の医療用接着剤が使用でき、特に限定されないが、例えば、特許文献7〜11等に記載されているウレタン接着剤等が挙げられ、具体的には、下記ウレタン接着剤組成物(B1)を用いることができる。
ウレタン接着剤組成物(B1):ポリイソシアネート成分(E)と、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするポリオール成分(F)と
の反応
物であるウレタンプレポリマー(P)を含有する接着剤組成物。
ウレタン接着剤組成物(B1)において、ポリイソシアネート成分(E)、親水性ポリオール(F1)、ポリオール成分(F)及びウレタンプレポリマー(P)として好ましい条件は、上述のウレタン樹脂形成性組成物(A)のポリイソシアネート成分(E)、親水性ポリオール(F1)及びウレタンプレポリマー(U)と同様である。また、(B1)中に含むことができるフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤及びその他の成分として好ましいものも、上述の通り、ウレタン樹脂形成性組成物(A)の場合と同様である。
【0060】
(B1)としては、外科用止血材基材(ウレタンフィルム)と界面剥離しにくい、劣化しにくい及び安全性の観点から、下記ウレタン接着剤組成物(B11)であることが好ましい。
ウレタン接着剤組成物(B11):含フッ素ポリイソシアネート(E1)を必須成分とするポリイソシアネート成分(E’)と、親水性ポリオール(F1)を必須成分とするポリオール成分(F)と
の反応
物であるウレタンプレポリマー(P1)を含有する接着剤組成物。
【0061】
ウレタン接着剤組成物(B11)中のイソシアネート基含有率(重量%){(B11)全体の重量に占めるイソシアネート基の重量比率}は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性及び(B11)の接着強度の観点から、1〜10が好ましく、さらに好ましくは1.2〜8、特に好ましくは1.5〜6である。
ポリイソシアネート成分(E’)中の(E1)の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性及び(B11)の接着強度の観点から、80〜100が好ましく、さらに好ましくは90〜100であり、特に好ましくは95〜100である。
含フッ素ポリイソシアネート(E1)中のフッ素原子の重量の割合(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の接着強度及びイソシアネートの入手しやすさの観点等から、(E1)の重量を基準として、35〜70が好ましく、さらに好ましくは38〜70、特に好ましくは40〜56である。
ポリイソシアネート成分(E’)中の(E2)の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性及び(B11)の接着強度の観点から、ポリイソシアネート成分(E’)の重量に基づいて、0〜20が好ましく、さらに好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。
ポリイソシアネート成分(E’)に含まれるフッ素原子の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性、硬化時間及びイソシアネートの入手し易さの観点から、(E’)重量を基準として、28〜85が好ましく、さらに好ましくは35〜70、特に好ましくは40〜56である。
【0062】
親水性ポリオール(F1)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の接着強度の観点から、(F1)の重量に基づいて、30〜100が好ましく、さらに好ましくは40〜95、次にさらに好ましくは50〜90である。
(F1)のヒドロキシル基当量(ヒドロキシル基1個あたりの数平均分子量)は、医療用接着剤(B)の接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000である。
ウレタンプレポリマー(P1)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の接着強度の観点から、(P1)の重量に基づいて、20〜70が好ましく、さらに好ましくは25〜65、特に好ましくは30〜60である。
【0063】
親水性の低い他のポリオール(F2)を使用する場合、親水性ポリオール(F1)の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性(硬化速度)の観点から、ポリオール成分(F)の重量に基づいて、30〜99が好ましく、さらに好ましくは50〜98、特に好ましくは80〜95である。
親水性の低いポリオール(F2)を使用する場合、(F2)の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性(硬化速度)の観点から、ポリオール成分(F)の重量に基づいて、1〜70が好ましく、さらに好ましくは2〜50、特に好ましくは5〜20である。
親水性の低い他のポリオール(F2)を使用する場合、ポリオール成分(F)全体におけるオキシエチレン基の含有量(重量%)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の反応性(硬化速度)の観点から、(F)中のオキシアルキレン基の重量に基づいて、30〜79が好ましく、さらに好ましくは40〜78、特に好ましくは45〜77である。
ポリオール成分(F)全体の平均のヒドロキシル基当量は、ウレタン接着剤組成物(B11)の接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000、最も好ましくは500〜2,000である。
【0064】
ウレタンプレポリマー(P1)の数平均分子量(Mn)は、ウレタン接着剤組成物(B11)の接着強度の観点から、500〜30,000が好ましく、さらに好ましくは800〜20,000、特に好ましくは1,000〜10,000、最も好ましくは1,200〜8,000である。
【0065】
ウレタン接着剤組成物(B11)において、上記以外の含フッ素ポリイソシアネート(E1)、ポリイソシアネート成分(E’)、親水性ポリオール(F1)、ポリオール成分(F)及びウレタンプレポリマー(P1)として好ましい条件は、上述のウレタン樹脂形成性組成物(A1)の含フッ素ポリイソシアネート(E1)、ポリイソシアネート成分(E’)、親水性ポリオール(F1)及びウレタンプレポリマー(U1)と同様である。また、(B11)中に含むことができるフェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤及びその他の成分として好ましいものも、上述の通り、ウレタン樹脂形成性組成物(A1)の場合と同様である。
【0066】
シアノアクリレート接着剤(B2)としては、公知のシアノアクリレート接着剤組成物が使用でき、特に限定されないが、例えば、特開2007−61658又は特開平6−145606等に記載されているシアノアクリレート接着剤組成物等が挙げられる。
【0067】
医療用接着剤(B)の25℃における粘度は、1,000〜5,000,000mPa・sが好ましく、さらに好ましくは3,000〜1,000,000mPa・s、特に好ましくは5,000〜500,000mPa・sである。この範囲であることで、ウレタンフィルムに容易に塗布することができ、被接着物である患部に薄く適当な厚みに塗布することができる。
【0068】
医療用接着剤(B)の厚みは、気泡の発生量の観点から1〜5,000μmが好ましく、さらに好ましくは5〜4,000μm、特に好ましくは10〜3,000μmである。
【0069】
本発明の外科用止血材は、外科用止血材基材及び医療用接着剤(B)から構成される外科用止血材である。止血対象部位以外の生体組織に対して不用意な接着を防止する観点から、外科用止血材の患部と接触する面に(B)を有し、外科用止血材の患部と接触しない面にウレタンフィルムを有するものが好ましい。具体的には、下記(i)〜(iii)のものが含まれる。
(i)外科用止血材基材と(B)とからなり、外科用止血材基材の片面の一部又は片面の全部に(B)を有するもの。
(ii)外科用止血材基材、(B)及び中間層(Y)からなり、外科用止血材基材と(B)との間に(Y)を有するもの。
(iii)外科用止血材基材と(B)とからなり、外科用止血材基材の片面の一部にへこみを有し、このへこみに(B)を有するもの。
【0070】
(i)において、外科用止血材基材の片面の一部に(B)を有するものとしては、外科用止血材基材の片面に、(B)を一定の形状(円形、楕円形、三角形、四角形及び多角形等)又は不定形で、外科用止血材基材の片面の一カ所又は二カ所以上に、ランダム又は等間隔に塗布したものが含まれる。一部である場合、外科用止血材基材の片面中の(B)を塗布する面積の割合(%)((B)を塗布した面積/外科用止血材基材の片面の面積×100)としては、10〜100が好ましく、さらに好ましくは40〜100である。
ここで外科用止血材基材は、外科用止血材基材が1層からなるものでもよく、2層以上積層したものであってもいい。外科用止血材基材が2層以上積層したものである場合、外科用止血材基材の積層物の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0071】
(ii)において、中間層(Y)としては、特に限定なく使用でき、具体的には、抗菌剤、血液凝固系因子、細胞増殖因子及び繊維等を備えていても良い。
抗菌剤は、患部の菌増殖を抑制するものであり、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、ペニシリン及びストレプトマイシン等が挙げられる。
血液凝固系因子は、血液凝固系を促進するための薬剤であり、フィブリン及びトロンビンが挙げられる。
細胞増殖因子とは、治癒促進のためのものであり、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮増殖因子、神経成長因子、幹細胞因子、白血病阻害因子、骨形成因子、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、神経栄養因子、結合組織成長因子、アンジオポエチン、サイトカイン、インターロイキン、アドレナモジュリン及びナトリウム利尿ペプチド等の生理活性ペプチドが含まれる。これらのうち、適用できる細胞の範囲が広く、細胞増殖性が高い観点から、上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、インシュリン様増殖因子及び骨形成因子が好ましく、さらに好ましくは上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子及びインシュリン様増殖因子等である。
繊維は、外科用止血材の強度を高めるためのものであり、メッシュ、不織布又は織布であっても良く、これら素材としては、ポリエステル、延伸PTFE、酸化セルロース、ポリグリコール酸、グリコール酸−乳酸ポリエステル及びポリプロピレン等が挙げられる。
【0072】
(iii)において、へこみの深さは、気泡の発生量及び止血効果の観点から、1〜5,000μmが好ましく、さらに好ましくは5〜4,000μm、特に好ましくは10〜3,000μmである。
へこみのある面に対して鉛直方向に切断した場合、へこみの断面の形状としては、V字形、方形及び弧形等が挙げられるが、(B)の硬化性の観点から、方形であることが好ましい。
へこみの平面視形状は、特に限定なく使用でき、例えば、不定形、定形(長方形、正方形、円形、楕円形等)等が挙げられる。
へこみが平面視長方形である場合、へこみの大きさは、患部の大きさによって適宜選択されるが、操作性の観点から、長辺の長さが、2〜100cmが好ましく、さらに好ましくは3〜90cm、特に好ましくは4〜80cmである。短辺の長さは、患部の大きさによって適宜選択されるが、操作性の観点から、0.5〜50cmが好ましく、さらに好ましくは1〜40cm、特に好ましくは1.5〜30cmである。
へこみは、その長辺又は短辺の長さを外科用止血材基材の長辺又は短辺の長さと同じにして、一側面が開放されるようにしてもよいし、全周が閉じられていても良い。
へこみが楕円形である場合、長軸の長さは、患部の大きさによって適宜選択されるが、操作性の観点から、0.5〜50cmが好ましく、さらに好ましくは1〜40cm、特に好ましくは1.5〜30cmである。
へこみの開口面積は、操作性の観点から、外科用止血材基材のへこみのある面の全面積に対して、1〜90%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜85%、特に好ましくは5〜80である。
へこみ部分の底から外科用止血材基材の反対側の面までの厚みは、外科用止血材基材の耐久性及び操作性の観点から、1〜5,000μmが好ましく、さらに好ましくは5〜4,000μm、特に好ましくは10〜3,000μmである。
上記へこみは、少なくとも1個有すればいいが、操作性の観点から、1〜10個であることが好ましい。
【0073】
本発明の外科用止血材としては、上記(i)〜(iii)のうち、止血性及び界面剥離を起こしにくい観点から、(i)が好ましく、さらに好ましくは外科用止血材基材の片面の全部に(B)を有するものである。
【0074】
本発明の外科用止血材としては、外科用止血材基材がウレタン樹脂形成性組成物(A)を硬化したウレタン樹脂(X−1)からなるウレタンフィルムであり、医療用接着剤(B)がウレタン接着剤組成物(B11)であるものが好ましく、さらに好ましくは外科用止血材基材がウレタン樹脂形成性組成物(A1)を硬化したウレタン樹脂からなるウレタンフィルムであり、医療用接着剤(B)がウレタン接着剤組成物(B11)であるものである。
【0075】
本発明の外科用止血材は、流通時及び使用時に接着剤への湿気侵入や不用意な接着を防止するため、医療用接着剤(B)塗布面(患部と接触する面)に保護フィルムを備えて提供しても良い。保護フィルムの素材としては、剥離可能な素材であればよく、例えばシリコーン樹脂及びフッ素樹脂等が挙げられる。シリコーン樹脂としては、MQ(メチルシリコーン樹脂)、VMQ(ビニルメチルシリコーン樹脂)、PMQ(フェニルメチルシリコーン樹脂)、FVMQ(フロロシリコーン樹脂)及びニトリルシリコーン樹脂等が挙げられる。フッ素樹脂としては、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂が挙げられ、具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン(四フッ化エチレン(C
2F
4)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)及びPVDF(ポリビニリデンフルオライド)等が挙げられる。
【0076】
本発明の外科用止血材の流通に際しては、外科用止血材基材と医療用接着剤(B)を、それぞれ単独で提供し、使用前に外科用止血材基材に(B)を塗布して本発明の外科用止血材としても良い。
【0077】
外科用止血材基材を単独で提供する場合は、そのままでも良いが、基材同士のくっつきを防止する措置がとられていても良い。例えば、剥離可能なシートで覆う方法、水、生理食塩水又は輸液に含浸させて提供する方法、基材(ウレタンフィルム)表面に粉体を付着させて提供する方法等が挙げられる。
剥離可能なシートの素材としては、紙、無埃紙、不織布、シリコーンゴム及びポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
基材表面に付着させる粉体としては、安全性の高い物質であれば良く、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖及びアミノ酸等の粉末が挙げられる。
【0078】
手術において、本発明の外科用止血材を使用し、縫合部あるいは吻合部を接合する際の塗布方法としては、止血部に本発明の外科用止血材を直接貼付する方法がある。また、止血部と外科用止血材との密着性を上げる目的で、外科用止血材を貼付した止血部を手やガーゼ、鉗子等を使用して圧迫しても良い。
【0079】
外科用止血材基材単独で供給される場合は、外科用止血材基材に医療用接着剤(B)を塗布した後、これを止血部に貼付する方法と、止血部に医療用接着剤(B)を塗布した後、上から外科用止血材基材を貼付する方法が挙げられる。
【0080】
本発明の外科用止血材は、器官(呼吸器及び消化器等)、内臓(心臓等)、粘膜及び血管(動脈等)における外科手術に用いるものであり、血液や体液の漏洩が生じ易い心臓、動脈等の血管、呼吸器及び消化器等の箇所において顕著に止血効果を発揮する。また、本発明の外科用止血材は、伸び率が高く、100%モジュラスが低い特長を有し、血管等拍動性の組織に対しても密着して剥れない外科用止血材であるので、血液又は髄液の漏出を防ぐことができ、再漏出も起こり難い。また、ヘパリン等の血液抗凝固剤の投与の有無に関係なく塗布でき、短時間に止血することができることから、血液抗凝固剤を投与して行う心臓や大動脈の外科手術にも使用することができる。また、噴出性の出血も短時間に止血できることから、特に血管に対する外科手術に好適である。
さらに、上記以外にも、皮膚等の止血材としても使用できる。
【0081】
人工心肺装置を使用する心臓や大動脈の外科手術では、必ずヘパリン等の血液抗凝固剤が投与される。この血液抗凝固剤が作用している間は、出血した血液が凝固しないため、手術中の多量の出血は患者にとって致命的な障害となることがある。しかし、このような場合でも、本発明の外科用止血材は、血液抗凝固剤の投与の有無に関係なく塗布でき、短時間に止血することができる。
【0082】
本発明の外科用止血材を構成する外科用止血材基材は、気密性が高く、耐圧性を有することから、呼吸器領域におけるエア漏れの治療にも好適である。
【0083】
なお、本発明の外科用止血材はヒト以外の動物(ペットや家畜)の外科手術にも使用できる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、部は重量部を、%は重量%を示す。
【0085】
<製造例1>
オートクレーブにエチレングリコール15.5部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でEO784.5部とPO200部との混合物を約10時間で圧入した後、130℃で3時間反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテル1,000部をオートクレーブに入れ、窒素置換(気相部の酸素濃度450ppm)を行い、30部のイオン交換水を加え、その後、合成ケイ酸マグネシウム(ナトリウム含有量0.2%)を10部加え、再度窒素置換した後、90℃にて45分間、攪拌速度300rpmで攪拌した。次いで、ガラスフィルタ−(GF−75:東洋濾紙製)を用い、窒素下で濾過を行い、EO/POランダム共付加体(f1)を得た。この(f1)の数平均分子量は4,000、オキシエチレン基の含有量は80%であった。
【0086】
<製造例2>
オートクレーブにプロレングリコール362部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でPO632部を約10時間で圧入した後、揮発分0.1%以下になるまで130℃で反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテルを前記の製造例1と同様の方法で合成ケイ酸マグネシウムで処理し、PO付加体(f2)を得た。この(f2)の数平均分子量は210、オキシエチレン基の含有量は0%であった。
【0087】
<製造例3>
オートクレーブにプロレングリコール141.8部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でEO781部とPO193部との混合物を約10時間で圧入した後、揮発分0.1%以下になるまで130℃で反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテルを前記の製造例1と同様の方法で合成ケイ酸マグネシウムで処理し、PO付加体(f3)を得た。この(f3)の数平均分子量は600、オキシエチレン基の含有量は72%であった。
【0088】
<製造例4>
ポリオール成分(F)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)90部と製造例2で得たPO付加体(f2)10部の混合物を用いて、窒素雰囲気下、100℃にて2時間減圧下脱水した後、50℃に冷却し、フェノール性水酸基含有ラジカル捕捉剤(PRS)として0.5部のテトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(イルガノックス1010、BASF社製)を添加し、30分間均一に攪拌した。さらに40℃に冷却した後、ポリイソシアネート成分(E)として含フッ素ポリイソシアネート(E1)であるビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン{OCN−CH
2−(CF
2)
4−CH
2−NCO}45.6部(NCO基/OH基比=2/1)を加え、均一に撹拌した後、80℃に昇温し、80℃で6時間反応させて、ウレタンプレポリマー(U1)を得た。この(U1)のイソシアネート基含有量は4.0%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基の含有量は72%、(U)中のオキシエチレン基含有量は49%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
また、このウレタンプレポリマー(U1)をウレタンプレポリマー(P1)としても用いた。
【0089】
<製造例5>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)90部と製造例2で得たPO付加体(f2)10部の混合物、ポリイソシアネート成分(E)として2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)25.4部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U2)を得た。この(U2)のイソシアネート基含有量は4.8%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は72%、(U)中のオキシエチレン基含有量は57%、(E)中のフッ素含有量は0%である。
【0090】
<製造例6>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)70部と製造例2で得たPO付加体(f2)30部の混合物、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン100部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U3)を得た。この(U3)のイソシアネート基含有量は6.7%であった。なお、ポリオール成分(F)中のオキシエチレン基の含有量は56%、(U)中のオキシエチレン基含有量は28%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
また、このウレタンプレポリマー(U3)をウレタンプレポリマー(P3)としても用いた。
【0091】
<製造例7>
ポリオール成分(F)として製造例3で得たEO/POランダム共付加体(f3)90部、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン123部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U4)を得た。この(U4)のイソシアネート基含有量は7.4%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は65%、(U)中のオキシエチレン基含有量は29%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
【0092】
<製造例8>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)95部と製造例2で得たPO付加体(f2)5部の混合物、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン29.7部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U5)を得た。この(U5)のイソシアネート基含有量は3.0%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は76%、(U)中のオキシエチレン基含有量は59%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
【0093】
<製造例9>
含フッ素ポリイソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン65.6部(NCO基/OH基比=3/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U6)を得た。この(U6)のイソシアネート基含有量は5.3%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は72%、(U)中のオキシエチレン基含有量は43%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
【0094】
<製造例10>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)100部、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン15.6部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U7)を得た。この(U7)のイソシアネート基含有量は1.8%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基の含有量は80%、(U)中のオキシエチレン基含有量は69%、(E)中のフッ素含有量は49%である
また、このウレタンプレポリマー(U7)をウレタンプレポリマー(P7)としても用いた。
【0095】
<製造例11>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)50部と製造例2で得たPO付加体(f2)50部の混合物、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン156.4部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U8)を得た。この(U8)のイソシアネート基含有量は8.2%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は40%、(U)中のオキシエチレン基含有量は16%、(E)中のフッ素含有量は49%である。
【0096】
<製造例12>
ポリオール成分(F)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(f1)99.5部と製造例2で得たPO付加体(F2)0.5部の混合物、含フッ素イソシアネート成分(E)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン25.5部(NCO基/OH基比=3/1)を使用すること以外は製造例4と同様にしてウレタンプレポリマー(U9)を得た。この(U9)のイソシアネート基含有量は2.7%であった。なお、(F)中のオキシエチレン基含有量は79.6%、(U)中のオキシエチレン基含有量は63.4%、(E)中のフッ素含有量は49%である。また、このウレタンプレポリマー(U9)をウレタンプレポリマー(P9)としても用いた。
【0097】
<実施例1>
製造例4で得たウレタンプレポリマー(U1)1.0gをガラス板上に150μmの厚みで延ばし、5℃、25%RH環境下で48時間静置し、湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C1)を得た。このウレタンフィルムの厚みは、150μmであった。このウレタンフィルム(C1)を外科用止血材基材(1)とした。
【0098】
<実施例2>
製造例5で得たウレタンプレポリマー(U2)19.8gをアセトン79.2gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。25℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C2)を得た。この(C2)の厚みは、5,000μmであった。このウレタンフィルム(C2)を外科用止血材基材(2)とした。
【0099】
<実施例3>
製造例6で得たウレタンプレポリマー(U3)1.0gをガラス板上に50μmの厚みで延ばし、10℃、30%RH環境下で48時間静置し、湿気硬化させた。この操作をさらに9回繰返した後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C3)を得た。この(C3)の厚みは、500μmであった。このウレタンフィルム(C3)を外科用止血材基材(3)とした。
【0100】
<実施例4>
製造例7で得たウレタンプレポリマー(U4)1.0gをガラス板上に10μmの厚みで延ばした後、すばやく0.9重量%生理食塩水(25℃)中に浸漬し、湿気硬化させた。硬化後ガラス板から剥離させた後、50℃に熱した乾燥機中で乾燥させウレタンフィルム(C4)を得た。この(C4)の厚みは、10μmであった。このウレタンフィルム(C4)を外科用止血材基材(4)とした。
【0101】
<実施例5>
製造例8で得たウレタンプレポリマー(U5)1.0gをガラス板上に50μmの厚みで延ばし、2℃、20%RH環境下で48時間静置し、湿気硬化させた。この操作をさらに1回繰返した後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C5)を得た。この(C5)の厚みは、100μmであった。このウレタンフィルム(C5)を外科用止血材基材(5)とした。
【0102】
<実施例6>
製造例9で得たウレタンプレポリマー(U6)3.85gをアセトン15.4gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。30℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C6)を得た。この(C6)の厚みは、1,000μmであった。このウレタンフィルム(C6)を外科用止血材基材(6)とした。
【0103】
<比較例1>
製造例10で得たウレタンプレポリマー(U7)23.7gをアセトン94.6gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。25℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C’1)を得た。この(C’1)の厚みは、6,000μmであった。このウレタンフィルム(C’1)を外科用止血材基材(1’)とした。
【0104】
<比較例2>
ポリエステル人工血管(ゼルウィーブ、日本ライフライン製)を比較用の外科用止血材基材(2’)とした。
【0105】
<比較例3>
製造例11で得たウレタンプレポリマー(U8)0.003gをアセトン13.8gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。25℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C’3)を得た。この(C’3)の厚みは、1μmであった。このウレタンフィルム(C’3)を外科用止血材基材(3’)とした。
【0106】
<比較例4>
製造例6で得たウレタンプレポリマー(U3)20.2gをアセトン80.8gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。25℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C’4)を得た。この(C’4)の厚みは、5,500μmであった。このウレタンフィルム(C’4)を外科用止血材基材(4’)とした。
【0107】
<比較例5>
製造例12で得たウレタンプレポリマー(U9)20.2gをアセトン80.8gに溶解し、3cm×11cmのガラス製の枠に流し込んだ。25℃、60%RH環境下で48時間静置し、アセトン揮散及び湿気硬化させた後、ガラス板から剥離しウレタンフィルム(C’5)を得た。この(C’5)の厚みは、5,500μmであった。このウレタンフィルム(C’5)を外科用止血材基材(5’)とした。
【0108】
<評価1:伸び率>
<試験片の作製>
外科用止血材基材(1)〜(6)及び(1’)〜(5’)を0.9重量%生理食塩水に3時間浸して膨潤させた後、これをJIS K 6251−2004のダンベル状3号型を用いて打ち抜き、試験片を作製した。
<測定>
試験片の両端つかみ具で固定することにより引張試験機に設置し、切断するまで引張った。荷重を与え切断するまでに伸びた長さを、荷重を与える前の標線間距離で除し、さらに100を乗じた値を伸び率として算出した。なお、引張試験機は(株)島津製作所製オートグラフAGS−500Dを使用し、引張り速度は300mm/minとした。
【0109】
<評価2:100%モジュラス>
評価1の試験片の両端つかみ具で固定することにより引張試験機に設置し引張った。標線間距離が2倍の長さになった時の張力を測定し、荷重を与える前の断面積で割った値を伸び率として算出した。なお、引張試験機は(株)島津製作所製オートグラフAGS−500Dを使用し、引張り速度は300mm/minとした。
【0110】
<評価3:吸水率>
外科用止血材基材(1)〜(6)及び(1’)〜(5’)を1.00gになるように切断した。これを100mLビーカーに入った0.9重量%生理食塩水100mLに3時間沈めて浸漬し、表面に付着した水分を軽く除去し、再度重量(x1)を測定した。吸水率は測定した重量を下記数式に当てはめることにより算出した。
吸水率=(x1)/1.00
【0111】
【表1】
【0112】
表1の結果から、実施例1〜6の外科用止血材基材(1)〜(6)は、吸水し、伸縮性を示した。一方、比較例1で得た外科用止血材基材(1’)は、吸水しゲル状に変化したため伸び率及び100%モジュラスは測定できなかった。比較例2の外科用止血材基材(2’)は、吸水するものの伸縮性がなく(測定限界超)測定できなかった。また、比較例3の外科用止血材基材(3’)は、実施例1〜6と比較し吸水率が低く、伸縮性を示さなかった。また、比較例4の外科用止血材基材(4’)は、吸水率は高いものの、伸び率が低かった。また、比較例5の外科用止血材基材(5’)は、伸び率は適度であるものの、吸水率が高すぎ、100%モジュラスが極めて低かった。
【0113】
<実施例7>
実施例1で得た外科用止血材基材(1)を1.0cm×7.0cmの大きさに裁断し、この片面に医療用接着剤(B)として、製造例4で得たウレタンプレポリマー(P1)を100μmの厚みで塗り広げることによって外科用止血材(S1)を得た。
【0114】
<実施例8>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(2)」を用いて、医療用接着剤(B)の厚みを「100μm」に代えて「10μm」とする以外は同様にして、外科用止血材(S2)を得た。
【0115】
<実施例9>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(3)」を用いて、医療用接着剤(B)の厚みを「100μm」に代えて「500μm」とする以外は同様にして、外科用止血材(S3)を得た。
【0116】
<実施例10>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(4)」を用いて、医療用接着剤(B)の厚みを「100μm」に代えて「5,000μm」とする以外は同様にして、外科用止血材(S4)を得た。
【0117】
<実施例11>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(5)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S5)を得た。
【0118】
<実施例12>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(6)」を用いて、医療用接着剤(B)として「ウレタンプレポリマー(P1)」に代えて「シアノアクリレート接着剤(アロンアルファA「三共」、第一三共製)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S6)を得た。
【0119】
<比較例6>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(1’)」を用いて、医療用接着剤(B)として「ウレタンプレポリマー(P1)」に代えて「ウレタンプレポリマー(P7)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S’1)を得た。
【0120】
<比較例7>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(2’)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S’2)を得た。
【0121】
<比較例8>
比較例3で得た外科用止血材基材(3’)を1.0cm×7.0cmの大きさに裁断し、この片面にフィブリン糊(ベリプラストPコンビセット、CSLベーリング株式会社製)のフィブリノゲン液とアプロチニン液の混合液を2,000μmの厚みになるよう吹きつけることによって外科用止血材(S’3)を得た。
【0122】
<比較例9>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(4’)」を用いて、医療用接着剤(B)として「ウレタンプレポリマー(P1)」に代えて「ウレタンプレポリマー(P3)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S’4)を得た。
【0123】
<比較例10>
実施例7において、「外科用止血材基材(1)」に代えて「外科用止血材基材(5’)」を用いて、医療用接着剤(B)として「ウレタンプレポリマー(P1)」に代えて「ウレタンプレポリマー(P9)」を用いる以外は同様にして、外科用止血材(S’5)を得た。
【0124】
<評価4:脈圧負荷試験>
<縫合モデル血管の作製>
ブタ血管(周辺の脂肪除去、肋間動脈を結紮したブタ胸腹部大動脈)を横方向に10mm切開し、3−0縫合糸(品名:プロリーン、ジョンソン・アンド・ジョンソン株式会社製)で2mm間隔に縫合することにより縫合モデル血管を作製した。
<止血判定>
この縫合モデル血管の両端を圧負荷試験装置(有限会社安久工機製)ラインに接続し(縫合モデル血管は
図1を、圧負荷試験装置の装置接続概略は
図2を参照)、ヘパリン化されたウマの血液を充液させた。圧負荷試験装置ラインの下流側を遮断し、周期1秒で120/60mmHg(16,000Pa/8,000Pa)の脈圧をかけ、縫合部から出血があることを確認した。一度縫合モデル血管内の血液を除き、縫合部及びその周辺に付着した血液を拭き取った。
1cm×2cmに裁断した実施例7〜12及び比較例6〜10の外科用止血材を縫合部に貼付し、0.9重量%生理食塩水をかけ、指で外科用止血材全体を上から3分間押さえて硬化させた。
再度、ヘパリン化されたウマの血液を縫合モデル血管に充液させ、圧負荷試験装置ラインの下流側を遮断し、周期1秒で120/60mmHg(16,000Pa/8,000Pa)の脈圧をかけた。脈圧をかけてから、5分間観察し、その間、出血がないものを「止血」、出血があるものは「出血」とした。結果を表2に示す。
【0125】
<評価5:接着性試験>
<試験片の作製>
強力両面テープ(ナイスタック超強力タイプ、ニチバン株式会社製)を1cm×4cmの大きさに切り出し、これの両面をコラーゲンフィルム(コラーゲンケーシング、株式会社ニッピ製)で覆い被着体とした。
1.0cm×7.0cmに裁断した実施例7〜12及び比較例6〜10の外科用止血材の両端に被着体を水平方向に1.0cm×1.0cm重なるように貼り合わせた後、0.9重量%生理食塩水かけ、外科用止血材と被着体とを5分間接着させた。これを0.9重量%生理食塩水中に3時間浸漬し吸水膨潤させ試験片とした(試験片の外観は
図3参照)。
<測定>
次いで、25±5℃、湿度65±5RH%の環境下で、試験片の両端を反対方向(シートが伸びる方向)に周期的に引張り続け、試験片が剥離するまでの引張回数を測定することで接着性を評価した。なお、外科用止血材それぞれについて試験片を3つ作成し、測定値はその平均値とした。
引張試験機は株式会社イマダ製計測スタンドMX−500Nを使用した。連続サイクルモードとし、引張り距離を25mm、引張り速度を300mm/minと設定した。また、つかみ具で固定する箇所は、被着体の接着させていない端1cmの部分と、もう一方の被着体の接着させていない端1cmの部分とし、弛まないように固定した。
【0126】
【表2】
【0127】
表2の結果から、本発明の外科用止血材(実施例7〜12)及び比較例7の外科用止血材は、ブタ血管の切開部の出血を止めることができたことが分かる。また、比較例6及び8〜10の外科用止血材はブタ血管の切開部の出血を止めることができなかった。
また、表2の結果から、本発明の外科用止血材(実施例7〜12)は、比較例7〜10と比較して、接着性が高く剥がれにくかったことが分かる。特に、実施例7及び9〜12の外科用止血材を用いた場合は、接着性試験において、引張回数が18回以上でも剥離しておらず、極めて止血効果が高いことが分かる。なお、比較例6は、吸水してゲル状に変化したため測定できなかった。
したがって、本発明の外科用止血材(実施例7〜12)は、吸水膨潤時の柔軟性に優れ、動きがある箇所に対しても密着して剥れず、かつ止血効果が高いことがわかる。