(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193070
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】電気接続用部材
(51)【国際特許分類】
H01R 4/58 20060101AFI20170828BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20170828BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20170828BHJP
H01M 2/20 20060101ALI20170828BHJP
H01R 4/38 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
H01R4/58 B
H01B5/02 Z
H01B1/02 B
H01M2/20 A
H01R4/38 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-199216(P2013-199216)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-65105(P2015-65105A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】桜田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】長島 富雄
(72)【発明者】
【氏名】熱田 賢
(72)【発明者】
【氏名】二宮 淳司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義和
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一成
【審査官】
前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭56−035762(JP,U)
【文献】
特開2009−081343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/58
H01B 1/02
H01B 5/02
H01M 2/20
H01R 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製の被締結部材との機械締結による電気接続に用いられる、6101−T6アルミニウム合金製の電気接続用部材であって、
上記被締結部材との接触面における算術平均粗さRaと平均長さRSmが、次式(1)
21≦RSm−21×ln(Ra)≦38…(1)
(式中、Raは10μm未満、RSmは100μm未満である)で規定される関係を満足することを特徴とする電気接続用部材。
【請求項2】
上記接触面の表面粗さRaが3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気接続用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続用部材に係り、更に詳細には、機械締結による電気接続に用いられるアルミニウム合金製の電気接続用部材であって、接触抵抗(接触電気抵抗)を低減した電気接続用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種機器における電気接続用部材、例えばバスバーなどとしては銅製部材が多用されてきたが、近年、自動車、特にハイブリッド車や電気自動車においては、車体軽量化による燃費向上を目的としてアルミニウム合金製の電気接続用部材が使用されるようになってきた。
【0003】
かかるアルミ合金製の電気接続用部材としては、電気抵抗値が大きい表面酸化膜の成長を抑制して接触抵抗を低減すべく、アルミニウム合金材の表面にニッケル(Ni)メッキとスズ(Sn)メッキを順次積層して成るAl合金製自動車用導電体が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−207940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のAl合金製の導電体にあっては、アルミニウムやアルミニウム合金が難メッキ材であることからメッキの前処理として亜鉛(Zn)処理が必要となるので、以下のような不具合があった。
【0006】
即ち、このZn処理では、表面のアルミニウム酸化膜の厚さを制御して低減できるものの、アルミニウムの表面形状を制御することは困難である。よって、その後に施すNiメッキ層とSnメッキ層もアルミニウムの表面形状を転写してしまうので、かかるメッキ層の表面形状を制御できない。したがって、集中抵抗を低減できず、結局は接触抵抗を十分には低減できないという問題があった。
また、メッキの前処理としてZn処理を行うことは、工程数の増大による製造効率の低下を招くばかりか、製造コストが高くなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接触抵抗を低減した機械締結用の電気接続用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、被締結部材との接触面における表面形状を適切に制御することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の電気接続用部材は、
銅製の被締結部材との機械締結による電気接続に用いられる
、6101−T6アルミニウム合金製の電気接続用部材である。
この電気接続用部材は、被締結部材との接触面における算術平均粗さRaと平均長さRSmが、次式(1)
21≦RSm−21×ln(Ra)≦38…(1)
(式中、RSmはRSm<100μm、RaはRa<10μmである)で規定される関係を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被締結部材との接触面における表面形状を適切に制御することとしたため、接触抵抗を低減した機械締結用の電気接続用部材を提供することができる。
上述のように表面形状を適切に制御することにより、集中抵抗を有意に低減でき、接触抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】発明例と比較例の表面粗さRa、RSmの測定結果の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電気接続用部材について説明する。
上述の如く、本発明の電気接続用部材は、被締結部材との機械締結による電気接続に用いられるアルミニウム合金製の電気接続用部材である。
この電気接続用部材では、被締結部材との接触面が(1)式に規定する所定の表面形状を有する。
【0013】
ここで、機械締結とは、締結に供される被締結材などの各種部材を構成する材料の状態変化を伴う溶接、溶着及び融着や、接着剤などの締結剤を用いる接着などを排除する趣旨であり、具体的には、ボルト止め、リベット止め及びカシメなどを挙げることができる。
【0014】
被締結部材としては、特に限定されるものではないが、各種電池、インバータやモータ等の電気機器、本発明の電気接続部材以外の他の電気接続部材、例えば銅製のバスバーなどを例示することができる。
また、本発明の電気接続用部材は、電気接続に利用できる部材であれば特に限定されるものではないが、典型的には、バスバーとして用いることができ、自動車に用いるのが好適である。
【0015】
本発明の電気接続用部材を構成するアルミニウム合金としては、特に限定されるものではないが、電気伝導率55IACS%以上のものが好適であり、例えばJIS規格の6101−T6材、1100−H24材などを挙げることができる。
【0016】
上述如く、本発明の電気接続用部材は、被締結部材との接触面が所定の表面形状を有しており、この表面形状は、次式(1)
21≦RSm−21×ln(Ra)≦38…(1)
(式中のRa、RSmは、JISB0601に規定され、Raは断面曲線要素の算術平均粗さ、RSmは断面曲線要素の平均長さ、lnは自然対数を示し、Raは10μm未満、RSmは100μm未満である)で規定される。
【0017】
上述の式(1)の表面形状をアルミニウム合金の表面に実施するには、ブラスト処理により実現できる。
【0018】
ここで、Raが10μm以上では、締結時に接点となる山の頂点の高さのばらつきが大きく、高い山から順に接して接点を形成する際に、接触点数及び接触面積がばらつき、接触抵抗値が不安定となる。RSmが100μm以上では、締結したときの接点となる山の個数が少なくなってしまい、接点数及び接触面積が小さくなり接触抵抗値が増大する。
また、Raを3μm以下にすることが好ましく、これにより、締結時に接点となる山の頂点の高さのばらつきが小さく、効率よく接触点を形成しやすくなり接触抵抗が低く安定するという利点が得られる。
【0019】
機械締結による被締結部材と電気接続部材の微小界面では、わずかな金属の突起部分のみが接している。表面粗さパラメータRa及びRSmが式(1)の範囲内にあると、RaとRSmの相互関係により、被締結部材と締結した際にアルミニウム表面の山の一部が変形し、局部的に良好な接点を形成するので接触抵抗を低減できる。
式(1)が40を超えるときは、Raが小さく締結時の山の変形量が小さいためか、RSmが大きく接点間隔が広いため、接点形成が不良となり、接触抵抗が増加してしまう。一方、式(1)が20を下回る表面状態はブラスト処理で生産するのは困難で、工業生産上現実的ではない。
【0020】
かかるブラスト処理としては、特に限定されるものではないが、投射材料としてF20〜F400の粒度分布を持つアルミナ粒を用い、噴出圧力0.3〜0.7MPaの圧力で投射時間5〜30秒間のブラスト処理を挙げることができる。
【0021】
本発明においては、被締結部材との接触面の表面形状を上記(1)式の関係を満足するように制御することにより、被締結部材と締結した際の集中抵抗を低減することができ、これにより、接触抵抗を低減することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1〜8)
JISH4000に規定される6101−T6アルミニウム合金の試験片(厚さ3.0mm、幅25mm、長さ80mm、ボルト穴直径6.5mm)を用意した。
この試験片に、アルミナ投射材のF320、F280、F220、F180、F100、F60、F36及びF24を噴出圧力0.5MPaで投射時間10秒の条件でブラスト処理を行い、実施例の電気接続用部材を得た。
【0024】
(比較例1、2)
投射材としてアルミナの代わりにガラスビーズのF100、F60を用いた以外は実施例と同様の操作を繰り返し、比較例1、2の電気接続用部材を得た。
【0025】
(比較例3)
6101−T6アルミニウム合金の試験片の接触面を鏡面研磨した材料である。
【0026】
(比較例4)
6101−T6アルミニウム合金の試験片に表面処理をしていない材料である。
【0027】
<表面形状の評価>
各例の電気接続部材について、算術平均粗さRaと平均長さRSmを測定し、得られた結果を表1及び
図1に示した。
表1及び
図1に示すように、本発明の実施例1〜8は、20<RSm−21×ln(Ra)<40
、具体的には21≦RSm−21×ln(Ra)≦38を満足している。
【0028】
<性能評価>
電気接続性能評価として、
図2に示す概略図のような接触抵抗測定方法で、各例の電気接続用部材の接触抵抗値を測定した。
なお、被締結材としては銅材を用い、
図2において、電気接続用部材(アルミニウム合金試験片)は厚さ3.0mm、幅25mm、長さ80mmでボルト穴直径6.5mmであり、銅材(銅試験片)は厚さ2.0mm、幅25mm、長さ80mmでボルト穴直径6.5mmである。また、締結物としてのボルトはM6ボルト強度6Tである。ボルト締結トルクは4N・mとした。測定は四端子法で行い、この際、測定抵抗値から導体部抵抗値を減じた値を接触抵抗値とした。
【0029】
接触抵抗の評価結果は、200μΩ未満を合格(○)、200μΩ以上を不合格(×)と判定した。表1に示すように本発明例のすべてで、接触抵抗が200μΩを示した。発明例1〜5では、Raが3μm以下であるため、接触抵抗は100μΩ未満となりさらに、良好であった。比較例1〜4では、式(1)の値が40以上となり、接触抵抗が200μΩ以上となり、不合格であった。
【0030】
【表1】
【0031】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、導体自体に曲げ加工などが加わったものが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の電気接続用部材は、自動車、特にハイブリッド車や電気自動車において電池や電気機器との電気接続を担うバスバーとして有用である。自動車のみならず、他の装置や機械の電気接続部材としても有用である。