(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに平行に配列された複数本のワイヤロープが走行する走行路に沿って設置され,磁化されたワイヤロープから発生する漏洩磁束を検知するセンサ装置を備える,ワイヤロープの検査装置であって,
上記センサ装置のセンサ面が平面状に形成されかつ上記平行に配列された複数本のワイヤロープの幅全体を超える長さを有しており,
上記漏洩磁束を検知するときに,上記センサ装置のセンサ面が上記平行に配列された複数本のワイヤロープによって規定される平面と平行に設置されて上記複数本のワイヤロープのそれぞれと線接触し,かつ上記平行に配列された複数本のワイヤロープの幅全体を跨いで設置される,
ワイヤロープの検査装置。
上記平面状センサ面の長手方向の両端部分が同じ向きに湾曲しており,上記漏洩磁束を検知するときに,上記センサ面の長手方向の両端のそれぞれが,上記平行に配列された複数本のワイヤロープの両がわの端に位置する2本のワイヤロープのそれぞれの側方に至っている,請求項1から3のいずれか一項に記載のワイヤロープの検査装置。
上記センサ装置は,上記漏洩磁束を検知する検知コイル,および上記複数本のワイヤロープを磁化する磁化器を備えている,請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤロープの検査装置。
【実施例】
【0026】
図1はエレベータの構造を示している。
【0027】
エレベータは,昇降路1,昇降路1の上方に設けられた機械室2,昇降路1内を上下に移動し人および貨物を運搬するかご3,上記かご3の上部(天井の外側)に一端が固定され,かつ他端に釣合おもり4が固定されたワイヤロープ5を備えている。エレベータに用いられる場合,一般には互いに平行に配列された複数本のワイヤロープ5が用いられる。この実施例では,平行に配列された4本のワイヤロープ5が用いられているものとする。
図1では,分かりやすくするために1本のワイヤロープ5のみが示されている。
【0028】
4本のワイヤロープ5はその中間部分が機械室2の内部を通っており,このワイヤロープ5の中間部分が機械室2に設けられた巻上機6に巻付けられかつそらせ車7にかけられている。機械室2内には通信装置10を含むエレベータ制御盤8が設けられており,上記エレベータ制御盤8によって上記巻上機6が制御される。上記巻上機6が正回転および逆回転することによってワイヤロープ5が移動し,これにより上記かご3が昇降路1内を昇降する。
【0029】
機械室2内にはさらに,ワイヤロープ5の損傷(断線や傷の存在および程度)を検出するためのロープテスタ20,上記ロープテスタ20を位置移動するための移動機構30,ならびに上記ロープテスタ20および移動機構30を制御してワイヤロープ5の検査を実行する制御装置9が設けられている。
【0030】
上述したように,機械室2内に設けられたエレベータ制御盤8は通信装置10を含む。上記通信装置10はエレベータ管理会社の監視システム11とネットワーク接続されている。エレベータの運行状況を表すデータがエレベータ制御盤8から通信装置10を介して上記監視システム11に送信され,監視システム11ではエレベータの運行状況が常に監視される。
【0031】
エレベータ制御盤8はまた上記制御装置9に信号線を介して接続されている。後述するように,ワイヤロープ5の検査結果(判定結果)を表すデータも,上記制御装置9から信号線を通してエレベータ制御盤8に送られ,エレベータ制御盤8からエレベータ管理会社の監視システム11に送信される。
【0032】
図2は,機械室2内に設けられた上記ロープテスタ20を位置移動するための移動機構30を,ワイヤロープ5とともに側方から示している。
【0033】
移動機構30は,機械室2内に固定され,所定の角度範囲の正回転および逆回転を行う回転子(図示略)を備えるインダクションモータ31を備えている。インダクションモータ31の回転子につながる回転軸31Aに第1アーム32の一端が固定されており,第1アーム32の他端に第1アーム32の長手方向と垂直な向きに伸びる第2アーム33の一端が固定されている。上記第2アーム33の他端にロープテスタ取付具34が固定されており,上記ロープテスタ取付具34にロープテスタ20が取付けられている。インダクションモータ31が駆動すると,上記ロープテスタ20は上記回転軸31Aを中心にして,所定角度分,円弧状の軌跡を描いて移動する。
【0034】
上記ロープテスタ20によるワイヤロープ5の検査が行われていないとき,上記移動機構30は上記ロープテスタ20を待機位置に保持する。
図2では一点鎖線によってロープテスタ20が待機位置に保持されている様子が示されており,待機位置に保持されている状態ではロープテスタ20はワイヤロープ5に接触しない。上記制御装置9から駆動電圧が加えられるとインダクションモータ31は正回転(
図2において時計回り)を開始する。ロープテスタ20はワイヤロープ5に次第に近づき,その平面状のセンサ面(正面)が複数本のワイヤロープ5によって規定される平面と平行とされかつワイヤロープ5に接触し,ここでインダクションモータ31の正回転が停止する。このときのロープテスタ20の位置を検出位置と呼ぶ。ロープテスタ20が検出位置にあるときの様子が
図2において実線によって示されている。ロープテスタ20が検出位置に達し,ロープテスタ20のセンサ面がワイヤロープ5に接触しているときに後述するワイヤロープ5の検査が行われる。ワイヤロープ5はその横断面の形状がほぼ円形であるから,ロープテスタ20のセンサ面と4本のワイヤロープ5とはそれぞれ線接触する。
【0035】
ワイヤロープ5の検査が完了すると,制御装置9は逆位相の駆動電圧をインダクションモータ31に加える。インダクションモータ31は逆回転(
図2において反時計回り)を開始し,上記ロープテスタ20は元の待機位置にまで戻される。
【0036】
制御装置9は,たとえば,1日1回〜3回程度,たとえば特定の時刻に,上記移動機構30を制御して上記ロープテスタ20を待機位置から検出位置に移動させ,このときにワイヤロープ5の検査が行われる。ワイヤロープ5を検査するときにだけ上記ロープテスタ20は検出位置に移動するので,ロープテスタ20とワイヤロープ5とは常時接触はせず,したがってロープテスタ20のセンサ面とワイヤロープ5の線接触による摩耗は少ない。
【0037】
図3はロープテスタ20をセンサ面(正面)がわから見た拡大斜視図であり,カバー21の一部を破断して示すものである。
図4は
図3のIV−IV線に沿う断面図を,
図5は
図3のV−V線に沿う断面図をワイヤロープ5とともにそれぞれ示している。
図4および
図5においてカバー21の図示は省略されている。
【0038】
図3および
図5を参照して,
図5を基準にして説明すると,ロープテスタ20は,直方体状のヨーク22と,上記ヨーク22の上面の両側部に固定された直方体状の1対の磁石24,25と,上記1対の磁石24,25の間に,磁石24,25のそれぞれと間隔をあけて上記ヨーク22の上面に固定された直方体状のコイルベース23と,上記コイルベース23の上面に固定された1対の平面状の検知コイル26L,26Rを備えている。
図3を参照して,これらのヨーク22,磁石24,25,コイルベース23,およびコイル26L,26Rがカバー21によって覆われている。コイル26L,26Rが位置している向きがロープテスタ20のセンサ面(正面)がわであり,ロープテスタ20のセンサ面は平面状である。
【0039】
ロープテスタ20の長さ(ヨーク22,磁石24,25,コイルベース23,検知コイル26L,26Rの長手方向に対応する寸法)は,平行に配列された4本のワイヤロープ5の幅全体(ワイヤロープ5の直径×本数+隣接するワイヤロープ5間の間隔×間隔数)を超えている。ワイヤロープ5の本数に合わせて上記ロープテスタ20の長さは適宜調整される。いずれにしても,ロープテスタ20(そのセンサ面および検知コイル26L,26R)は検査すべき複数本のワイヤロープ5の幅全体を跨いで設けられる。
【0040】
図5を参照して,1対の磁石24,25から発生する磁束は,磁石25,ワイヤロープ5,磁石24,およびヨーク22を通る磁気ループを形成し,これによりワイヤロープ5は磁化される。ワイヤロープ5は飽和磁化させてもよいし,未飽和磁化にとどめてもよいが,好ましくは未飽和磁化にとどめられる。ワイヤロープ5の磁化の程度は,磁石24,25の種類,磁石24,25とワイヤロープ5との間の間隔,ヨーク22の断面積や長さによって調節することができる。たとえば,磁石24,25にネオジウムを用いるのではなくフェライト磁石を用いると,ワイヤロープ5の磁化の程度を抑制することができる。未飽和磁化にとどめることで,後述する検査データの信号対雑音比(S/N比)を向上させることができ,またワイヤロープ5とロープテスタ20とが接触することによって生じる摩耗を軽減することができる。
【0041】
ここで
図4を参照して,ワイヤロープ5は,1束の繊維心5Aと,繊維心5Aの周囲に撚り合わされた8本のストランド5Bとによって構成されている。上記ストランド5Bは1本の心線(鋼線)5aと,心線5aの周囲に撚り合わされた9本の内層素線(鋼線)5bと,内層素線5bの周囲にさらに撚り合わされた9本の外層素線(鋼線)5cとによって構成された,シール形のものである(「8×S(19)」のように表記される)。上記磁石24,25からの磁束は上記ワイヤロープ5においてその外側周囲のストランド5Bを通る。
【0042】
ワイヤロープ5は,その中心に位置する繊維心5Aよりも先にストランド5Bに損傷が生じやすく,さらにストランド5Bに着目すると,損傷は心線5aおよび内層素線5bよりも先に外層素線5cに生じやすい。外層素線5cにたとえば断線が生じていると,ストランド5Bを通る磁束に乱れが生じ,断線部分においてワイヤロープ5の外に磁束が漏れる。以下,ワイヤロープ5の外に漏れる磁束を「漏洩磁束」と呼ぶ。磁化されたワイヤロープ5の断線部分がロープテスタ20を通過すると,上記漏洩磁束によって検知コイル26L,26Rに起電力が生じる。検知コイル26L,26Rに生じる起電力の有無と大きさとによって,ワイヤロープ5に存在する損傷の有無と程度を検出することができる。
【0043】
図6および
図7は,検知コイル26L,26Rに生じた起電力に基づく測定電圧(検査データ)を示すグラフであり,縦軸には検知コイル26L,26Rに生じた起電力に基づく電圧値を6千倍に増幅した値が示されている。横軸は時間軸であり,横軸の左から右に向けて経時的に取得された電圧値が示されている。また,
図6および
図7には,ワイヤロープ5を構成するストランド5Bの1ピッチの長さに相当する時間幅(データ範囲)が実線によって示されている。
【0044】
ワイヤロープ5に生じている損傷の程度が大きい(たとえば1ピッチあたりの断線数が多い)ほど上記漏洩磁束の量は大きくなり,この場合に検知コイル26L,26Rに生じる起電力も大きくなって測定電圧が大きくなる(
図6と
図7を対比せよ)。また,ワイヤロープ5の長手方向に複数の損傷が短い間隔で離間して発生していると,グラフには測定電圧のピークが狭いデータ範囲内に複数現れる(
図7参照)。
【0045】
さらに
図6および
図7を参照して,低い値の電圧値も常時測定されていることが分かる。これは,ワイヤロープ5は,上述のように8本のストランド5Bを撚り合わせることで形成されているので,ワイヤロープ5の表面にはこの8本のストランド5Bを撚り合わせることで形付けられる凹凸が存在することに起因している。すなわち,損傷が全くないワイヤロープ5であっても,8本のストランド5B間の凹凸部分からの漏洩磁束は常に存在し,これがグラフ上に低い値の測定電圧の波形として現れている。ストランド5Bの凹凸部分に起因して現れるこの波形は一般にストランドノイズと呼ばれている。ストランドノイズによって0.3V程度のピークを持つ電圧が計測される。
【0046】
図5に戻って,上述したストランド5Bの凹凸部分に起因する測定電圧(ストランドノイズ)の変動をできるだけ低く抑えるために,上記ロープテスタ20は1対の検知コイル26L,26Rを備えており,かつ2つの検知コイル26L,26R間の距離(漏洩磁束が貫く部分の間の間隔)bが,隣接するストランド5Bの頂部(山)の間隔aの整数倍とされている。ストランド5B間の凹凸部分に起因して生じる漏洩磁束が2つの検知コイル26L,26Rを通過する量が平均化されるので,ストランド5B間の凹凸部分に起因して生じる漏洩磁束とワイヤロープ5の損傷に起因して生じる漏洩磁束とが区別されやすくなる。すなわち,測定電圧に表れるストランドノイズの変動が抑制される。
【0047】
図6,
図7のグラフに示すような波形を表す測定電圧(検査データ)が上記ロープテスタ20から出力され,上述した制御装置9に与えられる。次に説明するように,制御装置9ではこの検査データを用いたワイヤロープ5の検査(判定)が行われる。
【0048】
図8から
図10は,上記制御装置9におけるワイヤロープの損傷判定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。このフローチャートに示すアルゴリズムを実行するプログラムは,制御装置9が備えるコンピュータまたはメモリ(図示略)にあらかじめプログラミングされる。CD−ROM等に記録されている上記プログラムを,端末装置(たとえばパーソナル・コンピュータ)を経由して制御装置9にインストールしてもよい。上記端末装置を用いて各種パラメータ(後述する各種判断のための複数の閾値電圧など)を修正(調整)し,修正されたパラメータを制御装置9に転送することもできる。
【0049】
上述したように,制御装置9は,たとえば1日1回〜3回程度,たとえば特定の時刻に,エレベータに用いられている複数本のワイヤロープ5の検査を自動的に実行する。上記監視システム11から手動によってまたは自動的に検査開始信号を制御装置9に向けて送信し,この検査開始信号にしたがって検査を実行することもできる。制御装置9は,はじめにエレベータ制御盤8と協働してエレベータのかご3を最上階まで移動させる(
図1参照)。次に上記移動機構30を制御してロープテスタ20を待機位置から検出位置に移動させる(
図2参照)。所定速度(たとえば90m/min )でエレベータのかご3が最上階から最下階まで移動させられ,このときにロープテスタ20によって検査データ(
図6,
図7参照)が取得される。次に説明する検査データを用いた判定処理を終えると,制御装置9は移動機構30を制御してロープテスタ20を検出位置から元の待機位置に戻す。もちろん,検査データの取得を終えた直後にロープテスタ20を検出位置から元の待機位置に戻してもよい。
【0050】
検査データ(測定電圧Vs)は,0V(波形が全くないデータ)でないことを前提とする。測定電圧Vsが0Vであるとすると,それは,制御装置9の異常,たとえば制御装置9に電源が供給されていない状態や,制御装置9に電源は供給されているが制御装置9の回路基板上で配線がショートしていることなどが考えられる。移動機構30の異常によって上記ロープテスタ20を待機位置から検査位置まで移動させることができずに,その結果として電圧値が全く記録されていない検査データが生成されることも考えられる。有効と考えられる検査データが取得できないこと(制御装置9から検査データが出力されないことを含む)はたとえば上記エレベータ制御盤8によって検出してもよい。この場合,エレベータ制御盤8はたとえば判定ビット0を出力して監視システム11に送信する。監視システム11では,たとえば青色警告ランプ,警告音等によって,上述したような異常が発生したことを監視員等に通知する。機械室2内のエレベータ制御盤8または制御装置9に警告ランプやスピーカを設けておき,警告ランプの点灯や警報音の発生を行うようにしてもよい。
【0051】
はじめに,ロープテスタ20から出力された検査データ(測定電圧Vs)(
図6,
図7参照)が制御装置9に与えられる(ステップ41)。
【0052】
測定電圧Vsが0Vではないものの,0V<Vs< 0.2Vの電圧値にとどまっている場合,すなわち測定電圧Vsの波形中に 0.2V以上のピーク電圧が全く現れていない場合(ステップ42でYES ),制御装置9は判定ビット0を出力し,これが上記エレベータ制御盤8(通信装置10)を介して監視システム11に送信される(ステップ43)。上述したように,ワイヤロープ5に損傷が全く存在しない場合であってもストランドノイズは存在し,このストランドノイズは0.3V程度のピークを持つからである。0.2V以上のピーク電圧が全く存在しない場合,たとえば検知コイル26L,26Rにショート不良またはオープン不良が発生していることが考えられる。この場合にも,判定ビット0が監視システム11に送信されることによって,たとえば青色警告ランプ,警告音等によって異常の発生が監視員等に通知される。
【0053】
測定電圧Vsの波形中に 0.2V以上の電圧値が含まれている場合(ステップ42でNO),測定波形中の最大の瞬時電圧値(以下,ピーク電圧Vpと言う)が取得され,このピーク電圧Vpが 0.6V未満であるかどうかが判断される(ステップ44,ステップ45)。ピーク電圧Vpが 0.6V未満である場合,ワイヤロープ5に損傷は存在しないと判断される。この場合制御装置9は判定ビット1を出力する(ステップ45でYES ,ステップ46)。たとえば緑色ランプによってワイヤロープ5に異常のないことが監視員等に通知される。
【0054】
0.6V以上のピーク電圧Vpが存在する場合(ステップ45でNO),それはストランドノイズではなく,ワイヤロープ5に損傷が発生しているために検出された電圧値であると考えられる。制御装置9は,次の2段階のレベルでワイヤロープ5の損傷の程度を判断する。
【0055】
はじめにピーク電圧Vpが1.4V以上であるかどうかが判断される(ステップ47)。
【0056】
ピーク電圧Vpが1.4V以上であれば(ステップ47で1.4≦Vp),ワイヤロープ5には比較的程度の大きな損傷が発生している可能性がある。この場合,制御装置9は判定出力ビット3を出力し,これに応じて監視システム11ではたとえば赤色警告ランプ,警告音等によってワイヤロープ5の異常が通知される(ステップ51)。ワイヤロープ5の異常が通知された場合には,一般には,複数本のワイヤロープ5のうちのいずれのワイヤロープ5に損傷が発生しているかを特定するための精密な検査が行われる。
【0057】
ピーク電圧Vpが0.6V以上1.4V未満の値であれば(ステップ47でYES ),次にストランド5Bの1ピッチの長さ範囲(1ピッチに相当するデータ範囲)(
図6,
図7参照)内における,0.6V≦Vp<1.4Vの範囲の値を持つ電圧値の数(ピーク本数)がカウントされ,それが1本であるか複数本であるかが判断される(ステップ48,ステップ49)。これは,比較的程度の軽い損傷と考えられるが,それが一箇所に集中して発生しているかどうかを判断するものである。
【0058】
1ピッチの長さ範囲内に,上記0.6V以上1.4V未満の値を持つ電圧値の数が1本だけであれば,ワイヤロープ5の一箇所に集中して発生している損傷ではないと考えられる。この場合制御装置9は判定出力ビット2を出力し,これに応じてたとえば黄色警告ランプ等によって監視員等に注意が喚起される(ステップ49でYES ,ステップ50)。
【0059】
他方,1ピッチの長さ範囲内に上記0.6V以上1.4V未満の値を持つ電圧値が複数存在すれば,損傷の程度は比較的軽いと考えられるものの,それが一箇所に集中して発生している可能性がある。この場合,ピーク電圧Vpが 1.4V以上である場合と同様に,制御装置9は判定出力ビット3を出力し,たとえば赤色警告ランプ,警告音等によって,異常の発生が監視員等に通知される(ステップ49で「2本以上」,ステップ51)。
【0060】
上述したアルゴリズムにおいて,ロープテスタ20(検知コイル26L,26R)に異常があるかどうかを判定するための第1の閾値電圧 0.2Vと,ワイヤロープ5に損傷が発生しているかどうかを判定するための第2の閾値電圧 0.6Vと,損傷の程度を2つに分けるための第3の閾値電圧 1.4Vが用いられている。これら3つの閾値電圧は試験を行うことで得られた値であり,その試験内容を以下説明しておく。
【0061】
図11は損傷しているワイヤロープ5についての,上述したロープテスタ20を用いた計測試験の結果を示すもので,上記ロープテスタ20によって計測されたピーク電圧Vpの値(実測値を6千倍したもの)を示している。
図12は
図11に示す試験結果にしたがうピーク電圧Vpの値(縦軸)と,欠陥通過位置(角度)(後述する)(横軸)との関係を示すグラフである。
図13はワイヤロープ5の断面とロープテスタ20との位置関係を示している。
図11の表においてピーク電圧Vpの数値には,その右上になんらの印も付されていないものと,数値の右上に二つの記号(**)が付されているものと,数値の右上に一つの記号(*) が付されているものがある。二つの**が付されている数値は,上述したアルゴリズム(
図8〜
図10)にしたがう判定処理において異常発生が通知されることになる数値(ステップ51)を示している。一つの* が付されている数値は,上述したアルゴリズムにしたがう判定処理において少なくとも注意喚起が行われることになる数値(ステップ50)を示している。記号が付されていない数値は異常がないことが判定される数値である。
【0062】
この試験では,上述した8×S(19)の構成を持つ直径10mmの4本のワイヤロープ5を,隣り合うワイヤロープ5同士の間に3mmの間隔をあけて互いに平行に配列したものを用いた。また,試験は4本のワイヤロープ5のすべてをあらかじめ消磁した上で複数回試みた。
図11および
図12には,1回目の試験(消磁後にワイヤロープ5をはじめてロープテスタ20を通過させたとき)の検査データではなく,消磁をせずに次の2回目の試験によって得られた検査データが示されている。これは,複数回の試験を行ったところ,2回目以降の試験において得られたデータは試験ごとの乖離が小さかったものの,最初の試験によって得られたデータだけは,2回目以降の試験で得られたデータと乖離が大きかったからである。2回目以降の測定では,前回(それ以前)の試験でワイヤロープ5が磁化されるためにワイヤロープ5に残留磁気が残っており,この残留磁気と検査時の磁化の合計によってワイヤロープ5は磁化されることになる。残留磁気と検査時の磁化の合計が飽和磁化に達しないように,検査時の磁化の程度(大きさ)は調節される。
【0063】
ワイヤロープ5は,上述したように,複数本のストランド5Bを撚り合わせることで作られ,ストランド5Bのそれぞれは複数本の素線を撚り合わせることで作られている。ワイヤロープ5の損傷は,ストランド5Bを構成する素線のうちの外層素線5cに発生しやすい。計測試験は,第1に,4本のワイヤロープ5のうちの特定の1本(両端の2本を除く)について,そのワイヤロープ5を構成する8本のストランド5Bのうちの1本につき,1ピッチの範囲で様々な数の断線を外層素線5cに故意に作成し,断線させた外層素線5cを含むワイヤロープ5を含めて,4本のワイヤロープ5をロープテスタ20に通過させることで行った。
【0064】
図11の表において,「断線数」の欄に,1ピッチの範囲における外層素線5cの断線数が示されている。ただし,最後の「ストランド1本」については外層素線5cのみならず,内層素線5bおよび心線5aを含むストランド5B全体を断線させたときの試験結果を示している。
【0065】
たとえば,断線数「素線1箇所」は,平行に配列されている4本のワイヤロープ5のうち両端に位置する2本のワイヤロープ5によって挟まれている残りの2本のワイヤロープ5のうちの特定の1本のワイヤロープ5を構成する特定の1本のストランド5Bに対し,そのストランド5Bを構成する外層素線5cを1ピッチの範囲内で1箇所断線させたものであることを意味している。
【0066】
ここで,
図13を参照して,外層素線5cは,同じストランド5Bにおいて両側に隣接する外層素線5cのみに接する外層素線(山素線)と,隣接する他のストランド5Bの外層素線5cにも隣接する外層素線(谷素線)と,繊維心5Aに接触する外層素線(心接面素線)の3つに区別することができる。同じストランド5Bに含まれる外層素線5cであっても,上述した山素線と,谷素線と,心接面素線では,ロープテスタ20(検知コイル26L,26R)までの距離が異なる。計測試験は,第2に,断線数を異ならせるのみならず,断線させる外層素線5cの位置も異ならせて行った。
【0067】
図11を参照して,「断線種類」の欄に,心接面素線,谷素線および山素線のうちのいずれを断線させたのかが示されている。たとえば断線数「素線1箇所」には,断線種類「心接面切」,「谷切」および「山切」の3つの試験結果が示されている。これは,1ピッチの範囲において外層素線5cに1箇所の断線があることは共通するが,その1箇所の断線が,それぞれ,上述した「心接面素線」,「谷素線」および「山素線」に存在するものであることを意味している。
【0068】
さらに,ロープテスタ20はワイヤロープ5の片側のみに設けられるので(
図1,
図2,
図13参照),断線を持つワイヤロープ5がロープテスタ20を通過するときに,その断線の箇所がロープテスタ20に近ければピーク電圧は大きくなるし,断線箇所がロープテスタ20から離れた位置にあればピーク電圧は小さくなる。そこで,計測試験は,第3に,ロープテスタ20と断線箇所との角度位置を異ならせても行った。
図13を参照して,試験は,ロープテスタ20とワイヤロープ5の断線箇所の位置関係を,ロープテスタ20に最も近いときを0°とし,最も遠いときを 180°として,0°,45°,90°, 135°および 180°のそれぞれの角度位置(これが上述した「欠陥通過位置(角度)」である)について行った。
【0069】
さらに,
図11の表には,上述したストランドノイズによると考えられる電圧値(定常的な電圧値)が,「ノイズ(V)」欄に示されている。
【0070】
図11の表を参照して,ストランドノイズの電圧値はいずれの試験結果についても 0.3V〜 0.4Vであった。これが,ロープテスタ20(検知コイル26L,26R)に異常があるかどうかを判定する第1の閾値電圧を 0.2Vとした理由である。ストランドノイズによって生じる計測電圧は 0.2V以下となることはまずなく,第1の閾値電圧である 0.2V以下のピーク電圧しか得られなかったときには,上述したように,ロープテスタ20(検知コイル26L,26R)に異常があることが判定される(ステップ43)。
【0071】
図11の表および
図12のグラフを参照して,ほとんどの試験結果について,同じ損傷であれば,欠陥通過位置が0°(断線箇所がロープテスタ20に最も近い)の場合にピーク電圧は大きくなり,欠陥通過位置が 180°に近づくにつれて(断線箇所がロープテスタ20から離れるにつれて)ピーク電圧は小さくなっている。最も感度の低い欠陥通過位置 180°では,断線数「ストランド1本」を除いて 0.6V以上のピーク電圧は得られなかった。欠陥通過位置が 180°の場合,ストランド5Bの1本全体が断線しているものについて第2の閾値電圧 0.6V以上である 1.3Vのピーク電圧Vpが得られており,注意喚起が行われることになる(ステップ49,ステップ50を参照)。
【0072】
欠陥通過位置が 135°になると,ストランド5Bの1本全体が断線している場合のピーク電圧Vpは第3の閾値電圧 1.4Vを超える。これにより,異常の発生が通知されることになる(ステップ47,ステップ51を参照)。欠陥通過位置が 135°の場合,素線7箇所山切,素線3箇所山切,および素線2箇所山切の場合に, 0.6V以上のピーク電圧Vpが得られており,注意喚起が行われることになる。
【0073】
欠陥通過位置が90°になると,さらに素線4箇所谷切についても注意喚起が行われることになる。
【0074】
欠陥通過位置が45°になると,ストランド1本断線のみならず,素線7箇所山切および素線3本山切についても第3の閾値 1.4Vを超えるピーク電圧Vpが得られており,異常の発生が通知されることになる。欠陥通過位置が45°の場合,素線1箇所山切,素線2箇所心接面切,素線2箇所谷切,素線2箇所山切についてもさらに注意喚起が行われる。
【0075】
欠陥通過位置が0°になると,素線4箇所心接面切および素線4箇所谷切について,注意喚起ではなく異常通知が行われる。
【0076】
欠陥通過位置が 180°の場合の感度はやや低いものの,ワイヤロープ5に損傷が発生しているかどうかを判定するための第2の閾値電圧を 0.6Vとし,損傷の程度を2つに分けるための第3の閾値電圧を 1.4Vとすることで,比較的良好に注意喚起および異常通知を行うことができる。
【0077】
もっとも,上述した第1,第2,第3の閾値電圧は一例であって,ワイヤロープ5に損傷が発生しているかどうかを判断する感度をより高める場合には第2の閾値電圧をより低めればよいし,また第3の閾値電圧をより低めることで異常通知が行われる場合を多くすることができるのは言うまでもない。
【0078】
図14および
図15は,
図11および
図12に相当する表およびグラフを示しており,
図16に示すように,ワイヤロープ5の片側ではなく,その両側にロープテスタ20を設けた場合についてのシミュレーション結果を示している。2つのロープテスタ20をワイヤロープ5をその両側から挟むように設けることによって,90°から 180°の範囲の欠陥通過位置における感度が向上する。ワイヤロープ5の両側にロープテスタ20を設けると,
図14を参照して,ワイヤロープ5の片側のみにロープテスタ20を設けた場合に比べて注意喚起( *印を参照)および警告(**印を参照)が行われる頻度が多くなる。ワイヤロープ5の両側にロープテスタ20を設ける場合には,片側にロープテスタ20を設ける場合と異なる値の第2,第3の閾値電圧を設定してもよい。
【0079】
図17は,他の実施例のロープテスタ20Aの
図4に対応する断面図を示している。
図4のロープテスタ20とは,ロープテスタ20Aのセンサ面(検知コイル26L,26R)(
図17ではコイル26Lのみが図示されている)の長手方向の両端が上方(ワイヤロープ5が位置する向き)に向けて湾曲している点が異なる。検知コイル26L,26Rを支持するコイルベース23も,その両端に立ち上がり部分が形成されている。
【0080】
平行に配列された4本のワイヤロープ5の全体の幅(ワイヤロープ5同士の間隔)が,巻上機6やそらせ車7(
図1参照)に用いられるシーブにおける溝の間隔よりも広い場合,4本のワイヤロープ5のうち両端に位置する2本のワイヤロープ5は,シーブとの接触面が外側へ偏り,シーブと強く接触するので,中間に位置する残りの2本のワイヤロープ5よりも損傷の進行が早い。ロープテスタ20Aのセンサ面(検知コイル26L,26R)の両端のそれぞれを湾曲させ,その両端部分を,4本のワイヤロープ5の両がわの端に位置する2本のワイヤロープ5のそれぞれの側方に至らせることで,両がわの端に位置する2本のワイヤロープ5についての損傷検知の感度を高めることができる。