特許第6193092号(P6193092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193092
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/02 20060101AFI20170828BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20170828BHJP
   B60K 1/02 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B60K17/02 F
   F16H3/089
   B60K1/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-224844(P2013-224844)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-85765(P2015-85765A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝貞
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千博
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−033077(JP,A)
【文献】 特開2013−126808(JP,A)
【文献】 特開2012−247018(JP,A)
【文献】 特開2004−176844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/02
B60K 1/02
F16H 3/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力が入力される第1軸と、その第1軸に直接または間接に回転動力を入力する駆動源とは異なる駆動源から直接または間接に回転動力が入力される第2軸と、を備え、その第2軸および前記第1軸から入力された回転動力を出力軸に伝達する動力伝達装置において、
前記第1軸および前記第2軸にそれぞれ配置される第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤと、
その第1駆動ギヤと前記第1軸との間の回転動力の伝達の断接、前記第2駆動ギヤと前記第2軸との間の回転動力の伝達断接、及び、前記第1軸と前記第2軸との一体回転または相対回転の切り換えを行う、複数の要素からなる第1クラッチと
前記第1駆動ギヤ及び前記第2駆動ギヤにそれぞれ噛み合い、少なくとも1段以上のギヤ段を構成する第1被動ギヤ及び第2被動ギヤと、
その第1被動ギヤ及び第2被動ギヤと前記出力軸との間の回転動力の伝達を断接する第2クラッチと、を備え、
前記第2クラッチは、前記第1被動ギヤ又は前記第2被動ギヤの一方の回転動力を前記第1被動ギヤ又は前記第2被動ギヤの他方を介して前記出力軸に伝達する直列状態と、前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤの回転動力をそれぞれ前記出力軸に伝達する並列状態とを切換可能に構成され、
前記第1クラッチは、発進時や加速時に、前記第1軸および前記第2軸の回転動力を合わせて前記第1駆動ギヤ又は前記第2駆動ギヤに伝達する第1状態に設定可能に構成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1クラッチは、前記第1軸および前記第2軸の回転動力をそれぞれ前記第1駆動ギヤ及び前記第2駆動ギヤに伝達する第2状態と、前記第1状態とを切換可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1被動ギヤ及び前記第2被動ギヤがそれぞれ配置されると共に互いに同軸に位置する第3軸および第4軸を備え、
前記第2クラッチは、前記第1被動ギヤ又は前記第2被動ギヤの一方と一体に回転可能かつ前記第3軸および前記第4軸の軸方向に移動可能に構成される移動部材と、
その移動部材の軸方向端部に凹凸状に形成される噛合部と、
その噛合部に噛合可能かつ前記第1被動ギヤ又は前記第2被動ギヤの他方と一体に回転可能に構成される凹凸状の被噛合部とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達装置に関し、特に駆動源を小型化できる動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、2つの駆動源から入力された回転動力を出力軸に伝達する動力伝達装置が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、2つの駆動源から奇数段および偶数段の各ギヤ列に回転動力が同時に入力される。その結果、2つの駆動源から入力される回転動力が、奇数段および偶数段の各ギヤ列を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−254787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に開示される動力伝達装置は、大きな回転動力を必要とする発進時や加速時も、奇数段および偶数段の各ギヤ列が2つの駆動源の動力を伝達する構造なので、奇数段および偶数段の各ギヤ列を駆動するだけの大きな回転動力を出力できる駆動源を採用しなければならない。駆動源の出力を大きくすると、駆動源が大型化するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、駆動源を小型化できる動力伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
請求項1記載の動力伝達装置によれば、第1軸に直接または間接に回転動力を入力する駆動源とは異なる駆動源から第2軸に直接または間接に回転動力が入力され、第2軸および第1軸から入力された回転動力が出力軸に伝達される。第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤが第1軸および第2軸にそれぞれ配置され、第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤと第1軸および第2軸との間の回転動力の伝達が第1クラッチにより断接される。第1クラッチが第1状態に設定されると、第1軸および第2軸の回転動力が合わさって第1駆動ギヤ又は第2駆動ギヤに伝達される。
【0007】
加速時や発進時など大きな回転動力を要するときには、第1クラッチを第1状態に設定することにより、2つの駆動源から入力される回転動力が合計され、第1駆動ギヤ又は第2駆動ギヤを介して出力軸に伝達される。第1軸および第2軸は異なる駆動源から回転動力が入力されるので、各駆動源の出力を合わせた回転動力が第1駆動ギヤ又は第2駆動ギヤに入力される。即ち、各駆動源の出力を合わせた回転動力を第1駆動ギヤ又は第2駆動ギヤの一方に集中させることができる。各駆動源の出力を合わせて必要な回転動力を得ることができれば良いので、各駆動源の出力を小さくできる。その結果、駆動源を小型化できる効果がある。
また、第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤにそれぞれ噛み合う第1被動ギヤ及び第2被動ギヤにより、少なくとも1段以上のギヤ段が構成される。第1被動ギヤ及び第2被動ギヤと出力軸との間の回転動力の伝達が第2クラッチにより断接されるので、第2クラッチによりギヤ段を切換えられる効果がある。
さらに、第2クラッチは、第1被動ギヤ又は第2被動ギヤの一方の回転動力を第1被動ギヤ又は第2被動ギヤの他方を介して出力軸に伝達する直列状態と、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤの回転動力をそれぞれ出力軸に伝達する並列状態とを切換可能に構成される。第2クラッチにより直列状態と並列状態とを切換えることで、要求される出力軸の回転動力に応じて、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤの回転動力を有効に使うことができる効果がある。
【0008】
請求項2記載の動力伝達装置によれば、第1クラッチにより第2状態に切換えられると、第1軸および第2軸の回転動力がそれぞれ第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤに伝達される。第1クラッチにより第1状態と第2状態とを切換えることで、請求項1の効果に加え、要求される出力軸の回転動力に応じて、第1軸および第2軸の回転動力を有効に使うことができる効果がある。
【0011】
請求項記載の動力伝達装置によれば、第1被動ギヤ及び第2被動ギヤがそれぞれ配置される第3軸および第4軸が互いに同軸に位置する。第2クラッチは、移動部材が、第1被動ギヤ又は第2被動ギヤの一方と一体に回転可能かつ第3軸および第4軸の軸方向に移動可能に構成され、移動部材の軸方向端部に凹凸状に噛合部が形成される。その噛合部に噛合可能に構成される凹凸状の被噛合部が、第1被動ギヤ又は第2被動ギヤの他方と一体に回転可能に構成される。噛合部と被噛合部とが噛合して回転動力を伝達するので、請求項1又は2の効果に加え、第2クラッチを小型化できると共に動力を確実に伝達できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
図2】(a)は1速のトルクフローを示す図であり、(b)は2速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図である。
図3】(a)は2速のトルクフローを示す図であり、(b)は3速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図である。
図4】(a)は3速のトルクフローを示す図であり、(b)は4速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図である。
図5】(a)は4速のトルクフローを示す図であり、(b)は駆動源の回転数と出力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して動力伝達装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施の形態における動力伝達装置1のスケルトン図である。本実施の形態では、動力伝達装置1は2つの駆動源(第1モータ2及び第2モータ5)を有する電気自動車(車両)に搭載される変速装置であり、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力がそれぞれ入力される第1軸3及び第2軸6と、第1軸3及び第2軸6と平行に配置される第3軸21及び第4軸24と、第3軸21及び第4軸24と平行に配置される第1出力軸41及び第2出力軸43とを備えている。本実施の形態では、第1モータ2及び第2モータ5はいずれもジェネレータモータである。
【0014】
第1軸3は、第1モータ2の回転動力を動力伝達装置1に入力するための軸であり、第1駆動ギヤ4を回転可能に支持する。第1軸3は、第1軸3の軸方向端部側に固定される第1ギヤ3aを備え、第1駆動ギヤ4は、第1ギヤ3a寄りの軸方向端部の外周面にギヤ部4aが形設されている。第2軸6は、第2モータ5の回転動力を動力伝達装置1に入力するための軸であり、第1軸3と同軸に配置されると共に第2駆動ギヤ7を回転可能に支持する。第2軸6は、第2軸6の軸方向端部側に固定される第2ギヤ6aを備え、第2駆動ギヤ7は、第2ギヤ6a寄りの軸方向端部の外周面にギヤ部7aが形設されている。
【0015】
第1クラッチ10は、第1駆動ギヤ4及び第2駆動ギヤ7と第1軸3及び第2軸6との間の回転動力の伝達を断接するための装置であり、第1スリーブ11及び第2スリーブ12を備えている。第1スリーブ11は、第1ギヤ3a及びギヤ部4aに噛み合うスプライン(図示せず)が内周に形成されており、そのスプラインを第1ギヤ3a及びギヤ部4aに係合させることで、第1軸3と一体に第1駆動ギヤ4を回転させることができる。なお、第1スリーブ11は内周のスプラインを第1ギヤ3aに係合させつつ軸方向に摺動可能に構成されているので、スプラインを第1ギヤ3a及び第2ギヤ6aに係合させることで、第1スリーブ11を介して第1軸3及び第2軸6を一体に回転させることができる。
【0016】
第2スリーブ12は、第2ギヤ6a及びギヤ部7aに噛み合うスプライン(図示せず)が内周に形成されており、そのスプラインを第2ギヤ6a及びギヤ部7aに係合させることで、第2軸6と一体に第2駆動ギヤ7を回転させることができる。なお、第2スリーブ12は内周のスプラインを第2ギヤ6aに係合させつつ軸方向に摺動可能に構成されているので、スプラインを第2ギヤ6a及び第1ギヤ3aに係合させることで、第2スリーブ12を介して第1軸3及び第2軸6を一体に回転させることができる。
【0017】
第1スリーブ11は、第1ギヤ3a及びギヤ部4aに係合可能、又は、第1ギヤ3a及び第2ギヤ6aに係合可能であるが、第1ギヤ3a、ギヤ部4a及び第2ギヤ6aに同時には係合できないような軸方向長に設定されている。第2スリーブ12も同様に、第2ギヤ6a及びギヤ部7aに係合可能、又は、第1ギヤ3a及び第2ギヤ6aに係合可能であるが、第2ギヤ6a、ギヤ部7a及び第1ギヤ3aに同時には係合できないような軸方向長に設定されている。
【0018】
なお、第1スリーブ11及び第2スリーブ12は、フォーク部材(図示せず)によってそれぞれ独立して軸方向に移動可能に構成される。フォーク部材によって、第1スリーブ11が第2スリーブ12に近づくように軸方向に移動されると、第2スリーブ12が第2ギヤ6a及びギヤ部7aに係合された状態で、第1スリーブ11が第2ギヤ6a及び第1ギヤ3aに係合される。また、フォーク部材によって、第2スリーブ12が第1スリーブ11に近づくように軸方向に移動されると、第1スリーブ11が第1ギヤ3a及びギヤ部4aに係合された状態で、第2スリーブ12が第2ギヤ6a及び第1ギヤ3aに係合される。
【0019】
図1に戻って説明する。第3軸21は、第1被動ギヤ22を回転可能に支持すると共に第1変速ギヤ23を支持するための軸である。第1被動ギヤ22は、第1駆動ギヤ4と噛合し、第3軸21は、第3軸21に固定される第3ギヤ21aを軸方向端部側に備えている。第4軸24は、第2被動ギヤ25を回転可能に支持すると共に第2変速ギヤ26を支持するための軸であり、第3軸21と同軸に配置される。第2被動ギヤ25は、第2駆動ギヤ7と噛合し、第4軸24は、第4軸24に固定される第4ギヤ24aを軸方向端部側に備えている。
【0020】
第2クラッチ30は、第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25と第3軸21及び第4軸24との間の回転動力の伝達を断接するための装置であり、連結部材31,34、第3スリーブ32及び第4スリーブ35を備えている。連結部材31は、第1被動ギヤ22に対して第3軸21の回りに回動不能かつ軸方向に移動可能に構成される部材であり、第3スリーブ32は、連結部材31の軸方向端部に固設される。第3スリーブ32は、第3ギヤ21aに噛み合うスプライン(図示せず)が内周に形成されており、そのスプラインを第3ギヤ21aに係合させることで、連結部材31を介して第3軸21と一体に第1被動ギヤ22を回転させることができる。
【0021】
連結部材34は、第2被動ギヤ25に対して第4軸24の回りに回動不能かつ軸方向に移動可能に構成される部材であり、第4スリーブ35は、連結部材34の軸方向端部に固設される。第4スリーブ35は、第4ギヤ24aに噛み合うスプライン(図示せず)が内周に形成されており、そのスプラインを第4ギヤ24aに係合させることで、連結部材34を介して第4軸24と一体に第2被動ギヤ25を回転させることができる。
【0022】
第3スリーブ32は、連結部材31が固設された軸方向端部と反対側の軸方向端部に、凹凸状に形成された噛合部33が設けられる。一方、第4スリーブ35は、連結部材34が固設された軸方向端部と反対側の軸方向端部に、凹凸状に形成されると共に噛合部33と噛合可能に構成された被噛合部36が設けられる。噛合部33及び被噛合部36が形成された第3スリーブ32及び第4スリーブ35は一種のドグクラッチを構成する。第3スリーブ32及び第4スリーブ35を軸方向に近接させ噛合部33及び被噛合部36を噛合させると、連結部材31,34を介して第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25を一体回転可能にできる。
【0023】
なお、第3スリーブ32及び第4スリーブ35は、フォーク部材(図示せず)によってそれぞれ独立して軸方向に移動可能に構成される。フォーク部材によって、第3スリーブ32が第4スリーブ35に近づくように軸方向に移動されると、第4スリーブ35の被噛合部36と第3スリーブ32の噛合部33とが噛み合い、第3スリーブ32と第3ギヤ21aとの係合が解除される。また、フォーク部材によって、第4スリーブ35が第3スリーブ32に近づくように軸方向に移動されると、第4スリーブ35の被噛合部36と第3スリーブ32の噛合部33とが噛み合い、第4スリーブ35と第4ギヤ24aとの係合が解除される。
【0024】
第3スリーブ32及び第4スリーブ35には一種のドグクラッチが構成され、噛合部33と被噛合部36とが噛合して回転動力を伝達するので、第2クラッチ30を小型化できると共に動力を確実に伝達できる。さらに、第1クラッチ10及び第2クラッチ30は別々に作動させることができるので、動力伝達装置1を制御し易くできる。
【0025】
図1に戻って説明する。第1出力軸41は、第3変速ギヤ42を支持するための軸である。第2出力軸43は、第4変速ギヤ44を支持するための軸であり、第1出力軸41と同軸に配置される。第3変速ギヤ42は第1変速ギヤ23と噛合し、第4変速ギヤ44は第2変速ギヤ26と噛合する。第1出力軸41は、第3変速ギヤ42を支持するための軸である。差動装置50は、第1出力軸41及び第2出力軸43から入力された回転動力により一対の車軸51,52を差動可能に駆動する。第1出力軸41及び第2出力軸43は、車軸51,52にそれぞれ回転可能に支持される。
【0026】
動力伝達装置1は、第1軸3と第1出力軸41とが平行となるように配置されると共に、第2軸6と第2出力軸43とが平行となるように配置され、第1軸3及び第2軸6にそれぞれ第1モータ2及び第2モータ5が連結されている。その結果、第1モータ2及び第2モータ5は、第1軸3と第2軸6との間および第1出力軸41と第2出力軸43との間を通る対称軸に対して対称状に配置される。その結果、軸方向の重量バランスを適正にてきる。また、第1軸3、第3軸21及び第1出力軸41と、第2軸6、第4軸24及び第2出力軸43とが対称状に配置されているので、軸方向の重量バランスをさらに適正にできる。
【0027】
次に図2から図5を参照して動力伝達装置1のトルクフローについて説明する。図2(a)は1速のトルクフローを示す図であり、図2(b)は2速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図であり、図3(a)は2速のトルクフローを示す図であり、図3(b)は3速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図である。図4(a)は3速のトルクフローを示す図であり、図4(b)は4速へシフトアップをするときのトルクフローを示す図であり、図5(a)は4速のトルクフローを示す図である。なお、図中の太線矢印は回転動力の伝達経路(トルクフロー)である。
【0028】
図2(a)に示すように1速では、第1クラッチ10により第1軸3と第1駆動ギヤ4及び第2軸6とを一体に回転可能な状態にする。また、第2クラッチ30により第1被動ギヤ22と第4軸24とを一体に回転可能な状態にする。第1モータ2及び第2モータ5を作動させると、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力は第1駆動ギヤ4及び第1被動ギヤ22を介して第2変速ギヤ26及び第4変速ギヤ44に伝達される。その回転動力は第2出力軸43及び差動装置50を介して車軸51,52に伝達される。第1モータ2及び第2モータ5の回転動力を合わせて第2出力軸43に伝達できる。
【0029】
図2(b)に示すように1速から2速へシフトアップをするときには、第1クラッチ10により第1軸3と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にしたまま、第2スリーブ12を移動させて第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする。なお、第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする場合には、第2モータ5を力行運転から回生運転に切り換える等によりモータトルクを消失させた後、第2スリーブ12を移動させる。第2モータ5が回生運転される間も第1モータ2は力行運転されるので、トルク切れが生じないようにできる。
【0030】
図3(a)に示すように2速では、第1クラッチ10により第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にしたまま、第1スリーブ11を移動させて第1軸3と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする。なお、第1軸3と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする場合には、まず第1モータ2を力行運転から回生運転に切り換え、モータトルクを消失させる。次いで第1スリーブ11を移動させて第1スリーブ11と第1駆動ギヤ4との相対回転を可能にした後、第1モータ2を力行運転に切り換える。次に、第1モータ2の回転数を上げて第1軸3と第2軸6との相対回転数を小さくし、第1スリーブ11をさらに移動させて第1軸3と第2軸6とを一体に回転可能な状態にする。
【0031】
これにより、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力は第2駆動ギヤ7及び第2被動ギヤ25を介して第2変速ギヤ26及び第4変速ギヤ44に伝達される。第1モータ2及び第2モータ5を合わせた回転動力は第2出力軸43及び差動装置50を介して車軸51,52に伝達される。なお、第1軸3から第1駆動ギヤ4を介して第1被動ギヤ22に回転動力が伝達されなくなり、第3スリーブ32のモータトルクが消失するので、第2クラッチ30により第3スリーブ32を初期位置に移動させておく。
【0032】
図3(b)に示すように2速から3速へシフトアップをするときには、第1クラッチ10により第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にしたまま、第1スリーブ11を移動させて第1軸3と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にする。なお、第1軸3と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にする場合には、第1モータ2を力行運転から回生運転に切り換える等によりモータトルクを消失させた後、第1スリーブ11を移動させる。第1モータ2が回生運転される間も第2モータ5は力行運転されるので、トルク切れが生じないようにできる。
【0033】
図4(a)に示すように3速では、第1クラッチ10により第1軸3と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にしたまま、第2スリーブ12を移動させて第2軸6と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にする。なお、第2軸6と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にする場合には、まず第2モータ5を力行運転から回生運転に切り換え、第2スリーブ12を移動させて第2スリーブ12と第2駆動ギヤ7との相対回転を可能にした後、第2モータ5を力行運転に切り換える。次いで、第2モータ5の回転数を上げて、第1軸3と第2軸6との相対回転数を小さくし、第2スリーブ12をさらに移動させて第1軸3と第2軸6とを一体に回転可能な状態にする。
【0034】
これにより、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力は第1駆動ギヤ4及び第1被動ギヤ22を介して第1変速ギヤ23及び第3変速ギヤ43に伝達される。第1モータ2及び第2モータ5を合わせた回転動力は第1出力軸41及び差動装置50を介して車軸51,52に伝達される。
【0035】
図4(b)に示すように3速から4速へシフトアップをするときには、第1クラッチ10により第1軸3と第1駆動ギヤ4とを一体に回転可能な状態にしたまま、第2スリーブ12を移動させて第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする。なお、第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする場合には、第2モータ5を力行運転から回生運転に切り換える等の後、第2スリーブ12を移動させる。第2モータ5が回生運転される間も第1モータ2は力行運転されるので、トルク切れが生じないようにできる。
【0036】
さらに、第2クラッチ30により第2被動ギヤ25と第3軸21とを一体に回転可能な状態にする。第2被動ギヤ25と第3軸21とを一体に回転可能な状態にする場合には、第2モータ5の回生運転中に第4スリーブ35を移動させて第4スリーブ35と第4軸24との相対回転を可能にした後、第2モータ5を力行運転に切り換える。第2モータ5の回転数を上げて、第2被動ギヤ25と第3軸21との相対回転数を小さくし、第4スリーブ35をさらに移動させて第2被動ギヤ25と第3軸21とを一体に回転可能な状態にする。
【0037】
図5(a)に示すように4速では、第1クラッチ10により第2軸6と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にしたまま、第1スリーブ11を移動させて第1軸3と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする。なお、第1軸3と第2駆動ギヤ7とを一体に回転可能な状態にする場合には、まず第1モータ2を力行運転から回生運転に切り換え、第1スリーブ11を移動させて第1スリーブ11と第1駆動ギヤ4との相対回転を可能にした後、第1モータ2を力行運転に切り換える。次いで、第1モータ2の回転数を上げて、第1軸3と第2軸6との相対回転数を小さくし、第1スリーブ11をさらに移動させて第1軸3と第2軸6とを一体に回転可能な状態にする。
【0038】
これにより、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力は第2駆動ギヤ7及び第2被動ギヤ25を介して第1変速ギヤ23及び第3変速ギヤ43に伝達される。第1モータ2及び第2モータ5を合わせた回転動力は第1出力軸41及び差動装置50を介して車軸51,52に伝達される。
【0039】
以上説明したように動力伝達装置1によれば、1速および3速では第1クラッチ10によって第1モータ2及び第2モータ5の回転動力を第1駆動ギヤ4に入力し、2速および4速では第2駆動ギヤ7に入力する。これにより、大きな回転動力を必要とする発進時や加速時に、2つの駆動源(第1モータ2及び第2モータ5)から回転動力を入力できる。その結果、スムーズな発進や加速を行うことができる。また、2つの駆動源を用いて第1駆動ギヤ4又は第2駆動ギヤ7を回転駆動させるので、個々の駆動源は定格出力の小さいものを採用できる。その結果、各駆動源(第1モータ2及び第2モータ5)を小型化できる。
【0040】
また、第1モータ2及び第2モータ5は、第1軸3及び第2軸6を介して第1駆動ギヤ4又は第2駆動ギヤ7にそれぞれ直結されている。従って、第1モータ2及び第2モータ5の回転動力を第1駆動ギヤ4又は第2駆動ギヤ7に入力した状態では、第1駆動ギヤ4又は第2駆動ギヤ7の回転数を変化させる場合に、第1モータ2及び第2モータ5の回転数を同じ割合で変化させれば良い。特許文献1に開示された技術のように角速度の割合を考慮した制御を行う必要がないので、第1モータ2及び第2モータ5の制御(動力の合成)を容易にできる。
【0041】
また、車両の走行条件に応じて1速から4速のいずれかのギヤ段に変速することで、第1モータ2及び第2モータ5の効率の良い領域を使って走行することができる。これを、図5(b)を参照しながら説明する。図5(b)は駆動源(モータ)の回転数と出力との関係を示す図である。なお、破線で示す双曲線状の曲線は等パワー線であり、実線で囲まれた領域はモータの効率の良い領域(以下「高効率領域」と称す)を示す。
【0042】
本実施の形態では、説明の便宜上、第1モータ2から第1駆動ギヤ4、第1被動ギヤ22、第2変速ギヤ26及び第4変速ギヤ44を介して動力が伝達されるときの高効率領域をLとする。また、第1モータ2から第1駆動ギヤ4、第1被動ギヤ22、第1変速ギヤ23及び第3変速ギヤ42を介して動力が伝達されるときの高効率領域をHとする。以上のようにギヤ比の異なるギヤ段(第1変速ギヤ23、第2変速ギヤ26、第3変速ギヤ42及び第4変速ギヤ44)を採用することにより、駆動源が1つの場合でもモータの高効率領域を拡大できる。
【0043】
さらに、第1モータ2に加えて第2モータ5を採用し、第2駆動ギヤ7及び第2被動ギヤ25並びに第1クラッチ10を採用することにより、駆動源およびギヤ段を増やすことができる。その結果、車両の走行条件に応じて駆動源およびギヤ段を切り換えることにより、出力を増大させつつ高効率領域LL,LH,HHを拡大できる。特に、モータは低回転数や短時間定格では低効率であるが、動力伝達装置1に複数のモータの駆動力を入力すると共にギヤ段を切り換える構成とすることにより、低回転数や短時間定格の効率を向上できる。
【0044】
また、第1モータ2及び第2モータ5はサイズ(定格出力)の異なるものを採用すれば、各モータによる高効率領域の重なりを少なくすることができるので、第1モータ2及び第2モータ5の各々の高効率領域を活用することができ、高効率領域をより拡大することができる。
【0045】
また、動力伝達装置1によれば、第1駆動ギヤ4及び第2駆動ギヤ7と第1軸3及び第2軸6との間の回転動力の伝達が第1クラッチ10により断接され、第1駆動ギヤ4及び第2駆動ギヤ7にそれぞれ噛合する第1被動ギヤ22及び第2被動ギヤ25と出力軸(第1出力軸41及び第2出力軸43)との間の回転動力の伝達が第2クラッチ30により断接される。これにより、第1クラッチ10及び第2クラッチ30により第1モータ2及び第2モータ5から出力軸(第1出力軸41及び第2出力軸43)までの動力伝達経路を繋ぎ変えると共に、第1モータ2及び第2モータ5の回転数を制御することにより、トルク切れのない変速を行うことができる。
【0046】
なお、第1クラッチ10により第1軸3と第2軸6とを動力伝達可能な状態にすれば、第1モータ2又は第2モータ5のいずれか一方の回転動力を伝達することにより、消費電力の低減を図ることができる。また、第1モータ2又は第2モータ5の一方が故障した場合には、故障していない第1モータ2又は第2モータ5に第1クラッチ10を連結することで、走行を継続できる。
【0047】
また、第2クラッチ30を、第1被動ギヤ22又は第2被動ギヤ25の一方の回転動力を第1被動ギヤ22又は第2被動ギヤ25の他方を介して出力軸(第1出力軸41及び第2出力軸43)に伝達する直列状態に設定した後、第1クラッチ10によって動力伝達経路を繋ぎ変えると共に、第1モータ2及び第2モータ5の回転数を制御することにより、トルク切れのない変速を行うことができる。
【0048】
第1モータ2及び第2モータ5から出力軸(第1出力軸41及び第2出力軸43)までの動力伝達経路を繋ぎ変えてアップシフトを行う場合には、いずれも力行運転によって第1モータ2又は第2モータ5の回転数を上げるパワーオンアップシフトを行うことができる。その結果、シフトチェンジのロスタイムを少なくできるので、早く目標速度に到達させることができ、車両の操作性を向上させることができる。
【0049】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0050】
上記実施の形態では、第1モータ2及び第2モータ5からそれぞれ第1軸3及び第2軸6に動力が直接に入力される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1モータ2又は第2モータ5の一方または両方をエンジンに置き換えることや、モータやエンジン等の駆動源からギヤを介して第1軸3及び第2軸6に動力が間接に入力されるようにすることは当然可能である。
【0051】
また、上記実施の形態では、第1軸3及び第2軸6、第3軸21及び第4軸24がそれぞれ同軸に配置される場合について説明したが、各軸を同軸に配置することは必ずしも必要ではない。動力伝達装置1の用途や第1モータ2及び第2モータ5の配置に応じて、第1軸3の軸線と異なる軸線上に第2軸6を配置したり、第3軸21の軸線と異なる軸線上に第4軸24を配置したりすることは当然可能である。
【0052】
上記実施の形態では、動力伝達装置1の出力が差動装置50に入力される場合について説明したが、差動装置50を差動制限デフ装置(所謂LSD)に置き換えることや、差動装置50を省略することは当然可能である。
【0053】
上記実施の形態では、変速装置として用いる動力伝達装置1について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、駆動源や変速装置から出力される動力を分配するトランスファとして動力伝達装置1を用いることは当然可能である。
【0054】
上記実施の形態では説明を省略したが、第2クラッチ30を省略することは可能である。この場合には、第1駆動ギヤ4及び第2駆動ギヤ7にそれぞれ噛合する第1被動ギヤ72及び第2被動ギヤ73が、それぞれ第3軸21及び第4軸24に固設される。第1クラッチ10を切り換えることにより、第3軸21及び第4軸24にそれぞれ設けられたギヤ段の切り換えを行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 動力伝達装置
2 第1モータ(駆動源)
3 第1軸
4 第1駆動ギヤ
5 第2モータ(駆動源)
6 第2軸
7 第2駆動ギヤ
10 第1クラッチ
21 第3軸
22,72 第1被動ギヤ
24 第4軸
25,73 第2被動ギヤ
30 第2クラッチ
32 第3スリーブ(移動部材)
33 噛合部
36 被噛合部
41 第1出力軸(出力軸)
43 第2出力軸(出力軸)
図1
図2
図3
図4
図5