特許第6193207号(P6193207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193207
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】セラミック部材および切削工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/10 20060101AFI20170828BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20170828BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20170828BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20170828BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C04B35/10
   B23B27/14 B
   B23B27/14 A
   C04B35/56 260
   C04B41/87 N
   C23C14/06 P
   C23C14/08 A
   C23C16/30
   C23C16/34
   C23C16/40
   C23C14/06 H
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-252720(P2014-252720)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2016-113320(P2016-113320A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝 祐介
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】光岡 健
(72)【発明者】
【氏名】黒木 義博
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−340481(JP,A)
【文献】 特開2002−192405(JP,A)
【文献】 特許第5654714(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/10
B23B 27/14
C04B 35/56
C04B 41/87
C23C 14/06
C23C 14/08
C23C 16/30
C23C 16/34
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ(Al)と、
炭化タングステン(WC)と、
周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物と、を含有するセラミック部材であって、
基部と、該基部の表面に形成された単一の層または複数の層から成る被覆層と、を備え、
前記基部は、複数のアルミナ(Al結晶粒子と、複数の炭化タングステン(WC)結晶粒子と、前記添加化合物から成る複数の添加化合物結晶粒子と、を備えるセラミック組成物によって構成されており、
前記基部において、アルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子とが隣接する界面である第1の結晶粒界と、2つのアルミナ(Al)結晶粒子が隣接する界面である第2の結晶粒界と、の少なくとも一方に、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つが分布することを特徴とする
セラミック部材。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック部材であって、
前記被覆層は、窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする
セラミック部材。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック部材であって、
前記複合窒化物は、チタン(Ti)と共に、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、および、周期表の4〜6族の遷移金属から選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする
セラミック部材。
【請求項4】
請求項2または3に記載のセラミック部材であって、
前記被覆層は、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)、および、酸化アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの化合物から成る層を備えることを特徴とする
セラミック部材。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載のセラミック部材であって、
前記被覆層の厚みは0.05μm以上であることを特徴とする
セラミック部材。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載のセラミック部材であって、
前記基部において、
炭化タングステン(WC)が20.0体積%以上95.0体積%以下を占め、
前記添加化合物が0.1体積%以上18.0体積%以下を占め、
アルミナ(Al)が残部を占めることを特徴とする
セラミック部材。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれか1項に記載のセラミック部材であって、
前記添加化合物は、少なくとも酸化ジルコニウムを含むことを特徴とする
セラミック部材。
【請求項8】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載のセラミック部材から成る切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック部材および切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(Al)から主に成るセラミック組成物によって構成される部材は、比較的に優れた機械特性、耐反応性および耐熱性を有することから、工具、構造部材および構造部品などに利用される。アルミナ−炭化タングステン系セラミック組成物は、アルミナに炭化タングステン(WC)を添加したセラミック組成物であり、このようなセラミック組成物によって構成される部材は、さらに優れた機械特性および耐熱性を有する。そのため、アルミナ−炭化タングステン系セラミック組成物から成る部材は、切削工具および金型などにも利用される(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
アルミナ−炭化タングステン−ジルコニア系セラミック組成物は、アルミナおよび炭化タングステンにジルコニア(ZrO)をさらに添加したセラミック組成物であり、いっそう優れた機械特性を有する。そのため、アルミナ−炭化タングステン−ジルコニア系セラミック組成物から成る部材は、いっそう高い耐衝撃性および耐熱性などが要求される耐熱合金用の切削工具にも利用可能である(例えば、特許文献3を参照)。
【0004】
耐熱合金用の切削工具には、ウィスカ系セラミック組成物が多く利用されている。ウィスカ系セラミック組成物は、アルミナに炭化ケイ素ウィスカを添加したセラミック組成物である。ウィスカ系セラミック組成物には、原料となる炭化ケイ素ウィスカが比較的に高価であるという問題や、針状結晶を成す炭化ケイ素ウィスカは取り扱いに注意を要するという問題がある。アルミナ−炭化タングステン−ジルコニア系セラミック組成物から成る部材は、ウィスカ系セラミック組成物から成る部材と同等の機械特性および耐久性を実現可能であるとともに、ウィスカ系セラミック組成物から成る部材よりもコストおよび原料の取扱いの容易性の面などで優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−279121号公報
【特許文献2】特開平6−009264号公報
【特許文献3】特開平9−221352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミナおよび炭化タングステンを含有する上記したセラミック組成物から成る部材では、アルミナと炭化タングステンとの間の熱膨張率の差に起因してアルミナ結晶粒子に発生する引張残留応力によって、アルミナ結晶粒子間の結合力が低下するという課題があった。アルミナ結晶粒子間の結合力の低下は、セラミック部材に発生する亀裂の進展を助長するため、セラミック部材の機械特性を低下させ、結果的に、セラミック部材の耐久性を低下させる。また、炭化タングステンは、硬度や耐熱性に優れるものの、比較的酸化されやすい性質を有している。そのため、アルミナおよび炭化タングステンを含有する上記したセラミック組成物から成る部材を、例えば焼入れ鋼用の切削工具として用いる場合には、セラミック組成物の酸化に起因して切削工具の摩耗量が大きくなり、耐久性が不十分になる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態は、アルミナ(Al)と;炭化タングステン(WC)と;周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物と、を含有するセラミック部材であって;基部と、該基部の表面に形成された単一の層または複数の層から成る被覆層と、を備え;前記基部は、複数のアルミナ(Al)結晶粒子と、複数の炭化タングステン(WC)結晶粒子と、前記添加化合物から成る複数の添加化合物結晶粒子と、を備えるセラミック組成物によって構成されており;前記基部において、アルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子とが隣接する界面である第1の結晶粒界と、2つのアルミナ(Al)結晶粒子が隣接する界面である第2の結晶粒界と、の少なくとも一方に、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つが分布する。
このような形態であれば、基部において、第1の結晶粒界および第2の結晶粒界に分布する元素によって、各結晶粒界における結晶粒子間の結合力を向上させることができる。したがって、セラミック部材全体の機械特性を向上させ、結果的に、その耐久性を向上させることができる。また、基部上にさらに被覆層を備えることにより、セラミック部材の耐酸化性および硬度を向上させることができ、セラミック部材の耐摩耗性や耐久性を向上させることができる。
その他、本発明は、以下のような形態として実現することも可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、アルミナ(Al)と、炭化タングステン(WC)と、 周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物と、を含有するセラミック部材が提供される。このセラミック部材は、基部と、該基部の表面に形成された単一の層または複数の層から成る被覆層と、を備える。前記基部は、アルミナ(Al)と、炭化タングステン(WC)と、前記添加化合物と、から成るセラミック組成物によって構成されている。前記基部において、アルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子とが隣接する界面である第1の結晶粒界と、2つのアルミナ(Al)結晶粒子が隣接する界面である第2の結晶粒界と、の少なくとも一方に、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つが分布する。
【0009】
この形態のセラミック部材によれば、基部において、第1の結晶粒界および第2の結晶粒界に分布する元素によって、各結晶粒界における結晶粒子間の結合力を向上させることができる。したがって、セラミック部材全体の機械特性を向上させ、結果的に、その耐久性を向上させることができる。また、基部上にさらに被覆層を備えることにより、セラミック部材の耐酸化性および硬度を向上させることができ、セラミック部材の耐摩耗性や耐久性を向上させることができる。
【0010】
(2)上記形態のセラミック部材において、前記被覆層は、窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物を含むこととしてもよい。
この形態のセラミック部材によれば、セラミック部材の耐酸化性および硬度を向上させて、セラミック部材の耐摩耗性や耐久性を向上させる効果を高めることができる。
【0011】
(3)上記形態のセラミック部材において、前記複合窒化物は、チタン(Ti)と共に、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、および、周期表の4〜6族の遷移金属から選択される少なくとも1つの元素を含むこととしてもよい。
この形態のセラミック部材によれば、セラミック部材の耐酸化性および硬度を向上させて、セラミック部材の耐摩耗性や耐久性を向上させる効果を高めることができる。
【0012】
(4)上記形態のセラミック部材において、前記被覆層は、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)、および、酸化アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの化合物から成る層を備えることとしてもよい。
この形態のセラミック部材によれば、基部の酸化を抑制して、セラミック部材の耐酸化性を向上させる効果を高めることができる。
【0013】
(5)上記形態のセラミック部材において、前記被覆層の厚みは0.05μm以上であることとしてもよい。
この形態のセラミック部材によれば、被覆層に覆われる基部の酸化を抑える効果、およびセラミック部材の硬度を向上させる効果を、高めることができる。
【0014】
(6)上記形態のセラミック部材において、炭化タングステン(WC)が20.0体積%以上95.0体積%以下を占め、前記添加化合物が0.1体積%以上18.0体積%以下を占め、アルミナ(Al)が残部を占めることとしてもよい。
この形態のセラミック部材によれば、セラミック部材の機械特性および耐熱性をさらに向上させ、結果的に、セラミック部材の耐久性をさらに向上させることができる。
【0015】
本発明は、セラミック部材以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、上述のセラミック部材から成る切削工具、上述のセラミック部材から成る金型、上述のセラミック部材を製造する製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態としてのセラミック部材100の概略構成を表わす説明図である。
図2】セラミック組成物における典型的な構造を示す説明図である。
図3】セラミック組成物における典型的な結晶粒界を示す説明図である。
図4】セラミック部材の製造方法を示す工程図である。
図5】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
図6】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
図7】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
図8】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
図9】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
図10】各セラミック部材の組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.セラミック部材の構成
図1は、本発明の一実施形態としてのセラミック部材100の概略構成を表わす説明図である。図1(A)は、セラミック部材100の外観を表わす斜視図であり、図1(B)は、図1(A)に示すB−B断面の様子を表わす断面図である。
【0018】
本発明の一実施形態としてのセラミック部材100は、アルミナ(Al)と、炭化タングステン(WC)と、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物と、を含有するセラミック部材である。本発明の一実施形態としてのセラミック部材100は、基部110と、基部110上に形成された被覆層120と、を備える。基部110は、アルミナ(Al)と、炭化タングステン(WC)と、添加化合物と、から成る。セラミック部材100は、基部110において、アルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子とが隣接する界面である第1の結晶粒界と、2つのアルミナ(Al)結晶粒子が隣接する界面である第2の結晶粒界と、の少なくとも一方に、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つの元素(以下、添加元素とも呼ぶ)が分布する。
【0019】
図2は、セラミック部材100の基部110における典型的な構造を示す説明図である。図2の(A)欄に示す画像は、セラミック部材100を製造するための基部110の表面の様子の一例を示すものであり、鏡面研磨を施した後にサーマルエッチングを施した基部110における任意の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で観察した画像である。図2の(B)欄に示す画像は、図2の(A)欄に示す画像における結晶粒子を模式的に表現した画像である。図2の(A)欄および(B)欄にそれぞれ示す画像の1辺は、実際に用いた基部における10μm(マイクロメートル)の長さに対応する。なお、このような基部110の構造は、基部110上に被覆層120を形成しても、ほとんど変化しない。すなわち、基部110上に被覆層120を形成した後に、形成した被覆層120を除去して基部110を観察しても、図2と同様の構造が観察される(データ示さず)。
【0020】
セラミック部材100が備える基部110は、多結晶体であり、複数のアルミナ結晶粒子10と、複数の炭化タングステン結晶粒子20と、複数の添加化合物結晶粒子30とを備える。アルミナ結晶粒子10は、アルミナ(Al)から成る結晶粒子である。炭化タングステン結晶粒子20は、炭化タングステン(WC)から成る結晶粒子である。添加化合物結晶粒子30は、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択されるいずれかの化合物から成る結晶粒子である。なお、図2および後述する図3では、一例として、添加化合物としてジルコニア(ZrO)を用いた基部110の様子を示している。
【0021】
複数の炭化タングステン結晶粒子20は、他の炭化タングステン結晶粒子20に隣接することなくアルミナ結晶粒子10およびジルコニア結晶粒子30の少なくとも一方の結晶粒子によって包囲された炭化タングステン結晶粒子20(A)と、他の炭化タングステン結晶粒子20に隣接する炭化タングステン結晶粒子20(B)とを含む。本実施形態の説明では、炭化タングステン結晶粒子を示す符合として、周囲の結晶粒子との関係を特定しない場合には符合「20」を使用し、周囲の結晶粒子との関係を特定する場合には符合「20(A)」および符合「20(B)」を使用する。炭化タングステン結晶粒子20(A)は、他の炭化タングステン結晶粒子20に隣接していない結晶粒子であり、炭化タングステン結晶粒子20(B)は、1つ以上の他の炭化タングステン結晶粒子20に隣接する結晶粒子である。
【0022】
図3は、セラミック部材100の基部110における典型的な結晶粒界を示す説明図である。図3の(A)欄の紙面左側に示す画像は、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20とが隣接する任意の界面である第1の結晶粒界40を走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、STEM)で観察した画像である。図3の(A)欄の紙面右側に示す画像は、第1の結晶粒界40の周辺における添加元素(ここではジルコニウム(Zr)元素)の濃度をエネルギ分散形X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer、EDS)で測定したグラフである。
【0023】
図3の(A)欄におけるグラフの横軸は、第1の結晶粒界40を横切る直線上の位置として、アルミナ結晶粒子10における位置A1から、第1の結晶粒界40上の位置A2を経て、炭化タングステン結晶粒子20における位置A3までの各位置を示す。位置A1から位置A3までの距離は、約50nm(ナノメートル)である。図3の(A)欄におけるグラフの縦軸は、ジルコニウム元素の濃度を示す。一実施形態としてのセラミック部材では、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20とが隣接する第1の結晶粒界40に、添加元素(ジルコニウム(Zr))が分布する。
【0024】
図3の(B)欄の紙面左側に示す画像は、2つのアルミナ結晶粒子10が隣接する任意の界面である第2の結晶粒界50をSTEMで観察した画像である。図3の(B)欄の紙面右側に示す画像は、第2の結晶粒界50の周辺におけるジルコニウム元素の濃度をEDSで測定したグラフである。図3の(B)欄におけるグラフの横軸は、第2の結晶粒界50を横切る直線上の位置として、一方のアルミナ結晶粒子10における位置A4から、第2の結晶粒界50上の位置A5を経て、他方のアルミナ結晶粒子10における位置A6までの各位置を示す。位置A4から位置A6までの距離は、約50nmである。図3の(B)欄におけるグラフの縦軸は、ジルコニウム元素の濃度を示す。一実施形態としての典型的なセラミック部材では、基部において、2つのアルミナ結晶粒子10が隣接する第2の結晶粒界50に、添加元素(ジルコニウム(Zr))が分布する。
【0025】
セラミック部材100は、基部110において、第1の結晶粒界40と、第2の結晶粒界50と、の少なくとも一方に添加元素(ジルコニウム(Zr))が分布することによって、各結晶粒界における結晶粒子間の結合力を向上させることができる。これにより、アルミナ−炭化タングステン系セラミック組成物(例えば、アルミナ−炭化タングステン−ジルコニア系セラミック組成物)から成る基部110の機械特性を向上させ、結果的に、セラミック部材の耐久性を向上させることができる。添加元素、すなわち、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つの元素は、いずれも、焼成時に液相になって偏析し難い遷移金属であるため、上記のように結晶粒子間の結合力を効果的に高めることができると考えられる。
【0026】
周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物としては、種々の化合物を用いることができる。周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、およびランタノイドから選択される少なくとも1つの元素である添加元素を含有していればよい。また、セラミック部材を構成する他の成分との間で望ましくない化合物を生じる反応性が十分に低く、既述したように結晶粒子間の結合力を高めることができればよい。添加化合物としては、例えば、上記した添加元素の酸化物や炭化物を用いることができる。例えば、添加元素としてジルコニウム(Zr)を採用する場合には、添加化合物としては、イットリア安定化ジルコニアやスカンジア安定化ジルコニアなどの安定化ジルコニアを用いることができる。
【0027】
セラミック部材100の基部110では、炭化タングステン(WC)が20.0体積%以上95.0体積%以下を占め、添加化合物が0.1体積%以上18.0体積%以下を占め、アルミナ(Al)が残部を占めることが好ましい。これによって、セラミック部材100の機械特性および耐熱性を向上させ、結果的に、セラミック部材100の耐久性をさらに向上させることができる。一実施形態としてのセラミック部材100では、曲げ強度(日本工業規格JIS R 1601に準拠した外部支点間距離(スパン)30mmの条件による3点曲げ強さ)が1100MPaより高いことが好ましい。また、セラミック部材100の基部110において、添加化合物の含有割合を0.1体積%以上とすることは、第1の結晶粒界40と第2の結晶粒界50との少なくとも一方において、添加元素を分布させることが容易となるため、特に好ましい。
【0028】
セラミック部材100の基部110を構成する各成分の割合を、所望の体積%にするには、基部110を作製するために用いる原料の混合割合を、上記所望の体積%にすればよい。例えば、後述するように原料粉末を混合した後に焼成して基部110を作製する場合には、各原料粉末の混合割合が所望の体積%となるように各原料粉末を混合すればよい。各原料粉末の体積%は、混合に用いる各原料粉末の質量と、各原料の比重とに基づいて求めることができる。各原料は、製造の工程において互いにほとんど反応しないため、混合に用いる各原料の体積%を調節することによって、基部110における各成分の体積%を所望の値にすることができる。
【0029】
なお、製造されたセラミック部材100の基部110における各成分の割合(体積%)は、以下のようにして求めることができる。
手順1.セラミック部材100の基部110の表面を露出させて、露出させた面に対して鏡面研磨を施した後にエッチングを施し、SEMで観察する。その表面を1万倍に拡大して撮影した画像から任意の10μm四方の領域を5箇所ずつ選択する。
手順2.選択された領域においてアルミナ結晶粒子10が占める面積A、炭化タングステン結晶粒子20が占める面積B、および添加化合物結晶粒子30が占める面積Cを、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinRoof」)を用いて算出する。
手順3.算出した値に基づいて、A/(A+B+C)、B/(A+B+C)、C/(A+B+C)を算出する。
【0030】
基部110における各成分の割合(体積%)を求める際には、基部110について種々の異なる角度で表面を露出させて上記した値を算出し、各々の値について平均値を求めればよい。これにより、基部110におけるアルミナの含有割合(体積%)としてのA/(A+B+C)、炭化タングステンの含有割合(体積%)としてのB/(A+B+C)、添加化合物の含有割合(体積%)としてのC/(A+B+C)を求めることができる。
【0031】
なお、セラミック部材100の基部110は、既述したように、アルミナ(Al)、炭化タングステン(WC)、および添加化合物から成る。このことは、アルミナ、炭化タングステン、および添加化合物の他に、不可避不純物を含有し得ることを意味する。「不可避不純物」とは、製造工程において不可避的に混入する物質であり、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうち少なくとも1つを挙げることができる。不可避不純物が混入する量は、炭化タングステンに固溶して曲げ強度、硬度、熱伝導率を低下させない程度の量(例えば、0.1質量%以下)であればよい。
【0032】
一実施形態としてのセラミック部材100においては、上記した基部110の表面に被覆層120を設けることにより、セラミック部材100の耐酸化性および硬度を向上させることができ、セラミック部材100の耐摩耗性や耐久性を向上させることができる。被覆層120は、窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物を含むことができる。ここで、チタン(Ti)を含む複合炭窒化物は、チタン(Ti)と共に、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、および、周期表の4〜6族の遷移金属から選択される少なくとも1つの元素を含むことができる。このような構成とすることで、セラミック部材100の耐酸化性および硬度を向上させて、セラミック部材100の耐摩耗性や耐久性を向上させる効果を高めることができる。
【0033】
なお、セラミック部材100の被覆層120は、セラミック部材における耐酸化性や耐久性の低下が許容範囲であれば、「窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物」以外の成分を含有していてもよい。ただし、被覆層120は、「窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物」から成ることが好ましい。すなわち、被覆層120は、「窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物」を主成分とすることが好ましい。このことは、「窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物」の他に、不可避不純物を含有し得ることを意味する。「不可避不純物」とは、製造工程において不可避的に混入する物質であり、例えば、窒素(N)、酸素(O)、および炭素(C)を挙げることができる。例えば、炭化チタン(TiC)によって被覆層120を構成する場合には、不可避不純物として窒素(N)や酸素(O)が不可避不純物として含まれ得る。
【0034】
セラミック部材100において、被覆層120は、単一の層であってもよく、複数の層から成ってもよい。すなわち、被覆層120は、構成成分が均一である単層によって構成されていてもよく、組成(構成成分や含有割合)の異なる複数の層を積層することにより構成されていてもよい。いずれの場合であっても、被覆層120を構成する各層は、既述した化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含むことが望ましい。
【0035】
一実施形態としてのセラミック部材100において、被覆層120は、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)、および、酸化アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの化合物から成る層を備える構成も好適である。すなわち、被覆層120を構成する単層、あるいは複数の層のうちの少なくとも1層を、上記した化合物から成る層とする構成も好適である。上記した化合物から成る層とは、「窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)、および、酸化アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの化合物」の他に、不可避不純物を含有し得ることを意味する。窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、および窒化チタンアルミ(TiAlN)は、炭化タングステン(WC)よりも、酸化開始温度が高い化合物である。また、酸化アルミニウム(Al)は、既に酸化された化合物であるため、酸化環境下で極めて安定な物質である。したがって、被覆層120が、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)、および、酸化アルミニウム(Al)から選択される少なくとも1つの化合物から成る層を備えることにより、基部110の酸化を抑制して、セラミック部材100の耐酸化性を向上させる効果をより高めることができる。
【0036】
セラミック部材100において、被覆層120の厚さは、0.02μm以上とすることができ、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。被覆層120を厚くするほど、被覆層120に覆われる基部110の酸化を抑える効果およびセラミック部材100の硬度を向上させる効果を高めることができる。また、被覆層120の厚さは、30.0μm以下とすることができ、15.0μm以下が好ましく、10.0μm以下がさらに好ましい。被覆層120が厚すぎる場合には、被覆層120と基部110との密着性が低下し易くなり、セラミック部材100の耐摩耗性が低下する等の不都合を生じ易くなるため、被覆層120の厚さは上記範囲とすることが望ましい。
【0037】
なお、セラミック部材100において、被覆層120は、基部110の表面全体を被覆していなくてもよい。セラミック部材100の耐久性を高めるために、セラミック部材100において、特に高温になる、あるいは強い力が加わる等により、耐酸化性や硬度を高める必要性の高い領域に被覆層120が設けられていればよい。例えば、セラミック部材100を切削工具として用いる場合には、被削材に接して切削に直接関わる部位、および、その周辺の比較的高温になる部位において、被覆層120を設ければよい。
【0038】
B.セラミック部材の製造方法
図4は、セラミック部材の製造方法を示す工程図である。図4の製造方法は、上述した一実施形態としてのセラミック部材100を製造するための製造方法である。セラミック部材100を製造する際には、まず、製造者は、セラミック部材100の原料であるアルミナと、炭化タングステンと、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物である添加化合物と、を用意する(ステップS100)。
【0039】
本実施形態では、ステップS100において、上記した各原料を粉末の状態で用意している。各原料粉末の平均粒径は、例えば、0.1μm以上とすることができ、0.2μm以上とすることが好ましく、0.3μm以上とすることがさらに好ましい。原料粉末の平均粒径が大きいほど、製造時の取扱いが容易になる。また、各原料粉末の平均粒径は、例えば、2.0μm以下とすることができ、1.5μm以下とすることが好ましく、1.0μm以下とすることがさらに好ましい。原料粉末の平均粒径が小さいほど、原料粉末を均一に混合することが容易になり、また、焼成時における粒成長が過度になってセラミック部材の強度や靱性が低下することを抑制できる。なお、本実施形態の説明における粉末の平均粒径は、いずれもレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0040】
ステップS100で各原料を用意した後、製造者は、用意した原料を秤量し、所定の割合で混合する.その際、溶媒を加えて混合・粉砕を行ない、スラリを作製する(ステップS110)。混合・粉砕の動作は、例えばボールミルを用いて行なうことができる。溶媒は、各原料との反応性が十分に低ければよく、例えばエタノールやアセトンを用いることができる。ステップS110で原料を混合・粉砕する際には、原料の一部について、予備粉砕を行なってもよい。例えば、予備粉砕において、アルミナ粉末と添加化合物粉末とを溶媒とともに混合して、各粉末の粒子を予め粉砕してもよい。この場合には、予備粉砕の後に、炭化タングステン粉末と溶媒とを加えて、さらに混合および粉砕を行なえばよい。ステップS110の工程は、各原料粉末が十分に粉砕されて混合されればよく、例えば、5時間以上とすることができ、10時間以上が好ましく、15時間以上がより好ましい。また、生産性を考慮すると、80時間以下とすることができ、70時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましい。
【0041】
ステップS110における混合・粉砕の工程では、予備粉砕を行なうか否かにかかわらず、溶媒と共にさらに分散剤を加えてもよい。分散剤としては、例えば、フローレンG−700(共栄社化学株式会社製)、SNディスパーサント9228(サンノプコ株式会社製)、マリアリムAKM−0531(日油株式会社製)、カオーセラ8000(花王株式会社製)などを用いることができる。分散剤の投入量は、例えば、全ての原料粉末の質量に対して1.5質量%以上3.5質量%以下とすることができる。
【0042】
ステップS110でスラリを作製した後、製造者は、スラリを乾燥させて混合粉末を作製する(ステップS120)。スラリから得られる混合粉末には、アルミナ、炭化タングステンおよび添加化合物の各粒子が混在する。スラリから混合粉末を得る方法としては、例えば、スラリを湯煎しつつ乾燥させることによりスラリ中から溶媒を除去して粉体を得て、得られた粉体を篩に通す方法を挙げることができる。
【0043】
ステップS120で混合粉末を作製した後、製造者は、混合粉末を成形すると共に焼成して、焼結体(基部110)を作製する(ステップS130)。混合粉末を成形すると共に焼成する工程は,例えば、カーボン製の型に混合粉末を充填し、その混合粉末を一軸加圧しながら加熱するホットプレスの工程として行なうことができる。焼成温度、焼成時間、焼成時に加える圧力等の条件は、用いる原料の種類等に応じて適宜設定すればよい。焼成温度は、例えば、1300〜1900℃とすることができる。焼成時間は、例えば0.5〜10時間とすることができる。焼成時に加える圧力は、例えば20〜50MPaとすることができる。ただし、十分に緻密な焼結体が得られるならば、加圧を行なわないこととしてもよい。焼成時の雰囲気は、例えば、原料との反応性が低い不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガス雰囲気とすることができる。
【0044】
ステップS130で焼結体を作製した後、製造者は、焼結体の表面に被覆層120を形成する(ステップS140)。これにより、セラミック部材100が完成する。被覆層120の形成方法としては、例えば、PVD法(物理気相蒸着法)あるいはCVD法(化学気相蒸着法)等の気相法や、溶射を採用することができる。被覆層120の形成に先立って、製造者は、切削、研削および研磨の少なくとも1つの加工法によって、焼結体の形状や表面を仕上げてもよい。また、セラミック部材を切削工具として用いる場合など、ステップS130により得られる焼結体と、最終的に作製すべきセラミック部材との形状が異なる場合には、被覆層120の形成に先立って、上記した加工法によって、焼結体を所望の形状に成形すればよい。
【実施例】
【0045】
サンプルとして、基部110における添加化合物の種類、原料粉末として用いた添加化合物粉末の粒径、および基部110を構成する各成分の体積%と、被覆層120の組成および膜厚と、が異なる種々のセラミック部材を作製した。そして、作製したセラミック部材を切削工具として用いたときの性能、および、基部110の性質を評価した。評価方法および結果を、以下に説明する。
【0046】
図5図10は、各サンプルの組成、製造条件、および評価結果等をまとめて示す説明図である。試験者は、各サンプルについて、結晶粒界における添加元素の有無と、耐久性と、機械特性と、熱特性とを調べた。各サンプルの耐久性は、各サンプルのセラミック部材を切削工具として用いて、切削試験を行なうことにより判定した。各サンプルの機械特性としては、曲げ強度、破壊靱性、および硬度を測定した。各サンプルの熱特性としては、熱膨張係数および熱伝導率を測定した。具体的な評価方法および測定方法は以下の通りである。
【0047】
<結晶粒界における添加元素の有無の判定>
集束イオンビーム装置(FIB装置、Focused Ion Beam system)を用いて各サンプルの任意の部分から100nm四方の薄片を切り出し、その薄片における任意の表面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、第1の結晶粒界40および第2の結晶粒界50を確認した。その後、図2を用いて説明したように、各サンプルにおける第1の結晶粒界40および第2の結晶粒界50の各結晶粒界からそれぞれ5箇所ずつ添加元素の濃度をEDSで測定することによって、結晶粒界における添加元素の有無を確認した。図5〜10では、第1の結晶粒界40(アルミナ−WC結晶粒界)および第2の結晶粒界50(アルミナ−アルミナ結晶粒界)の各々について、添加元素が存在する場合には「○」で示し、添加元素が存在しない場合には「×」で示した。
【0048】
<切削試験>
各サンプルとして切削工具を作製し、その切削工具を用いて切削試験を行ない、切削工具に欠損が発生するまでの加工距離(切削距離)を測定して、耐久性として評価した。各サンプルから作製される切削工具の形状は、日本工業規格JIS B 4120に準拠した呼び記号「CNGA/N120408−TNBE」によって特定される形状である。切削試験で切削される被削材としては、焼入れ鋼(SCM415/HRC63)を用いた。
【0049】
切削試験の条件は、以下の通りである。
切削速度:200m/分、
切り込み量:0.2mm、
送り量:0.20mm/回転、
冷却水:無し。
【0050】
加工距離の評価基準は、以下の通りである。
「◎(優)」:加工距離が1.6km以上、
「○(良)」:加工距離が1.1km以上、1.6km未満、
「△(可)」:加工距離が0.7km以上、1.1km未満、
「×(劣)」:加工距離が0.7km未満。
【0051】
<曲げ強度>
全長40mm、幅4mm、厚さ3mmの試験片を用いて曲げ強度を測定した。試験者は、日本工業規格JIS R 1601に準拠して、外部支点間距離(スパン)30mmの条件で各サンプルの3点曲げ強さを求めた。
【0052】
<破壊靭性>
全長20mm、幅4mm、厚さ3mmの試験片を用いて破壊靱性を測定した。試験者は、日本工業規格JIS R 1607に規定されているIF(Indentation Fracture)法に準拠して、各サンプルの破壊靱性値を求めた。
【0053】
<硬度>
全長20mm、幅4mm、厚さ3mmの試験片を用いて硬度を測定した。試験者は、日本工業規格JIS R 1610に準拠して各サンプルのビッカース硬さを求めた。
【0054】
<熱膨張係数>
全長12mm、幅4mm、厚さ4mmの試験片を用いて熱膨張係数を測定した。試験者は、日本工業規格JIS R 1618に準拠して600℃における各サンプルの熱膨張係数を求めた。
【0055】
<熱伝導率>
φ10mm、厚さ2mmの試験片を用いて熱伝導率を測定した。試験者は、日本工業規格JIS R 1611に準拠して室温における各サンプルの熱伝導率を求めた。
【0056】
[サンプル1〜11(被覆層の有無および種類の評価)]
サンプル1は、55.0体積%のアルミナ粉末と、40.0体積%の炭化タングステン粉末と、5.0体積%のジルコニア粉末とを原料とする基部110と、窒化チタン(TiN)によって構成される被覆層120とを備え、図4の製造方法によって作製されたセラミック部材である。ステップS100では、原料粉末として、平均粒径が0.4μmのアルミナ粉末と平均粒径が0.5μmの炭化タングステン粉末と、平均粒径が約0.7μmのジルコニア粉末(安定化剤として3mol%のイットリア(Y)を含む安定化ジルコニア)と、を用いた。ステップS110では、所定量秤量した各原料粉末を、溶媒(エタノール)と共に樹脂製のミルに投入し、アルミナ球石を用いて混合・粉砕を行なって、スラリを得た。より具体的には、上記アルミナ粉末およびジルコニア粉末に溶媒を加えて20時間予備粉砕し、その後、炭化タングステン粉末と分散剤と溶媒とを加えてさらに20時間混合・粉砕した。分散剤の投入量は、原料粉末全体の重さに対して2重量%とした。ステップS120では、作製したスラリを湯煎乾燥し、篩通しすることで、混合粉末を得た。ステップS130では、焼成温度1750℃、焼成時間1〜2時間、圧力30MPa、アルゴン(Ar)雰囲気下にて焼成することで、焼結体(基部110)を得た。そして、得られた焼結体を用いて、既述した方法により結晶粒界における添加元素の有無を判定すると共に、作製した焼結体から既述した形状の試験片を作製して、各種の機械特性および熱特性を評価した。なお、結晶粒界における添加元素の有無の評価と、各種の機械特性および熱特性の評価とは、被覆層120を形成する前の焼結体を用いて行なったが、上記の性質は、被覆層120の形成の前後においてほとんど変化しない。
【0057】
また、サンプル1では、上記した焼結体に対して、膜厚1.0μmの窒化チタン(TiN)から成る被覆層120を形成し(ステップS140)、切削工具としてのセラミック部材を作製した。得られた切削工具を用いて既述した切削試験を行ない、加工距離を測定した。なお、サンプル1の他、後述する他のサンプルも、被覆層120はPVD法により形成した。
【0058】
サンプル2のセラミック部材は、ステップS140における被覆層120の形成を行なわなかった点以外は、サンプル1と同様にして作製し、サンプル1と同様の評価を行なった。そのため、サンプル2に関する切削試験は、被覆層120を有していない焼結体から成る切削工具を用いて行なった。
【0059】
サンプル3〜10のセラミック部材は、ステップS140で形成する被覆層120の種類が異なる点以外は、サンプル1と同様にして作製し、サンプル1と同様の評価を行なった。サンプル3では、炭窒化チタン(TiCN)から成る膜厚3.0μmの被覆層120を形成した。サンプル4では、窒化チタンアルミ(TiAlN)から成る膜厚1.0μmの被覆層120を形成した。サンプル5では、異なる種類の3層から成る被覆層120を形成した。具体的には、セラミック部材の表面側から膜厚0.5μmの窒化チタン(TiN)の層、膜厚1.0μmの炭窒化チタン(TiCN)の層、膜厚3.5μmの窒化チタンアルミ(TiAlN)の層、の順で形成した3層から成る被覆層120を形成した。サンプル6では、チタンと共にアルミニウムおよびクロムを含有する複合窒化物(TiAlCrN)から成る膜厚1.0μmの被覆層120を形成した。サンプル7では、チタンと共にアルミニウムおよびケイ素を含有する複合窒化物(TiAlSiN)から成る膜厚1.0μmの被覆層120を形成した。サンプル8では、チタンと共にアルミニウムおよびニオブを含有する複合窒化物(TiAlNbN)から成る膜厚1.0μmの被覆層120を形成した。サンプル9では、異なる種類の3層から成る被覆層120を形成した。具体的には、セラミック部材の表面側から膜厚1.0μmの酸化アルミニウム(Al)の層、膜厚0.5μmの酸窒化アルミニウム(AlON)の層、膜厚5.0μmの炭化チタン(TiC)の層、の順で形成した3層から成る被覆層120を形成した。サンプル10では、窒化クロム(CrN)から成る膜厚1.0mmの被覆層120を形成した。
【0060】
サンプル11のセラミック部材は、サンプル1と同様の被覆層120を有しているが、基部110は、市販の超硬合金によって構成した。すなわち、サンプル11は、基部110として、コバルトを添加した炭化タングステン合金(日本特殊陶業社製、KM3)から成る部材を用い、このような基部110上に、窒化チタンアルミ(TiAlN)から成る膜厚1.0μmの被覆層120を形成した。サンプル11については、被覆層120の形成後に切削試験のみを行なっており、基部110の評価は行なっていない。
【0061】
図5において、サンプル1およびサンプル3〜10とサンプル2とを比較して分かるように、被覆層120を設けることにより、セラミック部材を切削工具として用いるときの耐久性が大きく向上することが確認された。また、図5においてサンプル1およびサンプル3〜10とサンプル11とを比較して分かるように、単に超硬合金から成る基部110上に被覆層120を設ければよいのではなく、基部110として、添加化合物を含有するアルミナ−炭化タングステン系部材を用いることで、被覆層120を設けることによりセラミック部材の耐久性を大きく向上できる効果を顕著に得られることが確認された。なお、図5に示すように、サンプル1〜10のセラミック部材はいずれも、基部110において、第1の結晶粒界40(アルミナ−WC結晶粒界)と第2の結晶粒界50(アルミナ−アルミナ結晶粒界)の双方に、添加元素(ジルコニウム)が存在していた。また、図5においてサンプル1およびサンプル3〜9とサンプル10とを比較して分かるように、被覆層120が、窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)を含む複合窒化物、炭化チタン、酸化アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)の酸窒化物、および、チタン(Ti)の炭窒化物から選択される少なくとも1つの化合物を含む場合には、被覆層120を設けることによりセラミック部材の耐久性が向上させる効果を高めることができることが確認された。
【0062】
[サンプル12〜18(被覆層の膜厚の評価)]
サンプル12〜18のセラミック部材は、ステップS140で形成する被覆層120の膜厚が異なる点以外は、サンプル1と同様にして作製し、サンプル1と同様の評価を行なった。サンプル12〜18の被覆層120の膜厚は、それぞれ、0.02μm、0.05μm、0.1μm、3.0μm、5.0μm、10.0μm、15.0μmとした。
【0063】
図5において、サンプル1、サンプル2、およびサンプル12〜18を比較して分かるように、被覆層120を設けることにより、セラミック部材を切削工具として用いるときの耐久性が大きく向上することが確認された。また、図5においてサンプル1およびサンプル12〜18を比較して分かるように、セラミック部材を切削工具として用いるときの耐久性向上の観点から、被覆層120の膜厚は、0.02μm以上とすればよく、0.05μm以上とすることが好ましく、0.1μm以上とすることがさらに好ましいことが確認された。また、被覆層120の膜厚は、15.0μm以下とすることが好ましく、10.0μm以下とすることがさらに好ましいことが確認された。なお、図5に示すように、サンプル12〜18のセラミック部材はいずれも、基部110において、第1の結晶粒界40(アルミナ−WC結晶粒界)と第2の結晶粒界50(アルミナ−アルミナ結晶粒界)の双方に、添加元素(ジルコニウム)が存在していた。
【0064】
[サンプル19〜21(結晶粒界の評価)]
サンプル19〜21のセラミック部材は、基部110の組成(構成成分および各成分の含有割合)および被覆層120の構成(組成および厚み)はサンプル1と同様であるが、基部110において、結晶粒界における添加元素の存在に関する態様が異なっている。具体的には、サンプル19の基部110では、第1の結晶粒界40(アルミナ−WC結晶粒界)には添加元素(ジルコニウム)が存在するが、第2の結晶粒界50(アルミナ−アルミナ結晶粒界)には添加元素が存在しない。サンプル20の基部110では、第1の結晶粒界40には添加元素が存在しないが、第2の結晶粒界50には添加元素が存在する。サンプル21の基部110では、第1の結晶粒界40と第2の結晶粒界50の双方において添加元素が存在しない。
【0065】
サンプル19〜21の基部110は、既述したように組成が共通しているが、製造工程において、ステップS100で用意する原料の粒径や、ステップS110の混合・粉砕工程が、サンプル1とは異なっている。具体的には、サンプル19は、ステップS110において、予備粉砕を行なうことなく、全ての原料粉末、分散剤、および溶媒を一度に混合して、混合・粉砕の工程を48時間行なった点が、サンプル1とは異なっている。サンプル20は、ステップS110において、サンプル1と同様に予備粉砕を行なったが、予備粉砕の時点で分散剤を混合した点が、サンプル1とは異なっている。サンプル21は、ステップS100において用意したジルコニア粉末の平均粒子径が、1.7μmである点が、サンプル1とは異なっている。さらに、サンプル21は、ステップS110において、予備粉砕を行なうことなく、全ての原料粉末、分散剤、および溶媒を一度に混合して、混合・粉砕の工程を48時間行なった点が、サンプル1とは異なっている。
【0066】
図5において、サンプル1、およびサンプル19〜21を比較して分かるように、基部110において、第1の結晶粒界40と第2の結晶粒界50との少なくとも一方に添加元素が存在することにより、セラミック部材の耐久性が向上することが確認された。また、基部110において、第1の結晶粒界40と第2の結晶粒界50のいずれか一方に添加元素が存在する場合よりも、第1の結晶粒界40と第2の結晶粒界50の双方に添加元素が存在する場合の方が、セラミック部材の耐久性が向上することが確認された。
【0067】
[サンプル22〜36(添加化合物の種類の評価)]
サンプル22〜36のセラミック部材は、基部110が含有する添加化合物の種類および含有割合と、アルミナの含有割合が異なる点以外は、サンプル1と同様にして作製し、サンプル1と同様の評価を行なった。サンプル22では、添加化合物として酸化イットリウム(Y)を用いた。サンプル23では、添加化合物として酸化ニオブ(Nb)を用いた。サンプル24では、添加化合物として酸化イッテルビウム(Yb)を用いた。サンプル25では、添加化合物として酸化クロム(Cr)を用いた。サンプル26では、添加化合物として酸化スカンジウム(Sc)を用いた。サンプル27では、添加化合物として、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化イットリウム(Y)とを用いた。サンプル28では、添加化合物として酸化鉄(Fe)を用いた。サンプル29では、添加化合物として酸化カルシウム(CaO)を用いた。サンプル30では、添加化合物として、炭化チタン(TiC)を用いた。サンプル31では、添加化合物として炭化バナジウム(VC)を用いた。サンプル32では、添加化合物として炭化クロム(Cr)を用いた。サンプル33では、添加化合物として炭化ジルコニウム(ZrC)を用いた。サンプル34では、添加化合物として炭化ニオブ(NbC)を用いた。サンプル35では、添加化合物として、酸化ジルコニウム(ZrO)と炭化ジルコニウム(ZrC)とを用いた。サンプル36では、添加化合物として酸化マグネシウム(MgO)を用いた。なお、基部110における添加元素の含有割合は、いずれのサンプルにおいても0.5体積%とした。ここで、添加化合物として2種類の化合物を用いたサンプル(サンプル27およびサンプル35)においては、各々の添加化合物の含有割合をいずれも0.25体積%として、添加化合物の総量を0.5体積%とした。また、サンプル22〜36のいずれにおいても、基部110におけるアルミナの含有割合は59.5体積%とした。
【0068】
図7において、サンプル22〜36を比較して分かるように、基部110が含有する添加化合物として、周期表の4〜6族に属する遷移金属(タングステン(W)を除く)の化合物、イットリウム化合物、スカンジウム化合物、およびランタノイド化合物から選択される少なくとも1つの化合物を用いることで、セラミック部材の耐久性が大きく向上することが確認された。上記した添加化合物以外の化合物、例えば酸化鉄、酸化カルシウム、あるいは酸化マグネシウムを用いる場合には、基部110上に被覆層120を形成しても、セラミック部材の耐久性を向上させる十分な効果が得られなかった。なお、図8から分かるように、用いた添加化合物が、上記した化合物以外の化合物、例えば酸化鉄、酸化カルシウム、あるいは酸化マグネシウムである場合には、基部110の機械特性、特に曲げ強度が低くなることがわかった。すなわち、上記した化合物以外の化合物を添加化合物として用いる場合には、サンプル28およびサンプル36のように、第1の結晶粒界40および第2の結晶粒界50に添加元素が存在する場合であっても、基部110を構成する結晶粒子間の結合力を高めて基部110の機械特性を向上させる十分な効果が得られなかった。添加化合物として酸化カルシウムを用いた場合には、第1の結晶粒界40および第2の結晶粒界50のいずれにおいても、添加元素の存在が認められなかった。
【0069】
[サンプル37〜45(添加化合物の量の評価)]
サンプル37〜45のセラミック部材は、基部110における添加化合物の含有量、および、その結果としてアルミナの含有量が異なる点以外は、サンプル1と同様の組成を有している。なお、サンプル37〜45は、既述したサンプル1と同様にして作製したが、サンプル42〜45については、ステップS130における焼成温度が、1700℃である点のみが異なっている。
【0070】
図5および図9において、サンプル1およびサンプル37〜45を比較して分かるように、基部110における添加化合物の含有割合を0.1体積%以上とすることで、セラミック部材の耐久性が大きく向上することが確認された。また、基部110における添加元素の含有割合は、18.0体積%以下であることが好ましく、15.0体積%以下であることがさらに好ましいことが確認された。なお、添加化合物の含有割合が0.05体積%であるサンプル36においては、セラミック部材の耐久性を向上させる十分な効果が得られなかった。その理由は、添加化合物の含有割合を0.05体積%として既述した製造方法によりセラミック部材を作製した場合には、第1の結晶粒界40および第2の結晶粒界50に添加元素が存在せず、基部110の機械特性(曲げ強度)が不十分になるためと考えられる(図9および図10参照)。
【0071】
[サンプル46〜57(炭化タングステンの含有割合の評価)]
サンプル46〜52のセラミック部材は、基部110における炭化タングステン(WC)の含有割合、および、その結果としてアルミナの含有割合が異なる点以外は、サンプル1と同様の組成を有している。サンプル53〜57のセラミック部材は、さらに、添加化合物である酸化ジルコニウム(ZrO)の含有割合が2.0体積%である点も、サンプル1とは異なっている。なお、サンプル46〜57のうち、サンプル50およびサンプル51は、既述したサンプル1と同様にして作製したが、他のサンプルは、基部110の焼結状態を適切化するために、ステップS130における焼成温度がサンプル1とは異なっている。具体的には、サンプル46〜49の焼成温度は1700℃であり、サンプル52,53の焼成温度は1800℃であり、サンプル54〜57の焼成温度は1850℃である。また、サンプル53〜57については、ステップS110で用いた分散剤の量が、サンプル1とは異なっている。具体的には、サンプル53は1.5重量%、サンプル54は1重量%、サンプル55は0.5重量%、サンプル56は0.7重量%、サンプル57は0.5重量%とした(図10参照)。
【0072】
図5および図9において、サンプル1およびサンプル46〜57を比較して分かるように、基部110における炭化タングステンの含有割合は、20.0体積%以上であることが好ましく、30.0体積%以上であることがさらに好ましいことが確認された。また、基部110における炭化タングステンの含有割合は、95.0体積%以下であることが好ましいことが確認された。
【0073】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…アルミナ結晶粒子
20…炭化タングステン結晶粒子
30…添加化合物結晶粒子
40…第1の結晶粒界
50…第2の結晶粒界
100…セラミック部材
110…基部
120…被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10