(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193212
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】シングルチップ2軸ブリッジ型磁界センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20170828BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
G01R33/06 R
H01L43/08 Z
H01L43/08 B
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-502982(P2014-502982)
(86)(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公表番号】特表2014-515470(P2014-515470A)
(43)【公表日】2014年6月30日
(86)【国際出願番号】CN2012075956
(87)【国際公開番号】WO2012136158
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年1月23日
(31)【優先権主張番号】201110315913.9
(32)【優先日】2011年10月18日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514116947
【氏名又は名称】江▲蘇▼多▲維▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MULTIDIMENSION TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ディーク、ジェイムス ジーザ
(72)【発明者】
【氏名】ジン、インシク
(72)【発明者】
【氏名】レイ、シャオフォン
(72)【発明者】
【氏名】シェン、ウェイフォン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ、ソンシュン
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−064692(JP,A)
【文献】
特開2008−134181(JP,A)
【文献】
特開2004−163419(JP,A)
【文献】
特開2003−215222(JP,A)
【文献】
特表2011−523506(JP,A)
【文献】
特表2004−533120(JP,A)
【文献】
特表2008−525787(JP,A)
【文献】
特開2007−248054(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/111648(WO,A1)
【文献】
特開平07−190804(JP,A)
【文献】
特開2002−071775(JP,A)
【文献】
特開2010−112881(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/084433(WO,A1)
【文献】
米国特許第06822443(US,B1)
【文献】
特開平05−281319(JP,A)
【文献】
特開2011−033481(JP,A)
【文献】
特開2001−345498(JP,A)
【文献】
特表2002−522792(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/137802(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する2つの感知軸であるX軸およびY軸と、
前記Y軸に沿った感知方向を有し、基準素子と、前記基準素子よりも感度が高い感知素子とを含む基準ブリッジセンサと、
前記X軸に沿った感知方向を有し、感知素子のみを含むプッシュプルブリッジセンサとを含み、
前記基準ブリッジセンサと前記プッシュプルブリッジセンサとが、同一の基板上に配置され、
異なる種類のブリッジが直交方向に感度を有し、
前記基準ブリッジセンサはフルブリッジセンサであり、前記プッシュプルブリッジセンサはフルブリッジセンサであり、
バイアス磁場を作り出すために永久磁石をさらに含み、
前記永久磁石のバイアス磁場と、前記基準フルブリッジセンサの感知素子および基準素子の形状異方性との組み合わせには、前記基準フルブリッジセンサの感知素子および基準素子の感度を異ならせる作用があり、また、前記永久磁石のバイアス磁場と、前記プシュプルフルブリッジセンサの感知素子の形状異方性との組み合わせには、前記プシュプルフルブリッジセンサの感知素子の自由層の磁化方向を規定する作用があり、
前記永久磁石のバイアス磁場は、前記X軸および前記Y軸に対して45°の角度となるように配列されている、シングルチップ型2軸磁界センサ。
【請求項2】
前記基準ブリッジセンサの基準素子の感度を下げるために、前記基準ブリッジセンサの基準素子を覆う遮蔽体をさらに含み、前記遮蔽体は、磁気透過性が高い軟質の強磁性材料からなる、請求項1に記載のシングルチップ型2軸磁界センサ。
【請求項3】
前記基準ブリッジセンサの感知素子の感度を高めるために、前記基準ブリッジセンサの感知素子の間および周りの領域に軟質の強磁性構造体をさらに含む、請求項1に記載のシングルチップ型2軸磁界センサ。
【請求項4】
互いに直交する2つの感知軸であるX軸およびY軸と、
前記Y軸に沿った感知方向を有し、基準素子と、前記基準素子よりも感度が高い感知素子とを含む基準ブリッジセンサと、
前記X軸に沿った感知方向を有し、感知素子のみを含むプッシュプルブリッジセンサとを含み、
前記基準ブリッジセンサと前記プッシュプルブリッジセンサとが、同一の基板上に配置され、
異なる種類のブリッジが直交方向に感度を有し、
前記基準ブリッジセンサはハーフブリッジセンサであり、前記プッシュプルブリッジセンサはハーフブリッジセンサであり、
バイアス磁場を作り出すために永久磁石をさらに含み、
前記永久磁石のバイアス磁場と、前記基準ハーフブリッジセンサの感知素子および基準素子の形状異方性との組み合わせには、前記基準ハーフブリッジセンサの感知素子および基準素子の感度を異ならせる作用があり、また、前記永久磁石のバイアス磁場と、前記プシュプルハーフブリッジセンサの感知素子の形状異方性との組み合わせには、前記プシュプルハーフブリッジセンサの感知素子の自由層の磁化方向を規定する作用があり、
前記永久磁石のバイアス磁場は、前記X軸および前記Y軸に対して45°の角度となるように配列されている、シングルチップ型2軸磁界センサ。
【請求項5】
前記基準ブリッジセンサの基準素子の感度を下げるために、前記基準ブリッジセンサの基準素子を覆う遮蔽体をさらに含み、前記遮蔽体は、磁気透過性が高い軟質の強磁性材料からなる、請求項4に記載のシングルチップ型2軸磁界センサ。
【請求項6】
前記基準ブリッジセンサの感知素子の感度を高めるために、前記基準ブリッジセンサの感知素子の間および周りの領域に軟質の強磁性構造体をさらに含む、請求項4に記載のシングルチップ型2軸磁界センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界センサブリッジ、特にシングルチップ2軸ブリッジ型磁界センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサは、これらに限定されないが磁界の強度、電流、位置、動き、向きなどを含む物理パラメータを測定または検出するために、現代のシステムにおいて幅広く使用されている。先行技術においては、磁界や他のパラメータを測定するための数多くの様々な種類のセンサが存在する。しかしながら、それらの全てには、例えば、サイズが大きすぎる点、感度および/またはダイナミックレンジが不十分である点、コスト、信頼性、および他の要因といった当該技術で公知な様々な問題がある。そのため、改良型の磁気センサ、特に、半導体装置や集積回路の一体化が容易にできるセンサおよびその製造方法に対するニーズが継続的にある。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ,Magnetic Tunnel Junction)センサには、高感度、小型、低コスト、および低電力消費といった利点がある。MTJセンサは標準的な半導体製造プロセスと互換性があるが、歩留まりが十分で且つ安価に高感度のセンサを製造する方法の開発は十分なされていない。特に、MTJセンサの磁気応答のオフセットに起因する歩留まりの問題や、MTJ素子を組み合わせてブリッジセンサを形成する際にMTJ素子の磁気抵抗応答をマッチングさせることの難しさは、困難な問題であることが分かっている。同様に、単一の半導体基板に集積された2軸磁界センサの製造方法も難しいことが分かっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、標準的な半導体プロセスを利用した、2軸リニアセンサチップの大量生産方法を開示する。この2軸センサは、磁界の直交成分を感知する2つの異なる磁気センサブリッジを形成するために、同一の半導体基板に配置されたトンネル磁気抵抗(TMR)素子または巨大磁気抵抗(GMR)素子を使用し得る。2軸感知能力は、センサの形状によって左右される。永久磁石によってセンサがより安定するため、永久磁石はウエハレベルで、またはパッケージング後に初期化され得る。永久磁石バイアス式ブリッジは、同じ方向に初期化された感知素子および基準素子の固定層を用いるため、複数の磁気材料層の積層または局所的な磁気アニーリングといった特別な処理を必要としない。
【0005】
本発明は、シングルチップ2軸ブリッジ型磁界センサを開示する。この磁界センサは、Y軸に沿った感知方向を有する基準ブリッジセンサと、X軸に沿った感知方向を有するプッシュプルブリッジセンサとを含み、X軸とY軸は相互に直交している。
【0006】
基準ブリッジセンサは、基準素子と感知素子とを含む基準フルブリッジセンサであり、プッシュプルセンサは、感知素子のみを含むフルブリッジであることが好ましい。
【0007】
また、シングルチップ型2軸センサは、基準フルブリッジセンサの基準素子と感知素子の感度を異ならせるために、基準ブリッジの基準素子と感知素子に対して異なるバイアス磁界をもたらすのに用いられ、プッシュプルフルブリッジセンサの感知素子の自由層の磁化方向にバイアスをかけるためにも用いられる永久磁石をさらに含む。
【0008】
さらに、基準フルブリッジセンサの感知素子と基準素子は、それらの感度が異なるように異なった形状異方性を有し、プッシュプルフルブリッジセンサの感知素子は、当該感知素子の自由層の磁化方向を制御する形状異方性を有する。
【0009】
あるいは、基準ブリッジセンサは、基準素子と感知素子とを含む基準ハーフブリッジセンサであり、プッシュプルセンサは、感知素子のみを含むハーフブリッジである。
【0010】
また、シングルチップ型2軸磁界センサは、基準ハーフブリッジセンサの基準素子と感知素子の感度を異ならせるために、基準ハーフブリッジの基準素子と感知素子に対して異なるバイアス磁界をもたらすのに用いられ、プッシュプルハーフブリッジセンサの感知素子の自由層の磁化方向にバイアスをかけるためにも用いられる永久磁石をさらに含む。
【0011】
また、基準ハーフブリッジセンサの感知素子と基準素子は、それらの感度が異なるように異なった形状異方性を有し、また、プッシュプルハーフブリッジセンサの感知素子は、当該感知素子の自由層の磁化方向を制御する形状異方性を有する。
【0012】
基準ブリッジセンサは、基準アームと感知アームとを含むことが好ましい。
【0013】
さらなる最適化として、前記基準アームは、その基準素子の感度を下げるために当該基準素子を覆う遮蔽体を含み、この遮蔽体は、磁気透過性が高い軟質の強磁性材料からなる。
【0014】
基準ブリッジの感知素子は、当該感知素子の感度を高めるために、当該感知素子の間および周りの領域に軟質の強磁性構造体をさらに含むことが好ましい。
【0015】
上記の本発明の好ましい改良点の全てを統合して、低コストでシングル半導体チップにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、基準層の磁化が負のH方向を向いているスピンバルブ感知素子の磁気抵抗応答の概略図である。
【
図3】
図3は、いくつかの磁気トンネル接合部を一つにまとめて磁気抵抗感知素子として用いるための手法の図である。
【
図4】
図4は、基準フルブリッジリニア磁気抵抗センサの概略図である。
【
図5】
図5は、クロスバイアス磁界をもたらすために、永久磁石構造を用いる基準フルブリッジセンサの図である。
【
図6】
図6は、基準センサブリッジの感知方向が固定層の磁化の設定方向と平行であることを示す図である。
【
図7】
図7は、感知方向に垂直な磁界成分に対する基準ブリッジの感知素子の応答を示す。
【
図8】
図8は、基準フルブリッジ磁気抵抗センサの例示的な伝達曲線を示す。
【
図9】
図9は、プッシュプルフルブリッジリニア磁気抵抗センサの概略図である。
【
図10】
図10は、平衡磁化が、固定層の磁化方向である軸に垂直に印加された磁界の成分に対して回転されているプッシュプルセンサブリッジの感知方向を示す図である。
【
図11】
図11は、固定層の磁化方向と平行に並んだ磁界に対するプッシュプルブリッジの応答を示す図である。
【
図12】
図12は、固定層の磁化方向に対して垂直に並んだ磁界に対するプッシュプルブリッジの応答を示す図である。
【
図13】
図13は、プッシュプルフルブリッジ磁気抵抗センサの例示的な伝達曲線を示す。
【
図14】
図14は、永久磁石の磁化が45°で並んでいる場合の永久磁石のバイアス磁界の方向を示す図である。
【
図15】
図15は、永久磁石の磁化が0°で並んでいる場合の永久磁石のバイアス磁界の方向を示す図である。
【
図16】
図16は、モノリシックな2軸磁界センサを製造するために、基準フルブリッジセンサとプッシュプルフルブリッジセンサの両方を用いたチップのイメージ配置図である。
【0017】
磁気トンネル結合:
図1は、MTJ素子における機能層の概略断面図を示す。通常、MTJ1は、上部強磁性または合成反強磁性(Synthetic Antiferromagnetic, SAF)層10、または下部強磁性またはSAF層11のいずれか、および2つの強磁性層の間にトンネルバリア層12を含む。この例では、上部強磁性またはSAF層10は、その磁化が外部から印加される磁界に応じて移動するため自由磁気層からなる。しかしながら、下部強磁性またはSAF層11は、その磁化の方向が1つの方向に固定されており、通常の動作状態では分極方向が変化しないため固定磁気層である。通常、ピニングは、強磁性またはSAF固定層を、反強磁性層13の上で、またはその真下で成長させることによって実現される。多くの場合、MTJは導電性のシード層14上に生成され、導電層15によってその頂上が覆われている。シード層14とキャップ層15との間で測定したMTJの抵抗16は、自由層10と固定層11の磁化の相対配向を表すものである。上部強磁性またはSAF層10における磁化方向が、下部強磁性層11における磁化方向と平行な場合、抵抗16はセル全体に渡り低抵抗状態にある。上部強磁性層10における磁化方向が、下部強磁性層12における磁化方向と逆平行の場合、抵抗16はセル全体に渡り高抵抗状態にある。当該技術で公知な手法を用いて、MTJ1の抵抗が、印加磁界に応じて高抵抗状態と低抵抗状態の間で直線的に変化するようにできる。
【0018】
磁界のリニア測定に適したGMRまたはMTJ磁気センサ素子の磁気抵抗伝達曲線の一般的な形状を
図2に模式的に示す。当該伝達曲線は、低抵抗値R
L(21)、高抵抗値R
H(22)のそれぞれで飽和状態になる。R
Lでは、固定層と自由層の磁化方向は並んでおり(28)、R
Hでは、固定層と自由層の磁化方向は逆平行である(29)。飽和点の間の領域では、伝達曲線は印加磁界Hに線形に従属している。多くの場合、伝達曲線は、H=0の点に関して対称形をしていない。通例、飽和磁界26、27は、R
Lの飽和領域がH=0の点に近くなるように、H
0(25)の量だけオフセットされている。H
0(25)の値は、「オレンジピール(Orange Peel)」または「ニールカップリング(Neel Coupling)」と呼ばれることが多く、その範囲は一般的に1〜25Oeである。この値は、GMRおよびMTJ構造内の強磁性フィルムの粗さに関係し、材料や製造方法によって左右される。不飽和領域において、伝達曲線は、下記のように近似され得る。
【0020】
ホイートストンブリッジを形成するには、
図3に示すようにMTJ素子1を鎖状に相互接続することが望ましい。これらの鎖によってノイズが低減し、センサの堅牢性が改善する。鎖が長い場合は、当該鎖の接合部の数により各MTJ素子に対するバイアス電圧が減少する。これにより大きな電圧出力を生成するのに必要な電流が少なくなるため、ショットノイズが低減し、また、各センサが受ける電圧ストレスが減少することから、センサの静電気放電による破損に対する耐性が向上する。さらに、前記鎖におけるMTJの数を増やし、個々のMTJ素子の互いに相関関係にないランダムな振る舞いを平均化することによりノイズが減少する。
【0021】
2つの異なる種類のフルブリッジセンサは、ニールカップリングを補償し、固定層11の磁化に平行および垂直な磁界に対する感応性を提供する。これらを基準ブリッジ、回転磁化ブリッジと呼ぶ。先ず、基準ブリッジと回転磁化ブリッジを説明し、次に、それらを組み合わせてモノリシックな2軸センサにする方法を説明する。
【0022】
図4は、基準ブリッジセンサの概略図を示す。ここで、2つのセンサ素子は、印加磁界に強く従属した伝達曲線を有する。これらの素子40、41を感知アームと呼ぶ。別の2つのセンサ素子42、43は、印加磁界への従属が弱い伝達曲線を有する。これらの素子42、43を基準アームと呼ぶ。さらに、センサは、基板上に配置した時、電圧バイアス(V
bias、44)用のパッド、アース(GND、45)、および2つのハーフブリッジ中間タップ(V1、46、V2、47)に接触している必要がある。中間タップにおける電圧は、下記のように与えられる。
【0024】
ブリッジセンサの出力は下記のように定義される。
【0026】
Hが下記の条件を満たす場合、前記出力は線形になる。
【0028】
「<<」が等級(order of magnitude)を表すとした場合、下記のようになる。
【0030】
ブリッジセンサを構築する上で、ブリッジの感知腕および基準腕の相対感度を設定するのに用いる方法は考慮すべき重要な点である。磁気抵抗素子の感度は、印加磁界の関数である抵抗の変化として定義される。これは下記のように表され得る。
【0032】
感知腕に対して基準腕の磁気抵抗を減らすのは実際的ではない。そのため、H
Sを変更することによって、感度を最も容易に調整できる。これは下記の様々な手法の1つまたはいくつかの組み合わせによって実現してもよい。
【0033】
遮蔽:ここでは、印加磁界を減衰させるために、ブリッジの基準腕の上に透過性の高い強磁性板を配置している
形状異方性の安定化:基準MTJ素子と感知MTJ素子の大きさは異なっており、それ故に形状異方性も異なっている。最も一般的な方法は、感知MTJ素子に対してよりも基準MTJ素子に対して、感知軸に平行な方向における反磁場係数がはるかに大きくなるように、基準MTJ素子を感知MTJ素子よりも長く且つ細くすることであろう
交換バイアス:この手法では、MTJ素子の自由層を隣接する反強磁性層または永久磁石層に交換連結させることによって、感知軸に平行な方向に有効磁界が作られる。交換バイアスの強度を低減するために、自由層と、自由層がバイアスを交換する層との間に、CuまたはTaなどの物質からなる薄いスペーサー層を設置することが望ましい場合がある。
【0034】
例示的な層シーケンスとしては、下記が挙げられる。
【0035】
a.シード/AF1/FM/Ru/FM/バリア/スペーサー/AF2/キャップ...
b.シード/AF1/FM/Ru/FM/バリア/FM/スペーサー/PM/キャップ...
c.シード/AF1/FM/Ru/FM/バリア/FM/AF2/キャップ...
d.シード/AF1/FM/Ru/FM/バリア/FM/PM/キャップ...。
【0036】
ここで、AF1およびAF2は、PtMn、IrMn、FeMnなどの反強磁性材料である。FMは、強磁性層、またはこれらに限定されないがNiFe、CoFeB、CoFe、およびNiFeCoを含む多くの様々な強磁性合金となり得るものからなる多重層を表すのに用いられる。バリアは、スピン偏極トンネルとの互換性がある任意の絶縁材料であり得る。概して、スペーサーは非磁気層であり、多くの場合、Ta、RuまたはCuの薄層である。FM2によって自由層上にもたらされる交換バイアス磁界に垂直な方向にFM/Ru/FMの固定層を設定することができるようにするため、別々の反強磁性層AF1およびAF2は、AF2の遮蔽温度(Blocking Temperature)がAF1の遮蔽温度よりも低くなるように選択されるのが一般的である。
【0037】
磁界バイアス:この手法では、Fe、Co、Cr、およびPtの合金などの永久磁石材料を、センサ基板上に、またはMTJの積層物中に配置し、MTJ素子の伝達曲線にバイアスをかける迷磁場を生成するのに用いられる。永久磁石によるバイアスの利点は、ブリッジの製造後に、大きな磁界を用いて永久磁石を初期設定することができるという点である。非常に重要なさらなる利点は、MTJセンサ素子の応答を安定させ、且つそれを線形化するために、MTJセンサ素子から分域を取り除くのにバイアス磁界を用いることができるという点である。これらの利点によって、下記で説明する変種を製造できるよう設計に対して調整を加える際に、大きな柔軟性が得られる。階層状の設計の場合、下記の模式的な層シーケンスを取ることが可能である:
シード/AF1/FM/Ru/FM/バリア/FM/薄スペーサー/PM/キャップ...。
【0038】
他の手法としては、バイアス磁石を、MTJ素子と並列に用いることが挙げられる。
【0040】
H
crossを規定するための好ましい方法を
図5に示す。ここで、磁気抵抗基準センサ50は、2つの広幅の磁石51の間にある狭い隙間に位置している。この配列によって、基準センサを、印加磁界に対して比較的感応性がないものにする大きなクロスバイアス磁界52が生成される。MTJ感知素子53は、比較的細く且つ長い永久磁石54の間にある広幅の隙間に位置しており、これによって弱いクロスバイアス磁界55が生成される。予想されるように、弱いクロスバイアス磁界55によって、MTJ感知素子の感度が高くなる。MTJ基準素子とMTJ感知素子は、
図4に示したものと同様な形で配列され、ホイートストンブリッジを形成している。永久磁石は56の方向に初期設定されており、固定層は、永久磁石に垂直な、57の方向に設定されている。
【0041】
基準ブリッジセンサ配列の簡易な分析から、センサは、
図6および
図7に示すMTJ固定層の磁化方向57に平行な軸に沿って印加された磁界に対する感応性があることが分かる。
【0042】
図6に示すように、ここで、MTJ感知素子60は、固定層の磁化が設定されている方向57に平行な磁界61に晒されている。その磁化に垂直な成分を印加磁界61が有しているため、自由層の磁化方向64は印加磁界61の方向に回転する。固定層の磁化方向57に対して自由層の磁化方向が回転するため、MTJ感知素子60の抵抗が変化する。
【0043】
図7は、磁界65を、MTJ67の長軸66に平行に印加した場合を示す。自由層の磁化方向68に垂直な成分が磁界65にはないため、X軸66に沿って並んでいる自由層の磁化方向68は回転力を受けていない。そのため、感知素子67の抵抗は、固定層の磁化方向57に垂直なx軸66に沿って印加された磁界に対応して変化しない。そのため、この基準ブリッジの設計では、固定層の磁化方向57に平行な軸に沿って印加された磁界に対してのみ感応性がある。なお、永久磁石69のバイアスを用いる場合、その磁化は主に、固定層の磁化方向57に垂直な方向に設定される。
【0044】
図8は、基準ブリッジセンサの例示の伝達曲線70を示す。なお、固定層の磁化方向に沿って印加された磁界Hy(71)は正から負に傾斜しているため、伝達曲線は負のピーク73および正のピーク72を経験する。72および73の間において、伝達曲線70は印加磁界71の広い範囲に渡って直線的である。
【0045】
プッシュプルブリッジセンサ:
プッシュプルブリッジセンサは、下記の感知素子の自由層にバイアスをかけるための方法の任意のもの、またはそれらを組み合わせることで構築可能である。
【0046】
形状異方性エネルギー:MTJ素子は、磁気異方性エネルギーを用いて自由層の磁化の方向を設定することができる。これは、通例、MTJにおいて長さが幅よりも大きくなるように設定し、磁化が長方向に沿って並ぶようにすることで実現される
永久磁石バイアス:自由層の磁化の方向に並ぶバイアス磁界を生成可能な永久磁石がMTJの近傍に配置され得る
オンチップコイル:導電性コイルを加工して、それをMTJの上または下の層としてもよく、電流がそれを流れて磁界を生成し、それにより自由層の磁化の方向にバイアスをかけることができる
ニールカップリング:ニールカップリングからのオフセット磁界を用いて、自由層の方向にバイアスをかけてもよい。
【0047】
交換バイアス:この方法では、MTJ素子の自由層が、近隣の反強磁性層に弱く交換連結され、効果が形成される。交換バイアスの強度を弱めるために、CuまたはTa層を自由層と反強磁性層との間に設置してバイアス磁界の強度を設定することができる。
【0048】
具体例については、シングルチップブリッジセンサ(中国特許出願CN201120097042.3)を参照されたい。
【0049】
図9は、プッシュプルブリッジセンサの概略図を示す。ここで、印加磁界によって2つのセンサ素子R12(80)およびR21(81)の抵抗が増加し、他方の2つのセンサ素子R11(82)およびR22(83)の抵抗が低下するように、2つのセンサR12およびR21は、センサR22およびR11に対して回転されている。これによってブリッジの出力が2倍になる。印加磁界の方向を逆にすることで応答が変化するため、R22とR11の対の抵抗が増加する一方、R21およびR12の対の抵抗は低下する。応答は依然として2倍となるが、出力の極性は変化する。ブリッジの応答を高めるために、測定磁界に対する応答が反対のセンサ対(一方がプッシュで他方がプル)を用いることが、本ブリッジが「プッシュプル」と呼ばれる理由である。
【0050】
中間タップにおける電圧は下記のように与えられる。
【0052】
ブリッジセンサの出力は下記のように定義される。
【0054】
プッシュプル配列において、異なる素子についてのMTJ応答は下記のように近似され得る。
【0056】
回転磁化プッシュプルブリッジの主な特徴を説明するために、回転MTJ素子とまっすぐな永久磁石バイアス構造を用いた設計について述べる。他の実施形態、特にバイアスを伴わないものは二軸センサへの統合がより容易である。
【0057】
図10に概略イメージを示す。ここで、永久磁石バー90の磁化は、ピニング軸の方向91に沿って並んでいる。そのため、永久磁石バー90は、MTJ素子92および93にバイアス磁界を提供し、それによってMTJ素子92および93の自由層の磁化方向の全てが、ピニング方向91に沿って並んだ共通の成分を有することになる。磁化を揃えるためにバイアス磁界を使用することに加え、MTJ素子92は、ピニング方向91に対して+45°回転されており、MTJ素子93はピニング方向91に対して−45°回転されている。
【0058】
プッシュプルの動作原理を
図11および
図12に示す。
【0059】
図11は、印加磁界61がピニング方向の軸57に平行である場合を示す。この場合、素子92、93の磁化101、102の双方は、ピンド方向に平行または逆平行のいずれかの方向に向かって同じ量回転する。応答によって、素子92、93の抵抗が同じ量変化する。これは共通モードであり、ブリッジセンサの出力は変化しない。そのため、ブリッジには、ピニング軸57に平行または逆平行に並ぶ磁界成分に対する感応性がない。
【0060】
しかしながら、
図12に示すように、印加磁界65がピニング方向56に垂直である場合、素子92、93の抵抗はさらなる変化を呈する。この場合、磁化104、105は、印加磁界65に平行な磁化の成分を形成するように回転する。これによって、素子93の磁化はピニング方向57から離れる方向に回転し、素子92の磁化はピニング方向57に向かって回転する。そのため、MTJ93の抵抗は増加し、MTJ92の抵抗は低下する。抵抗の変化は、この時に既に共通モードではなく、それらはブリッジの出力に加わる。垂直の印加磁界65の方向を逆にすることによっても同様に、素子93の抵抗が低下し、素子92の抵抗が増加し、ブリッジ出力の極性が変化する。
【0062】
この式(18)は基準ブリッジの感度に近いため、設計は、基準ブリッジと同じ基板を使用する場合と互換性があるものになる。
【0063】
プッシュプルブリッジの例示の伝達曲線110を
図13に示す。なお、固定層の方向に対して垂直に印加された磁界Hx(111)は、正から負に傾斜しているため、伝達曲線は負のピーク112および正のピーク113を経験する。112と113の間では、伝達曲線110は直線である。この応答は、感知軸が回転してないという点以外は基準ブリッジの応答と同一である。この観測は、GMRまたはMTJ磁界感知素子からなる基準磁化ブリッジおよび回転磁化ブリッジを用いたモノリシックな2軸ブリッジ磁界センサの開発を可能にする。基準ブリッジおよび回転ブリッジのピニング方向は共通しているため、バイアス磁界を使用しない2軸設計は単純明快である。そのため、下記の説明では永久磁石のバイアスを使用した場合を想定している。
【0064】
シングルチップ型2軸センサの設計:
永久磁石からの磁界は、
図14および
図15に示す磁化の境界の状態により永久磁石板の端部で形成される名目上の磁気に起因するものと考えられる。磁気は、永久磁石スラブの端部の向きに対する残留磁化「M
r」の大きさおよび向きによって変化する。
【0066】
これらの名目上の磁気は、下記に従って磁界を生成する。
【0068】
永久磁石スラブ120と122の間では、磁界の方向は、永久磁石スラブの残留磁化の方向ではなく、前記磁気の位置によって決まる。バイアス磁界121および123の大きさのみが、永久磁石スラブの磁化120および122の向きによって決まる。この手法によって、永久磁石バイアス式二軸磁界センサを構成することができる。
【0069】
図16は、永久磁石バイアス式二軸磁界センサの概略イメージを示す。プッシュプルブリッジ130と基準ブリッジ131の双方を、同一の基板上に並列に配置することが可能であり、同一の工程ステップを用いてそれらを同時に製造することができる。この設計では、プッシュプルブリッジ132の永久磁石バーは、基準ブリッジ133の永久磁石バーに対して90°回転している。そして、永久磁石がピニング方向に対して45°に設定されている場合、ブリッジセンサ130、131の双方において適切な永久磁石バイアスが得られる。プッシュプルブリッジ130は、X軸に沿った磁界134の成分に対する感応性があり、基準ブリッジ131は、Y軸方向に沿った磁界134の成分に対する感応性がある。
【0070】
上記に示した概念を用いることで、シングルチップ2軸ブリッジ型磁界センサを得ることができる。
【0071】
本発明の範囲または精神から逸脱することなく本発明に様々な変更を加えることができるのは当業者には明らかである。また、本発明は、本発明の変更および変種を含むことを意図するものである。そのような変更および変種は添付の請求項およびそれらの同等物の範囲に含まれる。