(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(重量%で)Al含量が0.01〜1.5%であるか、Cr含量が0.20〜0.35%であるか、V含量が0.04〜0.08%であるか、Ti含量が0.008〜0.14%であるか、B含量が0.002〜0.004%であるか又はCa含量が0.0001〜0.006%であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板製品。
【背景技術】
【0003】
本明細書で鋼板製品に言及する場合、これは鋼ストリップ、鋼シート又はこれらから得られるカットされた板金品、例えばブランクを意味するものとする。
【0004】
明示的に反対の記述がない限り、本明細書及び特許請求の範囲では、特定の合金化元素の量をいずれの場合も重量%で与え、ミクロ構造の特定成分の比率を表面パーセントで与える。
【0005】
下記冷却又は加熱で速度に言及する場合、冷却速度は温度の低下をもたらすので、冷却速度には負の数値を与える。従って、急速冷却の場合、冷却速度は緩徐冷却より低い値を有する。他方で、温度の上昇をもたらす加熱速度には正の数値を与える。
【0006】
高強度鋼は、それらの合金化成分のため、腐食する一般的傾向を有するので、典型的に周囲酸素との接触からそれぞれの鋼基板を保護する金属保護層で覆われる。該金属保護層を塗布するための多くの方法が知られている。これらには、技術用語では“溶融めっき”とも呼ばれる溶融コーティング、及び電解コーティングがある。
【0007】
電解コーティングでは、いずれの場合もプロセス中にわずかに熱くなってくる被覆すべき鋼板製品上にコーティング金属を電気化学的に沈着させるのに対して、溶融コーティングでは被覆すべき製品は、それぞれの溶融浴中の浸漬前に熱処理を受ける。このプロセスでは、所望のミクロ構造に到達し、金属コーティングの付着に最適な表面状態を作り出すために、それぞれの鋼板製品を特定雰囲気下で高温に加熱する。次に溶融状態でコーティング金属を維持するため、鋼板製品は、同様に上昇した温度の溶融浴を通過する。
【0008】
この必然的に高い温度は、溶融コーティングでは、金属保護層を備えた鋼板製品の強度が1000MPaの上限を有することを意味する。焼戻しによって生じる付随加熱の結果として鋼板製品は強度の相当な損失を経験するので、原則としてさらに高い強度を有する鋼板製品を溶融加工することはできない。結果として、最近は電解で高強度鋼板製品に金属保護層を設けるのが一般的である。この作業工程は完璧かつ清浄な表面を必要とし、実際には電解コーティング前の酸洗いによってしか該表面を得ることはできない。
【0009】
特許文献1は、溶融コーティングで塗布された金属保護コーティングを有する高強度の冷間圧延ストリップの製造方法であって、下記作業工程:
−スラブからの熱間圧延ストリップを熱間圧延する工程、
−この熱間圧延ストリップを冷間圧延して冷間圧延ストリップにする工程、
−この冷間圧延ストリップを熱処理する工程(この熱処理の過程で、
−冷間圧延ストリップは、この冷間圧延ストリップが構成されている鋼のA
c3温度より50℃低い温度から最大2℃/秒の平均速度でそれぞれのA
c3温度に加熱され、
−次に冷間圧延ストリップは、少なくともそれぞれのA
c3温度に相当する温度で少なくとも10秒間保持され、
−この時間後すぐに冷間圧延ストリップは、それぞれの製鋼プロセスのマルテンサイト開始温度より100〜200℃低い温度に最小20℃/秒の平均速度で冷却され、かつ
−最後に冷間圧延ストリップは300〜600℃の温度に1〜600秒間加熱される)
を具備する方法を開示している。
【0010】
最後に、この鋼ストリップを溶融めっきする。ここで塗布される金属コーティングは好ましくは亜鉛コーティングである。このようにして最終的に少なくとも1200MPaの引張強度、少なくとも13%の伸び及び少なくとも50%の穴拡げ率等の最適化された機械的特性を有する冷間圧延ストリップが得られるであろう。
【0011】
上記方法で加工された冷間圧延ストリップは、鉄と不可避不純物に加えて(重量%で)0.05〜0.5%のC、0.01〜2.5%のSi、0.5〜3.5%のMn、0.003〜0.100%のP、0.02%までのS、及び0.010〜0.5%のAlを含む鋼を含むであろう。同時にこの鋼は、X線回折で決定される、(表面%で)10%未満のフェライト、10%未満のマルテンサイトと60〜95%の焼戻しマルテンサイト及び5〜20%の残留オーステナイトをも有するであろう。さらに、この鋼は、(重量%で)0.005〜2.00%のCr、0.005〜2.00%のMo、0.005〜2.00%のV、0.005〜2.00%のNi及び0.005〜2.00%のCu並びに0.01〜0.20%のTi、0.01〜0.20%のNb、0.0002〜0.005%のB、0.001〜0.005%のCa及び0.001〜0.005%の希土類元素を含有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで焼戻しマルテンサイト、焼戻しをしていないマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトの相分率は、ISO 9042(光学的測定)に従う通常の方法で測定される。残留オーステナイトもX線回折によって+/−1の表面パーセントの精度で測定することができる。
【0024】
従って、本発明の鋼板製品では、いわゆる「過剰焼戻しマルテンサイト」の含量が最小限に減る。過剰焼戻しマルテンサイトは、1%超えの量の炭化物粒(炭化鉄)のサイズが500nmより大きいことを特徴とする。過剰焼戻しマルテンサイトは、例として3%の硝酸でエッチングされた鋼サンプルから、走査型電子顕微鏡を20000×倍率で用いて測定可能である。過剰焼戻しマルテンサイトを回避することによって本発明の鋼板製品は、特にその曲げ特性について、100°〜180°という高い曲げ角度によって特徴づけられる有利な効果を有する最適化された機械的特性を達成する。
【0025】
本発明の鋼板製品の鋼のC含量は0.10〜0.50重量%の値に制限される。炭素は、本発明の鋼板製品にいくつかの面で影響を与える。まず第1にCはオーステナイトの形成及びA
c3温度の低減で主要な役割を果たす。従って十分な濃度のCは、A
c3温度を高めるAl等の元素が同時に存在する場合でさえ≦960℃の温度で完全なオーステナイト化を可能にする。Cの存在を通じて、焼入れも残留オーステナイトを安定化する。この効果は分配工程中も継続する。安定な残留オーステナイトは、最大伸び領域をもたらし、この領域ではTRIP(変態誘起塑性(TRansformation Induced Plasticity))効果が幅を利かせている。さらにマルテンサイトの強度はその最大でそれぞれのC含量によって影響される。過剰含量のCは、本発明の鋼板製品の作製を甚だしく困難にするような、マルテンサイト開始温度のさらに低い温度への大きなシフトにつながる。さらに、過剰なC含量は溶接性にマイナスの効果を及ぼす恐れがある。
【0026】
本発明の鋼板製品の良い表面品質を確保するためには、本発明の鋼板製品の鋼中のSi含量は2.5重量%未満でなければならない。しかしながらケイ素はセメンタイト形成を抑制するのに重要である。セメンタイトの形成はCを炭化物として固定させ、ひいては残留オーステナイトの安定化にはもはや利用できないであろう。伸びも低下するであろう。Siの添加によって達成される効果は、ある程度まではアルミニウムの添加によっても達成可能である。しかしこのプラスの効果をうまく利用するため本発明の鋼板製品には常に最小0.1重量%のSiが存在すべきである。
【0027】
本発明の鋼板製品の焼入性のため及び冷却中のパーライト形成を回避するためには1.0〜3.5重量%、特に3.0重量%までのマンガン含量が重要である。これらの特性は、マルテンサイトと残留オーステナイトを含み、かつそれ自体本発明に従って行なわれる分配工程に適している開始ミクロ構造の形成を可能にする。マンガンは、例えば−100K/秒より速い比較的低い冷却速度を設定するのに有利なことも判明した。しかしながら、過剰なMn濃度は、本発明の鋼板製品の伸び特性及び溶接性に悪影響を与える。
【0028】
本発明の鋼板製品の鋼中には脱酸素及び存在するいずれの窒素の固定のためにも2.5%までの量でアルミニウムが存在する。しかしながら、上述したように、Alを用いてセメンタイトを抑制することもでき、その際にアルミニウムは高含量のSiよりは表面品質にあまり悪影響を及ぼさない。しかしながら、AlはSiより効果が弱いのでオーステナイト化温度をも高める。従って本発明の鋼板製品のAl含量は最大2.5重量%、好ましくは0.01〜1.5重量%の値に制限される。
【0029】
リンは溶接性に悪影響を与えるので、本発明の鋼板製品の鋼中には0.02重量%未満の量で存在すべきである。
【0030】
十分な濃度ではイオウはMnS又は(Mn、Fe)Sの形成につながり、これは伸びにマイナスの効果を及ぼす。従って本発明の鋼板製品の鋼中のS含量は0.003重量%未満でなければならない。
【0031】
本発明の鋼板製品の鋼中の窒素は、窒化物として固定されるので成形性に有害である。従って本発明の鋼板製品のN含量は0.02重量%未満でなければならない。
【0032】
ある特性を改善するために本発明の鋼板製品の鋼中に「Cr、Mo、V、Ti、Nb、B及びCa」が存在してよい。
【0033】
そこで強度を最適化するためには本発明の鋼板製品の鋼にミクロ合金化元素V、Ti及びNbの1種以上を添加するのが妥当なことがある。非常に微細に分布した炭化物又は炭窒化物の形成を通じてこれらの元素はより高い強度に寄与する。0.001重量%の最小Ti含量は分配工程中に粒界及び界面の凍結をもたらす。しかしながらV、Ti及びNbの過剰濃度は残留オーステナイトの安定化に有害になる恐れがある。従って本発明の鋼板製品中のV、Ti及びNbの総量は0.2重量%に制限される。
【0034】
クロムはより有効なパーライト抑制元素であり、強くするので、本発明の鋼板製品の鋼に0.5重量%まで添加してよい。0.5重量%を超えると、明白な粒界酸化の危険がある。Crのプラス効果を明確に利用するためには、Cr含量を0.1〜0.5重量%に設定することができる。
【0035】
Crのように、モリブデンもパーライト形成を抑制するのに非常に有効な元素である。この有利な効果を有効に利用するため、本発明の鋼板製品の鋼に0.1〜0.3重量%添加することができる。
【0036】
ホウ素は粒界で分離し、粒界の動きを遅くする。0.0005重量%
から開始する含量ではホウ素は、機械的特性に有利な効果を及ぼす微粒子ミクロ構造をもたらす。しかしながら、Bを添加した場合、Nを固定するために十分なTiが存在しなければならない。約0.005重量%の含量でBのプラス効果の飽和が現れる。従ってB含量は0.0005〜0.005重量%に設定される。
【0037】
イオウを固定するため及び包含変態のため、本発明の鋼板製品の鋼には0.01重量%までの含量でカルシウムを使用する。
【0038】
炭素当量CEは、溶接性を表すのに重要なパラメーターである。本発明の鋼板製品の鋼のためにCEは0.35〜1.2、特に0.5〜1.0の範囲内でなければならない。炭素当量CEを計算するためにここでは米国溶接協会(AWS)によって開発され、非特許文献1の刊行物に公表された下記式を利用する。
【数1】
【0039】
任意に溶融コーティングで塗布された金属保護層を備えていてもよい高強度の鋼板製品を製造するための本発明の方法は下記作業工程を含む:
未被覆鋼板製品、すなわち既に上述した鋼板製品と同じ鋼から製造された、保護層をまだ持っていない鋼板製品を準備する。従って、この鋼板製品は、鉄と不可避不純物に加えて(重量%で)C:0.10〜0.50%、Si:0.1〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、Al:2.5%まで、P:0.020%まで、S:0.003%まで、N:0.02%まで、並びに任意に下記量:Cr:0.1〜0.5%、Mo:0.1〜0.3%、V:0.01〜0.1%、Ti:0.001〜0.15%、Nb:0.02〜0.05%、ここで、V、Ti及びNbの量の合計Σ(V、Ti、Nb)についてはΣ(V、Ti、Nb)≦0.2%であり、B:0.0005〜0.005%、及びCa:0.01%までの元素「Cr、Mo、V、Ti、Nb、B及びCa」の1種以上を含む鋼から成る。準備される鋼板製品は特に冷間圧延鋼板製品であり得る。しかしながら、一発明方法では熱間圧延鋼板製品の加工も考えられる。
【0040】
このようにして準備された鋼板製品を次に鋼板製品の鋼のA
c3温度より高く、かつ最大960℃のオーステナイト化温度T
HZまで少なくとも3℃/秒の加熱速度θ
H1、θ
H2で加熱する。急速加熱はプロセス時間を短縮し、方法の全体的な経済効率を改善する。
【0041】
オーステナイト化温度T
HZまでの加熱は、2つの逐次段階で中断せずに異なる加熱速度θ
H1、θ
H2で行なわれ得る。
【0042】
ここではプロセスの経済効率を高めるため、より低い温度、すなわちT
W未満で加熱を行なうことができる。より高い温度では炭化物の溶解が始まる。このため、炭素及び他の可能な合金化元素、例えばMo又はCr等の均等な分布を達成するためには、より低い加熱速度θ
H2が有利である。オーステナイト内におけるより低い拡散に比べてフェライトのより速い拡散を活用するために、炭化物はA
c1温度未満で制御様式で既に溶解している。従ってより低い加熱速度θ
H2の結果として溶解した原子は材料中にさらに均等に分布することができる。
【0043】
可能な最も均質な材料を製造するためには、オーステナイト変換中、すなわちA
c1とA
c3との間では制限された加熱速度θ
H2も有利である。これは焼入れ前の均質な開始ミクロ構造、ひいては焼入れ後の均等に分布したマルテンサイト及び微細な残留オーステナイトに寄与し、最終的に鋼板製品の機械的特性の改善に寄与する。
【0044】
200〜500℃の
中間温度
において加熱速度を下げるのが適正であることが判明した。ここでは驚くべきことに、求められる結果を損なわずに3〜10℃/秒の均等な加熱速度を設定できることが明らかになった。
【0045】
その結果、本発明により求められる鋼板製品の特性を達成するためには、2段階加熱において、第1段階の加熱速度θ
H1は5〜25℃/秒、第2段階の加熱速度θ
H2は3〜10℃/秒、特に3〜5℃/秒であり得る。ここで第1加熱速度θ
H1で鋼板製品を200〜500℃、特に250〜500℃の中間温度T
Wに加熱することができ、次に加熱速度θ
H2でオーステナイト化温度T
HZまで加熱を続けることができる。
【0046】
本発明によればオーステナイト化温度T
HZに達したらすぐに、鋼板製品を20〜180秒のオーステナイト化時間t
HZ、オーステナイト化温度T
HZで保持する。ここで完全なオーステナイト化を達成するためには、保持ゾーン内の焼鈍し温度はA
c3温度より高くなければならない。
【0047】
それぞれの鋼のA
c3温度は分析の関数であり、通常の測定技術によって記録され、或いは例えば下記実験式で推定可能である。
【数2】
【0048】
A
c3より高い温度での焼鈍し後にマルテンサイト停止温度T
Mfより高く、マルテンサイト開始温度T
Ms未満の冷却停止温度T
s(T
Mf<T
Q<T
Ms)まで鋼板製品を冷却する。
【0049】
本発明によれば冷却停止温度T
Qまでの冷却は、冷却速度θ
Qが冷却速度θ
Q(最小)と少なくとも同じ、好ましくは最小冷却速度θ
Q(最小)より速い(θ
Q≦θ
Q(最小))条件で行なわれる。ここで最小冷却速度θ
Q(最小)は下記実験式に従って計算可能である。
【数3】
【0050】
冷却速度θ
Qは典型的に−20℃/秒〜−120℃/秒の範囲内である。実際には低いC又はMn含量の鋼では、−51℃/秒〜−120℃/秒の冷却速度θ
Qでのみ条件θ
Q≦θ
Q(最小)を確実に満たすことができる。
【0051】
最小冷却速度θ
Q(最小)が観察された場合、30%までの残留オーステナイトを有する鋼板製品ではフェライトとベイナイトの変換が安全に阻止され、マルテンサイトのミクロ構造が整えられる。
【0052】
冷却中に実際にどれだけのマルテンサイトが生成されるかは、鋼板製品が冷却中にマルテンサイト開始温度(T
Ms)未満に冷却される程度と、加速冷却後に鋼板製品が冷却停止温度で保持される保持時間t
Qとによって決まる。本発明によれば保持時間t
Qについては10〜60秒、特に12〜40秒の広がりが設けられる。ほぼ最初の3〜5秒の保持中に熱の均質化がマルテンサイト変換と並行して起こる。その後の数秒でC拡散によって、置換が固定され、最も微細な析出物が現れる。そのように保持時間の延長は、最初はマルテンサイト含量、ひいては降伏強度の増大を引き起こす。保持時間が増すにつれて、この効果は弱くなってきて、本発明によれば約60秒後に降伏強度の低下が観察され得る。
【0053】
降伏強度の増加と並行して、本発明に従って行なわれる冷却停止温度への冷却及び引き続き本発明により特定された時間この温度で鋼板製品を保持することによって、形成特性の改善が達成される。引張強度及び引張伸長を最大にすべき場合は、むしろ短い範囲、すなわち10〜30秒の範囲で保持時間t
Qをとどめておくべきである。30〜60秒のより長い保持時間t
Qは、形成特性にプラスの影響を与える傾向がある。これは特に曲げ角度に当てはまる。
【0054】
下記方程式を用いてマルテンサイト開始温度T
MSを推定することができる。
【数4】
【0055】
実際にはマルテンサイト停止温度T
Mfを下記方程式を用いて計算することができる。
【数5】
【0056】
この方程式は、下記仮定に基づいたKoistinen氏とMarburger氏の方程式(非特許文献2参照)から導かれた:
a)95%のマルテンサイト比率が達成された場合にマルテンサイト変換が完了したとみなす。
b)組成依存定数αは−0.011である。
c)マルテンサイト停止温度は冷却停止温度と同じである。
【0057】
冷却停止温度T
Qは典型的に少なくとも200℃である。
【0058】
鋼板製品の冷却及び冷却停止温度T
Qでの保持後、冷却停止温度T
Qから開始して、鋼板製品を2〜80℃/秒、特に2〜40℃/秒の加熱速度θ
P1で400〜500℃、特に450〜490℃の温度T
Pまで加熱する。
【0059】
ここで温度T
Pまでの加熱は好ましくは1〜150秒の加熱時間t
A内に行なわれて、最適の経済効率を得る。同時にこの加熱は、以下にさらに詳細に説明する拡散距離x
Dへの寄与x
Drをもたらし得る。
【0060】
鋼板製品を加熱してから任意に500秒までの保持時間t
pi温度T
Pで保持をもする目的は、過飽和マルテンサイトからの炭素で残留オーステナイトを富化することである。これは「炭素分配」と呼ばれ、技術的専門用語では「分配」とも呼ばれる。保持時間t
piは特に200秒までであり、10秒未満の保持時間t
piが特に実用向きである。
【0061】
分配は、早ければ加熱中にもいわゆる「傾斜分配」として起こることがあり、或いは加熱後に分配温度T
Pで保持することによって(いわゆる「等温」分配)又は等温分配と傾斜分配の組合せによって起こり得る。このようにして特定の焼戻し効果、すなわち、マルテンサイトの過剰焼戻しなしでその後の溶融コーティングに必要な高温を達成することができる。より高い温度勾配はシステム内でより多くのエネルギーを消費するので、傾斜分配中に求められる、等温分配と比べて遅い加熱速度θ
P1は、いずれの場合も少ないエネルギー利用で、特定された分配温度T
Pの特に正確な制御を可能にする。
【0062】
塑性伸びを遮断し、マルテンサイトの強度並びに曲げ角度及び穴拡げ形成特性に悪影響を及ぼす粗い炭化物のような過剰焼戻しマルテンサイトのマイナス効果は、本発明に従う保持温度T
Pへの加熱によって回避され、分配温度での任意的な保持は、過剰焼戻しマルテンサイトの回避の信頼性をさらに高める。特に傾斜分配時間t
PRと等温分配時間t
PI、及び分配温度T
Pで構成される、本発明に従って特定される総分配時間t
PTを観察することによって、炭化物の形成及び残留オーステナイトの分解を制御様式で抑制する。
【0063】
同時に、本発明に従って特定される分配温度T
Pは、オーステナイト中の炭素の十分な均質化を保証し、この均質化は、加熱速度θ
P1、分配温度T
P及び適切な保持時間t
Pi分配温度T
Pでの任意的な保持によって影響を受け得る。
【0064】
オーステナイト中の炭素の均質化を評価するため、いわゆる「拡散距離x
D」を使用する。この拡散距離x
Dは、種々の加熱速度、分配温度及び可能な分配時間を互いに比較できるようにする。拡散距離x
Dは、傾斜分配の結果として生じる成分x
Drと、等温分配の結果として生じる成分x
Diとで構成される(x
D=x
Di+x
Dr)。本方法をどのように行なうかに応じて、いずれの場合も成分x
Dr又はx
Diが「0」であってもよく、本発明の方法の結果は常に、>0の拡散距離x
Dを与える。
【0065】
任意に行なわれる等温分配について、拡散距離x
Di、すなわち等温保持の過程で得られる拡散距離x
Dへの寄与は下記方程式を用いて計算可能である。
【数6】
【0066】
傾斜分配中は炭素の再分布は等温的に起こらないので、加熱時間にわたって達成される拡散距離x
Drを計算するためには下記数値近似を用いる。
【数7】
式中、Δt
Pr,jは、2つの計算間の時間ステップであり(秒で)、D
jは、いずれの場合もそれぞれの時間ステップの瞬間に、上述したように計算されるカレント拡散係数Dである。時間ステップΔt
Pr,jを決定する際には、例として2つの計算間で1秒が過ぎると仮定する(Δt
Pr,j=1秒)。
【0067】
分配温度T
Pまでの加熱中の分配時間t
Prについては基本的に下記式が当てはまる。
【数8】
【0068】
すなわち、分配温度T
Pまでの加熱が非常に速く行なわれて、加熱中に炭素の有意な再分布が起こらない場合には、t
Pr=0であり、結果として寄与x
Dr=0をも仮定することができる。分配時間t
PRを最大85秒に制限した場合、特に経済的に有効な操作モードという結果になる。
【0069】
本発明の方法は、考慮すべき拡散距離x
Di、x
Drの合計がいずれの場合も少なくとも1.0μm、特に少なくとも1.5μmの場合に最適の結果を与える。
【0070】
拡散距離が増加するように熱処理の操作パラメーターを設定することによって、穴拡げ率にわずかに影響を及ぼすだけでそれぞれの鋼板製品の曲げ角度を改善することができる。拡散距離が増大するにつれて、さらに穴拡げ率を改善することもできるが、これは曲げ特性の低下を伴うことがある。さらに大きい拡散距離は究極的に曲げ特性と穴拡げ率の両方の低下をもたらす。本発明の方法では、1.5〜5.7μm、特に2.0〜4.5μmの拡散距離が達成されるように操作パラメーターを設定すれば最適な結果が得られる。
【0071】
拡散距離x
Dを用いるか又はその値に不可欠な影響変数を変えることによって、分配に先行する冷却及び保持工程との相互作用により、降伏強度対引張強度比が影響を受けることもある。例えば、冷却工程では低い冷却停止温度T
Q及び/又はより長い保持時間t
Qを選択することによって40%以上の高いマルテンサイト比率が生じ、高い分配温度T
P及び時間t
Ptを選択することによって、より大きい拡散距離x
D、ひいては究極的には高い降伏強度対引張強度比を達成することができる。約40%未満のマルテンサイトが生じる場合には、降伏強度対引張強度比に及ぼす拡散距離x
Dの影響はかなり低い。
【0072】
降伏強度対引張強度比は、鋼の硬化可能性の尺度である。約0.50の相対的に低い降伏強度対引張強度比は引張伸長にプラスの効果を有するが、穴拡げ率及び曲げ角度には悪影響を及ぼす。約0.90のより高い降伏強度対引張強度比は穴拡げ率と曲げ特性を改善できるが、引張伸長中に劣化をもたらす。
【0073】
分配後、−3℃/秒〜−25℃/秒、特に−5℃/秒〜−15℃/秒の冷却速度θ
P2で開始して分配温度T
Pから鋼板製品を冷却する。
【0074】
本発明の方法の過程で本発明の鋼板製品に溶融コーティングをも与えるべき場合には、分配温度T
Pから開始して冷却速度θ
P2で鋼板製品を最初に400℃以上500℃未満の溶融浴入口温度T
Bまで冷却する。
【0075】
次に溶融浴を通すことによって鋼板製品は溶融コーティングを受け、溶融浴を出るとすぐに鋼板製品上に生成された保護層の厚さがストリッピングジェット等の通常の方法で整えられる。
【0076】
溶融浴を出て保護層を備えた鋼板製品は、再びマルテンサイトを生じさせるため、最終的にθ
P2の冷却速度で周囲温度まで冷却される。
【0077】
本発明の方法は、亜鉛コーティングを備えた鋼板製品の製造に特に適している。しかしながら、溶融めっき、例えばZnAl、ZnMg又は類似の保護コーティング等でそれぞれの鋼板製品に塗布できる他の金属保護層も可能である。
【0078】
本発明に従って製造された製品は、(表面パーセントで)
23〜80%の焼戻しマルテンサイト(第1冷却工程からのマルテンサイト)、5〜70%の焼戻しをしていない新マルテンサイト(第2冷却工程からのマルテンサイト)、5〜30%の残留オーステナイト、10%未満のベイナイト(0%が含まれる)及び5%未満のフェライト(0%が含まれる)を含むミクロ構造を有する。
【0079】
フェライト:フェライトは、マルテンサイトに比し、本発明により作製される材料の強度にわずかしか寄与しない。従って本発明により作製される鋼板製品のミクロ構造中のフェライトの存在は望ましくなく、常に5表面パーセント未満でなければならない。
【0080】
ベイナイト:オーステナイトのベイナイトへの相変換中、材料に溶解している炭素の一部は、ベイナイト変換中にベイナイトに組み入れられた別の部分とともにオーステナイト−ベイナイト界面の前に集まる。従ってベイナイト形成の場合には、ベイナイト形成がない場合より低い比率の炭素が残留オーステナイトの富化に利用可能である。残留オーステナイト用にできる限り多くの炭素を利用できるようにするためには、ベイナイト含量はできる限り低く設定しなければならない。所望の特性プロファイルを達成するためにはベイナイト含量を最大10表面パーセントに制限すべきである。しかしながら、5表面パーセント未満のさらに低いベイナイト含量で、さらに好ましい特性が生じる。理想的にはベイナイトの形成を完全に回避、すなわちベイナイト含量を0表面パーセントの低さに減らすことができる。
【0081】
焼戻しマルテンサイト:分配前に存在するマルテンサイトとして、焼戻しマルテンサイトは、分配処理中に残留オーステナイト内で拡散して残留オーステナイトを安定化する炭素源である。十分な炭素を利用できるようにするためには、焼戻しマルテンサイトの比率は少なくとも
23表面パーセントでなければならない。しかしながら、第1冷却後に、少なくとも20表面パーセントの残留オーステナイトの比率を設定できるように、80表面パーセントを超えてはいけない。第1冷却後に存在する残留オーステナイトの比率は、熱処理の完了時の残留オーステナイト及び第2冷却プロセスからの焼戻しをしていないマルテンサイトの形成の基礎である。
【0082】
焼戻しをしていないマルテンサイト:硬いミクロ構造成分としてマルテンサイトは材料の強度にかなり貢献する。高い強度値を得るためには、焼戻しをしていないマルテンサイトの比率は5表面パーセント以上であり、かつ焼戻しマルテンサイトの比率は
23表面パーセント以上でなければならない。十分な残留オーステナイトの形成を保証するためには、焼戻しをしていないマルテンサイトの比率は70表面パーセントを超えるべきでなく、焼戻しマルテンサイトの比率は80表面パーセントを超えるべきでない。
【0083】
周囲温度で最終製品中に存在する残留オーステナイト:残留オーステナイトは伸び特性の改善に寄与する。材料の十分な伸びを保証するためには、この比率は少なくとも5表面パーセントでなければならない。他方で残留オーステナイトの比率が30表面パーセントを超えると、これはマルテンサイトが少な過ぎて強度を高めるために利用できないことを意味する。
【0084】
従って本発明の方法は、1200〜1900MPaの引張強度、600〜1400MPaの降伏強度、0.40〜0.95の降伏強度対引張強度比、10〜30%の伸び(A
50)及び非常に良い成形性を有する精巧な鋼板製品の製造を可能にする。本発明の鋼板製品では、これは15000〜35000MPa%のR
m*A
50の積に反映される。同時に本発明の鋼板製品は、100〜180°の高い曲げ角度α(DIN EN 7438に従ってマンドレル半径=2×シート厚について)及び穴拡げ率λについて50〜120%という非常に良い値(ISO−TS 16630に準拠)を有する。従って本発明の鋼板製品は、高い強度と良い成形特性を併せ持つ。
【0085】
図1は、本発明の方法の変形を示す。この方法では、冷却停止温度T
Qから分配温度T
Pまで鋼板製品を加熱するのに必要な加熱時間t
Aが傾斜分配時間t
Prに等しく、この方法の過程で鋼板製品は亜鉛浴(「亜鉛ポット」)内で溶融めっきを受ける。
【0086】
基本的に溶融コーティングを含む本発明の方法の変形は、本発明の方法に特定の変更を加えれば、通常の溶融コーティング施設で実施可能である。930℃より高いストリップ温度を得るために、セラミックノズルが必要なことがある。−120K/秒の高い冷却速度θ
Qは最近のガスジェット冷却で達成可能である。停止温度T
Qで保持した後に行なわれる分配温度T
Pへの加熱は、ブースターを用いて達成可能である。分配工程後にシートは溶融浴を通過し、制御された条件下で冷却されて、もう一度マルテンサイトを生成する。
【0087】
本発明を多くの実施形態で試し、試験した。
【0088】
そうするために下表1中の鋼A〜Nから作製した冷却圧延鋼ストリップのサンプルを調査した。
【0089】
サンプルは、本発明に従って特定し、かつ
図1に示す方法工程を下表2に示すプロセスパラメーターで受けた。その際にプロセスパラメーターを本発明に従う場合と従わない場合の間で変えて、本発明に従って特定した手順外の手順の効果を実証した。拡散距離の計算は1秒毎の時間ステップに基づいている。
【0090】
このようにして得られた冷間圧延ストリップサンプルの機械的特性を表3に要約する。得られた冷間圧延ストリップサンプルのミクロ構造成分を表4に「表面パーセント」で与える。ここでは焼戻しをしていないマルテンサイト、焼戻しマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトの相分率をISO 9042(光学的測定法)に従って測定した。X線回折によって+/−1の表面パーセントの精度で残留オーステナイトをも測定した。5表面パーセント未満の比率を微量「Sp.」と称する。
【0091】
表、特許請求の範囲及び明細書では、下記略号を使用している。