【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0032】
(実施例1)
[正極の作製]
(1)リチウム含有遷移金属酸化物の作製
Mg及びAlをそれぞれ1.5mol%固溶し、かつZrを0.05mol%含有したコバルト酸リチウムを作製した。具体的には、原料としてのLi
2CO
3、Co
3O
4、MgO、Al
2O
3、及びZrO
2を所定の比率で混合し、空気雰囲気中にて、850℃で24時間熱処理することにより作製した。
【0033】
(2)正極活物質の作製
上記コバルト酸リチウム1000gを、3リットルの純水に添加し、攪拌して、コバルト酸リチウムが分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、硝酸エルビウム5水和物3.18gを溶解した溶液を添加した。硝酸エルビウム5水和物を溶解した液を懸濁液に添加する際には、10質量%の水酸化物ナトリウム水溶液を添加し、コバルト酸リチウムを含む溶液のpHを9に保った。次いで、これを吸引濾過し、水洗して、得られた粉末を120℃で乾燥した。これにより、コバルト酸リチウムの表面に水酸化エルビウムが均一に付着したものが得られた。
【0034】
その後、水酸化エルビウムが付着したコバルト酸リチウムを、300℃で5時間空気中にて熱処理し、正極活物質を得た。得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、コバルト酸リチウムの表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のエルビウム化合物が均一に付着していた。エルビウム化合物の付着量は、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.12質量%であった。尚、エルビウム化合物の付着量は、ICP(Inductivity Coupled Plasma:プラズマ発光分析)により測定した。
【0035】
(3)正極の作製
上記正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを混合して、正極合剤スラリーを調製した。尚、正極活物質と、導電剤と、結着剤との割合は、質量比で、95:2.5:2.5のなるように規定した。最後に、この正極合剤スラリーを正極集電体であるアルミ箔の両面に塗布した後、乾燥し、更に、正極活物質の充填密度が3.60g/cm
3となるように圧延して、正極を作製した。
【0036】
[負極の作製]
(1)負極活物質としての酸化ケイ素の作製
先ず、SiO
X(X=0.93)粒子の表面に、SiO
Xに対する割合が10質量%となるように炭素をコーティングした。尚、炭素のコーティングはアルゴンガス雰囲気中において、CVD法を用いて行った。次に、炭素被覆されたSiO
X粒子をアルゴンガス雰囲気下1000℃で不均化処理を行った後、解砕・分級を行って、負極活物質としてのSiO
Xを得た。
【0037】
(2)負極の作製
黒鉛(人造黒鉛)と上記SiO
Xとを混合して負極活物質を作製した。この際、負極活物質の総量(黒鉛とSiO
Xとの合計)に対するSiO
Xの割合が2質量%となるように規制した。次に、この負極活物質と、分散剤としてのCMCと、結着剤としてのSBRとを、負極活物質と分散剤と結着剤との質量比が97:1.5:1.5となるように水溶液中で攪拌し、負極合剤スラリーを調製した。次いで、ドクターブレード法を用いて、上記負極合剤スラリーを、銅箔から成る負極集電体の両面に塗布、乾燥し、更に、負極活物質の充填密度が1.70g/cm
3となるように圧延して、負極を作製した。
【0038】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比3:6:1の割合で混合して、混合溶媒を調製した。次に、この混合溶媒に対し、1,3−ジオキサン(環状エーテル化合物)を0.5質量%添加し、更に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/リットルの割合で溶解させて、非水電解質液を調製した。
【0039】
[電池の作製]
上記正極と上記負極とを、セパレータを介して対向するように巻取って巻取り体を作製した後、アルゴン雰囲気下のグローボックス中にて、該巻取り体を非水電解液とともにアルミニウムラミネート内に封入することにより、電池容量が800mAhの非水電解質二次電池を得た。尚、電池サイズは、厚み3.6mm、幅3.5cm、長さ6.2cmである。
このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0040】
(実施例2、3)
非水電解液の調製時に、混合溶媒に対する1,3−ジオキサンの割合を、それぞれ、1.0質量%、2.0質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、電池A2、A3と称する。
【0041】
(実施例4)
非水電解液の調製時に添加する環状エーテル化合物として、1,3−ジオキサンに代えて1,4−ジオキサンを用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0042】
(実施例5、6)
負極活物質の混合時に、負極活物質の総量に対するSiO
Xの割合を、それぞれ、0.5質量%、5.0質量%としたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、電池A5、A6と称する。
【0043】
(実施例7〜9)
非水電解液の調製時に、1,3−ジオキサンに加えて、それぞれ、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1,4−ブタンスルトンを添加したこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。尚、混合溶媒に対する1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1,4−ブタンスルトンの割合は、全て1.0質量%である。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、電池A7〜A9と称する。
【0044】
(実施例10)
コバルト酸リチウムの表面に付着した希土類化合物として、エルビウム化合物に代えてネオジム化合物を用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。具体的には、正極活物質を作製する際に、硝酸エルビウム5水和物3.18gを溶解した水溶液に代えて、硝酸ネオジム6水和物3.65gを溶解した水溶液を用いた点が異なる。
得られた正極活物質について、SEMにて観察したところ、正極活物質の表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のネオジム化合物が均一に付着していた。
ネオジム化合物の付着量は、ネオジム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.12質量%であった。尚、ネオジム化合物の付着量は、ICPにより測定した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A10と称する。
【0045】
(実施例11)
コバルト酸リチウムの表面に付着した希土類化合物として、エルビウム化合物に代えてサマリウム化合物を用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。具体的には、正極活物質を作製する際に、硝酸エルビウム5水和物3.18gを溶解した水溶液に代えて、硝酸サマリウム6水和物3.54gを溶解した水溶液を用いた点が異なる。
得られた正極活物質について、SEMにて観察したところ、正極活物質の表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のサマリウム化合物が均一に付着していた。サマリウム化合物の付着量は、サマリウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.12質量%であった。尚、サマリウム化合物の付着量は、ICPにより測定した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A11と称する。
【0046】
(実施例12)
コバルト酸リチウムの表面に付着した希土類化合物として、エルビウム化合物に代えてランタン化合物を用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。具体的には、正極活物質を作製する際に、硝酸エルビウム5水和物3.18gを溶解した水溶液に代えて、硝酸ランタン6水和物3.75gを溶解した水溶液を用いた点が異なる。
得られた正極活物質について、SEMにて観察したところ、正極活物質の表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のランタン化合物が均一に付着していた。
ランタン化合物の付着量は、ランタン元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.12質量%であった。尚、ランタン化合物の付着量は、ICPにより測定した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A12と称する。
【0047】
(比較例1)
負極活物質として、黒鉛のみを用いた(SiO
Xは含まれていない)以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。
【0048】
(比較例2)
非水電解液を調製する際、1,3−ジオキサンに代えてジエチルエーテルを添加したこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0049】
(比較例3)
負極活物質として黒鉛のみを用いると共に、非水電解液を調製する際、1,3−ジオキサンを添加しなかったこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
【0050】
(比較例4)
コバルト酸リチウムの表面に付着した希土類化合物として、エルビウム化合物に代えてジルコニウム化合物を用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして電池を作製した。具体的には、正極活物質を作製する際に、硝酸エルビウム5水和物3.18gを溶解した水溶液に代えて、ジルコニウムオキシナイトレート2水和物3.51gを溶解した水溶液を用いた点が異なる。
得られた正極活物質について、SEMにて観察したところ、正極活物質の表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のジルコニウム化合物が均一に付着していた。ジルコニウム化合物の付着量は、ジルコニウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.12質量%であった。尚、ジルコニウム化合物の付着量は、ICPにより測定した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z4と称する。
【0051】
(比較例5)
負極活物質として、黒鉛のみを用いた(SiO
Xは含まれていない)以外は、上記比較例4と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池Z5と称する。
【0052】
(実験)
上記電池A1〜A12、Z1〜Z5を下記条件で充放電し、高温充電保存特性(高温充電保存膨れ)及び高温過放電保存特性(高温過放電保存膨れ)を調べたので、それらの結果を表1に示す。
【0053】
[高温充電保存特性]
1.0It(800mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4Vの定電圧で電流0.05It(40mA)になるまで定電圧充電した。この充電終了後に、保存前電池厚みTaを測定した。次に、上記充電した電池を80℃の恒温槽内で2日間保存した後、恒温槽から電池を取り出した。次いで、室温にて電池を1時間放置した後、保存後電池厚みTbを測定し、下記(1)式から、高温充電保存膨れを算出した。
高温充電保存膨れ=(保存後電池厚みTb)−(保存前後電池厚みTa)・・・(1)
【0054】
[高温過放電保存特性]
0.2It(160mA)の電流で電池電圧2.0Vまで定電流放電を行った後、保存前電池厚みTcを測定した。次に、上記過放電した電池を60℃の恒温槽内で20日間保存した後、恒温槽から電池を取り出した。次いで、電池を室温で1時間放置した後、保存後電池厚みTdを測定し、下記(2)式から、高温過放電保存膨れを算出した。
高温過放電保存膨れ=(保存後電池厚みTd)−(保存前後電池厚みTc)・・・(2)
【0055】
【表1】
【0056】
上記表1から明らかなように、電池A1〜A12は高温充電保存膨れが小さくて高温充電保存特性に優れ、且つ、高温過放電保存膨れが小さくて高温過放電保存特性に優れていることが認められる。これは、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着され、且つ、非水電解液に環状エーテル化合物が添加され、しかも、負極活物質にSiO
Xが含まれているからである。
【0057】
これに対して、電池Z1では、高温充電保存特性に優れるが、高温過放電保存特性に劣ることが認められる。電池Z1では、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着され、且つ、非水電解液に環状エーテル化合物が添加されているので高温充電保存特性に優れる。但し、負極活物質にSiO
Xが含まれていないので、高温過放電保存特性に劣る。
また、電池Z2では、高温充電保存特性に劣るが、高温過放電保存特性に優れることが認められる。電池Z2では、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着されているが、非水電解液に環状エーテル化合物が添加されていないので高温充電保存特性に劣る。但し、このように環状エーテル化合物が添加されていないので、高温過放電保存特性に優れる。
【0058】
更に、電池Z3では、高温充電保存特性に劣るが、高温過放電保存特性に優れることが認められる。電池Z3では、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着されているが、非水電解液に環状エーテル化合物が添加されていないので高温充電保存特性に劣る。
但し、環状エーテル化合物が添加されていないので、高温過放電保存特性に優れる。また、電池Z4では、高温充電保存特性に劣るが、高温過放電保存特性に優れることが認められる。電池Z4では、非水電解液に環状エーテル化合物が添加されているが、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着されていないので(Zr化合物が付着されるのみなので)高温充電保存特性に劣る。但し、負極活物質にSiO
Xを含んでいるので、高温過放電保存特性に優れる。
【0059】
加えて、電池Z5では、高温充電保存特性に劣り、且つ、高温過放電保存特性に劣ることが認められる。電池Z5では、非水電解液に環状エーテル化合物が添加されているが、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が付着されていないので高温充電保存特性に劣る。加えて、負極活物質にSiO
Xを含んでいないので、高温過放電保存特性に劣る。
【0060】
ここで、1,3−ジオキサンの添加量のみが異なる電池A1〜A3を比較すると、いずれも同等の特性を有することが認められる。したがって、1,3−ジオキサンの添加量が0.5質量%以上2質量%以下であれば、本発明の一の局面の作用効果を十分に発揮できる。また、環状エーテル化合物の種類のみが異なる電池A2、A4を比較すると、いずれも同等の特性を有することが認められる。したがって、環状エーテル化合物であれば、本発明の一の局面の作用効果を十分に発揮できる。更に、SiO
Xの割合のみが異なる電池A2、A5、A6を比較すると、SiO
Xの割合が多くなるほど、高温過放電保存特性が向上していることが認められる。したがって、高温過放電保存特性の向上という観点からは、SiO
Xの割合が多いのが好ましい。
【0061】
また、スルホニル基を含有する化合物の添加の有無だけが異なる電池A2と電池A7〜A9とを比較すると、スルホニル基を含有する化合物が添加された電池A7〜A9は当該化合物が添加されていない電池A2に比べて、高温充電保存特性と高温過放電保存特性に優れることが認められる。したがって、非水電解液にはスルホニル基を含有する化合物を添加するのが好ましい。
【0062】
電池A2と電池A10〜A12から、コバルト酸リチウムの表面に付着した希土類化合物はその種類を問わず、本発明の一の局面の作用効果を十分に発揮できることが認められる。特に、希土類化合物がサマリウム、ネオジム又はエルビウムの場合、高温充電保存膨れが更に抑制されることが認められる。