(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シール材が、熱膨張性耐火シート端部と区画との境界、熱膨張性耐火シート端部と配管類との境界、ならびに熱膨張性耐火シート同士の継ぎ目からなる群より選ばれる少なくとも一つに設置されている、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
前記熱膨張性耐火シートが、前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部と、前記熱膨張性耐火シートの端部から前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部に達する切断線とを備える、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の仕切部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に配管類を設置する場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔に配管類を挿通する必要がある。
しかしながら単に配管類を前記貫通孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散する問題がある。
【0003】
この問題に対応するためにこれまで様々な構造が提案されている。
図10〜
図12は従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
図10に示される通り、従来の第一の防火区画貫通部構造における構造物の仕切り部に設けられた区画として、建築物の中空壁1が使用されている。
前記中空壁1に円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2の中心を配管類3が挿通している。
前記配管類3は、ポリエチレンフォームからなる断熱層11と、鋼管からなる配管本体10とから形成されている。
【0004】
次に
図11に示される通り、前記配管本体10の周囲にある断熱層11を撤去する。
続いて
図12に示される通り、撤去した断熱層11の部分に、新たに鉱物繊維からなるミネラルウールを素材とする無機耐火材200を挿入して、前記従来の第一の防火区画貫通部構造が得られる。
【0005】
図13は前記鉱物繊維からなるミネラルウールを素材とする無機耐火材200を説明するための模式斜視図である。
前記無機耐火材200は円筒形状であり、長手方向に切断部分201を有する。この切断部分201を広げて前記配管本体10の周囲に前記無機耐火材200を挿入することにより、前記配管本体10の周囲に無機耐火材200を設置することができる。
前記従来の第一の防火区画貫通部構造は、火災の熱にさらされた場合でも前記ミネラルウールが燃えないことから延焼を防止することができる。
しかし前記従来の第一の防火区画貫通部構造は耐火性に優れる反面、前記断熱層11を撤去して、前記無機耐火材200を挿入する作業が煩雑であり、単位時間当たりの施工性に劣る。
【0006】
図14は、従来の第二の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
図14に示される通り、前記従来の第二の防火区画貫通部構造における構造物の仕切り部に設けられた区画として、前記従来の第一の防火区画貫通部構造の場合と同様の建築物の中空壁1が使用されている。
前記中空壁1には前記従来の第一の防火区画貫通部構造の場合と同様の円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2に鋼鉄の円筒状のスリーブ300が前記中空壁1に密着して設置されている。
そして前記スリーブ300の中心を配管類3が挿通している。
前記スリーブ300と前記配管類3との隙間に、前記配管類3の外周に巻き付けた熱膨張性耐火テープ310を挿入する。これにより
図14に示される、前記従来の第二の防火区画貫通部構造の防火区画貫通部構造が得られる。
【0007】
前記従来の第二の防火区画貫通部構造は、前記スリーブ300の中心部を前記配管類3が挿通している場合には施工可能であるが、前記配管類3が前記スリーブ300内部の下端に接して設置されている場合等には前記スリーブ300の内部に前記熱膨張性耐火テープ310を挿入する隙間がなく、前記施工することが極めて困難である。このため前記従来の第二の防火区画貫通部構造は単位時間当たりの施工性に劣る。
【0008】
図15は従来の第三の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
図15に示される通り、前記従来の第三の防火区画貫通部構造における構造物の仕切り部に設けられた区画として、前記従来の第一の防火区画貫通部構造の場合と同様の建築物の中空壁1が使用されている。
前記中空壁1には前記従来の第一の防火区画貫通部構造の場合と同様の円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2に配管類3が挿通している。
【0009】
図16は、前記従来の第三の防火区画貫通部構造に使用するカラーを説明するための模式斜視図である。
前記カラー400は金属製の円筒形状を有すると共に、前記中空壁1に固定するための固定部材410を有する。
前記カラー400の内面には熱膨張性耐火テープ71が貼着されている。このカラー400の内部に前記配管類3を挿通させ、前記固定部材410をタッカー等の固定手段を用いて前記中空壁1に固定することにより、前記従来の第三の防火区画貫通部構造が得られる。
【0010】
前記従来の第三の防火区画貫通部構造は耐火性に優れる反面、金属製のカラーを扱うため、多数の防火区画貫通部構造を施工するためには重量のある施工材料を運送する必要がある。このため前記従来の第三の防火区画貫通部構造は施工効率に劣る。
また、前記カラー400は前記中空壁から突出して設置されるため、前記中空壁1に対して壁紙や壁クロスを貼着する際の作業の妨げとなる問題があった。
さらに前記中空壁1に複数の配管類3が挿通している場合には、前記カラー400では対応できない問題もあった。
【0011】
図17および
図18は従来の第四の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
前記従来の第四の防火区画貫通部構では前記従来の第一の防火区画貫通部構に使用した配管類3に代えて、ポリ塩化ビニル管31が使用されている。
また前記ポリ塩化ビニル管31は前記中空壁1に設けられた貫通孔2の中心を挿通している。
前記ポリ塩化ビニル管31の周囲には熱膨張性耐火テープ70が巻きつけられている。
前記熱膨張性耐火テープ70および前記中空壁1の表面に接して熱膨張性耐火シート5,5を設置して、前記熱膨張性耐火シート5,5をタッカー20等の固定手段を用いて前記中空壁1に固定する。前記熱膨張性耐火シート5端部と中空壁1との境界等にシール材80を設置することにより、前記従来の第四の防火区画貫通部構が得られる。
前記従来の第四の防火区画貫通部構によれば、前記貫通孔2に対する前記ポリ塩化ビニル管31の挿通する位置に関係なく、簡単に防火措置を施すことができるとされる(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先に説明した前記従来の第四の防火区画貫通部構造が火災等の炎により加熱されると、前記熱膨張性耐火シート5,5が膨張残渣を形成する。この膨張残渣が前記貫通孔2を閉塞することから、前記従来の第四の防火区画貫通部構造は耐火性に優れることが期待される。
しかし本発明者らが検討したところ、前記従来の第四の防火区画貫通部構造が火災等の炎により加熱されて形成された前記膨張残渣が、前記従来の第四の防火区画貫通部構造から剥離脱落する場合のあることを突き止めた。
本発明の目的は、簡単に施工することができ、火災等の炎により熱膨張性耐火シートが加熱されて形成された膨張残渣が剥離脱落しにくい防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討したところ、構造物の仕切り部に設けられた区画と、前記区画に設けられた貫通孔と、前記区画の貫通孔に挿通された配管類と、前記区画表面の少なくとも一方に沿って前記配管類周囲の貫通孔全体を覆う熱膨張性耐火シートと、前記熱膨張性耐火シートを区画に固定するための固定部材からなり、前記配管類が、二以上の配管を含み、前記熱膨張性耐火シートが、前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部を備える防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、
[1]構造物の仕切り部に設けられた区画と、
前記区画に設けられた貫通孔と、
前記区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記区画表面の少なくとも一方に沿って前記配管類周囲の貫通孔全体を覆う熱膨張性耐火シートと、
前記熱膨張性耐火シートを区画に固定するための固定部材とからなり、
前記配管類が、二以上の配管を含み、
前記熱膨張性耐火シートが、前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部を備え、
前記熱膨張性耐火シートが、前記配管類と略隙間なく前記固定部材により前記区画の表面に固定されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0016】
また本発明の一つは、
[2]シール材が、熱膨張性耐火シート端部と区画との境界、熱膨張性耐火シート端部と配管類との境界、ならびに熱膨張性耐火シート同士の継ぎ目からなる群より選ばれる少なくとも一つに設置されている、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0017】
また本発明の一つは、
[3]前記熱膨張性耐火シートが、前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部と、前記熱膨張性耐火シートの端部から前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する開口部に達する切断線とを備える、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0018】
また本発明の一つは、
[4]前記熱膨張性耐火シートが、二以上の熱膨張性耐火シート片からなり、
前記二以上の熱膨張性耐火シート片が、それぞれ開口部分を備え、
前記二以上の熱膨張性耐火シート片のそれぞれの開口部分を組み合わせて形成される開口部が、前記区画の表面と平行な面による前記配管類の断面形状と略一致する、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0019】
また本発明の一つは、
[5]前記熱膨張性耐火シートが、不燃材層と、熱膨張性樹脂組成物層とを少なくとも積層してなり、
前記区画側から、前記熱膨張性樹脂組成物層および前記不燃材層の順に、前記熱膨張性耐火シートが、少なくとも一方の前記区画表面に沿って前記配管類周囲の貫通孔全体を覆う、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る防火区画貫通部構造は、前記配管類と略隙間なく前記固定部材により前記区画の表面に前記熱膨張性耐火シートを固定して簡単に得ることができるから、単位時間当たりの生産性に優れる。
【0021】
先に説明した前記従来の第一の防火区画貫通部構造の場合には、前記配管類3に設置された前記断熱層11を撤去しなければならないが、
図11に示される様に前記断熱層11を撤去することにより、前記断熱層11の持つ本来の性能を損なう場合があった。
また前記断熱層11を撤去する際には、撤去する断熱層11の長さに対応する中空壁1の正確な厚さを把握しておく必要があるが、外部から中空壁1の厚さを正確に把握することは難しい場合があった。
さらに前記配管類が二以上の配管を含む場合には、先に説明した前記従来の第一の防火区画貫通部構造を施工する際に、前記二以上の配管が接近して配置されていると、前記二以上の配管同士の間にある断熱層11を撤去する操作が困難となる。
【0022】
また先に説明した前記従来の第二の防火区画貫通部構造の場合には、前記配管類が二以上の配管を含むと、前記鋼鉄の円筒状のスリーブ300と前記配管との間の形状が複雑になるため、前記配管と前記鋼鉄の円筒状のスリーブ300との隙間を埋める作業が容易ではなかった。
また先に説明した前記カラー400を使用する前記従来の第三の防火区画貫通部構造の場合にも、前記カラー400の内部を前記二以上の配管が挿通している場合には、前記配管と前記カラー400との隙間を埋める作業が容易ではなかった。
【0023】
また先に説明した前記従来の第四の防火区画貫通部構造の場合には、前記ポリ塩化ビニル管31の周囲に前記熱膨張性耐火テープ70が巻きつけられていた。前記従来の第四の防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされると、前記熱膨張性耐火テープ70が前記貫通孔2を閉塞する方向、すなわち中空壁1の表面に対して主として水平方向に膨張する。
この一方、前記従来の第四の防火区画貫通部構造に使用される前記熱膨張性耐火シートは前記区画の表面に対して垂直方向に膨張するが、前記熱膨張性耐火テープ70は、前記中空壁1の表面に対して垂直方向にも膨張する。前記熱膨張性耐火テープ70の膨張に伴い生成される膨張残渣に押されて、前記熱膨張性耐火シートの膨張に伴い生成された膨張残渣が、前記区画表面から剥離脱落する場合がある。
【0024】
本発明に係る防火区画貫通部構造は、先に説明した前記従来の第一〜第四の防火区画貫通部構造の持つ問題点を統合的に解決するものであり、区画を二以上の配管を含む配管類が挿通する場合であっても、前記熱膨張性耐火シートに設けられる開口部の形状を前記二以上の配管の断面形状に合わせて形成することにより、前記熱膨張性耐火シートと前記二以上の配管との隙間が生じることを防ぐことができるから簡単に施工することができる。
さらに本発明に係る防火区画貫通部構造は、前記配管類に熱膨張性耐火テープを設置していないことから、火災等の熱により生成した前記熱膨張性耐火シートによる膨張残渣が区画表面から剥離脱落することを防止することもできる。
このため、本発明に係る防火区画貫通部構造は長時間に渡り耐火性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に使用する熱膨張性耐火シートの断面を拡大した模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に使用する熱膨張性耐火シートを設置する方法を説明するための模式斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明に使用する熱膨張性耐火シートを設置した状態を説明するための模式斜視図である。
【
図5】
図5は、実施例2に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例3に係る防火区画貫通部構造の施工方法を説明するための模式斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例3に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
【
図8】
図8は、実施例4に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
【
図9】
図9は、実施例5に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図10】
図10は、従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図11】
図11は、従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図12】
図12は、従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図13】
図13は、ミネラルウールを素材とする無機耐火材を説明するための模式斜視図である。
【
図14】
図14は、従来の第二の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図15】
図15は、従来の第三の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図16】
図16は、前記従来の第三の防火区画貫通部構造に使用するカラーを説明するための模式斜視図である。
【
図17】
図17は、従来の第四の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【
図18】
図18は、従来の第四の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は防火区画貫通部構造に関するものであるが、最初に本発明に使用する配管類について説明する。
前記配管類は、建築物、船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものである。
前記配管類としては、例えば、冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用配管、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用配管、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等の通信配管等、またこれらの液体移送用配管、気体移送用配管、通信配管等を内部に挿通させるためのスリーブ等が挙げられる。
これらの中でも施工性の観点から冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用配管が好ましく、冷媒管、熱媒管であればさらに好ましい。
【0027】
前記配管類は、液体移送用配管、気体移送用配管、通信配管、スリーブ等の配管の二以上を使用することができる。
【0028】
前記配管類の形状については特に限定はないが、例えば、前記配管類の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。
これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0029】
前記配管類の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、1〜1000mmの範囲であり、好ましくは5〜750mmの範囲である。
【0030】
前記配管類が液体移送用配管、気体移送用配管、通信配管等の場合には、通常0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜75mmの範囲である。
また前記配管類がスリーブの場合には、通常10〜1000mmの範囲であり、好ましくは50〜750mmの範囲である。
本発明に使用する前記配管類は、スリーブの内部に、液体移送用配管、気体移送用配管、通信配管等の配管が一または二以上挿通している多重配管であってもよい。
【0031】
前記配管類の素材については特に限定はないが、例えば、金属材料、無機材料、有機材料等の一種もしくは二種以上からなるものを挙げることができる。
前記金属材料としては、例えば、鉄、鋼、ステンレス、銅、二以上の金属を含む合金等を挙げることができる。
【0032】
また無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等を挙げることができる。
また有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン等の合成樹脂等を挙げることができる。
前記素材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0033】
本発明に使用する配管類は、前記金属材料配管、無機材料配管および有機材料配管等の一種以上であるが、前記金属材料配管、無機材料配管および有機材料配管等の二種以上を内筒や外筒に使用した積層管として使用することもできる。
前記配管類は金属材料配管、有機材料配管等が取扱い性の面から好ましく、具体的には鋼配管、銅配管、合成樹脂配管等であればさらに好ましい。
【0034】
本発明に使用する配管類は、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものであるが、前記区画としては、建築物の壁、間仕切り壁、床、天井等、船舶の防火区画や船室に設けられた鋼板等が挙げられる。
これらの区画に貫通孔を設けることにより、前記貫通孔に前記配管類を挿通させることが可能である。
【0035】
本発明に使用する前記区画の具体例としては、例えば、コンクリートスラブ、中空壁等を挙げることができる。
本発明に使用する中空壁はその内部に空間を有するものであればよく、特に限定はないが、例えば柱部材と耐熱パネル等を含むものが挙げられる。
具体的には例えば、木桟、金属フレーム、鉄筋コンクリート製の柱、鋼材からなる鉄骨等の少なくとも一つのスタッドに対して一又は二以上の耐熱パネル等を両側から固定した構造のもの等を挙げることができる。
【0036】
前記耐熱パネルには、例えば、セメント系パネル、無機セラミック系パネル等が使用される。
前記セメント系パネルとしては、例えば、硬質木片セメント板、無機繊維含有スレート板、軽量気泡コンクリート板、モルタル板、プレキャストコンクリート板等が挙げられる。
前記無機セラミック系パネルとしては、例えば、石膏ボード、けい酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、ミネラルウール板、窯業系板等が挙げられる。
【0037】
ここで前記石膏ボードとしては、具体的には焼石膏に鋸屑やパーライト等の軽量材を混入し、両面に厚紙を貼って成形したもので、例えば、普通石膏ボード(JIS A6901準拠:GB−R)、化粧石膏ボード(JIS A6911準拠:GB−D)、防水石膏ボード(JIS A6912準拠:GB−S)、強化石膏ボード(JIS A6913準拠:GB−F)、吸音石膏ボード(JIS A6301準拠:GB−P)等が挙げられる。
【0038】
前記耐熱パネルは一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0039】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、エポキシ樹脂、ゴム等の樹脂成分、リン化合物、熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、ガラスクロス等の無機繊維シート、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等の不燃材の一種もしくは二種以上を積層したものを使用することができる。
前記熱膨張性耐火シートは、不燃材層と、熱膨張性樹脂組成物層とを少なくとも積層したものを使用することが好ましい。前記不燃材層は、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等が最外層に配置されていればより好ましい。
さらに必要に応じて可燃材層も併用することができる。前記可燃材層としては、例えば、合成樹脂層、紙層、布層等が挙げられる。前記布層としては、例えば織布、不織布等を挙げることができる。
【0040】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック(登録商標。エポキシ樹脂、ゴムを樹脂成分とし、リン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物)等を入手して使用することが可能である。
【0041】
また本発明に使用するシール材としては、例えば、JIS A5758により規定されている建築用シーリング材、JIS A6024により規定されている建築補修用注入エポキシ樹脂シーリング材、JIS A6914により規定されている石膏ボード用目地処理材、モルタル、パテ、コーキング等を挙げることができる。前記シール材4は、施工性の観点からクロロプレンゴム等のゴムやシリコーン等に充填材、難燃剤等を配合してなるパテ、コーキング等であれば好ましい。
【0042】
次に本発明について図面に基づき実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
図1は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図であり、実施例1の防火区画貫通部構造を地面と水平な面により切断した断面を示したものである。
実施例1では構造物の仕切り部に設けられた区画として、建築物の中空壁1が使用されている。
前記中空壁1は2枚の石膏ボードが一組となって所定間隔を置いて設置されることにより形成されている。
【0044】
前記中空壁1は円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2を冷媒管である配管類3が挿通している。
【0045】
前記配管類3は、内部が中空の鋼管からなる二本の配管本体10,10と、前記配管本体10,10の外周に設けられた断熱層11とを備えるものである。前記断熱層11はポリエチレンフォームからなるものであり、冷媒管として使用される前記配管類3の内部の冷媒の温度を一定に保つ役割と、外部からの熱を遮断する役割を果たす。
本発明に使用する断熱層の素材は前記ポリエチレンフォームに限定されず、例えば、ポリプロピレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等、合成樹脂フォーム等の有機材料、ガラスウール、セラミックウール、ミネラルウール等の無機材料等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0046】
また前記配管類3は、前記貫通孔2の中央部を挿通している。
なお、前記配管類3は前記貫通孔2に対していずれの位置を挿通していても本発明の防火区画貫通部構造が得られる。
すなわち、前記貫通孔2の中心と前記配管類3の重心とが一致していても施工が可能であるし、前記貫通孔2の中心と前記配管類3の重心とが一致していない場合でも施工が可能であることから簡単に施工することができる。
これは以下の実施例の場合でも同様である。
【0047】
図2は本発明に使用する熱膨張性耐火シート5の断面を拡大した模式断面図である。
前記熱膨張性耐火シート5はアルミニウム箔6、ガラスクロス7、厚さが2mmのエポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物8および不織布9が積層された四層構造となっている。
【0048】
前記アルミニウム箔6およびガラスクロス7が積層されたアルミニウム箔ラミネートガラスクロスは不燃材層を形成する。このため前記熱膨張性耐火シート5が火災等の炎にさらされた場合でもアルミニウム箔ラミネートガラスクロスは燃えずに残るため、前記エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物8が膨張して形成された膨張残渣を支持することができる。
なお、前記不織布9は前記熱膨張性耐火シート5が火災等の炎にさらされた場合に焼失するため、前記エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物8の膨張が前記不織布9により妨げられることはない。
【0049】
また前記ガラスクロス7をエポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物8に積層することにより、加熱膨張したエポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物8の膨張残渣が前記ガラスクロスにより保持されるため、脱落することを防止することができる。
【0050】
図1では前記アルミニウム箔6が最外面となる様に、前記熱膨張性耐火シート5が、前記配管本体10,10の周囲の前記断熱層11ならびに前記貫通孔2を覆う様に配置されている。
前記熱膨張性耐火シート5は市販品であり、積水化学工業社製の熱膨張性耐火シート(エポキシ樹脂を樹脂成分とする熱膨張性樹脂組成物を含むシート。登録商標:フィブロック)を使用した。
【0051】
図3は本発明に使用する熱膨張性耐火シート5を設置する方法を説明するための模式斜視図であり、
図4は、本発明に使用する熱膨張性耐火シート5を設置した状態を説明するための模式斜視図である。
実施例1では一枚の熱膨張性耐火シート5が使用される。
前記熱膨張性耐火シート5は前記配管類3に含まれる前記配管本体10,10および断熱層11の長手方向に垂直な面で切断した断面と略同一の形状を有する開口部13が設けられている。
また前記熱膨張性耐火シート5には、前記前記熱膨張性耐火シート5の端部12から前記開口部13に達する切断線14が設けられている。
前記熱膨張性耐火シート5を、前記切断線14の部分で広げて、前記熱膨張性耐火シート5の前記開口部13を前記配管類3に設置することができる。
【0052】
次に固定部材としてのタッカー20を使用して、前記熱膨張性耐火シート5を前記中空壁1の表面に固定することができる。
前記熱膨張性耐火シート5を本発明に使用する区画に固定する手段に限定はなく、例えば、タッカー、ボルト、ピン、ビス等の一種もしくは二種以上の固定部材を使用することができる。
【0053】
上記の工程により、実施例1に係る防火区画貫通部構造100を得ることができる。
前記防火区画貫通部構造100が火災等の熱にさらされた場合には、前記熱膨張性耐火シート5が膨張して膨張残渣を形成する。この膨張残渣が前記中空壁1の貫通孔2を閉塞することから、火災等による延焼を防止することができる。
【0054】
また実施例1に係る防火区画貫通部構造100は、配管類3に熱膨張性耐火テープ等の熱膨張性材料が設置されていない。
このため実施例1に係る防火区画貫通部構造100が火災等の熱にさらされて形成される前記熱膨張性耐火シート5の膨張残渣が、前記熱膨張性材料の膨張残渣により押されて剥離脱落することを防止することができる。
【実施例2】
【0055】
実施例2は、実施例1の変形例である。
図5は、実施例2に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
実施例1により得られた防火区画貫通部構造100の前記熱膨張性耐火シート5の端部12と中空壁1との境界、熱膨張性耐火シート5の端部と配管類3との境界、ならびに熱膨張性耐火シート5同士の継ぎ目である切断線14(
図4参照)にシール材700を設置して、実施例2に係る防火区画貫通部構造110を得た。
前記防火区画貫通部構造110における前記熱膨張性耐火シート5と中空壁1との隙間、前記熱膨張性耐火シート5と配管類3との隙間、ならびに前記熱膨張性耐火シート5の切断線14の隙間は全て前記シール材700により閉塞されているため、前記防火区画貫通部構造100における気密性を保持することができる。
【実施例3】
【0056】
実施例3は、実施例1の変形例である。
図6は実施例3に係る防火区画貫通部構造の施工方法を説明するための模式斜視図であり、
図7は実施例3に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
実施例1に使用した前記熱膨張性耐火シート5は一枚であった。これに対して実施例3に使用した熱膨張性耐火シート片50,50は二枚に分かれている点が異なる。
前記熱膨張性耐火シート片50,50は、それぞれ開口部分51,51を備える。前記熱膨張性耐火シート片50,50を組み合わせることにより、前記配管類3の断面と略同一形状の開口部13(
図3参照)を形成することができる。
実施例1の場合と同様、前記熱膨張性耐火シート片50,50を使用して、実施例3に係る防火区画貫通部構造120を得ることができる。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、実施例3の変形例である。
図8は、実施例4に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式斜視図である。
実施例3により得られた防火区画貫通部構造120の前記熱膨張性耐火シート5の端部と中空壁1との境界、熱膨張性耐火シート5の端部12と配管類3との境界、ならびに熱膨張性耐火シート5,5同士の継ぎ目にシール材700を設置して、実施例4に係る防火区画貫通部構造130を得た。
前記防火区画貫通部構造130における前記熱膨張性耐火シート5と中空壁1との隙間、前記熱膨張性耐火シート5と配管類3との隙間、ならびに前記熱膨張性耐火シート5,5同士の隙間は全て前記シール材700により閉塞されているため、前記防火区画貫通部構造130における気密性を保持することができる。
【実施例5】
【0058】
実施例5は、実施例1の変形例である。
図9は、実施例5に係る防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1の場合は防火区画貫通部構造100に使用する壁として中空壁1が採用されていた。これに対し、実施例5の場合は、防火区画貫通部構造に使用する壁としてコンクリート壁1aが採用されている点が異なる。
実施例5に示される通り、本発明に係る防火区画貫通部構造は、中空壁以外の中実壁にも応用することができる。