(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
患者に植え込まれるように構成された植え込み型治療発生器の作動方法であって、この治療発生器は、少なくとも1つの非近接場電極および少なくとも2つの近接場電極に動作可能に連結され、心臓信号を感知して心房性不整脈治療を生成するように構成されているものであり、この方法は、
前記植え込み型治療発生器が、心臓信号の評価に基づいて心房性不整脈を検出する工程と、
前記植え込み型治療発生器が、前記検出された心房性不整脈に応答して心房性不整脈治療を生成する工程と
を有し、
前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により前記心房性不整脈の変化について確認が行われることなく生成されるものであり、
前記心房性不整脈治療は、
前記心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を不安定化させるために、心室不応期中に前記少なくとも1つの非近接場電極に伝達される第1の段階のパルスセットと、
前記第1の段階のパルスセットの伝達に続いて起こる第1の段階間遅延と、
前記1若しくはそれ以上の特異点の再定在化を抑制するために前記少なくとも1つの非近接場電極に伝達される第2の段階のパルスセットと、
前記第2の段階のパルスセットの伝達に続いて起こる第2の段階間遅延と、
前記1若しくはそれ以上の特異点を沈静化するために前記少なくとも2つの近接場電極に伝達される第3の段階のパルスセットと
を含む少なくとも3つの段階を有するものである、
方法。
請求項1記載の方法において、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、1つの前記第1の段階のパルス、1つの前記第2の段階のパルス、および1つの前記第3の段階のパルスのシーケンスで生成されるものである方法。
請求項1記載の方法において、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、1つの前記第1の段階のパルス、1つの前記第2の段階のパルス、1つの前記第1の段階のパルス、1つの前記第2の段階のパルス、および1つの前記第3の段階のパルスのシーケンスで生成されるものである方法。
請求項1記載の方法において、前記植え込み型治療発生器は、前記心房性不整脈の効果的治療を提供しかつ前記患者が耐えることができる痛覚を生じさせる心房性不整脈治療に関するフィードバックに応答してプログラムされた各前記段階のパルスセット用の治療パラメータセットに基づいて、前記第1の段階、前記第2の段階、および前記第3の段階のパルスセットの各々を各前記電極に伝達する工程を実行するものである方法。
請求項1記載の方法において、前記植え込み型治療発生器は、当該治療発生器に格納されたヒューリスティックな学習アルゴリズムにより、各前記段階のパルスセット用の治療パラメータセットの設定を前記心房性不整脈治療の効果を反映するように動的に修正する工程を実行するものである方法。
請求項1記載の方法において、前記心臓信号の評価は心房性不整脈の周期長を決定することを含み、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、前記第1の段階と前記第2の段階との間のパルス連結期が前記心房性不整脈の周期長の70〜100%となるように生成されるものである方法。
請求項1記載の方法において、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、前記第1の段階のパルスセットが少なくとも10ボルトかつ100ボルト未満であるように生成されるものである方法。
請求項1記載の方法において、前記心臓信号の評価は心房性不整脈の周期長を決定することを含み、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、前記第1の段階が前記心房性不整脈の周期長の全持続時間未満となるように生成されるものである方法。
請求項1記載の方法において、前記心房性不整脈治療は、前記植え込み型治療発生器により、前記第1の段階が二相性パルスセットを有するように生成されるものである方法。
患者に植え込まれるように構成された植え込み型治療発生器であって、この治療発生器は、少なくとも1つの非近接場電極および少なくとも2つの近接場電極に動作可能に連結され、心臓信号を感知して前記患者に対して心房性不整脈治療を送達するように構成されているものであり、
心臓信号の評価して心房性不整脈を検出する手段と、
前記検出された心房性不整脈に応答して心房性不整脈治療を送達する手段であって、
前記心房性不整脈治療中、当該送達する手段により前記心房性不整脈の変化について確認は行われないものであり、前記心房性不整脈治療は、
前記心房性不整脈を不安定化させるために、心室不応期と同期して前記少なくとも1つの非近接場電極を介して伝達される第1の段階のパルスセットと、
前記心房性不整脈の再定在化を抑制するために、前記少なくとも1つの非近接場電極を介して伝達される第2の段階のパルスセットと、
前記心房性不整脈を沈静化するために、前記少なくとも2つの近接場電極を介して伝達される第3の段階のパルスセットと
を含む少なくとも3つの段階を有し、
各前記段階は段階間遅延により分離されるものである、
前記送達する手段と
を有する植え込み型治療発生器。
患者に植え込まれるように構成された植え込み型治療発生器であって、この治療発生器は、少なくとも1つの非近接場電極および少なくとも2つの近接場電極に動作可能に連結され、心臓信号を感知して前記患者に対して心房性不整脈治療を送達するように構成されているものであり、
心房活動および心室活動を表す心臓信号を感知するセンシング回路と、
前記センシング回路に動作可能に連結された検出回路であって、前記心房活動を表す前記心臓信号を評価して心房性不整脈の周期長を決定し、当該心房性不整脈の周期長に少なくとも部分的に基づいて心房性不整脈を検出するものである、前記検出回路と、
前記センシング回路に動作可能に連結され、前記検出された心房性不整脈に応答して心房性不整脈治療の生成および選択的送達を制御する制御回路であって、
前記心房性不整脈治療中、当該制御回路により前記心房性不整脈の変化について確認は行われないものであり、前記心房性不整脈治療は、
前記心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を不安定化させるために、心室不応期中に前記少なくとも1つの非近接場電極を介して伝達される第1の段階のパルスセットと、
前記1若しくはそれ以上の特異点の再定在化を抑制するために前記少なくとも1つの非近接場電極を介して伝達される第2の段階のパルスセットと、
前記1若しくはそれ以上の特異点を沈静化するために前記少なくとも2つの近接場電極を介して伝達される第3の段階のパルスセットと
を含む少なくとも3つの段階を有し、
各前記段階は段階間遅延により分離されるものである、
前記制御回路と
を有する植え込み型治療発生器。
【背景技術】
【0002】
心房頻拍性不整脈は最も一般的な心房性不整脈で、現在、約230万人のアメリカ人が罹患していると推定されている。心房頻拍性不整脈には主に2つの形態、AFおよびAFlがあり、これらの慢性形態は約10:1の比でそれぞれ発症する。現在の予測では、2050年までに約1200〜約1500万人のアメリカ人がAFに罹患することが示唆されている。その臨床的影響、すなわち血栓塞栓性脳梗塞、鬱血性心不全(congestive heart failure:CHF)、認知機能不全、そして可能性として死亡率の増加が明確に説明されていることから、この問題はいっそう重大なものとなっている。
【0003】
AFおよびAFlの発症と維持を助長する要因は、種々多数のものが考えられる。AF罹患率を高める心疾患はいくつかあり、これには、冠動脈疾患、心膜炎、僧帽弁疾患、先天性心疾患、CHF、甲状腺性心疾患、および高血圧症などが含まれる。その多くは心房圧を上昇させ、および/または心房拡張を引き起こしてAFを助長すると考えられている。また、AFは心疾患または全身性疾患のエビデンスが見られない場合にも生じ、これは「孤立性AF」として知られ、主に自律神経系に関わる。
【0004】
AFもAFlも、リエントリー(興奮旋回)機序により維持される。具体的には、心房組織がそれ自体を連続的に興奮させ、回帰性、すなわち円状または渦巻状の興奮パターンを生じる。AFlは、一般にマクロリエントリー回路として定義され、場合により機能的または解剖学的なブロック(区分)の外周で回転する。通常は、右心房の上大静脈および下大静脈の間の領域と、左心房の肺静脈領域とを含む主要な解剖学的構造が、1若しくは数個のリエントリー回路の同時画成に関与する。リエントリーの周期長(cycle length:CL)が比較的長く保たれる場合は、心房全体にわたり1対1の伝導が保たれ、AFlが認められる可能性がある。しかし、リエントリー回路のCLが十分短いと、リエントリー回路により生じる興奮波が周囲の心房組織に分散して、AFが続く可能性がある。AFlまたはAF中の電位図の形態は、不整脈を起こす解剖学的な位置およびリエントリー回路の周波数に応じて異なる。
【0005】
AFとAFlには、明らかな相互作用がある。AFlは、単一で一定の安定したリエントリー回路が存在する状態として定義される。一方、AFはランダムな活性化によることがあり、その場合、リーディングサークルタイプの複数のリエントリーウェーブレット(マザーローター)が、局所的な興奮性、不応性、および解剖学的な構造により決まる方向へ循環し続ける。AFは、自然発生的に、または介入、例えば薬剤投与、直流式除細動、または心房ペーシングの結果として、AFlに変換されることも、その逆もある。
【0006】
AFは世界で最も多く見られる臨床的な不整脈であり、人口の高齢化に伴い、より高い可能性で疾病および死亡の原因となる。医薬品による治療の選択肢はいくつかあるが、一部の患者、特に発作性AF患者の場合、薬物療法は効果がない。また、抗不整脈薬は、深刻な催不整脈性の副作用を有する場合もある。そのため、AFには薬物療法以外の治療が必要である。
【0007】
薬物療法に代わるAF治療の1つに、カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)がある。焼灼技術により改善された点は多いものの、これらの処置にもリスクがないわけではない。そのようなリスクとしては、心穿孔、食道損傷、塞栓症、横隔神経損傷、および肺静脈狭窄などがある。また、現在は、心房頻拍性不整脈を治療するための植え込み型装置も市販されている。これらの装置の一部では、近接場(ニアフィールド)オーバードライブペーシング(別名「抗頻拍ペーシング」(antitachycardia pacing:ATP))、従来の高エネルギー非近接場(ファーフィールド)除細動ショック、またはこれらの組み合わせを適用する。例えば、Combsらの米国特許第5,562,708号で説明されているように、ATPは、経験的に選択された周波数で単一のペーシング部位にペーシング刺激のバーストを送達することにより、リエントリー回路の興奮間隙を刺激してこの回路を中断および停止させる。
【0008】
植え込み型装置の場合、例えばAdamsらの米国特許第5,265,600号、Ayersの米国特許第5,676,687号、Parkらの米国特許第6,510,342号、Ujhelyiらの米国特許第6,813,516号、Krollの米国特許第7,079,891号および第7,113,822号では、非近接場オーバードライブペーシングとして知られている、非近接場電極から送達されるATPの代替タイプを使用することが提案されている。Ayersの米国特許第5,676,687号およびMehraらの米国特許第6,185,459号は、どちらも非近接場電極でなく近接場電極から送達されるオーバードライブペーシングの構成について説明している。これらの特許において、前記オーバードライブペーシング構成は、オーバードライブペーシングを利用してAF再発を防ぐ従来種類の除細動治療と併用するものとして説明されている。
【0009】
ATPは、より緩慢なAFlに有効であるが、ATPの効果は、約200ミリ秒(ms)未満のCLで低下することがあり、より高速なAFlおよびAFでは無効になりうる。ATPの不具合が起こりうるのは、ペーシングリードがリエントリー回路から一定距離に留置されており、ペーシングで誘発された波面が回路到達前に消滅してしまう場合である。これは、より高速な不整脈で可能性が高いシナリオである。また、非近接場ATPを連続的に適用すると心室細動を誘発するおそれのあることが知られているが、ATP送達のタイミングを調整すると心室細動誘発の可能性およびAF再発の可能性を低減できることが、例えばWarrenの米国特許第6,091,991号、Rodenhiserらの米国特許第6,847,842号、Wagnerらの米国特許第7,110,811号、およびChenらの米国特許第7,120,490号で説明されている。
【0010】
従来の心房性不整脈の別の治療態様は、除細動ショックの送達中、鎮静剤を投与した患者に標準的外部除細動器を使用するものである。特に心房性不整脈用に設計されたRamseyの米国特許第5,928,270号などが開示している体外除細動システムもある。しかしながら、体外配置した電極で効果的に不整脈を停止させるショックを外部からもたらすには、そのようなシステムから植え込み型装置の必要レベルより高エネルギーのショックを提供しなければならない。また、体外から与えたショックは、必然的に骨格筋肉組織にも影響を及ぼし、患者の痛みと不快感を増大させる結果を招く。
【0011】
再発性持続性AF患者を治療する別の方法では、Charmsの米国特許第3,738,370号およびMirowskiの米国特許第3,942,536号などで説明されている植え込み型心房除細動器(implantable atrial defibrillator:IAD)を使用する。初期の臨床試験において、IADは、AFに対する特異性および感度が高く、安全で有効なショックを送達することを示したが、適切な電気的除細動に必要なエネルギーレベルが痛みの閾値を超えることがあった。0.1Jを超える心内電気的除細動ショックは不快に感じられ(Ladwig,K.H.、Marten−Mittag,B.、Lehmann,G.、Gundel,H.、Simon,H.、Alt,E.、「Absence of an Impact of Emotional Distress on the Perception of Intracardiac Shock Discharges」(心内ショック放電の知覚に関する精神的苦痛の影響の不在)、International Journal of Behavioral Medicine、2003年、10(1):56−65)、患者は、これよりエネルギーレベルが高まっても区別できず、感じる痛みは同程度である。この痛みの閾値は、自律神経の緊張度、薬剤の存在、電極の位置、およびショック波形を含む多くの要因に依存する。さらに、痛みの閾値は患者ごとに異なる。
【0012】
効果的な心房細動に必要なエネルギーレベルを下げる試みは、種々のアプローチで行われている。いくつかのシステム、例えばKreyenhagenらの米国特許第5,282,836号、Ken Knightの米国特許第5,797,967号、Pendekantiらの米国特許第6,081,746号、第6,085,116号、および第6,292,691号、およびHsuらの米国特許第6,556,862号および第6,587,720号では、心房ペーシングパルスを適用して心房除細動ショックに必要なエネルギーレベルを低減する工程を開示している。ペーシングパルスにより送達されるエネルギーは、除細動ショックと比べて低い。Mongeonらの米国特許第5,620,468号では、低エネルギーパルスバーストのサイクルを心房に適用して心房性不整脈を停止させる工程について開示している。Warmanらの米国特許第5,840,079号では、心房除細動パルスを送達する前に低レートの心室ペーシングを適用する工程について開示している。Hsuらの米国特許第6,246,906号および第6,526,317号では、心房除細動パルスを送達する前に心房ペーシングパルスおよび心室ペーシングパルスの双方を送達する工程について開示している。Ayersらの米国特許第5,813,999号では、心房除細動用の二相性ショックの使用工程について開示している。Krollの米国特許第6,233,483号および第6,763,266号では、多段階除細動波形の使用について開示している一方、Cooperらの米国特許第6,327,500号では、比較的大エネルギーの除細動パルス1つに代えて、エネルギーを低めたシーケンシャル除細動パルスを2つ送達する工程について開示している。
【0013】
他のシステムでは、心房除細動ショックに伴う患者の痛み知覚を軽減する試みが行われている。例えば、Adamsの米国特許第5,792,187号では、ショック領域の神経構造に電磁刺激を与えて、ショックにより生じる痛み信号の伝達をブロックしている。Swerdlowらの米国特許第6,711,442号およびKrollらの米国特許第7,155,286号および第7,480,351号では、ショックパルスにより知覚される痛みおよび驚愕反応を軽減するための、高電圧ショックパルス適用前の「プリパルス」適用について開示している。Krollらの米国特許第5,925,066号では、心房細動の検出時に痛みを抑制する薬物送達システムと抗頻拍ペーシングとの併用について開示している。Benserの米国特許第7,142,927号では、意識不明の患者が種々のショックレベルに反応した際の物理的変位を測定し、過剰なレベルの不快感を生じないショックを提供する不整脈治療装置をプログラムしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの取り組みにもかかわらず、心房性不整脈治療方法および装置は、任意の所与の患者に対して痛みの閾値を超えることなく、かつ、薬物治療またはアブレーション治療に依存することなく、適切な電気治療を実現するための改善がいまだ必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示に係る方法および装置の諸実施形態は、患者の疼痛耐性閾値内で心房性不整脈を治療する3段階の電気的心房除細動治療を提供する。種々の実施形態に係る心房性不整脈治療は、3段階の心房電気的除細動治療を生成し、当該治療を選択的に送達するように構成されている植え込み型治療発生器と、当該植え込み型治療発生器に動作可能に接続された少なくとも2つのリードとを含み、各リードは、患者の心房に近接して配置されるように構成されている少なくとも1つの電極を有する。前記心房性不整脈治療装置は、当該心房性不整脈治療装置により心房性不整脈が検出されたとき前記電極の非近接場構成および近接場構成の双方により3段階の電気的心房除細動治療を患者に送達するための治療パラメータセットによりプログラムされる。
【0016】
前記3段階の電気的心房除細動治療は、心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を抜錨する(unpin:不定在化させる)第1の段階と、前記心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点の再定在化を防止する第2の段階と、前記心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を沈静化する第3の段階とを含む。種々の実施形態において、前記第1の段階は、少なくとも2回かつ10回未満の二相性電気的心房除細動パルスであって、10ボルトを超え100ボルト未満であり、パルス持続時間が10ミリ秒未満およびパルス連結期が20〜50ミリ秒である、前記二相性電気的心房除細動パルスを有するものであり、かつ前記第1の段階は、前記心房性不整脈の周期長の2倍未満の全持続時間を有し、R波に関連付けてトリガーされ、心室不応期中に送達され、各二相性電気的心房除細動パルスのエネルギーは0.1ジュール未満である。前記第2の段階は、心室非近接場興奮閾値(約10ボルト)未満の非近接場パルスを少なくとも5回かつ10回未満有し、そのパルス持続時間は5msを超え20ms未満であり、パルス連結期は心房性不整脈の周期長の70〜90%である。前記第3の段階は、10ボルト未満の近接場パルスを少なくとも5回かつ10回未満有し、そのパルス持続時間は0.2msを超え5ms未満であり、パルス連結期は心房性不整脈の周期長の70〜90%である。前記3段階の電気的心房除細動治療は、前記心房性不整脈の検出に応答して送達され、各段階は、100〜400ミリ秒の段階間遅延を有し、前記第3の段階の送達後まで前記心房性不整脈の変換の確認は行われない。
【0017】
種々の実施形態において、心房性不整脈治療装置は、患者の心房に近接して植え込まれ、非近接場パルスを送達するように構成されている少なくとも1つの電極と、患者の心房に近接して植え込まれ、近接場パルスを送達し、かつ心臓信号を検出するように構成されている少なくとも1つの電極とを含んでいる。植え込み型治療発生器は、前記電極に動作可能に接続された電池システムであって、当該植え込み型治療発生器のセンシング回路、検出回路、制御回路、および治療回路に動作可能に連結され、これらに給電を行う電池システムを含む。前記センシング回路は、心房活動および心室活動を表す心臓信号を検出する。前記検出回路は、心房活動を表す心臓信号を評価して心房周期長を決定し、この心房周期長に少なくとも部分的に基づいて心房性不整脈を検出する。前記制御回路は、前記心房性不整脈に応答して、3段階の電気的心房除細動治療の生成および前記電極への選択的送達を制御し、各段階は、100〜400ミリ秒の段階間遅延を有し、当該3段階の電気的心房除細動治療中に心房性不整脈の変換の確認は行われない。前記治療回路は、前記電極および前記制御回路に動作可能に接続され、前記少なくとも1つの非近接場電極に選択的に連結され、前記3段階の電気的心房除細動治療のうち第1の段階のエネルギーを選択的に蓄積する少なくとも1つの第1段階電荷蓄積回路と、前記少なくとも1つの非近接場電極に選択的に連結され、前記3段階の電気的心房除細動治療のうち第2の段階を選択的に蓄積する少なくとも1つの第2段階電荷蓄積回路と、前記近接場電極に選択的に連結され、前記3段階の電気的心房除細動治療のうち第3の段階を選択的に蓄積する少なくとも1つの第3段階電荷蓄積回路とを含む。
【0018】
本開示の方法および装置は、仮想電極分極(virtual electrode polarization:VEP)を有効に活用して、任意所与の患者の痛みの閾値を超えることなく、植え込み型システムによるAFおよびAFlの適切な治療を実現する。これは、ペーシング電極付近の1つの小さな領域だけでなく、心房組織の複数領域で一度に非近接場興奮を起こすことで可能になり、AFlおよびAFの双方についてより効果的な可能性がある。前記方法は従来の除細動治療と異なり、従来の除細動治療では、通常、高エネルギー(約1〜約7ジュール)の単相性または二相性ショックを1回だけ使用し、または2つの異なる非近接場電気刺激ベクトルの単相性ショックを2回順次使用する。各患者における痛みの閾値の差に対応するため、前記植え込み型装置の較正中および動作中の痛みの閾値推定時、あるいは学習アルゴリズムの最適化実行中、患者へのリアルタイムフィードバックを提供することができる。
【0019】
本開示の諸実施形態の方法および装置では、低電圧の位相性抜錨非近接場治療を近接場治療と併用して3段階の電気的心房除細動治療を形成することにより、心筋の不均一部位、例えば大静脈間領域または線維性領域に定在化するマザーローターのコアを不安定化または停止させる。この抜錨、再定在化防止、それに続く沈静化の技術により、従来の高エネルギー除細動と比べ、心房性不整脈の変換に必要なエネルギーを大幅に落とせるため、患者の痛みの閾値を超えることなく適切な電気的除細動を実現できる。
【0020】
適切な範囲の時間および周波数領域で非近接場低エネルギー電場刺激を与えると、リエントリーコア付近の興奮間隙を選択的に興奮させることにより、リエントリー回路を中断および停止させることができる。前記回路のコア付近の興奮間隙を刺激することにより、リエントリーの中断および停止が可能である。リエントリー回路は、機能的または解剖学的に不均一な領域に定在化し、これがリエントリーのコアに相当する。その不均一な領域付近の領域(リエントリーコア領域を含む)は、その周辺のより均一な組織と比べ、与えられた電場に反応してより大きく分極する。そのため、リエントリーのコア付近の領域を非常に小さい電場で選択的に興奮させると、定在化したリエントリー回路を不安定化または停止させることができる。一度リエントリー回路が不安定になると、それに続くショックでより容易に不整脈を停止させ、正常な洞律動を回復できるようになる。
【0021】
仮想電極興奮を局所的な抵抗不均一性として利用すると、リエントリーコア付近でリエントリー経路の鍵となる部分すなわち興奮間隙部分を脱分極させることができる。本発明の態様に基づいて心房性不整脈を停止させる3段階の電気的心房除細動治療には、種々のパルスプロトコールが考えられる。その一態様では、前記3段階の電気的心房除細動治療の第1および第2の段階で送達される非近接場パルスによりリエントリーを直接停止または不安定化させたのち、第3の段階で送達される近接場パルスによる追加刺激により停止させる。前記低エネルギー刺激は、痛みの閾値より低くできるため、不安および不快感による副作用を患者に生じない。別の態様では、心房性不整脈が検出された場合、それに応答して位相性抜錨非近接場治療を送達し、そのフォローアップ治療として治療後ペーシングを適用できる。
【0022】
この低エネルギー不整脈停止方法をさらに最適化するには、複数の電場構成を使ってリエントリーコア付近の興奮間隙を最適に興奮させ、リエントリー回路を中断させることができる。これらの電場構成は、冠静脈洞(近位部および遠位部の双方)と、右心耳と、上大静脈とにいくつかの除細動リードまたは電極を配置することにより実現される。別の実施形態では、心房中隔に電極を配置できる。電場は、これら電極のうち任意の2若しくはそれ以上の間に送達できるほか、これら電極の1つと本装置自体16との間に送達できる(hot can構成)。別の態様では、セグメント化された電極であって、その電極セグメントのうち1若しくはそれ以上に選択的に通電する能力のある電極を使用できる。次いで電場ベクトルの変調を使用すると、1セットのショック適用内または各試行ごとに、適用範囲を心房全体に最大化することができる。また、使用する最適な電場および適正な電場シーケンスも、患者ごとに試行錯誤で模索することができる。
【0023】
本発明の別の態様では、痛みの閾値プロトコールが治療に導入される。その場合、前記装置および複数のリードが、鎮静剤を投与した、または麻酔下の患者に植え込まれる。その患者への鎮静効果または麻酔効果が完全になくなった時点で、前記装置は、双方のリード間および前記canと前記リードとの間で作動された刺激により、前記植え込まれたリードを個別に調べるよう命令を受ける。前記患者は、各刺激について不快感のレベルを示すよう依頼される。前記刺激のエネルギーは、初期、低い値に設定されるが、その後ランプアップモードで高められ、前記患者はいつ痛みの閾値に達したか示すよう依頼される。それ以前に前記装置に格納されたデフォルトの最大刺激エネルギーレベルは、このプロトコールを通じて決定されたカスタム値で置き換えられ、当該装置は、これらのカスタム値より低く治療のエネルギーレベルを制限するようプログラムされる。
【0024】
本発明の別の態様では、リエントリーループを生じる可能性が高い位置について種々の出所から得られる治療前の外部情報、例えば前記患者の心電図または核磁気共鳴画像を使って、前記治療の一定の側面を促進することができる。そのような外部情報を使用すると、アブレーションまたは薬剤治療などの代替治療と比べて、前記処置に関する患者の適合性を決定でき、これによりリードの選択および配置を決定し、または初期のリード通電パターンを決定することができる。
【0025】
本発明の別の態様では、不整脈の電位図形態を文書化して格納し、それ以前に格納された形態と比較することができる。リエントリー回路の解剖学的位置は、心房の特定構造および生理学的リモデリングにより決定でき、これらは患者ごとに異なる。この実施形態は、いくつかの心房性不整脈形態が他より高い周波数で生じる傾向があるという所見を活用したものである。前記治療の電場構成およびパルスシーケンスの最適化は、電位図形態ごと別個に行ってメモリに格納し、それ以降の不整脈停止に役立てることができる。不整脈が検出されると、不整脈の電位図の形態が既知のものかどうか決定される。既知のものである場合は、メモリに格納された最適化済みの治療を適用して不整脈を変換することができる。
【0026】
本発明の一態様において、心房頻拍性不整脈の不安定化および停止の方法は、心房の電気的活動の検出から心房頻拍性不整脈の開始を検出する工程と、最小または主な不整脈周期長(cycle length:CL)を推定する工程と、心室の電気的活動を検出して右心室R波を検出する工程と、1または複数のAFまたはAFlサイクル中、2回〜10回のパルスを伴うパルス列としての非近接場心房電気ショックまたは刺激を、検出されたR波と同期的に送達する工程と、任意選択で、検出された心房細動周期長(atrial fibrillation cycle length:AFCL)最小値の約20%〜約99%であるCLを全般的に伴う心房ペーシングを送達する工程と、(a)R波検出を使って心室受攻期を決定することにより心房ショックによる心室細動の誘発を防止または抑制する工程と、(b)植え込まれた異なる心房除細動リードを通じて電気ショックを適用たのち心房活性化を検出して心房興奮閾値を決定する工程と、(c)植え込み中および較正手続き中の双方ならびに装置学習アルゴリズム実行中に患者から提供された情報を使用するフィードバック回路により、痛みの閾値を決定する工程と、(d)植え込まれた異なる心室除細動リードを通じて電気ショックを適用たのち心室活性化を検出して心室非近接場興奮閾値を決定する工程と、(e)前記心房興奮閾値を超えるエネルギーでいくつかのパルスを順次送達することにより、心房に非近接場刺激を送達する工程とを含む。
【0027】
本発明の別の態様において、心房除細動を必要とする心房を治療する植え込み型心臓治療装置は、電位図信号を生成するため異なる位置に配置された1若しくはそれ以上の植え込み電極を有する1若しくはそれ以上のセンサーと、異なる心房部位の近接場ペーシングのため異なる位置に配置された1若しくはそれ以上のペーシング用植え込み電極と、電流の非近接場送達のため異なる位置に配置された1若しくはそれ以上の植え込み除細動電極と、一連のパルスを送達できる植え込み型または体外式の装置とを含む。
【0028】
例示的な一実施形態において、前記植え込み型装置は、左鎖骨の真下に植え込まれる。この位置では、前記装置が、心臓の解剖学的縦軸(心臓の中央を通り心尖および心室中隔と交差する軸)におおよそ位置合わせされる。この態様で電極を植え込むと、前記装置および電極の構成は、傘頂部の構成と同様になり、すなわち、前記装置が傘の石突き(先端キャップ)を構成し、前記電極がその傘の骨の先端を構成する。前記装置の前記電極が順次通電されると、傘の布の三角形を「刺激」するのと同様な刺激電場を、時計回りまたは反時計回りの態様あるいはカスタムシーケンスで次々にもたらす。一態様では、右心室リードが前記植え込み型装置の一部として配置される。別の態様では、心室リードが配置されないため、リード植え込み中にリードが心臓弁を通過する必要がない。リードは、能動的または受動的に固定できる。
【0029】
別の態様では、前記装置を完全に自動化でき、心房性不整脈が検出された時点で自動的にショックプロトコールを送達できる。別の態様において、前記装置は手動ショック送達を有することができ、前記装置は、検出された不整脈を停止させるため、ショックプロトコールを送達する権限を医師に与えるよう患者にプロンプトを行い、または患者自らが当該装置を指示(操作)してショックプロトコールを送達するよう患者にプロンプトを行う。別の態様では、前記装置を半自動化できるため、「ベッドサイド」監視ステーションを使って、心房性不整脈の検出時、ショックプロトコールの開始を遠隔装置により承認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明は、本発明の種々の実施形態に関する以下の詳細な説明を添付の図面とともに考慮することで、より完全に理解される。
【
図1A】
図1Aは、ヒトの心臓後部と、植え込み型除細動リードおよびセンシング電極の解剖学的位置とを図式的に示したものである。
【
図1B】
図1Bは、ヒトの心臓後部と、植え込み型除細動リードおよびセンシング電極のほか右心室に配置された任意選択のリードの解剖学的位置とを図式的に示したものである。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態の治療方法の態様を例示したフローチャートである。
【
図3】
図3Aは、ランゲンドルフ灌流したウサギ心臓においてAChで誘発したAFlおよびAF中の心房後部を、フォトダイオードアレイの光学マッピング視野で蛍光光学マッピングして作成した写真である。
図3Bは、
図3AのAFlおよびAF中の活性化マップおよび光学活動電位(optical action potential:OAP)を示した図である。
【
図4】
図4Aは、単離したイヌ心房においてAChで誘発したAFlおよびAF中の右心房心内膜を、フォトダイオードアレイの光学マッピング視野で蛍光光学マッピングして作成した写真である。
図4Bは、
図4AのAFlおよびAF中の活性化マップおよびOAPを示した図である。
【
図5A】
図5Aは、ヒトの心臓後部、ならびに植え込み型除細動リードと、センシング電極と、第1のショックまたはパルス列の方向との解剖学的位置を簡略図で示したものである。
【
図5B】
図5Bは、ヒトの心臓後部、ならびに植え込み型除細動リードと、センシング電極と、第2のショックまたはパルス列の方向との解剖学的位置を簡略図で示したものである。
【
図5C】
図5Cは、ヒトの心臓後部、ならびに植え込み型除細動リードと、センシング電極と、第3のショックまたはパルス列の方向との解剖学的位置を簡略図で示したものである。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態の治療方法の態様を示したフローチャートである。
【
図7】
図7は、ヒトの心臓の簡略図であり、不整脈が起こる可能性のある位置を示している。
【
図8】
図8は、6つの単離したイヌ右心房のin vitro実験におけるショック振幅の要約を示したものである。
【
図9】
図9は、
図5A、5Bおよび5Cに示すように配置された電極で
図7の領域に適用する治療として考えられる電場シーケンスのリストを示したものである。
【
図10】
図10は、3段階の電気的除細動治療の形態で刺激を適用する
図2の工程の一実施形態を示した図である。
【
図11】
図11は、
図10の前記3段階の電気的除細動治療の刺激波形の一実施形態を示した図である。
【
図13】
図13は、
図11の前記波形の第2の再定在化防止段階の一実施形態を示した図である。
【
図15】
図15は、3段階の電気的除細動治療の形態で刺激を適用する
図2の工程の別の実施形態を示した図である。
【
図16】
図16は、
図15の前記3段階の電気的除細動治療の刺激波形の一実施形態を示した図である。
【
図17】
図17は、3段階の電気的除細動治療の形態で刺激を適用する
図2の工程のさらに別の実施形態を示した図である。
【
図18】
図18は、
図17の前記3段階の電気的除細動治療の刺激波形のさらに別の実施形態を示した図である。
【
図19A】
図19Aおよび19Bは、3段階の電気的除細動治療装置と、その治療回路との一実施形態をそれぞれ示したブロック図である。
【
図19B】
図19Aおよび19Bは、3段階の電気的除細動治療装置と、その治療回路との一実施形態をそれぞれ示したブロック図である。
【
図20A】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20B】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20C】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20D】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20E】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20F】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20G】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図20H】
図20A〜20Hは、
図19Aおよび19Bの前記装置の前記治療回路の各種部分を、種々の実施形態に基づいてより詳しく示した図である。
【
図21】
図21は、
図10の前記3段階の電気的除細動治療を受けたイヌ被験体のEKG波形を示した図である。
【
図22】
図22は、
図16の前記3段階の電気的除細動治療を受けたイヌ被験体のEKG波形を示した図である。
【
図23】
図23は、1段階、2段階、および3段階の治療の各種適用中に適用されたエネルギーを要約した4つの棒グラフである。
【0031】
本発明は種々の変更(修正)形態および代替形態が可能であるが、その具体的な内容は、図面の例で示したとおりであり、以下詳細に説明していく。ただし、これらは本発明を特定の実施形態に限定するよう意図されたものではないことを理解すべきである。むしろ、添付の請求項で定義しているとおり、本発明の要旨の範囲に含まれる変更(修正)形態と、等価形態と、代替形態とをすべてカバーするよう意図されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示の諸実施形態は、低電圧の位相性抜錨非近接場治療(low−voltage phased unpinning far−field therapy)を近接場治療と併用したものに基づいており、これにより3段階の電気的心房除細動治療が形成され、解剖学的リエントリー頻拍性不整脈が不安定化したのち、停止する。この抜錨(unpinning)、再定在化防止(anti−repinning)、それに続く沈静化(extinguishing)の技術により、従来の高エネルギー除細動と比べ、心房性不整脈の変換に必要なエネルギーを大幅に落とせるため、患者の痛みの閾値を超えることなく適切な電気的除細動を実現できる。
【0033】
心臓組織の解剖学的構造は、本質的に不均一な可能性がある。これら合胞体(シンシチウム)の不均一性は、その比率を控えめに見積もっても、非近接場興奮過程に寄与する有意な機序となる。Fishler,M.G.、Vepa K.による「Spatiotemporal Effects of Syncytial Heterogeneities on Cardiac Far−field Excitations during Monophasic and Biphasic Shocks」(単相性および二相性ショック中の心臓非近接場興奮に関する合胞体不均一性の時空間作用)(Journal of Cardiovascular Electrophysiolgy、1998年、9(12):1310−24)は、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
本願の目的上、用語「近接場(ニアフィールド)」は、刺激電極の近接部に起こる効果に関するものであってよく、すなわち、距離は心臓組織のいくつかの空間定数(ラムダ)に制限され、通常は最大数ミリメートルである。近接場効果は、前記電極からの距離に強く依存する。一方、用語「非近接場(ファーフィールド)」は、一般に、電極からの距離に対して独立した、またはより依存しない効果に関するものであってよい。前記効果は、空間定数(ラムダ)をはるかに超える距離で生じる可能性がある。
【0035】
一定範囲の時間および周波数領域で非近接場低エネルギー電場刺激を与えると、リエントリーコア付近の興奮間隙を選択的に興奮させることにより、リエントリー回路を中断および停止させることができる。高周波の非近接場電気刺激を与えると、近接場ATPと比べて有意に高い除細動結果が得られる。リエントリー回路は、機能的または解剖学的に不均一な領域に定在化する可能性があり、これがリエントリーのコアに相当する。電場による心筋興奮の仮想電極理論によると、コア付近の領域は、その周辺のより均一な組織と比べ、与えられた電場に反応してより大きく分極することが予測されている。心房性不整脈を停止させるショックプロトコールは、種々考案されている。そのため、一態様では、リエントリーのコア付近の領域を非常に小さい電場で選択的に興奮させて、定在化したリエントリー回路を不安定化または停止させることができる。一度リエントリー回路が不安定になると、それに続くショックでローターをより容易に心房組織の境界へと移動させ、正常な洞律動を回復できるようになる。
【0036】
従来の高電圧除細動治療において、二相性切断指数波形は、単相性ショックより低い除細動エネルギーを有する。ただし、位相性抜錨非近接場治療(phased unpinning far−field therapy:PUFFT)の場合、複数の二相性波形に比べ、複数の単相性波形を使用するとウサギモデルの心室性頻拍を終了させる上でより効果的であることが最近わかった。この違いは、膜分極に関する相反転の非対称作用により、最適な二相性除細動波形がVEP(仮想電極分極)を生じないことから存在するものと考えられた。Efimov,I.R.、Cheng,Y.、Van Wagoner,D.R.、Mazgalev,T.、Tchou,P.J.、「Virtual Electrode−Induced Phase Singularity: A Basic Mechanism of Defibrillation Failure」(仮想電極に誘発された位相特異点:除細動不全の基本機序)(Circulation Research、1998年、82(8):918−25)は、この参照により本明細書に組み込まれる。VEPは、Efimov,I.R.、Cheng,Y.N.、Biermann,M.、Van Wagoner,D.R.、Mazgalev,T.N.、Tchou,P.J.「Transmembrane Voltage Changes Produced by Real and Virtual Electrodes During Monophasic Defibrillation Shock Delivered by an Implantable Electrode」(植え込み型電極による単相性除細動ショックの送達中、実電極および仮想電極により生じる電圧変化)(Journal of Cardiovascular Electrophysiolgy、1997年、8(9):1031−45)、Cheng,Y.N.、Mowrey,K.A.、Van Wagoner,D.R.、Tchou,P.J.、Efimov,I.R.「Virtual Electrode−Induced Reexcitation:A Mechanism of Defibrillation」(仮想電極により誘発される再興奮:除細動の機序)(Circulation Research、1999年、85(11):1056−66)、およびFishler,M.G.「Syncytial Heterogeneity as a Mechanism Underlying Cardiac Far−Field Stimulation During Defibrillation−Level Shocks」(除細動レベルのショック適用中、非近接場心臓刺激の根底にある機序としての合胞体不均一性)(Journal of Cardiovascular Electrophysiolgy、1998年、9(4):384−94)でさらに議論されており、これらはこの参照によりすべて本明細書に組み込まれる。
【0037】
心室の除細動閾値(defibrillation threshold:DFT)は、電流場を直交回転させることにより有意に低下した。Tsukerman,B.M.、Bogdanov,Klu、Kon,M.V.、Kriukov,V.A.、Vandiaev,G.K.「Defibrillation of the Heart by a Rotating Current Field」(電流場の回転による心臓除細動)(Kardiologiia、1973年、13(12):75−80)は、この参照により本明細書に組み込まれる。2つのシーケンシャルショックを回転する電場ベクトルと組み合わせることにより、標準的なリード構成(右心房から冠静脈洞遠位部へ)の心房除細動閾値(atrial defibrillation threshold:ADFT)は、それに続けて、冠静脈洞近位部と、SVC(上大静脈)またはバッハマン束との電極間で心房中隔に第2のショックを与えると有意に低減できる。Zheng,X.、Benser,M.E.、Walcott,G.P.、Smith,W.M.、Ideker,R.E.「Reduction of the Internal Atrial Defibrillation Threshold with Balanced Orthogonal Sequential Shocks」(バランスを取った直交シーケンシャルショックによる体内心房除細動閾値の低減)(Journal of Cardiovascular Electrophysiolgy、2002年、13(9):904−9)は、この参照により本明細書に組み込まれる。ADFTは、バランスを取ったシーケンシャルショック(balanced sequential shocks)により、さらに低減できる。
【0038】
仮想電極興奮を局所的な抵抗不均一性として利用すると、リエントリーコア付近でリエントリー経路の鍵となる部分すなわち興奮間隙部分を脱分極させることができる。これにより、リエントリーを直接停止させることができ、または不安定化させたのち追加刺激で停止させることができる。この技術は植え込み型または体外式の装置で有効に活用でき、これらの装置は、心房頻拍性不整脈を検出すると、いくつかの異なる時間間隔で、適正なタイミングが達成されて不整脈が停止可能になるまで低エネルギーの刺激を与える。この「試行錯誤」アプローチは、心房性不整脈がただちに生命にかかわるものでないため、使用可能である。また、低エネルギー刺激では、痛みの閾値に達しないことが予測されるため、不安および不快感による副作用を患者に生じない。
【0039】
上記の低エネルギー不整脈停止方法をさらに最適化するには、複数の電場構成を使ってリエントリーコア付近の興奮間隙を最適に興奮させ、リエントリー回路を中断させることができる。
図1Aおよび1Bを参照すると、これらの電場構成は、冠静脈洞(coronary sinus:CS)の近位部12および遠位部13と、右心耳(right atrial appendage:RAA)14と、上大静脈(SVC)15とにいくつかの植え込み型除細動電極11を配置することにより実現される。一態様では、右心室リードが前記植え込み型装置の一部として配置される(
図1B)。別の態様では、心室リードが配置されないため(
図1A)、リード植え込み中に心臓弁を通過する必要がない。リードは、能動的または受動的に固定できる。
図1からわかるように、心臓の左側に配置されるリードはないため、植え込みに必要な時間が短縮される。
【0040】
電場は、これら電極のうち任意の2つの間に送達できるほか、これら電極の1つと本装置自体16との間に送達できる(hot can構成)。電場ベクトルの変調を利用すると心房全体に適用範囲を最大化することが可能であり、また、不整脈サイクル全体を通じて最適な仮想電極分極パターンを保てるため、興奮間隙の最大領域を脱分極できる。また、使用する最適電場および適正な電場シーケンスは、患者ごとに試行錯誤でき、または考えられるリエントリー回路部位に関する体外情報に基づいて推定でき、またはこれら双方の組み合わせに基づいて決定できる。
【0041】
ここで
図5A、5B、および5Cを参照すると、これら3図で、連続した3つの非近接場抜錨ショックのベクトルの時計回り回転を示している。各ショックは、一連の電気パルスから成る。この例において、複数の単相性ショックは、不整脈周期長の関数である間隔を置いて適用できる。その一例において、前記非近接場抜錨ショックは矩形波であり、持続時間10ms中に電圧およびベクトルが変更されて、最小停止電圧が決定される。他の実施形態において、前記非近接場抜錨ショックまたはパルスは、丸め、ずらし、上昇させ、下降させ、二相性とし、多相性とし、またはこれらの変形形態とすることができる。
【0042】
図5Aでは、右心耳にある電極(b)と前記装置(a)との間に第1の非近接場抜錨ショック40が適用される。
図5Bでは、冠静脈洞遠位部にある電極(e)と上大静脈にある電極(c)にある電極との間に第2の非近接場抜錨ショック42が適用される。
図5Cでは、前記装置(a)と冠静脈洞近位部にある電極(b)との間に第3の非近接場抜錨ショック44が適用される。
【0043】
AFlおよびAFの治療には、アルゴリズムを使用できる。心房が粗動中または細動中かを決定するため、前記装置は、まず不整脈のCLを推定できる。例えば、平均的な心房CLが250ms未満で150msを超える場合、当該心房はAFl中と見なされる。AFおよびAFlの際立った特徴は患者ごとに異なるため、これらのCLパラメータは、患者のニーズに応じてプログラムできる。AFとAFlを区別する例は、米国特許第5,814,081号に説明されており、この参照により本明細書に組み込まれる。また、アルゴリズムを使用すると、心房電位図の形態を特徴付けおよび分類することができ、この情報を使って位相性抜錨非近接場治療に関する患者固有および形態固有の最適化を行える。
【0044】
心周期と相対的に位相性抜錨非近接場治療を適用する最適な時間は、RVまたは非近接場R波検出を含め、心室で検出を行う電極から決定できる。また、非近接場ショックについて安全でない時間を見出す例が、米国特許第5,814,081号に説明されている。
【0045】
学習アルゴリズムを使って、それに続く停止治療を最適化することもできる。患者の心房頻拍性不整脈を停止させる最適なタイミングおよび電場設定が達成されたら、それらの設定が次のAFlまたはAF発作時の停止出発点となる。
【0046】
AFlまたはAFはただちに生命にかかわる不整脈でないため、その治療については、試行錯誤アプローチを学習アルゴリズムと組み合わせて使い、患者ごとに治療をカスタマイズして最適化することができる。この最適化には、(a)不整脈を停止させ、(b)痛みを伴う強度を回避するという2つの目的がある。
【0047】
上述のように、痛みの閾値は、自律神経の緊張度、薬剤の存在、電極の位置、およびショック波形を含む多くの要因に依存する。Ladwig,K.H.、Marten−Mittag,B.、Lehmann,G.、Gundel,H.、Simon,H.、Alt,E.、「Absence of an Impact of Emotional Distress on the Perception of Intracardiac Shock Discharges」(心内ショック放電の知覚に関する精神的苦痛の影響の不在)(International Journal of Behavioral Medicine、2003年、10(1):56−65)は、痛みおよび/または不快感が全般的に初めて感じられるエネルギー値として、0.1Jという値を報告しており、同文献はこの参照により本明細書に組み込まれる。ただし、この値は患者ごとに異なる。これを受け、植え込み中または前記装置較正中の痛みの閾値推定時、あるいは学習アルゴリズムの最適化実行中、患者へのリアルタイムフィードバックを提供することができる。
【0048】
ここで
図6を参照すると、痛みの閾値プロトコル200が説明されている。心房性不整脈治療装置は、手術中、鎮静剤を投与し若しくは麻酔下の患者体内に植え込まれる(202)。植え込まれた装置には、植え込み型治療発生器と、この植え込み型治療発生器に動作可能に接続された少なくとも2つのリードとが含まれ、各リードは、患者の心房に近接して配置されるように構成されている少なくとも2つの電極を有する。前記手術の完了後、患者の意識が完全にあり、鎮静効果または麻酔効果が完全になくなった時点で、前記心房性不整脈治療装置が設定される(204)。前記装置は、前記非近接場電極構成を通じ、心房性不整脈が検出された場合、それに応答して患者にPUFFT治療を適用するよう命令を受ける(206)。前記PUFFT治療は、第1の治療パラメータセットを有する。次に、患者が前記PUFFTに反応して痛覚の指標を提供する(208)。心房性不整脈に対するPUFFT治療の効果について評価が行われる(210)。前記PUFFT治療の効果と、前記痛覚の指標とについて評価が行われる(212)。前記痛みの指標および前記治療効果の評価の双方に応答して、前記治療パラメータセットおよび前記非近接場電極構成のうち少なくとも一方に調整が行われる(214)。患者の心房性不整脈の効果的治療を、前記患者が耐えられる痛覚で提供する治療パラメータセットおよび非近接場電極構成が決定されるまで、工程206〜212が反復される。次いで、工程206〜214により決定された前記治療パラメータセットおよび前記非近接場電極構成を用いて、当該装置がプログラムされる(216)れ、前記心房性不整脈治療装置により検出された心房性不整脈を自動的に治療するために当該装置で使用される。
【0049】
図2を参照すると、装置の植え込み時、まずいくつかの測定が行われる(P101〜P103)。心房興奮および心室興奮の双方に関する電場興奮閾値が、上述のようにリードの各組み合わせから測定される(P101)。これらの値は、それぞれ最小および最大刺激強度としての役割を果たし、前記装置で定期的に検査して変更可能である。また、患者がショックおよび痛みを感じるまで刺激強度を高めることができる。患者フィードバック機構を使うと、この最大ショック振幅を登録でき、これがこの特定部位の痛みの閾値に相当する。これらの最小値および最大値が、当該装置の動作範囲の境界となる。
【0050】
植え込み後、前記装置は検出モードに入り(21)、心房頻拍性不整脈を検出する。不整脈が検出されると、すべての検出電極から最小AFl/AF CLが決定できる。この最小AFl/AF CLを使用すると刺激周波数(23b)を計算でき、その刺激周波数は、最小AFl/AF CLの約20%〜約99%の範囲とできる。次に前記装置は、前記不整脈が、植え込み後、初回のAFl/AF発作であるか決定する(24)。そうである場合、デフォルトの刺激パラメータ組み合わせが、それ以前に測定済みの前記最小刺激強度と組み合わされて、第1の除細動試行に使用可能になる(P103)および(26)。刺激パラメータ(23)の組み合わせとしては、刺激の数(23a)、刺激の周波数(23b)、電場構成の数(23c)、電場構成のシーケンス(23d)、電場強度(23e)、波形形態(23f)、および段階間の遅延などがある。デフォルトのパラメータ組み合わせは、AFlまたはAFの動物モデル、本技術での以前の経験、または植え込み時における患者固有の検査結果から得られる実験的証拠に基づいたものなどである。植え込み後、初回のAFl/AF発作でない場合は、前回の刺激適用時に格納されたパラメータを第1の除細動試行に使用できる(25)〜(26)。次いで心室不整脈の誘発を防ぐため、前記装置は、心房除細動治療送達の対象となる次回のR波検出を待機する。続けて適切な刺激パラメータが送達される(28)。
【0051】
前記除細動試行後、再び検出を行って前記試行が成功したかを決定する(29)。前記試行が成功せず、かつAFlまたはAFの持続時間が前記最大許容持続時間を超えなかったときは(30)、前記刺激パラメータ(23)を変更してもう1回除細動試行を行える(25)〜(29)。刺激パラメータ(23)は多いため、前記装置内のニューラルネットワークを使って前記シーケンスを制御し、パラメータを最適化できる。前記除細動試行は、不整脈が停止するまで、またはAFl/AFの最大持続時間に達するまで続く(25)〜(29)。長時間のAFlまたはAFは病理学的な心房リモデリング(心房細動は心房細動を引き起こす)、血液凝固、および患者が脳梗塞と他の合併症を発症するリスクの増大を助長するため、より高エネルギーの救助ショック(31)を必要に応じて送達でき、低エネルギー最適化は、次回のAFlまたはAF発作時に継続できる。
【0052】
パラメータの適切な組み合わせが見つかった場合は、その刺激パラメータを保存して(36)、(25)、次回のAFl/AF発作時に使用できる。特定の刺激パラメータ組み合わせが多くのAFl/AF発作に適切であるとわかった場合(すなわち、適切な停止回数が5回を超えた場合)(33)、前記装置はエネルギーをさらに低められるか決定するため「連続最適化アルゴリズム」に入ることができる(34)。前記刺激パラメータは、別に適切な組み合わせがないか調べるため、より低いエネルギーで変更することが可能である(35)、(23)。そのような別の組み合わせが決定されない場合、前記装置は、再び前記適切な組み合わせを使用するようにできる。
【0053】
一実施形態では、不整脈の電位図形態を文書化して格納し、それ以前に格納された形態と比較することができる。リエントリー回路の解剖学的位置は、心房の特定構造および生理学的リモデリングにより決定され、これらは患者ごとに異なる。そのため、前記形態によりリエントリー回路の特定の解剖学的位置を明らかにできる。前記治療のパルスシーケンス最適化は、電位図形態ごと別個に行ってメモリに格納し、それ以降の不整脈停止に役立てることができる。
【0054】
図7を参照すると、リエントリー回路が定在化しうる種々の位置302が示されている。これらの位置302は、破線で示した5つのゾーン310、320、330、340、および350に分割されている。一実施形態では、各ゾーンのリエントリー回路に対し、デフォルトの治療シーケンスを開始できる。例えば、不整脈の形態によりリエントリー回路がゾーン310にあると示された場合、適用される電場シーケンスは、
図5Aに示したように電極(b)と(前記装置上の)電極(a)との間で開始される可能性がある。前記シーケンスは、次いで電極(e)と電極(c)間(
図5B)の電場で、それに続いて電極(a)と電極(d)間(
図5C)の電場で続行できる。
図9の表は、
図7の各ゾーン310、320、330、340、および350について考えられるデフォルト治療シーケンスの一例を示したものである。所与のゾーンにおけるデフォルト治療シーケンスで不整脈の停止に失敗した場合は、それに続けて付加的な治療シーケンスを適用できる。
【0055】
本装置は、特定の実施形態において、一連の電場刺激をすばやく連続して送達できるため、従来の植え込み型パルス発生器、例えば通常ICDに使用されるものは、一般に本装置には不十分である。従来の植え込み型パルス発生器では、充電時間(数秒のオーダー)を使ってキャパシタ(コンデンサ)を充電したのち、前記キャパシタをすばやく放電させてショックを適用する。前記キャパシタは、次回のショック適用前に再充電が必要な可能性がある。本装置では、いくつかの低エネルギー非近接場抜錨ショック(2回〜10回)を、抜錨ショックごとに、すばやく連続して(わずか10〜100ms間隔で)適用できる。
【0056】
この装置の実施形態の1タイプに係る植え込み型パルス発生器には、除細動試行前または除細動試行中に充電するいくつかの比較的小さいキャパシタを含めることができる。各刺激送達ごとに、単一のキャパシタが適切な量のエネルギーを放出すると、それに続いて、適切な数の刺激が送達されるまで、順次別のキャパシタが放電を行う。それらのキャパシタは、その除細動試行全体が行われる前にすべて同時に充電でき、あるいは、グループで、または個別に順次充電できる。実施態様の一例では、除細動試行において後で行われる抜錨ショック用のキャパシタが、当該試行において他のキャパシタで先に適用される他の抜錨ショック中に充電され、前記他のキャパシタは、それ以前に充電される。それに関連する例では、先の抜錨ショックに使用されるキャパシタは、当該試行におけるそれ以降の1若しくはそれ以上のショック中に再充電され、さらに同じ試行のその後の抜錨ショック用に再使用される。この後者の例は、電源が、同じ試行内で各キャパシタの再使用を可能にする十分な時間の余裕をもって、前記キャパシタの充電電流を十分提供できる実施形態において容易になる。
【0057】
それに関連する実施形態では、前記装置が、電気治療エネルギーを蓄積する複数のキャパシタを使って、1を超えるショックをシーケンスで提供するが、上述の実施形態例とは異なり、各キャパシタが十分なエネルギー蓄積量を有する。
【0058】
適切なリード構成全体にわたり適切な刺激をもたらすには、高速スイッチネットワークを使うと、異なるキャパシタ間で放出されるエネルギーを切り替えるだけでなく、適用されるエネルギーを適正な電極へと切り替えることができる。パルスの前処理については、米国特許第5,366,485号および第5,314,448号にさらに説明されており、これらは双方ともこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
実験結果
図3Aおよび3Bを参照すると、一連の実験において、ランゲンドルフ灌流したウサギ心臓(n=9)の右心房および左心房(RAおよびLA)の心外膜後部と肺静脈(PV)領域とを、同時に光学マップした結果が、対照時とACh灌流(2.5〜100μM)中とについて示されている。
図3Aでは、ランゲンドルフ灌流したウサギ心臓においてAChで誘発したAFlおよびAF中の心房後部を、フォトダイオードアレイの光学マッピング視野で蛍光光学マッピングしたものが示されており、この図中、(1)正常洞調律心臓拍動の起点位置は、青色または紫色の円で示し、(2)灰色の細長い楕円形は、正常洞調律中およびペーシング中に認められた大静脈間伝導ブロックラインを示し、これは抵抗が不均一な部位で、心房粗動中または心房細動中、リエントリー回路の定在化部位(pinning site)として作用する可能性が高く、(3)矢印の付いた黒い破線は、リエントリー回路の位置および方向を示し、(4)白い破線は、結紮された血管を示す。
図3Bでは、
図3AのAFlおよびAF中の活性化マップおよび光学活動電位(optical action potential:OAP)が示されており、この図中、(1)灰色の細長い楕円形は、これは抵抗が不均一な部位である大静脈間伝導ブロックラインを示し、(2)矢印の付いた白い破線は、リエントリー回路の位置および方向を示し、等時マップが4.0ms刻みで示されている。
【0060】
不整脈は、単一の早期刺激またはバーストペーシングにより誘発した。心臓両側に配置し心臓の縦軸(垂直軸)と平行に配向させた2つの大型メッシュ電極から、低エネルギーショックを送達した。体動アーチファクトを防止または抑制するため、ブレビスタチン(Blebbistatin:BB)を使用した。BBは、特異性の高いミオシンTIアイソフォーム阻害物質である。対照条件下では、AFが誘発されず、1つの心臓でのみ持続性AFlが誘発された。AChは、洞調律を抑制し、また心房性期外収縮(atrial premature beats:APBs)を誘発し、右心耳、上肺静脈、および下大静脈の領域から連結期は93.±.7であった。APBの結果、3つの心臓で自発性AFが生じた。8つの心臓では、単一の期外刺激またはバーストペーシングにより持続性AFlおよびAF(>10分間)がそれぞれ7.±.2μMおよび20.±.8μMのAChで誘発された。
【0061】
再び
図3Bを参照すると、SVCとIVCとの間の伝導ブロック領域周囲にある単一のマクロリエントリー回路により(CL=79.±.10ms)、または複数のリエントリー回路により(CL=48.±.6ms)、それぞれAFlおよびAFが維持された。ほとんどの場合、AFは、RA(75%)および/またはLA(25%)の櫛状筋におけるマザーローター・マイクロリエントリーに伴って生じた。
図3Bは、AF中の活性化例を示した図である。AFは、右心耳の安定したマザーローター(8の字状)に伴って生じた。まれに、付加的なローターの完全な回転が左心房にいくつか認められたが、このローターは一般に持続しなかった。
【0062】
不整脈を停止させるため、単相性の5msショックを体外メッシュ電極から送達した。1回のAF CL中、種々のAFl位相全体にわたり単一のショックを適用し、あるいは複数の(3回〜5回)ショックを適用した。また、抗頻拍ペーシング(ATP、8パルス、AFl CLの50〜100%)を右心耳電極またはIVC領域電極から適用した。
【0063】
統計的に有意な位相の窓が見られ、その間、除細動閾値(DFT)0.9±0.4の単一ショックでAFlが停止した。30%のケースでAFlの停止前に短い(<1秒)AF発作が生じ、完全な停止前のリエントリー不安定化を実証する例となった。複数のショックは、0.7±0.1V/cmと停止強度がより低かった。ATPの場合、これを適用した6つの心臓中わずか4つでATPだけによりAFlが停止し、停止事例の15%でAFが先行し、適用事例の11%で持続性AFが生じた。従来の時間非依存単相性ショックでは、わずか最小強度4.7±0.9V/cmで持続性AFが停止した。ATPの方が有効性が低いことから、AFl治療について低エネルギー電場刺激でATPを代替できることが示唆される。
【0064】
実験のプロトコールをウサギモデルからイヌAFモデルへ移した。単離および冠動脈灌流したイヌ右心房(n=7)において、アセチルコリンの存在下で(3.8±.3.2μM)、AFlまたはAFを電気的に誘発した。AFlおよびAFのCLは、それぞれ130.7±30.7msおよび55.6±7.9msであった。
図4Aおよび4Bを参照すると、光学マッピング(16×16のフォトダイオードアレイ)を使って、洞房結節領域周囲の単一のマクロリエントリー回路または複数のリエントリー回路によりそれぞれ維持するAFlおよびAFが決定された。
図4Aは、単離したイヌ心房においてAChで誘発したAFlおよびAF中の右心房心内膜を、フォトダイオードアレイの光学マッピング視野で蛍光光学マッピングしたものを示しており、この図中、(1)洞房結節は、抵抗が不均一な部位であり、濃青色または紫色の楕円形で心房粗動が示されている間、リエントリー回路の定在化位置として作用することが多く、(2)矢印の付いた白い破線は、心房粗動中のリエントリー回路を示し、(3)矢印の付いた黒い破線は、心房細動中のリエントリー回路(別の抵抗不均一部位に定在化する)を示す。
図4Bは、AFlおよびAF中の活性化マップおよびOAPを示したものであり、この図中、(1)矢印の付いた白い破線は、心房粗動中のリエントリー回路を示し、(2)矢印の付いた黒い破線は、心房細動中のリエントリー回路(別の抵抗不均一部位に定在化する)を示す。AFリエントリーコアが櫛状筋およびSVCまたはIVC領域において機能的および解剖学的に不均一な部位に位置していたことがわかる。ウサギ実験の設定を使って、組織浴中の並列メッシュ電極から単一または複数の単相性10msショックを適用した。
【0065】
局所的に抵抗が不均一な部位で閾上仮想カソードが誘発された際、0.14±0.12V/cm(0.005+0.0001J)で興奮の非近接場拡張期閾値に達した。単一ショックADFTは、AFlの方がAFより有意に低かった(0.2±0.06対7.44±3.27V/cm、または0.018±0.001対2.6±0.78J、p<0.05)。ただし、パルス間に最適な連結期で2または3つのパルスを送達した場合は、AFのADFTを有意に低減でき、2パルスおよび3パルスの場合、それぞれ3.11±0.74V/cmおよび3.37±0.73V/cm、または0.44±0.04および0.48±0.03Jとなった(1パルスと比べp<0.05)。連結期の最適化は、AF CLの20〜190%範囲で行った。最適な連結期は、2パルスおよび3パルスでそれぞれ87.3±18.6%および91.3±17.9%であった。
図8の表は、6つのイヌ心房標本で収集されたこれらの結果をまとめたものである。
【0066】
さらに、低電圧のショック(0.1〜1V/cm)により、AFがAFlに変換された。これにより、心房除細動は、(a)AFからAFLへの変換、および(b)AFlの停止という2段階の工程で最適に達成される。どちらの段階もエネルギー範囲0.02〜0.1Jの複数パルスにより実施される。
【0067】
どちらのモデルでもAFおよびAFlに同様なADFT値が見られ、イヌ実験に関するウサギモデルの妥当性およびさらなる応用性が実証された。複数の電場方向を使うことに加え、適切にタイミングを合わせたショックまたは複数のショックを使うと、より低いADFTが得られる。
【0068】
上述の方法は、本発明の一態様に係る例示的な方法である。上記の方法は、体内植え込み型装置により実施できる。上記の方法は、本発明に係る電気的心臓刺激を送達するため、任意の数および構成の電極配置、例えば心内膜、心外膜、静脈内、植え込み型、または体外、あるいはこれらの任意の組み合わせを使って実施できる。本発明の一部の実施形態用に考案された複数経路の電極構成は、例えば、米国特許第5,306,291号および第5,766,226号に示されており、これら各々の開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
本発明の方法は、他のペーシングおよび除細動治療と併用し、またはそれらと別個に利用できるものと考えられる。例えば、本発明は、本発明の方法で適切に心不整脈を変換できない場合に高電圧除細動ショックを送達できるICDの一部として実装できる。あるいは、本発明を従来ペースメーカーの一部として実装し、患者のVT(心室頻拍)またはVF(心室細動)疾患に対する救急救命措置を提供して患者の生存率を高めることもできる。
【0070】
また、本発明の方法では、電気刺激パルスの波形について任意数の配置および構成を使用することが考えられている。公知の単相性、二相性、三相性、および相互位相変調された刺激パルスが利用できる。一実施形態において、本発明では、Qu,F.、Li,L.、Nikolski,V.P.、Sharma,V.、Efimov,I.R.による論文「Mechanisms of Superiority of Ascending Ramp Waveforms: New Insights into Mechanisms of Shock−induced Vulnerability and Defibrillation」(上昇ランプ波形の優位性の機序:ショックにより誘発される脆弱性および除細動の機序に関する新たな考察)(American Journal of Physiology−Heart and Circulatory Physiology、2005年、289:H569−H577)で説明されている上昇ランプ波形の使用が考えられており、その開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0071】
また、本発明の方法では、位相性抜錨非近接場電気刺激パルスの生成について任意数の配置および構成を使用することが考えられている。従来の高電圧キャパシタ放電回路を利用しても、本発明に係る、より低エネルギーの刺激パルスを生成できるが、より低電圧のキャパシタ構成、例えば米国特許第5,199,429号、第5,334,219号、第5,365,391号、第5,372,605号、第5,383,907号、第5,391,186号、第5,405,363号、第5,407,444号、第5,413,591号、第5,620,464号、および第5,674,248号などに説明されているスタックトキャパシタ、スイッチトキャパシタ、二次キャパシタ、充電池、チャージポンプ、および電圧ブースター回路を伴う代替構成を利用することも予測され、これら各々の開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。本発明の実施形態に係る位相性抜錨非近接場治療の生成は、ペーシングパルスを生成する既知の方法を含む任意数の方法で実現できる。同様に、心不整脈を検出する任意数の既知の技術を、本発明の方法に従って使用することができる。
【0072】
3段階の電気的心房除細動治療
一実施形態によれば、前記PUFFT治療は、3段階の電気的心房除細動治療の一部として送達できる。
図10に示すように、一実施形態において、
図2に示した前記方法により送達される前記治療(28)は、心房性不整脈が検出された場合、それに応答して患者に送達される3段階の電気的心房除細動治療を有し、この3段階の電気的心房除細動治療は治療パラメータセットを有し、前記非近接場電極構成により送達される第1の段階(400)および第2の段階(402)と、前記近接場電極構成により送達される第3の段階(404)とを有する。
【0073】
図11を参照すると、前記3段階の電気的心房除細動治療の全3段階が合わせて示されている。第1の段階(400)は、心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を抜錨するため適用される。第2の段階(402)は、心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点の再定在化を防止するため適用される。第3の段階(404)は、心房性不整脈に伴う1若しくはそれ以上の特異点を沈静化するために適用される。種々の実施形態において、前記第1の段階(400)は、10ボルトを超え100ボルト未満の二相性電気的心房除細動パルスを少なくとも2回かつ10回未満有し、そのパルス持続時間は、一部の実施形態において約3〜4ミリ秒、または、より一般的に他の種々の実施形態において10ミリ秒未満であり、パルス連結期は20〜50ミリ秒である。一部の実施形態において、前記第1の段階(402)は、心房性不整脈の2周期長未満の全持続時間を有し、心室不応期中に送達され、各二相性電気的心房除細動パルスのエネルギーは0.1ジュール未満である。100〜400ミリ秒の段階間遅延(I1)が前記第2の段階(402)に先行する。種々の実施形態において、前記第2の段階(402)は、心室非近接場興奮閾値(10ボルト)未満の非近接場パルスを少なくとも5回かつ10回未満有し、そのパルス持続時間は5msを超え20ms未満であり、パルス連結期は心房性不整脈の周期長の70〜90%である。100〜400ミリ秒の段階間遅延(I2)が前記第3の段階(404)に先行する。種々の実施形態において、前記第3の段階(404)は、10ボルト未満の近接場パルスを少なくとも5回かつ10回未満有し、そのパルス持続時間は0.2msを超え5ms未満であり、パルス連結期は心房性不整脈の周期長の70〜90%である。この3段階の電気的心房除細動治療は、心房性不整脈が検出された場合、それに応答して送達され、各段階(400、402、および404)は、前記第3の段階(404)の送達後まで、心房性不整脈の変換の確認を伴わない。
【0074】
図12を参照すると、第1の段階(400)の一実施形態が示されている。この実施形態では、4つの二相性電気的除細動パルスの各々が別個の出力キャパシタ構成から送達され、Hブリッジの出力により、出力キャパシタ構成の放電中、何らかの時点で非近接場電極の極性の構成が切り替えられ、逆転される。その代替実施形態では、少数の出力キャパシタ構成を使用でき、後続する電気的除細動パルスは、先行する電気的除細動パルス送達に使用されたものと同じ出力キャパシタ構成のうち、前記後続する電気的除細動パルスより前に再充電された出力キャパシタ構成から送達される。他の実施形態では、前記二相性電気的除細動パルスの各位相を、別個の出力キャパシタ構成から送達できる。他の実施形態では、キャパシタスイッチネットワークを使って、出力キャパシタ構成を組み合わせて前記第1の段階(400)の電気的除細動パルスを送達できる。初期出力電圧、逆電圧、持続時間、およびパルス間の連結期は、前記第1の段階(400)で提供されるパルスパラメータ範囲内のパルスの全部または一部について同じ、または異なることが理解されるであろう。また、
図12に示した前記第1の段階(400)のパルスは、すべて同じ非近接場電極構成を通じて送達でき、また他の実施形態の場合、前記パルスは、異なる非近接場電極構成を通じて送達されるPUFFTパルスのローテーション(輪番)セットの一部として送達できることも理解されるであろう。
【0075】
図13を参照すると、前記第2の段階(402)の一実施形態が示されている。この実施形態では、6つの単相性非近接場低電圧パルスの各々が、連続パルス間に再充電される同じ出力キャパシタ構成から送達されるが、それら各パルスは、別個の出力キャパシタ構成から、または当該第2の段階(402)のパルス総数より少数の出力キャパシタ構成から送達できる。あるいは、チャージポンプ、電圧ブースター、または電池システムから受電する他の同様な電荷蓄積構成から直接パルスを送達することもできる。前記第1の段階(400)と同様、前記第2の段階(402)の初期出力電圧、持続時間、およびパルス間の連結期は、当該第2の段階(400)で提供されるパルスパラメータ範囲内のパルスの全部または一部について同じ、または異なることが理解されるであろう。また、
図13に示した前記第2の段階(402)のパルスは、すべて同じ非近接場電極構成を通じて送達でき、また他の実施形態の場合、前記パルスは、異なる非近接場電極構成を通じて送達されるPUFFTパルスのローテーションセットの一部として送達できることも理解されるであろう。この第2の段階(402)の非近接場電極構成は、前記第1の段階(400)に利用される非近接場電極構成と同じであっても、異なるものであってもよい。
【0076】
図14を参照すると、前記第3の段階(404)の一実施形態が示されている。この実施形態では、8つの単相性近接場低電圧パルスの各々が、連続パルス間に再充電される同じ出力キャパシタ構成から送達されるが、それら各パルスは、別個の出力キャパシタ構成から、または当該第3の段階(404)のパルス総数より少数の出力キャパシタ構成から送達できる。あるいは、チャージポンプ、電圧ブースター、または電池システムから受電する他の同様な電荷蓄積構成から直接パルスを送達することもできる。一実施形態では、同じ出力キャパシタ構成を使って、前記第2の段階のパルスおよび前記第3の段階のパルスを送達する。前記第1の段階(400)および第2の段階(402)と同様、前記第3の段階(404)の初期出力電圧、持続時間、およびパルス間の連結期は、当該第3の段階(404)で提供されるパルスパラメータ範囲内のパルスの全部または一部について同じ、または異なることが理解されるであろう。また、
図14に示した前記第3の段階(404)のパルスは、すべて同じ近接場電極構成を通じて送達でき、また他の実施形態の場合、前記パルスは、異なる近接場電極構成を通じて送達されるPUFFTパルスのローテーションセットの一部として送達できることも理解されるであろう。一部の実施形態では、前記近接場電極構成を単極型電極構成にでき、他の実施形態では、前記近接場電極構成を双極型電極構成にできる。
【0077】
図15および16を参照すると、前記3段階の電気的心房除細動治療の代替実施形態が示されている。この実施形態では、前記抜錨段階1(400)および再定在化防止段階2(402)の各々が、前記沈静化段階3(404)の送達前に、電気的心房除細動治療(28)全体の一部として順次反復される。
図11に示した実施形態と同様、各前記段階のパラメータと、各段階中の各前記パルスとは、異なる段階および/または各段階中の異なるパルスについて、同じであっても、異なってもよい。
【0078】
図17および18を参照すると、前記3段階の電気的心房除細動治療の代替実施形態が示されている。この実施形態では、前記抜錨段階1(400)および再定在化防止段階2(402)に加え、前記沈静化段階3(404)が、それぞれ、当該電気的心房除細動治療(28)全体の一部として順次反復され、続けてこれら全3段階の送達が反復されたのち、当該電気的心房除細動治療(28)が完了する。
図11に示した実施形態と同様、各前記段階のパラメータと、各段階中の各前記パルスとは、異なる段階および/または各段階中の異なるパルスについて、同じであっても、異なってもよい。
【0079】
ここで
図19A〜19Bおよび20を参照すると、前記3段階の電気的心房除細動システムの一実施形態の構成が詳しく記述されている。
図19Aに示した高レベルの一実施形態例において、心房性不整脈治療装置500は、患者の心房に近接して植え込まれ、非近接場パルスを送達するように構成されている複数の電極502と、前記患者の心房に近接して植え込まれ近接場パルスを送達し心臓信号を検出するように構成されている複数の電極504とを含んでいる。装置500のハウジングは、前記非近接場電極502または近接場電極504の1つとして機能することができる。また、非近接場電極502および近接場電極504は、一部の実施形態において、少なくとも1つの共通の電極を共有できる。植え込み型治療発生器506は、前記電極に動作可能に接続され、また電池システム508(または他の適切な内蔵(オンボード)エネルギー源、例えばスーパーキャパシタ)と、1若しくはそれ以上の電源回路510とを含み、これらの電池システム508および電源回路510は動作可能に連結されて、当該植え込み型治療発生器のセンシング回路512と、検出回路514と、制御回路516と、治療回路518とに給電を行う。1タイプの実施形態では、電源回路510を通さず電池システム508から直接給電される特殊電源が、治療回路518に含まれる。センシング回路512は、心房活動および心室活動を表す心臓信号を検出する。検出回路514は、心房活動を表す心臓信号を評価して心房周期長を決定し、この心房周期長に少なくとも部分的に基づいて心房性不整脈を検出する。制御回路516は、前記心房性不整脈に応答して、3段階の電気的心房除細動治療の生成と、電極502および504への選択的送達とを制御し、各段階は、100〜400ミリ秒の段階間遅延を有し、この3段階の電気的心房除細動治療中、心房性不整脈の変換の確認を伴わない。種々の実施形態では、検出回路514と、制御回路516と、治療回路518とが、構成要素を共有できる。例えば、一実施形態では、共通のマイクロコントローラを、検出回路514、制御回路516、および治療回路518の一部にすることができる。
【0080】
前記治療回路518は、電極502および504と、制御回路516とに動作可能に接続される。
図19Bは、1タイプの実施形態に係る治療回路518の構成の一例を示したものである。治療回路518には、それ独自の電源回路602を含めることができ、この電源回路は電池システム508から給電される。電源回路602は単純な電圧調整器であっても、または電流制限回路であってもよく、前記電流制限回路は、(当該装置の全回路中、最大の電力需要を有する)治療回路が過剰な電力を消費して、コントローラおよび他の重要な構成要素に十分給電できるレベル未満まで供給電圧が低下しないよう機能する。代替態様として、電源回路602を電源回路510内に実装することもでき、あるいは、実施形態の1タイプにおいて電源回路602を完全に省略し、充電回路604が電池システム508から直接給電されるようにすることもできる。
【0081】
充電回路604は、刺激波形に必要なレベルの電圧を生成する電圧変換器回路である。充電回路への入力は、電池システム508の電圧またはその付近の電圧であり、これは一実施形態において3〜12ボルトである。刺激波形は、特に前記第1の段階で、最高約100ボルトと著しく高電圧であり、ブーストトポロジーが充電回路604に使用される。これには、1若しくはそれ以上の誘導素子(例えば、変圧器、インダクタ)を利用したスイッチングレギュレータ、または静電容量型素子(例えば、チャージポンプ)を利用したスイッチングレギュレータを含む任意の適切なブースター回路を使用できる。
【0082】
図20A〜20Fは、種々の実施形態に係る充電回路604の一部として利用できる既知の電圧ブースター回路トポロジーを種々例示したものである。
図20Aは、基本的なブーストコンバータ(昇圧型コンバータ)のトポロジーを例示している。
図20Aのブーストコンバータでは、L1で示した単一のインダクタを利用して、スイッチSWの各サイクルでエネルギーを蓄積する。スイッチSWが閉じると、インダクタL1に電流が流れて自己誘導磁場が生じる。スイッチSWが開くと、インダクタL1の磁場が消滅するに伴い、L1−SW−D1ノードの電圧が上昇する。それに伴う電流が逆流防止ダイオードD1を通過し、入力電圧V
inを超える電圧にエネルギー蓄積キャパシタC
outを充電する。
【0083】
図20Bは、フライバックコンバータのトポロジーを例示したものである。このフライバックコンバータでは、エネルギー蓄積装置だけでなく昇圧器(昇圧トランス)として変圧器T1を利用している。スイッチSWが閉じると、
図20AのインダクタL1と同様な態様で変圧器T1の一次コイルに電流が流れる。スイッチSWが開くと、前記一次コイル両端の電圧は逆転し、当該一次コイルの磁場消滅により昇圧する。前記一次コイルの電圧変化は二次コイルに磁気的に連結されており、通常、この二次コイルの巻き数は、前記一次コイルより電圧が上がるよう前記一次コイルより多くなっている。特定の諸実施形態では、除細動器の信号用途における一般的な巻き数比Np:Nsが約1:15であり、ここで、Npは一次コイルの巻き数、Nsは二次コイルの巻き数である。前記二次コイルの両端に生じる高電圧は、ダイオードにより整流され、キャパシタC
outに蓄積される。
【0084】
図20Cは、SEPIC(「セピック」、single ended primary inductance converter)を例示したもので、この場合、他の電力変換器トポロジーと比べて一定の利点が得られる。例えば、SEPICコンバータには、変圧器にさほどエネルギーを蓄積しなくともよいという利点がある。変圧器内のエネルギーの大半はその間隙(ギャップ)に蓄積されるため、SEPICでは変圧器の間隙長要件が軽減される。VINには電池電圧が印加され、スイッチ素子は一定の周波数で、かつ、電力変換器での電池電流および出力電圧のフィードバックに基づき変更されるデューティサイクルにより、切り替えられる。昇圧器(T1)出力の電圧は、ダイオードD1により整流され、C
outでの出力電圧が生成される。
【0085】
図20Dは、
図20CのSEPICコンバータの変形形態を例示したものである。
図20DのSEPICトポロジーには、付加的な誘導構成要素(L1)がある。この追加インダクタL1は、離散的に実装でき、または高電圧変圧器と磁気的に連結して、
図20Dに示すように単一の磁気構造とできる。
【0086】
図20Eは、チュックコンバータのトポロジーを例示したものである。チュックコンバータは、2つのインダクタL1およびL2と、2つのキャパシタC1およびC
outと、スイッチSWと、ダイオードD1とを有する。キャパシタCは、エネルギーを伝達するため使用され、トランジスタおよびダイオードの転流を通じてコンバータの入力および出力に交互に接続される。前記2つのインダクタL1およびL2は、それぞれ入力電圧源(V
i)およびキャパシタC
outでの出力電圧を電流源に変換するため使用される。上述の電圧変換器回路と同様、入力電圧に対する出力電圧の比は、スイッチSWのデューティサイクル調整に関係する。任意選択で、T1
*で示したように、インダクタL1およびL2を磁気的に連結することもできる。
【0087】
図20Fは、入力電圧を倍増させる基本的なチャージポンプのトポロジーを例示している。図示した例はコッククロフト・ウォルトン乗算回路である。3つのキャパシタ(C
A、C
B、およびC
C)の各容量Cは、それぞれ直列に接続され、キャパシタC
Aは供給電圧V
DDに接続される。位相φ中、キャパシタC
1はC
Aに接続され、電圧V
DDに充電される。
【0088】
次のサイクルφ
b中にスイッチの位置が変化すると、キャパシタC
1の電荷がキャパシタC
Bと共有され、キャパシタC
1およびキャパシタC
Bが等しい容量を有する場合、双方ともV
DD/2に充電される。次のサイクルでは、C
2およびC
Bが接続されて電位V
DD/4を共有すると同時に、C
1が再びV
DDに充電される。この工程が数サイクル続くに伴い、電荷は、出力Voutの電位が3V
DDになるまで、すべてのキャパシタへ移動する。さらに段階を加えると、電圧乗算値を高めることができる。
【0089】
再び
図19Bを参照すると、パルスエネルギー蓄積回路606は、種々の形態が可能である。一般に、パルスエネルギー蓄積回路は、前記電気的心房除細動治療の全3段階のエネルギー、または当該治療のエネルギーの一部を蓄積する上で十分なエネルギー蓄積容量を有するが、これは前記パルスエネルギー蓄積回路606および充電回路604の構成において、当該パルスエネルギー蓄積回路606の一部を再充電しながら、他の部分を放電させ、または電気治療の適用中に放電準備をする能力がサポートされることを前提とする。
図20Gは、エネルギー蓄積回路606の基本例を例示したもので、前記3段階の電気治療のそれぞれに3つの個別蓄積リザーバがある。蓄積リザーバ606aは前記第1の段階用にエネルギーを蓄積し、蓄積リザーバ606bは前記第2の段階用に、そして蓄積リザーバ606cは前記第3の段階用にエネルギーを蓄積する。各蓄積リザーバは、1つまたは複数の蓄積素子を有することができる。1タイプの実施形態において、各蓄積リザーバは、複数の蓄積素子群を有し、各蓄積素子群は、充放電を個別に切り替え可能に選択できる。これらの蓄積素子は、適切な技術のキャパシタ、例えば電解、タンタル膜、セラミックチップ、スーパーキャパシタを含む任意の適切な形態とすることができる。
【0090】
蓄積リザーバ606a〜606cは、セレクタスイッチ607を通じて充電回路604に連結される。セレクタスイッチ607は、アナログマルチプレクサ、トランスミッションゲート、または他の任意の適切な電子スイッチ構成で実装できる。この例において、セレクタスイッチ607は、コントローラ回路614で制御される。
【0091】
再び
図19Bを参照すると、波形整形回路608が、エネルギー蓄積回路606に蓄積されたエネルギーの放出を選択および制御することにより、電気治療の適用を調整する。一実施形態において、波形整形回路608は、
図20Gに例示したように、Hブリッジトポロジーの形態をしている。スイッチS1〜S4は、コントローラ回路614により個別に制御される。このHブリッジトポロジーにより電気治療信号の操作すなわち極性反転が容易になり、単極性エネルギー蓄積リザーバから二相性ショックの適用が可能になる。他形態の切り替え可能な連結も、他の実施形態用に考えられる。例えば、アナログトランスミッションゲートのセットを使うと、蓄積リザーバ606A〜606Cの各々を個別選択可能にできる。この後者の例では、反対の極性を有する別個のキャパシタを使って、前記第1の電気治療段階の二相性抜錨波形の位相ごとに電荷を蓄積する。
【0092】
再び
図19Bを参照すると、電極連結回路610は、複数セットの患者電極612のうちどれが前記波形整形回路608の出力に連結されるかを選択するよう動作する。電極連結回路610は、実施形態の一例において、コントローラ回路614により制御されるアナログマルチプレクサのセットを使って実装できる。
【0093】
他の種々の実施形態では、充電回路604およびパルスエネルギー蓄積回路606の機能を組み合わせて単一の回路620、例えばチャージポンプ構成とし、キャパシタのうち特定の一部を使って、電気治療用の電荷蓄積およびパルスエネルギー蓄積の双方を行うこともできる。別の変形形態では、前記パルスエネルギー蓄積回路606を1つの回路とし、同じ回路を、例えば622で示した波形整形回路608とすることができ、その場合は、複数の異なるキャパシタを使って各パルスが蓄積され、どのキャパシタがどの電極に切り替えられるかを電極連結回路が個別に選択する能力を有する。さらに別の変形形態では、充電回路604と、とパルスエネルギー蓄積回路606、波形整形回路608とを単一の回路実施態様624として組み合わせ、回路620および622の組み合わせとして実装することができる。
【0094】
ここで
図21および22を参照すると、例示的なEKG出力と、それに重ね合わせて前記3段階の電気的心房除細動治療とが示されており、当該3段階の電気的心房除細動治療がいかに適切に心房性不整脈を変換するかが実証されている。
図21では2つの曲線を例示しており、上の曲線はEKGリードで測定された信号を示し、上の曲線は心房内の別のリードで測定された信号を示している。前記電気治療は、RAAからLAAへ適用されている。図示したように、前記第1の段階では、2つの抜錨二相性ショックが、30V、40ms間隔で適用されている。次いで前記第2の段階では、前記第1の段階と同じ電極を使って、8つの再定在化防止単相性ショックが、3V、100ms間隔で適用されている。続けて前記第3の段階で、8つのペーシング刺激が100ms間隔で適用されている。前記第3の段階は、RA心外膜ペーシング電極により適用される。下の曲線に示すように、治療適用後、心房細動は正常洞調律に回復している。
図22は、同様な一対の曲線を示しているが、前記3段階の電気治療が3回の試行により適用されている点で異なる。第1の試行では、第1の段階で5つの抜錨二相性ショックが、20V、20ms間隔で適用されている。当該第1の試行の第2の段階では、前記第1の段階と同じ電極から、8つの再定在化防止単相性ショックが、3V、100ms間隔で適用されている。当該第1の試行の第3の段階では、RA心外膜ペーシング電極から、8つのペーシング刺激が100ms間隔で適用されている。
【0095】
この3段階治療の前記第2および第3の試行は、同様な態様で適用されているが、試行2および3の第1の段階において、5つの抜錨二相性ショックが、30V、20ms間隔で適用されている点で異なる。
図22の下の曲線で見られるように、前記3つの試行適用後、正常洞調律が回復していることが心房EKGで示されている。
【0096】
ここで
図23を参照すると、3つの異なる電極構成ベクトルについて適切なAF変換に必要なエネルギーの観点から実験結果を比較した結果が、ショックのみのプロトコール、ATP後のショック、および本発明の一実施形態に係る前記3段階の電気的心房除細動治療について示されている。
【0097】
本試験の第1部では、8匹の雑種犬が使用された。直径1インチの2つのディスク電極をそれぞれ右心房(RAA)および左心耳(LAA)に留置した。両側の迷走神経を周波数4〜20Hzで刺激しながら、高速心房ペーシングによりAFを誘発した。5分間より長く持続したAFは、持続性AFと定義した。1つ〜4つの単相性(monophasic:MP、10ms)または二相性(biphasic:BP、6〜4ms)ショックをディスク電極から適用したのち、心房心外膜ペーシング電極からATPを適用し、または適用しなかった。すべてのショックは、右心室R波によりトリガーされ、VFが誘発されないよう80〜100ms内で適用された。6匹のイヌのうち、主に持続性AFは、12.0±4.4Hzの迷走神経刺激を使って、11.0±1.7Hzの主周波数で認められた。AF(95%の場合)、1BPのDFTは1MPのDFTより低かった(0.73±0.43対1.68±0.98J、p=.008)。2BPのDFTは、2MPのDFTより低かった(0.37±0.14対0.93±0.59J、p=.01)。2BPのDFTは、1BPのDFTより低かった(0.37±0.14対0.73±0.43J、p=.04)。2BP、3BP、および4BPのDFTに有意な差はないが、4BPのDFTは、3BPのDFTより高い(0.53±0.41対0.39±0.36J、ns)。2BPの後、6パルスのATPを適用すると、2BPよりDFTが有意に低下する(0.23±0.05対0.5±0.08J、p=.001)。心房粗動(5%の場合、主周波数7.7±0.4Hz)は、0.0003±0.0001J複数のショックにより、またはATPだけで容易に変換される。
【0098】
本試験の第2部では、8匹の雑種犬が使用された。直径0.5インチの3つのディスク電極をそれぞれRAA、LAA、および上大静脈(SVC)に留置した。2つの1インチコイルを伴う3Fリードを冠静脈洞に挿入した。遠位側のコイルは冠静脈洞遠位部(CSd)と呼び、近位側のコイルは冠静脈洞近位部(CSp)と呼ぶ。3つのベクトル、すなわちSVCからCSd、LAAからCSp、およびLAAからRAAにより適用するショックのDFTを試験した。前記3段階の3つの異なる組み合わせ、すなわち第1の段階のみ、第1の段階後に第2の段階、および3段階すべてを、それぞれ治療1、治療2、および治療3と呼び、無作為に試験した。8匹のイヌのうち6匹で、主周波数9.77±0.88を伴う持続性AFが誘発された。3つのベクトルすべてにおいて、3つの治療のうち、前記治療3のDFTが最も低かった。前記治療1のDFTは、3つの治療のうち最も高かった。SVCからCSdのベクトルでは、治療1、治療2、および治療3のDFTは、0.53±0.14対0.35±0.26対0.12±0.070Jであった。LAAからCSpのベクトルでは、治療1、治療2、および治療3のDFTは、0.52±0.14対0.27±0.27対0.12±0.074Jであった。RAAからLAAのベクトルでは、治療1、治療2、および治療3のDFTは、0.37±0.13対0.27±0.26対0.097±0.070Jであった。上記の実施形態は、例示的なものであって限定を目的としたものではない。付加的な諸実施形態も、請求の範囲内である。また、以上では本発明の態様について特定の実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、添付の請求項により定義された本発明の要旨を逸脱しない範囲で形態および細部の変更が可能であることが理解できるであろう。
【0099】
関連分野の当業者であれば、本発明が、上述した各実施形態における例示より少数の特徴を有する場合もあることが理解できるであろう。本明細書で説明した諸実施形態は、本発明の種々の特徴を組み合わせる方法を完全に網羅して提示することを目的としたものではない。そのため、前記諸実施形態は特徴の組み合わせとして相互に排他的なものではない。むしろ、当業者に理解されるように、本発明は、種々個別の諸実施形態から選択される種々個別の特徴の組み合わせを有することができる。
【0100】
以上における文書の参照によるすべての組み込みは、本明細書の明示的な開示に反して組み込まれる対象がないよう限定されている。以上における文書の参照によるすべての組み込みは、前記文書に含まれる請求項が参照により本明細書に組み込まれないよう、さらに限定されている。以上における文書の参照によるすべての組み込みは、前記文書で提供されるいかなる定義も、本明細書に明示的に含まれる場合を除き、参照により本明細書に組み込まれないよう、さらに限定されている。
【0101】
本発明の請求項を解釈する目的上、特定の用語「means for」(する手段)または「step for」(する工程)が請求項で記載されている場合を除き、米国特許法第6編第112条の規定は行使されないことが明示的に意図されている。