(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ダイヤモンドパッドを用いた固定砥粒による研削方法によれば、加工面の表面粗さの低下が可能となり、後の鏡面研磨工程への負荷が低減され、ガラス基板の加工コストの削減が可能になるものの、本発明者の検討によれば次のような課題があることが判明した。
上記特許文献2等に開示されているような固定砥粒による研削加工を行った場合、加工後の平坦度不良の発生率が高くなることがある。本発明者はその原因についても検討したところ、研削ムラ、つまり部分的な研削不良(ガラス基板表面の一部のみが研削されて残りは研削されていない状態)が発生していることを突き止めた。特に、フロート法等により作製した鏡面のガラス基板を加工する場合や、研削砥粒粒径を小さくした場合に、上述の不良が顕著に発生することも判明した。
【0008】
また、本発明者の検討によればさらに次のような課題もあることが判明した。
従来、ダイヤモンド粒子等を含む固定砥粒(ダイヤモンドパッド)が研削面に配備された上下定盤の間にガラス基板を挟んでガラス基板の表面を研削加工する場合、上定盤と下定盤とでは実行圧力が異なり、通常は上定盤の方が下定盤よりも実行圧力が大きく、加工レートが高いことが知られている。
上記特許文献4には、上定盤側にガラス基板のうねりの大きい面を配置し、下定盤側にうねりの小さい面を配置して研削加工を行うことが開示されている。フロート法等により作製したガラス基板には、表裏で表面うねりに差が生じており、研削装置の上下定盤間にガラス基板を表裏関係なくランダムに配置し、そのまま実行圧力の異なる上下定盤で多数枚のガラス基板を研削加工すると、各ガラス基板で表面うねりの異なるガラス基板が多数生じてしまうことになる。そこで、特許文献4では、表面うねりの大きい面のみを、実行圧力の大きい上定盤によって加工することによって、多数枚のガラス基板を加工した場合でも表裏面のうねりが微小かつ均一なガラス基板を製造することができるとしている。
【0009】
このように、従来技術(特許文献4)では、上下定盤で実行圧力、すなわち加工レートが異なることをそのまま利用し、加工量が多いほどうねりが小さくなることによって基板の表裏面でうねりを均一化していた。しかし、本発明者の検討によると、次のような課題があることを突き止めた。
つまり、従来技術のような上下定盤で加工レートに差がある状態での加工は不安定であり、特許文献4の技術を適用しても、連続でバッチ加工した際に、ガラス基板の上定盤側は十分に研削されるものの、下定盤側の表面は全体あるいは一部が研削されないという不良が一定割合で発生した。フロート法により作製したガラス基板は通常、表面粗さRaが5nm以下の鏡面であるが、このような鏡面のガラス基板を加工する場合に、上述の不良が顕著に発生することも判明した。
【0010】
本発明はこのような従来の課題を解決すべくなされたものであって、その第1の目的は、固定砥粒を用いた研削処理において、研削ムラの発生しない安定した研削加工を行うことが可能で、加工後の平坦度不良の発生率を低減でき、高品質のガラス基板を製造できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、およびそれによって得られるガラス基板を利用した磁気ディスクの製造方法、並びに上記研削処理に好適な研削工具を提供することである。
【0011】
また、その第2の目的は、固定砥粒による研削加工において、研削加工時に上下定盤の間で実行圧力の差が存在する場合においても、安定した研削加工を行うことが可能で、高品質のガラス基板を製造できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、およびそれによって得られるガラス基板を利用した磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述の従来技術において、部分的な研削不良が発生する理由について詳細に検討した結果、ダイヤモンド砥粒(集結砥粒)を備えたダイヤモンドパッドの表面には微小うねりが存在しており、砥粒がガラス表面に接触することが阻害され、ガラス表面に対して十分に作用できない砥粒が存在するため、上述の部分的な研削不良が発生することを突き止めた。そこで、本発明者は、集結砥粒から突出された研削砥粒の突出し量とダイヤモンドパッドの表面の微小うねりとの関係に着目し、安定した研削加工を行うことが可能な解決手段を模索した結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
また、本発明者は、上述の従来技術において、連続でバッチ加工した際に加工が不安定になり、ガラス基板の上定盤側が多く研削されてしまい、下定盤側の表面は全体あるいは一部が研削されないという不良が一定割合で発生する理由について検討した結果、以下のように推測した。
研削加工は研削液とともに加工を行うが、加工中に研削液はどうしても下定盤側に集中してしまう。また、研削加工に伴い、研削くず(スラッジ)が発生する。前記ダイヤモンドパッドのような、複数のダイヤモンド砥粒を例えばガラス結合材で固めた固定砥粒(集結砥粒)を用いた場合、砥粒周辺にあるガラス結合材に、研削くずであり結合材と同じ材料であるガラスが付着しやすくなり、これが特に下定盤側で顕著に発生するものと考えられ、上述の不良が発生しやすくなる。
【0014】
本発明者は、従来技術のような上下定盤で実行圧力、すなわち加工レートが異なることをそのまま利用する方法では安定した研削加工が行えないため、固定砥粒による研削加工において、研削加工時に上下定盤の間で実行圧力の差が存在する場合においても、上下定盤での加工レートを均一とすることができ、安定した研削加工を行うことが可能な解決手段を模索した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)
ガラス基板の主表面を研削する研削処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研削処理では、複数の研削砥粒がガラス結合材で結合された集結砥粒と、複数の当該集結砥粒を結合している樹脂とを含む研削工具であって、前記研削工具の研削面における前記研削砥粒の周囲の樹脂からの突出し量が、前記研削面を触針式表面粗さ計を用いて測定された表面形状の最大高さよりも高い研削工具を用いて、ガラス基板主表面の研削を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0016】
(構成2)
研削工具のドレス処理とガラス基板の主表面を研削する研削処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の研削砥粒がガラス結合材で結合された集結砥粒と、複数の当該集結砥粒を結合している樹脂とを含む研削工具であって、予め、前記研削工具の研削面における前記研削砥粒の周囲の樹脂からの突出し量が、前記研削面を触針式表面粗さ計を用いて測定された表面形状の最大高さよりも高くなるようにドレス処理を行い、該ドレス処理された研削工具を用いて、ガラス基板主表面の研削を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0017】
(構成3)
前記研削砥粒はダイヤモンド砥粒を含むことを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成4)
主表面が鏡面状態のガラス基板に対して前記研削処理を行うことを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0018】
(構成5)
複数の研削砥粒がガラス結合材で結合された集結砥粒と、複数の当該集結砥粒を結合している樹脂とを含む、ガラス基板表面を研削する研削工具であって、前記集結砥粒から突出された前記研削砥粒の突出し量が、研削工具表面を触針式表面粗さ計を用いて測定された表面形状の最大高さよりも高いことを特徴とする研削工具。
【0019】
(構成6)
複数の研削砥粒がガラス結合材を介して結合された固定砥粒砥石が研削面にそれぞれ配備された上定盤及び下定盤の間にガラス基板を挟んでガラス基板の主表面を研削する研削加工処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、上下定盤間での加工速度の差が小さくなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0020】
(構成7)
複数の研削砥粒がガラス結合材を介して結合された固定砥粒砥石が研削面にそれぞれ配備された上定盤及び下定盤の間にガラス基板を挟んでガラス基板の主表面を研削する研削加工処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、スラッジが固着していない集結砥粒の割合が下定盤の方が多くなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0021】
(構成8)
下定盤側の固定砥粒砥石と上定盤側の固定砥粒砥石とで、前記除去処理の時間及び/又は頻度を変更することを特徴とする構成6又は7に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成9)
前記ドレス処理は、砥石を用いて行うことを特徴とする構成6乃至8のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0022】
(構成10)
前記固定砥粒砥石はダイヤモンド砥粒を含むことを特徴とする構成6乃至9のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(構成11)
主表面が鏡面状態のガラス基板に対して前記研削加工処理を行うことを特徴とする構成6乃至10のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0023】
(構成12)
構成1乃至4、6乃至11のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁気記録層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、固定砥粒による研削処理において、研削ムラの発生しない安定した研削加工を行うことが可能となり、加工後の平坦度不良の発生率を低減できる。また、これにより、高品質のガラス基板を低コストで製造することが可能である。さらに、それによって得られるガラス基板を利用し、信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。また、上記研削処理に好適な研削工具を提供することができる。
また、本発明によれば、固定砥粒による研削処理において、研削処理時に上下定盤の間で実行圧力の差が存在する場合においても、安定した研削加工を行うことが可能である。これにより、高品質のガラス基板を製造することができる。またそれによって得られるガラス基板を利用した信頼性の高い磁気ディスクを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
磁気ディスク用ガラス基板は、通常、形状加工、主表面研削、端面研磨、主表面研磨、化学強化、等を経て製造される。
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、フロート法やダウンドロー法で製造されたシート状ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得る。また、これ以外に、溶融ガラスからプレスで作製したシート状板ガラスを用いてもよい。本発明は、研削加工開始時に主表面が鏡面状のガラス基板を使用する場合に好適である。
【0027】
次に、このガラス基板に寸法精度及び形状精度を向上させるための研削加工処理を行う。
この研削加工は、通常両面研削装置を用い、ダイヤモンド等の硬質砥粒を用いてガラス基板主表面の研削を行う。こうしてガラス基板主表面を研削加工することにより、所定の板厚、平坦度に加工するとともに、所定の表面粗さを得る。
【0028】
本発明は、この研削加工処理の改善に関わるものである。本発明における研削処理は、例えばダイヤモンド粒子の集結砥粒を固定砥粒として含む研削砥石を用いた研削加工であり、両面研削装置において、研削工具として例えばダイヤモンドパッドが貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ、さらに前記ガラス基板を上下定盤によって所定圧で挟圧しながら、ガラス基板と上下定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を同時に研削する。この際、加工作用面を冷却したり、加工を促進するために潤滑液(クーラント)が供給される。
【0029】
本発明における研削処理に使用する研削工具(固定砥粒砥石)は、例えばダイヤモンドパッドであり、
図1にその構成の概略を示した。
図1に示されるダイヤモンドパッド1は、いくつかのダイヤモンド粒子5(
図2参照)がガラスなどの結合材で固められた砥粒凝集体(本発明では「集結砥粒」と呼ぶ。)3を樹脂(例えばアクリル系樹脂等)などの支持材を用いてシート2に貼り付けたものである。勿論、
図1に示す構成はあくまでも一例であり、本発明はこれに限定する趣旨ではない。例えば、ダイヤモンド集結砥粒を含む樹脂の層をシート上に形成した後に、樹脂層に溝を形成して突起状としたダイヤモンドパッドを使用してもよい。
【0030】
なお、本実施の形態においては、固定砥粒と言った場合は、特に断りのない限り、上記集結砥粒のような研削砥石(研削工具)中に固定された研削砥粒を意味するものとし、また、砥粒の平均粒径と言った場合は、上記研削砥粒の平均粒径を意味するものとする。
【0031】
(第1の実施の形態)
前にも説明したとおり、本発明者は、前述の従来技術において、部分的な研削不良が発生する理由について詳細に検討した結果、ダイヤモンド砥粒(集結砥粒)を備えたダイヤモンドパッドの表面には微小うねりが存在しており、砥粒がガラス表面に接触することが阻害され、ガラス表面に対して十分に作用できない砥粒が存在するため、上述の部分的な研削不良が発生することを突き止めた。そこで、本発明者は、集結砥粒から突出された研削砥粒の突出し量とダイヤモンドパッドの表面の微小うねりとの関係に着目して鋭意検討した結果、集結砥粒から突出された研削砥粒の突出し量が、ダイヤモンドパッドの表面の微小うねりよりも高いダイヤモンドパッド(研削工具)を用いて研削を行うことにより、安定した研削加工を行うことが可能であることを見出したわけである。
【0032】
すなわち、本発明における研削処理は、上記構成1にもあるとおり、複数の研削砥粒がガラス結合材で結合された集結砥粒と、複数の当該集結砥粒を結合している樹脂とを含むダイヤモンドパッドのような研削工具であって、前記研削工具の研削面における前記研削砥粒の周囲の樹脂からの突出し量が、前記研削面を触針式表面粗さ計を用いて測定された表面形状の最大高さよりも高い研削工具を用いて、ガラス基板主表面の研削を行うことを特徴とするものである。
【0033】
たとえば上記研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも低い研削工具を用いると、研削工具の表面に存在する微小うねりによって、砥粒がガラス表面に接触することが阻害されてしまい、ガラス表面に対して十分に作用できない(ガラス表面に対する作用が弱い)砥粒が多く存在するため、上述の部分的な研削不良が発生し、結果的に加工後の平坦度不良の発生率が高まる。また、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さと同等である研削工具を用いると、研削工具の表面に存在する微小うねりによって、砥粒がガラス表面に接触することが阻害される問題は多少解消されるが、それでもなお、ガラス表面に十分に作用できない砥粒が存在するため、一部で研削ムラが発生し、結果的には加工後の平坦度不良率を大幅に低下させることはできない。
【0034】
これに対して、本発明のように、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも高い研削工具を用いると、研削工具の表面に微小うねりが存在していても、砥粒がガラス表面に接触することが阻害されることがなくなるため、ガラス表面に研削砥粒が安定的に作用するようになり、研削ムラのない安定した研削加工を行えるようになるので、結果的には加工後の平坦度不良率を改善してたとえば0%とすることも可能になる。
【0035】
本発明において、上記の研削工具の表面形状の最大高さは、研削工具表面の研削面について触針式表面粗さ計を用いて測定された線粗さ曲線における最大高低差Rz(JIS B 0601:2001)と定義し、これを研削工具の表面に存在する微小うねりの大きさの指標とする。なお、この場合の測定幅(測定長)は、研削工具表面上の2〜3mmとすることが好ましい。測定幅が上記範囲より短いと、砥粒近傍の表面粗さのみを測定していることになり、この場合、相対的に硬度が高い砥粒が最も高くなるため、本発明で着目する砥粒が作用するか否かを管理するための測定範囲として不適切であることがわかった。一方、測定幅を広くしすぎると、研削工具全体の平坦度(うねり)も測定することになるため、研削砥粒の突出し量との関係を規定するには不適切である。本発明では測定幅は2.5mmとした。また、測定場所は研削工具表面のうち被加工基板の表面と接する研削面であることが必須であるので、研削面の表面に溝等が形成されている場合、その部分を避けて測定することは言うまでもない。
【0036】
また、本発明において、上記の研削工具の研削砥粒の突出し量は、以下のようにして測定される。
研削加工実施前の上下それぞれの定盤の研削工具(通常、円盤状に形成されている)に対して、内周から外周までの距離を100%としたとき、内周から10%、50%、90%の位置から、それぞれ2.5mm×2.5mmの大きさの合計6サンプル(パッド片)を切り出す。この6サンプルのそれぞれについて、例えばレーザー顕微鏡を用いて得られた観察画像(表面形状データ)から任意に選んだ集結砥粒5個(測定サンプルが多い方が突出し量の測定精度は向上するが、非常に多くの工数がかかり現実的でない。一方、サンプル数が5個より少ない場合、突出し量の測定精度が大幅に悪くなり管理上問題となる。このため、生産性と品質安定化を両立出来る測定個数として5個が適切である。)に対し、断面形状解析等により、集結砥粒とその集結砥粒周辺の樹脂部との最大高低差を測定し、全集結砥粒の高低差の平均値をもってその定盤の研削工具の研削砥粒の突出し量と定義する。なお、突出し量は上下の定盤でほぼ同等となるように調整されている。
【0037】
本発明の研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも高くなるように管理された研削工具に調整するためには、例えば砥石を用いたドレス処理によって行うことが可能である。具体的には、たとえば、研削加工に使用する両面研削装置をドレス処理にも適用し、上下定盤に配備されたダイヤモンドパッドのような研削工具表面に、適当な厚みバラツキに管理された#400〜#3000の砥石を接触させ、両面研削装置の上下定盤を回転させた状態でドレス処理を行うことができる。番手が小さいほど、固定砥粒の近傍の樹脂が削られて突出し量を大きくすることができる。
一方、研削工具表面の微小うねりの最大高さは、ドレス処理に用いる砥石表面の微小うねりの最大高さを適宜変更することで調節することができる。ドレス処理用砥石表面の微小うねりの最大高さが小さいほど、ドレス処理後の研削工具表面の微小うねりの最大高さが小さくなる。具体的には、研削工具表面における微小うねりの最大高さの狙い値よりも小さい値を持つドレス処理用砥石を用いて処理すればよい。
【0038】
定盤の回転数は1〜30rpm、ドレス用砥石への定盤荷重は10〜200g/cm
2の範囲で適宜選択すればよい。ドレス処理に用いる砥石の材質は特に制約されないが、例えばアルミナ砥石などが好適である。また、番手や微小うねりの異なる複数のドレス用砥石を用いて、段階的にドレス処理を行うようにしてもよい。例えば、最初に番手が小さく、微小うねりが大きなドレス用砥石を用いて、研削工具表面の突出し量を調節した後、番手が大きく、微小うねりが小さなドレス用砥石を用いて研削工具表面の微小うねりの高さを調節するようにすると所望の研削工具表面の特性を得やすい。ドレス処理用砥石の微小うねりは、研削工具表面の微小うねりと同様に測定することができる。
【0039】
本発明においては、上記研削砥粒がダイヤモンド砥粒であることが好ましい。この場合、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が1.5〜12μmの範囲であることが好適である。
ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が上記の範囲を下回ると鏡面状ガラス基板に対する切り込みが浅くなりガラス基板への食い込みが進行し難くなる。一方、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が上記の範囲を上回ると仕上りの粗さが粗くなるため後工程の取り代負荷が大きくなるおそれがある。
【0040】
また、本発明においては、特に平均粒子径が3.0μm以下の研削砥粒を用いる場合に好適である。従来技術では、このような小径の研削砥粒を用いる場合、ガラス基板に対して研削砥粒が安定的に作用できず、前述の研削ムラの発生が顕著であったが、本発明によれば、研削砥粒の突出し量が、研削工具の表面形状の最大高さよりも高くなるように管理された研削工具を適用するため、このような従来の課題を解決することができる。
また、集結砥粒の平均粒径は15〜50μmであることが好ましい。上記範囲より小さいと、特に鏡面ガラス基板の表面に対して加工初期に砥粒を食い込ませ難くなり、研削レートが悪化する場合がある。また、上記範囲より大きいと、研削後の表面粗さが高くなりすぎる場合がある。
【0041】
なお、本発明において、上記平均粒子径とは、レーザー回折法により測定された粒度分布における粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径(以下、「累積平均粒子径(50%径)」と呼ぶ。)を言う。この累積平均粒子径(50%径)は、具体的には粒子径・粒度分布測定装置などを用いて測定可能な値である。
【0042】
本発明における研削処理においては、加工時の荷重は、100g/cm
2〜150g/cm
2とすることが好ましい。加工荷重が上記の範囲を下回ると鏡面上のガラス基板表面に砥粒が作用せず研削が進行し難くなる。一方、加工荷重が上記の範囲を上回るとガラスに対する砥粒の食い込みが大きくなるため仕上げ粗さが粗くなり、後工程の取り代負荷が大きくなるおそれがある。
【0043】
(第2の実施の形態)
本発明における研削加工処理の第2の実施の形態は、複数の研削砥粒がガラス結合材を介して結合された固定砥粒砥石が研削面にそれぞれ配備された上定盤及び下定盤の間にガラス基板を挟んでガラス基板の主表面を研削する研削加工処理において、加工速度の差が上下定盤間で小さくなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うことを特徴とするものである。
【0044】
前にも説明したとおり、従来技術のような上下定盤で加工レートに差がある状態での加工は不安定であり、連続でバッチ加工した際に、ガラス基板の上定盤側は十分に研削されるものの、下定盤側の表面は全体あるいは一部が研削されないという不良が発生する。特に、フロート法により作製したガラス基板のような鏡面のガラス基板を加工する場合に、上述の不良が顕著に発生する。
【0045】
本発明者の検討によれば、前記ダイヤモンドパッドのような、複数のダイヤモンド砥粒を例えばガラス結合材で固めた固定砥粒(集結砥粒)を用いた場合、砥粒周辺にあるガラス結合材に、加工に伴って発生する研削くずであるガラスが付着しやすくなり、これが特に研削液が集中しやすい下定盤側で顕著に発生するものと考えられ、上述の不良が発生しやすくなる。
【0046】
本発明者は、従来技術のような上下定盤で実行圧力、すなわち加工レートが異なることをそのまま利用する方法では安定した研削加工が行えないため、固定砥粒による研削加工において、研削加工時に上下定盤の間で実行圧力の差が存在する場合においても、安定した研削加工を行うことが可能な解決手段を模索した結果、加工速度の差が上下定盤間で小さくなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うことが好適であることを見出した。
【0047】
上記のドレス処理としては、固定砥粒砥石の表面から、付着した研削くずを除去する処理とすることが好適である。そして、加工速度が上下定盤間で小さくなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うが、この場合、下定盤側に配備された固定砥粒砥石表面から研削くずを除去する量を、上定盤側に配備された固定砥粒砥石と比べて多くする除去処理を行うことが好適である。
【0048】
具体的には、研削加工に使用する両面研削装置をドレス処理にも適用し、固定砥粒表面に例えば#400〜3000程度の砥石を接触させ、両面研削装置の上下定盤を回転させた状態でドレス処理を行うことができる。ドレス処理に用いる砥石の材質は特に制約されないが、例えばアルミナ砥石、炭化けい素砥石などが好適である。
【0049】
本発明においては、加工速度の差が上下定盤間で小さくなるように、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行うことが重要であるが、そのためには、例えば、ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)等の条件を上下定盤で変更する。これによって、下定盤側に配備された固定砥粒砥石表面から研削くずを除去する量を、上定盤側に配備された固定砥粒砥石と比べて多くする除去処理を行うことができる。
【0050】
上記のドレス処理時の定盤回転数としては例えば10〜50rpm程度の範囲が適当であるが、上下定盤でドレス処理時の回転数の条件を変更する場合、下定盤の回転数を上定盤の回転数よりも速くする。
また、上記のドレス処理時間としては例えば5〜120秒程度の範囲が適当であるが、上下定盤でドレス処理時間の条件を変更する場合、下定盤の処理時間を上定盤の処理時間よりも長く設定する。例えば、上定盤の処理時間を5〜60秒の範囲で設定し、下定盤の処理時間を20〜120秒の範囲で設定することができる。この場合、上下定盤の処理時間比は、上定盤:下定盤=4:5〜1:2とすることが好ましい。
【0051】
また、上記のドレス処理回数(頻度)としては例えば連続10〜100バッチ(1バッチ100枚)加工毎に実施することが適当である。上下定盤でドレス処理回数の条件を変更する場合、例えば、上定盤の処理回数を連続20〜100バッチ加工毎、下定盤の処理回数を連続10〜50バッチ加工毎にドレス処理を実施する。この場合、上下定盤の処理回数比は、上定盤:下定盤=4:5〜1:2とすることが好ましい。
なお、ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)等の条件を上下定盤ですべて変更しなくてもよい。少なくともいずれか1つの条件を変更するようにしてもよい。
加工速度の差が上下定盤間で小さくなるように、たとえばドレス処理後の有効砥粒割合(顕微鏡で確認できる)が、上下で適切な比率になるようにドレス処理条件を設定することができる。
【0052】
本発明においては、上記固定砥粒がダイヤモンド砥粒であることが好ましい。この場合、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が1〜10μm程度であることが好適である。ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が上記を下回ると鏡面状ガラス基板に対する切り込みが浅くなりガラス基板への食い込みが進行し難くなる。一方、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が上記を上回ると仕上りの粗さが粗くなるため後工程の取り代負荷が大きくなるおそれがある。
【0053】
本発明において、研削処理に投入するガラス基板の表面は例えばRaが5nm以下の鏡面状態である場合に好適である。ダイヤモンドパッドのように固定砥粒が分散された研削工具を用いる場合、ある一定数以上の研削砥粒が同時に被加工基板の表面に食い込む必要があるが、被加工基板の粗さが小さくなるほど研削工具表面の微小うねりの影響を受けやすくなるので難しい。従来技術では、フロート法等で作製された表面が鏡面のガラス基板を研削加工すると、前述の研削ムラの発生が顕著であったが、本発明によればこのような従来の課題を解決することができる。
また、本発明においては、研削処理終了後のガラス基板の表面粗さが、Raで0.080〜0.130μmの範囲に仕上がることが好ましい。このように仕上がりの粗さを低く抑えることで、後の工程の加工負荷を減らすことができる。
【0054】
本発明においては、ガラス基板を構成するガラス(の硝種)は、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができ、また加工後の強度が良好である。このようなアルミノシリケートガラスとしては、例えば、SiO2 を主成分としてAl2O3 を20重量%以下含むガラスが好ましい。さらに、SiO2を主成分としてAl2O3を15重量%以下含むガラスとするとより好ましい。具体的には、SiO2を62重量%以上75重量%以下、Al2O3を5重量%以上15重量%以下、Li2 Oを4重量%以上10重量%以下、Na2Oを4重量%以上12重量%以下、ZrO2 を5.5重量%以上15重量%以下、主成分として含有するとともに、Na2O/ZrO2の重量比が0.5以上2.0以下、Al2O3 /ZrO2 の重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスを用いることができる。
【0055】
また、次世代の熱アシスト磁気記録用の磁気ディスクに用いられる耐熱性ガラスとしては、例えば、モル%表示にて、SiO2を50〜75%、Al
2O
3を0〜5%、BaOを0〜2%、Li2Oを0〜3%、ZnOを0〜5%、Na2OおよびK2Oを合計で3〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14〜35%、ZrO2、TiO2、La2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、Nb2O5およびHfO2を合計で2〜9%、含み、モル比[(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]が0.85〜1の範囲であり、且つモル比[Al2O3/(MgO+CaO)]が0〜0.30の範囲であるガラスを好ましく用いることができる。
また、SiO
2を56〜75モル%、Al
2O
3を1〜9モル%、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oからなる群から選ばれるアルカリ金属酸化物を合計で6〜15モル%、MgO、CaOおよびSrOからなる群から選ばれるアルカリ土類金属酸化物を合計で10〜30モル%、ZrO2、TiO2、Y2O3、La2O3、Gd2O3、Nb2O5およびTa2O5からなる群から選ばれる酸化物を合計で0%超かつ10モル%以下、含むガラスであってもよい。
本発明において、ガラス組成におけるAl
2O
3の含有量が15重量%以下であると好ましい。さらには、Al
2O
3の含有量が5モル%以下であるとなお好ましい。
【0056】
以上説明した研削処理の終了後は、高精度な平面を得るための鏡面研磨加工を行う。本発明においては、固定砥粒を用いた研削処理において安定した加工が行えるため、後の鏡面研磨加工での除去量が少なくて済み、加工負荷が低減され、加工コストの削減が可能になる。
【0057】
ガラス基板の鏡面研磨方法としては、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の金属酸化物の研磨材を含有するスラリー(研磨液)を供給しながら、ポリウレタン等のポリシャの研磨パッドを用いて行うのが好適である。高い平滑性を有するガラス基板は、たとえば酸化セリウム系研磨材を用いて研磨した後(第1研磨加工)、さらにコロイダルシリカ砥粒を用いた仕上げ研磨(鏡面研磨)(第2研磨加工)によって得ることが可能である。
【0058】
本発明においては、鏡面研磨加工後のガラス基板の表面は、算術平均表面粗さRaが0.2nm以下、さらに好ましくは0.1nm以下である鏡面とされることが好ましい。なお、本発明において算術平均粗さRaというときは、日本工業規格(JIS)B0601に準拠して算出される粗さのことである。
また、本発明において表面粗さ(上記算術平均粗さRa)は、原子間力顕微鏡(AFM)で5μm四方を分解能256x256で測定したときに得られる表面形状の表面粗さとすることが実用上好ましい。
【0059】
本発明においては、化学強化処理を施すことができる。化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、例えばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。
【0060】
また、本発明は、以上の磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法についても提供する。
本発明において磁気ディスクは、本発明による磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁気記録層(磁性層)を形成して製造される。磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoCrPt系やCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることが好適である。
【0061】
また、上記磁気記録層の上に、保護層、潤滑層を形成してもよい。保護層としてはアモルファスの炭素系保護層が好適である。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤を用いることができる。
本発明によって得られる磁気ディスク用ガラス基板を利用することにより、信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1−1)
以下の(1)基板準備、(2)形状加工、(3)端面研磨、(4)主表面研削加工、(5)主表面研磨(第1研磨)、(6)化学強化、(7)主表面研磨(第2研磨)、を経て本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0063】
(1)基板準備
フロート法により製造された厚さ1mmのアルミノシリケートガラスからなる大板ガラスを準備し、70mm×70mmの正方形の小片にダイヤモンドカッターを用いて裁断した。次いで、ダイヤモンドカッターを用いて、外径65mm、内径20mmの円盤形状に加工した。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO
2:62〜75重量%、ZrO2:5.5〜15重量%、Al
2O
3:5〜15重量%、Li
2O:4〜10重量%、Na
2O:4〜12重量%を含有する化学強化可能なアモルファスのガラスを使用した。
得られた基板の表面は、表面粗さRaが5nm以下の鏡面であった。
【0064】
(2)形状加工
次に、ダイヤモンド砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。
(3)端面研磨
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)を研磨した。
【0065】
(4)主表面研削加工
この主表面研削加工は両面研削装置を用い、複数のダイヤモンド砥粒をガラス結合材で固めた集結砥粒と、複数の当該集結砥粒を結合している樹脂とを備えた固定砥粒砥石(ダイヤモンドパッド)が貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板をセットして行なった。ダイヤモンドパッドは、ダイヤモンド砥粒の平均粒径(D50)が約3.0μm、集結砥粒の平均粒径(D50)が30μmのダイヤモンドパッドを使用した。また、潤滑液を使用しながら行った。また、定盤の回転数、ガラス基板への荷重は、適宜調整して行った。
また、研削加工の前にアルミナ砥石を用いてドレス処理を行った。本実施例で使用した上記ダイヤモンドパッドにおける研削砥粒の突出し量及び表面形状の最大高さ(微小うねり)を前述の方法で測定した結果、研削砥粒の突出し量は2μm、表面形状の最大高さは0.5μmであった。
【0066】
(5)主表面研磨(第1研磨)
次に、上述した研削加工で残留した傷や歪みを除去するための第1研磨を両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッドが貼り付けられた上下研磨定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ、このキャリアを太陽歯車(サンギア)と内歯歯車(インターナルギア)とに噛合させ、上記ガラス基板を上下定盤によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって、ガラス基板が定盤上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い、第1研磨を実施した。研磨液としては酸化セリウムを研磨剤として分散した純水とし、荷重、研磨時間は適宜設定した。上記第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0067】
(6)化学強化
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記洗浄・乾燥済みのガラス基板を約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。
【0068】
(7)主表面研磨(第2研磨)
次いで上記の第1研磨で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、ポリシャを軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッド(発泡ポリウレタン製)に替えて第2研磨を実施した。この第2研磨は、上述した第1研磨で得られた平坦な表面を維持しつつ、例えばガラス基板主表面の表面粗さをRaで0.2nm程度以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨加工である。研磨液としてはコロイダルシリカを分散した純水とし、荷重、研磨時間は適宜設定した。上記第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0069】
上記工程を経て得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=1.53nm、Ra=0.13nmと超平滑な表面を持つガラス基板を得た。
【0070】
(実施例1−2)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約9.0μm、研削砥粒の突出し量が7μm、表面形状の最大高さが5μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
(実施例1−3)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約1.5μm、研削砥粒の突出し量が3μm、表面形状の最大高さが1μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0071】
(実施例1−4)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約1.5μm、研削砥粒の突出し量が2μm、表面形状の最大高さが0.5μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
(実施例1−5)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約12μm、研削砥粒の突出し量が9μm、表面形状の最大高さが6μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0072】
(比較例1−1)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約3.0μm、研削砥粒の突出し量が2μm、表面形状の最大高さが2μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
(比較例1−2)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約3.0μm、研削砥粒の突出し量が2μm、表面形状の最大高さが3μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0073】
(比較例1−3)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約3.0μm、研削砥粒の突出し量が2μm、表面形状の最大高さが5μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
(比較例1−4)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約9.0μm、研削砥粒の突出し量が7μm、表面形状の最大高さが7μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0074】
(比較例1−5)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約9.0μm、研削砥粒の突出し量が7μm、表面形状の最大高さが8μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
(比較例1−6)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約9.0μm、研削砥粒の突出し量が7μm、表面形状の最大高さが10μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0075】
(比較例1−7)
実施例1−1の主表面研削加工において、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が約1.5μm、研削砥粒の突出し量が2μm、表面形状の最大高さが2μmの状態のダイヤモンドパッドを使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして研削加工を行い、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0076】
上記各実施例および各比較例において、上記主表面研削加工は、合計1バッチあたり100枚の加工を行った。
上記各実施例において、研削加工後のガラス基板について、フラットネステスターを用いて、1バッチあたり20枚の平坦度の測定を行い、所定の基準(3μm以下)を良品とし、この基準を満たさないガラス基板の発生率(平坦度不良発生率)を算出し、結果を表1に示した。また、研削加工後のガラス基板について、AFMにて測定した表面粗さ(Ra)の結果を、実施例1の値を基準としたときの比率で表2に示した。
また、上記各比較例において、上記実施例と同様に、研削加工後のガラス基板について、フラットネステスターを用いて、1バッチあたり20枚の平坦度の測定を行い、所定の基準(3μm以下)を超えるガラス基板の発生率(平坦度不良発生率)を算出し、結果を表1に示した。
なお、表1において研削砥粒粒径とは、集結砥粒の中に含まれるダイヤモンド微粒子の平均粒径(D50)であり、砥粒突出し量とは、集結砥粒がその周囲の樹脂部分からなる平面から突き出した距離である。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
上記表1、表2の結果から、以下のことがわかる。
1.研削砥粒粒径が3.0μmの場合、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも低い固定砥粒砥石を用いた比較例では、ガラス表面に対する研削砥粒の作用が弱く、平坦度不良は100%の発生率であった。また、研削砥粒の突出し量を表面形状の最大高さと同等にした比較例では、平坦度不良の発生率が20%に低減するが、ガラス表面に十分に作用できない砥粒が存在するため、一部で研削ムラが発生している。これに対して、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも高い固定砥粒砥石を用いた実施例1−1では、ガラス表面に研削砥粒が安定的に作用するようになり、平坦度不良発生率は0%となり、研削ムラのない安定した研削加工を行える。
2.また、研削砥粒粒径が9.0μmの場合においても、最大高さが5μmで、研削砥粒の突出し量を7μmとすることにより、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも高い固定砥粒砥石を用いた実施例1−2では、ガラス表面に研削砥粒が安定的に作用するようになり、平坦度不良発生率は0%となる。但し、この場合、加工後の基板の表面粗さが実施例1−1と比べると上昇する(表2参照)。砥粒粒径が大きいため、ガラス表面に作用する研削力が大きいことによるものと考えられる。一方、研削砥粒粒径が9.0μmで、研削砥粒の突出し量が表面形状の最大高さよりも低い固定砥粒砥石を用いた比較例1−5、1−6においても、ガラス表面に対する研削砥粒の作用が弱く、平坦度不良は80%の発生率であった。
3.砥粒突出し量をA、研削面における微小うねりの最大高さをBとしたとき、A−Bで得られる値が同じ例同士を比較すると、研削砥粒(ダイヤモンド微粒子)の粒径が3μm以下になると不良率が悪化しやすい。すなわち、研削砥粒(ダイヤモンド微粒子)の粒径が3μm以下の場合に特に本発明が有効であることがわかる。
【0080】
(実施例2−1)
上記実施例1−1と同様の工程を経て以下の実施例の磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
(1)基板準備
フロート法により製造された厚さ1mmのアモルファスのアルミノシリケートガラスからなる大板ガラスを準備し、70mm×70mmの正方形の小片にダイヤモンドカッターを用いて裁断した。次いで、ダイヤモンドカッターを用いて、外径65mm、内径20mmの円盤形状に加工した。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO2:62〜75重量%、ZrO2:5.5〜15重量%、Al2O3:5〜15重量%、Li2O:4〜10重量%、Na2O:4〜12重量%を含有する化学強化可能なガラスを使用した。
【0081】
(2)形状加工
次に、ダイヤモンド砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。
(3)端面研磨
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)を研磨した。
【0082】
(4)主表面研削加工
この主表面研削加工は両面研削装置を用い、複数のダイヤモンド粒子をガラス結合材で固めた凝集体砥粒を含む固定砥粒砥石(ダイヤモンドパッド)が貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板をセットして行なった。ダイヤモンドパッドは、ダイヤモンド砥粒の平均粒径(D50)が約2.5μm、集結砥粒の平均粒径(D50)が25μmと定義したダイヤモンドパッドを使用した。また、潤滑液を使用しながら行った。また、定盤の回転数、ガラス基板への荷重は、適宜調整して行った。
【0083】
この研削加工処理は、途中で上記固定砥粒砥石のドレス処理を行った。
具体的には、まず、固定砥粒表面に付着している研削液やスラッジを除去するために、ブラッシングを行った。次に、固定砥粒表面に#1000のアルミナ砥石を接触させ、上記両面研削装置の上下定盤を回転させた状態でドレス処理を行った。ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)はそれぞれ以下のように設定した。
定盤回転数:20rpm(上下定盤同一)
処理時間(1回):上定盤60秒、下定盤120秒
処理頻度:上定盤は連続20バッチ(1バッチは100枚)加工毎、下定盤についても連続20バッチ加工毎
【0084】
(5)主表面研磨(第1研磨)
次に、上述した研削加工で残留した傷や歪みを除去するための第1研磨を実施例1−1と同様にして行なった。
(6)化学強化
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に実施例1−1と同様にして化学強化を施した。
(7)主表面研磨(第2研磨)
次いで上記実施例1−1と同様にして第2研磨を実施した。
【0085】
上記工程を経て得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=1.53nm、Ra=0.13nmと超平滑な表面を持つガラス基板を得た。
【0086】
(実施例2−2)
実施例2−1の主表面研削加工において、ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)はそれぞれ以下のように設定した。
定盤回転数:20rpm(上下定盤同一)
処理時間(1回):上定盤10秒、下定盤20秒
処理頻度:上定盤は連続40バッチ加工毎、下定盤は連続20バッチ加工毎
これ以外は、実施例2−1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0087】
(実施例2−3)
実施例2−1の主表面研削加工において、ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)はそれぞれ以下のように設定した。
定盤回転数:20rpm(上下定盤同一)
処理時間(1回):上定盤10秒、下定盤20秒
処理頻度:上定盤は連続100バッチ加工毎、下定盤は連続50バッチ加工毎
これ以外は、実施例2−1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0088】
(比較例2−1)
実施例2−1の主表面研削加工において、ドレス処理時の定盤回転数、処理時間、処理回数(頻度)はそれぞれ以下のように設定した。
定盤回転数:20rpm(上下定盤同一)
処理時間(1回):上定盤10秒、下定盤10秒(上下定盤同一)
処理頻度:上定盤は連続50バッチ加工毎、下定盤は連続50バッチ加工毎(上下定盤同一)
これ以外は、実施例2−1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
【0089】
上記実施例および比較例において、主表面研削工程を200バッチ終えた後でのドレス処理終了後の時点での、有効に作用する集結砥粒(スラッジが固着していない集結砥粒)の割合を上下定盤で調査した結果を表3に示す。なお、集結砥粒のほぼ全体をスラッジが覆っている場合にスラッジが固着していると判定し、集結砥粒へのスラッジの付着が僅かの場合は固着と判定しなかった。
なお、この有効固定砥粒の割合は、ダイヤモンドパッド表面を顕微鏡観察し、一定数(上、下各100個)の固定砥粒を観察することで確認した。
また、201バッチ目の上下定盤の加工速度の比(下定盤加工速度/上定盤加工速度)を表3に示す。加工速度の比は1に近いほどよいが、1.05〜0.95であると上下定盤の加工バランスがよくなり、安定した加工が継続してできるようになる。
【0090】
また、主表面研削工程終了後に、下定盤側の基板表面の全体あるいは一部が加工されていない状態の不良の発生頻度を不良バッチ率で表わし、結果を表4に示した。不良バッチ率は5%未満であるとよい。なお、上定盤側についてはいずれの基板も加工不良は見られなかった。また、実施例や比較例においては、それぞれ合計201バッチ処理を行った。
不良であるか否かは、ガラス基板の主表面を集光ランプを用いて目視で観察し、鏡面が残っているか否かで判断することができる。本発明の固定砥粒による研削加工がきちんと行われた場合、基板表面は白く濁ったようになり鏡面ではなくなる。しかし、研削加工が行われなかった場合、その部分は鏡面のままであり、白濁が観察されない。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
上記表3、表4の結果から、以下のことがわかる。
1.上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して異なる条件でドレス処理を行い、下定盤側に配備された固定砥粒砥石表面から研削くずを除去する量を、上定盤側に配備された固定砥粒砥石と比べて多くする除去処理を行った実施例2−1〜2−3においては、結果的に加工速度の差が上下定盤間で小さくなり、不良の発生頻度を著しく低下させることができ、これによって固定砥粒を用いた研削加工において安定した加工を行うことができる。また、下定盤側の有効固定砥粒の割合(%)が高い方がよい。また、上下定盤の差が20%以内であると好ましく、より好ましくは10%以下(実施例2−1)である。また、上下定盤の有効砥粒割合の差は、下定盤の方が上定盤よりも5%超ある方が加工のバランスが取れて不良バッチ率が改善する。
2.一方、上定盤側の固定砥粒砥石と下定盤側の固定砥粒砥石の各々の表面に対して同じ条件でドレス処理を行った比較例2−1においては、実行圧力の小さい下定盤側の有効固定砥粒の割合が上定盤側の有効固定砥粒の割合よりも低下してしまい、これが原因で上下定盤における加工のバランスが悪くなり、不良の発生頻度が高くなってしまう。
【0094】
(磁気ディスクの製造)
上記実施例1−1および2−1で得られた磁気ディスク用ガラス基板に以下の成膜工程を施して、垂直磁気記録用磁気ディスクを得た。
すなわち、上記ガラス基板上に、Ti系合金薄膜からなる付着層、CoTaZr合金薄膜からなる軟磁性層、Ru薄膜からなる下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、保護層、潤滑層を順次成膜した。保護層は、水素化カーボン層を成膜した。また、潤滑層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成した。
得られた磁気ディスクについて、DFHヘッドを備えたHDDに組み込み、80℃かつ80%RHの高温高湿環境下においてDFH機能を作動させつつ1ヶ月間のロードアンロード耐久性試験を行ったところ、特に障害も無く、良好な結果が得られた。