特許第6193529号(P6193529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193529
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】同期整流式スイッチングコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   H02M3/28 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-507334(P2017-507334)
(86)(22)【出願日】2015年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2015082823
(87)【国際公開番号】WO2016151943
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-64363(P2015-64363)
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】小田 悠介
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−236596(JP,A)
【文献】 特開2004−80915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスと、このトランスの一次側に接続され直流電源をスイッチングするスイッチング回路と、前記トランスの二次側に直列的に接続される整流側FET素子と並列的に接続される還流側FET素子とからなる同期整流素子を含む同期整流回路と、この同期整流回路の出力側に接続されるリアクトル及びコンデンサからなる平滑回路と、前記リアクトル電流の検出センサと、前記検出センサの検出値に基づいて前記スイッチング回路と前記整流側FET素子及び還流側FET素子とをサンプルタイミング毎にオンオフ制御する制御回路と、を備える同期整流式スイッチングコンバータにおいて、
前記制御回路は、
前記検出センサの検出値と所定の閾値とを比較して、前記検出値が前記閾値以下になったときに前記同期整流素子の動作を停止するためのゲートブロック信号を出力するゲートブロック手段と、
前記検出センサの検出値に基づいて前記リアクトル電流の減少が一定以上であることを検出したとき、前記ゲートブロック手段で前記検出センサの今回サンプルの検出値と前記所定の閾値とを比較する時に、それらのいずれかを、前記検出センサの検出値の履歴を参照して補正する補正手段とを備えることを特徴とする、同期整流式スイッチングコンバータ。
【請求項2】
前記補正手段は、前記今回サンプルの検出値と前記前回サンプルの検出値との偏差が一定値以上のとき、前記偏差を用いて前記今回の検出値を補正し、前記ゲートブロック手段は、前記補正された今回サンプルの検出値と前記所定の閾値を比較する請求項1記載の同期整流式スイッチングコンバータ。
【請求項3】
前記補正手段は、前記今回サンプルの検出値と前記前回サンプルの検出値との偏差が一定値以上のとき、前記偏差を用いて前記所定の閾値を変更する補正し、前記ゲートブロック手段は、前記今回サンプルの検出値と前記補正された閾値を比較する請求項1記載の同期整流式スイッチングコンバータ。
【請求項4】
前記補正手段は、前記今回サンプルの検出値と前記前回サンプルの検出値との偏差を、該偏差に一定の係数を乗算した値にする、請求項2または3に記載の同期整流式スイッチングコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トランス二次側に整流素子としてFETを用いた同期整流式スイッチングコンバータ、特にその制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスの一次側にスイッチング回路を接続し、二次側に整流回路を接続したスイッチングコンバータの中に、整流回路としてFETを用いた同期整流回路式のものがある。この同期整流式のスイッチングコンバータでは、FETのON抵抗がダイオードの導通抵抗に比べて低いため、熱損失が少なくなり効率が向上する利点がある。
【0003】
図1は、この同期整流式スイッチングコンバータの概略回路図である。
【0004】
トランスTrの一次側にはFET素子Q1、Q2を含むスイッチング回路(例えば2石フォワードスイッチング回路)が接続され、二次側には2つのFET素子Q3、Q4が接続されている。第1のFET素子Q3は整流側のFET素子であり、第2のFET素子Q4は還流側のFET素子である。この第1、第2のFET素子Q3、Q4が従来のダイオードに代わってオン、オフすることで負荷側に電力を供給する。これらのFET素子Q3、Q4の負荷側には、リアクトルL,コンデンサCからなる平滑回路が接続され、リアクトルLには直列にリアクトル電流検出センサSHが接続され、この電流検出センサSHの出力が制御部に帰還される。上記出力は定電流制御のためにFET素子Q1、Q2のオンオフタイミングを決定するのに用いられ、また、同期整流のためにFET素子Q3、Q4のオンオフタイミングを決定するのに用いられる。
【0005】
図2は、上記コンバータの一部タイミングチャートを示している。
【0006】
V(Q3)は、FET素子Q3の両端電圧、V(Q4)は、FET素子Q4の両端電圧、Iは、リアクトルLに流れるリアクトル電流である。
【0007】
負荷が一定の大きさである時は、トランスTrの二次側に正の電圧が生じると、Trの二次側→リアクトルL→コンデンサC→FET素子Q3→Trの二次側に電流が流れる。また、トランスTrの二次側に負の電圧が生じると、リアクトルL→コンデンサC→FET素子Q4→リアクトルLに還流電流が流れる。FET素子Q3、Q4は、上記の電流サイクルに同期してオンオフ制御される。FET素子Q3、Q4がオンする時は、そのオン抵抗がダイオード導通抵抗に比して小さいことから、損失が小さくなり、その結果効率が向上する。
【0008】
リアクトル電流はスイッチングによるリップルを含んだ図2に示すような波形となるが、図2のPで示すように、負荷が軽負荷ないし無負荷状態になりリアクトル電流は減少していきゼロ付近になると、リアクトル電流が、プラス方向やマイナス方向の極性が変化する、不連続な電流となる。このとき、リアクトル電流がマイナスになるタイミングで、すなわち、リアクトルL→FET素子Q4→コンデンサC→リアクトルLと電流が流れるタイミングでFET素子Q4がオフすると、リアクトルLの蓄積エネルギーによってFET素子Q4の両端に過大なサージ電圧Vsが発生し、FET素子Q4の破壊に至ることがある。
【0009】
そこで、従来の同期整流式スイッチングコンバータは、リアクトルL→FET素子Q4→コンデンサC→リアクトルLと電流が流れないように、この経路にダイオードを直列接続したものが提案されている(特許文献1)。この回路であれば、リアクトルL→FET素子Q4→コンデンサC→リアクトルLと電流が流れないために、上記の問題が解消する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−146650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の先行例のように、リアクトル電流が還流側FET素子を介して逆方向に流れないようにダイオードを接続する回路では、ダイオードでの損失が無視できなくなり、FET素子Q3、Q4を使用することによる効率を上げるためのメリットを相殺してしまうことになる。
【0012】
この発明の目的は、高効率を維持しつつ、急激な負荷変動が発生した場合の軽負荷時や無負荷時にFET素子にサージ電圧が発生しない同期整流式スイッチングコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の同期整流式スイッチングコンバータは、トランスと、このトランスの一次側に接続され直流電源をスイッチングするスイッチング回路と、前記トランスの二次側に直列的に接続される整流側FET素子と並列的に接続される還流側FET素子とからなる同期整流素子を含む同期整流回路と、この同期整流回路の出力側に接続されるリアクトル及びコンデンサからなる平滑回路と、前記リアクトル電流の検出センサと、前記検出センサの検出値に基づいて前記スイッチング回路と前記整流側FET素子及び還流側FET素子とをサンプルタイミング毎にオンオフ制御する制御回路と、を備える同期整流式スイッチングコンバータであり、
この発明における前記制御回路は、
前記検出センサの検出値と所定の閾値とを比較して、前記検出値が前記閾値以下になったときに前記同期整流素子の動作を停止するためのゲートブロック信号を出力するゲートブロック手段と、
前記検出センサの検出値に基づいて前記リアクトル電流の減少が一定以上であることを検出したとき、前記ゲートブロック手段で前記検出センサの今回サンプルの検出値と前記所定の閾値とを比較する時に、それらのいずれかを、前記検出センサの検出値の履歴を参照して補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
補正手段が前記検出センサの検出値を補正する場合は、前記ゲートブロック手段は、前記補正手段で補正した検出値と前記閾値とを比較する。また、補正手段が所定の閾値を補正する場合は、前記ゲートブロック手段は、前記補正手段で補正した閾値と前記今回サンプルの検出値とを比較する。
【0015】
ゲートブロック信号は、同期整流素子の動作を強制的に停止する役目をし、検出センサの検出値または、補正手段で補正した検出値が所定の閾値を下回ったことを検出した場合にただちに出力される信号である。軽負荷又は無負荷状態になったときに、リアクトル電流が逆方向、すなわち、リアクトル→還流側FET素子(FET素子Q4)→コンデンサ→リアクトルの方向に流れるのを防ぐための信号で、制御部から同期整流素子のゲートに出力される。リアクトル電流が逆方向に流れそうになると、ゲートブロック信号を出して同期整流素子の動作を強制的に停止し、過大なサージ電圧によって還流側FET素子が破壊に至るのを防止する。
【0016】
本発明では、上記制御部はデジタル処理のサンプルタイミング毎に制御を行うが、前記補正手段は、リアクトル電流の今回サンプルの検出値を、前回サンプルの検出値を含む履歴を参照して補正する。又は、閾値を補正する。この補正は、検出センサを含むフィードバック系の一次遅れを保障するためのものであって、今回サンプル検出値と閾値との差を実際の値(差)に近づけることになる。このため、リアクトル電流の急激な減少時においては、補正された検出値がより早いタイミングで閾値を超えることとなり、補正をしない場合に比較してゲートブロック信号がより早く出る。
【0017】
ゲートブロック信号がより早く出ることにより、同期整流素子の動作停止タイミングも早まるため、リアクトル電流が減少していきゼロ付近になる前に同期整流素子の動作を停止することができる。その結果、リアクトル電流が還流側FET素子を介して逆方向に流れることはなくなり、還流側FET素子(FET素子Q4)に過大なサージ電圧Vsが印加されることを防ぐことが出来る。なお、今回サンプルの検出値を補正することに代えて、閾値を補正するようにしても良い。
【0018】
なお、閾値を高い値に固定してゲートブロック信号がより早く発生するようにしても、還流側FET素子(FET素子Q4)に過大なサージ電圧Vsが印加されることを防ぐことが可能であるが、このようにすると、リアクトル電流減少時の電流変化の傾きにかかわらず一律な制御となるため、スイッチングコンバータの全出力電流範囲に対して、同期整流出来る出力電流範囲が小さくなり、効率を上げるという見地から望ましいとは言えない。この発明では、閾値を高い値に設定しなくても、過大なサージ電圧Vsの発生を防止できる利点がある。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、コンバータの高効率化と、還流側FET素子の破壊防止を実現出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来の同期整流式スイッチングコンバータの回路図
図2】上記コンバータの一部タイミングチャート
図3】この発明の実施形態の同期整流式スイッチングコンバータの回路図
図4】上記コンバータのゲート信号G1〜G4のオンオフタイミング
図5】上記コンバータの一部タイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
図3は、この発明の実施形態である同期整流式スイッチングコンバータの回路図である。
【0022】
トランスTrの一次側にはFET素子Q1、Q2を含む2石フォワードスイッチング回路2が接続され、二次側には2つのFET素子Q3、Q4からなる同期整流回路3が接続されている。同期整流回路3の第1のFET素子Q3は整流側のFET素子であり、第2のFET素子Q4は還流側のFET素子である。この第1、第2のFET素子Q3、Q4が従来のダイオードに代わってオン、オフすることで負荷側に整流した電力を供給する。これらのFET素子Q3、Q4の負荷側には、リアクトルL,コンデンサCからなる平滑回路が接続され、リアクトルLには直列にリアクトル電流の電流検出センサSHが接続され、この電流検出センサSHの出力が制御部1に帰還される。電流検出センサSHの出力は定電流制御と同期整流をするために、FET素子Q1〜Q4のオンオフタイミングを決定するのに用いられる。
【0023】
制御部1は、リアクトル電流の大きさと電流方向を検出するリアクトル電流検出回路10と、FET素子Q1、Q2を含むスイッチング回路2に対してゲート駆動パルスG1、G2を供給する一次側ゲート駆動回路11と、FET素子Q3、Q4からなる同期整流回路3に対してゲート駆動パルスG3、G4を供給する同期整流ゲート駆動回路12と、リアクトル電流検出値に基づいて、コンバータの定電流制御、および、同期整流回路3の同期整流制御や動作停止制御を行うCPU13とを備えている。また、ゲート駆動パルスG3、G4はゲート回路14を介して出力されるようになっており、後述のゲートブロック信号GBが生成されると、このゲート回路14でゲート駆動パルスG3、G4をオフする。
【0024】
図4は、上記コンバータのFET素子Q1〜Q4のゲート信号G1〜G4、ゲートブロック信号GBのオンオフタイミングを示している。また、図5は、上記コンバータの一部タイミングチャートを示している。V(Q3)は、FET素子Q3の両端電圧、V(Q4)は、FET素子Q4の両端電圧、Dは、リアクトルLに流れるリアクトル電流を一定のサンプリング期間で検出した検出値で、そのサンプリングごとの検出値を直線で補間した軌跡とする(リアクトル電流自体は図2に示すようなリップルを含むものとなっている)。また、Sは、FET素子Q3、Q4の動作を停止させるためのゲートブロック信号GBを出力する時の閾値である。
【0025】
FET素子Q1、Q2は、一次側ゲート駆動回路11からのゲート駆動信号G1、G2によって、同一タイミングでオンオフ駆動される。CPU13は、リアクトル電流検出値を監視し、リアクトル電流が定電流となるようにPWM制御されたゲート駆動信号G1、G2を出力する。また、FET素子Q3、Q4には、ゲート駆動信号G1、G2に同期して、ゲート駆動信号G3、G4がそれぞれ供給される。
【0026】
次に動作を説明する。
【0027】
負荷が一定の大きさである時は、一次側のスイッチング素子のFET素子Q1、Q2がオンしてトランスTrの二次側に正の電圧が生じると、Trの二次側→リアクトルL→コンデンサC→FET素子Q3→Trの二次側、の経路で電流が流れる。正の電圧時にリアクトル電流がこの方向に流れる期間(整流電流期間)をCPU13が判定して、ゲート駆動信号G3をオンする。また、トランスTrの二次側に負の電圧が生じると、リアクトルLの蓄積エネルギーに基づいて、リアクトルL→コンデンサC(C1、C2)→FET素子Q4→リアクトルL、の経路に還流電流が流れる。この還流電流が流れる期間(還流電流期間)をCPU13が判定して、ゲート駆動信号G4をオンする。このサイクルを繰り返しながら、定電流となるようにFET素子Q1、Q2のオンオフが制御され、且つ、同期整流が行われるようFET素子Q3、Q4のオンオフが制御され、トランスTr一次側から入力するエネルギーが高効率で負荷に供給される。
【0028】
以上の回路では、FET素子Q3、Q4がオンする時の導通抵抗がダイオード導通抵抗に比して小さいことから、FET素子Q3、Q4に代えて単にダイオードを接続したダイオード整流回路に比して損失が小さくなり、その結果効率が向上する。
【0029】
なお、各ゲート駆動信号G1(G2)、G3、G4信号間には、図4に示すようにデッドタイムdtが設けられ、各FET素子が同時オンすることを防いでいる。
【0030】
また、リアクトル電流検出センサSHから出力される検出信号は、CPUによって検出される。そこで、その検出値を、今回の検出値a(n)、前回の検出値a(n−1)とすると、それらのサンプリング毎の検出値の偏差δを算出する。a(n)<a(n−1)となっている場合に(リアクトル電流の減少時)、今回のサンプル検出値と前回のサンプル検出値の差を示す偏差δ(絶対値)が一定値以下か否かを判定する。偏差δが一定値より小さい場合は、リアクトルの平均電流が緩やかに減少している場合であり、その場合には、今回のサンプル検出値a(n)をそのまま閾値Sと比較し、今回の検出値a(n)が閾値S以下になったとき、ゲートブロック信号GBによりFET素子Q4をオフにする。このようにして、リアクトル電流が不連続となる負の還流電流が流れる前に同期整流素子を停止させることができる。このように、緩やかなリアクトル電流の減少に対しては、最新の検出値である今回のサンプル検出値a(n)をそのまま閾値Sと比較しゲートブロック信号の出力可否を判定するため、過敏にトランスTrの二次側の同期整流回路を停止して、効率向上を妨げてしまうことがない。なお、閾値Sは図2で示すリアクトル電流のリップル成分の幅以上の値に設定されることが一般的である。
【0031】
次に、負荷が急激に軽くなったり、無負荷状態になったときの動作を説明する。
【0032】
図5に示すように、負荷が軽負荷又は無負荷状態に変動すると、リアクトル電流検出値はD1に示すように急速にゼロに近づいていくが、このとき、制御回路全体は以下の挙動をする。
【0033】
図5において、D2はリアクトル電流検出値の実際の変化を表し、D1はCPU13で検出したリアクトル電流の検出値の変化を示す。つまり、リアクトル電流検出センサSHやリアクトル電流検出回路10には、信号処理のための一次遅れが存在するため、D1はこの遅れを要因として、D2よりも時間的に遅れた特性となっている。この遅れのため、CPU13はD1に基づいてゲート駆動信号G3、G4のオンオフ制御を行っている。リアクトル電流の検出は所定のサンプル周期ごとに行われているが、負荷が徐々に変化してリアクトル電流が緩やかに減少した場合には、その変化が小さいために、リアクトル電流の検出値Dはリアクトル電流の平均値をほぼ正確に検出することができる。
【0034】
このような状況で、図2の従来のコンバータの動作説明で問題としてあげたように、リアクトル電流Iが図のように急激に低下したとき、D1に基づいてゲート駆動信号G3、G4のオンオフ制御を行うと、CPU13でのサンプル検出値a4のタイミングt1にてゲートブロック信号GBを出力することになる。すると、検出の遅れによりt1ではすでに負のリアクトル電流が流れているから(逆方向の還流電流が流れる)、この状態でゲートブロック信号GBによりFET素子Q4をオフすると、FET素子Q4の両端に過大なサージ電圧Vsが発生するのを避けられない。これは、負荷変動時の制御に対して、リアクトル電流検出センサSHやリアクトル電流検出回路10による制御系の一次遅れが、無視できない程度に大きいからである。
【0035】
なお、図5は時間軸を拡大して表現したもので、前述のリアクトル電流が緩やかに減少して閾値S以下になる場合は図5の状況と大きく異なる。つまり、その場合の検出値Dは図5の閾値Sの上をこれと平行に近い線として変化し、閾値Sを徐々に下回って、再び閾値Sの下を閾値Sと平行に近い線で変化するように表される。つまり、図5に前述の緩やかな変化を表現しようとすると、検出値Dが閾値Sと重なって表現されるほど、変化の時間軸が異なる。従って、緩やかなリアクトル電流の減少の場合には、サンプル検出値a(n)が閾値Sを下回ったタイミングでFETQ3およびQ4をオフにすればよく、リアクトル電流が負の還流電流として流れる問題となる動作モードを回避できる。
【0036】
本実施態様のコンバータでは、リアクトル電流が急激に減少したことを検出したとき、CPU13に、リアクトル電流の検出値の補正手段を設けている。この補正はCPU13の演算によって行うこととする。
【0037】
すなわち、図5において、今回サンプルタイミングのサンプル検出値をa3とした場合、a2>a3となっている場合において(リアクトル電流の減少時)、前回サンプル検出値a2との偏差δがある一定値以上であると、今回のサンプル検出値を補正する演算処理を行う。補正された検出値をb(n)とすると、b(n)=a(n)−δで表され、この補正された検出値b(n)を用いて閾値との比較を行う。そこで、補正された検出値b(n)が閾値S以下になると、ゲートブロック信号を出力する。上述のように、偏差δの演算は毎サンプル期間ごとに行っており、その偏差δが一定値以上、すなわち、リアクトル電流の減少幅がある一定値以上となる変化を検出すると、ゲートブロック信号を出力するための補正演算を行う。
【0038】
図5では、a3とa2の差である偏差δを演算し、偏差δが一定値以上か否かを判定する。偏差δが一定値以上のとき、a3をb3(=a3−δ)に補正し、補正された検出値b3と閾値Sとを比較する。そして、これが閾値以下になると、ゲートブロック信号GBを発生してFETQ3およびQ4をオフにする。したがって、負のリアクトル電流が流れ始める時間t1より前に、サンプル検出値a3のサンプルタイミングt2でゲートブロック信号GBが出力されることとなり、トランスTrの二次側に負の還流電流が流れる前にFET素子Q3およびQ4の動作を停止させることが出来る。
【0039】
検出値D1がより急峻な傾きとなると、偏差δがより大きくなるから、ゲートブロック信号GBの発生タイミングがさらに早くなる。
【0040】
上記の例では、a3の補正値を演算するのに前回のサンプル検出値との偏差δを減算値として用いたが、偏差に係数を乗算し、例えば偏差δを×2にすることも出来る。このようにすれば、ゲートブロック信号GBの発生タイミングをさらに早めにすることが出来、応答性が高まる。また、過去の複数のサンプル検出値の平均値との偏差を減算値としても良いし、D1の傾きに応じて、平均するための過去のサンプル数を変えても良い。その他、様々な履歴参照を行うことが可能である。なお、ゲートブロック信号GBは、FET素子Q3、Q4の両方に出力して、どちらも動作を停止させることが必要である。どのような補正を行うかは、FET素子Q4の両端に過大なサージ電圧Vsが発生せず、且つ、補正制御が過敏とならないよう実験により決定するべきである。
【0041】
さらに、別の実施形態として、補正手段は、偏差δに基づいて閾値Sを補正するようにしても良い。図5に示す例では、a3−δの補正をするのに代えて、閾値SをS+δと補正する。このように、閾値Sを動的に補正することも出来る。
【0042】
負荷が軽負荷又は無負荷状態から、通常の負荷に復帰すると、リアクトル電流が流れ始めるため、その大きさは閾値Sを超えるが、このとき、ゲートブロック信号GBもオフするため、再び、FET素子Q3、Q4による整流動作が再開する。
【0043】
なお、閾値Sの値を高い固定値として設定することによっても、負荷状態が急変したときにゲートブロック信号GBの発生タイミングを早く出来るが(例えばt1からt2に)、閾値Sを高い固定値に設定すると、リアクトル電流の減少時の変化が緩やかな時のゲートブロック信号GBの発生タイミングが早すぎとなる。その結果、全体として同期整流出来る期間が短くなってしまい効率が低下する。これに対して、本実施形態では、リアクトル電流の減少時の変化の緩急に応じて、ゲートブロック信号GBが発生するタイミングが動的に変化するから、全体として同期整流出来る領域または範囲が小さくなることはない。
【符号の説明】
【0044】
1−制御部
2−2石フォワードスイッチング回路
3−同期整流回路
図1
図2
図3
図4
図5